Text - 短編 - *上下確定のジジツ

城之内×海馬。
海馬の一人称です。
以前書いた『上下逆転のススメ』の後日談になります(*'-')

 




 シャワーを浴びてきてバスローブを羽織ったままのオレを、同じくバスローブを着て既にベッドの上に寝転がっている城之内が手招きで呼んだ。その招きに応えてゆっくりと近付いていくと、突如手首を強く掴まれて引っ張られ、そのままベッド上に転がされてしまう。仰向けに寝転がったオレの上に嬉々として乗り上げて、にやついた笑みを浮かべる城之内を睨み付けるように視線を向ける。だが城之内はそんなオレの視線にも怯む事なく、そのまま顔を近付けて唇を貪ってきた。
 口内にぬるりと押し込まれる熱い舌。傍若無人に暴れ回るそれを押し返そうとするが、その抵抗も虚しく逆に舌を絡め取られて喘がされるだけだった。
 段々と苦しくなる呼吸に眉根を寄せて耐えていると、やがて満足したのか、城之内の顔が離れていく。そして半ば咳き込みながら荒い呼吸をしているオレの頭を撫でて、殊更優しく耳元に囁く。

「なんでそんな嫌そうな顔してんだよ。気持ちいい癖に」

 その余りな言いように、オレはカチンと来て思わず大声で言い返してしまった。

「嫌そうなのではない! 嫌なのだ!!」…と。


 城之内と付合うようになってコイツと初めてセックスをした日から数ヶ月。もうこの手の行為にもすっかり慣れてしまって、オレ達は恋人として度々肌を重ね合わせていた。
 初めて結ばれた日の夜、コイツが泊まりに来るまでの間、オレの頭の中では今の状況とは全然違う理想が存在していた。オレは自分と城之内の体型の差から言って、絶対にオレの方が上…つまり攻める役だと思い込んでいたのだ。実際オレ自身もそれまでの城之内の態度を『可愛い』と思っていたのだから、そう決定付けてしまうのも仕方無いと思う。
 だが、自分の理想とは裏腹に現実はそう上手くはいかない。現実どころか妄想でさえも己の自由にならず、オレと城之内の位置は逆転したまま変わる事が無かったのだ。そしてあの夜、自分は体良く城之内に押し倒され、身体の隅々までしっかりと貪られてしまったのである。
 それ以来自分の立場は『下』から変わる事が無く、男を受け入れるという行為には慣れてしまったものの、それを『良し』と思った事は一度も無い。城之内はオレが今の立場で満足していると思っているらしいが、そう思われる事さえ甚だ不愉快だった。
 いつもはただ流されるだけの行為。だが今日はそうはいかないと、オレは精一杯の力で城之内の身体を押し返す。そんなオレに対して城之内は本気で不思議そうに首を傾げてキョトンとしているだけだった。その何も分かってなさそうな顔すらムカツク要因にしかならないという事を、コイツは分かっているのだろうか?

「嫌? 何が嫌なの?」

 心底不思議そうに聞いてくる城之内に、いい加減にしろという気持ちが強くなってくる。空っぽな頭にも理解出来るよう、分かり易く説明する為にオレは体勢を整え深く息を吐き出した。

「言っておくが、おれはまだ納得した訳ではない」
「納得って…何が?」
「セックスに置いてオレが抱かれる立場な事についてだ!」
「え? 何それ。今更? もう初めてしてから何ヶ月経ってると思ってんだよ」
「何ヶ月経とうが関係無い! オレはずっと嫌だったのだ! ずっとどころか最初から嫌だった!」
「まぁ…同じ男だからお前の言いたい事はよく分かるけどさぁ…。オレ達の関係はどう考えたって、コレが最良だろ?」
「それは貴様が思っているだけの事であって、オレがそう思っている訳ではない!」

 怒りと興奮の余り苦しげに息を吐き出しながら、オレは城之内に訴える。それに対して城之内は少し考え込み、次の瞬間、徐ろにゴロリとベッドの上に仰向けに寝転がった。そしてオレに向かって指先だけでチョイチョイと手招きをし、ニヤリと笑いかける。

「お前の言いたい事はよくわかった。んじゃ、今日はお前がリードしていいから。好きなようにしてみな」

 そう言うとそのまま瞳を閉じて、ニヤついた顔のままベッドの上で大の字になる。
 余りに突然の出来事に呆然としていると、城之内が薄目を開けてこちらを見詰めてきた。そしてさも可笑しそうな顔をしながら「するんだろ?」と言い放つ。その如何にも馬鹿にしたような物言いにムカッときて、オレはそのまま城之内の上にのし掛かった。

「勿論だ。絶対してやる。後悔するなよ?」
「お前こそ後悔するなよ? オレは別にどうでもいいけどさ」
「な…っ? それはどういう意味だ?」
「さてね。やってみりゃ分かるんじゃねーの?」

 城之内の余裕たっぷりな態度には苛つかされたが、それでもやっと巡ってきた千載一遇のチャンスとばかりに、オレは城之内のバスローブに手を掛けた。ハラリと肌蹴けさせると、目の前に現れた逞しい胸板と腹筋に目眩がする。興奮して口内に溜まって来た唾液をゴクリと飲み込むと、目の前の城之内がプッと吹き出した。

「わ、笑うな…っ!」
「はいはい。もう笑いませんよ。ご自由にどうぞ」

 笑わないと言っている割にはクスクスと笑い続ける城之内にチッと舌打ちを打って、オレは目の前に晒されて肌に唇を近付けた。しっかりとした首筋に唇を落としチュッと音を起ててキスをする。そのまま軽いキスをしながらゆっくりと胸元まで辿っていくと、それがくすぐったいのか、城之内が笑いながら身を捩っていた。
「大人しくしてろ」と言っても城之内はクスクスと笑うだけで、もう返事すらしない。それが大いにムカついて、オレはさっさと気持ち良くさせてやろうと胸の飾りに吸い付いた。流石にその時ばかりは城之内も「…っ!」と軽く呻いて身体を強ばらせる。漸く笑いが収まった事に満足して、オレはそのまま乳首をしゃぶり続けてやった。
 固くなっていく乳首に舌を絡みつかせるようにしゃぶっていると、オレの口から飲み込めなかった唾液が零れ落ちてくる。城之内の胸に溜まっていくそれをジュルリと吸い上げながら愛撫していると、やがて無骨な指が優しくオレの髪を梳いているのに気が付いた。

「あ…うん…。気持ちいいよ…」

 城之内の口から出た熱い吐息混じりのその言葉でオレは心底嬉しくなって、今度はその場所から更に下に降りて、城之内の欲望の中心へと辿り着いた。半勃ちになっているそれに指を絡みつかせ上下に擦る。何度か擦っている内にそれはすっかり固くなって、溢れる先走りの液でオレの手をグチョグチョに汚していた。

「海馬…銜えて…? 舐めて…欲しいな」

 頭上から城之内の声が聞こえてきて、オレはそれに習ってすっかり逞しく成長したそれに唇を寄せた。根本から浮いた血管に沿って何度も丁寧に舐め上げ、口を大きく開けて濡れて震える亀頭を口内に招き入れる。トロトロと粘液を垂れ流す鈴口を抉るように舌先をのめり込ませると、その度に城之内の身体がビクリと跳ねて反応した。それが嬉しくて、何度も何度も繰り返す。
 城之内のペニスはもう既にグショグショに濡れてしまっていた。それが彼が自分で出した先走りの液のせいなのか、それともオレの口から流れ出した唾液のせいなのかは分からない。ただオレは、纏わり付いたその粘液を舐め取るのに必死になっていた。舌で城之内のペニスを舐めれば舐めるほど、手の中のソレは固く大きくなっていく。それがとても嬉しくて、そして物凄く興奮した。
 ふと…自分の身体に異変が起こっている事に気付いた。
 ズクリ…と、身体の奥がやけに疼いている。最初は気のせいかと思った。何故なら今日リードを取っているのは城之内では無くこのオレだから。オレが攻めているのに、まるで攻められている時のように身体が疼く筈は無いと思っていた。だけどその疼きは時間が経つにつれて、段々と酷くなってくる。
 身体が…熱い…。身体の最奥が、まるで火がついたかのようにジンジンと熱く痺れている。ズクズクと疼いて、何かが足りないとオレに訴えかけていた。

「んっ…! うぅ…っ!」

 それでも自分は今攻めなんだと思って、何とか城之内への愛撫を続けるが、身体の方はとうに限界を迎えていたらしい。激しく疼く身体に耐えきれなくて内股をもじもじと摺り合わせながら呻いていたら、それまで黙ってオレの愛撫に身を任せていた城之内が、腹筋の力だけで半身を起き上がらせた。そしてオレの顔に手を当てて、優しく引き上げる。

「ご苦労さん。もういいんじゃない?」
「な…何が…だ…」
「顔真っ赤。目もトロンとしちゃって可愛いったらないね。そろそろ限界なんじゃないの? 奥…辛いだろ?」

 城之内の言葉にオレは慌てて首を横に振った。それを認める訳にはいかなかった。今日の自分はあくまで城之内の『上』にいなければいけない。だからどんなに切なくなっても、それを口に出す事だけは嫌だった。例えそれを城之内に見抜かれていても…嫌なものは嫌だったのだ。
 だが城之内はそんなオレの心情も見透かしているようで、優しく微笑むとそのまま体勢を入れ替えてオレの上に乗り上げてしまった。そしてオレの内股に手を伸ばし、熱い手でその場所をゆっくりと撫で擦る。それだけでもう…身体の奥の熱が暴走しそうになってしまった。

「あっ…んっ!」
「ほら、もうこんなに敏感になってる。奥に欲しい癖に」
「ほ…欲しく…な…んて…無い…っ!!」
「嘘ばっかり。今日は全然触って無いのに、こんなにヒクヒクさせちゃってさ。ちゃんと自分で分かってる?」
「んぁ…っ!!」

 城之内の熱い指先がオレの後孔の淵に触れた。それだけでまるで電気が走ったかのような刺激が背筋を突き抜ける。思わずビクリと背を浮かせると、城之内が満足そうな顔をして笑ったのが目に入った。笑みを浮かべたまま城之内は自分のペニスに纏わり付いた粘液を指先で拭い取ると、その指をそのままオレの後孔に持ってくる。そして濡れた指先をグイッとオレの体内に押し込めてきた。

「くっ…! あっ!」

 途端に感じる軽い圧迫感。だけどそれ以上に感じる強い快感。ずっと待ち望んでいた刺激が与えられて、自分の身体が喜びに震えるのを感じていた。城之内の長い指が何本も入って来て、その指先がオレの弱いところを撫で擦る度に、オレは嫌々と首を横に振って喘ぐ事しか出来ない。身体の奥に溜まっていく熱が苦しくて仕方無くて、城之内の二の腕に縋り付いて涙をボロボロと零した。

「どうした…海馬?」

 優しい癖にどこか厭らしく感じる城之内の問いかけに、オレは必死で言葉を紡いだ。

「た…足りな…い…っ。奥…足りない…っ!」
「うん。何が足りない?」
「い、嫌だ…っ! 意地悪…しない…で…くれ…っ!!」
「意地悪なんてしてないぜ? 海馬がちゃんと答えてくれたら続きをやってやるから」
「それが…意地悪だっ…て…言っている…んだ…っ! 馬鹿…っ!!」

 どこか呆れたように、それでも優しそうに微笑んだ城之内は、オレの手を取ってそっと指先に口付けてくれた。そして快感に震えるオレの指先を口中に招き入れ、熱い舌で嬲りながら妙に熱っぽい視線でオレを見詰めてくる。

「海馬…。オレが…欲しい?」

 その問い掛けに必死でコクコク頷くと、城之内はオレの唇を親指の腹で撫でながら「ちゃんとこのお口で、言葉にして言ってみな」と言い放つ。オレはもう…その言葉には逆らえなかった。逆らうにしては、オレの身体はもう限界をとっくに通り過ぎていたのだ。

「欲しい…っ! 城之内が…欲しい…っ!!」
「どこにオレが欲しい?」
「な…か…っ。身体の中に…欲し…い…っ! もう…挿れて…くれ…っ!!」

 ボロボロと流れ落ちる涙が止まらない。快感による震えで身体中はもうガタガタだった。疼く体内に早く城之内のペニスを挿入して欲しくて、自ら大きく足を開く。そして身体を不自然に曲げて、自分の両手でその場所を大きく晒してみせた。

「はや…く…っ! ここ…ここに…っ!! はやく…っ!!」

 オレの言葉に城之内がゴクリと大きく喉を鳴らす音が聞こえた…と思った瞬間、オレは自分の足を大きく抱えあげられ、そして一気に最奥までペニスをねじ込まれていた。疼く箇所に直接熱の固まりが押し付けられて、一気に脳天まで雷に打たれたかのような電気ショックが走り抜ける。

「ひあぁぁっ―――っ!!」

 ビクビクと身体全体を大きく痙攣させ、のし掛かる城之内に強くしがみついて悲鳴を上げた。体内で大きく膨らんで感じる場所を容赦なく抉る城之内のペニスに、オレはなすすべも無く喘がされる。どれだけ涙を零そうと、口の端からみっともなく唾液がダラダラと流れ落ちようと、もうその快感を留める術は持たなかった。ただただ城之内の与える刺激を全てこの身に受けて、その快感に流されるだけなのだ。

「気持ちいい…? なぁ…海馬…。気持ちいいか…?」

 城之内の熱っぽい囁きに必死になって首を縦に振る。

「あぅ…っ! い…いい…っ! 気持ち…いい…っ!!」
「オレに突っ込まれるの…好き…?」
「好き…! あふっ…んっ! あっ…好…き…っ! 好きぃ…っ!!」
「そうか…。海馬はオレに抱かれるのが好きなのか…」
「あんっ! 好き…好きだから…あぁっ! も…もっと…もっとぉ…っ!!」
「うん、いいよ。もっとあげる」

 城之内はそう優しく囁いて、だけどその声とは裏腹の激しさでオレを翻弄した。
 熱くて固い熱がオレの体内で暴れ回る。あっという間に高められた熱は出口を求めて彷徨って、そして限界はすぐそこまで来ていた。

「ふあぁ…っ! あっ…も…ダメ…っ!! も…う…イク…っ!!」
「海馬…っ!! 一緒に…っ!!」
「あっ…あっ…くぁっ!! んああぁぁぁ――――――――――っ!!」

 最後に大きく仰け反って、オレは全ての欲望を吐き出した。それと同時に体内のペニスがビクビクと震えて、最奥に迸る熱が注ぎ込まれたのを感じる。その熱に何だかとても安心して、オレはそのまま意識を失ってしまった。


 ふと目を覚ますと、窓の外はうっすらと明るくなっていた。枕元の時計を見るとまだ起きる時間では無かったが、既に朝は迎えているようだった。隣では熟睡している城之内の姿があって、その余りの間抜け面に思わず吹き出してしまう。キュッと鼻を摘むと「んがっ」と呻いて盛大に眉根を寄せて苦しげな顔をしたので、それで少し溜飲が下がった気がした。
 まだ全て認めている訳ではない。だが、もうこれで仕方無いとも諦めている。何故ならば…この形が一番自然だと、自分でも気付いてしまったからだ。そういう風に城之内に身体を作り替えられてしまったと考えるのが一番楽だが、最初からこの形であった以上、こうなる事が必然だった事にも気付いている。

「仕方が無いな…。これで我慢してやる…」

 鼻を摘まれたまま未だにうーうー言っている城之内に苦笑しつつ、オレは小さく呟いた。
 男として抱かれるという事は確かにプライドが傷付く行為ではあるが、城之内に抱かれるというその行為が自分にとって酷く安心する事も知ってしまったから…。
 だからこれで確定でいいと…そう思いつつ、オレは間抜け面にキスを送り、もう一度眠る為にその温かな身体に擦り寄って目を瞑った。