Text - 短編 - *酒の力Ⅱ(後編)

「んっ…! はぁ…っ」
 お互いに服を全て脱ぎ捨てて、ベッドの上で絡み合った。そして海馬の白い肌に、点々と紅い跡を付けていく。首筋と、胸元と、鳩尾と、下腹と、脇腹にも。
 その度に海馬はピクピク震えて甘い声を出す。
 可愛いなぁ…本当に。
 感嘆しながら一旦身体を元の位置に戻して、再び滑らかな胸元を舌で優しく舐め始めた。窓の外ではまだ花火が上がっていて、赤や青や緑や黄色の鮮やかな花が浮かんでは消えていく。その度に海馬の白い身体にもその色が映えて、余計に艶めかしく見えた。

「あっ…! あぁっ!」

 白い胸の上で一際強く自己主張している紅い突起に辿りつき、それを口に銜えて強く吸うと大きな声が上がった。反対側の乳首にも指を当てて押し込むように愛撫する。海馬の身体がビクリと大きく跳ね、それまで微かな愛撫に流されていただけだった身体のスイッチが入ったのを感じた。
 気持ち良い? と訊けば必死にコクコクと頷いてくる。
 乳首好きだもんなぁ…とか思いながらも下半身も愛撫したくて一旦そこから離れると、海馬の手が伸びてきて髪の毛を鷲掴みにされた。

「ちょっ…! いたっ! 痛いって!! 何すんだよ海馬…っ」
「やら…っ。むね…もっと…っ!」
「へ?」

 どうやらオレが乳首から離れたのがお気に召さなかったらしい。涙目でオレを睨み付けている海馬を見て、思わず口元に笑みが浮かんでしまった。
 いつもは恥ずかしがって何かを言わせようとしても何にも言ってくれない海馬が、これだけ素直になっているんだ。男だったら意地悪したくなるってもんだろ?
 オレはフフンと笑ってわざと身体を起こし、余裕を見せながら海馬に言った。

「そっかー。そう言えば海馬はおっぱい弄られるのが好きなんだったな」
「やっ…! おっぱ…い…じゃ…らい…っ!」
「おっぱいでしょ? ここ吸われるの、好きだもんなぁ」
「んっ…!!」

 直接的な表現に真っ赤になってしまった海馬にニヤリと笑って、固く立ち上がっている乳首を指先でピンと弾いてやった。途端に口から漏れた甘い喘ぎに、オレも腰がズンと重くなるのを感じる。だけどまだまだだ。ちゃんと言葉で言わせないと。

「ちゃんとおっぱい吸って下さいってお強請りしてみな? そしたらやってやるから」
「やっ…。やら…」
「なんで? ちゅうちゅうされるの好きだろ?」
「す…き…らけど…」
「じゃぁ出来るよな? 言ってごらん。ほら」
「う~…っ」
「海馬?」
「オ…オレ…の…」
「ん?」
「オレ…の…。お、おっぱ…」
「うん」
「オレの…おっぱい…、ちゅうちゅうして…くれぇ…っ!」

 ………って、おいっ!!
 オレは「おっぱい吸って下さい」とお強請りしろとは言ったが、「おっぱいちゅうちゅうして」とお強請りしろとは言ってないんだけど!!
 下手な挑発なんかよりよっぽど強烈なその一言で、オレの頭と下半身にも一気に血が昇った。心臓がバクバクして、激しい血流にこめかみがピクピク痙攣する。それでも何とか自分を抑えて「よく出来ました」と答えて、海馬の胸に唇を寄せた。
 フルリと期待に震える乳首を口に含んで、海馬が好きな様に舌を絡めて強く吸い上げた。

「んぁっ! ふぁ…っ。あぁ…んっ!」

 先程と同じように片方を吸いながらもう片方を指で愛撫すると、ひっきりなしに海馬が喘ぐ。ちらりと見上げると、眉根を寄せ目の縁を真っ赤にしてボロボロ泣いていた。
 あーもうこれ、完全にスイッチ入ってるよねぇ…。すっげー気持ち良さそう。
 そう思ってオレはふと悪戯な考えが浮かんだ。
 せっかく海馬に恥ずかしい台詞を言わせたんだ…。実はもう一つ、一度でいいから海馬に言わせたかった台詞があったんだ。それを実行するのは今がチャンス! いや、今しか無い!
 ちなみにオレが海馬に言わせたい台詞っていうのは…ほら、アレだよアレ。ネットとかで有名な「らめぇ…っ!」ってヤツ。
 今までの海馬は勿論そんな事言ってはくれないけどさ。こんだけ酔っぱらって、しかも呂律が怪しい今なら何とかなりそうな気がした。
 そうと決まれば即実行がオレの心情だ。乳首を吸いながら腰を撫でていたもう片方の手を前に移動させ、すっかり勃ち上がって先走りの液を滲ませている海馬のペニスをそっと掴んだ。ピクリと震えて海馬が反応したけど、オレはそれを無視して手の中の熱い塊を扱き出す。いつもみたいに無理矢理快感を引き出すような強い愛撫じゃなくて、溢れてくる先走りの液を塗り付けるように鈴口を優しくクルクルと撫でた。

「ひっ…! あっ…あっ!!」

 案の定、海馬が背を反らして喘いだ。
 実は海馬、同時責めが弱いんだよね。

「やっ! あぁ…っ。一緒…に…は…しらい…れ…っ」
「一緒にされると気持ちいいくせに」
「や…らぁ…っ! あっ…んっ! うぁ…っ!」

 お、「やら」って言った。もうちょっとだな。
 何とか海馬に「らめぇ」と言って欲しくてわざと微弱な愛撫を続けていたら、海馬が更に泣きながら細かく痙攣しだした。オレの二の腕に爪を立てながらビクビクと震えて、唾液を零し始めた口をパクパクと開閉する。
 そして…。

「あっあっ…! やっ…らめ…らっ!! じょ…ろ…うちぃ…っ! あっ…ら…めっ。らめっ。らめぇーっ!!」

 強く叫ぶと同時にオレの手の中に吐き出される大量の白濁液。ブルブルと震えながら絶頂を迎えている海馬を見ながら、オレはゴクリと生唾を飲む。
 それは…想像以上の…破壊力だった…。
 もうこれ以上一分一秒たりとも我慢するのが嫌で、手の中に残る海馬の精液を使って後孔を性急に慣らす。無理矢理指を押し込んでも酔っぱらっているせいなのか、そこは案外すんなりとオレを受け入れた。
 もう既に熱を持って収縮を繰り返すその場所をグチュグチュと音を立てて指を出し入れしていると、海馬がオレに向かって手を伸ばしてくる。そしていつもより高い声で懇願してきた。

「じょうろ…うち…。は…はやく…っ。も…う…ちょうらい…っ!!」

 あーもう! コイツはどこまでオレを挑発すれば気が済むんだよ…っ!!
 海馬の体内から指を引き抜いて、ガチガチに固くなった自分のペニスをそこに押し当てた。そしてそのまま勢いを付けて押し込めた。

「ひぁっ!! うぁ…っ! あぁ―――――――っ!!」

 ガクガクと震える身体を押さえつけて、何度も何度も腰を叩き付ける。
 余りの気持ちよさに身体が止まらない。いつもの様に行為の最中に海馬を気遣う余裕はどこにもなく、とにかく目の前のこの身体を滅茶苦茶にしたくて堪らなかった。
 それはどうやらオレだけじゃなくて海馬も同じだったらしく、背中に回った手が強く抱き締めて来てそこに爪を立てられた。まるで二度と離さないとでもいうかのように、長い足もオレの腰に絡みついてくる。

「うくっ…! あっ…あぁっ! じょ…ろ…うちぃ…っ!!」
「ふっ…! 海…馬…っ!」
「も…っと…っ! もっと…もっと…っ! ひゃぁんっ!!」
「海馬…っ! 海馬…っ!」
「あぅ…っ! あぁんっ! あっ…、ぅ…くぁ…っ! ひあぁ――――――っ!!」
「海馬………っ!!」

 オレに力一杯しがみついて身体を硬直させ達し、そして海馬は射精した。それに引き摺られるようにして、オレも海馬の体内に精を放つ。
 頭の中は真っ白だった。まるで何かの閃光が走ったかのように。
 ふいに…脳裏に先程見た花火が甦ってきた。
 そうか…と一人で納得する。
 花火が弾ける様は、この瞬間に良く似ていたんだ。
 二人で高く高く昇り詰めて、最後は全てを解放する。オレはその瞬間が一番好きだった。二人で生きて、二人で愛し合っているって事が強く感じられたから。
 腕の中の海馬は既に気を失って規則正しい呼吸を繰り返している。その汗ばんだ額にそっと口付けを落として、ブランケットを掛けてやった。そしてそっとベッドを降りて窓辺に近付く。夜空に花火はもう見えなかった。
 あーあ…。せっかく花火大会を海馬と二人で楽しめると思ったのにな…。
 少し残念に思いながらも、窓に映った自分の顔は実に楽しそうに笑っている。

「明日は久しぶりに二日酔いの看病だな。無茶した事を怒られないようにしないと」

 目覚めてすぐの海馬の顔が容易に想像出来て、思わず声に出して笑ってしまった。慌てて振り返って確認してみるけど、海馬は先程と変わらない体勢のまま熟睡している。その姿にホッと安心して、胸を撫で下ろした。
 時計を見上げるとまだ二十一時を過ぎたところだった。
 オレは思い立って、屋上で一人酒を楽しむ為に脱ぎ捨てたシャツに袖を通す。
 だってせっかくの酒や料理が勿体無いもんな。
 楽しみにしていた花火を中断させられたんだから、せめて料理は全部食わせて貰うぜ。
 部屋を出る直前に見た海馬の顔は安らかだった。

 おやすみ、海馬。良い夢を。
 明日には地獄が待っているんだから、せめて今だけはゆっくり眠っておけ。

 そう小さく呟いて、オレは苦笑しながら扉を閉めた。

 



ちょっとしたおまけ

 朝が来れば、地獄が待っている。


「おはよう海馬! 今日も良い天気だな!」
「う…うるさ…っ。余りでかい声を出すな…」
「何? 相変わらず頭痛いの?」
「分かってるならわざわざ聞くな…」
「あ、そうだ。冷たいお水を持って来たんだけど、いる?」
「あぁ…済まない…」
「お強請りは?」
「は…?」
「お水が欲しいってお強請りは?」
「………」
「昨日はあんなに上手にお強請り出来たのになぁー」
「くっ…! おのれ…この…凡骨が…っ! 死ねぇ―――っ!! っ…!! くぅ~~~っ!!」
「頭痛いのに大声で叫ぶなよ、海馬」
「煩いっ!! …っ!! っ~~~!!」


 お大事に。