*素質シリーズ - ページをめくる - *素質Ⅳ(前編)

城之内×海馬。
海馬の一人称です。
相変わらず変態な海馬と、それに引き摺られてどんどん目覚めていく城之内…。
もうこの二人はダメだ…w

 




 激務に負われていた怒濤の一週間から漸く解放されて、オレはくたくたの身体を抱えて邸に戻ってきた。
 下請け会社のミスでゲーム関連のプログラムにバグが見付かったのだが、何とかある程度の把握は出来たので、後はKCのプログラマー達に任せれば大丈夫だろうと判断して会社を後にしたのだ。
 夕食を勧めるメイドに「会社で軽食を食べてきたから」と断わり、真っ直ぐに自室へと向かう。
 重厚な扉を開けて部屋の中に入っても、そこで待っている人物はいない。
 いつもだったらソファに寝っ転がって雑誌を読んでいたり菓子を食べていたりする奴は、今日に限ってこの童実野町にはいないのだ。
 オレや遊戯程では無いが、今や一流のデュエリストとして名を馳せる城之内は、今日から地方で行なわれているデュエル大会にゲストとして招かれている。
 今この時期、日本列島は我が海馬コーポレーションが主催しているデュエル大会で湧き上がっていた。
 まず地方大会でチャンピオンを選別して、後日童実野町にて行なわれる全国大会で優勝者を決めるというものだ。
 その為今は城之内だけではなく、遊戯も別の地方大会のゲストとして行っている。
 本当だったらオレもどこかの地方大会のゲストとして行きたいと思っていたが、海馬コーポレーションの社長としての業務がある限り、そう簡単に会社を離れる事など出来はしない。
 その事で心ならず落胆していたところに入って来たあのバグ報告だ。
 内心で何十回と舌打ちしながらも、それでもバグを放って置く事は出来ずに黙々と仕事を続けた。
 だがそんなオレの苛々は周囲に確実に伝わっていたのだろう。
 ここ一週間の研究員やプログラマー達の顔色は常に真っ青だった。
 オレの所に報告に来る度に冷や汗ダラダラで、気の弱い奴に限っては言葉がどもって何を言っているか理解出来ない程だった。
 その事がまた更にオレの苛つき度合いに拍車を掛け、そんなオレに周りの人間は戦々恐々とするという悪循環に陥っていたのだ。
 だがそんな最悪な毎日も今日で終わりだ。
 脱いだ背広やネクタイなどをソファの背に掛けると、オレはそのまま風呂に直行する。
 熱いシャワーを浴びながら髪や身体などをしっかりと洗って、そのまま温かい湯が張られている湯船に疲れた身体を沈めた。
 明日は何の予定も無い日曜日。
 湯の心地良さに「ふぅー…」と大きく息を吐き出しながら、明日は久しぶりに自室でゆっくり過ごそうと決める。


 城之内と付き合うようになって、自分一人で過ごす休日というのがめっきり減ってしまった。
 オレがいつも仕事で忙しくしていて、アイツがオレに会いたい時に自由に会えないのが原因の一つなのだが、たまに取れた休日には奴は必ず邸に現れた。
 特に今日のような、明日が休日だと分かっている日の夜には絶対にやって来て、共にベッドに入るというのがオレ達の習慣になっていた。
 風呂から上がってバスローブを羽織り部屋に戻っても、にやけた面で飛びついて抱き締めて来る城之内はいない。
 冷たいミネラルウォーターで喉を潤しながら、オレは静かな自室に違和感を感じていた。
 いつの間にこの部屋には、城之内の存在がこんなに色濃く染みついてしまったのだろうか。
 誰もいない静かな部屋で、一人で考え事をしたり本を読んだりするのがあんなに好きだったのに。
 ソファに寝っ転がられたり、バリバリと煩い音を立てて菓子を食べていたり、下らない雑誌を読んだりしている姿にあんなに苛ついていたのに。
 今は遠い地方にいるアイツの存在を、こんなに恋しいと思っている。

「もう寝るか…。疲れているんだな、きっと」

 壁にかかった時計はまだ十一時過ぎだったが、オレはさっさとベッドに入ってしまう事にした。
 いつ何かしら連絡が入っても良いように、携帯を持って来てサイドボートに置いておく。
 そのままヘッドランプを消そうとした時だった。
 突然目の前の携帯が震えだして、軽快なメール着信音が鳴る。
 慌てて携帯を開くと、そこに示されていたのは城之内の名前だった。

『今電話してもいい?』

 簡潔なメールにオレはすぐさま着信履歴から城之内の名前を呼び出して通話ボタンを押す。
 たった二回のコールの後、向こうは直ぐに電話に出てくれた。

『もしもし? 海馬か? こんな夜中にゴメンな』
「いや、まだ起きていたから大丈夫だ。何の用だ?」
『いや、別に用があった訳じゃないけど。何か声が聞きたくてさ』

 城之内の声に知らず笑みが浮かんだ。
 この一週間、オレが仕事に忙殺されている事をコイツはよく分かっていた。
 本当は地方に出掛ける前にオレに会いたかっただろうに、一通だけ『んじゃ、行ってきます』というメールを送って来ただけで、城之内は電話をしてくる事も無かったのだ。

『仕事どうなった? 大変だったんだろ?』

 オレを心配してくれるその声に妙に安心する。

「いや、もう大丈夫だ。今日でカタが付いたし、明日はゆっくり休もうと思っている」
『そうか、良かったな』
「オレの事はいいとして…、そっちの方はどうなんだ? 今はホテルなんだろ?」
『あぁ、うん。実行委員会が用意してくれたホテルに泊ってる。結構立派なホテルで、オレ本当にこんな場所に泊っちゃっていいのかなぁ?』
「構わない。大会を主催しているKCとしても、ゲストをボロ宿になんかに泊らせる訳にはいかないからな」
『はははっ。確かに。それじゃありがたくお世話になっちゃおうっと』
「大会の方はどうなんだ?」
『うん。この土日でやってる大会なんだけどさ。別に何の問題も無いよ』
「明日は決勝戦だろう? チャンピオンが決まった後はデモ戦とかやるのか?」
『やんねーよ。オレも遊戯も全国大会の特別枠に入ってるんだぜ。こんな所で手の内明かせるかよ』

 身体は仕事で疲れ果てている筈なのに、何故か心が安らいでいく。
 この部屋で城之内の声を聞くという事に、オレは漸く安心していた。

『ところで海馬、オレさ、もう正味十日間程お前に会ってないんだけど』
「そうだな」
『ついでに言うと、もう二週間以上お前とそういう事してないんだけど』
「そ…う…だったか…」
『うん、そう。会いたいな』
「そうだな…。オレも…会いたい」

 携帯を持つ手が微かに震えてしまう。
 この電話を放したくない、切りたくない。
 もっと耳元で囁いて。
 熱を持ったその指で身体に触れて。
 力を入れてオレを抱き締めて。
 忙しさにかまけてすっかり忘れていた熱が突如戻って来て、オレはブルリと身体を震わせた。
 だが今熱が戻ってきても、一体どうすれば良いというのだろう。
 城之内がいないのに。
 深く息を吐き出したのを、電話の向こうの城之内も感じ取ったらしかった。

『海馬…。オレ、お前に触りたいよ』
「あぁ…」
『明日大会が終わっても直ぐには帰れないし、お前も月曜からまた忙しくなるだろ? オレこれ以上待てそうにない』
「分かっている。だが、どうしようもな…」
『だから今するから』

 オレの言葉を遮って放たれた城之内の台詞に、オレは「は?」と間抜けな声を出してしまう。
 今? 今するって…、一体どうしようと言うんだ。
 今オレと城之内は遠く離れた場所にいる筈なのに。

「何を無理な事を…」
『別に無理な事じゃない。海馬はテレフォンセックスって聞いたことあるか?』
「………っ!?」

 城之内の言葉を聞いた瞬間、余りの動揺にオレは携帯を床に落としてしまった。
 ゴトンと音を立てて落ちた携帯から、城之内が何か言っているのが聞こえる。
 慌てて携帯を取り上げて耳に当てた。

『海馬っ!? おーい海馬!! 大丈夫かー!?』
「だ、大丈夫だ…っ」
『何? もしかして動揺しちゃった?』
「多少…」
『テレフォンセックス嫌? 嫌なら止めるけど』

 城之内の言葉にオレは暫し考え込む。
 流石のオレもテレフォンセックスなんて初めてだったし、多少動揺はしてしまったものの、時間が経つと興味がふつふつと沸いてきた。
 あぁ、分かっている。よく分かっているさ。
 所詮オレはドMなんだ。
 自分が性的に辱められて気持ち良くなるんだと分かっているのに、それに逆らう事なんて出来はしない。
 ここ最近の仕事の忙しさですっかり忘れていたが、オレは自分の本性を漸く思い出した。

『で、する?』

 答えを促す城之内の声が聞こえてきて、オレはうっすらと笑みを浮かべてしまう。
 何をされるのか分からない未知の快楽に、身体はすっかりやる気になっていた。

「あぁ…勿論だ」

 興奮する息を整えつつそう答えたら、電話の向こうで同じように興奮している城之内の熱い吐息が聞こえた。


「んっ…。 ん…はぁっ…!」
 城之内に言われた通りに携帯をハンドフリーモードにしたオレは、それを枕元に置いて言われた通りに自分の身体に手を這わせていた。
 バスローブも下着も既に全部脱いで、ベッド下に放り投げてある。
 誰が見ている訳でもないのに、素っ裸で一人こんな事をしているなんて恥ずかしくて仕方なかった。

『指、舐めた?』
「な…舐めた…っ」
『んじゃ、それで自分の乳首撫でてみて? クリクリって円を描くみたいに…』
「っ…、んんっ…」
『爪先で先っちょを引っ掻くようにしてもいいよ』
「ふぁっ…! や…っ」
『気持ちいい?』
「気持ち…い…い…」
『そのまま続けていいよ。硬くなってきたら少し強めに摘んでみて』
「あっ…! うぁっ…んっ!」

 濡れた指で自分の乳首を強く摘んだ途端、全身に電気が走ったみたいな快感が流れ込んできた。
 弄っているのは自分の指なのに、城之内の言葉に従って動かしている為、まるで本当に城之内に触れられているような気分になってくる。
 身体中に熱が籠もって、オレは堪らず自分のペニスに手を伸ばした。

『あ、ダメだったら!』

 まるでそれが見えていたかのように、城之内の制止の声が響き渡る。

『今自分の触ろうとしただろう』
「っ………!」
『何で分かるんだって思ってるな? お前の事なんてオレにはお見通しなんだよ。とにかくまだ触っちゃダメだから』
「やだ…っ! も…辛い…」
『まだ大丈夫だって。ローションは? さっき用意しただろ?』
「した…」
『じゃぁ、それをたっぷり指に付けて、自分で後ろを解してみて』

 城之内の言葉に、オレは震える手でサイドボードの上に置いておいたローションに手を伸ばした。
 先程城之内に言われて、引き出しから出しておいたものだ。
 ふたを開けて中身をトロリと手に出すと、途端に人工的なストロベリーの強い香りが辺りに漂った。
 オレとしては無臭タイプのローションの方が好みだったのだが、つい先日今まで使っていたのが無くなった折りに、城之内が勝手に購入してきたものだった。
 その安っぽい香りはオレとしては気にくわなかったのだが、城之内は気に入ったようで、よく「余計にお前が美味そうに見える」と言っていたのを思い出す。
 冷たいローションを掌でよく暖めてから指先に集めて、それを自分の後孔に持って行く。
 ひくつく後孔に触れた途端、くちゅり…と濡れた音がしてオレは身を竦めた。
 敏感な場所をローションでぬるぬると弄り、その感触に肌を泡立ててしまう。

『無理していきなり指を入れたりしちゃダメだぜ。最初はゆっくり周りを撫でて、ローションを馴染ませるようにやってみて』
「んっ…。っ…ふぅ…」
『どう? 柔らかくなってきた?』

 城之内の言葉に必死にコクコクと頷くが、勿論それが電話向こうの城之内に見える筈も無い。
 少し経って電話の向こうから押し殺した笑い声が聞こえて来た。

『海馬、頷いてるだけじゃこっちには分からないぜ。ちゃんと言葉で教えてくれなきゃ』
「っ…あっ。わ…分かっているなら…もう…いいじゃ…ないか…っ。貴様は…意地悪だ…」
『海馬はそんな意地悪なオレが好きな癖に。で、どうなのよ? ちゃんと柔らかくなったの?』
「くっ…んっ! あっ…。な…なった…っ」

 仕方無く何とか言葉でそれを伝えると、電話の向こうで城之内が満足げに笑った気配がした。
 顔が見えないのに何故だろうか…。
 どういう訳かそう確信した。

『よし。それじゃゆっくり指入れてみて。最初は一本だけね』

 城之内に促されて、オレはローションに塗れた指を一本、自分の身体の中にツプリと押し込んだ。
 まるでそれを待っていたかのように、オレの内壁はオレ自身の指を奥へ奥へと引っ張り込む。
 指が触れている内壁が熱くて肉が柔らかくて、触られている内部も触れている指先も、どっちも最高に気持ちが良かった。
 こんな感触を城之内がいつも楽しんでいるんだと思うと、それだけで興奮してしまう。
 途端に腰がズクリと重くなって身体を支えていられなくなり、オレはベッドの上に俯せで寝転がった。
 ベッドが軋む音が向こうにも聞こえたのだろう。城之内が『大丈夫か?』と尋ねてきた。

「だ…大丈…夫…」
『ん。それじゃもう一本指を入れてみようか』
「ふっ…く…んっ! はぁ…ん…っ!」
『入った?』
「入っ…た…」
『痛くないよな?』
「平気…っ」
『うん。じゃ、ゆっくり掻き混ぜてみて。自分が感じるところは遠慮無く触ったり突いたり押したりしていいからな』

 城之内の言葉に習って、自分の指を中でゆっくりと動かしてみる。
 指を動かす度にクチ…とかヌチ…とか濡れた音が響いて、それがどうにも恥ずかしかった。
 だけどそれを止めようという気にもならず、懸命に中を慣らしていく。
 やがて他の肉とは違う少し硬いしこりの様なものを指先に感じて、思い切って少し力を入れて押してみた。

「うぁっ…あぁ…っ!!」

 途端に脳天まで痺れる強烈な快感に、目の前が真っ白になる。
 我慢出来ずに上げてしまった叫び声に、城之内がクスリと笑う声が聞こえた。

『あーあ、前立腺触っちゃったんだ。そこ、気持ちいいでしょ?』
「ひぁ…! あ…あっ! き…もち…いい…っ!!」
『だよね。そのままそこ触ってイッてもいいけどさ。せっかくだからオレからのプレゼント受け取ってよ』
「プレ…ゼント…?」
『そ。プレゼント。気持ち良くて名残惜しいと思うけど、一回指抜いてみな』

 城之内の言うとおり、この快感を手放すのは非情に名残惜しかった。
 だけどここは素直に城之内の言う事を聞いて指を抜く事にする。
 ゆっくり慎重に指を抜き取ると、温かな体内に入っていた指先はすっかりふやけてシワシワになってしまっていた。
 そう言えばオレの中を慣らした後の城之内の指先はいつもふやけていたな…と思い出して、その原因を知ってしまった事でオレはまた顔に血が昇って来るのを感じていた。
 一人で真っ赤になっているオレに気付いているのかそうでないのか、城之内は淡々とオレに指示を出す。

『サイドボードの一番下の引き出し、開けてみて? 前に来た時にプレゼントを入れておいたんだ』

 言われた通りに身を起こして、サイドボードの一番下の引き出しを開けると、何か見慣れない箱が入っていた。
 ご丁寧に綺麗な包装紙で包まれてリボンまで掛けられているそれを訝しげに見詰める。
 持ち上げてみると少し重かった。

「何だ…これは?」
『いいから。中開けて見て?』

 電話口の城之内の声が非常に楽しそうだ。
 奴がこんな声で話す時は、大抵碌な事じゃ無いんだが…。
 そう思いながらもオレは黙ってリボンを外し、包み紙を解いてゆく。
 そして現れたそのブツに、オレは驚いて何も言えなくなってしまった。

『気に入った? オレからのプレゼント』

 嬉しそうに城之内が言う。
 オレが今手に持っているのは、蛍光ピンクの男性器を模した玩具…。所謂バイブと言われる大人のおもちゃであった。
 カーッと頭の中が一気に熱くなっていく。

「な…何を考えているんだ、貴様!!」
『何をって…。そういう事をだよ』
「そういう事って…っ!」
『何だよ。興味ある癖に。いらないんなら別に捨ててもいいけど?』

 城之内の拗ねたような物言いに、オレはうっ…と言葉に詰まった。
 確かにこういうモノが世の中にあるのは知っていたし、実は興味もあった。
 だが城之内と恋人になって実際に何度もセックスをする内に、玩具なんてどうでもいいかと思うようになっていたのだ。
 だから突然こうして目の前に現物を見せつけられて、それに少なからず動揺してしまう。

『それで? どうするの? 使う? それとも本当に捨てちまう?』

 電話の向こうから聞こえてくる声に、オレはぎこちなく振り返った。
 捨てる? これを? 一度も使わずに?
 そ…そんな…。
 そんな…っ。

「そんな勿体無い事出来る訳なかろう!」

 しまったと思った時には、もう言葉は盛大に口から出てしまっていたのだ…。