*僕らシリーズ - 青春の1ページへ… - *青春真っ盛りな僕ら

城之内×海馬。
『アンニュイな僕ら』と『現金な僕ら』の続きになります。
AVを見る海馬に違和感を感じられる方は、直ぐにお戻り下さいませw

 




 梅雨時のこの季節は、空はいつだってどんよりと重かった。
 毎年この時期になると気分が憂鬱になって、仕事も勉強も捗らなくてうんざりする毎日が続いていた。
 だが、どうやら今年は少し様相が変わったようだ。

「城之内、明日の予定は?」
「んぁ-? あぁ、別に何にもないけど」
「そうか。オレもだ」
「お! やっと休み取れたのか! ちなみに明日の天気は?」
「朝から雨予報だぞ」
「マジで!? また休日に雨予報かよ…。たまには外に遊びに行きてーのになぁ」
「仕方無いではないか。どんなに空に愚痴っても天気予報は変わらん」
「ちぇー。なぁ海馬。お前んとこの技術力で天気変えられねーの?」
「いくらオレでもそれは流石に無理だ。諦めて屋内で大人しくしてるんだな」
「そうだな。ま、お前が相手してくれるならそれでいっか」

 この会話はオレ達だけに分かる秘密の暗号だ。
 明日の予定と天気予報を聞き、それに休日と雨が重なれば答えは決まり。イコール城之内がオレの邸に泊りに来るという事だ。
 先日、実に幸せな朝を迎えてから、城之内とは何度か学校でこの会話をした。
 だがオレの仕事や城之内のバイトが重なり、なかなか二人共に空いている日が無かったのだ。
 梅雨時だから雨は毎日のように降る。
 シトシトと静かな冷たい雨の音に、一人ベッドの中で目覚める度に寂しい気持ちを覚えた。
 城之内と一緒に目覚めた朝はあんなにも幸せだったのに…と掛布の中で溜息を吐く。
 そして、その度に城之内の事を思いだした。
 今彼も同じような気持ちで同じように目覚めているのだと思うと、ほんの少しだけ気分が上昇するのを感じるのだ。
 その度に本当に現金だな…とクスリと笑って、気怠い身体に鞭打って起き上がる日々が続いていた。
 明日の天気予報も見事に雨。
 だが久しぶりにオレと城之内の休みが重なったので、明日はあの日以来の幸せな朝を迎える事が出来るだろう。
 オレの自室には城之内がいつ泊まりに来てもいいように着替え等が用意されてあったので、学校が終わった後はそのまま一緒に邸にまで帰る。
 邸に着いた後は二人で食事をしたりゲームをしたりして、至極学生の友人らしい時間を過ごしていた。
 一つ訂正を入れるなら、オレ達の関係は清く正しい友人関係では無く、どちらかというと恋人同士に近い関係なんだがな。
 まぁ…。恋人といってもキスくらいしかしていないが…。
 裸同士で眠ったりはしたが、結局何も無かったし。
 そしてそんなゆったりとした時間を過ごしていたオレ達に、事件は唐突に起こった。

「オレ、ちょっとトイレ行ってくるわ」

 ゲームをしていた城之内が突然立ち上がって、部屋付きのトイレへと歩いて行った。
 その時にどこかに引っかけたのであろう。
 ソファの背に立てかけてあった城之内の学生鞄がゆっくりと傾いていって、そして時間差でドサリと床に転げ落ちたのだ。
 鞄の蓋がきちんと閉まっていなかったらしく、ペンケースやノートや雑誌などが床にバラまかれてしまっている。
「仕方の無い奴だな」
 自他共に認める几帳面な性格のオレは、それをそのままにしておく事が出来ずに慌ててそれらを拾い集める。
 一つ一つ丁寧に拾ってそれを鞄に詰め直そうとしたオレは、鞄の口から斜めに顔を出しているソレに気がついた。
「………?」
 手にとって見てみると、それはどこにでもあるような黒いビデオテープだった。
 ラベル等が貼られていないところを見ると、どうやらコレは何かの番組を録画したか、もしくは他のビデオの映像をダビングしたものだと思われた。
 というか…今時ビデオテープか…。
 世の中にはDVDやブルーレイといった至極便利で綺麗なソフトもあるのだから、いい加減プレイヤーを代えればいいのに。
といっても、オレも城之内の家がそんなに裕福では無い事を知っている。
 今時ビデオなどという旧世代のハードを持っていても仕方の無い事なのかも知れない。
 ふむ。これはアレだな。
 オレのお古だと偽って新しいDVDプレイヤーでもプレゼントしてやるか…と考えていた時だった。

「うぁーっ!! オレのボッキン☆パラダイスーッ!! 何やってんのお前!!」
「ボッキ…ン?」

 必死な形相で慌てて近付いて来た城之内は、オレが手に持っていたビデオテープを引ったくるように奪っていった。
 その慌てっぷりは可笑しかったものの、せっかく親切で鞄の中身を拾ってやっていた事にその対応はあんまりだろうと、オレは少々ムッとしてしまう。

「勝手に人の鞄漁ってんじゃねーよ!」
「オレが貴様の鞄を漁るなど、そんな事する訳がないだろう! 鞄がひっくり返って中身が全部バラまかれたから拾ってやっただけだ」
「へ…? そうなの?」
「当たり前だ! 何だせっかく拾ってやったのに! 人を泥棒扱いしおって!!」
「げっ…! ゴ、ゴメン!! それはオレが悪かった…っ!」
「しかも何だ、貴様の先刻の態度は!! それはそんなにオレに見られたら困るものなのか!!」

 オレの詰問に城之内がビクリと身体を揺らす。
 真っ直ぐに顔を見詰めてやると、そろりと明後日の方向に視線を動かすのが見えた。
 こ…こいつ…っ! このオレに隠し事だと…っ?
 いい度胸だ!
 今だ城之内の手に握られたままだったビデオテープをぶんどって、オレはそのままTVに向かって歩いていった。
 ビデオデッキなど最近はすっかり使わなくなったが、それでも古い記録や資料等を見る時にはどうしても必要だった為、オレの部屋にも未だに備え付けられている。
 TVの下のガラス戸を開け中に収まっていたビデオデッキに先程のテープを押し込むと、オレはおもむろにTVの電源を入れた。
 そしてリモコンを手にして城之内の方に振り返り、ニヤリと笑ってみせる。

「城之内…。貴様がそんなに見られたくないものならば、尚更オレがチェックしなければならないようだな」
「うわっ! ちょっおまっ! 止めて! お願いだから!!」

 どうせ下らない深夜番組か流行のアイドルのライブ映像なのだろうと思っていたオレは、何も考えずに再生ボタンを押した。
 リモコンを奪おうと躍起になっている城之内から、フットワークを活かしてひらりひらりと逃げ続ける。
 ふはは! 手も足もオレの方が長いのだ!! 奪えるものなら奪ってみせろ!!
 悔しそうな顔をして襲ってくる城之内から余裕で逃げつつ、オレは映像が映し出されたTV画面に目を遣った。
 そして数秒後…オレは激しく後悔した。
 録画した深夜番組の映像やアイドルのライブの方がどんなにマシだったか知れない。
 ビデオが完全に巻き戻っていなかったのだろう。
 途中再生されたビデオからは、素っ裸の巨乳の女があられもない声をあげつつ、ベッドの上で身体をくねらせていた…。

「じ…城之内…」
「何でしょう…、海馬君」
「これは…一体…何だ…?」
「えーと…、何だと言われましても…。AV…とでも申しましょうか…」
「そ…そうか…。しかし何故こんなものを…?」
「本田君が貸してくれました…。出ている女優さんが…その…大変オレ好みだという事で…」
「な、なるほどな…」

 互いにリモコンを掴んだ状態で、オレ達は突っ立ったままそんな会話をしていた。
 というか、城之内の言葉遣いが凄く変なのは、突っ込まなければならないところなのだろうか?
 TVの画面からは相変わらず淫らな映像が流れ続けている。
 それから目を離す事が出来ずにじっと見ていると、横にいた城之内がオレの顔を覗き込んでくるのが分かった。

「海馬…? もしかして興味あんの?」
「もしかしてとはどういう意味だ?」
「いや…。何かお前ってさ、こういうのには全く興味無さそうじゃん」
「何か誤解をしているようだがな。オレだって普通の男だぞ。興味が無い訳では無い」

 自分の言っている事に急激に恥ずかしくなった。
 顔が熱くなるのを感じながらちらりと横にいる城之内を見ると、奴も顔を真っ赤にしている。
 見るんだったらとりあえず座って見ようと城之内に手を引かれ、オレ達はソファに並んで座ってAVを鑑賞する事にした。


 何とも妙な状況になってしまった…。
 そのまま黙って見ているのも気恥ずかしくて、オレはその場にあったクッションを膝の上に置いて両手で抱き抱える。
 画面の中ではAV女優が痴態を繰り広げていた。
 茶髪のショートカットに切れ長の目。
 確かにちょっと可愛いと思う。
 ベッドの上で屈強な男に貫かれて大きな胸をゆさゆさと揺らしながら『あんっ! あぁんっ!』と可愛い声を上げてはいるが、だが実際こんな乱暴な抱かれ方をされたら気持ちいいどころの話じゃないと思う。
 そんな事を頭の隅で冷静に分析していたから、オレは自分の身体に異変が起こっているのを大分時間が経ってから漸く気が付いた。
 流石に男性の性的興奮を高める為だけに作られた映像だけあって、このオレでも反応するような要素が至る所に散りばめられているのだ。
(まずい…)
 自分のペニスが勃起しているのを感じ取って、膝の上のクッションをギュッと力を入れて抱き締める。
 いくらAVを見ているからと言って、隣に城之内がいるこの状況で抜く訳にはいかないではないか…っ。
 そう思ってちらりと横を見遣ると、同じようにこっちを見ていた城之内と目が合ってしまった。

「海馬…」
「な…何だ…」
「オレ…ちょっと抜きたいんだけど…」
「勝手に抜けばいいではないか…」
「うん…。でも…お前も抜きたいんじゃないかと…思って…」
「………。まぁ…な」
「じゃぁ…ちょっと…抜きっこしようか…」
「…は?」

 城之内の言っている事が理解出来なくて頭に?マークを浮かべていると、隣に座っていた城之内がもそもそと動いてオレの膝の上からクッションをどけてしまった。
 途端に露わにされてしまった下半身に、顔が一気に熱くなる。

「っ………!」
「あ、やっぱり大きくなってる…」
「見るな…馬鹿…っ!」
「いいから…ちょっとだけ。腰上げてくれる?」

 城之内の手がカチャカチャと音をたててベルトを外し、オレのスラックスに手をかけた。
 奴に言われるままに少し腰を上げると、そのまま膝下まで一気に下げられる。
 持ち上がった下着の先端に既に染みが出来ているのを見て、オレは恥ずかしさの余り顔を背けた。

「恥ずかしい?」
「そ…そんな事を…聞くな…っ」
「男がAV見て興奮するなんて当たり前だし、恥ずかしくも何ともないよ。ほら、オレだってこんなになってる」

 城之内に右手を取られて、それを奴の股間に導かれる。
 制服のズボンの上から触ったそれは、もう硬く勃起していた。
 誘われるようにオレも城之内のベルトを外し、一気にズボンを下げる。
 そしてトランクスの上からそっとソレを撫でると、城之内がピクリと反応したのが目に入ってきた。

「せっかくだから…。下…全部脱いじゃおうぜ」

 城之内の提案にオレはコクリと頷くと、自分のボクサーブリーフに手を掛けてそろそろと下ろし、それをスラックスと一緒にソファの下に放り投げた。
 同じようにズボンとトランクスを脱いだ城之内が、ソファに乗り上げてオレに近付いてくる。
 そして既に先走りの液でぬめっているオレのペニスに手をかけた。

「んっ…!」

 熱い掌でキュッと握られて、それだけで耐え難い快感が走って思わず声を出してしまう。

「可愛い声。もっと聞きたい」
「じょ…の…うち…」
「なぁ。お前もオレの…触ってくれる?」

 熱に浮かされたような城之内の声に黙って頷くと、オレは自分の右手を城之内のペニスに絡みつかせた。
 先程自分がやられたようにクッと握りしめると、目の前の城之内が熱い吐息を漏らす。
 その後はもう、二人共何も言う事は出来なかった。
 ただただ夢中になってお互いのペニスを擦り合う。
 最初は片手だけだったのがいつの間にか両手になって、先走りの液で手をぐっしょり濡らして大きく硬くなるソレを上下に擦った。
 とにかく必死だった。
 相手に与える快感と相手から与えられる快感に息も荒くなり、互いの下半身からはグチョグチョといういやらしい水音が響いてくる。
 TVから流れてくるAV女優の声なんてもう聞こえては来なかった。
 見えるのは快感を耐える城之内の顔だけ。
 聞こえるのは城之内の荒い息づかいと下半身の水音だけ。

「あっ…!!」

 突然二本のペニスを一緒に握られて、オレは驚きと快感の余り甲高い声を上げてしまった。
 今まで感じていた掌の感触だけでなく、ゴリッとした硬い感触と燃えるような熱に身体が震えてしまう。

「手…休めないで。一緒に…」

 城之内に促されて、オレはぐっしょり濡れた両手をもう一度二本のペニスに伸ばす。
 同じように濡れた城之内の手がオレの手を包み込んで、ゆっくりと上下に動き出した。

「うっ…! はぁ…っ! っぁ…あ!」
「うぁ…っ。すっげ…気持ちいい…っ」
「ふぁっ! やっ…ん! じょ…の…ちぃ…っ!」
「海馬…気持ちいい? オレはすっげー気持ちいい…っ」
「気持ち…いい…っ! はぁっ! ぅんっ…! いい…っ!!」

 頭が熱でボーッとしてきて、目元がじわりと熱くなり涙が勝手に零れてしまう。
 余りの快感に手が止まらない。
 どんどんスピードが速くなって、オレは限界を覚え始めていた。

「あっ…! くぅ…っ!!」

 ビクリと大きく身体を揺らしてオレは達してしまう。
 ビクビクと身体を震わす度にオレのペニスからは白濁の液が流れ出て、それが自分の手と城之内の手、そして城之内のペニスを汚していた。

「海馬…っ!!」

 それを間近で見ていた城之内も、オレの名前を呼びながら同じように精液を吐き出した。
 互いに何度も身体を震わせながら精を吐き出す。
 射精しながらもオレと城之内は、互いの精液を最後の一滴まで絞り出すように手をゆるゆると動かしていた。
 やがて熱が通り過ぎ、オレは気怠さを覚えてそのままソファにどさりと倒れ込んでしまう。
 息が苦しくて仕方が無い。
 ハァハァと短く呼吸をしながらチラリと瞼を開けると、近くに置いてあったティッシュボックスからティッシュを抜いて手を拭いている城之内の姿が目に入ってきた。

「海馬…。手…」

 言われて素直に両手を差し出すと、同じようにティッシュで綺麗に拭われる。
 新しいティッシュを数枚抜くと、今度はペニスを拭われた。

「そ…そんな事…しなくていい…っ」
「いいから。黙ってて」

 城之内の言葉に、オレは全てを任せる事にした。
 本来のオレだったら意地でもそんな事はさせなかったと思うが、今のオレは頭の中が霞がかったようにはっきりせず身体もだるかったので、もうそれでいいと思ったのだ。
 やがて全てを綺麗に拭き終わった城之内が、ソファに寝転がったままだったオレにのし掛かってきた。
 そして大きな溜息を吐くと、幸せそうな顔をしてオレの胸に頬を擦りつける。

「はぁ~。もうすっげー幸せなんですけど…。どうしよう」
「どうしようと言われても…。オレとしてはどうする事も出来ないな…」
「クールだなぁ…海馬。お前は? 今幸せじゃないの? 何も感じてない?」
「いや…。幸せだ…と思う」
「だろう? やっぱ好きな人と気持ちのいい事出来るって幸せだよなぁ…。もうあのビデオ見なくていいかも」
「何故だ? 好みの女優だったのだろう?」
「うん。そうだけど。もう実物が手の中にいるからいいの」

 心から幸せそうにそういう城之内の言葉を理解出来なくて、オレは首を傾げてしまう。
 そんなオレに城之内は笑いかけると、「よいしょ」と起き上がってオレの手を引いた。

「さて、そろそろ風呂入って寝ようぜ。明日は雨だしな。この幸せな気分のまま眠れば、きっと明日の朝も幸せなまんまだぜ」

 城之内に手を引かれ立ち上がりながら、オレはTV画面を見た。
 ビデオはとっくに終わっていて砂嵐が流れている。
 リモコンでビデオを止めてTVの電源も切ってしまうと、オレは城之内と共にバスルームへと向かった。
 きっと明日の朝も幸せ一杯だろうと思いながら…。

 



おまけ:湯船の中の僕ら

「ところで城之内。実物がもう手の中にいるって言っていたが…一体何の事だ?」
「鈍いなぁ…お前。あのAV女優が誰かに似てるって思わなかったのか?」
「誰か…? いや…オレに思い当たる人物はいないが…?」
「ホント…鈍いね…」

 城之内の言う事は本当に理解出来ぬな…。