Text - 短編 - 八年目の桜吹雪

城之内×海馬。城之内の一人称です。
七年目の桜吹雪』の続編となりますので、まずはそちらを先に御覧下さいませ~(*'-')

 




 オレの携帯電話にアメリカにいる海馬から久しぶりのメールが届いたのは、四月一日の朝七時過ぎだった。

『今週末に日本に帰国する。これを最後にもうアメリカには戻らない。近い内に貴様と同居しようと思っているので、そのつもりでいろ。部屋探しをしておけ』

 何とも偉そうなメールだ。でも日本に帰って来てくれるのは素直に嬉しいし、海馬がオレと同居するつもりでいてくれたのも滅茶苦茶感動した。携帯片手にワンルームマンションで飛び上がって、そして偶然に目に入ってきた壁掛けのカレンダーを見てガックリ来てしまう。

「何だ…。エイプリルフールかよ…」

 今日の日付は四月一日。世間ではエイプリルフールと言われている。バレンタインデーやホワイトデーと違って、エイプリルフールは全世界的(特に欧米。イスラム諸国では禁止されているらしいけど)に有名なイベントだ。…うん、確かその筈。だから当然今アメリカに住んでいる海馬も、エイプリルフールの事は知っているって事だ。
 エイプリルフールってのは、ただ嘘を吐けば良いと言う訳では無い。一応『悪意や害が無い嘘』というルールがある。そう考えると確かに海馬が送って来たメールは、特に悪意は無いのかもしれない。ただし、オレ以外に取っては…だ。

「でもさー海馬ぁ…。オレにとっては害ありまくりだぜ?」

 何度見ても全く変わらない文面を見ながら、オレはぐしゃりと寝起きの頭を掻き上げた。



 高校三年生の卒業式の前日に、オレと海馬は一度別れた。そしてそんな海馬と再会したのは、去年の春の事だった。

 たった一人の大事な弟と、自分の夢を追い求めたい海馬。癌で倒れた親父を抱え、生活が困窮していたオレ。お互いに大好きだったのにも関わらず、その関係をそれ以上続ける事が出来なかった。お互いの存在より…目の前の事で必死だったからだ。
 オレ達はまだ子供だった。子供故に不器用だった。全てのものをまんべんなく愛するなんて器用な事は出来ず、ただ目の前に塞がる大きな壁に途方に暮れ、その時に自分が『一番』大事だと思う物以外は手放さなければ生きていけなかったんだ。
 ただ、海馬はオレの事を嫌いになった訳じゃ無かったし、オレだって海馬の事は大好きなままだった。だから別れる時に言ったんだ。

『もしオレが今よりずっと大人になって、生活も安定して、心もデカくなって…。お前の全てを受け止められると自信を持って言えるようになったら、お前を迎えに行ってもいいか?』

 って…。そうしたら海馬が『期待しないで待っていよう』と言ってくれたので、オレはその言葉を信じて生きていく事となった。


 そして別れてから七年目の春。つまり去年の春に、オレはわざわざアメリカまで海馬を迎えに行ったのだった。
 七年ぶりにオレと再会した時の海馬の顔は、今でも鮮明に思い出せる。
 最初オレは、海馬がいるという海馬コーポレーションのアメリカ支社に直接出向いた。拙い英語で受付嬢に理由を話しても、彼女は『社長は只今外出しております』とばかり言って全く相手にしてくれない。まぁ…そりゃそうだ。いきなりどこの誰かも分からない日本人の旅行者に『お宅の社長さんに会わせてくれ』と言われても、『はいそうですか』なんて簡単に会わせてくれる筈が無い。
 あんまりしつこくしても悪印象しか与えないから、ここは素直に諦める事にした。自動ドアから外に出ながら、さてどうしようか…などと考える。そして顔を上げて、そこに植えてあった一本の見事な桜の木に目を奪われた。


 海馬コーポレーションのアメリカ支社に続く大通りには、街路樹が整然と植えられている。ただそれは桜では無くハナミズキだった。日本でもハナミズキの木は見た事があったし、凄く可愛い花を咲かせるのも知ってたけど、やっぱり日本人としては桜が無いのが少し寂しいと思う。しかもまだ季節的に早くて、ハナミズキの花は残念ながらまだ咲いていなかった。
 来る時は久しぶりに海馬に会えるというドキドキ感で周りの景色を見る余裕なんて無く、オレはその桜の木に気付かなかった。ただ一旦用事を済ませてしまえば心に余裕が出来たらしく、支社ビルの脇に生えていたその美しい木に漸く気付く事が出来たのだった。

「うわ………」

 淡いピンク色の美しい花。その花が満開になっている。桜に心が奪われるなんて、オレもやっぱり日本人だったんだなぁ…なんて事を思いながら、暫し桜に見惚れていた時だった。

「っ………!」

 急に強いビル風が吹いて、桜の花びらがまるで吹雪のように散っていった。舞い散る花びらに視界を奪われて、片目を瞑りながら顔を上げた時だった。薄ピンク色の花吹雪の向こうに、オレがずっと恋い焦がれていた人が目を瞠って立ち尽くしている事に気付く。
 澄んだ青い瞳を限界にまで見開いて、呆然とした顔でオレの事を見ていた。

「海…馬…」

 薄いグレーの上品なスーツに身を包み、桜吹雪の中に立ち尽くす長身にオレはゆっくりと近付いて行く。そして目の前で足を止め、ぎこちなく笑いながら「海馬、迎えに来た」と伝えた。
 七年ぶりに会った海馬は、少し大人っぽくなっていた。元々同年代の少年達に比べればずっと大人っぽかった奴だったから、久しぶりに見てもあんまり違和感無かったけれど、それでもやっぱり以前よりシャープになった顔やしっかりとした身体付きから大人になったんだなぁ…と思う。
 そんな大人になった男は、今は大きく瞳を見開いて信じられないような顔をしてオレの事をじっと見詰めていた。

「海馬…。ゴメンな? 遅くなった」

そう言っても海馬は全く反応しない。ただ、久しぶりに見た綺麗な青い瞳がみるみる内に潤みだし、盛り上がった水滴が重力に負けてポロリと零れ落ちて、頬を伝って顎からポタポタと地面に落ちだした時は、流石のオレもちょっと焦った。
 真っ昼間のオフィス街の大通り。こんなところで天下の海馬コーポレーションの社長を泣かせているなんて、海馬がいつも引き連れている黒服SPにでも見付かったら厄介だ。

「お、おい…海馬…」

 慌ててその頬に手を伸ばそうとしたら、突然涙に濡れた瞳がカッと見開いた。そして硬く握り込んだ右拳で、思いっきり左頬をぶん殴られる。突然の事で全く受け身が取れなくて、オレは無様に地面に転がった。

「いって…っ」

 痛いというか熱く感じる左頬に手を当てて、オレはクラクラする頭を我慢しながら何とか半身を起き上がらせる。そしてもう一度海馬の顔を見上げた時に、物凄い怒声がオレの頭上から降って来たのだった。

「遅いっ!!」

 お…遅いってお前…。うん、確かに遅かったかもしれない。七年は時間掛かり過ぎだよな。でも暫くぶりに出会った元恋人に、いきなり殴りかかるのはチョット無いんじゃないだろうか…?
 そんな文句が心の中に生まれたけど、オレはそれを言う事が出来なかった。真っ昼間のオフィス街の大通り、そのど真ん中で自ら殴り倒した男に海馬が強く抱きつき泣き出したからだ。
 道行く人々がオレ達の事を物珍しそうに見ては、通り過ぎて行く。こんな目立つ場所で天下の海馬コーポレーションの社長さんが男に抱きついて泣いてるなんて…スキャンダルな事にならなきゃいいけど…と、オレは頭の片隅でまるで他人事のように冷静に思っていた。
 だけどそんな事を考えているのは脳の一部分だけで、その大部分は、海馬に会えて嬉しいとか、久しぶりの海馬の体温や質感に触れられて心から感動したとか、泣いてる海馬が可愛くて堪らないとか、撫でている髪の毛がやっぱりサラサラで気持ちいいとか、そんな事ばかり考えていた。

「遅くなって…ゴメン。本当にゴメン」

 あんまり海馬が泣くもんだから、オレも心底自分が悪い気になって真摯にそう謝った。栗色の髪の毛を宥めるように撫でながら、細く強ばった背をそっと抱き締める。すると海馬はオレの耳元で「そうだ…! 全部貴様が悪い!!」と涙声で文句を言っていた。
 最初に別れを切り出したのはコイツだってのに、本当に勝手な男だな。こういうところは全く変わって無いのな。困った奴だ。…なんて事を思いながらも、オレは逆にコイツが全く変わっていない事を嬉しく思っていたし、そんな海馬の存在を心から愛しく思った。
 愛しくて愛しくて堪らなくて、オレ達は暫くそのまま強く抱き合っていたのだった。



 とまぁ…こんな事があって、オレ達は恋人同士として再出発する事が出来た訳だ。ただその時は、海馬を日本に連れて帰る事には失敗していた。海馬が日本に帰るにはまだまだやらなければならない仕事が沢山あって、まずそれらを片付けなければいけなかったからだ。
 結局その年はオレ一人だけで日本に帰り、あの公園の桜も一人で眺めた。凄く寂しかったけれど、再びお付き合いが出来るようになっただけでも上々だ。久しぶりに身体を重ねる事も出来たし、余り欲深になってもいけない。
 頭ではそう分かっているものの、やっぱり寂しいという気持ちは消えなくて、満開の桜の木の前に立ってオレはボソリと言葉を放った。

「お前も海馬と一緒に眺めて欲しかったよなぁ…」

 そう言っても桜は何も答えはしない。だけど、ハラハラと舞い散る薄紅色の花びらがまるでオレを慰めているようだった。


 こうして遠距離恋愛を始めたオレ達だったが、それから海馬は一~二ヶ月に一回くらいは日本に帰って来てくれるようになった。滞在期間は二~三日。一回だけ一週間程いてくれた事もあったけど、大体はすぐにアメリカに戻っていってしまう。たった数日間の恋人としての逢瀬は、どうしたってやっぱり寂しくて堪らなかった。出来る事ならずっと日本にいて欲しいと思えてならない。
 ただ、オレももう大人になっていたから、そんな我が儘は言えなかった。海馬がアメリカでどれだけ大事な仕事をしているのかも、そしてその仕事に海馬がどれだけ自分の人生を掛けているのかって事も、嫌って言う程分かっていたから。それに別れていた時と違って、オレ達はもう恋人同士だ。例え二人の間にある距離が膨大であろうと、心の距離はゼロだと知っていたから、寂しさにも耐える事が出来た。
 だからと言って、寂しいと感じる事に変わりは無い。愛している人に会いたいと思った時にすぐに会えないというのは、結構でかいストレスとなる。こればっかりは、別れていた時の方がマシだったかもしれないと思う。人間ってのは欲深な生き物だから、何か一つ物事が好転すると、もっともっとと望んでしまうんだ。

 だからそんな時に送られて来た海馬の嘘メールは、オレの心に結構深いダメージを与えた。

 多分、今週末に日本に一時帰国するのは本当の事なんだろう。でもあの忙しいアメリカでの業務がある事を知っていると、こっちに完全に戻ってくるというのは信じられない。というか、多分嘘なんだろう。エイプリルフールだしな。
 世間の物事に疎かった海馬がエイプリルフールで遊べるようになるまで成長してくれたのは、オレとしてもとても嬉しいと思う。

「でもなぁ…。状況を考えてくれよ…」

 壁に掛かったカレンダーを見ながら、オレは深く深く溜息を吐いて項垂れたのだった。



 それから数日後。予告通り海馬は日本に帰って来た。いつものように空港まで出迎えに行って、帰国ゲートから出て来た長身の影に手を振ってみせる。
 これは再会してから知ったんだけど、海馬はいつもあのキチガイじみたブルーアイズジェットや、KCが持っている個人用旅客機を使っている訳では無いんだそうだ。アレは本当に特別な場合のみで、普段は普通に大手輸送会社の旅客機を利用しているらしい。ただ、勿論エコノミークラスなんかじゃないけどな!

「お疲れ様。仕事一段落したのか?」

 荷物を持ってやりながらそう尋ねれば、海馬は「あぁ」と笑顔で頷いてくれた。そのまま少し移動して、馴染みのコーヒーショップに入る。海馬が帰国したらまずこの店に入って、コーヒーを飲みながら一休みするのがオレ達の間の恒例となっていた。
 重い荷物を引き摺りながら店に入ると、幸運な事にお気に入りの席が空いている。これ幸いにとそこに座り、にこやかな笑顔でお冷やを持って来てくれたウェイトレスさんにいつものコーヒーを二つ頼んだ。
 注文を聞いたウェイトレスさんが戻っていくのを横目で見ながら、グラスを持ち上げてよく冷えた水を飲む。ふぅ…と一呼吸置くと、海馬も同じように水を飲んで安心した顔を見せていた。だからオレは、ついいつもと同じような質問をしてしまう。

「それで? 今度はいつまでいられるの?」

 いつもだったら穏やかな表情のまま「~日までだ」と答えてくれる筈なのに、その時海馬は何故か顔を引き攣らせてオレの事を凝視していた。その反応がオレとしては意外で、思わず首を捻ってしまう。それに対して海馬も同じように首を捻りながら、低い声を出した。

「いつって…。貴様、何を言っているのだ?」
「え? 何って?」
「メールを見ていないのか。もうアメリカには戻らないと言っているだろう?」
「だってそれ嘘なんだろ?」
「はぁ?」
「だから、嘘なんだろ? エイプリルフールの」

 小さなテーブルを挟んで、二人して首を捻りながらじっと見詰め合った。海馬の青い瞳がパチパチと忙しなく瞬きしている。ややあって…海馬が「はぁ~…」と長い溜息を吐き、オレに向かって手を差し出した。

「ん? 何?」
「携帯…」
「携帯?」
「貴様の携帯を貸してみろ」

 言われた通りに胸ポケットから携帯を取り出して海馬に手渡すと、海馬はフリップを開けてメールをチェックし始める。やがて自分が送ったメールの受信日を見て、再び大きな溜息と共にガックリと項垂れた。

「か…海馬…?」

 余りの落ち込みように慌てて海馬の名前を呼ぶと、海馬は如何にも呆れたような顔をしながら視線を上げて口を開いた。

「あぁ…スマン。これは確かにこちらのミスだ」
「え? 何が?」
「エイプリルフールの事は確かにオレの頭にもあった。ただ余りにアメリカでの生活が長かったから、時差の事などすっかり忘れていたのだ。『四月一日』にこんな話をしたんじゃ貴様が信じないだろうからと、急いで『三月三十一日』中にメールを送ったつもりだったのだがな…」
「は…?」
「アメリカではまだ三月でも、こちらでは既に四月になっていたのだな。本当にすまなかった」
「え…? そ、それじゃもしかして…? このメールってマジで…? え? えええええっ!?」

 テーブルに身を乗り出すようにそう叫んだオレを、海馬はばつが悪そうに見詰めている。オレの叫びで、周りの他の客やコーヒーショップの従業員の視線が注目している事にも気付かない。
 暫くして漸く自分達の存在が浮いている事に気付いて、オレは慌てて「スミマセンスミマセン」と周りにペコペコ頭を下げた。その事で漸く他の視線が元に戻っていくのを感じて、オレはもう一度深く椅子に座り直す。そしてグラスを持ち上げまだ冷たい水をグイッと飲んだ。乾いた喉が潤っていく事に安堵しながら、今度は声の大きさに気を付けながらヒソヒソと海馬に話しかける。

「お前…。コレ、マジで言ってたのか?」

 オレの言葉にムッとした表情を見せながらも、海馬は一応自分も悪いと思っていたらしくて、何の文句も言わないままオレに返答した。

「そうだ。悪いか」
「いや、悪くはないけど」
「それでどうなのだ。一緒に住む気があるのか無いのか。無いならオレはアメリカに戻るぞ!」
「うぇ!? ちょ、ちょっと待ってよ! 誰も無いなんて言ってないじゃん! 答えを急ぐなよ!」
「じゃあ、あるのか?」
「あるよ! ある! あります!! ただこれが本気のメールだとは思って無かったから、部屋探しとか全然してないぜ?」
「全く…役に立たん奴だ。帰って来たら速攻その部屋に案内して貰えると思っていたのに…」
「例えこのメールを本気にしてても、そりゃ無理だ。金持ちの感覚で考えるなよ。金の問題もあるし、部屋の間取りとか周りの環境とか、他にもオレやお前の好みとかもあるだろ? こういうのは自分の目でじっくり選ぶもんだよ」
「ふむ、いいだろう。だったら暫く貴様と一緒に部屋探しをしてやる。だがその部屋が決まるまで、オレはどこにいれば良いのだ?」
「海馬邸に帰ればいいじゃん…。モクバもいるんだしさ。言っておくけど、オレん家は無理だぜ? 1DKだからな」
「1DKでも寝る場所があれば充分だ。貴様の家で厄介になる」
「何でだよ! 兄弟仲良くしろよ!」
「充分仲良くしている。ただオレ達は、もうお互いに兄弟離れしているだけだ」

 海馬はそう言って、漸く運ばれて来た熱々のコーヒーを美味しそうに啜っていた。そんな海馬を見詰めながら、オレは先日見た新聞の記事を思い出す。海馬コーポレーションの副社長が、僅か二十一歳で結婚したって記事だった。

「あーそっか。もうあっちにはモクバの嫁さんがいるのか…」

 そう語りかけると、海馬は目だけで頷いていた。



 その後、海馬は宣言通りにオレが住んでいる狭い1DKに転がり込み、今も二人で新居探しをしている。
 この間、二人で不動産屋へ出掛けようとした時にたまたま例の公園の側を通りがかったので、あの桜を見に行く事にした。海馬の細くて少し冷たい手を引いて、椿と夾竹桃の間を潜り抜ける。すると目の前に一面のピンク色が広がった。
 海馬のお気に入りの桜の木は、今年も綺麗に花を開かせていた。

「凄い…。綺麗だ…」

 ボソリと…。誰に言うまでもなく呟かれた海馬の一言に、隣で聞いていたオレは至極満足する。
 そうだ。オレはこんな風に海馬と一緒にこの桜を眺めたかったんだ。その夢が漸く叶って、オレは心から幸せな気分になった。

「そういや昨日尋ねた不動産屋さんで、この公園の近くのマンションを紹介されたんだけど」
「何…?」
「今日、そこに行ってみる?」
「あぁ」
「まだ部屋が空いてるといいな。そんでもってオレもお前も気に入る部屋だといい」
「そうだな。更にこの公園を眺める事が出来る窓があれば申し分無いな」
「その部屋に住めたら、来年もまたここに来よう。それで二人でこの桜を眺めよう」
「あぁ…そうだな。そうしよう」

 絡めた指をギュッと強く握って、オレ達はいつまでもずっとその桜を眺めていた。
 来年も…再来年も…そのまた次の年も。こうやってコイツと一緒に桜を眺める事が出来ますように。
 突如吹いた強い風に薄紅色の花びらが舞い散る中、オレも…そして多分海馬も、同じように願っていたのだった。