2009年6月アーカイブ

ハードボイルド城海って格好良くない?

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格好良い城海が書きたい二礼です、こんばんは。

先日『P.S.愛してる』の白樺海鈴様から頂いたイラストが本当に格好良くて、もう何度も見て惚れ惚れしています…(*´д`*)
こんな感じで超格好良くてハードボイルドな城海を書いてみたくて溜まらなくなってしまいましたw
だーけーどー、今ある脳内ストックは違うものばかりなんですよねぇ…。

①『STEP』の甘々乙女海馬
②『素質』のエロドM海馬
③今プロットを纏め中の暗い&痛い話の欝海馬
④『奇跡の証明』の番外編に至っては主人公はバクラ。ていうか基本がファンタジーなのでハードボイルドとは程遠い世界

ここにハードボイルドを突っ込む余力は二礼にはありません…orz
誰か代わりに書いてくれないかなぁ…(´・∀・`)


話は変わりますが、実は二礼は毎週ジャンプを愛読している人です。
一応全ての連載作品に目を通してはいますが、実は二礼…今までスポーツ漫画には余り萌えられない人種だったんですよね…;
古い話だと『キャプ翼』とかも何となくしか見てなかったし、周りの友人達が大盛り上がりしていた『スラダン』も一人で「(´_ゝ`)フーン」という感じでした。
今も腐友が大ハマリしていて借りて読んだ『大振り』も、面白いとは思いますがハマるまではいかず…。
そんな二礼が久々…というか初めて本気でスポーツ漫画にハマりました。
登場人物の一人(しかも現段階だと敵側)に本気で萌え始めてしまいましてね…w
時々巻末方面に持って行かれて打ち切りが危惧されていますが、二礼が今超応援している漫画です!
グリーン間…。格好いいよ…グリーン間…(*´д`*)ハァハァ
彼の声がもう社長の声にしか聞こえない…w
二礼の中ではお前はもう受け決定だwww
ここまで言って二礼が誰の事を言っているのか分かった御方は同士です!!
一緒に萌えましょうwww
ついでに鰤ーち。
浮/竹/隊/長が大好きなので、漸く彼の本気が見られそうなのでwktkが止まりません。
ていうか、何か遊戯王とは関係の無い話でスンマセンでした…orz


短編『To you…』をUPしました。
平行世界を題材にした、ちょっとパラレルっぽい話ですね。
あえて書きませんけど、夢の中で海馬が出会った城之内はあの話の城之内です。
やっぱり初めて本格的に書いた城海小説の登場人物なので、彼等には思い入れがあるんですよね~。
ていうか、やっぱりパラレル好きなんだなぁ…私は。
今度は別のパラレル小説書いてみようかな。
ん…?
まさか…ここか!?
ここでハードボイルドなのか!?


以下は拍手レスになりますお~(*´ω`*)


>発芽米子様

拍手とコメント、そして物書きさんバトンをどうもありがとうございました~!

『言語表現』の質問が難しくて戸惑いました…w
ググッてみても出てきたのが難しいものばかりで、結局答えるの諦めました(´∀`;
いいよね? 別にいいよね?www

『二つの恋の物語』の感想もありがとうございます。
このバクラが抱えている気持ちは、多分克也が瀬人に、または瀬人が克也に抱えている気持ちとは少し違うんだと思います。
ぶっちゃけて言えば、肉体関係には全く興味が無いんですよねー。
その辺を念頭に置いて、じゃぁどうすれば彼の精神が満たされるのかという部分に集中して書いています。
まぁ、こういう恋愛も有りって事で…(´∀`;
(バクラー、ゴメンよー!!)

そう言えば米子様のサイトで、この間『め/だ/か』の話が出ていましたが…。
私的には阿/久/根/先/輩はアメルダっぽいと感じられましたw
アクティブなお馬鹿っぷりがそっくりなんですよね…w

それでは今日はこの辺りで失礼致します。
ではまた~(・∀・)ノシ


>Rosebank様

拍手とコメント、いつもありがとうございますです~(*´д`*)

『二つの恋の物語』と日記の感想をありがとうございました~!
この番外編はバクラが主人公なのでどうしても黒龍国側の視点になってしまうのですが、たしかにこの時期は本編ではサラッと流されてしまった部分ですからね。
やっぱりこんな形で表現出来る点から言っても、番外編を書いて良かったと思います。
実はこの『奇跡の証明』を書くに至って、色々参考にさせてもらったものが多々あります。
例えば『誓いの泉』での素っ裸での儀式は、聖書のアダムとイブを参考にさせて貰ってますし、ファンタジー部分では昔からの愛読書の『ロ/ー/ド/ス/島/戦/記』や、主従関係や古い言い回し等は『十/二/国/記』などを参考にさせて貰っていました。
そして今回のこの『十六歳で皇帝を継ぐ事によって感じる重責』は、同じように若干二十歳で国王になってしまった事によって重責に押し潰されてしまったフランス王国のルイ十六世を参考にさせて貰いました。
彼の国ではその後フランス革命が起こってルイ十六世は断頭台の露と消えた訳ですが、黒龍国では勿論そんな事は起こってはいませんw
でも僅か十六歳で国のトップに立つというのは、やはり相当なストレスだったと思われます。
しかも黒龍国は弱小国ではなく、その地域ではトップクラスの大国です。
そんな国を支える為に、白龍国に居る瀬人の事を心の支えにして頑張っていた克也が、より瀬人に対する愛を深めてしまうのは必然だったのでしょうね(*'-')
そしてそんな克也を影ながら支えていたバクラの存在も大きかった事でしょう。
この番外編は、そんな精神の強い繋がりもテーマとして扱っています。

ちなみに、守り人の一族は勿論結婚出来ますよ~。
同じ一族内で結婚してもいいし、外からお嫁さん(お婿さん)貰っても構わないのです。
ただし外から来た人は勿論完全地下内での暮らしに耐えきれませんので、外との行き来は自由に出来ますがね。
でも実質問題、守り人は外の人間と接触する機会が少ないですし、外の人間もあえて地下で生きる守り人と結婚したいと思う人もいません。
一応は結婚出来ますけど、実際に外の人間と結婚した人は歴史の上でもかなり少ないと思われます。
この外の人間とも結婚出来るという設定の中に、守り人と外の人間との間に生まれた子供は全て守り人寄りになるというのがあったのですが、余り使いそうにない設定なのでこちらは完全にポイしてしまいました。
物語を複雑にし過ぎてもファンタジー独特の美しさが半減してしまうので、そこはキッパリサッパリと諦める事にしました(´∀`)

それでは今日はこの辺りで失礼致します。
ではまた~(・∀・)ノシ

To you...

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城之内×海馬&城之内+海馬。
海馬の一人称。
平行世界を題材にした、ちょっと不思議なお話です。
後半に出てくる城之内君は、あのお話の城之内君です。
副題『もう一人の君に伝えたかった大事な言葉』

 




 誰もいない放課後の廊下で、急ぎ足で歩いているオレの後ろから城之内が付いてくる。
 彼がオレに何を言いに来たのかは既に明白で、オレは何とか城之内を振り切ろうと懸命に歩くが、結局いつも追いつかれてしまうのだ。

「海馬! 待ってくれ!」
「待たない」
「オレの話を聞いてくれ!」
「聞かない」
「海馬…っ! 何度でも言うけど」
「やめろ…」
「オレは、お前の事が…っ」
「やめろ! 言うな!!」
「好きなんだよ…っ! 海馬!!」
「やめてくれ!!」

 何度も何度も繰り返される会話。
 ここ数週間、オレはこうして毎日のように城之内から告白されている。
 教室で、廊下で、昇降口で、屋上で。
 学校に来られない日は、邸や会社にまでやって来て、誰もいない二人きりになるのを見計らって真剣な表情で詰め寄ってくるのだ。
 切ない程真剣なその声をこれ以上聞きたくなくて思わず両手で耳を押さえるが、その腕は城之内の強い掌に掴まれて引き剥がされる。
 そして剥き出しになった耳に、殊更優しく囁かれるのだ。

「本当に…好きなんだよ。お前もオレの事が好きだろう…?」

 熱い吐息に鼓膜が震えた。
 城之内に掴まれている手首が熱い。
 心臓が高鳴って、思わず頷きたくなる。
 だけどオレは自らの心情に反して首を横に振った。
 そうする事で目の前の顔が悲しそうに歪められるのを知りながら。
 案の定、城之内はオレの反応を見て酷く悲しそうな顔をした。

「何でだよ。オレは分かってるんだぜ? お前…オレの事が好きじゃんか」
「好きじゃ…ない…っ」
「自分に嘘をつくなよ! 自分を誤魔化すなよ!」
「嘘なんてついてない。誤魔化してなんか…いない…っ」
「オレの思いが受け入れられないなら、せめてその理由を言ってくれ…っ! お前にはそんな嘘ついて欲しく無いんだ…っ」

 ギュッと力を入れて腕を掴まれる。
 必死な声色に心臓を鷲掴みにされたような気がした。
 でもオレはどうしてもその理由を城之内に話せなかった。
 城之内の真剣な想いを知っているからこそ、どうしても話す事が出来なかった。


 オレは城之内の事が好きだった。
 城之内が今みたいに告白してくるよりもずっと以前から、この想いは胸の内にあった。
 だがオレは、大好きな城之内に近付く事が出来なかった。
 彼を…信頼出来なかったのだ。
 好きな男を信頼出来ないなどと矛盾極まり無いが、それでもそう感じてしまうのだから仕方が無い。
 十歳で海馬家に養子として入ったオレは、その日から十五歳で養父が死ぬまでの間、毎日のように教育という虐待を受けていた。
 近い将来、海馬コーポーレーションという大企業を背負っていく跡取りとして、経営学から人心術までありとあらゆる教育を叩き込まれた。
 そしてその教育の中に、簡単に人を信じてはいけない、いつでも疑ってかかれというものも含まれていたのだ。
 毎日のように言い聞かされるだけでなく、養父は実際に部下をオレに近付かせ、長い時間をかけてオレの信頼を得た頃にわざと裏切らせるなんていう事もしてみせた。
 それによってオレはすっかり人間不信に陥り、酷い時では最愛の弟ですら疑いの対象になっていた程だった。
 今はこうして立ち直って弟との信頼関係は修復出来てはいるが、オレは未だに弟と一部の部下を除いては、誰も信じる事が出来ずにいる。
 勿論それは、城之内だって例外では無い。
 恋愛感情を持っている相手を信じられないというのはおかしな話だが、それでもオレはどうしても彼を疑ってしまうのだ。
 オレがここで城之内の想いを受け止めたとして、その想いが裏切られない保証はどこにある?
 もしオレと付き合っている最中に好みの女性に出会ってしまったら?
 男であるオレは即座に捨てられて、城之内はその女性を選ぶに決まっている。
 ましてやオレと城之内の間柄は、少し前まで全く相容れない険悪な仲だった筈だ。
 もしかしたらこの告白自体、オレを貶めようとしている城之内の罠かもしれない。
 そうじゃないと、一体誰が言えるのだ。
 城之内の事が好きな癖に、城之内の何一つも信じる事が出来なくて。
 それが悲しくて辛くて悔しくて。
 その癖、その理由を城之内に伝える事さえ出来ないのだ。
 彼を信じる事が出来ない癖に、城之内に悲しい思いはさせたくなくて…。
 そんな事を思っていると結局何も言い出せなくなってしまう。
 最後はいつも黙り込んでしまうオレに城之内は軽く溜息をつき、やがて掴んでいた手を離した。

「分かった…。とりあえず今日は諦めるけど、また…聞きに来るから。お前の本当の心を聞くまでは、オレは絶対諦めないからな」

 そう言って寂しそうに微笑んで、城之内はゆっくりと振り返り廊下の向こうに歩いていった。
 その背が角を曲がって消えていくのを見届けて、やっと訪れた一人きりの空間にオレは深く息を吐いた。
 正直…苦しいと思った。
 城之内の告白も、それを受け入れられない状況も、城之内を信頼出来ない癖に募っていくばかりの自分の気持ちも。
 それら全てが苦しかった。
 誰か助けてくれ。
 無意識にそう思ってしまう。
 そしてそんな状況に精神的に耐えられなくなったオレは、ついに…ダウンした。


 ダウンしたと言っても別に大した事は無い。
 ただ気付いたら三十八度を超える熱を出していて、動けなくなっただけなのだ。
 医者によると疲れが溜まったせいの発熱で、数日ゆっくり休めば問題無いとの事だった。
 本当だったら会社に行ってやりたい事も山程あったのにモクバからも休養を告げられ、こうして邸でゆっくりと過ごしている始末だ。
 熱は嫌いだった。
 身体は怠いし頭はボウッとするし、何よりうつらうつらと眠る度に変な夢を見る。
 普段だったら見ないような不可思議な、かつしつこい夢に魘され、その度にハッと目を覚ますのだ。
 そんな事を繰り返していたら眠る事さえ疲れてくる。
 夜になり本格的に眠らなければならない時間になっても、色々と疲れてしまったオレは眠りにつくことが出来ずにいた。
 もちろん昼間寝過ぎたのも原因の一つだろうが、結局何とか眠る事が出来たのは朝方になってからの事だった。
 そしてまだ熱が下がりきってなかったオレは、案の定変な夢を見てしまった。


 気付いたら小さな部屋に立っていた。
 真四角の白い小部屋だ。
 オレの向かいにはよく見知っている人物が立っている。
 城之内だ。
 いつもの着崩した制服姿のまま立ち尽くして、真っ直ぐにオレの事を見詰めていた。
 だが何故だろうか…?
 いつもと全く変わらぬ姿なのに、どこか違和感を感じてしまう。
 無理に染めて荒れた金の髪も、明るい琥珀色の瞳も、意外と精悍な顔つきも、どこもいつもと何も変わらないのに。
 本能が、この城之内はオレの知っている城之内では無いと訴えかけていた。
 どうやら向こうも同じような事を考えているらしい。
 訝しげな顔をしてオレに問いかけてきた。

「海馬…? お前…海馬だよな?」
「あぁ、そうだが。お前は一体誰だ? 城之内」
「城之内って呼んでんじゃん。オレは城之内克也だよ」
「お前が城之内なのは分かっている。だが何故か違和感を感じるのだ」
「オレもだよ。お前が海馬だって事は分かるのに、何故かオレの海馬じゃないって思うんだ」

 オレの…海馬?
 今目の前の城之内は『オレの海馬』と言った。
 オレの? オレのとはどういう事だ?
 そう考え込んでいたら目の前の城之内が一歩、オレに向かって足を進めた。
 こちらも思わず身構えてしまったが、だが城之内はすぐ足を止めてしまう。
 そして目の前に手を翳して、何かをペタペタと触っていた。

「あぁ…やっぱり。ここに何か見えない壁みたいなのがあるな」
「壁…?」
「うん。ガラスみたいなのが」

 丁度部屋の中央を横切る部分を掌で触っている。
 オレも城之内の側に近付いてその部分を触ってみると、確かにガラスのような透明な何かがオレ達の間を遮っていた。
 目の前の城之内の姿は鮮明に見えるし声もはっきりと聞こえて来るが、接触は一切出来ないようだった。
 現にガラスを隔てて城之内と掌を合せているというのに、その体温すら感じられない。

「違う世界の人間とは、会う事は出来ても触れることは許されてないって事か…」

 ふと呟かれた城之内の台詞にオレは首を捻る。

「違う世界?」
「あぁ。海馬、お前さ。今自分が夢見てるって自覚してるだろ?」
「あぁ…」
「やっぱり。実はオレもなんだ」

 この現象に立ち会ってから、オレは自分が夢を見ているのだという事をはっきりと自覚していた。
 熱を出した時によく見る夢は、それを夢だと自覚する事が難しくなる。
 それだけ脳が熱によって麻痺している証拠なのだが、何故かこの夢ははっきりと自我が保てていた。

「何となくだ。何となくだけど…、オレはお前が違う世界の人間なんだって確信しちまったんだよ」
「何だと…?」
「SF小説とか漫画とかで読んだ事あるんだけどさ。こういうの何て言うんだっけ? パラレルワールド? 平行世界?」
「平行…世界…」
「そう。自分達の住んでいる世界とよく似ているけど、全く一緒って訳ではない世界。そこには自分達と同じ人間が同じように暮らしていて、同じように考え同じように喋ったりするんだけど、でもちょっとずつ違うんだ。お前はオレの知っている海馬瀬人と同じだけれど、やっぱり少し違うんだろうなぁ…」

 ガラスの向こうの城之内がそう言ってにっこりと笑う。
 確かにオレの知っている城之内では無いと本能が訴えかけていたが、だがしかし、やっぱりその明るい笑みはいつもと全く変わらなかった。
 不思議な話だ。
 現実のオレは彼のこの笑みから逃げ続けているというのに、夢の中では何故か素直に接する事が出来ている。
 それはこの城之内がオレの知っている城之内では無いからなのか。
 目の前の城之内がこの先のオレの人生に関わる事は絶対に無いと知っているからなのかもしれない。
 軽く溜息をつき、オレは頭に浮かんだ疑問を口に出すことにした。
 掌はガラス越しに合せたまま…。
 そこから離れる事はしたくなかった。

「お前の言う平行世界が本当にあるならば、何故今オレ達はここでこうして出会えているんだ?」
「そんな事はオレが聞きたいよ。でもきっと意味があるんだろう」
「意味…?」
「うん。そうじゃなければこんな現象はあり得ない。オレには何の心当たりも無いけど、お前にはあるんじゃないのか?」
「別にそんなものは無い」
「本当に? 例えばそうだな…。そっちの『オレ』に対して悩みを持ってるとかないの?」

 城之内の質問に、オレは驚いて思わず身体をビクリと揺らしてしまった。
 そんなオレをガラスの向こうの城之内は真剣に見詰めている。
 その真摯な瞳に揺さぶられて、オレはここ数日間悩みに悩んだ事柄を思わず口に出してしまった。
 ここはどうせ夢なのだ…。
 現実世界で誰にも相談出来ずに溜め込む事しか出来ないのなら、せめて夢の中で悩みを吐き出してしまいたかったのだ。


 オレの話を城之内は真面目に聞いてくれた。
 最後まで口を挟まずにただ黙って聞いて、そして話が終わった瞬間に徐に口を開く。

「なるほど。オレの事が好きな癖にオレを信用出来なくて、告白を受ける事が出来ないっていう事か」
「あぁ…」
「試しにちょっとだけ付合ってみようとか思わなかったの?」
「こんな気持ちを抱えたままでか? それはアイツに対しても失礼だろう」
「あはは! 相変わらず真面目なんだなぁ。ま、そんなところがお前のいい所なんだけど」

 余りに明るく笑いかけられたので、オレは戸惑って視線を外してしまった。
 この城之内がオレの知っている城之内では無いと分かっていたが、妙に罪悪感を感じてしまう。
 そんなオレに、城之内は明るい表情をしたまま飄々と質問を続けてきた。

「ところでお前に聞きたいんだけど」
「何だ?」
「ちょっと下品な質問で悪いけどさー。お前ってヴァージン?」
「………っ!? な…何だと…っ!?」

 余りに余りな質問に、思わず声が裏返った。
 コイツは何て失礼な質問をしてくる奴なんだ…っ!!

「ふ、巫山戯るなっ!! オレは女じゃないんだぞ…っ!!」
「いや、女とかそういう事じゃなくって。つまり他の男に抱かれた事があるのかって事」
「ある訳ないだろ!! いい加減にしろ!!」

 とんでも無い質問に遂にキレて大声でそう叫ぶが、それでも城之内は笑みを崩さず、それどころか軽く「そっか。ならいいじゃん」と言ったのだ。

「何がいいのだ! さっきから巫山戯た質問ばかりしてきおって…っ!!」
「まぁまぁ。いいからオレの話聞いてよ。本当はこんな話を第三者にするつもりは無かったんだけどさ。お前、オレの世界の住人じゃないみたいだし。それにお前自身の話だから、別に構わないだろう」
「何の話だ…」
「オレもさ、最初海馬に告白した時フラれたんだよ。ただし、理由はお前とは少し違ったぜ? アイツは自分の事を汚いって言ったんだ」
「汚い…?」
「そう。オレの事が好きな癖に、いや…好きだからこそ汚い自分と付合わせる訳にはいかないって、そう言ってた」

 ガラスの向こうの城之内はそう言って、今までの明るい表情から一転悲しげな顔になる。
 暫く目を瞑って当時の事を思い出しているようだった。
 やがて何かを決心したかのように瞳を開けると、再びオレの目をじっと見詰めて喋り始めた。

「オレの海馬はさ、結構悲惨な目に合ってるんだ。海馬家に養子に入って暫くして、義理の親父に無理矢理犯されたんだ」
「なっ…!? 剛三郎にか!?」
「そう。勿論それだけで終わる筈も無くて、その後は海馬剛三郎にとって利用価値のある人間達に生け贄として差し出されていった。例えば取引先の重役とか金回りのいい地方議員とか、そういう腐った奴らに」
「………っ!」
「オレさ、海馬絡みのちょっとした事件に巻き込まれた事があってな。ヴァーチャル世界でその時の様子をこの目で間近に見ちまったんだ…。可哀想だったよ…。まだ小さな身体を大人に力ずくで押さえ込まれて、子供の身体に似合わない醜悪なモノを無理矢理押し込まれていた…」
「そん…な…事が…。信じ…られない…」
「うん、信じられないよな。でも、そんな事が実際にあったんだよ。最初は泣いて喚いて精一杯抵抗していた海馬も、やがてどうにもならないって諦めちまったんだろうなぁ…。最後は泣きもしなかったよ。涙も流さず声も漏らさず、ただ光を失った瞳をぼんやりと天井に向けて、自分を犯してる男の動きに任せて揺さぶられているだけだった…」

 言いながら城之内はブルブルと震えていた。
 オレの掌と合せていない方の手を力強く握り、その時に感じた怒りを何とか我慢しているようだった。

「救ってやりたかった。何とかしてこの地獄から救い出してやりたかった。だけどオレが見てたのはヴァーチャル世界で再生された過去の映像に過ぎなくて。だからその場に駆け込んで救い出してやる事は絶対に出来なかったんだよ。だったらオレに出来る事は一つしかないよな。それは『今』の海馬を救ってやる事。過去の地獄に浸ったままでいる海馬の腕を掴んで、そこから引っ張り上げてやる事。それだけだった」

 そこまで話すと漸く怒りの表情を収め、城之内は柔らかい笑みを取り戻す。
 凄く優しい顔だと思った。
 見ているこっちまでが幸せになるような、そんな微笑みだった。

「海馬は自分の事を汚いと言った。だけどオレにはそんな汚れは何一つ見えなかったし、何より海馬が汚いなんて思いもしなかった。大体海馬があんな事で汚れる筈無いんだよ。あんなに高潔な魂を持った奴を汚せる人間なんて、この世界には一人だっていやしないんだ」
「だが…そっちの『オレ』は自分の事を汚れていると信じていたのだろう? もし自分が同じ立場だったら、オレだってきっとそう思った」
「そうなんだよなー。アイツは頑固だからさ、ずっとそう言ってオレの事を避けてた訳。でもオレはどうしても諦めきれなかったし、そう思ってるならその考えを利用してやれって思ったんだよ。まぁ…当時はこっちも一杯一杯だったからさ、本当に利用してやるなんて事、思いもしなかったけど」

 ニカッと笑って呟かれた言葉に、オレは「どういう事だ?」と続きを促した。

「そんなに汚れてると思ってるなら、オレがその汚れを綺麗にしてやるよって言ってやった。オレの色で塗り替えてやるってね。ちょっと臭い台詞だと思うけど、それがまたバッチリ効いてさー」
「まさか…『オレ』は承諾したのか? 何と言って?」
「別に何も。一言好きって言ってくれて、あとは黙ってはっきりと頷いてくれただけ」
「………」
「今思い出すと、あの時は二人ともすっげー頑張ってた。お互いが勇気を出して、諦めずにこの手で幸せを掴み取ろうと必死になってたんだ」
「それで…?」
「それでって?」
「それで今は…? お前達はどうなっているんだ…?」
「お前なぁ…。それをオレに聞くのかよ」
「どういう意味だ、それは」
「オレの顔見て分からないのかっていう意味。これで海馬と付合ってなかったら、オレこんな顔してこんな事話せないぜ」

 そう言って目の前の城之内は、心から幸せそうに笑ったのだ。
 その笑みを見て胸がズキリと痛んだ。
 この城之内はこんなにも幸せそうなのに、オレの世界の城之内はずっと寂しそうな顔をしたままだ。
 このガラスの向こうの『オレ』は、勇気を振り絞ってこの城之内を幸せにした。
 だがオレは…?
 オレはこっちの城之内に何をしてやれた?
 諦めずにオレを好きだと言ってくれる城之内に、オレは奴を信頼出来ないと冷たくはね除け続けている。
 何て…酷い話なんだ…。
 別れ際のあの城之内の顔を思い出して、オレは耐えきれずに落涙した。
 ガラスの向こうの城之内を見詰めたままハラハラと涙を流し続けるオレを、奴は少し困った顔で黙って見詰めている。

「オレは…どうすればいい?」

 震える声でそう問いかけると、城之内はオレを慈しむように瞳を細めて口を開いた。

「信じてやれよ、お前の『オレ』を」
「信じる…?」
「そう。『オレ』を信じてやってくれ。それで今まで告白を断わってた理由もちゃんと話してやれよ」
「だが…」
「信じられないんだったら、今ここではっきりと断言してやるよ。城之内克也は海馬瀬人を絶対に裏切らない。何があっても絶対お前を裏切る事だけはしないから」
「で…も…」
「でも?」
「でも…今更そんな事…言える訳が無い…」
「どうして? 何が怖い?」
「何って…。だってまさか…、告白してくれた相手に『お前の事が信用出来なくて断わっていた』なんて酷い事、言える訳無いだろう…」
「大丈夫。『オレ』は確かに頭悪いけどさ。お前の言う事ならちゃんと理解出来るから」
「だが…オレは…」
「『お前も勇気出してくれよ。俺と一緒に幸せになる勇気を』」

 妙にはっきりと耳に届いたその言葉に、オレはハッと視線を上げる。
 目の前の城之内は自信ありげに笑っていた。

「この台詞はオレがオレの海馬に告げた台詞だ。どうしてもオレの手を取る事が出来ずに躊躇っていた『アイツ』に対しての…。多分お前の『オレ』も同じ事を思っていると思うぜ。なぁ海馬、勇気を出してくれ。それで幸せになってくれよ」
「城之…内…っ!」

 優しげに放たれた言葉に応えようとしたその時、それまでクリアだったガラスが突然曇りだした。
 それまで鮮明に見えていた城之内の姿が見えなくなってくる。
 目覚めが近いんだと直感で理解した。

「あぁ。朝が来たんだな」
「そうだな…」
「となると…いつまでもここでのんびりしてられないな。ちゃんと『おはよう』って挨拶してキスしてやらないと、アイツ機嫌悪くなるんだよ」
「まさか…一緒に眠っているのか…?」
「え? だって恋人同士だし?」
「そ、そうか…。そうだよな…」
「羨ましい?」
「ば…馬鹿言うな!! そんな事ある訳…っ」
「あるんでしょ?」
「っ………!」
「大丈夫。お前がほんの少し勇気を出せば、この幸せをそっちも味わう事が出来るようになるさ」
「城之内…」
「んじゃ、オレはコレで帰るけど…。ちゃんと『オレ』の事を信じてやれよ。起きたら直ぐにでも連絡してやれ。バイト中だろうと何だろうと、多分すっ飛んで来るぜ。だからお前も頑張れよな」
「あっ…! 城之内…!」
「ん?」
「あ…ありがとう…」

 最後のオレの台詞に曇りガラスの向こうの城之内は嬉しそうに微笑んだ。
 その笑顔を最後にガラスはついに完全に曇って何も見えなくなり、そして次の瞬間、オレはベッドの中で目を覚ました。
 朝日の差し込む部屋の中でゆっくりと起き上がる。
 熱はもうすっかり引いたようで、頭の中もスッキリとしていた。
 オレは何度か瞬きをして意識を完全に覚醒させると、そっとベッドを降りた。
 そしてサイドボードの上に置いてあった携帯を取り上げる。
 以前、城之内に無理矢理登録させられた番号を呼び出してボタンを押し、携帯を耳に当てた。
 心臓は煩い位に鳴り響いているのに、脳内は妙に冷静だった。
 数コール後、電話が繋がる。
 慌てて電話に出たであろう相手に、とりあえずオレは大事な一言だけを最初に伝える事にした…。

 



ちょっとしたおまけ:もう一つの世界で


「起きろ凡骨。もう朝だぞ」

 ゆさゆさと身体を揺さぶられる感触に、城之内はゆっくりと瞼を開けた。
 目の前には朝からむっすりとした顔の海馬が自分の事を見下ろしている。
 それに苦笑して、城之内は海馬の首に両手をかけ、彼の顔を引き寄せた。
 そして少し冷たくて柔らかい唇にそっとキスをし、満面の笑顔で「おはよう」と告げる。
 それに漸く機嫌を良くした海馬が、ふっと柔らかい笑みを顔に浮かべた。

「何だ海馬。朝から随分と不機嫌そうだったな」

 揶揄するようにそう告げると、少しだけ不満そうな顔をした海馬が城之内に擦り寄ってくる。
 その細い肩を抱き寄せて、城之内は海馬のこめかみに唇を押し付けた。

「起きたら貴様がニタニタしていたものでな。一体何の夢を見ていたんだか」
「お前の夢だよ」
「ん?」
「正しくは『もう一人のお前』の夢。たった今、別のお前を救ってきたばかりだ」
「…?」
「分からなくていいよ」

 まるで理解出来ていない顔をしている海馬に微笑んで、城之内は腕の中の温かい身体をもう一度抱き締め直した。
 本当に、心の底から幸せだと感じる。
 あの海馬も、多分もうすぐこの幸せを手に入れる事が出来るだろう。
 それを確信しているからこそ、もう城之内はあの海馬の心配をする事は無かった。

バトンktkr!

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順調に体力が減ってきた二礼です、こんばんは。

『深夜湖畔』の発芽米子様から物書きさんバトンを渡されたので、やってみようと思います(´∀`)
 

◆それでは、20の質問を始めます。まず、ジャンルを教えてください
遊戯王で城海やってます。

◆そのジャンルで活動し始めてどれくらい経ちますか?
まだ半年。以前はROM専でした。

◆では、通算物書き歴は?
小説自体は随分昔から書いていました。
前ジャンルでは同人活動していましたが、途中で結婚引退した分のブランクがあるので、実質4~5年ってとこでしょうか?

◆登場人物、男の子と女の子どっちが多い?
凄く…男の子です…w
あ、でも女体化も書いてるから圧倒的な差では無い筈。

◆書きやすい性格を教えて下さい
単純明快なタイプ。キャラで言うなら城之内君。社長は…難しいのよ…w

◆では逆に、書きにくい性格は?
社長! つまり、クールで真面目に深く考え込むタイプ。

◆薔薇、百合、通常、一番得意なのはどれですか?
薔薇>通常>百合。あ、でも百合も好きです。

◆甘、ほのぼの、シリアス、ギャグ、裏。得意な順に並べて下さい
甘>裏>ほのぼの>シリアス>ギャグ。
基本的に変態なので裏は全然平気です(´∀`)
逆にギャグセンスが無いのでギャグは苦手です…;

◆比喩法、擬人法は得意ですか?
得意では無いですけど比喩法は使います。
擬人法は極々たまに。一回エロで使ったような気がする…w

◆描写をする上で、好きな物、苦手な物は何ですか?
好きなのは、心情の変化とそれに伴う身体の異変。心臓が高鳴ったとか目の奥が熱くなったとか、そういう奴ね。
苦手なのはアクションシーン。頭の中に浮かんだ動きを文章にするのって難しいです。
ちなみに、好きな物≠得意な物なので、誤解無きよう…w

◆好きな言語表現は何ですか?
この質問が難しくてググッてみました。
出てきた物を読んでみたのですが、難しくて理解不能でした…orz
頭…悪い…;

◆愛用の辞書は何ですか?
辞書ねぇ…。
結婚する時に実家に置いてきてしまいました。
最近は調べ物は全てPCでやっています。

◆タイトルや、オリジナルの方はキャラの名前に、こだわりはありますか?
タイトルは主に直感で付けているので、こだわりは特にありません。
あ、でも長編の『~の証明』はあえて連作にしたので、その辺はこだわり…なのかも?

◆携帯やパソコンに直接打ち込みますか?それとも、ノートに下書きをしますか?
ノートって普通の紙のノート?
メモ程度だったらしますけど、文章は書かないなぁ…。
ちなみに二礼は一度テキストファイルに文章を書いてから、それをコピペしてUPする方法を取っています。

◆ズバリ!その利点は?
PCで文章を打つ速さに慣れちゃったら…もう紙には戻れませんw
でも、むしろコレってデメリットなんじゃないのかな?
だって…漢字忘れちゃうんだもの…w

◆推敲ってやります?また、どれくらいの時間をかけますか?
やりますやります!! やらないと怖いわ…w
その時満足していても、時間が経ってから読み直すと明らかにオカシイ所とか出てくるもんで。
時間は気にした事無いですけど、基本的には書いている最中も三歩進んでは二歩戻るみたいな確認の仕方をしています。
分かりやすく言えば、本返し縫いみたいな感じ?(むしろ分かりにくいか…;)
で、全部書き終わったら自分が納得するまで最初から最後までじっくりと読み直します。
読み直しながらもチョコチョコ修正していって、UPする寸前にも一度読み直します。
更にUPした後も、自分のサイトにアクセスしてオカシイ場所が無いかどうかチェックします。
こんだけ確認しても誤字や変な表現が山程出て来るんですよね…(´_ゝ`;
誤字見付けたら…教えて下さいませ…;

◆連載をしたことはありますか?ある方は感想もどうぞ
あります。
連載は好きですよー。
むしろ短編を短編としてコンパクトに纏めるのが苦手なので、どうしても連載寄りになってしまいます…(´∀`;

◆小説の書き方マニュアル、みたいなのを読んだことがありますか?
ないです。
もう独学と閃きだけで小説書いていますw

◆コツとか…教えていただけませんか?
そんなものは…無い!!(゜д゜)
コツがある位だったらもっと楽に小説書けてるだろうに…orz
誰か知ってたら教えて下さい。

◆最後に、尊敬する物書き様に何人でも回して下さい。
誰かにバトン回したりするの苦手なので、ウチはここで止めておきますー(´∀`)
誰かコレ見てやりたい方がいらっしゃったら、是非やってみて下さいませ~!



長編『奇跡の証明』の番外編『二つの恋の物語』のその3をUPしました。
片思いって辛いやね~。
特に自分の好きな人が、別の相手を見詰めているのが分かっているのって辛いですよね…。
まぁ…バクラ君にはその辺を頑張って乗り越えて貰おうと思います(´∀`)
よく考えれば…酷い話だな、コレw
でも『奇跡の証明』はあくまで克也と瀬人の物語なので、バクラには別の幸せを見付けて貰う事にしましょう。


以下は拍手のお返事になります~(*'-')


>赤峰様

拍手とコメント、どうもありがとうございました~(´∀`)

親父子連れ城海の感想をありがとうございます。
赤峰様の仰る通り海馬は城之内との愛より会社と弟を選んで、別れる事を決意したのだと思います。
そして城之内もそんな海馬の気持ちを痛い程理解してしまって、別れる事に同意したのでしょう。
でも結局お互いに相手の事が忘れられず、結婚した相手と、そして自分自身をも不幸にしてしまいました。
何かいつも思いつきで軽ーく会話SS書いていたりしますけど、結構シリアスな設定なんですよw
確かに切ないとは思いますが、その代わり子供にも恵まれましたし、その子供を通して親父になってから再び付き合う事が出来ました。
これはこれでいいんじゃないかと思います(´∀`)

それからヘルクリの事なのですが…。
確かにあんなに大々的にドーマ編やってた割には、この子達の認知度は低いんですよね…w
やっぱり真の姿である龍騎士よりドラゴンの姿の方が有名だからでしょうか?
勿体無いですよね…。
あんなに格好いいのに!!
だってヘルモスとクリティウスの二人で∞ですよ!!
相手の力を受け止めて更に相手に流すというのを、永遠に二人でやってるんですよ!!
コレで萌えずに何に萌えろというのかとwww
赤峰様のコメントには私も同意です。
もっとヘルクリ広まって欲しいですよねぇ…(*´д`*)

それでは今日はこの辺りで失礼致します。
ではまた~(・∀・)ノシ


>Rosebank様

拍手とコメント、どうもありがとうございました~!(*´∀`*)

番外編と日記の感想をどうもありがとでした~!!
克也が受けた『汚れを祓う清めの儀式』というのは、Rosebank様がコメントに書かれている通りです。
実際に守り人の一族が汚れている訳ではなくて、しきたりを守る為の形式上の儀式っていう感じですかね?
この『守り人は皇族に指一本触れてはいけない』というしきたりの本当の理由については本編で瀬人が見破っていますが、やっぱり三千年も続いてきたしきたりなので、こういう古くて細かい形式上の儀式っていうのも必要なんですよ。
日本にもそういうのってありますものね。
例えば神社やお寺に参拝する前に手水で手や口を清めるなんていうのも、そういう形式上の儀式だと思っています。
それをしなければどうとなる事ではありませんが、長く続いた歴史の上で忘れられずに残っていたこういう作法や儀式には、やはり昔の人の考えや深い意味が込められているのだと思います。

それと克也が皇帝に殴られた過程ですが…。
勿論グーですwww
いやだって、男の子だものw
彼はただの男子では無くあくまで皇太子であって、将来は皇帝として黒龍国を背負っていかなければならない身ですからね。
しかもタダの悪戯では無く、今回は人の命がかかっていました。
皇帝としてその辺は手を抜く訳にはいかなかったんじゃないでしょうか(´∀`)
前皇帝は、克也の事を養子だからといって甘やかしたりせずに実の息子のように厳しく、そして実の息子以上に優しく接した良い父親でした。
この父親がいたからこそ、あの本編での強くて優しい克也がいるのだと思います。

あとはRosebank様のいつもの推理ですが…。
今回は番外編ですからねー。
隠さなくても大丈夫そうなので、バラしちゃいますね(´―`)
バクラが瀬人に初めてあった時に妙にやさぐれていたのは、Rosebank様の仰る通り瀬人に対する嫉妬心によるものです。
その心情は…今後改めて書いていこうと思います(*'-')

それでは今日はこの辺りで失礼致します。
ではまた~(・∀・)ノシ

その3

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 バクラが留学から帰って来た克也と再会したのは、互いに十五歳になってからの事である。
 守り人である母親から克也が帰って来ている事を知らされたバクラは、誓いの泉まで自ら会いに行く事にした。
 母親と共に暫く待っていると、やがて奥の通路から金髪の青年が嬉しそうな顔をして、両手を広げて駆け寄って来るのが見えた。
 九歳からの六年間を白龍国で過ごした克也は、もう子供では無くすっかり一人前の青年に成長していた。

「久しぶりだな! バクラァ-!!」
「うぉっ…! あぶねっ!」

 余りに勢いよく突っ込んで来られた為、バクラは慌てて横に避けた。
 案の定、バクラに抱きつこうとしていた克也は支えを無くして倒れ込む。

「お…おい…。大丈夫か?」
「いってぇ…っ。何で避けるんだよ、バクラ」
「何でじゃないだろ? 皇族は守り人の一族には触れられないって掟、忘れたのかよ」
「んあ…。そういやそうだったっけか…。白龍国での暮らしに慣れちまって、すっかり忘れてたな…」

 地面の上で胡座をかきながら、克也は後頭部をガシガシと掻く。
 そして改めて顔を上げ、心配そうに自分を覗き込んでいるバクラと目線を合せた。
 そこにいる二人は、もう少年では無かった。
 背が伸び声変わりも終え、大人の世界に足を踏み入れた青年達だった。
 離れていた六年という時間の間に、克也もバクラもお互いが随分と変わってしまった事を思い知らされる。
 暫く黙ってお互いに見つめ合って、やがて克也が明るい笑みを顔に浮かべる。
 その笑顔だけは幼い頃から何一つ変わっていないと、バクラは不意にそう思った。

「バクラ。お前、でっかくなったなぁ…」

 克也の暢気な一言に、バクラも笑いながら答える。

「そういう殿下も随分と御成長なされたようじゃないですか」
「え~? 何だよ、その堅苦しい喋り方は…」
「悪いけどこっちももう子供じゃないんでね。次の守り人になる事はもう決定事項らしいから、一応殿下に対する口の利き方には気をつけろって言われてるんだ」

 下半身についた土埃をパンパンと祓いながら克也が立ち上がる。
 間近で立ち上がられると、より克也が男として成長してきた事が知れた。
 随分と背が高い。
 自分も決して低い身長では無い為に、克也のその成長ぶりに驚きを隠せない。
 じっと克也を凝視しているバクラに気付いて、克也がニッコリと笑いかけた。

「何だ? 人の顔をじっと見て」
「いや…別に何も。それよりもちゃんと見付けてきたのか?」
「見付けて…? 何を?」
「何をじゃないだろ! 将来の正妃候補だよ!!」

 バクラの台詞に、克也の顔がパッと明るくなる。

「あぁ、それな! 勿論ちゃんと見付けてきたぜ! とびっきりの美人だ!」

 あんまり嬉しそうにそう言われたので、バクラは一瞬拍子抜けした。
 だが、次の瞬間には胸がツキリと痛んだのを感じる。
 六年も離れていて、バクラの克也に対する小さな恋はとっくに昇華されていたと思っていたのに、どうやらその恋心は忘れずに仕舞われていただけのようだった。
 克也に気付かれないようにそっと胸に手を当て、微かに痛む心臓を押さえつける。
 そしてなるべく普通の声で「そうか。それは良かったな」と克也に告げた。


 克也に恋をしているからといって、バクラは別に彼とどうこうなりたいという訳では無かった。
 克也を抱きたいとか、逆に克也に抱かれたいとか、そういう肉体的な接触には何の興味も無い。
 むしろバクラが望んでいたのは、精神的な繋がりだった。
 幼い頃、自分の命を助けて貰ったあの事件以来、バクラは克也と心の奥底で深く繋がっていると信じていた。
 六年前に克也が白龍国に留学に行く前までは、それは確かに自分達の間に存在した何よりも強い絆の筈だった。
 だが六年経った今、その絆が微かに揺らいでいる事に気付いてしまう。
 白龍国で見付けて来たというその正妃候補の話を出される度に、克也の瞳はキラキラと輝き頬は紅潮して、視線は遠くの白龍国へと注がれていた。

 克也が…本気で恋をしている。

 バクラはそれに気付いてしまった。
 気付かざるを得なかった。
 そしてその相手がどんな人間なのか、はっきりと告げられたのはそれから一年後の事だった。


 克也が白龍国から帰って来て一年後。
 皇帝が突然病に倒れたとの知らせが入った。
 専属主治医を初めとする医者達が賢明に治療にあたったが、数週間に渡る療養の甲斐もなく皇帝は黄泉の国へと旅立った。
 黒龍国では盛大な国葬が行なわれ、賢帝の突然の死に国民の嘆きも大きかった。
 そして民達は葬儀の後も数週間に渡って喪に服し、次の皇帝が即位されるのを今か今かと待ち続ける。
 その期待は地下にいても嫌でも感じられた。
 母親から守り人としての心得を毎日のように教えられながら、バクラは密かに克也の事を心配していた。
 克也はまだ十六歳。十七歳で成人するこの黒龍国ではまだ未成年だ。
 それなのに、この若さでもう国を支える立場に立たねばならないとは…。
 克也がこれから背負わなければならない重責を思うと、バクラも胸が痛くなった。
 だが心配していても埒があかない。
 即位の日は刻一刻と近付いていた。


 そして、前皇帝の喪が明けたある日の朝の事。
 バクラは新たな守り人として克也が地下に降りてくるのを待っていた。
 地上に通じる階段から足音が聞こえて来る。
 やがて階段の影から現れた克也に、バクラは膝を付いて臣下の礼を取った。
 そこにいたのは今までの克也では無かった。
 立派な皇帝の衣装に身を包み、威厳を持った佇まいの高潔な君主であった。

「お待ちしておりました、皇帝陛下」

 バクラの言葉に克也が寂しげに微笑んだ。

「バクラ…」
「はい、陛下」
「なぁ…。オレはまだ十六歳だっていうのにさ。何の因果かこの若さでこうして皇帝になる事になってしまった」
「………」
「お前もその若さで守り人をやるのは大変だと思うけどさ。宜しく頼むよ、バクラ」

 克也の言葉にバクラは深々と頭を下げる。

「勿論でございます、陛下。オレが貴方の御代をお守するのは、幼き頃より決まっていた事。それに陛下が白龍国に留学に行かれる前、オレは貴方にお約束した筈ですよ? 守り人としてずっと陛下をお守すると…」
「あぁ。覚えているよ。ありがとう…バクラ」

 バクラの言葉に優しく言葉を返すと、克也は顔を上げて誓いの泉に目を向けた。
 そして軽く溜息を吐くと、自分の服に手をかける。

「これから『皇帝即位の儀』を行なう。バクラ、服を預かっていてくれ」

 克也の言葉にバクラは「畏まりました」と答え、再び深く頭を下げた。

夏バテの気配がムンムンな二礼です、こんばんは。

良い具合に食欲が無くなって参りました…w
いやもう…温かい御飯…食べたくないっす…orz
二礼は基本朝食をキッチリ食べる人なのですが、その朝食も食べるのが辛くなってきたんですよね…;
かといって食べやすい麺ばかり食べていると、早々にぶっ倒れるのも既に学習済みですw
ケ○ッグじゃないですけど、まさしく「トニー…、力が出ないよ~;」状態になるんですよねぇ~…。
こういう時に二人暮らしで良かったなぁ…と思います。
多分一人だったらダルさにかまけて何も食べずに、ぶっ倒れて病院行きになっているに違いないと思いますからw
頑張って…御飯食べます…(´・ω・`)


長編『奇跡の証明』の番外編『二つの恋の物語』のその2をUPしました。
本編で一度必要無いなと思って捨てたものが、この守り人の設定でした。
彼等が地下で住み続ける理由を正当化する為に考え出した設定だったんですけど、本編で使う場所が無かったんですよ。
本編はあくまで克也と瀬人の二人の物語だった為に、その話を邪魔しないように思い切ってボツにする事にしたのです。
だけどある方の助言から番外編を書く事を思い付いて、それで漸く救い出し、こうして表に出す事が出来ました。
この番外編を書き終わってから『奇跡の証明』に完結のマークを入れようと思っています。

ところで、二礼の知り合いにも赤緑系の色弱の方がいらっしゃいますが、彼に言わせると別に色が分からない訳ではないそうです。
分かりやすく言うと「色が分かりにくい」んだそうです。
例えば真っ赤な花をつけた椿の花。
例えば草むらに生えている真っ赤な曼珠沙華。
遠くから見ると色が飽和して同一色に見えてしまうんだそうです。
我々からしてみればあれ程目立つものも無いと思いますが、こちらが「ほら、あそこだよ」とどんなに指を指しても彼は首を捻るばかりなのです。
それで近場に連れて行ってみると、そこで初めて認識出来るそうです。
彼はそれでも軽度な方なので特に日常生活に困る事は無いそうですが、それでもやっぱり地下鉄の路線図とかは見難いと言っていました。

ちなみに皆さんは『石原式色覚異常検査表』というものをご存じでしょうか?
小学校等の健康診断や体力測定の時などにやった方もいらっしゃるのではないでしょうか?(最近は差別の対象になるとかで廃止している学校も多いそうですが)
ようは似たような色が敷き詰められている円の中から隠れている数字を見つけ出して指で追うという、アレです。
あの中には、正常者にしか見つけ出せない数字と、色盲(色弱)者にしか見つけ出せない数字の両方があるのですが…。
例の彼は軽度の色弱の為、どちらもボンヤリと見えてしまうそうです(´∀`;
普通の人には見えないものが自分には見えるんだと、それはそれで得したような気分になったそうですよw
人間の能力って本当に面白いですよね。


以下は拍手レスになりますです~!


>Rosebank様

拍手とコメント、どうもありがとうございました~!(`・∀・´)

番外編と日記の感想をどうもありがとうございました~!
男の子ってどうして「ダメ」と言われている事をわざとやったりするんでしょうねぇ…。
まぁ私も昔は悪餓鬼だったので、親にダメと言われた事をわざとする子供でしたがw
何か「ダメ」と言われると、じゃぁやってみたらどうなるのかって気になっちゃうんですよね…(´∀`;
Rosebank様が言われる通り、やっぱり子供には「何故ダメなのか」という理由をはっきり言って聞かせないとダメなんだと思います。
「子供には難しい事言っても分からない」という言い訳をよく聞きますが、子供ってのは意外と物事を分かっていますよね。
大体悪戯なんて大人を困らせる事が目的なのだから、大人が子供を信頼してちゃんと訳を言えば、子供もその期待に応える筈だと思っています。
…と上手い事を言っても、結局悪戯する奴はしてしまうんですけどねーw

日記SSの話ですが、確かに海馬の子供が娘だったら目も当てられないと思います…w
娘と息子の配置は私の直感でそう決めたのですが、アレはアレで正解でしたね。
そういえば克人はテンション低いですね~。
Rosebank様に言われて初めて気がつきました。
あの会話SSは私の直感で書いているので余り深く考えた事ありませんでしたが、父親がいつも異常な程のハイテンションですからねぇ…。
多分その毒気に当てられて大人しく成長してしまったのでは無いでしょうか?w
ちなみに父親同士のお付合いに関しては、マイナスの感情は持っていないと思われます。
彼もまだ十七歳なので自分の恋愛で手一杯でしょうし、幼い頃から厳格で何を考えているか分からなかった父親が素直に自分の感情を現わすようになって(実際は、感情を表す事を忘れていただけであって、城之内と再び付き合うようになってそれを取り戻しただけですが)、それはそれで嬉しく思っているようです。
まぁ瀬衣名ほど諸手を挙げて協力している訳でもなく、そこは微妙に複雑そうですが…。
性格の違いでしょうかね?w

あ、そうそう。
多分瀬衣名はあの後、Rosebank様のコメント通りの発言をしたと思いますw
それを聞いた城之内が飲みかけていたお茶を盛大に吹き出せばいいと思います(*'-')

それでは今日はこの辺りで失礼致します。
ではまた~(・∀・)ノシ

その2

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 ゆっくりと浮上していく意識に従って目覚めた時、バクラは自分の部屋の寝台に寝かされていた。
 そっと瞼を開けて周りを見渡すと、自分の直ぐ側に守り人である母親と長老がいて、そして少し離れたところに女官に寄り添われている克也の姿が見えた。
「なん…で…オレ…?」
 掠れた声でそう尋ねる。
 喉は乾いていて、ヒリヒリと痛んでいた。
「覚えてる? 貴方は禁を破って外に出てしまったのよ」
 心配そうに覗き込んでいる母親の問いに、バクラは黙って頷いた。

「殿下が貴方をここまで連れ帰ってくれたのよ」
「殿下が…?」
「バクラ、貴方…危なかったのよ。もう少し手当が遅れていたら死んでいたかもしれなかったのよ」

 母親の言葉に、バクラは恐る恐る自らの腕を上げてみた。
 両の腕には指先にまでしっかり包帯が巻かれている。
 包帯の色が若干変わっているのは、薬草の液を染みこませているからだろう。
 そっと自分の顔を撫でると、頬や首筋の辺りにも薬液を染み込ませた布が宛てられているのに気付く。
「バクラ…」
 震える声で名前を呼ばれて、バクラはそちらを振り返った。
 そこには涙をボロボロと零しながら、克也が心配そうな顔で立っていた。
「バクラ、ゴメン…ッ!! オレ…ッ!!」
 駆けだして縋り付こうとするのを、横にいた女官が慌てて止める。
「いけません、殿下! せっかく汚れを祓う清めの儀式をしたばかりだというのに…っ!!」
 女官に止められて寝台から少し離れている場所で、克也はずっと泣いていた。
 その左頬が真っ赤に腫れているのが見てとれる。

「何だよ…お前。そのほっぺた、どうしたんだよ…」
「バクラを殺すつもりだったのかって…、父上に殴られた」

 溢れ出る涙を手の甲でぐしぐしと拭いながら、克也はそれでもそこから離れる事は無かった。
 しばらくは克也の嗚咽だけが部屋に響いていたが、やがて椅子に座っていた長老が顔を上げる。

「仕方ありませんな…。殿下、それにバクラ。すこし爺と話をしましょう」

 長老は優しげに微笑み、立ったままだった克也に椅子を勧めた。
 しゃっくりあげながら克也がその椅子に座ったのを見届けると、長老はコホンと一つ咳払いをして話だす。
「まずは…。何故バクラがこんな目に合ったのか…。それを知って頂かねばなりませんな」
 長老はまずバクラを見て、そして離れた場所に座っている克也に目を向けた。
 それに対して克也はコクリと頷く事で答える。

「殿下…。我々守り人の一族は、太陽の光に弱いのです。ずっと昔から先祖代々地下で暮らしておりました故、太陽の光を浴びると酷い火傷をしてしまうのですよ」
「火傷…?」
「そう。更に言えば外の空気は熱過ぎて、我々の身体には合いません。外の人間にとっては涼しげな風も、我らにとっては熱風にしかなりません。熱い空気は呼吸を出来なくさせます」
「だからバクラは倒れたのか?」
「そうです。それからもう一つ…」

 長老はそこまで言って、寝台に横たわっているバクラに目を向けた。
 バクラもそれに気付いて長老の言葉を待つ。

「バクラや…。お前は外の世界を見てきたのだね?」
「はい。見てきました…」
「それでどうだったね? 色鮮やかな世界は見れたのかね?」

 長老の言葉にバクラは静かに首を横に振った。
「分かりませんでした…。青い空も白い雲も、色とりどりの花も…何も」
 それらがそこにある事は分かったが、それらが一体どんな色をしているのか、バクラには全く理解出来なかった。
 悲しそうに俯いたバクラの頭を長老は優しく撫でる。

「殿下…。我々守り人の一族は、地下で生きることを定められております。長く地下で生きる内に、我々の目は色を感じる事が出来なくなりました」
「え…っ!?」
「いえ、じっくりと見ればその違いは分かるのです。ただ普通の人間のように、はっきりと色鮮やかな世界を見ることが出来ないのです。濃淡の違いはわかっても、色の違いは分かりにくいのですよ」

 長老の言葉で、バクラは外に出た時の違和感の正体に気付いた。
 あれは…そこに何の色も感じられなかった故の違和感だったのだ。
 克也の言う鮮やかな世界の魅力が、何一つ感じられなかった。

「これが…真紅眼の黒龍の呪いかよ…」

 思わず低い声でそう呟くと、長老はそれに対してゆっくりと首を横に振った。

「バクラよ…。それは違う。呪いではなく祝福だ」
「オレ達を地下に閉じ込めておく事の何が祝福なんだよ! 太陽に弱くして…色を見えなくして…それがどうして呪いじゃなくて祝福なんだよ…っ!!」

 感情のままに叫ぶバクラを落ち着かせようと、長老が優しく微笑んだ。
 そして再び頭を撫でながら説明をする。

「何か誤解しているようだな。真紅眼の黒龍が我々を閉じ込めたのでは無い。黒龍がこの地に来る前から、我ら一族は既に地下で暮らしておったのだ」

 長老のその言葉にバクラも、そして側で話を聞いていた克也も驚いて目を剥いた。
 守り人の一族というからには、最初に皇家があって、次にそれを守る守り人の一族があるのかと思っていたが…。
 長老によるとそうでは無いのだという。

「多分…突然変異か何かなのだろう…。我々一族の祖先は陽の光の下で暮らす事が出来ない事に気付き、地下に逃げてそこで暮らしておった。そこに今から約三千年前、真紅眼の黒龍が黒龍国を興す為にこの地にやってきた。この大地と同化した黒龍はやがて、地下でひっそりと息を潜めて暮らす我らの存在に気付き、そしてその運命を哀れに思われたのだという…。そして黒龍は我々を祝福してくれた。暗い洞窟は黒龍の破片で明るい水晶の洞窟に変わり、黒龍と同化した土は地下でありながら作物を育てさせ、そして死ぬと分かっていて憧れることを止められなかった外界への欲望を、その御力で断ち切って下さったのだ」

 狭い世界に住みながら、それでもそれに対して全く不満を持たず、地下での生活を快適に感じていた理由がそれだった。
 外の世界への欲望を断ち切り、そして皇家を守る重要な一族として祭り上げた。
 それこそが真紅眼の黒龍の慈悲であり、我らの一族が祝福されている証拠であると、長老は最後に締めくくった。


 誰もいなくなった部屋で、バクラと克也は二人でそこにいた。
 克也は絶対にバクラに触れないという約束の元、そこに居る事を許されていた。
「バクラ…。悪かったな…。オレ何にも知らないで…」
 克也の言葉にバクラがゆるゆると首を横に振る。

「いや…。何も知らなかったのはオレも一緒だ」
「でも、オレはお前を殺しかけた」
「殺そうと思って外に連れ出したんじゃないだろ? オレに外の世界を見せたかっただけじゃねーか」
「そうだけど…」
「それにお前はちゃんとオレを助けてくれた。それにオレの方こそ悪かったな…。陛下に殴られたんだろ? ほっぺ腫れてるぞ」
「こんなの…お前が感じた苦しみに比べたら大した事無い」

 椅子に座ったまま再び泣き出した克也を見て、バクラは胸が温かくなっていく自分に気付いた。
 胸がドキドキする。
 それは先程外で感じた苦しみの動悸とは全然違うものだった。
「殿下…」
 自分の為に泣いてくれている克也の涙を止めたくて、なるべく優しい声を出す。

「殿下はオレを助けてくれた。だから殿下が皇帝になった時…その時はオレが殿下を守るよ。ずっとずっと殿下を守る。約束する。だからもう泣くなよな…」

 その時自分が感じた感情を、暫く何というのかバクラは分からなかった。
 だがそれは、一年後に克也が留学の為に白龍国に行くと報告に来てくれた時に、はっきりと理解出来た。

 白龍国になんて行きたくない。
 ずっとバクラの側にいたい。
 一緒にいたい。

 そう言って泣き続ける克也を宥めながら、バクラは漸く気付いていた。
 自分が克也に対して小さな恋をしている事を…。

シソは失敗だと思います

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ペプシコーラのチャレンジ精神には脱帽な二礼です、こんばんは。

去年のキューカンバ(胡瓜)コーラは結構イケたので、今年もペプシが出したシソコーラにチャレンジしてみました。
………。
……。
…。
うん…。これは…イケてないね…;
相棒と半分にして飲んでみたんですけど、もう…充分です…(´_ゝ`;
青じそ自体は大好きなんですけど、何て言うんでしょうかねぇ…?
この…何とも言えないガッカリ感は…w
ペプシよ…。
今年のコレは正直言って失敗だったんじゃないかね…?w


何か唐突に思い付いたので、父の日会話SSの親父編を置いておきます。
興味のある方だけどうぞ~。


城「もう帰るのか?」
海「あぁ。明日も仕事だし、子供達もそろそろ帰ってくる時間だしな」
城「もう23時か。ネズミの王国は22時までだから、確かにそろそろ帰ってくるな」
海「貴様もいつまでもそんな格好してないで、さっさと着替えたらどうだ。瀬衣名ちゃんに見られても知らないぞ」
城「はいはーい。ところでお前大丈夫か? ちょっと辛そうだけど」
海「辛そうなのではない。辛いのだ。歳を考えろ…全く。もう若くは無いんだぞ」
城「そう言われればオレもちょっと腰にキテるわ。無理し過ぎたかな」
海「貴様はいつでも全力投球過ぎる」
城「それがオレのいい所じゃん。あ、それで思い出した。お前知ってた?」
海「何をだ?」
城「アイツ等、もうヤッちゃってるんだって」
海「何だとっ!?」
城「あれ? 知らなかったんだ」
海「克人は…そんな事は一言も…。それは…何というか…ウチの愚息が…大変…申し訳無い事を…」
城「何言ってんの? 海馬」
海「いや…。いくらお前の娘とは言え…、まだ十代の娘さんに…」
城「気にすんなよ。アイツ等だってもう子供じゃないんだし」
海「だが…まだ十七歳で…」
城「そんな事言ったらオレ達だって十七でセックスしてたじゃん。それにアイツ等だったらきっと大丈夫だよ。オレ達みたいに間違った道に進む事は絶対にない」
海「自信たっぷりだな」
城「瀬衣名を信じてるからな。お前だって克人君を信じてるだろ?」
海「まぁ…な」
城「でも不思議な話だよな。オレ達は間違った道を選んだからこそ、こうして子供にも恵まれて、人の親としての人生を歩む事も出来ている訳だ」
海「そしてその子供がきっかけで、こうやって正しい道に戻ることも出来た…と」
城「そういう事」
海「城之内…」
城「そんな顔で見詰めるなよな。キスしたくなるじゃんか」
海「したければ…すればいいではないか…」
城「海…馬…」
海「城之内…」

ガチャガチャバターン!

瀬「パパ、ただいまぁー!!」
克「おじゃまします…」

城海「「ギャァーーー!! 帰ってきたぁーーーーー!!」」


父親同士の恋愛というのも、それはそれで大変そうです(´∀`)


長編『奇跡の証明』の番外編『二つの恋の物語』のその1をUPしました。
どこに置くか迷ったのですが、結局『奇跡の証明』の中に置くことにしました。
まだ最後まで書ききっていないのですが、何とかプロットが纏まったので見切り発射です。
以前ほどキッチリと連載とはいきませんが、まぁ番外編なのでゆっくりやっていこうと思っています。
ていうか…。
バクラが主人公になった途端に自由に書けなくなりました…w
バクラ…好きなんだけどなぁ…(´∀`;
この辺りが愛の差なのかな~なんて思ってみたり。


以下は拍手のお返事になります~(・∀・)


>イミフメイ様

こんばんは、こちらではお久しぶりでございます!
拍手とコメント、どうもありがとうございました~(*´д`*)

個人的な返信は、後でメイ様のサイトで直接させて頂きますね~。
『素質』シリーズは本当に恥ずかしいのですが、気に入って下さって嬉しいですw
ドM社長なんて他ではあまり見かけないので心配だったのですが、色々コメントを頂く内にもしかしたら需要があるのかも…なんて思ってみたり。
とりあえず『素質Ⅱ』はメイ様のものなので、持ち帰る余裕があったらいつでも言って下さいませ~!
ZIPは既に用意してございます!!(`・ω・´)
イラストも描いて下さるとか…っ!!
めっちゃ嬉しいです!!(>_<)
メイ様も最近は忙しそうですので、無理なさらずゆっくりと描いて下さいませ。
ドキドキしながらのんびりお待ちしております(*´∀`*)

それでは今日はこれで失礼させて頂きます。
ではまた~(・∀・)ノシ


>Rosebank様

拍手とコメント、どうもありがとうございました~!(´∀`)

『青春真っ盛りな僕ら』と日記の感想をありがとうございました。
とりあえず『性春真っ盛りな僕ら』の当て字にウケましたwww
確かに青春っていうよりは性春だね…これはw

この『僕ら』の城海は本当に普通の高校生らしくて、書く方としても楽しくて仕方無いんです(´―`)
今回は少し微笑ましいギャグも入れてみたのですが、Rosebank様にも気に入って貰えたようで良かったです~。
いや、ホント。自分で書いてて「社長…楽しそうだなぁ…」とか思っていましたw
いつもはキリッとして真面目で格好良い社長も、たまにこんな風に童心に返っちゃったりすると、それはそれで萌えますよね…w
それとAVを見る社長はやっぱり新しかったですか!
確かに私も他所様のサイト等では一度も見たことがありません。
世界的大企業の海馬コーポレーションの社長として妙に大人ぶってはいますが、彼は本当はただの十七歳の男子高校生に過ぎないんですよねぇ。
城之内君ほど大っぴらにはしてなくても、そこはやっぱり男の子として『そういうもの』に興味があっても可笑しくないと思うんですよ。
だって身体は健康体だし、一応ノーマル(な筈)ですしね~。
ただ今回は城之内と二人で鑑賞していたから萌える展開になりましたが、社長が一人でそういうの見てたら…と思うとちょっと引きますw
ていうか、あんま想像出来ませんw
城之内だと容易に想像出来るのになぁ~。
まぁ…彼の場合、そんなの見ている暇があったら仕事しているんでしょうね。
だからこそ余計興味があったと、そういう事で良いのでは無いでしょうか?(´∀`)

それからチャレンジしている痛い話ですけど…。
まだプロット段階なので何も言えないんですよね~。
でもまぁ…ハッピーエンド以外の話を書くつもりは無いので、そこは大丈夫かとw
痛い&暗い話は読むのは大好きなのですが、自分で表現するのは大の苦手なんですよ…。
なのでつい甘くて幸せな話に逃げてしまうのですが、何とかやってみるつもりです。
でも、前ジャンルでは結構書いていたんですよね…、暗くて痛い話w
攻めが受けをカニバってみたりとか…(´∀`;
黒歴史だ…w

それでは今日はこの辺りで失礼致します。
ではまた~(・∀・)ノシ

その1

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 誓いの泉を見詰めるように、一人の青年が佇んでいた。
 無数の水晶の明かりに照らされて煌めく水面を見ながら、バクラはふと洞窟の天井を見上げる。
「そろそろだな」
 何気なく呟くと、地上に繋がっている階段から一人の男が姿を現わす。
 その男はバクラの姿を確認すると、彼らしい明るい笑みを浮かべた。

「よぉ、来たぜ」
「本日もご苦労様です、陛下」

 右手を挙げて挨拶をした克也に笑みを返し、バクラはいつも通りに服を入れる籠を用意し始めた。
 克也が瀬人と、そして瀬人の胎内に宿った子供の為に願いの儀を初めて、早十ヶ月が経とうとしている。
 奇跡の子である瀬人が子供を宿したと聞いた時、バクラの脳裏に浮かんだのは喜びでは無く不安感だった。
 完全な女性体では無い中途半端な身体をしている瀬人が、果たして無事に出産出来るのか…。
 どうしても跡継ぎが生まれるという喜びよりも、その心配ばかりが先だってしまったのである。
 守り人である為、皇宮で安静にしている瀬人に会いに行く事は出来ない。
 だが度々訪れるマナから、皇后の容態は母子共に順調だと聞かされて、お陰で漸く安心する事が出来た。
「皇后サマは…、お元気でいらっしゃいますか?」
 バクラの質問に、服を脱ぎながら克也は嬉しそうに笑って答えた。

「あぁ。お陰様で何の問題も無いよ。アイシスの診断によれば、近い内に出産だそうだ」
「それは楽しみでいらっしゃいますね」
「まぁな。だけど…オレは出産が一番怖い。半分男である瀬人が無事に子供を産めるのかどうか、オレには自信が無いんだ」
「ですから願いの儀を行なっておられるのでしょう?」
「あぁ、そうだ」
「真紅眼の黒龍は決して陛下を裏切りません。三年もの長い間、戦場で貴方様を守られたように…」

 バクラの言葉に克也は頷いた。
 最後の衣服を取り去って、泉に向かい軽く溜息を吐く。

「こうして願いの儀をしているとつくづく思うよ。瀬人はよく三年間もこの儀式をやり届けたもんだ…とな。オレなんかまだ十ヶ月しかやっていないけれど、そろそろ疲れを感じ始めている位だ」
「皇后サマは…素晴らしい御方です。だからオレも願っていますよ。あの方が無事にご出産出来るように…と」
「ありがとう、バクラ」

 振り返ってバクラに優しく微笑みかけ、克也は誓いの泉へと歩き出した。
 その後ろ姿を見守りながら、バクラは自分がした二つの恋を思い出す。
 最初の恋はまだ八歳の頃。
 相手はこの克也だった。


 この誓いの泉の洞窟の脇には、小さな隠し通路がある。
 人が一人通れるくらいの細い通路を数十分歩いて進むと、やがて大きな空洞に辿り着く。
 発光水晶が明るく照らすその空洞は、誓いの泉がある洞窟より更に何倍も広い。
 そしてその空洞に、守り人の一族の集落があった。
 人数は百人前後。地下での暮らしに特化している為、一族は皆白髪に紅い眼をしている。
 不思議な事にこの地は地下でありながら植物が何の問題も無く育つ為、人々は野菜や穀物などを育てながら細々と暮らしていた。
 代々一族の全てが黒龍国の皇家に庇護されている為、その他の食料や衣類等、生活に必要なものは全て皇家が補う事になっている。
 生活するには何も困ることは無い。
 だが、地下で暮らす彼等の寿命は極端に短かった。
 平均寿命は三十歳前後。
 女性も一生の内子供を一人産むのが精一杯。
 ただ真紅眼の黒龍の加護があるからか、不思議な事に集落の人数が百人前後から減った事は今まで一度も無かった。ただし逆に増えた事も無かったが。
 一つだけ例外があるとすれば、皇帝の守り人となった者は真紅眼の黒龍の祝福を受け、通常の人間と同等の寿命を手に入れることが出来た。
 そういう者は皆から『長老』と呼ばれ、黒龍国や守り人の一族の歴史やしきたりを伝える大事な役目を負っていた。
 バクラも小さい頃から長老に守り人の一族について色々聞いていた。
 長老は事ある毎に「我々守り人の一族は、真紅眼の黒龍に祝福された一族なのだ」と話して聞かせた。
 だがその話を聞く度、バクラは不条理だと苛ついてしまう。
 自分達を地下に閉じ込めておいて、何が祝福なのだ…と。
 何故だかは分からないが、自分を含めた守り人の一族は誰一人として、外に出たいという欲求を感じる事が無かった。
 地下で暮らす事に何の不満も無く、狭い空間に閉じ込められる事に何のストレスも感じない。
 それを疑問に思いこそすれ、バクラ自身も地下での生活を快適に感じていた。


 バクラが八歳の頃。ある日、バクラは自分の母親に呼ばれて誓いの泉まで赴く事になった。
 母親は現皇帝の守り人であった。
 突然の呼び出しにブツブツ文句を言いながらも誓いの泉まで行くと、そこには皇帝と、そして自分と同じ年頃の金髪の子供が一人待っていた。
 バクラがやって来たのを見て、母親が優しそうに微笑んで口を開く。

「バクラ、皇帝陛下と皇太子殿下ですよ。ご挨拶なさい」

 母親のその一言でバクラは一瞬で悟ってしまったのである。
 何年後かは分からないが、今の皇帝が死んで目の前のこの子供が新しい皇帝となる時、自分がこいつの守り人となるんだという事を。
 表情を固めてしまったバクラに気付かず、目の前の少年は明るく笑って手を差し出す。

「オレは克也。よろしくな」

 そのまま手を握ろうとしてきたのを、慌てて側に控えていた女官が押し留めた。
「いけません殿下。皇族が守り人の一族に触れることは禁じられております」
 自分の行動を邪魔されて、克也は不満そうに女官の顔を見上げていた。

「なんで? 仲良くなりたいだけなのに」
「それでもいけません。これはしきたりなのです」
「難しいことはわかんないよ…」
「それでもダメなのです。お聞きわけ下さいませ」
「ちぇ…。つまんないの」

 目の前で女官に言い含められる少年を、バクラは黙って見ていた。
 自分と同じ年頃の癖に何だか妙に幼く感じて、それに苛ついていたのかもしれない。
「バクラ…です」
 それだけをむすっと答えて、それきりバクラは口を噤んでしまう。
 だけどそんなバクラの態度にも懲りずに、克也は明るい声で喋り続けた。

「なぁなぁバクラ! 年はいくつなんだ?」
「八歳ですけど」
「八歳! じゃぁオレと同じだな!」
「はぁ…、そうですか」
「なぁ! オレこれからちょくちょくここに来るからさ。一緒に遊んだりしようぜ!」
「触れもしないのにどうやって一緒に遊ぶんですか…」
「触れなくても一緒に喋ったりは出来るじゃん。なぁ…仲良くしようよ~。オレ同じくらいの男友達いなくてさ、寂しいんだよ。マナもアイシスも大事な友達だけど、あいつら女だからさ-。時々オレを仲間はずれにしたりするんだ」

 バクラはその時、克也の提案に対して明確な返事をしなかった。
 だが克也はそれからというもの、何日も何日も地下へ遊びに来ることになる。
 誓いの泉の周りで色んな事を話したり、棒きれで地面に絵や文字を書いたり言葉遊びをしたりと、それは飽きることなくほぼ毎日続けられた。
 同じ年頃の遊び友達がいなかったのはバクラも同じで、時間が経つにつれて克也と共にいる時間が幸せだと感じ始めた。
 だから僅か八歳の子供達が、純粋に遊ぶ事から大人に悪戯をする事を覚え、やがて禁止されている事に興味を持ち出すのはあっという間の事だったのだ。

「なぁ…殿下。外の世界って綺麗なんだろ…?」

 ある日の午後。守り人である母親に聞こえないように、バクラは克也に小さく尋ねた。

「うん。すっげー綺麗だぜ! 空は青くて雲は白くて、木とか草とかは緑で、花は赤いのとか黄色いのとかピンクのとか…とにかく色々あって! あとここと違って、太陽はポカポカで涼しい風が吹くんだ。それが凄く気持ちいいんだ」
「いいな…。オレも一度でいいからそんな世界を見てみたい」
「じゃあ行ってみりゃいいじゃん」
「ダメだよ。禁止されてるもん」
「オレが父上に頼んでみようか?」
「余計にダメだと思うな」
「じゃ…こっそり出てみる?」
「見つかったらきっと怒られるぜ」
「見つかんなかったらいいんだろ?」
「別に…。そこまでして外に出たい訳じゃないよ」

 それは本音だった。
 別に無理してまでして外の世界を見てみたい訳ではなかった。
 ただちょっと興味があっただけ。
 克也が話している色鮮やかな世界を、一度だけ見てみたかっただけなのだ。
 だが克也はそれで良しとはしなかった。

「バクラ。オレもお前に外の世界を見て欲しいんだ。だから今度こっそり外に出てみようぜ?」
「だけど…」
「大丈夫。見つかんなきゃいいんだから。一度だけならいいだろ?」
「うん…まぁ…そうだけど」
「よっしゃ! んじゃ、そういうことで!」


 子供というのは純粋で、そして時折とてつもなく愚かな生き物だ。
 大人が何故外に出る事を禁止しているのか、その意味を深く考えようとはしない。
 そのしきたりは、子供達にとってはただの意地悪にしか感じられなかったのだ。
 バクラと克也の秘密の約束は、翌日に決行された。
 上の神殿の神官が皇帝との会議に出掛けた隙を見て、克也が地下に降りてくる。
 丁度その頃、守り人であるバクラの母親も食事の為に席を外していた。
「バクラ…ッ!」
 地上に上がる階段の影から手招きで呼んでいる克也を見付けて、バクラが小走りで走り出す。
 そこからは小さな子供の足で、一歩一歩地上に向かって歩き始めた。
「なぁ…。本当に大丈夫か?」
 心臓がドキドキする。
 何故かは分からないが、ここから出てはいけないと本能が告げているのが分かった。
 戻れ! 戻れ! 戻れ! と聞こえない声が警告する。
 思わず足を止めたバクラを、先に行く克也が振り返って見た。
「大丈夫だってば。ちょっと外を見るだけだろ?」
 不安がるバクラを安心させるように微笑む。
 その笑みを見てバクラも決心し、止めていた足を再び動かし出した。

 神殿に繋がる扉を開けて、克也に続いて表に出る。
 地下の水晶による明かりとは全く違う、まるで刺すような陽光が神殿の窓から差し込んでいた。
 克也の言うように、確かに明るいと思う。
 だけどそこに感じた言いようのない違和感にも気付いていた。
「ほら、そこでボーッとしてないで、早くこっちに来いよ!」
 神殿の入り口で克也が手を招いて待っている。
 覚束ない足でゆっくりと歩き、神殿の扉を潜って外に出た。
 途端にバクラの紅い目を刺す陽光に一瞬瞼を閉じ、そして恐る恐る目を開いていく。
 そこにあったのは見たことも無い景色。
 広い中庭、高い塔と立派な宮殿。太陽と空と風と植物達。
 だけど最初に感じた違和感を、バクラははっきりと感じ始めていた。
 克也は言った。
 空は青くて雲は白くて木や植物は緑で、花は色とりどりだと。
 だがその色の何一つさえ分からない。
 見上げた空は確かに広くどこまでも続いていたが、その色が青いという事が理解出来なかった。
 空に何かもやもやした物が浮いている。
 それが雲だということが分かったが、空との色の違いが分からない。
 植物は…? 花は…?
 濃淡の違いは分かれど、何が緑で赤なのか、どれが黄色でピンク色なのか、違いを見つけ出すことが出来ない。
「バクラ…?」
 ただ呆然と突っ立っているだけのバクラを、克也も流石に心配になって声をかける。

「どうした、バクラ?」
「わから…ない…」
「バクラ?」
「色が…わからない…」
「え…? それってどういうこと?」
「空の青さってこういう色…? オレには誓いの泉と同じ色に見える。緑は…? 赤は…? 黄色やピンクは…? どれも違う色には見えない。どれも同じに見える…」

 よろよろと中庭の中央まで足を進めた。
 と、突然自分の腕に痛みを感じて立ち止まる。
「………?」
 慌てて剥き出しの自分の腕を見ると、腕が腫れて水ぶくれが出来ているのが確認出来た。
 腕だけではない。
 頬や額や首筋等、布から出て太陽の光に当っている部分が熱くて痛くて仕方が無い。
「な…なんだ…? これ…なんだよ…?」
 心臓がドクンと大きく音を立てて鳴った。
 胸が痛い。視界が霞む。空気が熱くて息が出来ない。
 中庭に流れる風は涼しいなんてものじゃなく、バクラの肌には太陽の熱を吹き付ける熱風に思えた。
 途端に全身の力が抜けて、その場に倒れ込んでしまう。
「バクラッ!?」
 克也が慌てて自分に近寄って来るのが見えた。
「はや…く…、ち…か…」
 早く地下へ戻らないといけない! それだけは本能で理解出来た。
 だがそれを伝える事が出来ない。
 体内に籠もった熱はバクラの意識を朦朧とさせ、荒く呼吸をするのが精一杯だった。
「バクラッ! バクラッ!!」
 克也が泣きそうな声で自分の名前を呼び、そして温かな腕で自分の身体を支えるのを感じる。

 馬鹿だな…お前…。
 オレに触るなよ…。
 禁じられてるのに…。
 あとで怒られても知らねーからな…。

 最後にうっすらとそう思って、バクラは意識を手放した。

バイオハザードは怖くて出来ません...

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変なアレルギーが出来て首が痒い二礼です、こんばんは。

首の横にですね…まるで手で締められた後のような紅い痣が出来てしまったのですよ…。
一瞬誰かの呪いかと思いましたが、そんな事では勿論無いですw
コンビニの制服って殆ど化繊で出来ているんですよね。
それで最近急に熱くなってきて首筋に汗をかいていたところに、化繊で擦れてしまった結果アレルギーが出てこうなったんじゃないかと。
そんなに痒い訳では無いのですが、妙に気持ち悪いです。
鏡で見ると本当に首締められたみたいになってるので…w
カユ…ウマ…。


短編『青春真っ盛りな僕ら』をUPしました。
うん。個人的に『僕ら』の城海は結構気に入っています(´∀`)
男の子の青春って言ったらやっぱりエロビデオだよね~という事で、二人にエロビデオ見せてみましたw
ウチの城海は完全ゲイでは無く、好きになった相手が男だったというパターンなので、こういう風に普通にAV見て興奮したりします。
ところで海馬の女の子の好みってどんなタイプなんでしょうねぇ?
城之内が巨乳好きってのはもう公式でいいとして、意外と貧乳好きだったりしたら、それはそれで萌えると思います。
「巨乳は胸がデカすぎて気持ちが悪い。片手で包み込めるくらいが丁度良い」とか言い出して、反論する城之内君とおっぱい議論とかして欲しいです。
それでその内お互いに興奮してきちゃって、そのままなし崩しにHしちゃえばいいと思います。
乙女海馬は勿論大好物ですが、雄を感じさせる海馬もセクシーでいいですよね~(*´д`*)


以下は拍手レスになります~(*'-')


>赤峰様

拍手とコメント、どうもありがとうございました~!

子連れ城海の詳しいネタは、5月10日と12日の日記を見て頂ければ分かると思います。
この二人は高校時代から暫く付き合っていたんですが、世間の常識に負けて一度別れてしまったんですよねぇ…。
別れてからも互いが互いの事をずっと好きでいて、その結果があの子供の名前なんですよ。
子供達が9歳~10歳くらいの時に再会するんですが、多分お互いに凄く驚いたと思います。
何に驚いたかって…子供の名前にw
同じ事考えて同じように相手の名前から一文字とって子供に名付けているなんて、思いもしませんもんねぇ…w

あと『素質』の感想もありがとうございます~。
SによるMの調教はよく見かけますけど、その逆ってなかなかないよね~という発想の元に生まれたシリーズでした。
あと通常のエロシーンじゃ書けないような際どいプレイを書くのに丁度良いかと思って設定を作った結果が…コレですw
『素質』に関しては本当にお恥ずかしい限りなんですが、何か最近じゃもう色々と吹っ切ってしまったので、多分これからもちょくちょく書いていくと思います(´∀`;
一歩引いた場所から生暖かい目でご覧下さいませw

あと文字化けの件ですが、多分携帯からの書き込みの為に起こった現象だったっぽいですね…。
本文中の文字化けは今回は一つもありませんでした。
ただ未だにお名前の欄が文字化けしておりまして…(´∀`;;;
何でなんだろう?
あ、でも赤峰様だって分かるので大丈夫ですがw

それと赤峰様の携帯サイトも見に行きましたよ~!
ヘルクリのイラストがあって大興奮してしまいました!!
余り他所様じゃ見られないCPなので、凄く嬉しかったです~(*´д`*)
( ゚∀゚)o彡°ヘルクリ! ヘルクリ!

それでは今日はこれで失礼させて頂きます。
ではまた~(・∀・)ノシ


>Rosebank様

拍手とコメント、どうもありがとうございました~!!

『STEP』と日記の感想をありがとでした~(´∀`)
Rosebank様のコメントにも書かれてありましたが、『STEP』はまさしく私の本領発揮する場所として設けてあります。
いやもう…書きやすいったらありゃしませんw
前回のコメントにも書きましたが、今痛い系の話にチャレンジ中なんですよ。
まだプロットを作っている段階なのでどうなるか分かりませんが、『奇跡の証明』の第九話なんて目じゃ無いくらいの痛さです…;
まぁ…所詮私が書くお話なので最後は多分ハッピーエンドになると思いますが、『STEP』はその息抜きの為に書き始めました。
結果として書きやすい『STEP』が先に出来上がってしまった訳ですがw
でもまぁ、余りワンパターンなのも考えものなので、これからも色々チャレンジしていこうと思っています。
そして思うように書けず、乙女海馬の甘々に逃げてしまう訳ですが…w

日記の子連れ城海SSの感想も嬉しかったです!
ありがとうございました~!
子連れ城海はどうしても『おっさん城海を見守っている目線』で書いている為、どうしても子供目線になっちゃうんです。
そうなると以前にRosebank様が仰っていたようオリキャラメインになってしまうんですよね…。
今回のSSがいい例ですが…(´∀`;
なので、敢えてはっきりとした小説にはしないでいこうと思っています。
むしろ目線が第三者的な立場なので、読んで下さる方が瀬衣名に乗り移る形で見て頂ければいいと思いますw
で、瀬衣名がおませな理由ですが…。
そりゃまぁ…ずっと男手一つで育てられてきていますからね。
おませにもなるってもんですよ。
しかもあの城之内の娘ですしw
それにこの年頃の女の子って、男の子よりもずっと色んな事知ってたりしますしね(*'-')
多分父親達の一番の理解者なんじゃないでしょうか?

それでは今日はこの辺りで失礼致します。
ではまた~(・∀・)ノシ

*青春真っ盛りな僕ら

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城之内×海馬。
『アンニュイな僕ら』と『現金な僕ら』の続きになります。
AVを見る海馬に違和感を感じられる方は、直ぐにお戻り下さいませw

 




 梅雨時のこの季節は、空はいつだってどんよりと重かった。
 毎年この時期になると気分が憂鬱になって、仕事も勉強も捗らなくてうんざりする毎日が続いていた。
 だが、どうやら今年は少し様相が変わったようだ。

「城之内、明日の予定は?」
「んぁ-? あぁ、別に何にもないけど」
「そうか。オレもだ」
「お! やっと休み取れたのか! ちなみに明日の天気は?」
「朝から雨予報だぞ」
「マジで!? また休日に雨予報かよ…。たまには外に遊びに行きてーのになぁ」
「仕方無いではないか。どんなに空に愚痴っても天気予報は変わらん」
「ちぇー。なぁ海馬。お前んとこの技術力で天気変えられねーの?」
「いくらオレでもそれは流石に無理だ。諦めて屋内で大人しくしてるんだな」
「そうだな。ま、お前が相手してくれるならそれでいっか」

 この会話はオレ達だけに分かる秘密の暗号だ。
 明日の予定と天気予報を聞き、それに休日と雨が重なれば答えは決まり。イコール城之内がオレの邸に泊りに来るという事だ。
 先日、実に幸せな朝を迎えてから、城之内とは何度か学校でこの会話をした。
 だがオレの仕事や城之内のバイトが重なり、なかなか二人共に空いている日が無かったのだ。
 梅雨時だから雨は毎日のように降る。
 シトシトと静かな冷たい雨の音に、一人ベッドの中で目覚める度に寂しい気持ちを覚えた。
 城之内と一緒に目覚めた朝はあんなにも幸せだったのに…と掛布の中で溜息を吐く。
 そして、その度に城之内の事を思いだした。
 今彼も同じような気持ちで同じように目覚めているのだと思うと、ほんの少しだけ気分が上昇するのを感じるのだ。
 その度に本当に現金だな…とクスリと笑って、気怠い身体に鞭打って起き上がる日々が続いていた。
 明日の天気予報も見事に雨。
 だが久しぶりにオレと城之内の休みが重なったので、明日はあの日以来の幸せな朝を迎える事が出来るだろう。
 オレの自室には城之内がいつ泊まりに来てもいいように着替え等が用意されてあったので、学校が終わった後はそのまま一緒に邸にまで帰る。
 邸に着いた後は二人で食事をしたりゲームをしたりして、至極学生の友人らしい時間を過ごしていた。
 一つ訂正を入れるなら、オレ達の関係は清く正しい友人関係では無く、どちらかというと恋人同士に近い関係なんだがな。
 まぁ…。恋人といってもキスくらいしかしていないが…。
 裸同士で眠ったりはしたが、結局何も無かったし。
 そしてそんなゆったりとした時間を過ごしていたオレ達に、事件は唐突に起こった。

「オレ、ちょっとトイレ行ってくるわ」

 ゲームをしていた城之内が突然立ち上がって、部屋付きのトイレへと歩いて行った。
 その時にどこかに引っかけたのであろう。
 ソファの背に立てかけてあった城之内の学生鞄がゆっくりと傾いていって、そして時間差でドサリと床に転げ落ちたのだ。
 鞄の蓋がきちんと閉まっていなかったらしく、ペンケースやノートや雑誌などが床にバラまかれてしまっている。
「仕方の無い奴だな」
 自他共に認める几帳面な性格のオレは、それをそのままにしておく事が出来ずに慌ててそれらを拾い集める。
 一つ一つ丁寧に拾ってそれを鞄に詰め直そうとしたオレは、鞄の口から斜めに顔を出しているソレに気がついた。
「………?」
 手にとって見てみると、それはどこにでもあるような黒いビデオテープだった。
 ラベル等が貼られていないところを見ると、どうやらコレは何かの番組を録画したか、もしくは他のビデオの映像をダビングしたものだと思われた。
 というか…今時ビデオテープか…。
 世の中にはDVDやブルーレイといった至極便利で綺麗なソフトもあるのだから、いい加減プレイヤーを代えればいいのに。
といっても、オレも城之内の家がそんなに裕福では無い事を知っている。
 今時ビデオなどという旧世代のハードを持っていても仕方の無い事なのかも知れない。
 ふむ。これはアレだな。
 オレのお古だと偽って新しいDVDプレイヤーでもプレゼントしてやるか…と考えていた時だった。

「うぁーっ!! オレのボッキン☆パラダイスーッ!! 何やってんのお前!!」
「ボッキ…ン?」

 必死な形相で慌てて近付いて来た城之内は、オレが手に持っていたビデオテープを引ったくるように奪っていった。
 その慌てっぷりは可笑しかったものの、せっかく親切で鞄の中身を拾ってやっていた事にその対応はあんまりだろうと、オレは少々ムッとしてしまう。

「勝手に人の鞄漁ってんじゃねーよ!」
「オレが貴様の鞄を漁るなど、そんな事する訳がないだろう! 鞄がひっくり返って中身が全部バラまかれたから拾ってやっただけだ」
「へ…? そうなの?」
「当たり前だ! 何だせっかく拾ってやったのに! 人を泥棒扱いしおって!!」
「げっ…! ゴ、ゴメン!! それはオレが悪かった…っ!」
「しかも何だ、貴様の先刻の態度は!! それはそんなにオレに見られたら困るものなのか!!」

 オレの詰問に城之内がビクリと身体を揺らす。
 真っ直ぐに顔を見詰めてやると、そろりと明後日の方向に視線を動かすのが見えた。
 こ…こいつ…っ! このオレに隠し事だと…っ?
 いい度胸だ!
 今だ城之内の手に握られたままだったビデオテープをぶんどって、オレはそのままTVに向かって歩いていった。
 ビデオデッキなど最近はすっかり使わなくなったが、それでも古い記録や資料等を見る時にはどうしても必要だった為、オレの部屋にも未だに備え付けられている。
 TVの下のガラス戸を開け中に収まっていたビデオデッキに先程のテープを押し込むと、オレはおもむろにTVの電源を入れた。
 そしてリモコンを手にして城之内の方に振り返り、ニヤリと笑ってみせる。

「城之内…。貴様がそんなに見られたくないものならば、尚更オレがチェックしなければならないようだな」
「うわっ! ちょっおまっ! 止めて! お願いだから!!」

 どうせ下らない深夜番組か流行のアイドルのライブ映像なのだろうと思っていたオレは、何も考えずに再生ボタンを押した。
 リモコンを奪おうと躍起になっている城之内から、フットワークを活かしてひらりひらりと逃げ続ける。
 ふはは! 手も足もオレの方が長いのだ!! 奪えるものなら奪ってみせろ!!
 悔しそうな顔をして襲ってくる城之内から余裕で逃げつつ、オレは映像が映し出されたTV画面に目を遣った。
 そして数秒後…オレは激しく後悔した。
 録画した深夜番組の映像やアイドルのライブの方がどんなにマシだったか知れない。
 ビデオが完全に巻き戻っていなかったのだろう。
 途中再生されたビデオからは、素っ裸の巨乳の女があられもない声をあげつつ、ベッドの上で身体をくねらせていた…。

「じ…城之内…」
「何でしょう…、海馬君」
「これは…一体…何だ…?」
「えーと…、何だと言われましても…。AV…とでも申しましょうか…」
「そ…そうか…。しかし何故こんなものを…?」
「本田君が貸してくれました…。出ている女優さんが…その…大変オレ好みだという事で…」
「な、なるほどな…」

 互いにリモコンを掴んだ状態で、オレ達は突っ立ったままそんな会話をしていた。
 というか、城之内の言葉遣いが凄く変なのは、突っ込まなければならないところなのだろうか?
 TVの画面からは相変わらず淫らな映像が流れ続けている。
 それから目を離す事が出来ずにじっと見ていると、横にいた城之内がオレの顔を覗き込んでくるのが分かった。

「海馬…? もしかして興味あんの?」
「もしかしてとはどういう意味だ?」
「いや…。何かお前ってさ、こういうのには全く興味無さそうじゃん」
「何か誤解をしているようだがな。オレだって普通の男だぞ。興味が無い訳では無い」

 自分の言っている事に急激に恥ずかしくなった。
 顔が熱くなるのを感じながらちらりと横にいる城之内を見ると、奴も顔を真っ赤にしている。
 見るんだったらとりあえず座って見ようと城之内に手を引かれ、オレ達はソファに並んで座ってAVを鑑賞する事にした。


 何とも妙な状況になってしまった…。
 そのまま黙って見ているのも気恥ずかしくて、オレはその場にあったクッションを膝の上に置いて両手で抱き抱える。
 画面の中ではAV女優が痴態を繰り広げていた。
 茶髪のショートカットに切れ長の目。
 確かにちょっと可愛いと思う。
 ベッドの上で屈強な男に貫かれて大きな胸をゆさゆさと揺らしながら『あんっ! あぁんっ!』と可愛い声を上げてはいるが、だが実際こんな乱暴な抱かれ方をされたら気持ちいいどころの話じゃないと思う。
 そんな事を頭の隅で冷静に分析していたから、オレは自分の身体に異変が起こっているのを大分時間が経ってから漸く気が付いた。
 流石に男性の性的興奮を高める為だけに作られた映像だけあって、このオレでも反応するような要素が至る所に散りばめられているのだ。
(まずい…)
 自分のペニスが勃起しているのを感じ取って、膝の上のクッションをギュッと力を入れて抱き締める。
 いくらAVを見ているからと言って、隣に城之内がいるこの状況で抜く訳にはいかないではないか…っ。
 そう思ってちらりと横を見遣ると、同じようにこっちを見ていた城之内と目が合ってしまった。

「海馬…」
「な…何だ…」
「オレ…ちょっと抜きたいんだけど…」
「勝手に抜けばいいではないか…」
「うん…。でも…お前も抜きたいんじゃないかと…思って…」
「………。まぁ…な」
「じゃぁ…ちょっと…抜きっこしようか…」
「…は?」

 城之内の言っている事が理解出来なくて頭に?マークを浮かべていると、隣に座っていた城之内がもそもそと動いてオレの膝の上からクッションをどけてしまった。
 途端に露わにされてしまった下半身に、顔が一気に熱くなる。

「っ………!」
「あ、やっぱり大きくなってる…」
「見るな…馬鹿…っ!」
「いいから…ちょっとだけ。腰上げてくれる?」

 城之内の手がカチャカチャと音をたててベルトを外し、オレのスラックスに手をかけた。
 奴に言われるままに少し腰を上げると、そのまま膝下まで一気に下げられる。
 持ち上がった下着の先端に既に染みが出来ているのを見て、オレは恥ずかしさの余り顔を背けた。

「恥ずかしい?」
「そ…そんな事を…聞くな…っ」
「男がAV見て興奮するなんて当たり前だし、恥ずかしくも何ともないよ。ほら、オレだってこんなになってる」

 城之内に右手を取られて、それを奴の股間に導かれる。
 制服のズボンの上から触ったそれは、もう硬く勃起していた。
 誘われるようにオレも城之内のベルトを外し、一気にズボンを下げる。
 そしてトランクスの上からそっとソレを撫でると、城之内がピクリと反応したのが目に入ってきた。

「せっかくだから…。下…全部脱いじゃおうぜ」

 城之内の提案にオレはコクリと頷くと、自分のボクサーブリーフに手を掛けてそろそろと下ろし、それをスラックスと一緒にソファの下に放り投げた。
 同じようにズボンとトランクスを脱いだ城之内が、ソファに乗り上げてオレに近付いてくる。
 そして既に先走りの液でぬめっているオレのペニスに手をかけた。

「んっ…!」

 熱い掌でキュッと握られて、それだけで耐え難い快感が走って思わず声を出してしまう。

「可愛い声。もっと聞きたい」
「じょ…の…うち…」
「なぁ。お前もオレの…触ってくれる?」

 熱に浮かされたような城之内の声に黙って頷くと、オレは自分の右手を城之内のペニスに絡みつかせた。
 先程自分がやられたようにクッと握りしめると、目の前の城之内が熱い吐息を漏らす。
 その後はもう、二人共何も言う事は出来なかった。
 ただただ夢中になってお互いのペニスを擦り合う。
 最初は片手だけだったのがいつの間にか両手になって、先走りの液で手をぐっしょり濡らして大きく硬くなるソレを上下に擦った。
 とにかく必死だった。
 相手に与える快感と相手から与えられる快感に息も荒くなり、互いの下半身からはグチョグチョといういやらしい水音が響いてくる。
 TVから流れてくるAV女優の声なんてもう聞こえては来なかった。
 見えるのは快感を耐える城之内の顔だけ。
 聞こえるのは城之内の荒い息づかいと下半身の水音だけ。

「あっ…!!」

 突然二本のペニスを一緒に握られて、オレは驚きと快感の余り甲高い声を上げてしまった。
 今まで感じていた掌の感触だけでなく、ゴリッとした硬い感触と燃えるような熱に身体が震えてしまう。

「手…休めないで。一緒に…」

 城之内に促されて、オレはぐっしょり濡れた両手をもう一度二本のペニスに伸ばす。
 同じように濡れた城之内の手がオレの手を包み込んで、ゆっくりと上下に動き出した。

「うっ…! はぁ…っ! っぁ…あ!」
「うぁ…っ。すっげ…気持ちいい…っ」
「ふぁっ! やっ…ん! じょ…の…ちぃ…っ!」
「海馬…気持ちいい? オレはすっげー気持ちいい…っ」
「気持ち…いい…っ! はぁっ! ぅんっ…! いい…っ!!」

 頭が熱でボーッとしてきて、目元がじわりと熱くなり涙が勝手に零れてしまう。
 余りの快感に手が止まらない。
 どんどんスピードが速くなって、オレは限界を覚え始めていた。

「あっ…! くぅ…っ!!」

 ビクリと大きく身体を揺らしてオレは達してしまう。
 ビクビクと身体を震わす度にオレのペニスからは白濁の液が流れ出て、それが自分の手と城之内の手、そして城之内のペニスを汚していた。

「海馬…っ!!」

 それを間近で見ていた城之内も、オレの名前を呼びながら同じように精液を吐き出した。
 互いに何度も身体を震わせながら精を吐き出す。
 射精しながらもオレと城之内は、互いの精液を最後の一滴まで絞り出すように手をゆるゆると動かしていた。
 やがて熱が通り過ぎ、オレは気怠さを覚えてそのままソファにどさりと倒れ込んでしまう。
 息が苦しくて仕方が無い。
 ハァハァと短く呼吸をしながらチラリと瞼を開けると、近くに置いてあったティッシュボックスからティッシュを抜いて手を拭いている城之内の姿が目に入ってきた。

「海馬…。手…」

 言われて素直に両手を差し出すと、同じようにティッシュで綺麗に拭われる。
 新しいティッシュを数枚抜くと、今度はペニスを拭われた。

「そ…そんな事…しなくていい…っ」
「いいから。黙ってて」

 城之内の言葉に、オレは全てを任せる事にした。
 本来のオレだったら意地でもそんな事はさせなかったと思うが、今のオレは頭の中が霞がかったようにはっきりせず身体もだるかったので、もうそれでいいと思ったのだ。
 やがて全てを綺麗に拭き終わった城之内が、ソファに寝転がったままだったオレにのし掛かってきた。
 そして大きな溜息を吐くと、幸せそうな顔をしてオレの胸に頬を擦りつける。

「はぁ~。もうすっげー幸せなんですけど…。どうしよう」
「どうしようと言われても…。オレとしてはどうする事も出来ないな…」
「クールだなぁ…海馬。お前は? 今幸せじゃないの? 何も感じてない?」
「いや…。幸せだ…と思う」
「だろう? やっぱ好きな人と気持ちのいい事出来るって幸せだよなぁ…。もうあのビデオ見なくていいかも」
「何故だ? 好みの女優だったのだろう?」
「うん。そうだけど。もう実物が手の中にいるからいいの」

 心から幸せそうにそういう城之内の言葉を理解出来なくて、オレは首を傾げてしまう。
 そんなオレに城之内は笑いかけると、「よいしょ」と起き上がってオレの手を引いた。

「さて、そろそろ風呂入って寝ようぜ。明日は雨だしな。この幸せな気分のまま眠れば、きっと明日の朝も幸せなまんまだぜ」

 城之内に手を引かれ立ち上がりながら、オレはTV画面を見た。
 ビデオはとっくに終わっていて砂嵐が流れている。
 リモコンでビデオを止めてTVの電源も切ってしまうと、オレは城之内と共にバスルームへと向かった。
 きっと明日の朝も幸せ一杯だろうと思いながら…。

 



おまけ:湯船の中の僕ら

「ところで城之内。実物がもう手の中にいるって言っていたが…一体何の事だ?」
「鈍いなぁ…お前。あのAV女優が誰かに似てるって思わなかったのか?」
「誰か…? いや…オレに思い当たる人物はいないが…?」
「ホント…鈍いね…」

 城之内の言う事は本当に理解出来ぬな…。

夏至なので微妙にテンションが高い二礼です、こんばんは。

夏至とか冬至とか春分とか秋分とかって、妙にテンション上がりませんか? 上がりませんか。そうですか。
何か一年のチェックポイントのような感じがするんですよね~。
特に夏至は一年で一番日中の時間が長い日って事で、テンション上がりまくりですよw
一番日が長いんですよ!
凄いじゃないですか!
そして明日からどんどん日が短くなっていって、やがて冬になっていく訳です。
そう考えるとちょっと寂しいけど、気温的にはこれからが夏本番だからなぁ…w
暑いのも…苦手だ…orz


ちなみに今日は『父の日』でもあるそうですね。
つー事でまた例のあの設定を持ち出そうと思います。
40歳過ぎ子持ち城海のアレですね(´―`)
興味のある方だけどうぞ~。

海馬克人17歳(父:海馬瀬人(41歳)。母は離婚後会っていない)
城之内瀬衣名17歳(父:城之内克也(41歳)。母は幼い頃に死亡)

※海馬と城之内は高校時代付き合っていましたが、一度別れてその後別々の女性と結婚しています。
子供を通じて中年になってから再会し、再び付き合い出しています。
ちなみに子供同士も付き合っています。(そして父親達が付き合っているのを知っています)


瀬衣名「ねぇねぇ克人、『父の日』のプレゼント、何にするかもう決めた?」
克人 「いや…まだ」
瀬衣名「何にしようかしら? ネクタイとかハンカチとかだとありきたりだと思うし…」
克人 「普通のプレゼントを考えられる時点で、オレよりマシだと思うよ?」
瀬衣名「そうねぇ…。ウチのパパはともかく、海馬のおじさまにプレゼントするのって考えただけでも大変そう」
克人 「ネクタイやハンカチなんて山程持っているし、かと言って金に任せて土地とか車とかプレゼントしても怒られそうだしなぁ…」
瀬衣名「それ…、ご自身はモクバのおじさまの誕生日によくやってたみたいだけど?」
克人 「だからだよ。オレにはそういう事やって欲しくないんだそうだ。もっと庶民的に生きろとか…今更無理だろう。じゃあ見本を見せてくれって言いたくなるよ」
瀬衣名「ベルトとかは? 海馬のおじさまはいつもスーツ着てるから、意外と役に立つんじゃない?」
克人 「今更あのKCベルトを外すと思う?」
瀬衣名「思わない…」
克人 「いい歳して自社マークの入ったベルトってどうなんだろうと思うけど」
瀬衣名「似合ってらっしゃるからいいんじゃない?」
克人 「似合うのがまた問題だよなぁ」
瀬衣名「ねぇ。もう面倒臭いから、ウチのパパと海馬のおじさまのプレゼント、一緒にしちゃわない?」
克人 「いいねそれ。で、どうする?」
瀬衣名「ヒント。ここに某ネズミの国の割引チケットが二枚あります」
克人 「それ…学生割引パスポートじゃないか…。しかもウチのライバル社の遊園地なんて、父さんは絶対行かないと思うけど」
瀬衣名「違うってば。パパ達に行って貰うんじゃなくて、私達が行くのよ」
克人 「…?」
瀬衣名「もう、鈍いわね! 朝から夜まで一日中私達がいなかったら、パパ達はそれだけイチャイチャ出来るでしょう?」
克人 「なるほど…」
瀬衣名「今年の『父の日』のプレゼントは、パパとおじさま二人だけの時間。これでいきましょう! あとはお土産をちょっと買って帰れば充分だと思うわ」

こうして今年の『父の日』は、海馬と城之内は二人っきりで過ごす事になりました。
子供達が遊園地で遊んでいる間に父親達がどう過ごしていたのかは、それは大人の秘密だそうです。


気まぐれにたまにこうしてSS書いていますけど、設定…纏めた方がいいのかなぁ?
いや…でもなぁ…。
半分オリジナルのようなもんだし、そこまでするのもどうかと思うんだよなぁ…。
迷うところです。


長編『STEP』のすてっぷわんをUPしました。
ウチのサイトの社長は最初から『乙女』だと銘打っているんで、「それじゃー思いっきり乙女にしてみようじゃないか!!」とお馬鹿な考えの元、こんなのを書いてみました。
ただでさえいつも乙女なのに…w
これ以上乙女になったらどうなっちゃうんだろう…w
長編と銘打って居ますが、多分不定期連載になると思います。
最初は短編にしようかと思っていたのですが、なんかこの後も次々と書いちゃうような気がするんですよね~w
そうなると短編に置くより最初から長編に置いた方がいいと思って、長編にしちゃいました。
今までの長編連載のように纏めている訳では無いので定期連載は出来ません。
その辺りはご了承下さいませ。


以下は拍手のお返事でございます~!!


>散様

こんばんは~! こちらではお久しぶりでございます~!!
拍手とコメント、どうもありがとうございました~(´∀`)

まさかヘ/ッ/ド/ロ/コ/コ/様に反応頂けるとは思いませんでした…w
いやもう、彼は本当に格好良かったですよね~!!(*´д`*)
ビ/ッ/ク/リ/マ/ンは本当に面白くて、弟と夢中になって見ていました。
初期の頃はメ/ー/プ/ル/タ/ウ/ン/物/語があったせいで15分放送で、その15分がどれだけ貴重だったか…。
メ/ー/プ/ルが終わってビ/ッ/ク/リ/マ/ンが30分に伸びた時は、弟と手を取り合って喜んでいましたw
弟は男だからいいけど、女である私がメ/ー/プ/ル終わって喜ぶのは如何なものかと思いますけどね…(´∀`;

ビ/ッ/ク/リ/マ/ンの事を思いだしたので久しぶりに八神帝を数えてみたのですが…どうにも一人足りないのです。
誰が足りないんだろうか…と一時間近くかかって漸く思い出しました!
照/光/子でした…w
彼は直接旅をせず、ずっと次界への道を照らし続けてくれていたので、印象が薄いんですよね…w
しかも一昨年のリメイク版ではすっかり忘れ去られ、登場すらしていなかったような気がします。
可哀想な照/光/子…。
ちなみにア/リ/バ/バ/神/帝の死亡→ゾンビ化復活のコンボは未だにトラウマです…orz
思い出すと泣けます…(´;ω;`)カワイソウナアリババ…

思いがけず色んな趣味の共通点を見いだしてしまったので、私もかなりテンション上がってしまいましたw
どうぞこれからも宜しくお願い致しますね~♪
では今日はこれで失礼致します!
ではまた~(・∀・)ノシ


>瀬田織也様

こんばんは~! 初めまして~!!
拍手とコメント、どうもありがとうございました~(・∀・)

ウチの小説の城海を大好きだと仰って頂けて、本当に嬉しいです~!!
感想を頂けて大感謝です!!
どうもありがとうございました~!

『素質』は元々「普通に書くのはどうよ?」的な際どいプレイを書く為にシリーズ化したものですが、意図せず『真実の証明』の城海もシリーズになっちゃっていますねぇ…(´∀`;
女体化が好きなのでついついにょた海馬を書いてしまうんですけど、そうなるとやっぱり『真実の証明』の設定を持ってきちゃうんです。
最初はこんなににょた海馬を書くつもりは無かったんですけどねぇ…。
最近は作品が増えて来ちゃって自分でも「どうしよう…」とか思っている始末なんですw
18禁記号とは別ににょた記号も付けるべきでしょうかね…やっぱり(´∀`;

多分この二つはこれからもちょくちょく書いていくと思います。
他にも色々書いていこうと思っていますので、お暇な時にでも覗きに来て下さいませ~。
暑いのは苦手ですが、これからも頑張っていきます!
励ましのお言葉、どうもありがとでした~(*´∀`*)
それではこれで失礼致します。
ではでは~(・∀・)ノシ


>Rosebank様

拍手とコメント、いつもありがとうございます~(*´д`*)

『June bride』と日記の感想をどうもありがとでした~!
今回は本当に凄かったですねぇ…w
Rosebank様には二礼の頭の中は筒抜けのようです。
参りました…(´∀`;

城之内の格好良さについてコメントがありましたが、私も『真実の証明』系列の城之内にはなるべく男らしく格好良く見えるように書いている部分があります。
他の小説の城之内もそういう風に書いてはいるのですが、『真実の証明』系列の場合海馬が女性ですからね。
通常海馬より若干弱くなっている部分がありますので、それをフォローする為にも城之内の過剰な程の格好良さは必要だと思っています。
そう言えば同じ立場で性別が違う『勇気の証明』の海馬はと言うと…。
彼は本当に可哀想な過去を背負っていますけど、にょた海馬のように妊娠を気にしなければならない事は一切ありませんからねぇ…。
今回のにょた海馬のように社会的地位と個人的立場の板挟みになる事もありません。
その辺りは勇気海馬の方がいいのかなぁ。
でも大人になって普通に結婚したら、妊娠しようが子供を産もうが別に何も言われなくなりますからね。
そう考えるとやっぱりにょた海馬の方が恵まれているのかもしれませんね(*'-')
まぁ、私はどの海馬にも幸せ一杯になって欲しい訳ですが(*´∀`*)
でも実は今ちょっと色々と模索中で、痛い話とかにもチャレンジ中です。
自分が苦手とする表現は本当に難しいですが、これからも色々と頑張っていこうと思っています~!

それでは今日はこの辺りで失礼致します。
ではまた~(・∀・)ノシ

すてっぷわん

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 同じ男である城之内にあり得ない気持ちを抱いてしまってから数ヶ月。
 そして遂にその気持ちを我慢出来なくなってしまって、思い切って城之内に告白してから約一ヶ月。
 オレ達は『一応』恋人同士という事になっているらしい。
 らしい…というのは、これが所謂一つの『お試し期間』というヤツだからだ。
 今から一ヶ月前の事。
 テストで赤点を取った城之内と出席日数が足りないオレは、揃って放課後の教室で補習を受けていた。
 補習と言ってもそこに教師はおらず、ただ課題として出された数枚のプリントを片付けるだけなのだったが。
 当然の如くさっさと終了させてしまって帰り支度をしているオレに、まだ一枚目のプリントも埋められずに苦しんでいた城之内が助けを求めて来るのは、必然と言えば必然だったのかもしれない。
 内心で密かに想いを抱いている相手から「頼む! この通り!」と手を合わせられれば、いくら非情なオレでも手を貸さずにはいられないではないか。
 そんな訳でプリントの回答を殆どオレの手解きで埋める事が出来た城之内は、「サンキュー! 助かったぜ-!!」等と叫びながらオレに抱きついてきた。
 無論、城之内のその行動に深い意味は無い。
 多分他の友人達に普段やっているような事を、無意識にオレにもやってしまっただけなのだ。
 だが、城之内に恋心を抱いているオレがそれを全く気にせずに受け流すことなど、果たして出来たのであろうか。
 いや、出来ない。というか…出来なかった。
 ちょっとしたパニックになってしまったオレは、そのままいらん事をベラベラと喋りまくり、結果として城之内に自分の想いを打ち明けてしまったのだ。
 オレの告白を聞いた城之内は、目を丸くして長時間固まってしまっていた。
 そりゃそうだろう…。
 いきなり同じ男から、しかもつい最近まで会えば触れれば喧嘩ばかりしていた相手からそんな事を告げられれば、オレだって固まってしまうに違いない。
 数分後に正常な意識を取り戻した城之内は、腕を組んで「う~ん」と考え込んでいた。
 別にいい返事を貰えることを期待していた訳ではない。
 むしろ振られるのを前提とした告白であった。
 こんな気持ちを抱えたまま悶々と毎日を過ごさなければならないくらいだったら、さっさと振られてスッキリしたいという気持ちだったのだ。
 だけど城之内はオレの意に反して、暫く考え込んだ後こう言ったのだ。

「分かった。じゃ、恋人として付き合ってみようか?」

 その返答に今度はオレが驚いた。
 まさかそんな都合の良い返事が返ってくるとは思わなかったのだ。

「貴様…、本気か…?」
「うん。本気」
「恋人って…、相手はこのオレだぞ? 嫌では無かったのか?」
「それが別に嫌じゃなかったんだよねー。あんなに喧嘩とかしてたのに不思議なんだけどさ。色々考えたんだけど、お前と恋人同士になる事に何の不快感も不都合も無いというか何というか…。むしろそれが自然なような気がしたんだよね」

 唖然としたオレに城之内はそう言い聞かせ、結局その場の雰囲気でオレ達は付き合うことになった。
 それ以来オレ達は恋人同士として過ごしている筈なのだが…、どうにもオレはそれがただの『お試し期間』にしか感じられないのだ。
 この『お試し期間』というのは、別に城之内がそう言った訳ではない。
 オレが勝手にそう思っているだけなのだ。
 だけど、そう思ってしまうのも仕方無いじゃないか。
 一ヶ月間恋人として過ごして来て、オレ達の間に少しでも変化があったのかと尋ねられれば、はっきり「無い!」と断言出来るであろう。
 仕事が忙しくない日はたまに途中まで一緒に帰ったりはしたが、変化と言えばそれくらいなものだ。
 果たしてこれは恋人同士と言えるのだろうか?
 恋人っていうのはもっと…、そう例えば抱き締め合ったりキスをしたり愛を語ったりするものなんじゃないのか?
 相手を好きだという告白も結局あの日以来していないし、城之内から同等の言葉を貰った事もない。
 キスなんてとんでも無い事で、、抱き締め合う事はおろか手を握った事すら無い。
 元々オレに何て興味も何も無かった城之内が、嫌だと感じなかっただけで不自然に恋人という位置に納まってしまったのだ。
 そんな状態でオレとの間に何かが起こる事など、最初からある筈無かったのだ。
 一ヶ月かかって漸くそこまで答えを導き出す事が出来て、オレは深く深く息を吐いた。
 この不自然な状況は早々に打破しなければならない。
 例えそれで城之内との関係が元に戻ってしまうとも。
 長引かせれば長引かせるだけ自分の傷が大きくなる事に、オレはもう疾うに気付いていた。
 まだ一ヶ月しか経っていない。
 終わらせるなら今だ…と決意せざるを得なかった。


 そして今日、オレと城之内は再び教室に二人で残っていた。
 城之内は今日の英語の小テストで赤点を取った為、そしてオレは何時もの通りに出席日数の補助の為。
 まるで一ヶ月前に戻ったかのような同じシチュエーションに、オレは少なからず緊張してしまう。
 このままこの時間を過ごしたいと思ってしまう。
 例えこの先何も進展が無くても、今のままで過ごせるならそれはそれでいいんじゃないかと。
 だがオレは、自らの考えに首を振って否定した。
 こんな不自然な状態がいつまでも続くとは思えない。
 終わらせるなら早めの方が良い。
 そう…、出来れば今日中に。
 放課後の教室に城之内と二人っきりのこの状態は、別れるにはまさに打って付けの状況じゃないか。
 さっさと自分の分のプリントを終わらせてしまったオレは、あの時と同じように城之内に問題を教えていた。
 このプリントが終わったら、城之内に別れを言い出そう。
 きっぱりと「恋人を止める」と言えば、城之内だってきっと安心する。
 本当はもっと側にいたかった。
 側に居て、もっと城之内の体温を感じていたかった。
 手を握って欲しかった。抱き締めて欲しかった。キスを…して欲しかった。
 だがそれは夢に過ぎず、今日オレは自らの手でその夢を放棄する。

「海馬…?」

 突然訝しげに名前を呼ばれて、オレは顔を上げる。
 目の前の城之内が驚いた顔でこちらを見ていた。というより、その城之内の顔もぶれて見えて、オレは何事かと首を捻る。
 首を傾げたその拍子に目の前の机の上にポタリと水滴が落ちてくる。
 水? 何だこの水は? まさか雨漏りでもしているのか?
 ちらりと窓の外を見遣ったが、雨は降っていなかった。

「海馬。お前…気付いていないのか?」
「何をだ?」

 城之内が何を言っているのか理解出来ずパチパチと瞬きを繰り返すと、また水滴がどこからかパタリパタリと落ちてくる。
 そんなオレに城之内は苦笑すると、すっ…とその大きな手をオレの顔に伸ばしてきた。
 そして目尻を優しく拭われる。

「泣いてんじゃん…。どうしたの? 何かあったのか?」

 思いがけない事を言われて城之内の指先を見ると、そこが濡れているのを見て取って、オレは漸く自分が泣いている事に気がついた。
 慌てて掌で涙を拭いながら、オレは城之内から顔を背ける。
 こんなみっともない顔を、大好きな城之内に見られたくはなかった。

「海馬…、どうしたんだ…?」

 心配そうな顔で尋ねてくる城之内に、オレは顔を向ける事が出来なかった。
 だがこれはまたとないチャンスではないのか?
 嗚咽で震える喉を何とか押さえ込んで、オレは一言一言ゆっくりと言葉を吐き出した。

「城之内…。オレ達は…恋人同士なのか?」
「なのか…って…。一ヶ月前にお前が告ってから付き合うって決めたんだから、恋人だろ?」
「果たして本当にそうなのだろうか…。オレにはどうしてもそうは思えない」
「海馬、今日は本当にどうしたんだ」
「だってお前はオレの事なんか好きでも何でもないじゃないか…っ! 恋人になったって以前と何も変わらない…っ! こんな事なら前の関係に戻った方が良いではないか…っ! 最初から…何も無かった方が…マシだった…っ!!」

 オレの叫びに城之内はキョトンとしていた。
 こんなに分かりやすく言っているのに何も分かっていないのか。
 もともと頭の悪い奴だとは思っていたが、その理解力の無さにはいい加減苛ついてしまう。
 自分の感情が悲しみを通り越して怒りになっていくのを嫌と言うほど感じていたが、それでも目の前の城之内は表情を一切変えなかった。
 それどころか間抜けな声で「海馬…。お前、何言ってるの?」と聞いてきたのだ。

「何言ってるって…っ。だからオレは別れ話をしているのだ!」
「別れるって…何でよ? オレの事嫌いになったの?」
「オ…オレは嫌いにはなっていないが…。だがお前がオレの事なんか好きでも何でもないだろう?」
「好きだよ」
「………。は…?」
「だから好きだよ。海馬の事ちゃんと好きだって思ってる」

 城之内の言葉に今度はこちらがキョトンとする番だった。
 驚きの余りいつの間にか涙まで止まっている。
 オレの事を好きだって…、コイツは一体何を言っているんだ。
 この一ヶ月間、一度だってそんな素振りを見せた事など無かったではないか。
 そう伝えると、城之内は申し訳無さそうに頭を下げた。

「ゴメン…。実は最初の頃はお前の事好きかどうかってのが…よく分かってなかったんだ。でも告白されて嫌じゃなかったのは本当だし、むしろ嬉しいって思ってた。だから最初はプラトニックな付合いをして、後からお前の気持ちに追いつけばいいって…勝手に思ってたんだ。ゴメンな、本当に…。オレ…狡かったよな…」

 そこまで言って、涙に濡れて震える俺の手を城之内が握ってくる。
 体温が余りに熱くて思わずビクッとしてしまったけど、その感触が気持ち良くて振り払う気にはなれなかった。
ギュッと力を入れて握りしめられて、真摯な瞳で見つめられる。
 琥珀の瞳が…綺麗だと思った。

「この一ヶ月間、ずっとお前と恋人として付き合ってきて、自分の気持ちがどんどん変わるのに気付いたんだ。気が付いたらもの凄く好きになっていた。一ヶ月かかって漸くお前の気持ちに追いついて…。だから今日はこの後、その事をお前に伝えようと思っていたんだよ。でも、お前があんな事言い出して…」

 城之内は真剣な光を称えた琥珀の瞳をスッと細める。
 そして悲しそうな表情でオレの事を見詰めていた。

「なぁ…。もう…ダメなのか? オレ、遅かったのかな? そりゃ一ヶ月もの間、何のリアクションも起こさなければお前が呆れちまうのも仕方無いと思うけど…。でも、もう一度だけチャンス…くれないかな?」
「チャンス…?」
「そう。一ヶ月間待たせたお詫びに、オレ何でもやるよ! お前の為なら何だって出来る! だからやって欲しい事言ってくれ…っ! それでもう一度オレと恋人として付き合ってくれ…っ!!」

 本当に真剣な表情と声色だった。
 熱い掌で痛いほど手を握られて、それが嬉しくてオレはまた涙を流してしまう。
 諦め掛けていた恋がまだ終わってなかった事に、心の底から感謝した。
 無理矢理飲み込んだ涙が喉に引っかかって声が出しにくかったが、それでもオレは何とか言葉を紡ぐ。
 今度こそちゃんと伝えないとダメだと思ったから。

「…め…て…、…スを…て…しい…」
「え? 何…?」
「抱き…締め…て…、キス…を…して…欲しい…」
「キス…していいの…?」

 城之内の問いかけにオレはコクリと頷く。

「好き…だから…っ。キスして…欲しい…っ」

 必死で紡ぎ出した叫びに、城之内が机を避けて握っていた手をグイッと強く引っ張った。
 それに逆らわずにそのまま城之内の胸に飛び込むと、今度は力強くオレの事を抱き締めてくれた。
 夢にまで見た城之内の体温と、抱き締められた事によって包まれる城之内の匂いにオレは夢中になる。
 ギュッと同じように強く抱き締め返したら、肩口でふぅ…と熱い息が吐き出されたのを感じた。

「うん。オレやっぱお前の事大好きだわ…。抱き締めてるだけなのに、今すげードキドキしてる。お前の体温とか匂いとかが、物凄く気持ちがいい…」
「じ…城之内…っ」
「海馬…こっち向いて…」

 そっと身体を離して頬に手を当てられ、城之内が熱っぽい瞳でオレの事を見つめてきた。
 そのままその顔が近付くのをオレは黙って見ることしか出来ない。
 唇が触れる直前になって、城之内が耐えきれないようにふっと笑った。

「海馬。あんまりガン見しないでくれないか? 照れるじゃないか」

 その一言でオレは漸く自分がキスされそうになっているんだと気付くことが出来た。
 慌てて目を閉じると、唇に柔らかい感触が伝わってくる。
 触れるだけの優しいキスに、オレは天にも昇る気持ちになった。
 何度も何度も触れ合わせるだけのキスをして、城之内が離れる気配にそっと目を開けた。
 自分の気持ちと同じように、嬉しそうな顔をしている城之内の姿が目に入ってくる。
 さっきまでキスをしていたオレの唇に指先を当てて、愛しそうに撫でながら城之内は微笑んだ。

「今は…これだけ…。だけどもっとお前の事好きになったら、これ以上の事もしたい。少し時間かかると思うけど…それまで待っててくれるか?」

 城之内の言葉にオレは首を縦に振る。

「あぁ。オレももっとお前を好きになれるように努力する」
「ちょ…っ! 勘弁してくれ。それじゃオレは一生お前に追いつけないじゃないか」
「追いつけなくてもいい…。それで一生オレの事を追いかけてくれれば…それでいい」

 オレの発言に城之内は暫く考えて、次の瞬間に爆笑した。
 失礼だな。そんなに笑う事は無いではないか。
 笑い過ぎて滲む涙を指先で拭いながら、だが城之内はまんざらでも無さそうだった。

「分かった分かった。それじゃぁ、オレとお前はこれから一生の付き合いになるんだな」

 嬉しそうにそう言う城之内にオレも同じように微笑みで返して、もう一度その広い胸に飛び込んだ。
 城之内はそんなオレを黙って受け入れてくれる。
 一ヶ月かかって漸く最初のステップに進むことが出来た。
 次のステップはもう少し先になりそうだが、もう焦る事は無いだろう。
 何せ城之内は一生オレを追いかけてくれるそうだからな。
 愛しい城之内の体臭に包まれながら、オレは初めて心から幸せだと感じていた。

STEPについて

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城之内×海馬で、海馬の一人称。
恋に自信が無い海馬と、恋を覚えたばかりの城之内のお話です。
とことん海馬を乙女にしようという企画なので、乙女海馬が苦手な方はご注意下さいませ~!
ちなみに不定期連載ですので、そんなにしょっちゅうUPは出来ないかと思います。
しかも城海としての進行速度は過去最遅(という日本語は無いけど…w)だと思われます。
それでも宜しい方は、下記の『一歩ずつ…』からどうぞ~(*'-')

前ジャンルは格ゲーものでした

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好きなものはいつまで経っても好きな二礼です、こんばんは。

本棚の整理をしていたら前ジャンルの設定資料集が出てきたので、ついつい読み出したら止まらなくなりました…w
ついでに初期の古い資料集とかも引っ張り出して読んでいたらいつの間にか凄い時間が経っていて、結局整理は終わりませんでした…orz
格好いいよ…S…っ! 可愛いよ…K…っ!(*´д`*)
最近はすっかり格ゲーじゃなくなっちゃったけど、アレはアレで有りだと思います。
成長したKがますます可愛くなっていて、それはそれで萌えたし…w
と、ここまで読んで分かった御方は二礼の同士です(*'-')
まぁそんなに有名なゲームでは無いし(一部では凄く有名でしたが)、分からない御方の方が多いと思います(´―`)

でも人間って、好きになったものは一度忘れてしまっても好きなままなんですよねぇ…。
一昨年…だったかな?
大好きだったアニメがリメイクされて、日曜の朝に放映されていた事がありました。
私が幼い頃に見ていた時も日曜の朝8:30からの放映だったので、物凄く懐かしい思いで毎週見ていました。
「何コレw 超懐かしいwww」とか言いながら面白がって見ていたのですが、後半になって本命キャラが出てきた辺りで涙腺崩壊しました。
アニメ自体はギャグアニメなので本気で感動して落涙とかじゃないんですが、昔好きだったキャラに数十年ぶりに出会えた嬉しさというんですかね?
もう本当にボロボロ泣きながらギャグアニメを見ていました…w
キモチワルイwwwww
それにしたってヘッド○コ●様は、今も昔も本当に麗しいと思います…。
彼について次界に行きたいと本気で思っていた時期が私にもありました…w(恥ずいわ…w)

短編『June bride』の後編をUPしました。
青春の一ページにおけるちょっとしたハプニング…みないなものを目指して書いていたのですが…。
書き終わってみたら何かちょっと違うような気がムンムンします(*'-')
とりあえず半パニックになっている城海と、常に冷静な杏子の温度差が酷いと思いますw
杏子はこういう時でも一人焦らないで、冷静に物事を処理しそうだしねぇ…w
もしあのまま堕ろす堕ろさないの議論が続いていたら、「とりあえず病院に行って妊娠の有無を調べてから結論を出せ」とアドバイスをくれたに違いありません。
頼もしい限りです。


以下は拍手のお返事になります~(´∀`)


>みな様

こんばんは~!
初めまして、二礼しげみと申します(´∀`)
拍手とコメント、どうもありがとうございました~!!

私もヘルクリに関しては、他のどのサイトさんでも見たことはございません…w
オフの方でちらっと見ただけでしょうかねぇ。
あまりにも無いので「だったら自分で書いてやる」と思って書いていたのですが、ウチのヘルクリはメタメタに甘いのでそれもどうかと思いますw
下手をすればマスター達(城之内と海馬)よりもラブラブなような気がします…(´―`;
こんなサイトで宜しかったら、またお暇な時にでも覗いてやって下さいませ~!

それでは失礼致します。
ではでは~(・∀・)ノシ


>Rosebank様

拍手とコメント、どうもありがとうございました~!!

あの…、Rosebank様は…実はエスパーなんじゃないでしょうか…?
昨夜のコメントを読んだ時に後編の展開を余りにズバリと言い当てられていたので、思わず飲んでいたヘルシア(スパークリングレモン味)を吹き出しましたw
相変わらずの推理力の凄さ…。
脱帽でっす!!
ちなみにKC製のゴムには笑いましたwww
多分海馬はそっち方面には手を出さないと思いますけどね(´∀`)

前のコメントでも思ったのですが、Rosebank様はもしかして女性の在り方について理不尽さを感じていらっしゃるのですか?
まぁ私もたまに「不公平だ!」と思う事はありますが、でも女としての特権も色々あるので、やっぱりその辺はどっこいどっこいってところなんでしょう。
例えば精神力や熱に対しての抵抗力は、男性より明らかに女性の方が強いんだそうです。
自分の体内で子供を育んで産むという大仕事をする女性は、男性よりも打たれ強くなければやってられないんでしょうね。
また自分の腹を痛めて子供を産むと言う事は、その子供にかける愛情も父親よりずっと強い筈ですし、その母性本能が引き起こす愛情は他者に対しても強く出てくるんだそうです。(一部例外有りですが)
そういう部分では自分はやっぱり女に生まれて良かったなぁ~と思う訳ですよ。
特に女に生まれていなければ、こういう腐った(w)世界を楽しむことも出来なかった訳ですしね(*´∀`*)
一昔前は男尊女卑の風潮が酷かった(今も残っていますが…)ですが、大昔は逆に女尊男卑だったそうですしね。
体内で子供を作って産み出す女性は、男性にとっては尊敬の対象だったようですよ?
こういう考えを今の男性も持っていればレイプ被害とかも無くなるんでしょうけどねぇ…。
この辺は難しいですね。
とりあえず女性に暴行を働くような男は地獄に落ちればいいと思います!

話は変わりますが、雑誌に投稿ですか…!
確かにRosebank様のコメントは、批評文が素晴らしいと思います!
毎回冷静に分析なさっていて、いつも感情的にコメントや文を書いてしまう私としては羨ましい限りです(*´д`*)
他の方の所にコメントする時も「萌え~! 萌え~!」しか書いてませんからね…w

それでは今日はこの辺りで失礼致します。
ではまた~(・∀・)ノシ


>赤峰様

拍手とコメント、どうもありがとうございました~(´∀`)

素敵かどうかは別として(w)、自分の趣味を理解してくれてるっていうのは確かに楽ですね~。
お互いがお互いの趣味をよく知っているので、その辺には余り立ち入らないようにしているのです。
まぁそんな私も昔は自分が書いた同人とかを見られるのは恥ずかしかったんですが、今ではエロシーンを書いているのを見られても何とも思わなくなってしまいました…。
それはそれでどうかと思いますがw
赤峰様もご自分のサイトを作ってらっしゃるんですね~!
いいですねぇ…(*´∀`*)
やっぱり萌えは自分の中に溜め込まないで、外に発散するべきですよ!
…と、私も自分のサイトを作ってから思いました…w

発想のコメントですが…。
私の場合は発想というか…妄想というか…w
仕事しながらでも頭の中は城海で一杯なので、そこら辺で出てきたネタで気に入ったものをチョイスして小説として纏めて書いているだけです。
ネタが浮かばない時は連想ゲームですね。
今回の話のように、今は六月→六月と言えばジューンブライド→ジューンブライドといえばにょた海馬…みたいな感じでやっています。
下らないネタと仰っておられますが、私のネタも基本下らないですよーw
『素質』なんていい例です(´∀`;

あと、これは少し気になった事なのですが…。
実は赤峰様のコメントが少々文字化けしている部分があるのです。
一昨日のコメントもそうだったのですが、お名前のところや、語尾の記号の辺りが少し化けちゃっているんですよ。
もしかしたら二礼のPCで対応していないフォントのせいかなぁ…とは思いますけどね。
せっかくのコメントで読めない部分が出ちゃうのは勿体無いので、一応ご確認下さいませ~。

それではこれで失礼致します。
ではでは~(・∀・)ノシ


>海鈴様

こんばんは、お久しぶりです~!
拍手とコメント、どうもありがとうございました~!!

はぅぁ…!!!
何て格好いい城海なんだ…っ!!
素敵なイラスト、本当にどうもありがとうございました~!!(*´д`*)ハァハァ
暫く一人で堪能した後、こちらのサイトでもUPさせて頂きますね~v

『奇跡の証明』や『素質』についてのご感想もありがとうございます。
長編のエピが綺麗だと言って下さって、本当に嬉しいです…。
私が長編を書く時に一番悩むのが、やっぱりオープニングとエンディングなんですよ。
今頭の中にある物語を魅せる為には、どういう始まりと終わりがいいのか、いつも苦労して考え出しています。
オープニングは比較的楽で、書き出してしまえば後はどうって事無いんですけどねぇ…。
エンディングは大事な締めですからね。
今までの波乱の物語をピタリとそこで締めるのと、今後の物語の余韻を残す為にどうしても必要になってくる場所なので、何度書いても気が抜けません(´∀`;
まぁ…、この辺りが小説を書く上での醍醐味なのですがw
ちなみに克也と瀬人の子供は、顔は克也似で髪と目の色は瀬人似だといいなぁ…と思っています。
多分バッチリいい漢に育つと思います!
何せ親があの二人だからね…w

あと『素質Ⅳ』ですね。
相変わらずマニアックでスミマセン…;
引かれるのを承知でこれからもマニアック路線で行こうと思っていますので、生暖かい目で見守って頂ければ幸いに思いますw
あ、そうそう。暴走コメント大歓迎ですよ~(´∀`)
読んでいる方としても面白いのでwww

それでは今日はこれで失礼致します。
綺麗で格好いい超素敵なイラスト、本当にどうもありがとうございました~!!(>_<)
ではまた~(・∀・)ノシ

June bride(後編)♀

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 その日の昼頃、海馬は弁当を二人分作って学校に来ていた。
 本当は学校になんて来る気分では無かった。
 だが数日前に今日の昼食を一緒にする事、そしてその為の弁当を自分が作っていく事を約束していた為、仕方無く登校する事にしたのだ。
 約束を破るのは本意ではない。
 元来真面目な性格で約束を破るなどという行為が大嫌いな上に、城之内が自分の手作り弁当をどれだけ楽しみにしているのか、良く知っていたからだ。
 昇降口に入ると丁度四時限目の授業の終了を告げるチャイムが鳴り響く。
 その音を聞きながら海馬は教室に向かうのを止めて、城之内が待って居るであろう屋上に真っ直ぐに向かう事にした。
 屋上に繋がる重い扉を開いて覗き込めば、いつもの場所に座り込んだ城之内がこちらに気付いて笑顔を浮かべた。
 その優しい笑顔に少し癒されて、海馬は彼の元へと近付いて行く。

「よぉ! 遅かったな。午前中いなかったから今日はもう来ないのかと思ったぜ」
「すまない…。少しやる事があったのでな。だが弁当はちゃんと作ってきたぞ」
「やりぃ! 待ってて良かったぜ-。楽しみにしてたんだよなぁ」

 海馬から弁当箱を受け取り嬉しそうに包みを解いている城之内を見て、海馬もその直ぐ脇に座り込んだ。
余程空腹だったのだろう。
 自分用の小さい弁当箱を開く頃には、隣の城之内はもう中身を食べ出してしまっていた。

「今日は朝から体育でさー。あ、この卵焼きうめぇ。しょっぱなから体力使っちまったから腹減ってしょうが無くてさー。ハンバーグ最高! 味付け丁度いい!」

 ムシャムシャと弁当を食べながら今日の出来事を嬉しそうに話す城之内を、海馬は黙って見詰めていた。
こういう城之内を見るのは好きだった。
 彼が嬉しそうにしていると、何故か自分も嬉しい気持ちになれたから。
 だけど今日だけはどうしてもそんな気持ちになる事が出来ない。
 膝の上に置いた自分の弁当は、いくらも中身が減っていなかった。
 やがてそれに気付いた城之内が、ひょいっと海馬の顔を覗き込んでくる。
 そして心配そうに眉を顰めて口を開いた。

「どうした海馬。全然食べてないけど、大丈夫か?」

 その言葉で城之内に無駄に心配をかけさせたのだと知って、海馬は慌てて取り繕うように笑顔を浮かべて首を振った。

「だ…大丈夫だ。少し…食欲が無いだけで…」
「食欲が無いって…。風邪でもひいたのか? 具合悪いなら保健室行くか?」
「そこまでしなくても平気だ。ただ…ちょっと…」

『ただちょっと』。
 そこまで言いかけて、海馬は慌てて自分の口に掌を当てる。
 自分は今何を言おうとした?
 流れに乗って思わず口が滑りそうになった事を、激しく後悔する。
 城之内に心配はかけさせたくない。
 まだ妊娠したんだと確定した訳じゃない。
 無駄な心配をさせて彼を自分のように悩ませたりさせたくない。
 だけど…だけど…。
 自分を心から想っていてくれている城之内の顔を見た瞬間、ここ数日間悩みに悩んで疲弊した己の感情がついに決壊していくのを感じていた。
 瞳の奥がじわっと熱くなり、途端に水滴が溢れて頬を伝っていく。

「っ…! ぅ…ぅっ…!」

 口元に掌を当てたまま海馬はボロボロと泣き出してしまう。
 何とか嗚咽を堪えようとするが、声は掌の隙間から勝手に漏れだしてしまっていた。
 ひっくひっくと泣き続ける海馬に焦った城之内は、慌ててそのしゃっくり上げる細い肩を己の胸に引き寄せて抱き締める。

「な…ななななんだ!? 急にどうしたんだ? どこか痛いのか? 苦しいのか?」

 心配しながら焦ったようにそう声を掛ける城之内に、海馬はただ首を横に振るだけだった。
 原因が分からずただボロボロと泣き続ける海馬に尋常ではない雰囲気を感じて、城之内は抱き締めた海馬の背中をただ撫でる事しか出来ない。
 暫くそのまま背を撫でていると、突然後ろから可愛らしい声が響いてきた。

「ちょっと! 何海馬君泣かしてるのよ! アンタが苛めたんじゃないでしょうね? 城之内!」

 その声に城之内が慌てて振り返るといつの間に屋上に来ていたのか、杏子が仁王立ちになってこちらを睨み付けていた。

「久しぶりに海馬君が来てるっていうからここまで来てみれば…。何でこんな事になってる訳?」
「ご、誤解だ杏子! オレだって今急に泣き出されて、訳が分からないくらいなんだから…っ!」

 その台詞に杏子は暫く疑わしそうに見ていたが、やがて城之内の目に嘘が無い事を見てとって、そのまま海馬へと近付いて来た。
 そして目線を合せる為に膝を付いて海馬の顔を覗き込んだ。

「海馬君。一体どうしたの?」
「真…崎…」

 いつもは澄んだ空のような青い瞳を真っ赤に染めて、海馬は杏子と目を合わせる。
 自分の事を心から心配してくれている恋人と親友に、海馬はもう押し黙っている事が出来なくなっていた。
 この重い問題を自分一人で抱えるのは…最初から無理な話だったのだ。

「っ…。り…が…っ」

 しゃっくり上げながらも、それでも何とか言葉を紡ごうと必死になった。
 言葉にしようとするとまた感情が込み上げてきて新たな涙が溢れてくる。
 それでももう…我慢の限界だった。

「生理…が…、来な…い…んだ…っ!」

 半ば叫ぶように口にした言葉に、恋人と親友がピシリと固まったのが見えた気がした。


 涙は一向に止まる気配を見せず、しゃっくり上げながらそれでも海馬はポツポツと二人に自分の身に起きている事を話していた。
 そして考え得る全ての選択を、自分で選ぶ事は無理な事もしっかりと話した。
 杏子が水で濡らしてきてくれたハンカチを目元に当てながら、全てを話し終えた海馬はふーっと深く息をつく。
 屋上には暫く無言の時間が流れていた。
 誰も何も言う事が出来ない。
 初夏の風が強く吹いて海馬の髪を撫でていく。
 その感触で海馬はふと顔を上げると、城之内に向かって小さく声を発した。

「………すまない…」

 震える声で小さく発せられたその言葉に、城之内は瞳をキッと吊上げて海馬を睨み返す。

「何で謝るんだよ」
「そ…それは…」
「謝るなよ。お前は何も悪く無いじゃんか」
「だけど…」
「共同責任だろう? お前が謝るならオレも謝らなきゃいけない。お前はオレに謝って欲しいのか?」
「嫌だ…っ! そんな事…して欲しくない」
「だろう? それにコレって謝らなきゃいけない事なのか? オレは違うと思う」

 海馬を睨んでいた瞳はいつの間にか柔和に微笑んでいた。
 そしてそのまま海馬の白い手に自分の熱を持った大きな掌を重ねると、ギュッと力を入れて握りしめる。
 まるで城之内の熱が流れ込んでくるような感覚に翻弄されていると、突然グイッと引っ張られて海馬はいつの間にか城之内の胸に抱かれていた。
 優しく抱き締められて何度も頭を撫でられて、そして耳元に決意を込めた言葉が流れ込んでくる。

「海馬。今すぐ結婚しよう」

 その宣言に海馬は慌てて顔を上げて城之内の顔を見詰め、側で見守っていた杏子は「はぁ?」と素っ頓狂な声を出した。
 女性陣二人の意外な反応に、城之内も驚いて目を丸くする。

「え? オレ今何か変な事言ったか?」
「変な事は言ってないけど…。城之内…、アンタまだ十七歳でしょう? 結婚は出来ないわよ」
「ん? 出来るだろ? 日本って確か十六歳で結婚出来るんじゃなかったっけ?」
「それは女の子の方よ。男は十八歳にならないとダメなの。アンタまだ誕生日来てないじゃない」

 杏子の言葉に城之内は一瞬「しまった!」という顔をしてしまう。
 だが次の瞬間には「そんなのは関係無い!」と叫んで気持ちを切り替えてしまった。

「今結婚出来ないのなら、籍を入れるのは誕生日まで待つ事にする。だけど結婚はする! 絶対に!!」

 力を入れて腕の中の海馬を抱き締めながら、城之内は強く強く宣言する。

「オレの子供を堕ろすなんてダメだ! それでお前の身体に傷が付くのはもっとダメだ! 絶対幸せにするから…っ! 命がけでお前の事守るから…っ! だから堕ろすなんて言わないでくれ…っ!! オレの子供の事でそんな風に泣いたりしないでくれ…っ!! 頼むよ、海馬ぁ…っ!!」

 城之内は叫びながらいつの間にか泣いてしまっていた。
 強く抱き締められながら城之内の声が涙声に変わっていくのを海馬は間近で感じ、その事に酷く胸を痛めた。
 彼の涙を止めてあげたくて、海馬もその首に両腕を絡みつかせて強く抱き締め返す。

「泣くな…城之内…っ!」
「泣いてねーよ…っ! 泣いてんのはお前だろうが…っ!」
「今だってしっかり泣いてるじゃないか…、馬鹿が…っ!」
「馬鹿に馬鹿って言う方が馬鹿なんだぜ…っ。知ってるか、この馬鹿…っ!」

 昼休み終了間近の屋上で、十七歳の男女が強く抱き締め合いながらわんわんと声を上げて泣いていた。
 初夏の風がまた強く吹いてくる。
 杏子は見守っていた二人から目を離してそっと空を見上げた。
(アテム…?)
 杏子には強く吹いてくるその風が、何故だか「大丈夫だよ」と言っているような気がしていた。
 そしてもう一度二人に目を遣った時に、海馬が無意識に下腹部を手で覆っている事に気付いてしまう。

「海馬君」

 泣き声が大分治まったのを見て、杏子は海馬に声をかける。

「ねぇ、もしかしたらお腹痛いんじゃない? ちょっとトイレに行ってきたら?」

 杏子の言葉に海馬は顔を上げ、泣き腫らした目でパチパチと瞬きをした。
 手で下腹部を撫でると、確かにそこが重く痛んでいる事に気付く。

「………。ちょ…ちょっと…行ってくる…」

 よろよろと立ち上がり覚束ない足で海馬は屋上を出て行く。
 そして数分後。
 彼女は微妙な表情で屋上に戻ってきた。

「海馬…?」

 心配そうに声をかける城之内に、海馬は引き攣った笑いを浮かべて口を開いた。

「あ…。その…。何というか…」
「海…馬…?」
「少し…その…遅れてただけ…だった…みたいな…」
「えっと…。ま…まさか…。生理…来た…?」
「………。来た…」

 最後にボソリと呟かれたその言葉に、城之内は力を無くしてヘナヘナとその場に座り込んでしまった。
 その姿に慌てて側に近寄ると、海馬は城之内に強く抱きつく。

「すまない! 本当にすまない! オレの早とちりだったみたいだ…っ! いらぬ心配をかけさせて本当にすまなかった…っ!!」

 必死で謝る海馬の身体に、城之内も腕を回して優しく抱き締め深く息を吐き出した。
 そして琥珀の瞳で真っ直ぐ海馬を見詰める。
 その顔は真剣そのものだった。

「城之内…?」

 思わず問いかける海馬に、城之内は真剣な表情を崩さずに真面目な声色で淡々と告げる。

「海馬…。今回は何も無かったからいいけど…。でも、これだけはよく覚えておいてくれ。オレがさっきお前に言った事は全部本音だからな。お前を一生幸せにしたいのも、生涯お前を守り続けたいと思っているのも、オレ達の子供の事で泣いて欲しく無いのも。全部本当の事なんだからな」

 そこまで言って城之内は海馬の細い左手を手に取った。
 そしてその薬指の根元を撫でながら、少し顔を赤くして告げる。

「高校を卒業してオレが立派な社会人になったら、ここに指輪を嵌めて欲しい。オレが買える程度のものだから安物しか買ってあげられないと思うけど…。それでも嵌めて欲しいと思っている。なぁ…ダメか?」

 城之内の言葉が一体何を指し示しているのか、海馬にはよく理解出来た。
 泣き腫らした目を今度は嬉し涙で潤ませて、海馬はくしゃりと笑って答える。

「結婚記念日は今日でいいか? オレはずっとジューンブライドに憧れていたんだ」

 泣き顔で笑い合う恋人同士と、それを少し呆れた顔で見守る親友の間を、また初夏の強い風が吹き抜けていった。
 それはまるで「良かったな」と言っているようだった。

だって歯医者は...怖いじゃない;

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たまに日記のネタが無くて困る二礼です、こんばんは。

ネタが無い時って本当に困りますよねぇ…(´∀`;
仕方無いので最近マイブームのアイスの事でも…。
二礼は酷い知覚過敏なので、棒アイスが食べられません。
ガリガリ君なんてとんでも無いです!!
毎年夏になると出てくる『リッチミルク味』とか凄い気になって仕方無いんですが、食べれば負けるのが確実に分かっているので食べません…。
(歯医者に行けって? と ん で も な い !! 歯医者…苦手なんです…;)
ただスプーンで食べる分には舌の上で溶かしながら食べればいいので大丈夫です。
という訳で、二礼が食べるアイスは大体カップアイスです。
その中で最近『爽』というアイスの『ソーダフロート味』に大ハマリしてしまいましてね。
何て言うかあの安っぽいソーダアイスとシャリシャリバニラの組み合わせが最高に美味しいんですよね~w
蓋を開けると何かグルグルしてるしw
ちなみにMOWの『クリームチーズ味』も美味しかったです(´¬`)
MOWシリーズは本当に外れがないな…。
凄いな…MOW…。

短編『June bride』の前編をUPしました。
今は六月。
六月といったらジューンブライド!
ジューンブライドと言ったらにょた海馬!!
という事で『真実の証明』のにょた海馬と城之内のお話ですね。
幸せそうな題名に反してにょた海馬泣かしちゃってますけど…w
何だか最近短編を書こうと思っても、一回じゃ終わりきらない量になってしまいます。
いや、一回で上げてもいいんですが、微妙に区切りが良いところとかが出てきちゃったりするもんでつい…w


以下は拍手レスになります~(*'-')


>榊弛亞様

こんばんは、お久しぶりです~!(・∀・)
拍手とコメント、どうもありがとうございました~!

お腹一杯になって下さったようで何よりでございましたw
書いた私としても、読んで下さった方がニヤニヤして下さる事が一番のご褒美だと思っています。
『素質』シリーズはこれからもちょくちょく書いていこうと思っていますので、多分今後の展開もその内出てくるかと思われます。
気長にお待ち下さいませ~(´∀`)
(それよりも何よりも、社長がどんどん変態ちっくになっていくのを、書いている本人が一番引いているんですけどね…w)

それではこの辺りで失礼致します。
ではまた~(・∀・)ノシ


>赤峰様

初めまして~!
拍手とコメント、どうもありがとうございました~!!

わーい! 既女仲間ゲットだZE!!
というか旦那さんに腐要素を隠さなきゃいけないのは、それはそれで大変そうですね…;
ウチはもうバレバレなんで、隠す必要が無いんですよw
つーか、結婚前というか…付き合う前から知られていた事実なので、何ともかんとも…(´∀`;;;
むしろこのサイトを作るときに私の後押しをしたのは相棒です。
(「そんなに社長が好きなら自分でサイト作ればいいじゃない」と言われました…w)
まぁ…オタ友がいるだけ恵まれているんでしょうね(*'-')
とは言ってもオタ友は皆独身なので、既女オタ友がいないのもまた寂しいのですw
既女友は既女友で皆一般人なので、そこら辺はどうしても上手くいきませんねぇ…。

それから『奇跡の証明』を気に入って下さってどうもありがとうございました~!!
結構力入れて書いていた作品なので、お褒め頂けると本当に嬉しいです…(*´д`*)
またお暇な時にでも見に来てやって下さいませ~!

それではこれで失礼致します。
ではでは~(・∀・)ノシ


>Rosebank様

拍手とコメント、いつもありがとうございまっす!!(*´д`*)

いやぁ~。
本当に申し訳ありませんでした…(´∀`;ウッカリウッカリ
短編もある程度簡単なプロットは書いてはいるのですが、どうしても印象深いところしか覚えて無かったりするんですよね。
特に『素質』シリーズは総じて濃いので、どうしても自分が一番書きたかったプレイの所に集中しがちになってしまうんですよw
もう大反省です。
とりあえずRosebank様に言われた通りに、『素質』シリーズは全部目を通しておきました。
こうして改めて見てみると…。
ホントに濃い…ですね…(´∀`;;;;;
海馬と城之内がどんどんダメになっていく過程が分かるので、そっちの方でも猛反省ですwww
まぁ昨日の日記でも言いましたが、反省はしますけど止める気はありませんw
ここまで行ったら果てまで行ってやる勢いですよ!!(`・ω・´)

話は変わりますが、Rosebank様は隠れオタだったんですか…っ!!
確かに周りに話を聞いてくれるオタ友がいないのは寂しいですよね…(´・ω・`)
そう思うと私は結構恵まれているのかもしれません。
ていうかコメント…? え? コメント?
いつも的確なコメントを書いて下さるのでコメント慣れしてるのかと思っていましたが…。
えぇっ!?
マ…、マ ジ で す か !? ←驚きの余り素が出ました…w
いや、何て言うか、今改めてありがたいと思いました…。
いつもいつも本当にありがとうございます!!
偉そうだなんてとんでもありません。
Rosebank様のコメントにはいつも助けられてばかりで感謝しているんですよ~(´∀`)
どうぞこれからも宜しくお願い致しますね(*'-')

それでは今日はこの辺りで失礼致します。
ではまた~(・∀・)ノシ

June bride(前編)♀

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城之内×海馬。
『真実の証明』のにょた海馬のお話です。
女体化が苦手な方はご注意下さい~!!
あと今回、結構生々しい表現がありますので、そちらの方でもご注意を…(´∀`;

 




 早朝。まだ目覚ましにセットした時間にはなっていなかったが、海馬はゆっくりと目を覚ました。
 ここ何日か、ずっと気になっている事があって良く眠れない日が続いている。
 睡眠不足の為に重く感じる身体を何とか起こし、海馬はそのままトイレに向かった。
 そして流れる水音と共に、冴えない顔で部屋に戻ってくる。
 そのまま壁に掛かっているカレンダーを見詰めて、深く溜息を吐いた。
(今日も…来ていない…)
 焦る気持ちを落ち着かせようと何度も息を吐き出しながら、その目はカレンダーに刻まれている数字を追っていた。
 カレンダーの日付は、彼女の月経が一週間遅れている事を明確に示している。
 その事がどういう事なのか、女である自分には良く分かっていた。
(やっぱり…あの時…)
 三週間前の事を思い出して、海馬は泣きそうに顔を歪めその場に蹲った。


 今から三週間前。
 恋人である城之内とこの部屋でセックスをした時に事件は起こった。
 何時ものように城之内を受け止め共に達し、昂ぶっていた熱が冷めるのを抱き締め合いながら二人で待っていた。
 やがて体力を回復した城之内が身を起こし、海馬の中から自身を抜き出した時だった。

「あっ! やべぇ…っ!」

 突然の城之内の悲鳴に、海馬も何事かと起き上がる。
 そして足元に座り込んでいる城之内の手元を見詰め、一気に青ざめた。
 城之内の持っているコンドームの先端が、ほんの少しだけ破れていたのだ。

「ゴム…破れてる…」
「そんなものは見れば分かる」
「冷静だな、お前」
「何が冷静なもんか。これでも焦っている。問題なのはその破れたゴムを付けたまま中で出したかどうかなのだが」
「どの時点で破れたかは分かんないけど…。確実に中で出しちゃってます…」

 見事に破れた不良品のコンドームを挟んで、海馬と城之内は暫し無言で見合っていた。
 一見冷静に見えたが、今や海馬の頭の中は大パニック状態になっていた。
 チラリと枕元の電子時計を見遣り、そこに映し出されている日付を確認する。
 婦人体温計で排卵日チェック等をしている訳では無いので正確な日は分からないのだが、間違い無く排卵日前後…つまり危険日である事は明白だった。
 ショックで思わず固まってしまった海馬の肩を、城之内が掴んで揺さぶってくる。

「海馬…っ! とりあえずシャワー! シャワーで中洗ってこい!! 急げば何とかなるかも…っ」

 城之内の言葉に海馬は慌ててベッドを降り、そのままバスルームへと向かった。
 シャワーのコックを捻り、熱いお湯を勢いよく出した。
 そして水圧を強めに設定し、何とか中を洗浄する。

 まさか今日に限って排卵日ドンピシャという事は無いだろう。
 少しゴムが破れただけで、すぐに妊娠という事にはならない筈だ。
 万が一の事があっても、こうやって直ぐに洗っているんだから大丈夫だ。
 大丈夫…、そう…大丈夫だ…。
 きっと大丈夫。
 妊娠なんて事には…ならない…っ。

 長い時間をかけて中を洗浄しながら、海馬は少しでも良い方に考えようと努力する。
 だが言い知れぬ不安感は、どうしても拭い去る事は出来なかった。


 その時はかなり不安に思っていたものの、数日経つと城之内も海馬もすっかりその事は忘れてしまった。
 コンドームの破れ具合がほんの少しだったのと、直ぐにシャワー洗浄したという事実が、二人から不安感を取り去っていた。
 だがその忘れられた筈の不安感が倍増して海馬に戻って来るのは、それから直ぐの事だった。
 生理予定日が過ぎても…彼女に月経が訪れなかったのだ。
 最初は少し遅れているだけだと思っていた。
 だが二日過ぎても、三日過ぎても、海馬の身体に月経は訪れない。
 四日過ぎた辺りで本格的に焦りだした。
 眠る為に自室のベッドに近付く度に、あの日の夜の事を思い出す。
 城之内の焦ったような声、そして少しだけ破れたコンドーム。
 城之内と恋人同士になり何度も愛し合ったそのベッドは、海馬にとっていつの間にか幸せの象徴になっていた。
 だけど今はその幸せなベッドも、焦りと不安と後悔の念しか引き起こさない。
 海馬はそれが凄く悲しかった。


 そしてついに生理予定日から一週間経った今、海馬は今後の自分の身の振り方について真剣に悩む事になった。
 もし本当に妊娠していたら、自分は一体どうするのがベストなのだろうか。
 まず社会的地位での問題だ。
 海馬コーポレーションという大企業の社長という立場で考えるなら、そのまま妊娠を継続して出産するのはNGだ。
 自分は世界的にもKCの女子高生社長として有名になってしまっている。
 クリーンなイメージを保ってきたそれを、『女子高生社長。僅か十七歳で妊娠出産』などというゴシップで貶める訳にはいかない。
 大体これは自分一人の問題では無いのだ。
 社長という肩書きを背負っている以上、会社全体のイメージにも関わってくる大問題だ。
 だが個人の立場で考えた場合、決断は全く違ってくる。
 お腹の中にいるのは、間違いなく城之内の子供だ。
 愛している人の子供をそんな簡単に中絶してしまって良いのかと考えれば、それはそれでNOだった。
 ましてやまだ十代の身体で最初に身籠もった子供を無理に堕ろしたりしてしまえば、その後二度と子供が作れない身体になる可能性も低くは無いのだ。
 城之内と付き合う事になったあの夜。
 コンドームなどいらない、生がいいと我が儘を言った自分に、城之内は優しく微笑んだ。
 そして彼は海馬に『将来結婚して子供が欲しいと思った時は、ちゃんと生でやろうな?』と言ってプロポーズしてくれたのだ。
 それは将来自分と結婚した時に、海馬との間に子供が欲しいという城之内のはっきりとした意思表示でもある。
 その城之内の想いを海馬も痛いほどよく分かっていた。
 ましてや自分だって結婚したら城之内の子供を産みたいと思っているのだ。
 今無理に中絶するという事は、そんな二人の夢を摘み取ってしまいかねない事だった。
 それ以上にせっかく宿ってくれた念願の我が子を殺す行為に他ならない。
 とは言っても、城之内に子供が出来たという事実を告げるのも無理だと思った。
 まだ十七歳の彼にそんな重荷は背負わせたくなかった。
 だからと言って、一人でこんな重い事実を抱えるのも辛過ぎる。

「選べ…無い…。無理だ…。オレには…選べない…っ」

 蹲った膝の上にボタボタと涙が零れ落ちる。
 誰もいない早朝の薄暗い部屋の中、海馬の啜り泣く声だけが静かに響いていた。

この想いを分かち合いたい

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萌えを語り尽くしたい二礼です、こんばんは。

時たまものすご~く、萌えについて他人と熱く語り合いたいと思う事ってありませんか?
二礼にも腐友が何人かいるんですけどね。
ただ残念な事に彼女たちとはハマっているジャンルが全然違うのですよ。
こちらの話は聞いてくれるけど、萌えを共有出来ない訳です。
ちなみに彼女達は、今同じ作品にハマっていて萌えを共有している状態です。
しかも同じキャラにハマっている上に、左右関係も全く同思考だとか…っ!!
う…羨まし過ぎる…っ!!
(そのジャンル自体では茨道だそうですがw)
相棒に愚痴る訳にもいかないしなぁ…w
(相棒は一応オタだが勿論腐では無い。男だし)
じゃぁせめてこの想いを小説に…と思ってガシガシ書いていたら、何か妙に暗くて痛い作品が出来上がりつつあります…(´∀`;
な…何故に…?
しかも短編用に書き出したのに、何か長編コースになってるんですけど?
どういう事なんだ…っ!!
これはプロット練り直して長編として真面目に書けという事なのか? そうなのか!?
当初予定していた長編とは、ネタも方向性も真逆なんだけどなぁ…w


ここから先はチラ裏です。
ニ/コ/ニ/コ/動/画を利用なさっている方なら知っているかもしれませんが、某不/倫騒動に関してのボヤキです。
本当にただ愚痴っているだけなので、興味の無い方は華麗にスルーして下さいませ。
(反転させま~す!)

とりあえず、矢/吹先生頑張って!!
もうそれだけです。
既女として不/倫が許せないのは勿論なのですが、それ以上に娘を自分の保身の為に利用してたっていうのが一番許せません。
何で自分の腹痛めて産んだ娘にそんな事が出来るのか…っ!
世の中には子供が欲しくても諦めなければならない夫婦がどれだけいると思っているんだ…、コンチクショウめ!
久々に最悪な女に出会ったので、一人で怒っていました。
スイマセンでした…orz


短編『素質Ⅳ』の後編をUPしました。
もはや何も言うまい…w
何だか色々と申し訳ない気分になってきました…(´∀`;;;
フヒヒw サーセンwww


以下は拍手のお返事でございます~!


>6月14日の21時台にコメントをして下さった方へ

初めまして!
拍手とコメント、どうもありがとうございます~!
長編終了における労りのお言葉、本当に嬉しかったです(´∀`)
ありがとうございました~!

瀬人に赤ん坊を産ますのは最初から決めていた事なので、そのような反応を頂けると私としても「やったー!」という想いで一杯になりましたw
私は普段小説を書く時には『ハッピーエンドが続く事』を前提として書いているので、多分あの二人は今後も幸せに暮らしたと思います。
『奇跡の証明』は随分長く書いていたので、自分自身でもお気に入りの一品になりました。
UPするのはもう少し先になりそうですが、今少しずつ番外編を書いている状態です。
そちらの方でその後の克也と瀬人の姿を見られるかもしれませんね(*'-')

ちなみに更新日につきましては、以前他の方へのコメントでも書いたんですけどね…。
私は基本ルーズな性格なんですよw
だからキチンと予定を組まないと、逆に放置プレイに走ってしまう可能性があるんですw
なので別に偉い訳ではありませんw
何て言うか、自動ケツ引っぱたき装置みたいな感じでしょうかねぇ?(´・∀・`)

匿名の事で謝られていましたが、拍手を頂けただけでもありがたいので気になさらなくて大丈夫ですよ~!
それではこれで失礼致しますね。
ではでは~(・∀・)ノシ


>Rosebank様

拍手とコメント、どうもありがとうございました~!(・∀・)

『素質Ⅳ』の感想をありがとうございまっす!
ていうか私、謝らないといけませんね…;
Rosebank様にツッコミを頂くまでワタクシ…、『素質』のローターの存在を完璧に忘れておりました…orz
あの話は元々海馬にお漏らしさせたくて書いていたので、ローターはあくまでおまけだったんですよ。
だから妙に印象が薄くてですね…、気付いたら脳内から完全に消え去っておりました…。
「触手はやったけど大人のオモチャはまだったなぁ。よし、やってやろう!」みたいな軽いノリで今回の話を書いたのですが、そうか…ローター…もう使ってたか…w
あ、でも、ほら!
ローターとバイブじゃ大きさ全然違うし。
ローターは如何にも玩具っぽいけど、バイブはアレの形を模していて卑猥差が全然違うし。
そこら辺はやっぱり見た目の印象が全く違うから、如何にドMの海馬君でもビビっちゃうんじゃないかな~なんてね~(´∀`;;;
なんてね~じゃないよね、コレw
完全に言い訳だよね~www
ゴメンナサイ…orz

Rosebank様もコメントで仰っておられましたが、私自身としてもこの『素質』シリーズの二人にはこれから色々やって貰おうと思っています。
その為にわざわざシリーズ化して独立させたのでw
城之内君もどうにか無事に(?)Sに目覚めてくれたようなので、この次に何をさせるか今からwktkしています(´―`)
ちなみにRosebank様の仰る通り、この二人の関係は『純愛』ですよ!
例えドギツイSMプレイをしていても、あくまで純愛なんですw
そこら辺がミソでもあるんですけどね~(*´∀`*)

それでは今日はこの辺りで失礼致します。
ではまた~(・∀・)ノシ

*素質Ⅳ(後編)

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 時既に遅しとはこの事だ。
 出てしまった言葉はもう二度と口の中には戻らない。
 オレは…馬鹿だ…。
 馬鹿だけれど…仕方無いではないか。
 オレは自他共に認めるドMなのだから。
 未知への快感に興味津々になってしまうのは…ドMとして逆らえぬオレの性(さが)なのだ…。
 がっくりと項垂れるオレの姿が見えるように、城之内が面白そうに言う。

『そっか。良かった。それじゃ、そのオモチャをちゃんと舐めて濡らすんだよ。お前の中に入るんだからな』

 城之内の言葉に、オレは恐る恐る手の中に握り込んだバイブを見詰めた。
 MAX時の城之内のモノと比べると、それは一回り程小さかった。
 これだったら…一人でも何とかなるかも…。
 そんな事を思いながら、ゴクリと生唾を飲み込む。
 そしてゆるりと舌を這わせた。
 独特のゴムの味が舌を刺す。
 何だかコンドーム越しに城之内のペニスを舐めているようだ…なんて考えてしまった。
 なるべく唾液を含ませるようにてろてろと舐めていると、電話口から『もうそろそろいい?』という城之内の声が聞こえた。

『ちゃんと濡れた?』
「濡れた…」
『じゃ、後ろに入れてみて。ゆっくりな』

 城之内の指示に従って、オレはそれを自分の後孔に当てた。
 入り口は先程自分で慣らした為に既に綻び、内部のローションとバイブに纏わり付いた自分の唾液でグチュリと濡れた音を立てる。
 力を入れてそっと押し込んでみる。

「うっ…! あぁっ…!」

 途端に感じる肉が引き攣れる痛みと内臓が押される圧迫感。
 いつも城之内のペニスを入れられる際は、全身の力を抜いてなるべく痛みや苦しみを逃しながら受け入れる事が出来ているが、今は自分でバイブを押し込んでいる為それがどうしても上手く出来ない。

「やっ…! 苦し…い…っ」
『大丈夫か、海馬?』
「はぁっ…! んっ…つぅ…っ」
『ちゃんと力抜いて…。ゆっくりでいいから…』
「くぅ…っ! で…できな…っ」
『大丈夫。海馬なら絶対出来るから。ゆっくり…ゆっくり押し込んでごらん』
「あ…うっ…。ひゃぁ…っ」
『全部入ったらオレに教えて』

 痛みを逃しつつ何とか全てを収めきって、オレは電話の向こうの城之内に「入った…」と力無く伝えた。

『入った? 大丈夫? 痛くない?』
「あぁ…。何とか…平気そうだ…」
『良かった。それじゃ箱の中にリモコンも入っていただろ? もう電池入ってるからそのままスイッチを入れてみてごらん。強さは…そうだな中くらいでいいよ』

 城之内の言葉に、オレは恐る恐るバイブが入っていた箱に手を伸ばした。
 中を探ると確かにリモコンが入っている。
 それを取り出してバイブの強さを中くらいに設定し、オレは思い切ってスイッチを入れた。
 途端に唸るような機械音を上げながら体内で振動するそれに、オレは翻弄されてしまう。

「ひっ…! んぁ…っ! やぁぁ…っ!!」

 すっかり敏感になった内壁に走る振動が、静まっていたオレの快感を再び呼び起こす。
 身体中が一気に熱くなって、首筋やこめかみから汗がしたたり落ちた。

『すげ…っ! 音こっちまで聞こえてるぜ』
「いや…っ! んっ…あぁっ!! いやだ…っ!」
『いやじゃないだろ? 気持ちいいだろ? ちゃんと素直にならないと、もっち気持ちのいい事…教えてやらないぜ』

 意地悪な城之内の台詞に、オレは無意識に首を横に振った。
 常に震え続けるバイブは、オレから正常な思考を奪っていく。
 内壁にじわじわとした快感が溜まっていって、その感覚を耐える為にギュッとシーツを強く掴む。

『なぁ、気持ちいいんだろ? ちゃんと素直に答えなって』
「い…い…っ! 気持ち…いい…っ!! だから…もっと…」
『あぁ、分かってるよ。それじゃリモコンのwaveのスイッチも入れてみな』

 快感に震える手で言われた通りにwaveのスイッチもオンにした。

「ひぁぁ…っ!!」

 途端に体内でバイブがグネグネと動き出して、耐え切れずに甲高い悲鳴を上げてしまう。
 動き回るバイブが前立腺を強く刺激してきて、その度に強い快感が全身を駆け巡り、オレの頭はついに理性を放棄した。

「うあぁ…っ! やっ…これ…っ! す…凄い…っ!!」
『凄い? 気持ちいいんだ?』
「あぅ…っ! 気持ち…良過ぎ…る…っ」
『オレのとどっちが気持ちいい? もしかしてそれだけで充分なんじゃないの?』
「ちが…っ、そんなこと…ない…っ! じょ…の…うちのが…いい…っ! じょう…のうち…に挿れて…欲しい…っ!!」
『うん。オレもお前に挿れたいけどさ。今はちょっと無理だから、それで我慢して』

 電話口から聞こえて来る城之内の声も熱く掠れていた。
 自分の体内で暴れているバイブのせいで細かい音は聞こえないが、もしかしたら城之内もオレの喘ぎ声を聞きながら自分で慰めているのかもしれない。
 そう思ったら余計に身体に震えが走った。
 身体の中が熱くて熱くて仕方が無い。
 自分で自分のペニスを擦ればこの熱を解放出来ると分かっているのに、何故かオレはそれをしようとは思わなかった。
 理由は分かっている。
 城之内の許しが無いからだ。
 ただ必死にシーツを掴んで、巡る快感に耐えていくしかない。

「うっ…! あぅ…っ。くふっ…ん! あっあっ…んっ!!」
『海馬…っ! 海馬…っ!』
「あっ…! あぁっ…城之内ぃ…っ!」
『海馬…、バイブのスイッチ…強にして…』
「ふっ…あぅん…っ。っ…いっ…! ひゃぁうっ!!」
『偉いな、海馬。言うこと聞く子は大好きだよ…』
「あぁ…っ! も…もう…っ! もう…っ! 城之内…っ!」

 はっきり言ってもう我慢の限界だった。
 頭の中はもうイク事だけで一杯で、他には何も考えられない。
 その証拠にオレのペニスからは先走りの液が大量に零れ落ちて、ポタポタとシーツに染みを作ってしまっている。

『海馬…。もう…イキたい?』
「イ…イキ…たい…っ!!」
『うん。オレもイキたいから一緒にイこう…。自分の…触っていいよ?』

 城之内の許しを得て、オレは汗ばんだ手を自分のペニスに絡みつかせた。
 零れる先走りの液を塗り付けるように何度か上下に擦っただけで、強烈な射精感が込み上げてくる。
 既にそれに抗うだけの精神力は残されていない。
 オレは身体の欲求に従って、そのまま絶頂への階段を全速力で駆け上がった。

「あっ…! 城之内ぃ…っ! イク…っ!!」

 最後にそれだけを必死に伝えて、オレは全身を硬直させる。
 握り込んだペニスからは大量の精液が吐き出されて自分の手を汚していた。
 全ての欲を出しきって、オレは大きく息を吐く。
 汚れていない方の手で何とかリモコンのスイッチを切って、そのままシーツに倒れ込んだ。
 枕元にある携帯からは何の声も聞こえない。
 荒い息を何とか収めながら注意深く聞いていると、微かに濡れた音が響いていた。
 そして次の瞬間…。

「っ………!」

 城之内の小さな呻き声が聞こえて来る。
 どうやら一拍遅れて城之内も達したようだった。
 電話口からは暫く荒い息が聞こえていたが、やがてふーっと大きく吐き出す吐息の後に城之内がこちらに向かって喋ってきた。

『やっべ…。今の超気持ち良かった…』
「貴様は普通にオナっていただけだろう…?」
『オナるとか言うな。でもいつものとは全然違ったぜ? お前の声聞くと聞かないじゃ天と地ほどの差だな』
「そうか…。良かったな」
『お前は? ちゃんと気持ち良かったのか?』
「あれだけ喘がせておいて何を今更…。最高だった」

 オレの答えに、電話の向こうで城之内が嬉しそうに笑っていた。
 何だか今回は全て城之内のいいようにされてしまっている。
 それが少し悔しくて、ちょっとだけからかってやる事にした。

「どうでもいいが、貴様…。オレを苛めるのが上手くなったんじゃないか? やはりドSの素質があるようだな」

 フフンと笑って城之内の言葉を待つ。
 普段だったら「そんな事ない!」とか「お前の考え過ぎだ!」とか「勘弁して下さい…」とか反論があるのに、今日に限って直ぐに反応が返って来なかった。
 それどころか、クックッ…と押し殺した笑い声が届いてくる。
 何だ? ついにイカレたか? と訝しんでいると、城之内の楽しそうな声が聞こえてきた。

『あぁ、そうかもな。オレも最近になって漸く分かってきたよ。お前苛めると、滅茶苦茶興奮するもんなぁ…』

 楽しそうにしていながら低く落としたその声に、オレは背中にゾクリとした快感が走るのを感じた。
 まずい…。これは本格的にまずい事になってきた…。
 城之内をドSとして目覚めさせる為、逆調教していたのは間違い無くこのオレだが、このまま進めば本格的に抜け出せなくなる可能性が出てきた。
 だが…とオレは自分の考えを即座に否定する。
 だが、それこそがオレが望んでいた結果ではなかったか?
 ドMであるオレをドSである城之内が辱める…。
 ただのSMプレイでは無い。
 恋人であるオレ達の間には、例えただのSMプレイに見えたとしても、そこには必ず愛があるのだ。
 愛のある気持ちの籠もったSMプレイは、どれだけの快感をオレに伝えて来るのだろうか。
 ゾクゾクと背筋を駆け上がる快感を押さえ込む為に、オレは自分の身体を強く抱き締める。
 それこそがまさにオレの理想型。
 ついに本気で愛を交わせる日がやって来たのだ…っ!

「城之内…。早く帰って来い…」

 期待に震える声でそう告げる。
 早く! 早く! 早く!
 一秒でも早く、本能に目覚めたお前に犯して貰いたい。
 そう思うと震えが止まらなかったが、電話口の城之内は至極冷静にオレに語りかけてきた。

『お前がオレに早く帰って来て欲しいのはよく分かったけどさ。とりあえずバイブの後始末はちゃんとやっておけよ?』
「は…? 後始末…だと…?」
『うん、そう。それ一応これからも使う予定だからさ。ちゃんと消毒しといてね』
「消毒…?」
『うん。消毒。ローションが入ってた場所にアルコール消毒液の瓶も入ってるから。中から取りだしたらアルコール液を吹き付けて、一回ちゃんと拭いてからしまっておけよ』

 城之内の言葉にオレは今までとは別の意味でワナワナと身体を震わせた。
 先程まで自分を翻弄していたあのグロテスクな玩具を、自分で消毒して綺麗にしないといけないのか…っ!?
 な…何という辱め…っ!!
 思わず大声で「巫山戯るな!!」と怒鳴ってしまうが、電話の向こうの城之内は全く我に関せずという風に飄々として答えた。

『海馬。もしかして恥ずかしいの?』
「あ…当たり前だ!!」
『じゃ、それでいいじゃん。一種の羞恥プレイだと思えば、お前だって出来るだろ?』

 城之内の台詞にオレの思考は一瞬固まってしまった…が、城之内の言う事にも一理ある。
 これもお前が本能に目覚めた故のプレイだと思えば、オレは何だって出来るのだ。
 オレは城之内に言われた通りに引き出しの中からアルコール液の瓶を取りだして、サイドボードの上にローションと並べるようにして置いた。
 そして自分の後孔に手を伸ばし、今まで銜え込んでいたバイブをゆっくりと引きずり出す。

「んっ…!」

 ズルリとバイブが抜け落ちる感覚に微かに呻いてしまい、その声で電話口の城之内が「お、抜いたんだ?」と反応する。
 携帯電話からは声だけしか聞こえてこないが、その顔がにやついているだろう事は安易に想像出来た。

「貴様…。帰って来たら覚えていろよ…」
『あぁ、全部覚えておいてやるよ。お前が望むなら何でもしてやるさ』
「今の言葉…本当だろうな?」
『勿論です。オレ、海馬君に嘘はつきませんから』

 城之内の言葉にオレはニヤリと微笑んだ。
 クツクツとした笑いが止まらない。
 とりあえず今はこの想いは伝えずにおこう。
 夜も更けて来たのでお互いに「お休み」と声を掛け合って、オレは通話ボタンを切った。
 今はもうウンともスンとも言わなくなった携帯電話を握りしめて、オレは嬉しさの余り声を漏らして笑ってしまう。


 さて、城之内。本当の調教はこれからだ。
 調教と言っても今までのような逆調教じゃないぞ?
 お前がオレを調教して満足させるんだ。
 だから早く帰って来い。
 オレがこんなにもお前の事を待っているんだから…。


 更なる未知への快感を期待しながら、オレは城之内の命令通りにバイブを綺麗に消毒するべく、アルコール瓶に手を伸ばしたのだった。

紫陽花って綺麗な当て字だよね~

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久々に鎌倉散策を楽しんできた二礼です、こんばんは。

紫陽花の季節になったので、鎌倉に行って綺麗な紫陽花を見てきました~!
実家にいた頃は鎌倉のすぐ隣に住んでいたのでよく行っていたのですが、都内に移り住んじゃうとなかなか行く機会が無くってですねぇ…。
本当にこんな風に『花を見に行く』とか『お参りに行く』とか、そういう目的が無いとわざわざ行ったりしない訳ですよ。
なので今日は久しぶりに鎌倉を楽しんで参りました(*'-')
それにしても、鎌倉は今更観光に力を入れだしたのか…?
二礼の知らない内に、何か急に新しいお店やレストランが次々とオープンしていて驚きました。
長谷寺の前にオルゴール館ってw
何でいきなり小樽っぽくしてるのよwww
まぁ…。黙っていても観光客を呼べる時代は終わったという事ですかねぇ…。
客を呼ぶ方もそれなりの努力をしないといけなくなってしまった訳ですね、分かります。
不況って…怖いわぁ…(´_ゝ`;

と、いう事なので。
長谷寺で写してきた紫陽花の写真を少しUPします。
お天気も最高だったし、本当に良い日でした~w
(カンカン照りでも大雨でも、長時間外にいるから辛いのですよ…w 今日は曇りで涼しかったので過ごしやすかったです(´―`))
 

アジサイ(全体図)

額アジサイ(蒼)

西洋アジサイ

額アジサイ (夏祭り)のサムネール画像


短編『素質Ⅳ』の前編をUPしました。
また…やってしまいました…w
回を重ねる毎に海馬の変態ぶりに拍車がかかり、更にそれにつられて城之内もどんどん変態度が増して行ってますね…。
ダメだ…こりゃ…;
なんかもう、このシリーズをやる時は生暖かい目で見守って頂けると助かります(´∀`;;;
反省はしてるけど、止める気はございませんwww


以下は拍手のお返事になります~!


>発芽米子様

拍手とコメント、どうもありがとうございまっす!!

ま、まさか…。
アレを一気に読まれたのですか…っ!?
何か一気に見られると、それはそれで恥ずかしいですね…w
でも感想を頂けて凄く嬉しいです(*´∀`*)
基本的に長編を書くのが好きなので、これだけ長い話を書く時は結構真剣にプロットを練ったり設定を作ったりしているんです。
しかも今回の長編は私が元居た畑(ファンタジー)の設定だったので、執筆中はかなり本気でやっていました。
だから米子様のコメントを見た時、本当に嬉しいと感じました…っ!
二次創作でしかもファンタジーパロなのに、少しでも人様の心を動かす事が出来た事を、心から光栄に思います!!
でも基本はファンタジーパロなので、好き勝手に設定作ったりして結構楽しんで書いていました(´∀`)
あんまり好き放題にやっていたせいで、書いている途中で「これ…読んでくれる人が着いて来られなくなったりしないか…?」と自分で心配した程ですw
それでも何とかここまで辿り着く事が出来たので、番外編もしっかり頑張って完結させたいと思っています!
でも本編が無事に終了した事で脳みそが至極満足してしまったので、暫く短編でも書きながらリフレッシュしてからになると思いますが…w
(プロットは作成済みなんですけどねぇ…w)

それではこれで失礼致しますね。
ではまた~(・∀・)ノシ


>Rosebank様

拍手とコメント、どうもありがとうございました~(´∀`)

『奇跡の証明』の最終話の感想をありがとうございました~!!
途中で「本当にファンタジーパロなんてやって大丈夫なんだろうか?」と不安になったりしましたが、その度にRosebank様のコメントに励まされて何とか最終回にまで辿り着く事が出来ました!
今まで本当にありがとうございました!!
それにしてもこの『奇跡の証明』を連載している間は、Rosebank様の推理に驚かされてばかりでした。
まさか第二話の時点で最終話の予告をされるとは思わなかったもので…w
今だから笑える話ですが、あの時は流石に焦りました(´∀`;
Rosebank様は私の頭の中を全て見透かしているような気がします…www

瀬人が我が子を胸に抱きながら一人で空を見上げるというラストシーンは、最初から私の頭の中に浮かんでいたシーンでした。
Rosebank様の仰る通り敢えて静かなシーンで終わらせたのですが、多分街中はお祭りムードで大変な事になっているでしょうねぇ。
別部屋では克也も祝い酒の飲み過ぎで、ベロンベロンになっていればいいと思いますw
ムードも何もありゃしない(´∀`)
ちなみに母乳は…どうでしょうねぇ…w
まぁ出るんじゃ無いでしょうか?
現実でも、例えAカップに満たない女性でも子供を産めば自然に出てくるらしいので(*'-')
出なかったらRosebank様のコメントにもあったように、乳母でも雇えばいいんだと思いますw

それからオムライスの動画も見させて頂きました~!
す…凄い…っ!!
余りの手際の良さに、モニターの前で(゜д゜)ポカーン…としてしまいました。
そして直後に滅茶苦茶お腹が減ってきました…w
アレ…美味しそう…(´¬`)
包むのが下手でよく卵を破ってしまうので、本当にあんな風に綺麗に巻いてみたいと思いました。

それでは今日はこの辺りで失礼致します。
ではまた~(・∀・)ノシ

*素質Ⅳ(前編)

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城之内×海馬。
海馬の一人称です。
相変わらず変態な海馬と、それに引き摺られてどんどん目覚めていく城之内…。
もうこの二人はダメだ…w

 




 激務に負われていた怒濤の一週間から漸く解放されて、オレはくたくたの身体を抱えて邸に戻ってきた。
 下請け会社のミスでゲーム関連のプログラムにバグが見付かったのだが、何とかある程度の把握は出来たので、後はKCのプログラマー達に任せれば大丈夫だろうと判断して会社を後にしたのだ。
 夕食を勧めるメイドに「会社で軽食を食べてきたから」と断わり、真っ直ぐに自室へと向かう。
 重厚な扉を開けて部屋の中に入っても、そこで待っている人物はいない。
 いつもだったらソファに寝っ転がって雑誌を読んでいたり菓子を食べていたりする奴は、今日に限ってこの童実野町にはいないのだ。
 オレや遊戯程では無いが、今や一流のデュエリストとして名を馳せる城之内は、今日から地方で行なわれているデュエル大会にゲストとして招かれている。
 今この時期、日本列島は我が海馬コーポレーションが主催しているデュエル大会で湧き上がっていた。
 まず地方大会でチャンピオンを選別して、後日童実野町にて行なわれる全国大会で優勝者を決めるというものだ。
 その為今は城之内だけではなく、遊戯も別の地方大会のゲストとして行っている。
 本当だったらオレもどこかの地方大会のゲストとして行きたいと思っていたが、海馬コーポレーションの社長としての業務がある限り、そう簡単に会社を離れる事など出来はしない。
 その事で心ならず落胆していたところに入って来たあのバグ報告だ。
 内心で何十回と舌打ちしながらも、それでもバグを放って置く事は出来ずに黙々と仕事を続けた。
 だがそんなオレの苛々は周囲に確実に伝わっていたのだろう。
 ここ一週間の研究員やプログラマー達の顔色は常に真っ青だった。
 オレの所に報告に来る度に冷や汗ダラダラで、気の弱い奴に限っては言葉がどもって何を言っているか理解出来ない程だった。
 その事がまた更にオレの苛つき度合いに拍車を掛け、そんなオレに周りの人間は戦々恐々とするという悪循環に陥っていたのだ。
 だがそんな最悪な毎日も今日で終わりだ。
 脱いだ背広やネクタイなどをソファの背に掛けると、オレはそのまま風呂に直行する。
 熱いシャワーを浴びながら髪や身体などをしっかりと洗って、そのまま温かい湯が張られている湯船に疲れた身体を沈めた。
 明日は何の予定も無い日曜日。
 湯の心地良さに「ふぅー…」と大きく息を吐き出しながら、明日は久しぶりに自室でゆっくり過ごそうと決める。


 城之内と付き合うようになって、自分一人で過ごす休日というのがめっきり減ってしまった。
 オレがいつも仕事で忙しくしていて、アイツがオレに会いたい時に自由に会えないのが原因の一つなのだが、たまに取れた休日には奴は必ず邸に現れた。
 特に今日のような、明日が休日だと分かっている日の夜には絶対にやって来て、共にベッドに入るというのがオレ達の習慣になっていた。
 風呂から上がってバスローブを羽織り部屋に戻っても、にやけた面で飛びついて抱き締めて来る城之内はいない。
 冷たいミネラルウォーターで喉を潤しながら、オレは静かな自室に違和感を感じていた。
 いつの間にこの部屋には、城之内の存在がこんなに色濃く染みついてしまったのだろうか。
 誰もいない静かな部屋で、一人で考え事をしたり本を読んだりするのがあんなに好きだったのに。
 ソファに寝っ転がられたり、バリバリと煩い音を立てて菓子を食べていたり、下らない雑誌を読んだりしている姿にあんなに苛ついていたのに。
 今は遠い地方にいるアイツの存在を、こんなに恋しいと思っている。

「もう寝るか…。疲れているんだな、きっと」

 壁にかかった時計はまだ十一時過ぎだったが、オレはさっさとベッドに入ってしまう事にした。
 いつ何かしら連絡が入っても良いように、携帯を持って来てサイドボートに置いておく。
 そのままヘッドランプを消そうとした時だった。
 突然目の前の携帯が震えだして、軽快なメール着信音が鳴る。
 慌てて携帯を開くと、そこに示されていたのは城之内の名前だった。

『今電話してもいい?』

 簡潔なメールにオレはすぐさま着信履歴から城之内の名前を呼び出して通話ボタンを押す。
 たった二回のコールの後、向こうは直ぐに電話に出てくれた。

『もしもし? 海馬か? こんな夜中にゴメンな』
「いや、まだ起きていたから大丈夫だ。何の用だ?」
『いや、別に用があった訳じゃないけど。何か声が聞きたくてさ』

 城之内の声に知らず笑みが浮かんだ。
 この一週間、オレが仕事に忙殺されている事をコイツはよく分かっていた。
 本当は地方に出掛ける前にオレに会いたかっただろうに、一通だけ『んじゃ、行ってきます』というメールを送って来ただけで、城之内は電話をしてくる事も無かったのだ。

『仕事どうなった? 大変だったんだろ?』

 オレを心配してくれるその声に妙に安心する。

「いや、もう大丈夫だ。今日でカタが付いたし、明日はゆっくり休もうと思っている」
『そうか、良かったな』
「オレの事はいいとして…、そっちの方はどうなんだ? 今はホテルなんだろ?」
『あぁ、うん。実行委員会が用意してくれたホテルに泊ってる。結構立派なホテルで、オレ本当にこんな場所に泊っちゃっていいのかなぁ?』
「構わない。大会を主催しているKCとしても、ゲストをボロ宿になんかに泊らせる訳にはいかないからな」
『はははっ。確かに。それじゃありがたくお世話になっちゃおうっと』
「大会の方はどうなんだ?」
『うん。この土日でやってる大会なんだけどさ。別に何の問題も無いよ』
「明日は決勝戦だろう? チャンピオンが決まった後はデモ戦とかやるのか?」
『やんねーよ。オレも遊戯も全国大会の特別枠に入ってるんだぜ。こんな所で手の内明かせるかよ』

 身体は仕事で疲れ果てている筈なのに、何故か心が安らいでいく。
 この部屋で城之内の声を聞くという事に、オレは漸く安心していた。

『ところで海馬、オレさ、もう正味十日間程お前に会ってないんだけど』
「そうだな」
『ついでに言うと、もう二週間以上お前とそういう事してないんだけど』
「そ…う…だったか…」
『うん、そう。会いたいな』
「そうだな…。オレも…会いたい」

 携帯を持つ手が微かに震えてしまう。
 この電話を放したくない、切りたくない。
 もっと耳元で囁いて。
 熱を持ったその指で身体に触れて。
 力を入れてオレを抱き締めて。
 忙しさにかまけてすっかり忘れていた熱が突如戻って来て、オレはブルリと身体を震わせた。
 だが今熱が戻ってきても、一体どうすれば良いというのだろう。
 城之内がいないのに。
 深く息を吐き出したのを、電話の向こうの城之内も感じ取ったらしかった。

『海馬…。オレ、お前に触りたいよ』
「あぁ…」
『明日大会が終わっても直ぐには帰れないし、お前も月曜からまた忙しくなるだろ? オレこれ以上待てそうにない』
「分かっている。だが、どうしようもな…」
『だから今するから』

 オレの言葉を遮って放たれた城之内の台詞に、オレは「は?」と間抜けな声を出してしまう。
 今? 今するって…、一体どうしようと言うんだ。
 今オレと城之内は遠く離れた場所にいる筈なのに。

「何を無理な事を…」
『別に無理な事じゃない。海馬はテレフォンセックスって聞いたことあるか?』
「………っ!?」

 城之内の言葉を聞いた瞬間、余りの動揺にオレは携帯を床に落としてしまった。
 ゴトンと音を立てて落ちた携帯から、城之内が何か言っているのが聞こえる。
 慌てて携帯を取り上げて耳に当てた。

『海馬っ!? おーい海馬!! 大丈夫かー!?』
「だ、大丈夫だ…っ」
『何? もしかして動揺しちゃった?』
「多少…」
『テレフォンセックス嫌? 嫌なら止めるけど』

 城之内の言葉にオレは暫し考え込む。
 流石のオレもテレフォンセックスなんて初めてだったし、多少動揺はしてしまったものの、時間が経つと興味がふつふつと沸いてきた。
 あぁ、分かっている。よく分かっているさ。
 所詮オレはドMなんだ。
 自分が性的に辱められて気持ち良くなるんだと分かっているのに、それに逆らう事なんて出来はしない。
 ここ最近の仕事の忙しさですっかり忘れていたが、オレは自分の本性を漸く思い出した。

『で、する?』

 答えを促す城之内の声が聞こえてきて、オレはうっすらと笑みを浮かべてしまう。
 何をされるのか分からない未知の快楽に、身体はすっかりやる気になっていた。

「あぁ…勿論だ」

 興奮する息を整えつつそう答えたら、電話の向こうで同じように興奮している城之内の熱い吐息が聞こえた。


「んっ…。 ん…はぁっ…!」
 城之内に言われた通りに携帯をハンドフリーモードにしたオレは、それを枕元に置いて言われた通りに自分の身体に手を這わせていた。
 バスローブも下着も既に全部脱いで、ベッド下に放り投げてある。
 誰が見ている訳でもないのに、素っ裸で一人こんな事をしているなんて恥ずかしくて仕方なかった。

『指、舐めた?』
「な…舐めた…っ」
『んじゃ、それで自分の乳首撫でてみて? クリクリって円を描くみたいに…』
「っ…、んんっ…」
『爪先で先っちょを引っ掻くようにしてもいいよ』
「ふぁっ…! や…っ」
『気持ちいい?』
「気持ち…い…い…」
『そのまま続けていいよ。硬くなってきたら少し強めに摘んでみて』
「あっ…! うぁっ…んっ!」

 濡れた指で自分の乳首を強く摘んだ途端、全身に電気が走ったみたいな快感が流れ込んできた。
 弄っているのは自分の指なのに、城之内の言葉に従って動かしている為、まるで本当に城之内に触れられているような気分になってくる。
 身体中に熱が籠もって、オレは堪らず自分のペニスに手を伸ばした。

『あ、ダメだったら!』

 まるでそれが見えていたかのように、城之内の制止の声が響き渡る。

『今自分の触ろうとしただろう』
「っ………!」
『何で分かるんだって思ってるな? お前の事なんてオレにはお見通しなんだよ。とにかくまだ触っちゃダメだから』
「やだ…っ! も…辛い…」
『まだ大丈夫だって。ローションは? さっき用意しただろ?』
「した…」
『じゃぁ、それをたっぷり指に付けて、自分で後ろを解してみて』

 城之内の言葉に、オレは震える手でサイドボードの上に置いておいたローションに手を伸ばした。
 先程城之内に言われて、引き出しから出しておいたものだ。
 ふたを開けて中身をトロリと手に出すと、途端に人工的なストロベリーの強い香りが辺りに漂った。
 オレとしては無臭タイプのローションの方が好みだったのだが、つい先日今まで使っていたのが無くなった折りに、城之内が勝手に購入してきたものだった。
 その安っぽい香りはオレとしては気にくわなかったのだが、城之内は気に入ったようで、よく「余計にお前が美味そうに見える」と言っていたのを思い出す。
 冷たいローションを掌でよく暖めてから指先に集めて、それを自分の後孔に持って行く。
 ひくつく後孔に触れた途端、くちゅり…と濡れた音がしてオレは身を竦めた。
 敏感な場所をローションでぬるぬると弄り、その感触に肌を泡立ててしまう。

『無理していきなり指を入れたりしちゃダメだぜ。最初はゆっくり周りを撫でて、ローションを馴染ませるようにやってみて』
「んっ…。っ…ふぅ…」
『どう? 柔らかくなってきた?』

 城之内の言葉に必死にコクコクと頷くが、勿論それが電話向こうの城之内に見える筈も無い。
 少し経って電話の向こうから押し殺した笑い声が聞こえて来た。

『海馬、頷いてるだけじゃこっちには分からないぜ。ちゃんと言葉で教えてくれなきゃ』
「っ…あっ。わ…分かっているなら…もう…いいじゃ…ないか…っ。貴様は…意地悪だ…」
『海馬はそんな意地悪なオレが好きな癖に。で、どうなのよ? ちゃんと柔らかくなったの?』
「くっ…んっ! あっ…。な…なった…っ」

 仕方無く何とか言葉でそれを伝えると、電話の向こうで城之内が満足げに笑った気配がした。
 顔が見えないのに何故だろうか…。
 どういう訳かそう確信した。

『よし。それじゃゆっくり指入れてみて。最初は一本だけね』

 城之内に促されて、オレはローションに塗れた指を一本、自分の身体の中にツプリと押し込んだ。
 まるでそれを待っていたかのように、オレの内壁はオレ自身の指を奥へ奥へと引っ張り込む。
 指が触れている内壁が熱くて肉が柔らかくて、触られている内部も触れている指先も、どっちも最高に気持ちが良かった。
 こんな感触を城之内がいつも楽しんでいるんだと思うと、それだけで興奮してしまう。
 途端に腰がズクリと重くなって身体を支えていられなくなり、オレはベッドの上に俯せで寝転がった。
 ベッドが軋む音が向こうにも聞こえたのだろう。城之内が『大丈夫か?』と尋ねてきた。

「だ…大丈…夫…」
『ん。それじゃもう一本指を入れてみようか』
「ふっ…く…んっ! はぁ…ん…っ!」
『入った?』
「入っ…た…」
『痛くないよな?』
「平気…っ」
『うん。じゃ、ゆっくり掻き混ぜてみて。自分が感じるところは遠慮無く触ったり突いたり押したりしていいからな』

 城之内の言葉に習って、自分の指を中でゆっくりと動かしてみる。
 指を動かす度にクチ…とかヌチ…とか濡れた音が響いて、それがどうにも恥ずかしかった。
 だけどそれを止めようという気にもならず、懸命に中を慣らしていく。
 やがて他の肉とは違う少し硬いしこりの様なものを指先に感じて、思い切って少し力を入れて押してみた。

「うぁっ…あぁ…っ!!」

 途端に脳天まで痺れる強烈な快感に、目の前が真っ白になる。
 我慢出来ずに上げてしまった叫び声に、城之内がクスリと笑う声が聞こえた。

『あーあ、前立腺触っちゃったんだ。そこ、気持ちいいでしょ?』
「ひぁ…! あ…あっ! き…もち…いい…っ!!」
『だよね。そのままそこ触ってイッてもいいけどさ。せっかくだからオレからのプレゼント受け取ってよ』
「プレ…ゼント…?」
『そ。プレゼント。気持ち良くて名残惜しいと思うけど、一回指抜いてみな』

 城之内の言うとおり、この快感を手放すのは非情に名残惜しかった。
 だけどここは素直に城之内の言う事を聞いて指を抜く事にする。
 ゆっくり慎重に指を抜き取ると、温かな体内に入っていた指先はすっかりふやけてシワシワになってしまっていた。
 そう言えばオレの中を慣らした後の城之内の指先はいつもふやけていたな…と思い出して、その原因を知ってしまった事でオレはまた顔に血が昇って来るのを感じていた。
 一人で真っ赤になっているオレに気付いているのかそうでないのか、城之内は淡々とオレに指示を出す。

『サイドボードの一番下の引き出し、開けてみて? 前に来た時にプレゼントを入れておいたんだ』

 言われた通りに身を起こして、サイドボードの一番下の引き出しを開けると、何か見慣れない箱が入っていた。
 ご丁寧に綺麗な包装紙で包まれてリボンまで掛けられているそれを訝しげに見詰める。
 持ち上げてみると少し重かった。

「何だ…これは?」
『いいから。中開けて見て?』

 電話口の城之内の声が非常に楽しそうだ。
 奴がこんな声で話す時は、大抵碌な事じゃ無いんだが…。
 そう思いながらもオレは黙ってリボンを外し、包み紙を解いてゆく。
 そして現れたそのブツに、オレは驚いて何も言えなくなってしまった。

『気に入った? オレからのプレゼント』

 嬉しそうに城之内が言う。
 オレが今手に持っているのは、蛍光ピンクの男性器を模した玩具…。所謂バイブと言われる大人のおもちゃであった。
 カーッと頭の中が一気に熱くなっていく。

「な…何を考えているんだ、貴様!!」
『何をって…。そういう事をだよ』
「そういう事って…っ!」
『何だよ。興味ある癖に。いらないんなら別に捨ててもいいけど?』

 城之内の拗ねたような物言いに、オレはうっ…と言葉に詰まった。
 確かにこういうモノが世の中にあるのは知っていたし、実は興味もあった。
 だが城之内と恋人になって実際に何度もセックスをする内に、玩具なんてどうでもいいかと思うようになっていたのだ。
 だから突然こうして目の前に現物を見せつけられて、それに少なからず動揺してしまう。

『それで? どうするの? 使う? それとも本当に捨てちまう?』

 電話の向こうから聞こえてくる声に、オレはぎこちなく振り返った。
 捨てる? これを? 一度も使わずに?
 そ…そんな…。
 そんな…っ。

「そんな勿体無い事出来る訳なかろう!」

 しまったと思った時には、もう言葉は盛大に口から出てしまっていたのだ…。

蜂蜜大好きです...(´¬`)ジュルリ

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自他共に認めるニコ厨な二礼です、こんばんは。

ニコ厨といっても煙草吸ってる訳じゃありません。
まぁ、ウチのサイトをご覧になって下さる方はとうにご存じかもしれませんが、ニ/コ/ニ/コ/動/画の方のニコでございますw
遊戯王MADは勿論最優先で見ますけれど、他にも色々と見るモノが一杯あるのです。
小説を書く時も裏で『作業用BGM』とかを利用していますし、実は料理タグなんかも馬鹿にならないんですよ。
ちょっとした裏技とかを動画内で教えてくれたりするので、味付けがイマイチ…とかで悩んでたりする時のいい教材になっています(*'-')
あと二礼は動物好きなので、動物タグもよく見ますねぇ…。
特に猫動画は二礼の癒しですw
犬も可愛いけどやっぱり猫でしょう!
個人的には梟動画や雀動画などの鳥系もオススメです。
最近のマイブームはゲーム実況系でしょうかねぇ。
何人かファンになった実況者さんがいますけれど、自分のやったことの無いゲームとかやってくれると、本当にそれが楽しくて病みつきになります。
実況系でハマったゲームを実際に買って、自分でやったりもしてました。

で、取り留めもない話になりましたが、たまには癒し系の動画でもご紹介しようと思います。

『ミ/ツ/バ/チ/っ/て/案/外/ど/ん/く/さ/い/(笑)sm/6/9/1/8/3/8/6』

これを見た時、まさか自分が昆虫に萌える日が来るとは思いもしませんでした…w
昆虫と言っても甲虫とかじゃありません。
題名通りのミツバチさんです(*´д`*)
二礼は基本的に昆虫が大の苦手なのですが、ミツバチさんは別格です!
可愛いよミツバチ可愛いよv
特に西洋ミツバチより日本ミツバチのが可愛いです。
紹介する動画のミツバチは西洋ミツバチですが、それでもやっぱり可愛いですよねぇ…。
たった20秒程の短い動画ですが、癒されたい方はどうぞ(´∀`)


長編『奇跡の証明』の最終話をUPしました。
非常に長く続きましたけれど、これでラストでございます。
ここまで付き合って下さった方々、本当にどうもありがとうございました~!
励ましのお言葉やアドバイスなども何度も頂いて、それが二礼の心の支えになっていました。
大感謝でございます!!
まだちょっと番外編なんぞも書いていますが、本編としてはあくまでこれが最終話になります。
最後にこの場を借りて、メッセージを下さった方々にお礼を申し上げます。
本当にどうもありがとうございました~!!


以下は拍手レスでございます~(*'-')


>Rosebank様

拍手とコメント、どうもありがとうございました~!

『奇跡の証明』の第二十二話の感想をありがとうございます。
肩すかしさせちゃって申し訳ありませんでした(´∀`;
最終話のシーンはどうしても崩したくなかったので、この話はこんな場所に入れざるを得ませんでした…。
自分でも何か微妙に変だとは思いましたが、これ以上に良い場所が無くて結局こんな事に…w
最初は瀬人の夢の前に入れようと思っていたのですが、今見るとこの場所が最良のような気がします。
ともあれ、この『奇跡の証明』に最後までお付合い頂いて、本当にありがとうございました~!!(>_<)
前半では瀬人の辛い心情に同調してしまってRosebank様も辛い思いをなされたようですが、この通り無事ハッピーエンドで終わる事が出来ました。
Rosebank様のコメントにもありましたが、瀬人は最後には本当に強くなりましたね。
克也と瀬人を幸せにする事が最終目標ではありましたが、瀬人自身を強く成長させるのも目標の内の一つでありました。
その事を誇張させる為に、わざと前半では瀬人にメソメソさせていたんですけどね…。
ちょっと可哀想過ぎたかと、今ではちょっとだけ反省していますw
ただRosebank様には、前に比べて瀬人が強くなったという事をちゃんと感じ取って貰えたようで良かったです(*'-')

ちなみにモクバとはアレが永遠の別れという訳じゃ無いと思われます。
瀬人が黒龍国から出ないだけであって、モクバの方から会いに行けば普通に会えますからね。
ただモクバも白龍国法皇という立場上、そんなにしょっちゅう黒龍国に足を運ぶ訳にはいかないのです。
多分会えても一年に一回がいいとこじゃないでしょうかねぇ。
まぁ、普通に手紙のやりとりとかもやっていたでしょうし、彼等の立場上それで充分だったのでは無いでしょうか。

あと、外伝はRosebank様のおっしゃる通りバクラが主人公です。
Rosebank様がコメントでバクラの事を色々推理して下さって、それによって彼の物語もちゃんと書こうと思ったのです。
一応裏設定とかはあったのですが、克也と瀬人の二人の物語には不要な設定ばかりだったので、一時はゴミ箱行きになりかけました。
けれどもRosebank様のコメントのお陰で、その設定は再びファイル内に戻される事になりました。
その事について、心からお礼申し上げます。
Rosebank様のお陰で『奇跡の証明』に更に深みが増す事になると思います!
今少しずつ書き進めているところなので、もう少々お待ち下さいませ~!

それからRのクリアファイル…! 羨ましいです!
ジャンフェスのHP行って見てきましたが、社長は本当に横顔が美しいですよね~(*´д`*)
凛々しいのと美しいのが両立していて、見ていて惚れ惚れしてしまいます!
そしてRの5巻の表紙の凡骨w
よく見てみたら、確かに視線の先は社長ですね~。
Rを読んだ時はそんなに気にしていなかったのですが、思わず笑ってしまいましたw

それでは今日はこの辺りで失礼致します。
ではまた~(・∀・)ノシ

最終話

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 お許し下さい、我が守護龍よ。
 彼に出会ってしまってから、私の運命は変わってしまいました。
 敵であると知りながら、それでも彼を愛することを止められなかったのです。
 お許し下さい、お許し下さい。
 それでも自分は彼を守りたいと思ったのです。


 あぁ…、また祈りの言葉が聞こえる。
 あれは一体誰の声なのか?
 ゆっくりと浮上していく意識の中、瀬人はいつもの夢に戸惑っていた。
 最初、あの祈りの言葉は愚皇のものだと思っていた。
 だが後に克也も同じ夢を見ていると知った時、あれは愚皇のものだけじゃなく当時の皇帝のものである可能性も強くなった。
 敵国の国主であると知りながら互いに愛する事を止められず、それに対して常に苦悩していたであろう二人の祈りには、瀬人も胸を痛めた。
 耐えようもない悲しみに襲われていると、ふとその感情を和らげるように二匹の龍が瀬人を見詰めているのを感じるのだ。
 最近は三百年前の愚皇と皇帝の記憶だけでなく、こうして目が覚める瞬間に仲良く寄り添ってこちらを見ている真紅眼の黒龍と青眼の白龍の姿を見る事もある。
 それが何を意味するのかは分からないが、その二匹の龍の存在でホッと安心するのもまた事実だった。


「人…。瀬人…、瀬人!」
 遠くから自分を呼ぶ優しい声に、瀬人はゆっくりと瞼を開ける。
 目の焦点を合わすと、そこにはいつも通りに心配そうな顔をした克也が自分を覗き込んでいた。
「大丈夫か? また泣いている…」
 無骨な手が優しく涙を拭ってくるのに気付いて、瀬人は安心させるように微笑んで寝台の上で上体を起こす。

「大丈夫だ。またいつもの夢を見ただけだ」
「本当に大丈夫か…? 前はそうでもなかったのに、最近は夢を見る度泣いているな」
「別に泣きたいと思っている訳ではないのだ。勝手に涙が溢れてくるから、オレ自身も戸惑っているくらいだ」

 以前は夢を見ても朝は普通に目覚めるだけだったのに、最近は何故か目覚める直前に涙を流すようになってしまっていた。
 確かに夢の中で悲しいとか苦しいとか感じる事はあるが、こんなにも泣いてしまう理由が分からない。
 それにこの涙は悲しみや苦しさの涙では無く、どちらかというと安堵と感謝の涙のような気がする。
 誰かに明確に呈示された訳ではないが、瀬人は本能でそう感じていた。
 寝台の上で静かに困惑の溜息を吐く瀬人に克也は心配そうにしながらも優しく微笑んで、起き抜けの為に少し乱れている栗色の髪を撫でた。
「さて。じゃあ着替えて朝食にするか」
 克也のその言葉を聞いた途端、瀬人は眉根を寄せて固まってしまう。
 朝食という単語から連想された食べ物の味や匂いを思い出してしまって、思わず口元に手を当てた。

「…ら…ない…」
「瀬人?」
「オレは…いらない…」
「またか…」

 困ったように深い溜息を吐いて、克也は後頭部をガシガシと掻いた。
 近頃、瀬人の調子がおかしい。
 小食ながら以前は普通に摂取していた食事が、今は殆ど出来なくなっていた。
 食べ物の匂いを嗅ぐだけでも吐き気がするようで、最近は食べやすい果物ばかりを口にしている。
 勿論それで身体に良い訳が無いので何とか食事をさせようと試みるのだが、本人が頑として首を縦に振らない日々が続いていた。
 数十分後、二人を起こしに部屋に入ってきたマナも心配そうに瀬人を見詰めた。
「少し熱があるようですね…。顔色も冴えないようですし、風邪でもひかれたのかしら?」
 瀬人の額に手を当てたマナが心配そうに呟く。
「心配だな…。マナ、これから直ぐアイシスを呼んでくれないか? 前の診察から三ヶ月経つ頃だし丁度いいだろう」
 克也の言葉に「畏まりました」とお辞儀をし、マナは急いで部屋を出て行った。


 瀬人の身体が成熟し無事に克也と結ばれる事が出来てから、瀬人の定期検診は三ヶ月に一度に変更されていた。
 それは、瀬人の身体が安定した事を知ったアイシス自身が言い出した事だった。
 瀬人の体調が崩れた時や何か相談したい事がある時はいつでも直ぐやって来て、それ以外は不幸な奇跡の子を救う為の研究に没頭しているのだという。
 ここ最近は瀬人の体調も安定していて自分が呼び出される事も無かった為、皇宮に急ぎやって来たアイシスはとても心配そうにしていた。
 寝台の上で上体を起こし待っていた瀬人を見て、アイシスは慌てて近寄ってきた。
「皇后陛下…。一体どうなさったんですか? 顔色が余り良くありませんね…」
 アイシスの言葉に、瀬人も苦笑して答える。

「どうやら風邪をひいたらしい。食欲が全く無くて困っている」
「全く…? 何も食べたくないのですか?」
「食べたくないと言うよりは、食べられないという感じだな。食べ物の匂いを嗅ぐと吐き気が襲ってきてどうしようも無いのだ。身体も妙にだるくて気持ちが悪い」

 瀬人の話を聞いてアイシスは首を傾げた。
 何か違和感を感じる。
 その違和感が判明する前にとりあえず熱を測ってみるが、確かに微熱はあるようだがそこまで食欲が無くなるほどの熱でもなかった。
 微熱と食欲不振と倦怠感。だけど健康上、他のどこにも異変は見られない。
 自分はこの症状をよく知っていた。
 以前、奇跡の子の専門医をする前に専門的に見ていた患者は、こんな症状を持った女性ばかりだった。
 だけど…まさかそんな事がある筈が無い。
 確かに瀬人は女性として克也の妻となり、黒龍国皇后という輝かしい地位に就いてはいるけれど、間違い無く半陰陽である奇跡の子なのだ。
 それでもアイシスの中ではある種の予感がどうしても脳裏から離れなかった。

「陛下…。一つお聞きしても宜しいですか?」
「何だ?」
「月経は…ちゃんと来ていますか?」

 アイシスの質問に瀬人は一瞬「ん?」という顔をする。
 そして暫く考えた後、漸く思い出したように口を開いた。

「そういえば…、今月は遅れているな…」

 瀬人の言葉にアイシスは心臓が高鳴っていくのを感じる。
 これはもしかしたら…っ! もしかしたら『奇跡』が起きたのかもしれない…っ。
 今まで沢山の奇跡の子達を見てきたが、誰一人としてこんな症状になったものはいなかった。
 だから奇跡の子には絶対に無理だと思っていた。だがこの世に絶対など言い切れるものなど本当にあるのだろうか?
 現に今目の前に居るこの奇跡の子は、本当の意味での『奇跡』を起こそうとしている。
「陛下…」
 高鳴る心臓を落ち着かせるように胸に手を置いて、アイシスはゆっくりと進言した。

「久しぶりですが、少し内診を致しましょう。横になって下さいませ」

 アイシスの言葉に瀬人は素直に頷くと、慣れた感じで寝台に横たわった。


 数十分後。
 診察を終えたアイシスに呼ばれて、克也が部屋に入ってきた。
 寝台の上で自分を見詰める瀬人の真面目な表情を見て、克也は少なからず緊張してしまう。
「克也…」
 そんな自分の緊張を見透かしたように、瀬人が克也を手招きをして呼んだ。
 近付いて来た克也に対し思い詰めたような表情を崩さず、瀬人は小さく呟いた。

「克也、大変な事になった…」
「な…なんだ…っ? もしかして何か重篤な病気になってしまったのか…!?」
「病気…。あぁそうだ。これから十ヶ月間、オレはこの病気と闘わなくてはならない…」
「十ヶ月もか!? 瀬人…っ!! 一体どんな病気にかかってしまったというんだ…!!」

 既に泣きそうな顔でおろおろしだした克也の首に両腕をかけ、瀬人はその頭を引き寄せ耳元に唇を寄せる。
 そしてボソッ…と。本当に聞こえるか聞こえないかの瀬戸際の声で、自分の身に起こった異変を克也に伝えた。
 それを聞いた瞬間、克也は目を丸くして何度も瞬きを繰り返した。
 パチリパチリと、自分が今聞いたことが信じられないように繰り返し、次に恐る恐る瀬人の顔に視線を移してみる。
 そこには先程までの思い詰めたような表情ではなく、面白そうに「してやったり」とした顔の瀬人がいるばかりで…。
 クックッと笑い出した瀬人の顔を呆然と眺めていると、瀬人の笑いに同調したように後ろからクスッと誰かが笑う気配がした。
 振り返るとアイシスや事情を知らされたマナまでもが嬉しそうに笑っていて、そこで克也は漸く今瀬人から知らされた出来事は事実なんだと知ることが出来た。
 ゴクリと大きく息を飲むと、克也は急ぎ足で部屋を出て行こうとする。
「ま、待て克也! どこに行くんだ!?」
 慌てた風に呼びかける瀬人に一度だけ振り返り、克也は大声で叫んだ。

「どこに行くって…誓いの泉に決まってるだろ!? オレはこれから自分の妻と腹の子の無事を祈る為に、十ヶ月間の願いの儀に入る!!」

 瀬人から懐妊の報告を聞いてまず最初に脳裏に浮かんだのは、瀬人の奇跡の子としての身体の事。
 普通の女性体ではない瀬人が妊娠し出産をするとなれば、それ相応のリスクを伴う事は必然だ。
 ならば男として何も出来ない自分は、せめてそれを少しでも軽減する為に真紅眼の黒龍に願いを立てなければいけないのだ。
 瀬人が止めようとしているのを振り切って、その後、克也は結局願いの儀を発動させてしまった。


 それから十ヶ月後。真紅眼の黒龍が克也の祈りを聞き届けてくれたのか、二人の間には元気な男子が産まれたという。
 瀬人の身体も何の問題も無く、今もこうして幸せに暮らしている。
 スヤスヤと眠る我が子を胸に抱いて、瀬人はあの夢の中の黒龍の言葉を思い出していた。

『だが嘆くな白龍の子よ。もし今のそなたと同じ試練を来世のおぬしも耐えきることが出来たなら…その時こそ我と白龍との力で本物の奇跡を起こしてみせようぞ』

 真紅眼の黒龍と青眼の白龍は、あの時の約束をきちんと果たしてくれたのだった。
 その証拠かどうかは知らないが、子供が生まれてからは例の夢はパッタリと見なくなっている。
 だけど二匹の龍のその存在は、瀬人も克也も常に身近に感じていた。
 胸に抱いた我が子の温かな熱と愛しい重さに泣きそうな程幸せを感じながら、瀬人は澄んだ空を見上げる。
 そして確実に自分達の側に存在しているだろう二匹の龍に向かって、小さく感謝の言葉を呟いた。
 誰にも聞かれることの無いその小さな声は、しかし二匹の龍にはしかと届いていたのだった。






 黒龍国にはある一つの伝説がある。
 前世の罪を愛の力で見事に打ち消した時の皇后と、その皇后を見守っていた二匹の守護龍が与えた優しい奇跡の物語である。
 どんなに自分が辛く悲しい目に会おうとも、夫である皇帝を愛し信じ続けた皇后の強く美しい物語はあっという間に黒龍国全土へと広がっていき、やがて隣国の白龍国や冥龍国にも伝わっていった。
 人々はその伝説を思い出す度に『奇跡』が証明されたと口にする。
 皇后が前世の罪を引き継ぎ奇跡の子として生まれた事も。
 それでありながら皇帝に心から愛された事も。
 戦争に行った皇帝の為に、三年もの長い間願いの儀をし続け、その儀式を成功させた事も。
 そしてその功績で前世の罪が許され、二匹の龍が子供を授けた事も。
 時の皇后の存在そのものが『奇跡』であり、全ての事象はその『証明』だと人々は言った。
 そして人々はその伝説を親から子へ、そのまた子供へと伝えていくのだ。
 伝説の皇后が起こした『奇跡の証明』を…。

城海サイコーヽ(*´∀`*)ノ

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今更ながら自分がどれだけ城海が好きなのか思い知らされた二礼です、こんばんは。

城海サイトでお前は何を言っているんだと思われるでしょうが、いやいや…それが意外と侮れないんですよ。
数日前の表君の誕生日の時に『何かSSでも書くかな~』なんて軽い事を申しましたが、いざ書こうとすると何にも出てこないんですw
どんなにネタに詰まっても城海だと何かしら出てくるものなのですが、表君のネタ…ゼロでございます(´∀`;
わー…どうしよう…。
下手したら六月も終わっちゃうんじゃないか?
ちなみに今『奇跡の証明』の外伝っぽいのも書いているんですけど、主人公を瀬人や克也じゃなくて別の人間に充てたら、途端に執筆スピードが落ちました…。
どういう事なんだ、これは…w
表君も主人公に充てたキャラも個人的には大好きなのですが、どうやら個人では城海コンビには勝てないようですね…。
う~ん…。困った…;


長編『奇跡の証明』の第二十二話をUPしました。
今回はちょっと閑話休題な回です。
この話をどこに持って行くか最後まで悩んだのですが(瀬人の夢の話の前に持ってくるか、後に持ってくるかずっと悩んでいました)、結局こんなところに突っ込むハメに…w
でも、白龍国のその後は絶対書かなくちゃダメだと思ったので、無理矢理入れされて頂きました(*'-')
『奇跡の証明』は次で終わりです。
長かった…。
そして私の小説ファイルはついに空っぽになりました…www
どうしよう…マジどうしよう!!((((´∀`;))))


以下は拍手レスでございます~(*'-')


>Rosebank様

拍手とコメント、いつもありがとうございます(*´∀`*)

『現金な僕ら』の感想をありがとうございました~!
先週UPした『アンニュイな僕ら』が自分でも結構気に入っちゃいまして、そう言えば思わせぶりなところで終わらせたなぁ~と思ったら急に続きが書きたくなっちゃったんです。
と言ってもこの二人の細かいエロシーンまで書く気にならず、結局未遂にしちゃいました…w
最終的な目標は『裸でイチャイチャさせる』だったので、個人的には満足な出来です(´∀`)
それにしても今回の話は、Rosebank様もコメントでおっしゃっておられましたが、確かに『酒の力』に通じる内容だったと思います。
どうやら私は『海馬:意外にセックスに積極的、城之内:海馬の事を思って止める』のパターンが好きみたいですねぇ~。
まぁ海馬も立派な男の子ですからねw
性欲なんかもそれなりにあるだろうし、好きな相手とエロい事をしたい気持ちも普通に持っているんだと思います。
それよりも私は城之内に『包容力のある好青年』というものを夢見ているらしくて、自分の書いたものを色々と読み返してみると、至る所にその破片が見え隠れしていますw
『酒の力』然り、今回の『現金な僕ら』然り…。
実際の高校男子なんて、目の前に吊り下げられた美味しそうな餌を前に我慢なんて出来る筈無いと思いますがねぇ…w
まぁ…ここら辺が二次創作の醍醐味なのでしょうが(*´д`*)

好きなパターンと言えば、私は城之内と海馬に見つめ合って貰うのも好きみたいです。
Rosebank様のコメントにもあった『青と琥珀色の瞳が見詰め合う』ってヤツですね。
このパターンは『奇跡の証明』でも使わせて貰いました。
三百年前のセトとカツヤが一目惚れしたシーンです(*'-')
『目は口ほどにものを言う』とは、昔の人は本当に上手い事を言うもんですよね~。
確かに口は嘘を吐きますけど、目は本当の事しか伝えませんからね。
そういうのもあって、『見つめ合う』という行為が特にお気に入りなのですw

それでは今日はこの辺りで失礼致します。
ではまた~(・∀・)ノシ

第二十二話

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 三年に渡った冥龍国との戦争が終わって五年の歳月が経っていた。
 この五年という長い期間には、黒龍国を中心とした周辺に様々な出来事が起こっていた。


 冥龍国においては戦争終結約一年後、幽閉されていた冥龍国の元国主が心臓の病を悪化させて、静かに息を引き取った。
 首都郊外の生家に幽閉されていた元国主は亡くなる直前に、黒龍国皇帝宛てに長い文を送っている。
 その文には、冥龍国を強国にしようと無理に戦争を始めた決断から、敗戦後に心から感じた後悔までが事細かに記されていた。
 更に処刑ではなく幽閉という寛大な処置を施してくれた事、そして幽閉場所も牢屋などでは無く幼い頃からの思い出の詰まった生家であった事なども、合せて感謝の言葉が述べられていた。
 冥龍国の元国主が亡くなった報を聞くと、黒龍国皇帝はすぐさま冥龍国に対し元国主を国葬とする許可を出し、更に追悼の書状を現国主に対して送っている。
 それに対して冥龍国の現国主は、黒龍国に対して深く感謝の言葉を述べたという。
 冥龍国はその後、黒龍国の監視の下、順調に国を立て直している。
 民にも特に表立った不満は無いようで反乱等も皆無であり、近い将来にもう一度独立し直す事が可能だと思われた。


 そしてもう一国。あの戦争において重要な働きをした白龍国は、ついに黒龍国の属国という地位から抜けだし正式な独立を果たしていた。
 白龍国との国境に近い街で行なわれた調印式で、すっかり立派な青年に成長したモクバは白龍国法皇として、克也とそして同席していた瀬人に対してある提案をした。

「今の黒龍国と白龍国の間には、本当に理想的な友好関係が築かれています。白龍国としては、出来ればその友好関係をこれからも持続していきたいと思っているんです。そこで、どうでしょう? 今まで両国間に築かれてきた盟約に関しては、このまま続けてはみませんか?」
「ほう…。このまま…とは?」

 モクバの提案に、克也は興味深そうに首を掲げてみせた。
 その琥珀の瞳の中に否定的な色が無いのを見て、モクバは穏やかな笑みを浮かべながら提案を続ける。

「例えば貿易関係。両国間による輸入と輸出のバランスは丁度良く取れていて、自分としてはこのままの状態で現状維持したいのです」
「確かに。黒龍国で豊富に取れる農作物と白龍国で採掘される鉱物の交換は、両国家にとって無くてはならない必需品だ」
「えぇ。あとは黒龍国皇太子の留学の件も、我が国としては是非今まで通り続けて頂きたいのです。友好関係の持続という観点もございますが、黒龍国皇帝としても、我が国で学んだ知識は全く無駄になっていないと思うのですが…。如何でしょうか?」
「あぁ、確かにそうだな。むしろ三百年前に黒龍国皇太子が白龍国への留学をするようになってから、黒龍国では賢帝が増えたという記録があるくらいだ」

 武の国である自らの国を自虐気味に茶化してみせて、克也は面白そうに笑ってみせた。
 その言葉の裏に留学の持続を認められたのを感じて、モクバはホッとする。
 一度深く呼吸をして、モクバはちらりと克也の隣に座っている瀬人を見た。
 あの日の別離を忘れた事など一度も無かった。
 僅か十二歳で体験した最愛の兄との別れを、悲しまなかったと言えば、そして悔やまなかったと言えば嘘になる。
 だが今、克也の隣で穏やかに微笑んでいる瀬人を見て、モクバには兄が幸せでいる事を感じ取っていた。
 そして出来るなら、この先もこんな風に幸せになれる女性が一人でも多く現れる事を願っていた。
「それから…。白龍国から黒龍国へ嫁ぐ正妃の事なんですけど…」
 モクバの言葉に克也も隣にいる瀬人をちらりと見遣り、同じように視線を動かした瀬人と目を合せる。
 そして柔らかに微笑み合うと、その笑顔のまま克也はモクバに向き直った。

「あぁ。この制度も、もうこれで終わりにしよう」
「いえ…っ! 出来ればこのまま続けて欲しいのです!」
「ん…? どういう事だ?」
「白龍国から黒龍国に嫁ぐ正妃には、確かに人質的な意味合いが強かったのかもしれません。だけどここ最近の記録を見る限り、決して不幸な結果ばかりになっている訳じゃないんです。前皇帝の正妃は身体が弱くて早世致したようですが、それでも皇帝に唯一愛された后でした。その前の皇后も、確か時の皇帝の寵姫として敬われていた筈です。そして…皇后陛下」

 突然モクバに話しかけられて、瀬人は緊張した面持ちで向き直った。

「皇后陛下…。貴女は今…幸せですか?」

 優しく尋ねられたその問いに、瀬人は笑みを深くしてしっかりと頷いた。

「あぁ、勿論だ」
「嘘ではありませんよね?」
「当たり前だ。嘘など言う意味が無い。それとも信じられないのか?」
「まさか。貴女の笑顔を見て直ぐに分かりましたよ」

 瀬人の笑顔に心底安心して、モクバは満足したように克也に言い放った。

「現に今の皇后陛下は幸せ一杯だそうですよ、皇帝陛下。ですから白龍国としてはこのまま正妃を黒龍国へ送り出したいのです。黒龍国からは皇太子を六年もの間預かり、代わりに白龍国からは正妃を嫁がせる。これ以上の友好関係は無いと思われますが、如何でしょうか皇帝陛下?」
「ははっ…。確かにこれ以上の関係は無いな。だがそれでは今までと全く変わらない。せっかくだからもう一つ制約を付けよう」
「もう一つ…? 何ですか?」
「黒龍国はこれまで通り、白龍国に対して正妃の要望をする。ただし、今までとは違ってそちらでの拒否権は有りだ。気にくわなかったら嫁に来なくてもいいぞ」

 一瞬緊張したモクバに克也はゆっくりと言葉を紡ぎ出して、面白そうに笑みを深める。
 その言葉を聞いてモクバもやっと安心し、「その提案をお受け致します」と深々と頭を下げた。


 調印式が終わった部屋の中で、モクバは瀬人と二人きりになっていた。
 久々の兄との対面に緊張しない訳では無かったが、それでも法皇として様々な体験をしていたモクバは落ち着いて瀬人に話しかける事が出来た。

「久しぶりだね兄サマ。あ、今はもう姉サマ…かな?」
「モクバ…。別に『兄サマ』で構わない。オレは別に女になった訳ではないからな」
「そうだったね。えーと…元気にしてた? 黒龍国ではどう? 何か不都合な事とか無いの?」

 モクバの問いに瀬人は黙って首を横に振った。

「いや。皆が皆オレに良くしてくれる。お前が心配するような事は何も無い」
「そう。良かった。幸せそうで何より」

 その言葉に「ありがとう」と答える瀬人を見て、モクバは漸く肩の荷が降りたように感じた。
 本当はずっとずっと心配していたのだ。
 その気持ちを伝えることは出来なかったけれど。
 でも今なら、それを伝えることが出来る。

「ねぇ兄サマ。オレ心配してたんだよ。兄サマが黒龍国に嫁いで僅か半年後に戦争が始まってしまって…。しかもそれが三年も続いて…。知っている人間が誰一人としていない黒龍国の皇宮で、兄サマは一体どうしているんだろう…ってね」

 モクバの問いに瀬人は一瞬目を剥いたものの、次の瞬間には安心させるように微笑んでみせた。

「知っている人間ならいたぞ。覚えているかモクバ。克也と一緒に留学に来ていたマナという女性を。彼女がオレの専属女官になっていてくれたからな。何の気兼ねなく皇宮で過ごす事が出来た」
「うん、覚えてるよ。そっか、彼女が一緒だったのか。なら大丈夫だね」

 肩を竦めてそう言い放つと、モクバは瀬人の側に寄ってきて、その白い手をとった。
 細く少し冷たい手を、自分の温かい手で守ろうとするように力を入れて握りしめる。

「ねぇ兄サマ。たまには里帰りしにおいでよ」
「里帰り?」
「うん。オレも久々に兄サマと一緒に過ごしたいし、克也に許し貰ってさ。あ、兄サマが言いにくいんだったら、オレが言っても…」
「いや、里帰りの件に関しては克也からも申し出があった。たまには白龍国に帰ったらどうだ…とな」
「じゃあ、兄サマ…」
「だけど、オレがそれを断わった」
「え…?」

 兄の口から出た最後の言葉に、モクバは驚いてマジマジと瀬人の顔を見詰めてしまう。
 せっかく克也自らが出した里帰りの許可を、瀬人が断わる理由が分からなかったからだ。
 驚いた表情のまま見詰めるモクバに対して、瀬人は揺るぎない意志を含んだ青い瞳で弟を見つめ返す。

「本当は調印式にも来る予定は無かった。だが調印式が行なわれる街がギリギリ黒龍国の領土だったから、それならば…と来る事にしたのだ」
「何で…兄サマ…?」
「何で? そんなの決まっている」

 強い意志を宿した瞳を青く光らせて、自信を持って瀬人はモクバに告げた。

「オレが黒龍国の皇后に他ならないからだ。オレはあの戦争の時、黒龍国の守護龍である真紅眼の黒龍に誓ったのだ。この先の一生を克也と黒龍国の為に捧げ、この身を黒龍国の土に埋めるとな。この誓いは黒龍に対してだけのものではない。オレ自身に対しての誓いでもある。だからオレはもう二度と黒龍国以外の土は踏まぬと決めたのだ。それが例え我が故郷の白龍国であろうと…」

 握られたモクバの手を逆に強く握り替えして、瀬人はまるでモクバに言い聞かせるように強く言う。

「この誓いはお前にも、そして黒龍国皇帝である克也にも覆すことは出来ない。オレがオレの為だけにたてた誓いだ。そのオレの誓いを乏しめる事は誰にも許されない。それが例えお前でも…な」

 黒龍国皇后としての強い意志を宿した瀬人の顔を見て、モクバは漸く納得する事が出来た。
 今ここにいるのは、昔白龍国に居た優しいだけの兄ではない。
 黒龍国皇后としてどこまでも強く、夫である皇帝と国と民を愛し信じ守ろうとする、何よりも気高く尊い高潔な存在だった。
 その意志を汲み取り、モクバは諦めた様に微笑んでそっと握っていた手を離した。

「分かったよ兄サマ…。今オレは理解した。オレの兄サマはやっぱり凄い…っ。兄サマのような凄い人は世界中のどこを探したっていやしない。兄サマはオレにとっても克也にとっても、唯一無二の尊い存在なんだ。それが漸く分かったよ…。貴女には一生かかっても勝てそうにないな」

 モクバの言葉に瀬人は自信に満ちた顔で微笑んだ。
 その笑顔を見ながら、モクバは密かに心の中で兄に別れを告げる。


 さようなら兄サマ。
 オレの大事な大事なたった一人の兄サマ。
 貴女は黒龍国で、オレは白龍国で、それぞれ別の地で国を治めていくけれど。
 それでもオレは願っている。
 貴女が幸せであり続ける事を。
 そして貴女の魂が永遠に気高くあり続ける事を。
 そんな貴女に別れを告げて、オレは全ての迷いを捨てて、自分の道を真っ直ぐ進む事にします。
 さようなら。さようなら。
 オレの大事な…兄サマ。
 さようなら。


 それが、若き白龍国法皇が真の大人に成長した瞬間であった。

 そしてそれから少し経った頃。
 瀬人に一つの奇跡が起きようとしていた…。

何か肌寒いですね...(´・ω・`)

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冷夏が心配な二礼です、こんばんは。

何か暑くなったり寒くなったりと、毎日の体調管理が大変です。
気象庁の情報によると、どうやら今年は冷夏のようですよ?
冷夏と聞くと、タイ米騒動を思い出します。
今からもう…何年前だったかなぁ…。
酷い冷夏の年がありましてね。
お米が全く育たなかった時がありました。
お米は日本人の主食ですからね、お国の偉い人は「これは大変だ!」と何とか対策を講じてくれた訳ですよ。
ところが何を間違ったのか、従来の日本のお米にタイ米をブレンドして売り出すという暴挙に出ちゃったのです。
タイ米はタイ米で美味しいけれど、アレは日本のお米とは調理法が全然違うのですよ。
日本のお米は水から炊きますけど、タイ米は沸騰した湯(スープ等)に生米を投入する方法をとります。(リゾットみたいな感覚?)
水分を含ませる行程が全然違うのに、何故にブレンドしてしまったのかと小一時間(rt
あの頃のお米は…酷かった…orz
まぁ…そんな間違いは二度と起こさないとは思いますけれどw
でも冷夏というとどうしてもあの時の事を思いだしてしまうのです。
今年のお米…ちゃんと成長してくれればいいけど(´・∀・`)


短編『現金な僕ら』をUP致しました。
先週上げた『アンニュイな僕ら』の続きです。
何か急に続きを思い付いてしまったので、ガーッと書いてしまいました。
あんまりにも幸せを感じ過ぎて心が満たされると、性欲が沸かないっていうのは本当にあるらしいですよ?
男じゃないんでそこら辺は詳しくは知りませんがw


以下は拍手のお返事になりま~す!


>Rosebank様

拍手とコメント、どうもありがとうございまっす!!

まずはRosebank様にお礼を言わなくてはなりません。
セトとカツヤについてRosebank様は『セトとカツヤのその後の人生は互いが居れば、それだけで充分幸せだったに違いないと思います。』とおっしゃって下さいました。
自分で考えたストーリーではありますが、さすがに三百年前のこの二人には酷な話にしちゃったなぁ…とずっと思っていたのです。
でもRosebank様にそう言って貰って、気持ち的に少し楽になりました。
そうですよね。彼等は決して一人ではありませんでしたから。
どんなに周りから冷たくされても、互いがいればそれで充分だった事でしょう。
カツヤはセトを、セトはカツヤを想えば、どんな辛い事にも耐えられたでしょうね。
そしてそんな彼等の想いが、今の克也と瀬人に受け継がれていった訳です。
ちなみに『本物の奇跡』についてRosebank様はいくつか推理なさっていましたが、その中にちゃんと当たりがありましたよ(´∀`)
ヒントは『偏り気味』です。
半陰陽である瀬人を、最後はちょっと女性寄りに偏らせています。
ここまで言えばもうお分かりになられるのではないでしょうか?(*'-')

そう言えば、今回はストーリーの推理だけでなく菖蒲園の推理もなさっていましたねw
大当たりでございます!!
着いた時に丁度式典が始まったりしてましたw
凄く暑い日でしたけれど、菖蒲は本当に綺麗でしたよ~(*´д`*)
青系の色が多いのも、この季節には涼しげに見えますしね~。

それでは今日はこの辺りで失礼致します。
ではまた~(・∀・)ノシ

現金な僕ら

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城之内×海馬。
『アンニュイな僕ら』の続きになります。
城之内の一人称ですが、一番下におまけとして海馬の心情が少しだけあります。

 




 サァ…サァ…サァ…。

 窓の外から地面に向かって降り続ける静かな雨の音が聞こえる。
 雨音が外の雑音を全て覆い隠して、外界は異様な程の静けさだ。この冷たい雨から逃れてどこかに身を隠しているのか、鳥の声すら聞こえない。
 聞こえるのは静かな静かな雨音ばかり。
 暦の上ではもう夏だというのに、剥き出しの肩にヒヤリと触れるこの時期独特の湿気と冷たい空気にブルリと震えてしまう。
 暖かい掛布の中でオレは身体を横にして丸まった。
 そして半覚醒状態の頭の中で小さく舌打ちをする。
 あー…だから嫌なんだよ、この雰囲気は…。
 重たい瞼をそろりと開けると部屋の中は薄暗く、分厚い遮光カーテンの隙間から漏れてくる陽光は実に頼りない明るさだった。
 だけどそのカーテンが自分の部屋のとは明らかに違うのを見て、オレは一気に覚醒する。
 え? あれ? 何で? ここ誰の部屋?
 寝惚けた頭で何とか昨夜の事を思い出そうと努力していると、背後で何か温かいものがモゾモゾと動いて、そのままオレの背中にピタリとくっついてきた。
「ぅ…ん…」
 微かに呟かれた声で、オレは自分の背中にくっついているモノが何なのか思い出した。

 海馬だ! コレ海馬だ! オレ海馬の部屋に泊りに来たんだった!!


 昨日のあの屋上での会話の後、オレは海馬の邸に泊りに行く事を了承していた。
 その日の夜は一応バイトが入ってたから、一度家に帰り着替えやら何やらを持ってからバイトへ行き、バイトが終わった後はそのまま家には帰らず海馬の邸に直帰したのだ。
 もう夜の十時も過ぎていたのに、海馬は腹が減ったオレの為に夜食を用意して待っていてくれて、しかも客のオレがいつでも入れるように風呂の準備まで完璧にしていてくれた。
 そういう何気ない心遣いを素直に嬉しいと思う。
 あの屋上での会話から始まって、今日一日だけでオレの中の海馬のイメージは随分変わっていた。
 風呂に入ってサッパリした後は、海馬の自室でコーヒーを飲みながら何気ない話をずっとしていた。
 学校の事とか仕事の事とかデュエルの事とか。
 ソファに向かい合わせに座って色んな話をする度、海馬は相槌を打ったり自分の意見を言ったりオレの話に笑ったりしてくれた。
 オレはずっと海馬とこんな風に普通の会話を楽しみたいと思っていたから、それが何だか嬉しくて仕方が無かった。
 しかも海馬は今、白いパジャマ姿だ。
 当たり前だがオレは海馬のこんな格好なんて見た事無くて、普段と違うシチュエーションに興奮していたのも事実だ。
 だからちょっと事を急いでしまったのは認める。
 飲み終わったコーヒーをガラステーブルに置いて立ち上がったオレを、海馬は不思議なものを見るような目付きで見詰めていた。
 そのまま何も言わずに近付いて、奴が持っていたカップを優しく取り上げて同じようにテーブルに置いてしまう。
「何だ?」
 首を傾げてそう言う海馬の唇を、オレは自分の唇で覆ってしまう。
 フワリと上品なコーヒーの香りが広がっていく。
 顔が近付いていってもまさかいきなりキスされるとは思っていなかったんだろう。海馬は無抵抗だった。
 薄目を開けて海馬の表情を見ていたら、パチパチと何度も瞬きを繰り返している。
 コイツ…ちゃんと自分がキスされてるんだって分かってんだろうな…?
 オレが心配になってきたその時、漸くキスの事実に気付いたらしく、慌ててオレの胸に両手を当ててグイッと押し返してきた。
「な…何をするんだ!」
 顔を真っ赤にしてそんな事を言うから、オレは平然と言い返してやった。

「何って…キス?」
「キ、キスって…貴様…っ」
「何だよ。そういうつもりでオレを呼んだんじゃないの? オレはてっきりそうなんだとばっかり思ってたけど」
「そ…それは…そうだが…。でも突然過ぎる…」
「突然も何も、もう寝る時間なんですけどね」

 オレの言葉に海馬が慌てて壁に掛かった時計に目を向けた。
 時間は夜中の一時。
 やる事やるなら、そろそろベッドに入らなきゃいけない時間だ。

「するんでしょ? セックス」

 確認するようにわざと直接的な単語を使ってそう言うと、海馬は相変わらず真っ赤な顔をこちらに向けたまま暫く固まって、だけどはっきりと首を縦に振った。
 微かに震える海馬の身体を抱き寄せて寄り添うようにベッドルームへと向かう。
 ドアを開けた途端に目に入ってくる、薄暗い部屋の中で一際自己主張している天蓋付のキングサイズのベッド。
 あの上でこれから海馬とセックスするんだと思うと、途端にそれが卑猥なものに見えてくるから不思議だ。
 海馬の腰を片手で支えてベッドまでエスコートして、白いシーツの上にその細い身体を押し倒した。
 真っ赤に染まった頬や細い首筋に優しく唇を落としながらパジャマのボタンに手を掛けると、その手を強く掴まれてしまう。

「何?」
「ふ…服…」
「あぁ。服脱がないとセックス出来ないだろ?」
「ち…違う…。服…自分で脱ぐから…」

 そう言うと海馬は上半身を起こして、自分でパジャマのボタンを外し始めた。
 ボタンを全部外して肩から白いパジャマをスルリと脱ぐ。ついでにズボンにも手を掛け、一瞬考えた後思い切って下着ごと脱いでしまう。
 おぉ…、大胆な脱ぎっぷり。
 オレもパジャマ代わりに着ていたTシャツやスウェットを手早く脱いでしまうと、ベッドに座っていた白い身体に抱きついた。
 何だかどうしようもなく海馬の事が愛しく感じられて、温かな身体をぎゅうっと抱き締める。
 そのままもう一度ベッドに押し倒そうと思った時、オレは余計な事に気付いてしまった。

 あれ? 震えてる?
 そういやさっきから震えていたよな…。
 コレって緊張の震えなのかな。
 だけど何かちょっと違うような気がする。
 え…? ま…まさか…そんな…。まさかとは思うけど…っ。
 こ、怖がってる!? 怖がってるの、コイツ!? オレの事怖がってるの!?
 う、嘘だろ!?
 だってコイツ、自分からオレを誘ってきたんだぜ!?
 なのに今更オレの事を怖いとか…無しだろそれ!!

 自分の脳裏に浮かんだ考えを信じる事が出来なくて、オレは恐る恐る海馬の顔を覗き込んだ。
 さっきまで真っ赤だったその顔はいつの間にか真っ青になっていて、海馬が恐怖を感じている事が確定的となる。
「海馬…。もしかして、オレの事…怖いのか?」
 あんまり怖そうにしてるから可哀想になってそう聞くと、オレの予想に反して海馬は首を横に振った。
「ち…違う…。別にお前の事が怖い訳じゃない…」
 恐怖の為震える声でボソリと呟いて、海馬はそろりと視線を上げてオレを見た。

「け、経験が…無いのだ。だから…その…余りガッつかないで欲しい…」

 海馬の告白にオレは心底仰天した。
 マジでか!!
 学校の屋上ではあんなに魅惑的に誘ってみせた癖に、初めてってマジですか!!
 それは流石のオレも予想していなかった。
「何で経験も無いのにあんな誘い方したの」
 海馬の態度に少しだけ呆れてそう問いかけると、真っ青だった顔を再び赤くして海馬が俯く。

「誘っては…いけなかったのか…?」
「いや、別にいけなくはないけどね。初めてなんだったらさ…もっとお前が大事に思ってる相手の方がいいんじゃないか?」
「だ…だから…っ! だから貴様を誘ったのだ!!」

 俯いていた顔をバッと上げて、海馬が真剣な顔でオレを見詰めてくる。
 海馬が今胸に抱いている感情には、オレにも覚えがあった。
 それは学校の屋上でオレが気付いたあの感情だ。
 あぁ、何だ。そうだったのか。
 オレ達ってホント馬鹿だよなぁ…。
 初めから言葉で言えばいいものを、いきなり身体を繋ごうとするからこんな事になるんだ。
 オレは海馬が好きだって事に気付いてそれに満足してしまい、コイツの気持ちを確認せずにいきなり抱こうとしてしまっていた。
 海馬は俺の気持ちを確かめもせずに、オレの事を好きだってだけで身体を許そうとしてしまった。
 相手の気持ちがどこにあるのか分からなければ、そりゃ海馬だって不安にもなるさ。当たり前だ。
 不安そうな海馬の頬を優しく撫でて、オレは顔を近付ける。
 ビクリと反応して思わず離れそうになるのを、オレは海馬の後頭部に回した手に力を入れて逃げを許さなかった。
 緊張と不安で戦慄く紅い唇に、そっと触れるだけのキスをする。
 何度も何度も、震えが治まるまで何度も。
 やがて触れていた唇からフゥ…と熱い吐息が漏れたのに気付いて、オレはそっと身体を離す。
 海馬の震えはいつの間にか止まっていた。
「すまない…。戸惑わせてしまったな。もう大丈夫だから続きを…」
 オレの目をじっと見詰めてそう言う海馬に、オレは首を横に振ることで答えを返す。

「いや、今日はもういいよ」
「何だと…?」
「今日はお前がオレの事を好きでいてくれたって事を知っただけで充分」
「い、いや、だがしかし…っ!!」
「だがもしかしも無いから。ほら、もう反応してねーし」

 指先を自分の股間に向けると、そこを見た海馬が目を丸くして驚いていた。
 まぁ…さっきまではやる気満々だったんだけどね。
 何か心が満たされたお陰で、良い意味で身体もやる気を無くしてしまったらしい。
 今日はもう幸せなこの気分のまま眠りにつきたかった。
「なぁ海馬。お前、オレの事が好きなんだよな?」
 確認の為もう一度そう聞くと、海馬は何とも言えぬ顔をして頷いた。
 てか、何でそんな顔してんのよ。
 何故だか知らないが、コイツは今凄く残念に思っているらしい。
 さっきまであんなに怖がっていた癖に、いざ続きが出来ないとなるとそれはそれで気になるようだ。
 たくっ…。仕方の無い奴だなぁ…。
 仕方が無くて…すっげー可愛い奴だ。

「あのな、こういうのはちゃんと言葉で言っておかないとダメだと思うんだ。だからオレもちゃんと言う。オレさ、今までお前への気持ちに全然気付いて無かったんだ」

 海馬は黙ってオレの言葉を聞いていた。
 途中で余計な言葉を挟むつもりは無いらしい。

「今日の…あ、もう昨日か。ま、いいや。学校の屋上でさ、色々話したじゃん?」
「あぁ」
「あの時にさ、唐突に気付いちまったんだよ。オレ、お前の事が好きだったんだなってさ」
「………っ!?」
「だから今両思いだって分かって、すっげー幸せな気分になっちゃったの。今はそれで充分だって感じちゃったんだよ」

 オレの言葉に驚いて何も言えなくなっている海馬の腕を引っ張って、共にシーツの上に転がった。
 そしてさっさとブランケットを身体の上に掛けてしまうと、そのまま細い身体を抱き締めて大きく息をつく。

「という訳で、今日はこの気分のまま眠ろうと思います。おやすみなさい」
「い、いや…ちょっと待て城之内!!」
「待たないよ。もう眠たいし。大体お前、すげー怖がってたじゃん」
「それは確かにそうだが…っ! 貴様はそれでいいのか!?」
「だからいいって言ってんじゃん。よく考えたらさ、両思いって事はオレ達はもう恋人みたいなもんだろ? 恋人ならセックスなんていつでも出来るしな。別に今夜しなきゃいけない訳じゃないし。また今度にしよーぜ」
「だが…。じ…城之内…」
「それにこうやって裸で引っ付いてるだけでも気持ちいいし。温かいし、お前肌すべすべだし。な? 今日はこれでいいじゃん」

 オレの台詞に、海馬が漸く抵抗を止めた。
 腕の中で大人しくなった身体を抱え直して、オレはゆっくり目を瞑る。
「おやすみ」と声をかけたら「お…おやすみ…」と小さな声が返ってきた。
 己の腕の中にあるその存在は、温かな体温と確かな鼓動と小さな呼吸音をオレに伝えてくる。
 それが溜まらなく愛しくて、オレは幸せ一杯な気分で至極満足だった。
 最後にもう一度だけ力を入れて海馬を抱き締めて、そしてオレはそのまま眠りに落ちていった。


 背中から伝わる愛しい熱に昨夜の事を思いだして、オレはにやついた笑みを止める事が出来なかった。
 今、オレの背中に引っ付いて眠っているのは、紛れも無いオレの恋人だ。
 朝だからか何なのか知らないが、昨夜は治まっていた筈の熱がぶり返してくる。
 いやいや、流石に寝込みを襲うなんて卑怯な真似はしませんよ?
 でも、もしこの存在が目覚めたら。
 目覚めて瞼を開いて、あの澄んだ青い瞳でオレを見詰めたら。
 どうなるかは分からないな。


 窓の外からは相変わらず静かな雨音。
 分厚い雲の向こうからの陽光は頼りなくて、部屋の中も薄暗くてほんのり寒い。
 だけど何故なんだろうな?
 もうあの孤独感は感じない。
 海馬が隣で眠っているだけで、こんなに心が満たされるなんて思いもしなかった。
 こんな幸せな思いが出来るのなら、雨の朝もそんなに悪いものじゃないのかも知れない…。
 そんな事を思いながら、オレはやっぱり自分を現金な奴だと感じていた。
「まだ六時か…。もう少し眠れるな」
 壁に掛かった時計をチラリと確認して、オレはもう一眠りする為に目を閉じた。
 次に目覚めた時には、あの青い瞳に出会える事を期待して。

 



 おまけ


 サァ…サァ…サァ…。

 窓の外からは地面に向かって降り続ける静かな雨音が響いている。
 そっと目を開ければ、雨の日独特の薄暗い室内。
 必然的に襲ってくる孤独感に嫌だな…と感じながら、ふと何かの気配を感じて横を見た。
 そしてそこに居た存在に心から驚いた。

 城之内だ…っ! 城之内がいる…っ!!

 自分の目に入って来たのは、オレの方に背を向けて眠っている城之内の姿だった。
 途端に脳裏に昨夜の記憶が甦ってくる。
 何という醜態を晒してしまったのだろうか…。
 恥ずかしくて堪らなくて居たたまれない気分になる。
 だけど…それ以上にオレは幸せだった。
 自分の隣に寝ていた城之内の存在に気付いただけで、幸せで嬉しくて胸が一杯になる。
 雨の朝の孤独感なぞ、気付いたらどこかに行ってしまっていた。
「ぅ…ん…」
 気恥ずかしさを誤魔化すようにわざとらしくそんな声を上げながら、オレは城之内の背中に縋り付く。
 裸で眠っていた為にすっかり冷えてしまっていた肌に、オレより幾分高い城之内の体温が心地良かった。
 じんわりと伝わってくる熱に満足して、オレはもう少し眠る為に目を瞑る。
 城之内の存在一つで、雨の朝もこんなに幸せな気分で迎えることが出来るとは…。
 オレはそんな事を考える自分を、本当に現金な奴だと思った。
 だけどそれも悪くないと思う。

 次に目が覚めた時は、あの明るい琥珀色の瞳を見せてくれ。
 そうしたらきっと昨夜より落ち着いた対応が出来る筈だから。

 幸せな予感に満たされながら、やがてオレの意識は眠りの世界へと入っていった。

第二十一話

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 誓いの泉の前で、セトは守り人の前に立っていた。
「通してくれ…」
 鋭い声でセトが命令するのに、守り人は両手を広げて誓いの泉への道を閉ざしている。
「何しにいらっしゃったのか、皇后陛下。この誓いの泉は神聖な水。結婚の儀の時はお見逃し致しましたが、これ以上貴方にこの水には触れさせません。愚かな戦争を引き起こし、何千人もの人間を死に追いやった貴方など、黒龍の息吹に触れることすらおこがましい…っ!」
 もう随分長いこと、この睨み合いは続いていた。
 その為、セトは焦っていた。
 時間が無い…っ!
 少しでも早く願いを掛けなければいけないのに…っ!!
 次の瞬間、セトはその場で膝を付き、守り人に対して深く頭を下げた。
「頼む…、通してくれ…っ! カツヤの命が危ないんだ…っ! オレを庇って…オレの代わりに毒を飲んで、今意識不明の重体だ…っ!! オレはカツヤを救いたい…っ!! どうか願いの儀をオレにやらせてくれ…っ!!」
 セトの言葉に守り人は漸く両腕を降ろした。

「皇帝陛下の事は…私も先程知らせの者から聞きました。皇后陛下…、貴方は本当に皇帝陛下の為に願いの儀をやり遂げる覚悟がおありか?」
「勿論だ…っ!!」

 守り人の言葉にセトが必死で叫ぶ。
 その青い瞳に浮かんだ強い意志に、守り人はスッと道を開ける。
「分かりました…。ではお行きなさい。行って黒龍に願いをおかけなさい。ただし罪人である貴方の願いを真紅眼の黒龍がお聞き届けになるとは限りません。それでも良いなら…行って願いをかけるといい」
 守り人の言葉にセトは頷くと、その場で服を全部脱いで誓いの泉を渡っていった。


 泉の中の小島に辿り着き、セトは黒水晶の表面にそっと触れる。
 その途端何かに弾かれたように身体が飛ばされ、後ろの芝生の上に転がってしまった。
「…っ!?」
 突然の事に焦りながらも、慌てて起き上がって前を見ると、黒水晶の代わりにそこには巨大な黒龍が一匹存在した。
 大きく羽を広げ、紅い瞳をギラギラと燃やしながらこちらを睨んでいる。
「ぁ…っ!」
 その身体から放たれる威圧感に耐えきれなくて、セトの身体は動くことが叶わない。
 半身を起こしたまま震えているその身体に黒龍が近付き、やがて大きなかぎ爪を持った手を大きく振り上げるのが見えた。
 殺される…っ!!
 余りの恐怖に思わず強く眼を瞑り来るべき痛みに身体を硬くしたが、だがいつまでもその衝撃が襲ってくることはなかった。
 恐る恐る瞳を開けると、そこには一匹の巨大で美しい白龍が、自分と黒龍との間に存在していた。
「青眼の…白龍…」
 思わず呟いたセトに白龍が振り返り、その青い眼をスッと優しそうに細める。

『青眼の白龍…。そなた…そこにいたのか…。やはりこの者は白龍の魂を引き継ぎし者…』

 半分意表を突かれ、半分予想していたかのように、黒龍は小さく息を吐く。

『白龍国の初代法皇に全ての力を与え、この世から消滅した青眼の白龍。時折その魂を引き継ぎし者の身に宿り、その者を生涯守り続けるという話は聞いていたが…。だが何故だ? そなたは今までその姿を一度たりとも現わしたことが無かった筈だ。それが何故今になって現れ、そして何故我を止めるのだ…白龍よ…』
『この子は私が護る子…。簡単に殺させる訳には参りません…。この子を護る為ならば、少ない力を解放し消滅する覚悟もございます』
『何故だ…白龍よ…。そなたは分かっているのか。その者は法皇という唯一無二の存在でありながら戦争などという愚かな事をしでかして、何千人という人間を死に追いやった大罪人なるぞ』
『この子はただ自国の民を救いたかっただけ…。それに罰ならもう受けています。皇宮にあっては周りの人間の蔑むような視線に晒され、そして何より愛する者を襲った悲劇に、この子の心はもう崩壊寸前にまで追い込まれています』

 白龍に庇われ、お陰で漸く身体の自由を取り戻したセトは、ゆっくりと歩み出て黒龍の前で膝を折り深く礼を取る。

「真紅眼の黒龍よ…。オレは大罪を犯しました…。それは良く分かっております。ですからこの後、オレは貴方に何をされようとも構いません…っ!! だけど一つだけ…っ! たった一つだけ願いがございます…っ!! どうか…どうか我が夫カツヤの命を…お護り下さいませ…っ!!」

 セトの必死の叫びに黒龍は暫く何かを考えていたようだったが、やがて深く息を吐き出すとセトに向かって話しかけた。

『ほぅ…、敵国の国主である我が子を、大罪人であるそなたが救おうと言うのか』
「カツヤは…、オレの全てだ…。戦争を起こし自国に攻め入ってきたオレを許し、命を助けてくれて、そして…愛してくれた…。カツヤがいたからオレは生きて罪を償う覚悟を背負うことが出来た…」

 必死の形相で涙を流しながら縋り付くセトを、黒龍はただ黙って見詰めていた。
 セトの目には嘘はなく、ただただカツヤに対する真摯な想いだけが強く伝わってくる。
 その叫びは確かに黒龍の胸に響いていた。

「頼む…黒龍よ…。カツヤを助けてくれ…っ! オレはカツヤを…愛しているんだ。あいつを失ってしまうなど耐えられない…っ! それに…この国にはまだカツヤの存在が必要なんだ。黒龍よ、カツヤを救ってくれるならオレは何でも致します! この命が欲しいというのなら差し上げても構わない…っ!! だから…どうか…っ!」

 強い意志を宿したセトの顔を見て、黒龍はその紅い瞳を緩やかに細めた。

『なるほど…よく分かった。それならば三年だ…白龍の子よ。三年間毎日我に願いをかけ続けるなら、その願い叶えようぞ。ただし一日でも休むと、皇帝の目は永遠に冷めることは無い。それでも良いなら願いの儀をするがよい』

 そう言ってそのまま後ろを向き羽を畳んで黒水晶に戻っていく黒龍の姿に、セトは再び深く頭を下げる。
 黒龍は黒水晶に戻り、白龍は何時の間にか姿を消していた。
 セトはゆっくりと立ち上がるとそのまま黒水晶に近付いていく。そして水晶の角で指先を軽く切り、流れ出る血によって『願いの儀』という言葉とその下に自らの名前を書き込んだ。
「真紅眼の黒龍よ…。お約束は守ります…。必ず…」
 消えていく名前を見ながら、セトは決心を固めるように小さく呟いた。


 それからはセトは毎日のように黒水晶に祈りを捧げに来た。
 それを上空から眺めて、瀬人はまるで自分の事のように思う。
 三年の祈りの年月は、自分の状況と余りに酷似していた。
 やがて場面が移り変わり、そこには三年後のセトの姿があった。
 約束の三年目の名前を書き込むと、突如そこに真紅眼の黒龍が現れる。

「真紅眼の…黒龍…」
『白龍の子よ…。約束の三年目だな…。まさか本当にやり遂げるとは思わなかったぞ…』
「黒龍よ…、お約束は守りました…! ですからどうか…カツヤの命を…っ!!」

 黒龍に縋り付くように訴えかけるセトを、黒龍は三年前とは違う優しげな目付きで見詰めていた。
『安心するが良い、白龍の子よ。皇帝は今頃目を覚ましているだろう…。そなたの祈りが彼を救ったのだ…。このあと感謝の儀をして皇帝の元へ戻るがよい』
 直接精神に聞こえて来るその声に、セトは漸く安堵したように笑みを浮かべた。
 そしてそのまま力を無くして、その場に膝を付いてしまった。

「あぁ…良かった…。これでカツヤは救われたのだな…」
『………』
「真紅眼の黒龍よ…、本当にありがとうございます…っ! これでオレは心置きなく死ぬことが出来る…」
『死ぬとは何事か? 白龍の子よ』
「何って…オレの罪は未だ消えてはいないのでしょう…? さぁ黒龍よ、あとは貴方のお好きなようにして下さいませ。オレの覚悟はもう…決まっております」

 無抵抗のまま身体を投げだそうとするセトに、黒龍はフッ…と笑ってみせた。
 その声に首を捻るセトに、黒龍は悟らせるようにゆっくりと言い聞かせる。

『白龍の子よ…。確かにお前の罪は償い切れてはいない…。人間の身には過ぎたる大罪、きっと来世にも持ち込まねばならぬだろう…』
「来…世…? オレが…このオレが犯した罪が…何の関係もない来世の人間にもたらされるというのか…?」
『そうだ。残念ながら来世のそなたは前世のそなたが犯した罪によって、生まれ出た瞬間から様々な試練に立ち向かわなくてはならなくなるだろう。だが嘆くな白龍の子よ。もし今のそなたと同じ試練を来世のおぬしも耐えきることが出来たなら…その時こそ我と白龍との力で本物の奇跡を起こしてみせようぞ』
「青眼の…白龍と…?」
『あやつもまた馬鹿な事をしでかしたものだ…。我からそなたを護る為に、未だ殆ど戻っていない力を使って現れたはいいが、そのせいでまた暫くは姿を現わす事も出来ぬ程疲弊してしまった…。次に姿を形作れるようになるには三百年程かかるのだろうな。だがもしその力を姿を現わす事では無く、我に協力して奇跡を起こす力に変換すれば…。来世のそなたにはきっと幸せが待っている事だろう。だから今生はもう普通の幸せを求め、静かに暮らしていくが良い』

 黒龍はその大きな翼を広げて、地下洞窟の天井を見上げた。
 それに釣られるように天井を見上げたセトに、黒龍は優しく告げる。

『さぁ、我はもう黒水晶に戻る…。あとは感謝の儀を行ない、念願の夫に会いに行くがよい…。あやつもそなたを待っておろうぞ…』

 そう言って黒水晶に戻った黒龍に深く礼をしているセトを見詰めつつ、瀬人は意識が次第に浮上していくのを感じていた。
 あぁ、またここで目が覚めるのだ…と、どこか冷静に感じながら目を瞑る。
 今まで見た光景と黒龍が言った言葉で、瀬人は何となくだが感じていた。
 多分、三百年前の愚皇であったこのセトとそのセトを愛したカツヤは、自分と克也の前世だったのだ。
 黒龍の言っていた『同じ試練』とは、あの戦争で離れ離れになった三年間と、その祈りの日々の事だろう。
 意識せずとも、三百年前のセトと同じ事を自分もしていたのだ。
 ならば…黒龍がそのあと言っていた『本物の奇跡』とは一体何なのだ…?

 瀬人が疑問に思った『本物の奇跡』は、その後暫くして彼等にもたらされることになる。

花菖蒲

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久々に自転車で遠出してきた二礼です、こんばんは。

二礼が日本人に生まれて良かったと思う瞬間。
それは花や鳥や虫などから四季を感じられる時です。
例えばまだ少し先の話なのですが、夏が終わった頃に草むらで鈴虫やコオロギが鳴き始めると「あぁ、もう秋なんだなぁ」と感じられますよね?
ところが外国の方は、この虫の音がタダの雑音にしか聞こえないそうです。
人づてに聞いたお話なので本当かどうかは知りませんが、もしそうだったら実に勿体ない話ですよねぇ…。
で、一体何が言いたかったといいますと、久しぶりにいいお天気だったので季節の花を見に行ったんですよ(´∀`)
我が家から自転車(ロードバイク)で40~50分程走った場所に、全国でもちょっと有名な菖蒲園がありましてですね。
丁度菖蒲祭りもやっていたので、サイクリングついでに行ってみる事にしました。
直射日光が滅茶苦茶暑くて頭がモワモワしましたけど(w)、菖蒲は凄く綺麗でした~!
こういう季節の花を楽しめるのも日本人の特権ですよね~。
来週は鎌倉に紫陽花を見に行こうかなぁ。
ちなみに写してきた写真を2枚ほどUPしてみまっす。
 

堀切菖蒲園(菖蒲)

堀切菖蒲園(全体)のサムネール画像


長編『奇跡の証明』の第二十一話をUPしました。
随分と長々と書いてきましたが、本編はどうやらあと二回分で終わりそうです。
まだ外伝が…ありますけどw
ファンタジーパロというのは二礼の元々の生息区域なので、最後まで楽しんで書く事が出来ました。
好き勝手にやり過ぎという感もありますけどね(´∀`;


以下は拍手のお返事になりま~す!


>発芽米子様

こんばんは~!
拍手とコメント、どうもありがとうございました~!

そうですよね!
表君はやっぱり最強ですよね!!
普段凄く優しいから、時折見せる強さが映えるというか何というか…。
精神的な強さでは、表君と城之内君はツートップだと思います。
逆にメンタル値で底辺にいるのは、王様と社長の二人ですよね…w
王様は言わずと知れた豆腐だし、社長は見た目は強そうだけどちょっとヒビが入ると一気に割れるガラスのようです(´∀`;
豆腐は潰さないように優しく持ったりして気を付けていればいいけど、ガラスはどこを突っつけばヒビが入るか分かりませんもんねぇ…w
やっぱり一番扱いが難しいのは海馬なのかもしれません(*'-')
でも、そんな海馬が大好きです!
ガラスハート、いいじゃないですか~(´∀`)
割れたガラスの修理は城之内君に任せてしまいましょうw

それから私が日記で言っていたMADは、米子様がおっしゃったそれで間違いございません!
最高に面白いMADですよね…アレwww
特に出だし最高です!
あのMAD内で誰かがコメントしていましたが、本当にニ/コ/ニ/コ/動/画では遊戯王もとい社長は愛されていると思います。
原作もアニメもとっくに終わっているのねぇ…。
お陰で私もこうして社長にハマる事が出来た訳ですが(*´∀`*)
これからも面白いMADが出てきて欲しいと願っています(*'-')

それではこれで失礼致します。
ではまた~(・∀・)ノシ


>Rosebank様

拍手とコメント、どうもありがとうございました~(´∀`)

今日もRosebank様の推理は凄かったですねぇ…。
コメントで頂いた予想は、その殆どが大当たりでございます!
更に、記録を付けた女官=イシズである事や、七年物のワイン=七年戦争という事、さらにそのワインを持って来た大臣達がセトに言いたかった事まで全て当っていました…っ!!
本当に凄いと思います!!

カツヤの難病の件はですね、長い歴史の中で湾曲されてしまった又は改ざんされてしまった記録という物を表現したくて、敢えて『難病』だったんだと現代の彼等に伝えてみました。
初代皇后が男であった事に気付いた克也も、流石に難病=毒死未遂だったと言う事には気付かなかったようです。
Rosebank様がおっしゃっているように、セトもカツヤも罪を犯しました。
特にセトの罪はとてもじゃないけど、セトの人生一世代で賄えるほどの重さではありません。
だから小説内では書きませんでしたが、彼等のその後の人生は、現代の瀬人と克也ほど幸せでは無かったでしょうね。
十九話で克也が示した資料にあるように、あの後もセトは殆ど皇宮から出る事は出来ませんでしたし、一生きちんとした記録を付けて貰えませんでした。
多分カツヤもセトの事に関して、周囲から厳しい意見をずっと言われ続けていたでしょう。
コレが所謂『人の業』というものですが、過去の彼等が体験した悲しみや辛さの分、現代の彼等には幸せが待っている筈です。
まぁ…そういう話を書きたかったので幸せにするつもりですけどねー(´∀`)

それでは今日はこの辺りで失礼致します。
ではまた~(・∀・)ノシ

( ゚∀゚)o彡°カーヴィ! カーヴィ!

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昨日からニ/コ/ニ/コ/動/画に釘付けな二礼です、こんばんは。

昨日は久々の社長MADで大爆笑してましたw
このUP主さんの作品は結構お気に入りで、私もいくつかマイリスさせて貰っているのですが…。
ほんっとリズム感が半端無いですwww
『R/E/D Z/O/N/E』も上手いなぁと思っていたのですが、あれから更に上手くなっていますよね(´∀`)
本当に凄いと思います!
特にOPで社長がカプセルに戻っていく描写と王様の爆死で腹筋が崩壊しましたw
そして腹筋にダメージを残したまま今日もニコってたら、今度はバ/行/の/腐/女/子ですよ…w
相変わらずの歌唱力に無駄に上手い歌詞wwwww
まwぐwわwうwっwてw
笑い過ぎて死ぬかと思いましたw
うんうん。良く分かるよ。
『俺様』キャラは受けだよね!!(*´∀`*)


あー! そう言えばこれだけは忘れちゃダメですよね!!
表君、お誕生日おめでとうございました!!(一日遅れなので過去形でw)
ウチは城海サイトなので表君の出番は余りありませんが…、それでも二礼は彼が大好きです(´∀`)
争い事が何より嫌いでとことん優しい癖に、その中に揺らぎ無い強さを持っている表君。
まさに尊敬の対象です!
表君がいなかったら、城之内も海馬も救われる事は無かったんだろうなぁ…。
そう思うと、やっぱり彼は凄いなぁ…と改めて感じました(*'-')
近いうちに何かSSでも書こうかなぁ…。


長編『奇跡の証明』の第二十話をUPしました。
に…二十話だと…っ!?
私こんなに書いてたんだ…;
二十の数字に自分で驚きました(´_ゝ`;
さて、今回は三百年前のお話をちょろ出しでございます。
過去のお話を長々とするつもりはありませんので、今回と次回のみのストーリーです。
現在の瀬人と区別する為に『セト』表記にしてありますが、あの古代エジプトの神官セト様とは全く違う人物になります。
見た目は普通の社長と同じで良いかと。
いっその事ヘルモスとクリティスの名前を借りれば良かったか…。
ま、いっか。


以下は拍手レスになります~(´∀`)


>榊弛亞様

初めまして~! ようこそいらっしゃいませ!
二礼しげみと申します!(・∀・)

拍手とコメント、どうもありがとうございました~!
『アンニュイな僕ら』の社長にドキドキして下さったのですねw
ありがとうございます(*'-')
あの社長は確かに策士ですよね~。
多分あの社長は、城之内君が何を言いたいのか全部分かっている上で、ニヤニヤするだけで何も言わないんだと思います。
そんな社長はその日の夜の内に、さっさと城之内君に食われてしまえばいいと思いますw

それではこれで失礼致します。
もし宜しければ、これからもお暇な時にでも遊びに来て頂ければ幸いに思います~!
ではまた~(・∀・)ノシ


>橘 ポチ様

こちらでは初めましてです~(*´∀`*) ようこそいらっしゃいませ~!
拍手とコメント、どうもありがとうございました!
ていうか、いつも拍手して下さっていたのですね…っ!
どうもありがとうございます! 大感謝です!!

ポチ様のイラストを見て思わずSSなんぞを書いてしまいましたが…、あんな話でスミマセン(´_ゝ`;
私がアメルダの事を『アメ公』呼ばわりしてるのはですね、半分奴を馬鹿にしている節があるからなのですw
だってあの子…凄いお馬鹿なんだもの…w
何か厨二病っぽいとこあるしw
まぁ、そんなお馬鹿っぽいところがまた愛しい訳ですが(´∀`)
ちなみに、社長の下着は絶対ボクサーブリーフが良いですよね!!
黒もいいけど、グレーとか紺とかも似合いそう…(*´д`*)ハァハァ
ボクサーブリーフって身体にぴったり密着するから、あの柔らかい布地の上からケツとかグニグニ撫で回したいですw
あ、でもグレーだと染みがちょっと目立っちゃうかrちょ誰だ貴様何をすrqあwせdrftgyふじこlp;@!!

それでは今日はこれで失礼致します。
ポチ様のところにはこれからも遊びに行かせて貰いますね~(*´∀`*)
それではまた~(・∀・)ノシ


>海鈴様

こんばんは、お久しぶりです~(´∀`)
拍手とコメント、どうもありがとうございました~!

そうですか、ブログコメントは見えていませんでしたか…(´・∀・`)ザンネンデース
今度また別にコメントをさせて頂ますね~!

それはそうと、ボクサーブリーフが不意打ちで申し訳ないですw
いや、社長に普通のブリーフとかトランクスとかってなかなかイメージしにくいものでwww(あ、でもビキニパンツはありかも…)
海鈴様のおっしゃられる通り、社長には身体の線にぴったりな服がよく似合いますよね~!
あのハイネックは本当にエロイと思います!!
肌が殆ど見えていないのに身体の線が丸分かりで、その辺がまたムラムラ来ちゃうんですよ…w
しかもあんなぴったりなハイネックなんて着てたら、乳首が立った時とか一発でバレちゃうじゃん!! …とか思った私は死んでもいいと思います(´―`)

海鈴様に言われて気付きましたが、社長は本当に城之内の人生に深く関わっていますね。
王様の影響も強いと思いますけど、こうして見ると社長の影響の方が強く見えるから不思議ですw
ある意味城之内君がここまで強くなれたのは、社長のお陰と言っても過言じゃ無いと思います(*'-')

それでは今日はこれで失礼致します。
ではまた~(・∀・)ノシ


>Rosebank様

拍手とコメント、どうもありがとうございました~!!

『アンニュイな僕ら』の感想、どうもありがとです~(´∀`)
ウチのサイトでは珍しい恋人未満の二人でしたけど、基本中身はいつものとそんなに変わりませんでしたねぇ~w
Rosebank様の『大企業の学生社長が元不良学生に抱かれる』というコメントには、読んだ瞬間私も萌えまくりました!!
高校生という肩書きの城海なら爽やかささえ感じるのに、どうしてこういうバックグラウンドを出すだけで禁断の愛っぽくなるんでしょうねぇ…(´¬`)
確かに凄くエロイです!!
Rosebank様のおっしゃる『もっと深い所で繋がっていて互いに無くてはならない存在』という表現には私も激しく同意です!
かたや大企業の学生社長、かたや元不良の勤労学生。
立場も性格も何もかも違うのに、この二人の魂は同じ場所にありますよね。
むしろ組み合わせるべき魂の片方ずつを持っているのが、海馬と城之内なのかもしれません。
立場が全く違うとか男同士だとか、この二人にはどうでも良い事なのでしょう。
一度組み合ってしまった魂は簡単に外れる事は出来ませんし、多分一生そのまま。離れる事なんて出来る筈がありません。
というよりは、二人で一つの魂を共有しているような気がします。
私ももっと精進して、こんな風に強い魂の繋がりを持った二人を書く事が出来れば…と思っています(*'-')

それと日記にも書いてありますが、『激/流/海/馬/河』と『f/u/j/o/n/e/t』は私も見て爆笑していましたw
『激/流/海/馬/河』の方は相変わらず半端無いリズム感とネタの宝庫で素晴らしかったし、『f/u/j/o/n/e/t』の方は余りにも理解出来過ぎる歌詞に笑いが止まりませんでしたw
やっぱ『俺様』系は受けですよね~w
歌詞が城之内と海馬を見ている二礼の気分そのものだったので、もう即マイリスに入れました(´∀`)
これでまたニ/コ/ニ/コ/動/画から離れられなくなりそうですw

それでは今日はこの辺りで失礼致します。
ではまた~(・∀・)ノシ

第二十話

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 お許し下さい、我が守護龍よ。
 彼に出会ってしまってから、私の運命は変わってしまいました。
 敵であると知りながら、それでも彼を愛することを止められなかったのです。
 お許し下さい、お許し下さい。
 それでも私は彼を守りたいと思ったのです。


 克也が無事戦争から帰って来て、そして漸く二人が結ばれたその日の夜から、瀬人は時々不思議な夢を見るようになった。
 その夢はいつも同じ始まり方で、いつも同じように終わり目が覚める。
(あぁ…。またいつもの夢だ…)
 眠りに入った瞬間から、瀬人の意識はまるで時を超えるように三百年前の白龍国に飛ばされていた。


 始まりはいつも同じ。
 まず祈りの言葉から始まるのだ。
 お許し下さい、我が守護龍よ…と声が聞こえる。
 誰かが言っているその守護龍が、真紅眼の黒龍の事なのか、それとも青眼の白龍の事なのかは分からない。
 だけどその祈りはいつも真摯で美しかった。
 そしてその祈りの言葉が終わるのと同時に、一人の男が現れる。
 男は法皇宮のテラスから冷たい雨の降る街を見下ろし、そこから見える惨状に悲しげに溜息を吐いていた。
 この年は平年以上に雨が長く続き、ただでさえ痩せた土地で無理に作っている作物が不作となり、白龍国には飢饉が訪れていた。
 生まれたばかりの赤ん坊やまだ幼い子供達、体力のない病人や老人が次々と餓死していく。
 建国以来ずっと法と規律を守り清廉潔白な国家作りを守って来たが、貧しさは無慈悲にも民の命を次々と奪っていく。
 その様もいつも黙って見ていることしか出来ず、男は悔しげに唇を噛みしめた。
 法皇として白龍国を統べる立場に君臨しながら、この状況に対して彼は全くの無力であった。
 世の無情と悔恨と焦燥と、そして何より悲哀が胸を締め付ける。
 降り続ける冷たい雨を睨み付けるように眺めていると、やがて背後のドアが開き白龍国軍の将軍が姿を見せた。
「セト様」
 呼びかけられた声に振り返る。

「将軍か。よく来てくれたな」
「はい猊下。私めに火急の用事とは…一体どのようなことで?」

 セトと呼ばれた男は振り返り、やって来た将軍をじっと見詰めた。
 そして何かを決心したように口を開く。

「戦争を始める。この国の民をこれ以上死なせない為にも、あの豊かな国を…黒龍国を手に入れるぞ」

 法皇宮のテラスで繰り広げられるこの光景を上空から見下ろして、瀬人は確信する。
 これは三百年前の時の記憶。
 そして自分にそっくりなこの男は、かの有名な愚皇なのだと。


 セトの言葉に将軍が頷き部屋を出て行くと、突如風景ががらりと変わる。
 場所は法皇宮の謁見の間。
 法皇宮は既に入り込んだ黒龍国軍の手によって占拠されており、謁見の間には二人の男が向かい合わせで立っていた。
 一人は短剣を持ちそれを相手に向けているセト。そしてもう一人は黒い鎧に緋色のマントをはためかせている克也にそっくりな男だった。
「無駄な抵抗は止められよ、法皇殿。もう戦争は終わりだ。これ以上の犠牲者は出したくない。例えそれが貴方であっても…だ」
 克也にそっくりな男がセトを止めようと一歩前に出ると、逆にセトは一歩下がり、だが短剣を下に降ろすことは無かった。

「黙れ…っ! あんな豊かな国に住んでいる者が我らの苦悩など理解出来るものか…っ!」
「真の理解は出来ないかもしれない。だが、この国の民が飢えに苦しんでいることは分かる。貴方がその為に戦争を起こした事も…。この国は我が黒龍国が救おう。約束します。だからそれ以上の抵抗はもう…」
「煩い…っ!! このまま白龍国が貴様の国の属国になるくらいなら…せめて皇帝である貴様の命だけは貰っていく…っ!!」

 震える声で叫んで短剣を目の前の男に突き刺そうと走り出した。
 だが寸でのところで手首を捻られ、その余りの痛さに持っていた短剣を床に落としてしまう。
 カツーンという軽い音を立ててそれが床を滑って行くのを、セトは腕の痛みに苦しげに呻きながら見ていることしか出来なかった。
 悔しげに俯いているその顔を、ふと皇帝の手が持ち上げまじまじと見詰める。
 そこで初めて青い瞳と琥珀の瞳が交差した。

「………」
「………」

 二人とも何も言えず暫くそのまま動けなかった。
 どのくらい時間が経ったのだろう。やがて黒龍国の皇帝が腕の力を緩めて、脇に控えていた兵士の元に連れて行った。
「とりあえず法皇猊下を牢にお入れしとけ。ただし高貴な身分のお方だから、決して乱暴はしないように。丁重に扱いなさい」
 兵士の手によって連れて行かれるセトを見送った皇帝は、側にいた側近に指示を出す。

「おい、お前に頼みがある」
「なんでございましょうか、カツヤ様」
「今すぐに本国に連絡を。あの法皇にそっくりな囚人を寄越せとな。青い眼の持ち主で、髪型や髪の色等もなるべく似せてくるように命じろ。ちなみに何か下手な事を言われたら不味いから、喉を焼いて言葉を話せないようにしておけ。なるべく殺しても構わないような重罪人がいい」
「替え玉…ですか?」
「あぁ…。オレはあの人を死なせたくはない…」

 皇帝らしく威厳を持って話すその男に、上空から見ている瀬人は既視感を覚える。
(克也…?)
 思わず心で呼びかけると、また場面が変わった。


 黒いフードを目深に被り、セトは替え玉と入れ替えに外に出てきた。
 そのまま克也と共に馬車に乗り込み、白龍国を出て黒龍国へ向かう。
 流れる景色を馬車の窓から眺めつつ、セトはその美しい光景に見とれていた。

「美しい…豊かな国だな」
「そうか?」
「あぁ…。我が国とは全然違う…。この国の民は飢饉に苦しんだ事など…あるのだろうか?」
「それなりにあるとは思うが」
「あぁ…。それでも白龍国よりはマシなのだろうな」

 セトは風景から目を逸らさず、淡々と喋り続けた。

「皇帝よ。オレはどうなるのだ? 黒龍国で公開処刑か?」
「そんな事はしない。貴方は人質として我が国に嫁いで頂きます。オレの妻に…なって貰います」

 カツヤの言葉にセトは目を丸くして、漸く目の前の席に座っている男に視線を向けた。

「貴様…正気か…? オレは男だぞ…」
「オレはいつだって正気だよ。それにしてもおかしいな。あの時感じた気持ちは同じだと思ったのに」
「何が…だ…?」
「誤魔化すなよ。あの時オレに惚れただろ? まぁオレもそうなんだけど」

 妙に自信たっぷりにそう言われ、セトは二の句が告げなくなった。
 自分の言うことに間違いは無いという自信満々な顔をされ、ふと可笑しくなってプッと吹き出してしまう。
 セトが笑い出したのを見て、初めてカツヤが焦りの色を見せ始めた。
「え…? もしかして違ったのか…?」
 心配そうに尋ねるカツヤに、セトは首を横に振った。
「いや、違わない。多分それで合っている…」
 セトの答えにカツヤが嬉しそうに微笑んだ。
 二人が初めて幸せそうな顔で向かい合っているのを見届けると、そこでまた光景が移っていく。


 次に見えたのは皇宮内の光景だった。
 皇宮内にいる大臣や神官それに女官など全てが、皇后としてのセトの存在を無視し続けていた。
 敵国からやって来た上に男であるセトには、誰も彼もが冷たい視線を向け、用事が無い限り彼に近付こうともしない。
 しかもどこから漏れたのか、セトが元白龍国の法皇であるという事は既に周知の事実となってしまっていた。
 その為、本来ならば皇帝や皇后の行動の記録を取らなければならない係の者も、セトの存在自体を記録として残したくないらしく一切書物に記す事もなかった。
 唯一皇帝から皇后の世話を頼まれた専属女官のイシズという女性だけは、セトに好意を持って付き合っていた。
「セト様。湯浴みの時間でございます。お着替えを手伝いますので、さぁこちらに…」
 跪いてセトの服を脱がそうとするイシズから、セトは慌てて一歩離れる。

「い…いいと言っているだろう…! 湯浴みや着替えくらい自分一人で出来る…っ!」
「そうは参りません。セト様は皇后で、私は女官でございます。私にはセト様のお世話をする義務がございます」
「いいと言っているのだ…っ! 皇后とは言ってもオレは男なのだ…っ。女性に服を脱がして貰うなど…ましてや湯浴みを手伝って貰うなど、とんでも無い事だ!!」

 頑なに手伝いを拒むセトに、イシズは苦笑しながらそれでも無理矢理手伝っていった。
 男だということもあるが、白龍国の元法皇という肩書きを持っている為に、セトは皇宮の奥から姿を現す事が出来なかった。
 セトに否定的な視線の中で、ただ黙って毎日を過ごしていくしか無かったセトに、イシズの存在はどれだけ大きかった事だろう。
 まるで白龍国にいた頃の自分を思い出して、その光景を眺めていた瀬人は溜息をつく。
 そして再び場面が変わるのを感じていた。


 新たに目の前に広がった場面は、皇后の私室の中だった。
 真っ青な顔をして椅子に座っているセト、そして目の前には含みのある笑みを浮かべた黒龍国の大臣達が数名。
 セトの前のテーブルには一杯のワインが置かれていた。
「さぁ、皇后陛下。我々からの贈り物のワインです。質の良い葡萄が採れた七年もののワインなのですよ。どうぞこの場でお飲み下さい」
 彼等の言っている『七年もののワイン』が何を指しているのか、セトにはよく分かっていた。
 そしてこのワインには毒が入っていることも。
 よりにもよってイシズのいない隙を狙ってやってきた大臣達は、堂々とこの場でセトを暗殺しそれを見届けようとしていた。
 あぁ…だがそれはそれで良いのかもしれない。
 そう思いながら、セトは震える手でテーブルの上のワイングラスを引き寄せた。
 戦争が終わり、今になって漸く思い知らされたのだ。
 自分が如何に愚かな決断をし、どんなに悔やんでも取り返しの付かない事をしてしまったのか。
 戦争によって死んでいった幾千の人達は戻っては来ないが、それでもこの命一つで少しでも詫びることが出来るなら…それでもいいと思ったのだ。
 グラスを持ち上げ縁に唇を付けようとしたその時、突如部屋の扉が開いてカツヤが乗り込んできた。

「セトッ!! 飲むな!!」

 カツヤの叫びにビクリと反応し、セトは身体を固めてしまう。
 その間にセトの近くまでやってきたカツヤは、セトの手からワインの入ったグラスを取り上げた。
「大臣…。これは如何なる騒ぎだ? 説明願おうか?」
 琥珀の瞳に怒りの赤を混ぜながら睨み付けるカツヤに、大臣達は慌てて膝を折り臣下の礼を取った。

「皇帝陛下…。我々は別に何もしてはおりませぬ…。ただ上等のワインを皇后陛下に飲んで頂きたくて…」
「そうか。それにしてはこのワイン、まるで毒入りのように見えるがな」
「と…とんでもございません!! 毒入りなど…滅相もない。誤解でございます、皇帝陛下」
「その言葉…信じても良いのだな」
「勿論でございます…!!」

 冷や汗を掻きつつ必死に言い訳する大臣達に、カツヤはそれでも鋭い眼光を緩めることはしない。
 そして何を思ったか、ワインのグラスを自らの口に近付けた。

「陛下…? な…何を…?」
「お前達が言うこの上等のワイン。毒入りで無いならオレが飲んでも支障はない。ん? そうであろう?」
「カツ…ヤ…? や…やめ…っ!!」

 セトはカツヤの次の行動を危惧して止めようとしたが、だがそれは叶わなかった。
 持っていたワイングラスを傾けてその中身を一気に煽ったカツヤは、やがて苦しげに呻いたかと思うとその場に倒れ込んだ。
 カツヤは多分、飲んだワインが毒入りであった事を証明する為にわざと飲み、それを証明した後は直ぐに吐き出すつもりであったに違いない。
 だが大臣達がセトがそれをするのを阻止する為に速攻で意識を失わせる薬も入れていた為、毒は吐き出される事もなくそのままカツヤの身体を蝕んでいった。
 大臣達が慌てふためいて皇帝の身体に縋るのを、セトは棒立ちになって見ていることしか出来ない。

 い…や…、いやだ…っ!
 だ…誰か…っ!!
 誰か助けてくれ…っ!!
 誰か…っ!! カツヤを助けてくれ…っ!!

 セトの心の悲鳴が痛いほど流れ込んできて、その光景を見ていた瀬人も胸を押さえて蹲る。
 心臓がバクバクと高鳴るのを押さえつけて顔を上げると、そこはまた違う光景になっていた。

馬鹿だけど愛しいアメ公

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ドーマ編のオリジナルキャラの中ではアメルダが一番のお気に入りな二礼です、こんばんは。

まぁウチは見ての通り城海サイトで、私自身あまりCPの浮気は致しません。
(だからと言って他のCPが嫌いかというとそうでもなくて、他の方が書いた表海とか闇海とか表闇とかは大好物です(*´д`*))
なので、海馬を絡めたCPでは城海以外書く気は無かったのですが…。
とあるサイト様でアメルダ×海馬のイラストを見てしまいましてね…w
それがめっちゃ萌えだったんです!(*´∀`*)
それで突発的にアメ海を書きたくなっちゃんですけど、ちゃんとした小説にすると自分の信条を曲げる事になっちゃうので、日記でSSとして書く事にしました。


城海前提のアメ海(アメ公視点)です。
(一応反転させますZE!)

久しぶりに会った君は僕を見て多少訝しんでいたようだけど、モクバと仲良く遊んでいる姿を見てすっかり警戒心を解いてしまったらしい。
夕食までご馳走してくれて、最終的には僕を泊めてくれるとまで言い出した。
流石に宛がわれた部屋は客室だったけれど「眠くなるまで少し話さないか?」なんて尋ねたら、あっさり自室に招いてくれた。
甘いよ海馬。
普段はどこにも隙の無いような態度を取っている癖に、妙なところで抜けてるんだからなぁ。
そんなんだから飲み物に即効性の睡眠薬なんて入れられて、こうして僕の前であられもない姿で眠り込んじゃったりするんだよ。
据え膳食わぬは男の恥って言うしね。
まぁこれは僕が自分で用意した据え膳なんだけど。
「んじゃ、いただきま~す」なんて言いながら、彼のシャツのボタンに手を伸ばす。
一つ一つボタンを外していくと、そこに現れたのは肌理の細かい美しい白い肌。
だけどその肌のところどころに、消えかかった赤い充血痕が残っている。
あぁ、そう言えば恋人がいるって言ってたっけ。
相手はあの城之内克也だそうだね。
僕はてっきり君と奴とは仲が悪いと思ってたんだけど…意外だな。
KCマークの付いたベルトもカチャカチャと音を立てて外してスラックスを下げると、ピッタリと肌に張り付く黒い下着がお目見えした。
「へぇ~。ボクサーブリーフ派なんだ。いいね。良く似合ってる」
白い肌に黒い下着が良く映えて、それだけで欲情する。
ゴクリと生唾を飲み込んで下着にも手をかけると、突然「う~ん…」と海馬が反応した。
それまでまるで死んだように眠り込んでいたので驚いて顔を上げると、ぼんやりとした焦点の合わない青い瞳をこちらに向けて海馬が僕を見ていた。
「海馬…?」
思わず呼びかけると、海馬がフッと微笑んだ。
そして…。

「じょ…の…うち…」

ねぇ…反則だよ…コレ…。
そんな花が綻ぶような柔らかな笑顔を浮かべて、聞いたこともないような優しい声で、彼の名前なんて呼ばないでくれよ。
僕はもうこれ以上…何も出来やしない…。
肌蹴てしまったシャツを元通りにしてスラックスもちゃんと履かせて、僕は彼の身体からそっと離れる。
海馬は何時の間にか、また眠りの世界に落ちていた。
「今日は…ゴメン…。今度はちゃんと正面からアタックするから…」
でもきっとダメだろうね。
あんな顔と声で名前を呼ぶような男が相手じゃ、僕に勝ち目なんてありゃしない。
だけど君にだけは軽蔑されたくないから。
だからもう二度と卑怯な真似はしないと誓うよ。
それが僕の君に対しての愛だから。


ここまで書いて何ですが、アメルダの一人称って『僕』でいいんでしたっけ?(´∀`;
『オレ』ではなかったような気がしますが…。
ま、いっか。


短編『アンニュイな僕ら』をUPしました。
ここ数日間は二礼の気分もアンニュイだったので、どうせならそれを利用してやろうと思いましてね。
感じていた気分のままに書いてみたんですけど…。
出来上がってみたらいつもの小説と余り代わり映えしませんでした(´∀`;
まぁ、『城海』として出来上がってない二人のお話なので、珍しいっちゃー珍しいかもしれませんw
たまにはこんなお話も有りって事でどうですか?


以下は拍手のお返事でございます~!!


>散様

こちらではお久しぶりでございます~!!
拍手とコメント、どうもありがとうございました~(*´д`*)

私が更新日を決めてUPしているのはですね、こういうのをちゃんと決めないと絶対放置プレイになってしまうからなんです(´∀`;
予定が決まっていないと終始ダラダラしちゃって、結局何もせずに終わってしまうというパターンが多いもので…w
アレですね。
自主的に勉強が出来ない子供と一緒です。
常に後ろから追い立てられないとやるべき事をやれないんですよ…。
ダメだこりゃw

コンビニはしなきゃいけない仕事が色々あって、意外とやり甲斐のある仕事ですよね~。
結婚前は普通にOLやってましたけど、どうやらこっちの方が性に合っているようです(*'-')
ちなみに料金関係は別に難しくはないですよ。
バーコードをピッとしてスタンプを押すだけなのでw
むしろ商品券関係の処理が面倒臭いですよね…;
出されるといまだに動揺しますw
ダメだこr(ry

それでは今日はこれで失礼致しますね~!
私も散様の所には、これからも遊びに行きたいと思っております(*´∀`*)
ではまた~(・∀・)ノシ



>Rosebank様

拍手とコメント、どうもありがとうございました~(・∀・)

はい、そうです!!
側室を取らないで養子を取ればいいという件については、まさにRosebank様の予想通りでした~!!
初期の段階で養子の事を推理されてしまって、二礼が密かに焦っていたのは秘密ですw
それでも何とかここまで辿り着けて良かったです、本当に。
Rosebank様にネタバレをするのも二礼の楽しみの内の一つなので、これで漸く養子の件が片付いたと安堵しているところです…w
三百年前の皇帝と皇后のイメージはですね、Rosebank様が脳裏に描かれたそれでまず間違いないと思います。
そのイメージを持ったまま、金曜日のUPをお待ち下さいませ。
多分疑問に感じられていた事が解明出来るかと思います。
何せファンタジーパロなもんでw 何でも有りなんですよ~(´∀`)
フヒヒw パロディ楽しぃ~!!

話は変わりますが、カレンダーを全部持ってらっしゃるなんて…!!
羨ましい限りです!!
私もネット上で何枚か絵を見たことはありますが、その中でも特に青眼の白龍が海馬に絡みついてる絵が一番エロ格好良いと思いました!(*´д`*)
なんでしっぽを社長の太股にグルグル巻きにしますかね?w
滅茶苦茶エロイんですけど…アレwww
加/々/美…、アレはやり過ぎだよ…。
いいぞ!! もっとやれ!!
(もうやらないと思うけど…orz)

あと証明三海馬(瀬人)の座談会ですけど。
確かに勇気海馬が一番悲惨な目に会っていますね。
Rosebank様の仰る通り、アレは勇気海馬が男だから成立したお話でした。
真実海馬や奇跡瀬人じゃ、あんな状況は耐えられないと思います。
それに真実海馬や奇跡瀬人は結婚できますけど、勇気海馬はあくまで男同士で結婚できませんからねぇ…。
自分で書いておいて何ですが、だからこそ彼にはとことん幸せになって欲しいと思っています(*'-')

それでは今日はこの辺りで失礼致します。
ではまた~(・∀・)ノシ

アンニュイな僕ら

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城之内+海馬。
城之内の一人称。
まだ恋人未満の二人のお話です。

 




 暦が五月から六月に移って、爽やかな五月晴れの空からじめじめとした曇天が多くなり、それに呼応したかのようにオレの心も落ち込み気味になっていた。
 はっきり言って雨が多くなるこの季節は嫌いだった。
 雨が降ると普段忘れている寂しさを思い出す。
 台風とか雷雨とか、そういう激しい雨なら別にいい。
 だけど梅雨時独特のしとしとと降るあの雨の音は、幼い頃の孤独感を思い出すのだ。
 母親が妹を連れて出て行ってしまったあの日から、何の物音もしない誰の気配もない家で一人目覚めるのは辛かった。
 親父に関して言えば、朝は飲んだくれて鼾をかいて眠っているかまだ外から帰っていないかのどちらかだったので、必然的に早朝は自分だけの時間になる。
 それでも外が晴れていれば良かった。
 部屋のカーテンを開けて明るい陽光を受ければ、それだけで気分は明るくなった。
 絶望的な毎日を暮らしていても、太陽の光を浴びればまだ明日は信じられたんだ。
 だけど雨の日は違う。
 未だ布団の中で半覚醒状態でいる時から耳に届く静かな雨音。
 ゆっくりと起き上がってカーテンを開けてみてもそこに明るい陽光は無く、どんよりと暗い空から幾筋も落ちてくる涙の滴。
 普段我慢している涙を目の前で見せつけられてようで、気分が悪かった。
 そういう時、オレは強く目を瞑って百まで数える。
 閉ざされた真っ暗な世界で百数え終わるまで光を見るのを我慢すれば、次に目を開けた時、きっと世界は変わっているだろう事を期待して。
 勿論そんな事は一度たりとも叶った事はなかった。
 百数えようが二百数えようが、オレのいる場所は団地の三階の角部屋で。母親は妹を連れて出て行ったままだったし、親父は相変わらず飲んだくれてオレに暴力をふるい続ける。部屋は常に酒臭くて、床には酒の空き瓶がいくつも転がっていた。
 それでもオレはそのオマジナイを止めることは出来なかった。
 もしかしたら…、もしかしたら自分でも気付かない程度の小さな変化が起こっているのかもしれない。
 これをやったことで、やらなかった時より少しはマシになっているのかもしれない。
 ただの気休めかもしれないけど、そのオマジナイはオレの気力を回復した。
 だから今でもこの季節はそのオマジナイをする。
 馬鹿馬鹿しいとは思うけど、どうしても止める事は出来なかった。


「きゅ~じゅ~ろく。きゅう~じゅ~なな。きゅ~じゅ~はち。きゅ~じゅ~きゅう。ひゃ~く」
 百数えきって、オレはそっと瞼を開けた。
 だけどそこに見えたのは、先程までと変わらない今にも雨が降り出しそうな灰色の重い空。
 学校の屋上に吹く風は、この季節独特の湿り気を吹くんだ纏わり付くような不快な空気。
 陽光の射さない暗い教室に息が詰まって、こうして授業をサボって屋上まで来てみたけれど、梅雨時の曇天は余計にオレの心を暗くした。

「やっぱりダメか…。どうしても雨は降っちゃうのね…」
「何を当たり前の事を」

 ボソリと口に出してそう言ったら突然後方からそんな声がして、オレは慌てて振り返った。
 一体いつの間に来ていたのだろう。
 そこには給水塔の脇のコンクリートに座り込んだ海馬がいて、膝の上に載せたノート型PCを弄りながらオレを見ていた。

「え…? ちょっ…! お前いつの間に来てたんだよ!」
「貴様が五十台を数えていたくらいからだな」

 ヤッベ。数を数えるのに夢中でコイツの気配に全く気付かなかった…。
 今まで誰にも話したことの無かった秘密のオマジナイの現場を見られて、オレは少なからず動揺してしまう。
顔を真っ赤にしておろおろしてしまうけれど、海馬はそんなオレに何の興味も無いかのように再びモニターを見詰めると、パチパチと何かを打っていた。
 終業のチャイムはまだ鳴っていない。
 という事は、コイツもまた授業をサボってココに来ているという事だった。
 さっきまではオレ一人しかいなかった学校の屋上。
 だけど百数えきって目を開けてみたら、何時の間にか海馬が存在していた。

 世界が変わった…っ!

 何故だかオレはそう確信した。
 オレがオマジナイをしようがしまいが、世界がそんな簡単に変わる事なんてあり得ない。
 海馬が屋上に来たのはただの思いつきかも知れないし、屋上に通じる扉が開いた音にも海馬の足音にも、そしてその気配にすら気付かなかったのはオレの不注意だけれども。
 でももしオレがオマジナイをした事で、海馬が屋上へ行こうと思い付いたのだとしたら…?
 そんな可能性を考えずにはいられない。
 せっかく変わった世界なのだ。
 オレは普段やらないことをやってみようと思った。
「なぁ…海馬」
 振り返ってそっと近付いて、海馬の隣に腰掛ける。
 オレの気配に気がついた海馬は何か言いたげにこっちを見たけど、特に文句を言うような事は無かった。

「何でお前、こんな場所にいるんだよ。まだ授業中だろ?」
「別に。天気が悪くて教室が異様に暗かったからな。同じ暗さならまだ屋上の方がマシかと思って来ただけだ」

 オレが先程までやっていた奇行に関しては何も言及せず、オレの質問に普通に答えてくれる。
 いつもは駄犬だの凡骨だの口汚く罵られ、それに対するオレの反論にも鼻で笑うくらいしかしないコイツとこんな風に普通に会話してるなんて、何だかそれが凄く意外だった。
 意外だと思ったけど…ちょっぴり嬉しかったのも事実だ。

「オレさー。梅雨って苦手なんだよね…」

 唐突に喋り始めたオレに、海馬が視線を上げる。
 じっと見詰めてくる青い瞳に、オレに対する興味が浮かんでいた。
 珍しい。
 海馬のこんな視線を感じた事なんて、今まで一度だって無かった。

「梅雨っていうより雨が苦手。豪雨とかじゃなくて、こういうシトシトジメジメした感じの」

 オレの言葉に海馬は何も言わない。
 だけど瞳を少し細めてその先を促していたから、オレはそれに甘えて話を続ける事にする。

「特に目覚める直前に聞こえてくる、外からの雨音が嫌だ。何か寂しい感じするじゃん?」
「あぁ、それは分かるな」

 オレの言葉に初めて海馬が反応した。
 しかもオレの話に同意した。

「そういう日ってさ、カーテン開けても薄暗くってさ-。一気に気分が落ち込むんだよね」
「そうだな。言葉にするなら、希望が全て失われた感じがするな」

 驚いた。
 海馬が言った台詞は、まさにオレの心情そのものだった。
 たかが梅雨時の雨一つで、ここまで同じ感覚を持っている奴に出会えるなんて思ってもみなかったのだ。
 しかもそれがあの海馬だという事が、オレの気持ちを昂ぶらせていた。

「お前も雨…苦手なの?」
「苦手と言うより嫌いだな。あの薄暗さと静かな世界は、孤独感を倍増させる」
「あぁ、分かる分かる。何か世界に一人ぽっちになったような感じするよな」
「まぁな…」
「でも驚いたな。お前がそんな風に感じているなんて」
「何でだ? 貴様はオレをどういう風に見ているのだ」
「えー。なんつーか、怖い物なんて一つもありませんって感じするじゃん」
「オレだって普通の人間だ。怖い物の一つや二つはあるぞ。まぁ以前のオレだったらそんな事は感じもしなかったんだろうけどな。最近は…」

 そう。
 海馬は最近、凄く変わった。
 アテムに砕かれた心を一度組み直してから、少しずつ少しずつ。
 アテムが冥界に帰ってからもその成長は続いているようで、遊戯もよく「最近の海馬君はとても付き合いやすい」と言っていた。
 それはオレも感じている。
 ただ今までこういう風に普通に話す機会が無かっただけだ。
 これはいいチャンスだと思う。
 オマジナイによって変えられた世界が与えてくれた、唯一のチャンス。

「海馬がオレと同じような感覚を持ってるのって…不思議だ」

 このチャンスを活かして、もっともっとコイツと話したいと思った。

「そうか?」
「うん。だってお前いっつもオレの事を馬鹿にしてただろ。自分とは違う存在みたいにさ」
「あぁ…。まぁな」
「まぁなってお前ね…。でも、まぁ…もういいや。何かどうでも良くなってきた」

 気持ちが暖かくなる。
 何だろう…この気持ち。
 心臓がドキドキして胸の中心から熱が広がるようなこの気持ち。
 嬉しいんだけど悲しくなるようなこの気持ちの事を、オレは知っていた。
 確かに知っている筈なのに、上手くそこまで繋がらない。
 まるでこの曇天のようにはっきりしない気持ちに焦れて空を見上げる。
 雲が晴れて太陽が出てくれれば、はっきり分かりそうなのに…。

「あーあ。明日は晴れてくれるかなー? 土曜だからいい天気だといいのに」

 どんよりと曇った空を見上げてそんな事を言ったら、海馬がこちらを向いたのが分かった。
 そして徐にPCを操作すると、「城之内」とオレを呼んだ。
 ビックリした。
 だって海馬がオレの事を「城之内」って呼んだ。
 いや、今まで呼ばれた事はあったけど。
 だけど普段は「凡骨」だの「駄犬」だの「馬の骨」だのそんな呼び方ばかりだったし、しかもこうして屋上で話している間も海馬はオレの名前を一度も呼ばなかった。
 思わぬ所で意表を突かれて慌てていたら、海馬が焦れたようにもう一度「城之内!」とオレを呼んだ。
 頭をガシッと掴まれて無理矢理振り向かされる。
 ちょっ…。今なんか首がグキッっていったんですけど…。

「な、何だよ…っ! 無理矢理首を動かすなって…っ!」
「いいからコレを見ろ」

 言われた通りに海馬の差し出すノートPCのモニターを見てみると、そこには童実野町の天気予報が映し出されていた。
 予報は降水確率90%。
 無情に映し出される傘マークに、オレの気分はまた急降下だ。
 久しぶりにバイトも用事も何も無い完全な休日なのに。
 せっかくの土曜日に、またあの寂しい朝を迎えなければいけないなんて。
 心の中だけで呟いた愚痴が、口からポロリと出てしまったらしい。
 オレの言葉に海馬が反応していた。

「城之内。貴様明日はオフなのか?」
「ん? あぁ…。オフなんて偉そうな言葉を使う程忙しい身じゃないけどな」
「そうか。だったらウチに泊まりに来い」
「は?」
「オレも明日は完全オフでな。せっかくの休日の朝をあんな気分で迎えるのは御免被りたい。だが、一人で迎える朝が憂鬱でも、二人で迎えれば少しはマシになるとは思わんか?」
「え…? あ…。う、うん」

 海馬の台詞に慌てて頷く。
 どういう意味なんだろう…コレは。
 要するにオレと一緒に眠りたいってこと?
 同じベッドで二人で眠って、それで仲良く朝を迎えたいってこと?
 その途端、オレの心の中を覆っていた雲が晴れていく。
 厚い雲の間から、まるで宗教画のように陽の光が差し込んできた。
 雲の向こうに隠れていた気持ちが漸く全貌を現わす。
 あぁ…そうか。この気持ちは…。

「何? もしかして誘ってんの?」

 海馬の言葉でオレは自分の気持ちに気付いてしまった。
 だから多分、この誘いに乗って泊まりに行っても普通に眠るだけじゃ満足出来ないと思う。
 そういう意味合いも込めてわざとニヤリと笑って問いかけると、それに気付いた海馬もフッと笑みを零した。
 あれ? この笑みってどういう意味?
 頭にクエスチョンマークを浮かべているオレに対して、海馬はただニヤニヤと笑っているだけだった。
 まぁ、いいさ。答えはいずれ直ぐに分かる。
 多分…今夜にでも。
 オレは世界を変えてくれたオマジナイに感謝して、目の前の細い身体に手を伸ばして力強く抱き締めた。
 海馬は一瞬ビクッと反応したけれど、そのまま黙ってオレの腕の中で大人しくしている。
 奴の白い頬にほんの少し赤みが差したのは、果たしてオレの気のせいなんだろうか?


 窓の外から聞こえるシトシトとした雨の音に、憂鬱な気分で迎える朝はこれからも変わらないだろう。
 だけどそれも二人でいればきっと違う朝になる。
 オレはそんな事を思いながら、梅雨も悪くないな…なんて現金な事を思ってみたりした。

にゃんこはツンデレ、海馬もツンデレ

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猫が大好きな二礼です、こんばんは。

ウチのトイレに飾ってあるカレンダーがですね、猫写真の小さいカレンダーなんですよ。
居間に飾ってあるのは雄大な日本の景色のカレンダーなんですけど、猫好きとして毎年トイレのカレンダーは猫カレンダーなんです。
で、この間六月に入ったので新しくペラリと捲ってみたら…。
キジトラの子猫が白地が多めの三毛の子猫にちゅ~してる写真に、『大好きな人に大好きな気持ち、ちゃんと素直に伝えてる?』って書いてあったんです。
それを見た途端、脳内は即刻城海ですよ!!
何なのコレ!! まさに城海の為だけにあるような語録は!!
キジトラの子猫=城之内、三毛の子猫=海馬で妄想爆発www
ツンデレ? ツンデレなの? 猫の世界にまでツンデレなの? それとも城海がツンデレなの? むしろ海馬がツンデレなの?
トイレに入る度に目の前に城海ワールドが広がっていきます…。
凄い! 凄いよ猫カレンダー!! 侮れないZE!!
どうやら六月はニヤニヤ月間のようです…(*´д`*)


長編『奇跡の証明』の第十九話をUPしました。
今日は本当は短編をUPしようかと思っていたのですが、区切りが良いので十九話を先に上げてしまいます。
今回は三百年前の過去に纏わるお話の序章です。
『奇跡の証明』はファンタジーパロなもんで、本当に二礼の好き勝手にさせて頂きました(´∀`)
来週には最後までUP出来そうな気がします。
まぁ…まだ番外編がありますけどね…w
書き終わって無いですけど(´∀`;


以下は拍手レスになりますです~(・∀・)


>イミフ メイ様

お久しぶりでございます~!!(>_<)
拍手とコメント、どうもありがとうございました~!!

この季節はスランプに陥る人が結構多いらしくて、私もその内の一人でした。
未だ本調子ではありませんが、それでも少しずつ戻ってきているようではあります(*'-')
やっぱり疲れた時は無理せずゆっくりするのが一番だと思いますよ~!
焦らず少しずつ調子を取り戻していけばいいと思います(´∀`)

話は変わりますが、栗本御大の死には私もショックを受けました…;
創世記の『小説June』は本当に美しい世界で彩られていたと思います。
今はすっかり私語になってしまった『耽美』という素晴らしい世界がそこにはあり、その世界にどれだけの憧れを覚えたか…。
当に惜しい方を亡くしてしまいました。
今のBL界には『萌え』はあれど『耽美』は無いような気がします。
すっかり有名になってしまったBLという世界ですが、昔のような『耽美』の世界をもう一度見てみたいと思うのは贅沢な悩みなのでしょうかね…(´・∀・`)

それではこの辺りで失礼させて頂きます。
メイ様のサイトにも、これからも遊びに行かせて頂きますね~(*´∀`*)
それではまた~(・∀・)ノシ


>Rosebank様

拍手とコメント、いつもありがとうございます~(*´∀`*)

『奇跡の証明』のHをいつもと違う感じで書いていたのが、Rosebank様にはちゃんと感じ取って貰っていたようで安心致しました(´∀`)
せっかくの半陰陽なんだし…という事で、初めてのリバ(っぽい描写)にチャレンジさせて頂きましたw
半分は男なんだからやっぱり好きな相手に触りたいという欲求はあるだろうし、思えば瀬人は最初から克也と一緒になりたいと強く思っていましたしねー。
それに初期の弱々しい瀬人のイメージから精神的に強くなった瀬人のイメージに切り替える為にも、効果的な描写だったと(自分では)思っています。
他にも克也を受け入れた後の挑発的な態度とかも、二礼が一度やってみたかった表現の一つでした。
基本完全受け身の方が好きなんですけど、たまには強気の受け海馬(瀬人)もいいよねぇ~(*´д`*) とか思いましてw
皇帝と皇后という立場の違いはあれど、二人のプライベートな立場はあくまで同等という思いも込めてあります。
克也がその内瀬人の尻に引かれそうな気がする、今日この頃です…w

そうそう、団地妻で思い出しました!
あのシリーズの海馬とクリティウスでそんな事も書いていましたね。
確かにこの三つの証明の海馬(瀬人)で、座談会みたいのをやると面白そうかもしれません。
皆似ているようで全く違う立場ですからね~。
互いが互いの環境や境遇を羨ましがりそうです。

勇気海馬→真実海馬も奇跡海馬も、城之内(克也)に初めてを捧げられるなんて羨ましい! 確かに今は幸せ一杯だけど、既に何人もの男に抱かれていたという事実と時間は取り戻せない。
真実海馬→勇気海馬も奇跡海馬も、城之内(克也)と同等の立場でいられるなんて羨ましい! 自分はあくまで女だからどうしても守られるばかりで、同等の立場ではいられない。
奇跡瀬人(海馬)→勇気海馬も真実海馬も、普通の身体で羨ましい! この身体のせいで克也(城之内)と結ばれるまでどれだけの時間がかかったか…。しかも思いが通じ合ったあとに三年も離れていたなんて、お前達想像出来るか!?

こうしてみると真実海馬が一番恵まれているのかも…?
まぁ、彼女には彼女の苦労がありそうですがw

あとMMDの海馬モデルも見て下さったんですね~w
もう腹筋崩壊ですよね、アレwww
鏡/音/ル/カやフ/ァ/イ/ア/ボ/ー/ルの主人公と一緒に踊らせている動画もあるんですけど、何か普通に可愛いです社長(*´д`*)
腰とかふりふりしちゃったりアイドルステップ踏んだりして、それがまた異様に似合うのが笑えますw
ラ/ピ/ュ/タの大佐動画も見ましたよ~!
三分ってあんなに長かったのね…。
時々黙ってこちらを見てくるパ/ズ/ーに笑いが止まりませんでした…w

それでは今日はこの辺りで失礼致します。
ではまた~(・∀・)ノシ

第十九話

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 静かに眠り込んでいる瀬人の身体を抱き込み、克也は闇夜の中で目を開いた。
 聞こえるのは窓の外で吹いている風の音と、傍らで眠っている瀬人の規則正しい吐息だけ。
「静かだ…」
 思わず声に出してそう呟くと、すっかり眠っていると思っていた瀬人がスッと瞳を開き克也に擦り寄って来た。
「克也…? どうした…、眠れないのか?」
 心配そうに尋ねて来る瀬人に、克也は安心させるように微笑んで答える。

「いや、大丈夫。もう眠るよ」
「だが…。さっきからずっと起きていただろう」
「あぁ、ちょっと静けさに慣れなくてな。戦場では深夜でも常に何かの音がしていたから…。こんな風に安心して夜を過ごせるなんて無かったからさ」

 三年という長い時間を戦場で過ごして来て、すっかり普通の静けさを忘れてしまっていた事に、克也は自嘲気味に笑った。
 克也の答えに瀬人は何も言わなかったが、ギュッと力を入れて抱き締めてくる。
 それを同じように強く抱き締め返し、優しく栗色の髪を撫でて現れた白い額にキスをした。
「さぁ、もう夜も遅い。眠ろう」
 そう言って共に眠る為に肌蹴けた掛布を掛け直すと、突然瀬人が起き上がって横になっている克也を見下ろした。
 黙って見詰めるその視線は至極真剣で、克也は瀬人が何かを言いたがっていることを悟って、黙って瀬人が口を開くのを待つ事にする。
 やがて小さく嘆息した瀬人が何かを決心し、ついに口を開いた。

「克也…。側室を取れ」

 突然思いもしなかった事を言われて、克也は目を丸くした。
 三年越しの愛が実ってやっと結ばれる事が出来たその夜に、まさかそんな事を言われるとは思ってもみなかったのだ。

「お前…。何を突然…」
「突然ではない。オレは…この三年間…ずっと考えていたのだ。お前が帰って来たら側室の事を言おうと、そう決めていた。黒龍国は世襲制だ。お前には跡取りが必要なのだ。だけどオレには子供を産むことが出来ない。だから側室を取れ」

 余りの事に呆然とする克也を気にせず、瀬人はただ淡々と自分の考えを述べた。

「側室にするのだったら、なるべく性格が良くて健康そうな女性がいいと思うぞ」
「瀬人」
「そうだな…。マナはどうだ? あの子なら可愛いし性格も良いし、何しろとびきり健康だ。お前の子供も沢山産んでくれるだろう」
「おい、瀬人」
「オレもマナだったら安心してお前を任せられる。あとアイシスもどうだ? きっと彼女との間の子供だったら、頭の良い子が生まれるだろう」
「瀬人、いい加減にしないか。それに…」

 優しく言葉を遮った克也が、そっと瀬人の眦を指先で拭う。
 その指先が濡れているのを見て、瀬人は初めて自分が涙を流していたのを知った。
「泣きながら提案する位だったら、初めからそんな事言うな」
 困ったように笑う克也に瀬人は「だが…っ」と言い募る。
 それに対して静かに首を横に振って克也は答えた。

「オレの事を考えてくれたお前には悪いけど、オレは側室を取るつもりは無いよ。オレはお前がこの国に来てくれた時に、一生お前だけを愛すると決めてあるからな」
「だが…っ! せっかく代々続いてきた皇帝の血を、オレのせいで途切れさせる訳には…いかない…っ! お前は直系なのに…っ!」
「ん? あぁ、そうか。お前知らなかったんだっけ」

 突然克也が間抜けな声を出した為、それまで心を痛めて叫ぶように訴えていた瀬人も言葉を途切れさせてしまう。

「オレ、実は養子なんだよ」
「…? 養…子…? お前が…っ!?」
「あぁ。前皇帝の皇后は身体が弱い人でさ、子供が出来なかったんだ。ちなみにオレは皇帝の姉の子供な」
「姉の子供…。皇帝の甥だったのか…。あ…だが側室は…?」
「いなかった。前皇帝は皇后の事を深く愛していて、白龍国から皇后を貰い受けた時に生涯その人だけを愛し続けると誓ったらしい。まぁ、その気持ちは良く分かるけどな」

 そう言って克也は瀬人に微笑みかけた。
 その笑みを素直に受け取れず、瀬人は少し困った顔をしてしまう。
 その様子に苦笑して何も言えなくなった瀬人の肩に手を掛け、克也は自らの胸に瀬人の頭を優しく抱き寄せた。

「やがて皇后が不治の病にかかっちまって、子供のいなかった皇帝は養子を取ることにした。そして何人もいた自分の甥の中からオレを見出してくれたんだ。何でも皇帝の素質が見えたとか何とか言っていたけど、当時まだ五つだったオレには何の事か良く分からなかったなぁ…」
「皇帝はいいとして…、その時の皇后は? それで良かったのか?」
「それで良かったらしいよ。二人で話し合って決めたんだと。現に皇帝も皇后もオレに優しくしてくれた。血は繋がっていなくてもオレ達は紛れも無く本物の家族だった。まぁ皇后の方はオレが七つの時に病死しちまったけどな」
「………。そ…うだった…のか…」
「後はお前も知ってる通りだよ。皇帝はオレの事を父親らしく厳しく育ててくれたけど、結局急病で早世してしまった。でもオレは感謝してるぜ? あの義父と義母がいてくれたお陰で今のオレがあるんだ」

 自信の籠もった笑顔で瀬人に笑いかけると、克也はそっと身を起こす。
 自らの胸に寄りかかっていた瀬人の身体を優しく起こし寝台に寝かせると、床に落ちていたローブを取り上げ身体に羽織り寝台から足を降ろした。
 そしてそのまま傍らの本棚に近付き何かを探し始める。

「大体子供のいなかった皇帝が養子を貰って跡取りにするなんて、今までの歴史の中で何度もあったことだ。それについでだからいい事を教えてやろう。三百年前の七年戦争で活躍した皇帝の子孫なんか、誰一人としていないんだ」
「なんだと…? それは一体どういう事だ!? 白龍国の歴史書にはあの戦争の後、一人目の皇后がちゃんと嫁いで行ったと書かれていたぞ…?」
「そうだな。だけどその一人目の皇后について、どこの誰かという明確な資料はあったか? 無かっただろ?」
「そ…それは確かに…。そう言えば一人目の皇后に関してだけ、出自が不明となっていたな…。だが…それと皇帝の子孫に一体何の関係が…」
「えーと、確かこの辺に…歴史書の写しがあったんだけどな…。あぁ、あった。コレだ」

 瀬人の質問に答えず克也は本棚の中から一冊の資料本を取り出した。
 そしてそれを持って寝台に戻り、枕元に燭台を近付ける。
「瀬人、これはオレが皇帝になったばかりの頃に神殿で見付けた古い歴史書の写しだ。これにはいくつか興味深い事が記載されている」
 持っている資料本に瀬人が興味を示し、シーツを身体に巻き付けて覗き込んで来たのを見て、克也はページを捲り始めた。

「まずは白龍国からやって来た一人目の皇后の話だ。時の皇帝も皇后を溺愛して側室は持たなかったんだが、問題の皇后が皇宮に籠もりきりで殆ど表に出てこなかったらしい。よって当時の皇后の姿を描写した資料が何一つ残っていない。皇帝のは山程残っているのにな」
「資料としての文字も…肖像画もか?」
「あぁ、何も無い。だから誰も当時の皇后がどんな人だったか知る人間はいないんだ。はっきり分かっているのは皇帝との間に子供を残さなかった事と、誓いの泉での描写だ。戦争が終わって数年後、難病にかかった皇帝の為に皇后が願いの儀を行ない、見事それを成し遂げて皇帝の病を治したって奴だ」

 克也の言葉を聞いて、瀬人の脳裏には誓いの泉で真紅眼の黒龍が言っていた言葉が甦ってきた。
 確かにあの時黒龍は、一人目の皇后が願いの儀を行なったと言っていた。
 突如考え込んでしまった瀬人を不思議そうに見ながらも、克也は更にページを捲る。

「次はこれだ。これは戦争が終わった直後の資料で、犯罪人を収容していた牢屋の看守の日記だ。当時その牢屋の中には二十件以上もの盗みと放火、更に殺人を犯した極悪人が入れられていたらしいんだけどな。黒龍国に七年戦争の勝利の報が届いた翌日に、何故かその囚人が白龍国に移送されている」
「何故わざわざ白龍国に…? しかもそんな囚人が…?」
「それが問題なんだ。この看守の日記では、まず焼けた鉄の棒で喉を焼いて声を出せなくさせてから、髪を染料で染め更に綺麗に切り揃えて『誰かに似せて』から移送したと書いてある」
「………? 誰かに似せて…? 何の為にそんな事をしたんだ…、意味が分からない…」

 首を捻る瀬人に克也は微笑み、次のページを捲った。
 数年前に自分が出した核心に、資料は確実に近付いていっている。

「次の資料は神殿ではなく皇宮の資料庫で見つかったものだ。これは当時の女官の付けていた記録だ。この中にたった一行だけ『皇后陛下は私たちとは性別が違う為、風呂や着替えの世話をされるのが苦手なようだ』という描写があるんだ」
「性別が違う…? 何だ…? これは女官の記録なんだよな…?」
「そうだ」
「女官と性別が違うと言うことは…まさか…皇后は男だったという事か?」

 それにはっきりと答えを返さず、克也はまたページを捲る。

「最後はこれ。これはオレが白龍国に留学中に、法皇宮の資料庫でたまたま見付けた古い記録だ。まぁこれを見付けたお陰で当時の皇后に興味が沸いたんだけどな」
「どういう事だ…?」
「読めば分かるよ。ここに書いてあるのは例の囚人の引き渡しに参加した兵士の記録だ。ほら、ここを見てくれ。一旦白龍国に移送された囚人はその直後に冤罪である事が証明され、次の日には再び黒龍国に引き渡されたと書いてある」

 克也が燭台を更に近付けると、瀬人が身を乗り出し浮かび上がった文字を読み始める。

『その者は黒いフードを深く被り顔は良く見えなかったが、髪や瞳の色、背格好などが何となくあの御方に似ていると思ってしまった。こんな極悪人があの御方に似ているなどと考えるだけでも失礼だと思ったが、実際よく似ていると思う。確かにあの御方は自ら戦争を起こした犯罪人かもしれないが、それでも自分はあの御方を尊敬し敬っている。そんなあの御方のいる牢にこんな極悪人が一緒に入るのかと思うと遣り切れなかったが、どうやらこの男は無実だったらしい。翌日には黒龍国側から男の冤罪が証明され、再び黒龍国へ移送される事となった。前日と同じように黒いフードを目深に被り顔は良く見えなかったが、やはりあの御方によく似ていると…』

 そこまで読んで、突如瀬人は顔を上げて克也を見上げた。
 そして何かに気付いたように言葉を放つ。

「まさか…、替え玉か!?」

 瀬人の叫びに同意するように克也が頷く。

「オレもそう思った。ここに出てくる『あの御方』とは、まず間違い無く愚皇の事だろう。多分時の黒龍国皇帝は愚皇に良く似た囚人を使って替え玉としたんだ。現にそれから数日後にまるで急ぐように愚皇の処刑が行なわれている。そして囚人と入れ替えに黒龍国に移送された愚皇は、多分そのまま…」
「皇后に…なった…」
「あぁ、多分そういう事なんだろう。ま、そう言うことで、男同士で結婚した彼等には子供など出来る筈もなく。だからあの皇帝の子孫は一人もいなんだよ」
「そうだったのか…。でも何故だ…? 何故そうまでして皇帝は愚皇を守ろうとしたんだ?」

 本気で混乱し始めた瀬人を、克也は優しく見守る。
 そして「分からないのか?」と静かに尋ねた。
 それに複雑な表情をして瀬人が首を横に振るのを見て、仕方なさそうに話し出す。
「七年戦争は皇帝自らが法皇宮に攻め込み、法皇を捕らえた事で終結した。多分その時に…」
 真剣に克也の話を聞いている瀬人に対し克也は話を一旦区切ると、次の瞬間には笑って答えを出した。

「惚れちまったんじゃねーの?」

 克也の出した暢気な答えに瀬人は思わずポカンと口を開けたまま固まってしまった。
 そんな瀬人を面白そうに眺めながら、克也は笑いながら話しかける。
「な、面白いだろ? まぁ話は長くなったけど、そういう事だから側室とかそういうの気にするのやめろよな。オレはお前がいればそれでいいんだよ。いや、お前だけしかいらない。だからこれからもずっと二人で過ごそうぜ」
 驚愕の余り暫く言葉が継げなかった瀬人もやがて落ち着きを取り戻して、もう一度克也の顔をじっと見詰めた。

「だが…跡取りはどうするんだ?」
「普通に養子を貰えばいいんじゃねーの? オレみたいに」
「どこから…」
「実はオレには妹が一人いるんだ。この先妹がどこかの貴族と結婚して子供をもうけたら、その内の一人を養子として貰うって話がついている。だからお前は何も心配するな」

 そう言ってポンポンと頭を撫でられ、瀬人はそれに漸く安心したように薄く微笑んだ。
 そしてそのまま克也の身体に擦り寄ると、克也は優しく瀬人の細い身体を抱き締めた。
「でも瀬人…。オレはもう暫く二人きりでいたいと思っている…。たった半年の新婚生活の後に三年も離れ離れになっていたんだ。養子を貰うのはもっと後でもいいだろう?」
 克也の問いかけに瀬人はコクリと頷いた。
「あぁ、オレもそうしたいと思っている」
 瀬人の答えに克也は一旦身を離し、瀬人の顔を覗き込んだ。
 そして二人でクスリと笑い合うと再び強く抱き締め合い、寝台へと倒れ込む。
 今はもう少しこのままで…。
 二人でそう願いながら。