「ふっ…うっ…! あふっ…!」
ローションでたっぷり濡らされた城之内の指が、オレの後孔の入り口を弄っている。
ぬるぬると暫く入り口を馴染ませていたかと思ったら、ツプリと中に入ってきた。
ローションのお陰で痛みはさほど感じはしなかったが、それでも異物が入り込んでくる違和感は何ともしがたく、オレはつい呻いてしまう。
「海馬、痛い?」
城之内が心配そうに尋ねてくるのに、フルフルと首を振って答えを返す。
別に痛くは無い。
だけど…少し気持ちが悪い。
グチュグチュと音を立てて指が何度も往復し、慣れてきた頃を見計らって更に指がもう一本追加された。
オレの体内の粘膜を慣らす為に、城之内の指は何度も撫でたり擦ったり押さえつけたりを繰り返す。
その何とも言えない違和感に耐えきれず、思わず身を捩った時だった。
「………っ!!」
突然背筋から脳天までを貫く雷のようなものが突き抜けて、オレは無意識に背を反らせてビクリと跳ねてしまった。
何だ…? 今のは一体何なんだ…っ!?
はっきりとしない快感に半勃ち状態だったオレのペニスも、その刺激で何時の間にか完全に勃起してしまっている。
「海馬…? ここ…なのか…?」
オレの変化に目聡く気がついて、城之内がある一点を重点的に攻めだした。
そこに城之内の指先が触れる度、耐え難い快感がオレを攻め立てる。
「あぁっ…! や…だ…っ!」
快感の波がオレを飲み込むのと同時に、それまで忘れていた羞恥心が戻って来た。
男相手にこんなに大きく足を開いて、普段自分ですら見ないような場所を晒けだして、あり得ない場所を弄られて快感に咽び泣いて、涙と涎で顔中グシャグシャにして、直接触られてもいないのにペニスを勃起させて、先走りの液を自分の腹の上にポタポタ垂らして、それを城之内にしっかりと見られて…。
それが全てがいたたまれなかった。
「いや…だぁ…っ! もう…恥ずか…し…い…、城之内…っ」
「うん。分かってる。でも、もうちょっと我慢して」
「やだ…っ。もうやだぁ…っ!」
「落ち着いて…。ホントにもうちょっとだから。ね?」
「も…ちょ…っと…?」
「うん、そうだよ。だから大人しくして…。良い子だね、海馬」
パニックに陥りかけたオレを、城之内が優しい言葉で落ち着かせる。
城之内の言葉は魔法みたいだ。
彼の放つ言葉は全て信じられる。
さっきからずっとそうだ。
城之内の言葉に一々反応して否定して、だけど最後には言いくるめられてしまう。
奴の放つ言葉には何か強い力が働いていて、その言葉に嘘は無いのだと、オレの心がそれを認めてしまっていた。
「んふっ…。ふぁ…ん! じょ…ぅ…ち…っ」
「良い子…。そう…良い子だ…」
優しい声で宥めながら、城之内の指がオレの内部を解いていく。
最後に体内で指を開き一際大きく粘膜を広げるようにすると、城之内はオレの中から指を引き抜いた。
そして身体をひっくり返されて、腰だけを高く掲げるような格好にさせられる。
「な…なに…?」
その突然の行動にオレは怯えた。
今までどんなに恥ずかしい思いをしても必ず視界の中にいた城之内が見えなくなって、奴の次の行動が全く読めなくて怖い。
声の震えからオレの恐怖が伝わったのだろう。
城之内が安心させるように囁いてきた。
「大丈夫…。酷いことはしないから、安心して」
「いや…だ…。怖い…っ」
「最初だから、なるべく自然な体勢をとってるだけだ。多分バックからの方が楽だから」
「やだ…やだ…。顔が見えない…っ! 怖い…っ!」
「オレもお前の顔見てたいけどさ…。最初から正常位は辛いぜ、きっと」
「それでもいい…っ! 顔が見たい…っ! 怖いのは嫌だ、城之内…っ!!」
こればっかりは譲れない。
いきなり後ろからだなんて怖過ぎる。
その体勢の方が楽なのはよく分かるけど、それでもオレは嫌だった。
持ち上げられた腰をヘタリと落として断固拒否していたら、頭上から「はぁ~」と深い溜息を吐く音が聞こえた。
「仕方無いな…。なんだかんだ言っても、オレは結局お前には勝てないんだよなぁ…」
城之内の熱い手が、オレの身体を再びひっくり返す。
パサリとシーツの上に仰向けに転がされて、オレは改めて城之内の顔を見上げた。
城之内はいつもの飄々としている表情とは全く違う、どこか焦ったかのような余裕の無い顔で苦笑している。
そのまま無言で枕を掴むと、オレの腰の下に差し入れてきた。
「これで少しはマシになると思うけど…な。辛いと思うぜ、多分」
「構わない」
「自分で言い出したんだからな。ちゃんと我慢しろよ」
「わかっている」
城之内がオレの開かれた足の間に入ってきた。
先程散々慣らされて後孔に、城之内の熱いペニスの先端が押し付けられるのを感じる。
いよいよだ…と思ったら、途端に心臓が高鳴った。
緊張感に耐えきれず目を強く閉じたら、城之内に優しく頬を撫でられる。
「挿れるから…力抜いて」
興奮で微かに震えている声でそう言われて、オレは深く息を吐いて、城之内の全てを享受する為に力を抜いた。
「あっ…! ぐぅ…んっ!!」
城之内がオレの体内に入ってくる。
指とは全く比べものにならないほど熱くて大きくて、まるで身体が真っ二つに引き裂かれそうな程の痛みと内臓が圧迫される苦しみに、耐えきれずに呻きを漏らしてしまう。
「っ………。きっつ…っ」
オレが上手に力を抜くことが出来ないので城之内自身も痛みを感じているらしく、オレの耳元で辛そうな声をあげる。
それでも少しずつ少しずつ、オレの粘膜に馴染ませながら城之内は腰を進めて、やがて根本まで辿り着いた。
城之内のペニスがオレの体内でドクドク脈打っているを直に感じるが、だけどそんな些細な刺激でさえも今のオレには苦痛でしかなかった。
せっかく城之内と結ばれようとしているのにそんな呻き声なんて聴かせたくなくて、なるべく声を出さないように我慢する。
だけど感じている苦痛が全て表情に表れていたようで、城之内が心配したように声をかけてきた。
「海馬…。ちゃんと息して。深呼吸するみたいになるべく大きく…」
「む…無理…だ…っ。っう…!」
「ゴメンな。やっぱ痛いし…苦しいよな」
「い…痛…くなんて…ない…。苦しく…も…ない…っ」
「嘘ばっかり。強がっちゃって」
「嘘じゃ…な…い…っ!」
「素直になれよ、海馬。それとも何か? 痛いとか苦しいとか言ったら、オレがやめちゃうとか考えてる?」
「………」
「大丈夫、やめないよ。ここまできたんだからちゃんと最後までやるよ。それからお前にも気持ちいいって感じて貰えるようにするから…」
シーツをギュッと握っていた手を持ち上げられて、城之内は俺の手を自分の首に回させた。
城之内の熱い体温を感じて、オレは少し安心してその首に縋り付く。
その行為に満足気に笑って、城之内はオレの耳元で優しく囁いた。
「うん、そう…。そうやってしっかり掴まってて」
城之内がオレを気遣うような言葉を紡ぎ出したのは、それが最後だった。
城之内の腰がゆるゆると動いて、オレの中を翻弄する。
最初は痛みや苦しみだけしか伝えて来なかったそれも、やがて慣れてくるにつれて違う何かを感じ始めた。
じわりじわりと身体の奥深くから熱が生まれて来る。
身体全体が痺れてきて既に息は荒く、肺に取り込むべき酸素が足りなくて苦しいくらいだ。
城之内もオレが慣れてきたのに気付いたのだろう。
いつのまにかゆるやかだった腰の動きが激しくなってきて、やがて先程感じた一点にグリッと強くペニスを押し付けられた。
「あぁんっ…!!」
途端にビリビリと走った快感に、思わず甘い声で喘いでしまう。
そんな女みたいな声は出したくないのに、オレの意志に反して鼻にかかった喘ぎ声は勝手に漏れ出してしまうのだ。
「ひぁっ…!! や…んっ! あ…あぁっ!」
「あ…。やっぱココ…気持ちいいんだ? 可愛いなぁ…海馬」
「ふぅ…んっ。はぅ…っ!」
「海馬…。我慢するなよ? 声出していいんだからな?」
「うぁっ…! やっ…、声…でちゃ…っ」
「うん。だからいいんだってば」
頭の中は既にグチャグチャで、何も考えられなかった。
今夜の出来事の中で一番恥ずかしいと感じ、それでも声を止める事が出来ない。
城之内の与える快感に翻弄され、何とかこの感覚から助けて貰おうと必死にそれらに縋り付いて、自らの熱を高めていく。
身体を密着させ腰を振られる度に、城之内の鍛えられた腹筋に自分のペニスが擦られて、その刺激にまたビクビクと身体が震えてしまう。
快感が強すぎて、涙が止められない。
こんなに一晩中泣かされたんじゃ明日は目が腫れて外出どころじゃないな…と、頭の片隅でちらりと考えた。
だけどそんな他のことを考える暇なんて本当に一瞬しかなくて、両足を更に大きく左右に広げられ、城之内はオレの最奥まで犯してきた。
「っ…ひっ…! くっ…、あぁぁっ!!」
途端に指先まで伝わった快感の痺れに身を竦ませる。
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。
死にたい程恥ずかしい。
それなのに…それ以上に幸せだった。
痛みもあるし苦しみもあるけど、大好きな城之内が体内にいるのを感じて溜まらなく幸せだった。
誰かと身も心も結ばれるのがこんなに幸せな事だなんて、オレは知らなかった。
「好き…」
そんな言葉が自然に漏れる。
「好き…。城之内…、好き…だ…っ」
熱に浮かされたように告白をすると城之内が一瞬驚いたようにキョトンとし、次の瞬間にふわりと嬉しそうに微笑んだ。
「オレもだよ、海馬。オレも大好き」
「城之内…っ。好きだ…、本当に…大好きだ…っ」
「うん、知ってる。オレも大好きだよ…。愛してる、海馬」
好き、大好き、愛してるとお互いに囁きあいながらキスをする。
入り込んできた城之内の舌に、己の舌を夢中で絡ませた。
唇の端から飲みきれなかった唾液が零れ落ちても、そんなもの何の気にもならない。
舌も腕も足も、まるで二度と離れられないようにお互いに強く絡みつかせて、オレ達は共に高みへと昇っていく。
余計な事なんてもう何一つ考えられない。
汗に塗れた城之内の逞しい身体に強くしがみつき、オレはついに快感を耐える事をやめた。
「あっ…! あ…あぁっ! も…出…る…っ! 出る…っ。出ちゃ…っ。じょ…の…ちぃ…っ!!」
「いいよ…っ。出して…。オレも…もうイク…っ!!」
「ふぁ…っ!! あっ…うぁっ…! い…あっ! あっあっ、あぁぁっ―――――っ!!」
互いにまるで相手を絞め殺すかのように強く抱き締め合って、オレ達は共に昇天を迎えた。
一気に頭の中が真っ白になって、だけど下半身から伝わってくる熱だけは妙にリアルに感じていて。
城之内がオレの体内で精を放ったんだと知って、知らず笑みを浮かべてしまっていた。
ゼーゼーと二人共気管が鳴るほどの荒い呼吸をし、重なった胸からは互いの心臓が破裂しそうな勢いで動いているのを感じる事が出来る。
それが少しずつ治まるにつれて脱力し、城之内が体重をかけてオレにのし掛かるのを感じて、オレもその身体を受け止めながらベッドに沈み込んだ。
「だ…大…丈夫…か? 海馬…?」
掠れた声で聞かれた問いに、僅かに頷くことで答える。
正直、指一本動かすのだって辛かった。
ぐったりしながら寝転がっていると、やがて先に体力を回復した城之内が半身を起こす。
「ぅ………っ」
力を無くしたペニスをズルリと引きずり出されて、その感触に小さく呻く。
中に注ぎ込まれた精液がトロリと溢れ出るのを感じて、また顔が熱くなった。
結局、最初から最後まで恥ずかしいままだ。
「悪い…。中に出すつもりは無かったのに…出しちゃった…」
「別に…いいんじゃないか? オレは男だし…妊娠なんて…しないし…な…」
「そうじゃなくて。多分…腹壊すから。後で風呂入って処理しような」
「な…なに…っ?」
「あれ? 知らなかったのか」
額の汗を拭いながら、城之内が顔を上げてオレを見詰めてきた。
し…知らないぞ! そんな事は聞いてないぞ!!
途端にサーッと青冷めるオレを見て、城之内はニヤリと悪そうな顔で笑った。
「出しちゃったのはオレのせいだからな。ちゃんと責任とって綺麗にしてやるから安心しろよ、海馬」
明るい風呂場で体内に注ぎ込まれた精液を城之内の指で掻き出されるのを想像して、その余りに卑猥な映像にクラリと目眩がする。
セックスが終わってもまだ恥ずかしい思いをしなければならないなんて…。
他人と愛し合うというのは本当に大変な事なのだ…と改めて思う。
だけど城之内はもうすっかり落ち着いてしまって、真っ赤になってしまったオレを安心させるように笑って頭を撫でてくれた。
「大丈夫。その内慣れるから。最初は恥ずかしいのは仕方無いんだよ。だけど、そういうのも二人で乗り越えていくって決めたんだろ? だから大丈夫だよ。安心してオレに任せとけって」
またこれだ…。
何を根拠に大丈夫などと言っているのか分からんが、何故か城之内の言葉なら信じられる。
これは城之内が持っている言葉の力なのか。
不思議な感覚に捕われながらも、その言葉を信じて黙って頷くしかなかった。
まぁ…。脳も身体も初めての体験に疲れ果てて、ただ流されただけかもしれないがな…。