城之内×海馬
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「なぁ海馬。お前さ、空飛ぶ夢って見た事ある?」
唐突に城之内に問いかけられて、オレはPCの画面に集中していた視線を上げた。
海馬コーポレーション社長室の重厚なソファにドッカリと腰を落ち着けている城之内は、その視線を受けてニッコリと笑った。そして手元のペットボトルに入ったミネラルウォーターをゴクリと飲み下す。
何故城之内がKCの社長室に我が物顔で居座っているのかとか、備え付けの冷蔵庫から勝手に飲み物を拝借しているとか、そういう疑問はもう持たなくなった。なぜなら奴がこの社長室に自由に出入りするようになったのも随分前からで、最初はその行動に異を唱えていたがやがて面倒臭くなって何も言わなくなった。
「もう少しで終わるから大人しく待っていろ。くだらない質問をするな」
軽い溜息をついて呆れたように返すと、城之内は「いいじゃん! 教えてよ」と全く悪びれることなく近寄ってきた。
城之内がオレに「好きだ」と告白してきたのは半年前。奇しくもオレも奴に興味を持ち始めていたので、何も考えずにその場でOKを出した。
そのせいですっかりオレと慣れ慣れしくなってしまった城之内は、学校や屋敷は元より、最近はこうして会社にも平気でやって来るようになってしまった。
そしてお互いに時間が空いた時はこうして会社まで直接迎えに来て、その後一緒に屋敷に帰り、オレの部屋で一泊するというのが奴の日常になってしまっている。
「で、どうなの?」
すっかり興味津々な顔になった城之内がモニターの向こうから覗き込んでくる。これは無視しても諦めないなと思ったオレは、少し呆れた声で答える事にする。
「何度かある」
その短い答えに城之内の顔がパッと明るくなった。
「やっぱ海馬もあるんだなぁ、そういう夢。なぁ、夢の中じゃどうやって飛んでる? やっぱりほら、鳥みたいに羽ばたいたりとか?」
城之内が両腕をパタパタと動かすのを見て、オレは首を横に振った。そして右手の親指で後ろの窓ガラスを指す。
「そこの窓ガラスを突き破って地面に向かって真っ逆さまに飛んでる夢だ」
「って、おい! それは飛んでるんじゃなくて落ちてる夢だろ!」
オレの答えに城之内が慌てて訂正を入れてくる。
仕方無いじゃないか…と思う。オレ自身もこの夢を見る心当たりがあるにはあるんだ。
義父である海馬剛三郎が死んだのはこの場所だった。
オレに会社を乗っ取られて絶望した奴は、この社長室の窓ガラスをぶち破って地面に向かって飛んだ。そしてそのままこの世とオサラバしたのだ。
その事については別に何も思わないし、自分の見ている夢についても何も感じる事は無い。
そう城之内に告げると、奴は悲しそうな声で反論した。
「寂しいなぁ…。もっと楽しい夢を見ろよ」
「楽しいとは? 大体お前が見ている『空飛ぶ夢』とはどんなものだ? 他人に聞いておいて自分の夢は話さないつもりか」
「いやいや。ちゃんと話すよ。ちょっとお前が見ている夢に愕然としただけ」
そう言って再びソファに戻った城之内は、天井を見上げて目を瞑った。多分自分が見ている夢を反芻しているのだろう。
「グライダーって飛行機、知ってる?」
「滑空機か」
「そう。夢の中のオレはまるでグライダーみたいに高い空を滑っているんだよ。普通空を飛ぶ夢って言ったらさ、鳥みたいに両腕を羽ばたかせるか、天使みたいに背中に生えた羽で飛ぶもんじゃん?」
「そうなのか? 生憎そんな夢は見た事が無いからわからんが」
「相変わらず夢がねぇのなぁ…。まぁそれはいいとして。でさ、オレは別に羽ばたいたりしてないわけ。ただ両手を伸ばして強い風を受けてさ、高い高い空をゆっくり真っ直ぐほぼ水平にスィーッと飛んでんの。それがホントに気持ち良くて最高でさ-」
夢と同じポーズを取っているのだろう。ソファの上で両腕を左右に伸ばして上体を傾けていた。
「海馬。お前もさ、そういう夢見られるようになればいいのに」
ポツリと呟かれた声に「フン」と鼻で笑った。
城之内から告白を受けてから、オレ達は実に不思議な付き合いをしている。
城之内の言う「好き」がただの好意や友情の意味でない事はわかる。現にオレ達はキスもセックスもした。…一度だけ。
唇を触れ合わせるだけの軽いキスならもう何度もしているが、舌を絡まらせるような深いキスやセックス事態は付き合って直ぐに一度しただけで、再び城之内がその行動に移るような事は無かった。
オレ自体は淡泊なのでそれでも構わなかったが、城之内はそういう訳では無いのだろう。時々酷く熱い視線を感じる事がある。
別にそういう行為を拒んでいる訳ではない。向こうがその気ならいつでもディープキスでもセックスでも何でもしてやっても良いと思っている。だが、肝心の城之内が何も仕掛けて来ないのだ。
それについて一度理由を聞いてみた事がある。奴から返ってきた答えは、オレには理解不能なものだった。
「だってお前が求めて来ないんだもん」
オレはそれに首を傾げて反論する。
「確かにオレは自分が淡泊だという自覚はあるが、貴様がやりたかったら別に付き合ってやっても良いのだぞ。オレ達は恋人じゃないのか?」
「恋人だよ。だからオレが一方的に求めたって仕方無いんだ。お前からも求めて来ないと意味がない。だからしない」
「意味がわからん…。したいなら勝手にすればいいのだ」
「オレがそれをヤダって言ってんの。まぁいいさ。時が来ればいずれなー」
そう言って明るく笑う奴が、オレは不思議だった。アイツが我慢の限界にあるのを知っていたからだ。
仕事を終え一緒にリムジンで屋敷まで帰る。先に帰っていたモクバと一緒に夕食を済ませ、その後三人で少し遊ぶ。時間がくれば城之内と一緒にオレの自室に戻り、別々に風呂に入る事になっていた。一応客である城之内が先に風呂に入り、出てきたら入れ替わりでオレが入る。
いつもと同じ行動パターンだった。
その後はパジャマに着替えてベッドに入って一緒に眠る。
そう…眠るだけなのだ。
城之内はギュッとオレを背中から抱き締め、首筋に顔を埋めて深く息を吐き出した。
「おやすみー海馬」
「あぁ、おやすみ城之内」
寝る前の挨拶を交わすと、いくらもしない内に背後から安らかな寝息が聞こえてくる。
寝付きだけは本当に早い…と感心しながらも、オレはやはり気になっていた。
城之内が泊まりに来ている時、一度だけ夜中にハッと目が覚めてしまった事がある。例の社長室から地面に飛ぶ夢を見てしまったからだ。
夢の中のオレは何か恐ろしいものに詰め寄られ逃げ場を無くし、ついに社長室のガラスを突き破って空中に身を投げ出さずを得なかった。
もの凄い勢いで地面が近付いてきて鼻先に硬いコンクリートの地面が触れたと思った瞬間、夢はいつもそこで唐突に覚める。
夢から覚めた瞬間はいつも心臓が早鐘のように激しく鳴り、寝汗で首筋も背中もビッショリだった。
いつもならそこで起き上がってシャワーを浴びに行くのだが、その日は勝手が違った。寝入った時と同じ状態で城之内が背中からオレを抱き締めていたのだ。そしてその城之内の異変に気付くのも直ぐだった。
苦しい程に強く抱き締められ首筋には熱い吐息、そして密着している腰には何か硬いモノが当たっているのがいやでも分かる。
この男はどれだけ必死に我慢しているのだろうか…。時折苦しそうな呻き声も聞こえてきていた。
そんなに苦しむ位なら我慢せずにやってしまえばいいものをと、オレはまるで他人事のように思う。だからといってそんな状態の城之内に声をかける事も出来ずに、オレはまた眠っているふりをしてしまう。
一応同じ男だから、相手に対する欲望というものは理解出来る。そしてその欲望に限って言えば、男としては城之内の方が普通でオレが異常だということも分かっていた。
長く続いた虐待で壊れてしまったオレの心はすっかりその手の普通の感覚を無くしてしまっていて、もう一人の遊戯に心を砕かれ自ら組み直してから少しはマシになったらしいが、それでもまだ普通の感覚は完全には戻りきっていない。モクバや城之内に言わせれば、これでも大分戻って来ているらしいが。
「海馬」
そんなオレに城之内はいつも言い聞かせるように語った。
「ホントに欲しい物は、ちゃんと自分の腕を伸ばして掴み取らなきゃダメだぜ?」
そんな事ならいつもやっているというと、奴は苦笑するばかりだった。
ゆっくりと眠りに落ちていく自分を自覚しながら、頭の別の所では城之内の事を考えていた。
奴の事は本当に好きなのだ。その気持ちに嘘はない。現にキスされた時もセックスをした時も嫌では無かった。それどころか心の底から嬉しいと思った。
なのに何故か自分から求める事が出来ない。
理由は分からないが、自分から手を伸ばす事がどうしても出来ないのだ。
『本当に分からんのか?』
突如自分にかけられた声に驚く。慌てて周りを見渡すと、そこは一面の白い世界。足下はふわふわしていて心許無く、周りの景色が一切見えないのが不安に感じる。よく見れば白い物の正体は何かの煙のようで、その煙幕の向こうに人影が浮いていた。
その影の形には覚えがあった。
それはいつも鏡で見ている自分の姿で、どうやら先程の声はその影が発したようだった。そう言えば聞こえた声は自分の声そのものだった…。
『自分から求められない理由、本当に分からんのかと聞いている』
戸惑っていると再び声がかけられる。
「分かる訳がない…。オレ自身がその事で悩んでいるというのに」
『オレは知っているぞ。お前は本当は怖いのだ』
「怖い…? オレがか…!?」
『そうだ。自分から望んで手を伸ばしたものが、やがて自分から離れていくのが怖いのだ。だから求める事が出来ない』
「もしそうだとしても、それを恐れない人間がいるのか…っ!? 大事なものが自分から離れていくのが怖くない人間がいるというのか…っ!?」
『そうだな。人は皆それを恐れる。だが恐れていてばかりでは何も始まらない。城之内はその恐れを振り切ってお前に近付いて来たではないか』
「そ…それは…」
『それに、現にお前の恐れは城之内を苦しませるばかりだ。お前は恐れを振り切らねばならない。欲しいものは自分の手を伸ばして掴み取れ。そうでなければ…』
「っ…!? あっ…!?」
煙幕の向こうの人物がそう言った瞬間、突然足が地面を突き破って空中に投げ出された。
いつもの夢とは違う、そこは高い高い空の上。見上げると今まで自分が居たのは雲の中だと知れる。
激しい空気抵抗で身体がぶれ、冷たい空気が肌を刺した。視線を下げればもの凄い勢いで地面が近付いてくる。いくつもの雲を突き破り、オレの身体は確実に重力に従って地上へと引っ張られていく。
このままじゃ地面に激突する…っ!!
いつもの夢では全く感じる事のない恐怖に、思わずギュッと目を瞑った。その時…。
「海馬っ!!」
オレの耳に聞こえてきたのは城之内の声だった。
恐る恐る目を開けるといつの間に居たのか、すぐ横に城之内が飛んでいた。空気の抵抗などまるで感じさせぬように、まるで滑るようにオレに近付いてくる。
「海馬…、手を…!」
城之内が手を差し伸べてきた。
「いくらオレでもこれ以上は近付けない…っ! 死にたくなかったら手を伸ばせ…っ!」
「城之…内…!」
城之内の言葉に手を伸ばそうとするが一瞬躊躇してしまう。
本当に自分なんかが手を伸ばしていいのだろうか…? このまま彼の手を取らず地面に激突死して消えてしまった方が、後々お互いに悲しくは無いんじゃなかろうか…?
ありえない思考に捕われていると、隣で飛んでいる城之内が必死の形相で叫んだ。
「海馬っ!! 欲しい物はちゃんと自分の手を伸ばして手に入れろって言っただろ!! オレが好きなんじゃないのか!?」
「………っ。好き…だ。好きだが…」
「じゃあ手を伸ばせ! 手を伸ばしてオレを捕まえろ!! オレが…欲しいんだろ!!」
「…っ! 城之内…っ!!」
城之内の言葉に引っ込みかけた手を伸ばした。
上空の強い風に翻弄されて思うように身体を動かせない。必死に手を伸ばして城之内に近付いたと思っても、すぐに引き剥がされてしまう。
そうこうしている内に、下に見える地面は大分広がってしまっていた。
「頑張れ…っ! 諦めんな…海馬…っ!!」
「くっ…うっ…!!」
身体が燃えるように熱かった。額には汗が浮かんでいるのが分かる。
何度城之内と引き離されようとオレは手を伸ばし続けた。肩や肘が痛くなってきても、少しでも前へ前へと腕を伸ばす。
「海馬…、もう少しだ…っ!」
届け! 届け!! 届け!!!
それだけを願いもうこれ以上は無理だという位腕を伸ばした時、不意に指先が城之内のそれと触れ合った。
その途端力強い手がオレの手を握って、突然グンッとオレの身体が浮上する。驚いて見上げると、城之内がオレの身体ごと上空に浮上しているところだった。
「うまく上昇気流に乗れた。もう大丈夫だ」
天空から指してくる眩しい太陽の光を受けて、城之内は安心したように笑いかけてくる。
「城之内…」
オレも漸く安心して奴の手を強く握り返した。
「………っ!」
突然意識が覚醒して、オレは目を覚ました。
そこで漸く自分が今まで夢を見ていたのだと知る。
詰めていた息を深く吐き出すと、この間と同じように背中から城之内が強く抱き締めてきているのがわかった。この間と違って後ろの城之内は今夜は確実に眠っているのだが、やはりその身体は熱かった。
その熱に気付いた時、オレは自分の身体にも異常が起きている事を知ってしまう。
あんな夢を見たせいだろうか…。オレは間違いなく欲情していた。心臓はドクドクと強く鳴り、頭と下半身に血が集まっているのが感じられる。
そして何よりオレの心が…城之内を求めていた。
そっと身体に回る奴の手を外して城之内の方に向き直る。安らかな寝顔を見つめていると、これから自分がやろうとしてる事に大して躊躇してしまうが、自分の心がその衝動を抑えきれないと訴えていた。
薄く開いた唇にそっと口付ける。最初は触れるだけのそれもやがて我慢出来なくなって、ちろりと舌で上下の唇を舐めてそっと口内に差し込んだ。歯列をなぞるように舌を這わせて、開いた歯の間から覗く城之内の舌に自分のそれを触れ合わせた。
柔らかくて温かいそれを夢中になって舐めていると、突然後頭部を押さえつけられて激しく舌を吸われてしまう。
「っ…!? んっ…! ふっ…んんっ!!」
慌てて逃げようとした舌を絡み取られて甘噛みされる。その途端ゾクゾクとした快感が背筋を走って、オレは身体を震わせた。
何時の間にか目を覚ましていた城之内は、その腕でオレの身体を逃げられないように強く抱き締めてキスを続ける。押し込まれるようにオレの口の中に入ってきた城之内の舌はそのまま口内を蹂躙し、自分の口角から流れる唾液をもろともせずオレを翻弄した。チュクチュクという水音に厭でも欲情が高められて、オレは自分が勃起しているのを感じてしまう。
漸く解放された頃にはオレも城之内もお互いに息が上がって肩を上下させるほどで、城之内は自分の口元を手の甲で拭いながら不思議そうに聞いてきた。
「どうしたの…? 突然」
その質問にオレはただ首を横に振る。
「わからん…。ただ…」
「ただ?」
「夢を見たのだ…。目が覚めたら…お前が欲しかった」
自分が意味不明な事を言っている自覚はあったが、そう説明する他無かった。
驚いたように目を剥く城之内を無視して、オレは纏っていたパジャマのボタンを外し始めた。上着はそのまま肌蹴るに任せ、ズボンは下着ごと脱いでベッド下に放ってしまう。
「え…? 海馬…?」
呆気に取られている城之内のズボンに手をかけて、オレのと同じようにトランクスごと脱がせてしまう。そして緩く立ち上がっている城之内のペニスを何の躊躇もなく口に含んだ。
「うっ…わ…! ちょ、ちょっと…!」
慌てて止めさせようとする城之内の手をパシンと払って、オレは口内のモノに舌を這わせた。
裏筋に舌をピタリと這わせそのままヌルヌルと上下させる。
「っ…! 海…馬っ!」
城之内がちゃんと感じている事に気を良くし、根本を手で握って刺激してやりながら深く飲み込んでやった。亀頭部分が喉奥を刺激して一瞬嘔吐き涙目になるが、上手く当たる場所を変えて舌を絡ませると強く吸い上げた。
奴の手がオレの頭を強く掴むので、仕方無くオレは顔を上げる。そして濡れた唇もそのままに城之内の身体に跨った。
オレの唾液と奴自身の先走りの液で濡れているペニスを支えて自分の後孔に当てる。そのまま腰を降ろそうとした時、その腰を強く捕まれて動きが止まってしまった。
「ちょ、待って! ストップだって海馬!!」
「嫌だ城之内! オレは早く欲しい…っ!」
「嫌だじゃねーよ! わかってるけどそのままじゃ無理だって! お前全然慣らしてないじゃんか…っ!」
城之内がそう言ってオレの後ろの入り口をそっと撫でてくる。
「そんなものはどうでもいい…っ! オレは早くお前が欲しいんだ…っ!!」
「どうでも良くない! 傷ついちまうだろ?」
「裂けようが血が出ようが構わないから…はやく…っ!!」
「お前が構わなくてもオレが構うよ! とにかくほら…オレの指舐めて?」
口元に差し出された城之内の人差し指と中指をオレは暫く見つめ、合点がいったのでそれを口内に招き入れた。唾液を絡みつかせるように指の根本まで丁寧に舐る。城之内も指でオレの唾液をすくうように舌や頬の内側を念入りに擦った。
「まったく…。突然だったから何も用意してないんだよな。ホントはローション使った方がいいんだけど、今日はコレで我慢な?」
ヌルリとオレの口から指を抜き取った城之内は、その濡れた指を後ろに回しオレの後孔に擦りつけた。
暫く馴染ませるように穴の縁を弄っていた指が、唐突に中に入ってくる。
「んっ…! くふっ…!」
それにビクリと身体を揺らすと、下にいる城之内が心配そうにオレの顔を見上げてきた。それに目線で続きを促すと、城之内は指の動きを再開する。
オレの体内を探るように出し入れされる指に、オレは身体を痙攣させて耐えていた。
「ぅ…っ…ん…ふぁ…っ。あぁん…!」
クチュクチュと音がなる程に激しく弄られて、オレはもう声を抑える事が出来なくなっていく。城之内の指がある一点を掠める度に腰が浮くほどの快感を感じる。指なんかでは無く早く城之内自身でそれを感じたかった。
「ぁ…っ! 城之…内…。も…もういい…。早く入れ…て…くれ…!」
オレの必死の懇願に漸く城之内が指を抜いてペニスを当ててくれる。腰を支えてくれてる城之内の誘導に従って、オレはゆっくり腰を下ろしていった。
「っひ…! う…ぁ…あぁ…っ! ん…あっ…!」
約半年ぶりの挿入に身体はやはり抵抗してしまう。それでも体内に城之内の熱を感じるのが嬉しくて、体重をかけてその全てを無理矢理納めきってしまう。
「っ…! ん…んぅ…っ!」
奴の腹筋に手をついて何とか自らの身体を支えていると、ベッドに横になっている城之内が厭らしく笑った。
「腰震えてる。可愛い…」
「う…うるさ…っ」
「褒めてんだよ。もうすっげー可愛い…! オレもう我慢出来なさそうなんだけど、海馬大丈夫?」
男臭い笑顔にオレはもう何も言えず、ただコクリと頷くので精一杯だった。
その後の事はよく覚えていない。
下からガツガツと激しく突き上げてくる城之内に必死に掴まり、あられもない悲鳴をあげて涙と涎で顔をグショグショに濡らして、気付いたらオレは何度も達してしまっていた。
正直何回イカされたか分からない。そして城之内も何度オレの中でイッたのか、今となっては分からなかった。
元々欲情を我慢していた城之内はまだしも、オレ自身もまさかこんなに溜まっているとは思わなかった。
その事をベッドの中でオレを抱き締めている城之内に告げると、「ハハッ」と随分あっさり笑われてしまう。
「そりゃお前、海馬の心の奥底では、ずーっとオレの事を求めてたって事だよ。それに自分が気付かなかっただけだ」
そう言ってオレを強く抱き寄せる。
「ぃっ…!!」
城之内につられて身じろぎをした拍子に下半身が酷く痛んで、オレは思わず顔をしかめてしまった。それに城之内が心配そうに覗き込んでくる。
「大丈夫か? お前まだ二回目だってのに無茶し過ぎ」
「貴様が手加減すれば良かっただけの話だ…っ!」
奴の腕の中からそう言って睨み付けてやると、「あーそうだよなー。ゴメンなー」と全く反省の色が見えない声色で答え、更に強く抱き締めてきた。
今城之内は、背後からでは無く正面からオレを抱き締めている。行為が終わった後のこの状況は恥ずかしくて仕方が無いのだが、城之内は「別にいいじゃん」と何時ものように明るく言ってオレを離そうとはしなかった。
「それにしても…。やっとオレの事求めてくれたな。なぁどうして急にそんな気になったんだ?」
ひどく不思議そうに訪ねてくる城之内に、オレは奴の胸元で溜息をついた。
あの夢の事を話してしまっていいのだろうか…? 言ったとしてもたかが夢に惑わされたと笑われてしまったりしないだろうか…?
オレの心配を余所に城之内は興味津々な顔でオレを見詰めている。
「………。笑わないか…?」
「笑ったりしねーよ」
「夢を…見たんだ…。不思議な夢だった…」
夢の内容を話すと城之内は優しく微笑んで「そっか」と一言呟いただけだった。どうやらそれだけの事でオレの中で何かが変わったのを、城之内はちゃんと感じ取ってくれたらしかった。
「オレは嬉しいよ。お前がちゃんとオレの事求めてくれてたって分かったからな」
城之内の手が優しくオレの頭を撫でる。それが気持ち良くてうっとりと目を瞑った。そして二人で抱き締め合って眠りにつく。
その夜見た夢は最高だった。
城之内に手を引かれて、オレは空を飛んでいた。
高い高い空を滑るように飛んでいく。冷たい空気が身体の横を流れていって、それがとても気持ち良かった。
もう地面に落ちるなんて感じる事は無く、城之内と二人でならどこまでもいけそうな気がしていた。
ふと横を見ると、城之内がこちらを見て微笑んでいる。ギュッとオレの手を強く握りしめ、嬉しそうに言った。
「やっと二人で飛べたな、海馬!」
目が覚めたらこの夢の事を城之内に話してやろう。
多分城之内も同じような事を言うだろうけど。
確信は無いが何となく強く感じる。
これは二人で見ている夢なんだと。
朝が来るまではまだ時間がある。
オレは城之内と共にもう少し、この空の時間を楽しむ事にした。