年末の予定に頭が痛い二礼です、こんばんは。
こう…何度カレンダーを睨み付けても、スケジュールは変わらない罠…w
マジで時間が足りませんw
どうしろってんだ!
でもクリスマス物はやっぱりやりたいので、何とか出来ればいいなぁ~と考えています。
長編は無理だけど、何か短編で一本…やりたいなぁ~!
ていうか、そろそろ12月の更新予定表を作らないといけないのですが、それも上手くいきそうにありません…w
どこが空いてるんだよ…www
まぁ、余り焦ったりせず、時間を見付けてゆっくり小説を書いていきたいと思っています(´∀`)
皆様も12月中は、ノンビリ見に来て下さいませ…w
余り更新出来ずに、申し訳無いです!
『光と闇の狭間で』シリーズに『Episode3』をUPしました。
百合城海と同じくこちらも自分の中で大フィーバー中なので、ちょっと続きを書いてみました。
実は展開的には今後の方がメインなのですが、何はともあれ城之内君が自立しないと文字通りお話になりませんので(笑)、今回は少し気合いを入れて書いてみました。
言うなれば、城之内君の巣立ち編とでも申しましょうか…w
城之内パパは小説内ではあんなんでしたが、実は物凄く息子の事を心配しています。
心配してはいるのですが、それを素直に表に出せないんですよね。
更には息子がこの先どうなるのか分からない不安で一杯で、それで我慢出来無くてついお酒に逃げちゃったら、結果あーなっちゃったって感じです。
不器用なんですよね~城之内パパ。
これも一種のツンデレなんでしょうか…w
あ、アル中という病気に病んでしまっているからヤンデレか?
でも精神的には病んでないから、むしろアル中デレ…略してアルデレか?
………これは新しい!!
まぁそういう訳で今までのは序章だったので、次回からは本編に入りたいと思っています(´∀`)
以下は拍手のお返事でございま~す!(*´∀`*)
>tetra様
初めまして、こんばんはです~!
拍手とコメント、どうもありがとうございました~!(´∀`)
いつもウチの小説を読んで下さって、本当にありがとうございます!
しかも女体化を褒めて下さるなんて…!
マジで滅茶苦茶嬉しいです!! ありがとうございまっす!!(><)
女体化はジャンルとしては微妙で、本当に人を選びますからね…。
私も「自分が好きなんだから、別にいいよね~」くらいの半分悟った気持ちで書いているので、こういった反応を頂けると嬉しくて堪りません!
感謝感激なんですよ~v
tetra様のような方がいらっしゃるので、私も諦めずに続きを書いていこうという気持ちが湧いて来るんです。
じゃなかったら『真実の証明』を書ききった辺りで、もう女体化は打ち止めしていたでしょうね~w
あ、そうそう!
『真実の証明』の二人は、あの後大人になったらちゃんと結婚して、子供も作ると思いますよ~!
百合城海の方は…どうだろうなw
女体化は女体化ですけど、アレは女の子同士ですからねぇ…w
ラブラブ路線には持っていきたいとは思っていますがw
何はともあれ、これからもマッタリ続けていくつもりでいますので、tetra様もお暇な時に遊びに来て下さいませ~!
それではこれで失礼致します。
ではでは~(・∀・)ノシ
P.S…間違ったコメントは届いていませんでしたよ~! 大丈夫でしたので、ご安心をw
2010年11月アーカイブ
入院していた病院を一時退院してから半年。オレは今、駅近くのマッサージ医院でアルバイトをしつつ、マッサージ師としての勉強を日々こなしていた。
幸運にも海馬のツテですぐに優良な医院に出会えたオレは、それからずっとそこにお世話になっている。ツテと言っても海馬の直接の知り合いでは無く、海馬コーポレーションと取引のある会社の専務さんからの紹介だった。
その人が一年くらい前に酷いギックリ腰をやってしまった時、知り合いに評判の良いマッサージ医院を紹介され、そこで治療をして貰ったら見事に回復したんだそうだ。そんな話がたまたま海馬の耳に入って、オレにまで話が回ってきたという訳だ。
マッサージ医院の院長さんは、随分と体格の良い壮年のおじさんだった。奥さんと息子さんの三人でこの医院を切り盛りしているベテランで、何にも分からなかった若輩者のオレに対してもいつも厳しく、そして優しく接してくれていた。必要とあらば診療時間外だというのにオレの勉強にとことん付き合ってくれて、丁寧にマッサージのノウハウを教えてくれる院長に、オレは心から感謝していた。
オレの身分はバイトだったけど、今までしてきた肉体労働以上のバイト代が貰えて、家庭の方も助かっていた。親父の借金はまだ残っていたけど、このままここで真面目に働けば何とかなりそうだし、無理もしなくて良さそうだ。
それに、仕事の方も慣れてくるととても楽しかった。
最初は人の筋肉や筋の事なんて何も分からなかったけど、慣れて来ると掌や指先でそれを感じる事が出来るようになった。筋肉の動き、貼り、筋が凝っている様が手に取るように分かる。今はまだ簡単なマッサージしかやらせて貰えないけど、真面目に勉強を続けてその内ちゃんとした免許を取ろうと心に決めていた。
勿論その為の資金も、コツコツと貯めていた。毎月きちんと支払われる給料の中から、自分用に通帳を作ってしっかりと貯金をする。それはマッサージ師の免許の為でもあり、これからの治療費の為でもあった。
オレを跳ねたトラックの運転手さんからの治療費や保険の代金もあるけど、こういうお金は貯めておくに越した事は無い。ましてやこの先何が起るか分からないのだ。万が一にも視力回復の手術が失敗した時には、オレは今度は完全に失明してしまう。それでもオレは、その後も自力で生きて行かなくちゃいけないんだ。
幸い、視覚障害者としての認定はして貰えた。今後手術が上手くいって視力が回復しても、逆に失敗して失明しても、これは大きな助けとなる。以前と比べれば大分生きていくのが大変になってしまったが、それでもオレはずっと前向きでいられた。
それは、手術をすれば今後視力が回復するであろうという希望と、そしてこんなオレを支えてくれる恋人の…海馬の存在が大きかったからなんだと思っている。
こうしてオレは、比較的穏やかで、そして充実した日々を送っていた。だけど事件ってのは、突然起きてしまうものなんだよな。
ある日、仕事から疲れて帰って来たオレは、家の中の違和感に気付いた。視力が効かなくなってからというものの、以前は全く分からなかった些細な変化や空気の違いなどにも気付けるようになっていたが、その日のそれはあからさまだった。
何しろ…家に入った途端に強い酒の匂いが、ムッと鼻を刺したからだった。
親父が帰って来ている…。
玄関の鍵を閉めながら、オレは密かに溜息を吐いた。
親父は、オレが目を悪くしてからというものの、余り家に寄りつかなくなった。視力が効かなくなった息子とどう接すれば良いのかが分からなかったらしい。その代わり酒を飲んで暴れる事も無くなり、比較的真面目に働いていた筈だった。この半年の間は借金も増やさなかったし、働き先でも特に問題行動は取らなかったと聞いている。
それを聞いて、オレは少し安心していたんだ。自分の目はこんな事になってしまったけど、それで親父が酒をやめて真面目になってくれればそれでいいと思っていた。オレが完全に視力を回復するにはまだ大分時間が掛かりそうだけど、それでもちゃんと目を治したら、親父と仲良く暮らしていこうと…そう思っていたのに。
家中にプンプン漂う酒の匂いは、そんなオレの幻想を一撃で粉々に打ち砕いてくれた。結局親父は…酒をやめる事が出来無かったんだ。
「親父…? 帰ってるのか?」
白状を玄関の傘立てに立てかけて(本当はいけないんだろうけど、オレは分かり易いからついそうしてしまっている)、壁に手を当てながらゆっくりと台所へと進んで行く。そのまま灯りの付いている台所を覗き込むと、一掃酒の匂いが強まって、オレはその匂いについ眉を顰めてしまった。しまったと思った時はもう既に遅く、台所の椅子に座って酒を飲んでいた親父の空気が変わったのを、肌でピリピリと感じていた。
「何だぁー…その顔は」
声がヤバイ。妙に低くてドスが効いているのに、語尾が細かく震えている。泥酔している証拠だ。
「別に。たまに帰って来たと思ったら、また酒かよって思って。暫くやめてたじゃん」
「うるせーよ馬鹿。オレが何をしようが、てめぇにゃ関係無ぇ!」
「関係ならあるぜ。一体誰が、アンタがこさえた借金を返してやってると思ってるんだ」
「何だとぉーてめぇ!」
「何だよ」
「親にそんな口叩くなんざ、百年早いってんだよ!!」
親父はグビグビとコップに入った酒を飲みながら、こっちに向かって怒鳴ってくる。何かを言う度に、酒臭い息がオレの方にむわっと襲って来て、その余りに強い酒の匂いに息が出来なくなりそうだった。
思わず掌で鼻と口を覆いながら、それでもオレは静かに対応していた。目が見えなくなってからは、昔みたいに大声で怒鳴ったりする事は無くなった。相手の表情が全く見えなくなってしまった為に無闇に大声を張り上げる事が怖くなったって事もあるし、何より一番の理由は、相手の感情の動きが手に取るように分かるようになったからだった。
以前はそれが分からなかった。相手が何を考えているのかが分からなくて、だからつい大声を張り上げて喧嘩をしていた。でも今は違う。今は相手が何を伝えようとしているのかが分かるし、出方もある程度なら予測出来る。だから怒鳴る必要なんて無くなってしまったんだ。
だから、今もオレは自分の全神経を集中させて親父の出方を探っている。だけど素面の人間と違って、酒に酔った人間の予測はし辛い。以前と全く変わってしまった状況に酷く苛ついている事だけは分かるけど、それ以上の事は読めなかった。
「………」
相手の出方が分からないと、オレの方も動けない。色々考えながらそれでも黙ってそこに立っていると、コップの中身を全部飲み干したのか、親父がダンッ!と空のコップを乱暴にテーブルの上に置いて言葉を放った。
「クソつまんねぇ事故になんか遭いやがって…。お陰で金も無くなって酒も自由に飲めやしねぇ…!」
親父の言葉に、オレはなるほどな…と小さく嘆息しながら納得した。
オレが事故に遭ったばかりの頃、親父はこれでも随分と心配してくれていたのだ。視力が全く効かなくなってしまった息子の将来を心配し、そして借金を何とかすべく自分も真面目に働こうという気持ちの変化が見えた。だからオレは安心していたんだけど、その状況に慣れてしまった今、どうやらまた悪い癖が出て来てしまったらしい。
酒の魔力が、親父を元に戻してしまっていた。
「金が無くなった訳じゃ無い。オレもマッサージ医院で働いているし、前と収入は殆ど変わらない」
そう答えると、ガタガタと椅子が震える音がした。どうやら親父が苛ついて貧乏揺すりをしているらしい。
「じゃあ今すぐ金くれよ」
「それは出来無い」
「何でだよ!」
「手取りで貰っていた時と違って、今のところは振り込みなんだ。金が必要なら、いくら必要なのか言ってくれよ。それが本当に必要なんだったら、明日銀行に行って下ろしてくるから…」
「オレは今欲しいんだよ!!」
「だから無いんだってば!」
「しかもおめぇ…オレに黙って貯金なんざしやがって…! 一体何に使うつもりだ!」
「なっ…! 親父…オレの通常見たのかよ!!」
「親が息子の通帳見て、何が悪いってんだ!!」
親父から返ってきた言葉に愕然とする。
オレが自分用に貯めていた貯金の通帳は、自室の机の引き出しの中に仕舞ってあった。最近親父が全く帰って来なかった為に、気が緩んでいた事を後悔する。多分親父はオレの部屋に勝手に入って、隠してる金が無いか必死で探し回ったに違い無い。
「どうしてそんな事したんだ!!」
流石のオレも、ここまで来たら落ち着いてなんていられなかった。怒りで身体がブルブル震えて、必然的に声も大きくなる。そんなオレに親父は特に反応せず、手元に何かメモ帳みたいなのを持って、パラリと開いてみせた。
「六万五千円…? こんなに隠し持っていやがって…」
酔っ払った親父のその言葉に、背筋がゾッとした。
今親父が手に持っているのはメモ帳なんかじゃない。オレの…通帳だ。
「なっ…! 何でそれ…持ってるんだよ…!! 返せよ!!」
「うるせぇ!!」
頭に来て、一歩踏み出してそう怒鳴ったら、もっと大きな声で怒鳴り返される。
「この金使ってやるから、判子と暗証番号教えやがれ!」
「何言ってやがるんだ! ふざけんな!! 嫌に決まってるだろ!?」
「ガキが生意気な事言ってんじゃねーっ!! 早く教えろってんだ!!」
「嫌だって言ったら絶対嫌だ! それはオレのマッサージ師の免許の為と、これからの治療費の為に貯めてるんだ! 親父が好き勝手使っていい金じゃねーんだよ!!」
「うるせぇ!! この…ガキが!!」
ふいに…ヒュッと。何かがヒュッと音を立てて、こちらに飛んで来るのが分かった。
空気の動きを感じる事は出来たけど、視界がそれを捉える事は出来無い。何かが飛んで来る…! と思った時には、それはオレの額にガッ!! と思いっきり当たって、そのまま地面に落ちていった。そして次の瞬間、それは足元でカシャーン! という軽い音を立てて、粉々に砕け散る。
それは…親父が先程まで酒を飲んでいたガラスのコップだった。
「っ………!」
「なっ…お前…」
「………」
「そんくらい避けろよ、馬鹿野郎が!!」
妙に苛立った親父の声が、耳に突き刺さる。
オレが何の反応も出来ずにいると、ガタンと椅子を引く音が聞こえて、そしてドタドタと大袈裟な足音と共に親父が近付いて来た。それに思わずビクッと反応すると、親父はオレの目の前で一旦足を止め、そして「…チッ」と小さく舌打ちをして、そのまま通り過ぎて行った。ガチャリと乱暴に鍵が開く音と共にドアが開かれ、冷たい風が部屋内に入り込んでくる。やがてその風も、ドアが締まる音と共に入って来なくなった。
後に残されたのはオレだけ。シーンとした室内に、オレは親父が家を出て行った事を知った。
「………。あー…どうすんだよ…コレ」
コップが当たってズキズキする額に手を当てながら、オレは深く溜息を吐く。
思いっきり割れた音がしてたから、オレの足元は今ガラスの破片で一杯だろう。目が見えていた頃なら、ガラスの破片を踏まないように気を付けながらそれを集めて新聞紙でくるみ、掃除機で細かい破片を吸い上げて掃除していたに違い無い。
だけど今のオレには…掃除をするどころか、ここから一歩を踏み出す事さえ出来無かった。
目が見えないから、どこに大きなガラスの破片が落ちているのかが分からない。下手に足を踏み出せば、それを踏んでしまって大怪我をするかもしれない。その恐怖が、オレをそこに縛り付けた。
さらに運の悪い事に、コップがぶつかった時に額を切って、そこから出血しているらしい。指先にぬるりとした液体が纏わり付いて、それを鼻先に持ってくると強烈な錆びた鉄の匂いが鼻を突いた。
その場から一歩も動けず、呆然とするばかり。でも全く動かない訳にはいかないし、傷の手当てもしなくちゃいけない。何より一晩中ここに突っ立っている訳にもいかないだろう。
「………。あ…海馬…」
ふと、オレは自分が着ていたシャツの胸元に、携帯電話が入っている事に気付いた。
この携帯電話は、海馬がオレの為に調達してくれた物だった。視覚障害者でも問題無く使えるよう点字が付いていたし、音声機能もバッチリ入っている。
オレは血で汚れた指先を乱暴にシャツで拭き取ると、胸元から携帯電話を取り出してフリップを開けた。そして、点字と音声案内に従って登録していた短縮ダイヤルを押す。恐る恐る携帯を耳に当てると、海馬は僅か三コールで出てくれた。
『城之内? どうした?』
いつもと全く変わらない海馬の声のトーンに、何故だかとても安心する。
「ゴメン、急に電話掛けたりして…」
『それは別に構わないが…何かあったのか?』
オレの様子が少しおかしい事に気付いたらしい。電話の向こうの海馬の声が、少し緊張感を帯びだした。
「あぁ、うん。ちょっと…」
『………』
「あの…さ。今…忙しい?」
『いや、今丁度帰ろうとしていたところだ』
「そりゃ良かった。あのさ、ちょっとウチに来て欲しいんだけど…駄目?」
『お前の家に?』
「うん…。ちょっと…助けて欲しい事があるんだよ」
『………』
「ウチに来たらさ、玄関の鍵は開いてるからそのまま入って来て貰えるか? んで、靴のままで上がって来て貰えるかな? …駄目か?」
『いや、それは構わないが…。城之内、何があった?』
「それはこっち来てから話すから。頼むよ」
海馬はそれ以上電話で話していても、オレが何も話す気が無いと気付いたらしい。数秒後、小さく溜息を吐くと『分かった。今から向かう』と言って電話を切ってしまった。ツーツーと無機質な音声が流れるのを確認して、オレも通話を切ってフリップを閉じ、携帯電話を元通り胸元にしまう。
「ちょっと…情けないとこ見られるけど…。まぁ、仕方無いよな」
誰もいない部屋の中で、オレは一人で苦笑した。
十数分後、約束通り海馬はオレの家に来てくれた。
外に高級なリムジンが駐まった音と、そして団地の階段を上がってくる足音が耳に入ってくる。それが海馬の足音だなんて事は、今のオレにはすぐに分かった。
海馬は玄関の扉を開け、オレに言われた通り靴のまま上がり込み、そして台所の入り口で佇んでいるオレを発見して盛大な溜息を吐いた。どうやら一発で、何が起こったのか把握したらしい。
「なるほどな…」
呆れたような声でそう言って、上着を脱いで椅子の背に掛け、そしてすぐにその場にしゃがみ込んだ。カチャカチャとガラスの破片が触れ合う音が聞こえてくる。
「ゴメンな。その…こんなのいつもの事なんだけど、今のオレは目が見えないからさ…。何処に破片が落ちてるのか分からなくて…ちょっと怖かったんだ」
「あぁ、それは分かっている。拾ってやるからその場でじっとしていろ。一歩も動くなよ」
「うん」
「………」
「あ。手、気を付けてくれよ? 切ったりするなよ?」
「大丈夫だ。心配するな」
「…ありがとう」
「礼はいい。それよりも掃除機はどこだ?」
「玄関脇の納戸の中」
「分かった」
そう言うと、海馬は実に手際よくガラスの破片を集め、冷蔵庫の脇に積んであった新聞紙に包んで捨ててしまった。さらに掃除機を持って来て、細かいガラスの破片も全部綺麗に掃除してしまう。チャリチャリとガラスの細かい破片が、掃除機の管の中を通っていく音が耳に入って来て漸く安心する事が出来た。
やがて砕けたガラスを全て綺麗に掃除してしまった海馬は、一旦玄関に戻り靴を脱いで、今度は自分の靴で汚れてしまった部分をざっと掃除し始めた。オレがいいって言ったんだから、そんな事気にしなくてもいいのにな。そんな事を思っていたら、今度は腕を引かれて台所の椅子に座らされてしまう。一度綺麗に洗ってきた冷たい手で前髪を掻き上げられて、ちょっとゾワッと背筋に震えが走った。
「な、何…?」
「何では無い。貴様、怪我をしているだろう。血が出ている」
「う、うん…。さっきコップをぶつけられて…」
「もう血が固まっているな。救急箱はどこだ?」
「電話台の下」
「少し待っていろ」
海馬はそう言って、オレが言った場所から救急箱を取って来た。箱を開けてゴソゴソと何かを取り出している。辺りにツンと漂って来た匂いで、コットンに消毒液を染み込ませている事が分かった。
「少し滲みるぞ」
「大丈夫」
海馬の言葉に大人しく身を任せると、海馬は至極優しい手付きでオレの傷口を拭い始めた。確かに少し滲みたけど、コレくらいの傷は日常茶飯じだったからどうって事無い。ただ黙って、海馬の治療を受けていた。
「額を切っていたから思ったより出血していたが、大した事は無いな。これなら病院に行かなくても大丈夫だ」
「うん、ありがと。絆創膏貼っておけばいいから」
「そうだな」
言われた通りにオレの額に絆創膏を貼りながら、海馬は何かを言いたそうにしている。そういやオレ、さっきの電話でこっちに来たら理由を話すって言ったっけか。仕方無く、自分からこうなった訳を話す事にする。
「今日、仕事から帰って来たら、珍しく親父が家にいてな」
「………」
オレの言葉に海馬は何も応えない。どうやら完全に話を聞く体勢に入ったようだ。
海馬は、オレと親父がどういう関係なのかという事については、もう知っている。恋人として付き合う事が決まってから、入院中に自分家の現状をちゃんと話していたからだ。その前提があるからこそ、オレも安心して話を進める事が出来た。
「オレが事故に遭ってからというものの、ずっと真面目に働いてたし酒もやめてたんだけど…。やっぱり駄目だったみたいだ。帰ったらもう泥酔状態で、金出せって怒鳴ってさぁ…。オレが拒否したら、コップ投げ付けてきてこのザマだ」
「………」
「オマケに、オレが貯金してた通帳も持っていかれたっぽいし。まぁ、判子は常に持ち歩いてるから持っていかれて無いし、暗証番号も知らないから大丈夫だと思うけどな」
「通帳…?」
「うん。オレが家庭用とは別に貯金してた奴でね。六万ちょっと入ってる奴なんだ」
「それは、これの事か?」
ふと、オレの言葉に海馬が反応し、テーブルの上から何かを持ち上げてオレの手の上に載せてくれる。顔を近付けてよく見ると、それは間違い無くオレの通帳だった。
「あぁ! そう、これだ! これ、オレの通帳だ!!」
「テーブルの上に置きっ放しになっていたぞ」
「親父…持って行かなかったのか…」
あんなに金くれと騒いでいたのに…。
この通帳を置いていったのは判子と暗証番号が分からなかったからなのか、それとも泥酔した頭に残った最後の良心だったのだろうか。どっちが真実かは分からないけど…でもオレは、どうしても後者の方に考えられてならなかった。
「なぁ…海馬」
「何だ?」
「親父も…どうしたらいいのか分からないのかなぁ?」
「オレは貴様の親父では無いから、それは分からん。だが、戸惑っている事は確かだろうな」
「だよな…」
「………」
「海馬…。オレ…な、自分の治療に目処が付くまでは、この家離れようと思ってるんだ。お前は…どう思う?」
「どう思うとは?」
「こんなオレなんかが、目の見えない状態で一人暮らし出来るのかなって事」
「最終的に決めるのはお前自身だが、オレは特に問題無いと思うぞ。大体にして、今までだって一人暮らししていたも同然では無いか」
「あはは。それは確かにそうだ」
「………そうだな。少し父親と離れるのは…必要かもしれないな」
「うん。応援してくれる?」
「当然だ」
「それはどうして?」
「貴様はどう言って欲しいのだ?」
そんな事、言わなくたって分かってる癖に。
海馬はそんなオレの気持ちを汲み取ってくれたのか、そっとオレの事を抱き寄せてくれた。そして軽く唇を合わせてくれる。その行為にささくれ立っていたオレの心はすっかり穏やかになって、心から安心する事が出来たんだ。
親父の事は嫌いじゃ無い。色々困った事はあるけど、自分の親として心配しているし、何よりも…やっぱり好きなんだと思う。それでもどうしても、近くにいたらお互いが駄目になるって事もあるんだろう。そして今がまさにその時なんだろうな…と思った。
暫くは、親父と離れて暮らす。そしてお互いに自立出来た時に、もう一度一緒に住めればいいなと…そう思ったんだ。
それから一ヶ月後。オレはマッサージ医院の程近くに運良く単身者用のバリアフリーマンションを見付け、そこに引っ越す事にした。
後押ししてくれた海馬に感謝しつつ、影ながら支えてくれる恋人への愛を深めていくのだった。
久しぶりに絵を描いた二礼です、こんばんは。
夏に入った頃、余りに暑さに「暑いから水着の絵でも!!」ととち狂って下描きだけしていたのですが、例のポイントカード事件(私が勤めている本屋で、突然7月にポイントカードを導入する事が決まった事件w)で全く時間が取れなくなり、気が付いたらすっかり秋になっていたので諦めて放置していた絵があったんですよ。
その下描きを描いた頃に散たんに何となく見せていたのですが、つい先日「そう言えばあの水着絵はどうしたの?」と聞かれ、一念発起して仕上げる事にしたんですw
季節が真逆なのが気になりましたが…まぁ、そんな事は関係無ぇ!! とばかりに、頑張ってみました。
丁度日曜日に時間が取れたので一日ずっと絵を描いていたのですが、今まで描いた絵の中で一番細かい絵だったので(こんな事を言うと、絵描きさん達に叱られてしまいますが…w)、時間にして約10時間くらい掛かりました…w
慣れたらもうちょっと早く描けるんでしょうけど、今の私にはこれが精一杯です…(´∀`;
ついでですので、ここの下の方に晒しておきますね~!
百合城海のイラストですので、苦手な方はご注意下さいませ。
『百合城海』シリーズに『Quarrel…?』をUPしました。
瀬人子ちゃんの傍若無人ぶりに対して、克美ちゃんの我慢もそろそろ限界ですw
今回の事件で何やら克美ちゃんは吹っ切れたようですが、この先どうなるかは次回のお楽しみって事で…。
………ていうか、百合城海の続きを楽しみにしている人…いるのだろうか?w
それにしても百合城海シリーズは、男の子同士では出来無い掛け合いや小ネタやグッズ等が気兼ねなく出せるから、書いている方は本当に楽しくて仕方ありません…w
ふひひw 楽しいwww ふひひw
ちなみに、下にある絵は上記で言っていた百合城海の水着絵です~!
興味のある方だけ御覧下さいませ~!(´∀`)
ちょっと間を開けておきますよ~!
これですw(クリックで拡大します)↓
城之内克美×海馬瀬人子。
『Kiss…?』の続きになります。
克美ちゃんは…何だかそろそろ限界っぽいですね。
城之内克美は今…海馬瀬人子の待遇に非常に困っていた。
発端はつい先週のお泊まり会にて、自分が読んでいたティーンズ雑誌を瀬人子に読ませてしまった事による。ただの雑誌なら特に何の問題も無かったのだろうが、運が悪い事に、その雑誌の特集がセックス特集だった事が一番の問題となった。
いや、運が悪かったというのは少々語弊がある。もしこれがいつも通りの何の変哲もない特集だったならば、克美は何も気にしなかっただろうし、瀬人子も全く興味を示さなかっただろう。逆に言えば、セックス特集だったからこそ興味を引かれて手に取ってしまったのだった。
ただこれは、克美に取っては完全に予想外の出来事だった。普段から性的な話題については過剰なくらいに拒否反応を示す瀬人子が、敢えてこの雑誌の特集を読み、そして興味を示してくるとは思わなかったのだ。
既に中学生時代に彼氏と経験してしまっている克美に取っては、この手の話題はもう慣れっこであり、刺激的でも何でもない事だった。故にこの特集についても、ネタ半分で軽く目を通すに過ぎなかった。
しかし瀬人子は違った。全くその手の経験が無い瀬人子は文字だけの情報でそれら全てをイメージするしか無く、しかも下手に興味を引かれてしまった為に、その真偽の程を克美に問いただすようになってしまったのだ。
これがただ質問されるだけだったなら、克美もここまで困る事は無かっただろう。答えられる事はさっさと答え、微妙な質問に対しては曖昧に流せばいいだけの話なのだから。しかし…そう簡単にはいかなかった。
よりにもよって瀬人子は、その雑誌に書かれている事を実践してみろと克美に迫って来ていたのである。
実践と言っても、別に「セックスをしろ!」と押し迫っている訳では無い。瀬人子がして欲しいのはキスだけなのである。友情の範囲から越えず、かつ後で笑って済ませられるキス…それだけなのだ。
確かにそう考えれば、特に何の問題も無いのかもしれない。だがしかし、克美にはそう簡単に済ませられ無い理由があった。
克美は、同性でありながら…瀬人子に恋心を抱いているのだ。
これが本当に友情しか感じていないのなら、克美だって全く気にしなかったであろう。慣れた物だと言わんばかりに、キスくらいだったら何度でもしていたかもしれない。だが克美は瀬人子の事が好きだった。ただのキスが、ただのキスで終わらない可能性があったのだ。
勿論そんな事をすれば大問題に発展する事は、いくら頭が悪いと言われている克美でも嫌という程分かっている。友情と恋愛の間で悩み、好きだと打ち明けて瀬人子にドン引きされ嫌われるくらいならば、まだ親友として側にいたいと恋愛感情を心の奥底に隠す事を決めた事でもそれは明白だ。
故に克美はいつも自分の理性をフル活動させて、恋愛感情を優先する本能と戦ってきた。
瀬人子とのお泊まり会。二人で一緒にお風呂に入る度に、そして同じベッドで眠りに就く度に、克美は自らの高鳴る鼓動に気付かぬ振りをしてきたのである。何も気付かないまま、瀬人子とは親友として過ごしていこうと…そう決めていたのに。
「勘弁してくれ…」
週末恒例のお泊まり会。夕食後に瀬人子に連れられて部屋に入った克美が見たのは、ソファーに置かれていた例の雑誌だった。しかもまだ読み途中だったらしく、雑誌だというのにご丁寧に栞が挟んである。
これ見よがしにわざとらしくこのティーンズ雑誌が置いてある理由は、一つしかない。要は瀬人子が、克美とのキスを諦めていないという事なのだ。
実は軽いキス程度なら、先週の時点でもう既にやってしまっている。瀬人子に「キスをしてくれ」とせがまれたので、仕方なしにキスを施してやったのだ。軽く唇を押し付け合う程度なら、何の問題も無いと踏んでやってやったのだが…。まさかそれが間違いだったとは、流石の克美も思わなかった。
それに味を占めた瀬人子は、何と次の日の朝もそれを強請って来たのだ。それに応えて軽くキスをしてやると、今度は朝食後に強請られ、二人で遊んでいる最中にも強請られ、ランチの前と後にも強請られ、午後のお茶の時にも強請られ、更に克美が帰宅する時にも強請られた。
先程も言ったが、瀬人子に対して克美ががただの友情しか感じていないのなら何も問題は無いのだ。ちょっとした親友同士の悪ふざけになっていただろう。問題なのは、克美が感じているのが友情では無く恋愛感情だからという点、ただそれだけなのだ。
恋をしている相手に何度もキスをするという事は、それだけ無駄にムラムラとした気持ちにさせられるという事に他ならない。勿論この気持ちに気付いているのは恋をしている克美ただ一人であり、瀬人子には何の悪気も無い。興味が湧いて気になって仕方の無いキスを、経験豊かな克美に強請っているだけだ。
ただそれを強請られる克美の方は、堪ったものでは無かった。
何とか隠し通そうとしている恋心を無駄に刺激され、掘り返され、増長させられているのである。いくら瀬人子には何の悪気も無いとは言っても、克美の我慢にも限界がある。酷い話であった。
「あぁ…やっぱり…」
瀬人子が少し席を外した隙に、克美はソファーの上に置かれていた雑誌を手に取って、栞が挟んであるページを恐る恐る覗き見てみた。案の定、そこはキスのページである。その事にかなりゲンナリしつつ、克美は雑誌を元通りに戻して「はぁー…」と大きく溜息を吐いた。
ここまでしつこく強請られれば、いくら鈍い克美でも流石に気付く事がある。瀬人子がして欲しいのは、ただのキスでは無いのだ。
「よりにもよって…ベロチューかよ…」
ソファーにグッタリと座り込み、溜息と共に頭を抱える。先程確認したページには、ハッキリと『ディープキスの魅力』という大文字が踊っていたのだ。
確かに瀬人子に望まれて軽いキスをする度に、彼女は少し不満げな顔をしていた。そして「これが気持ち良いのか? オレには良く分からないな」と首を傾げていたのだ。気持ち良く無いのも当然だ。ディープキスを強請る人間にバードキスをしたところで、満足出来る筈が無い。
だが克美は…これだけはどうしても出来無いと思っていた。
ディープキスをしたく無い訳では無い。むしろしたいのだ。瀬人子の口中に舌を押し入れて、綺麗な歯列をなぞって柔らかい舌を甘噛みして、溢れる甘い唾液を飲み込みたいとずっと思っているのだ。だから「キスをしろ」と言われてそうするのは、実は簡単な事なのだが…。
問題はそちらではない。ずっとそういうキスをしたいと思っていたからこそ、一度してしまったら歯止めが効かなくなるだろうという危機感を嫌という程感じてならなかったのだ。
はっきり言って、克美にはこれ以上自分を押し留めていける自信が無かった。自信が無かったからこそ、危ない橋は渡らないように気を付けて来たのだ。瀬人子にキスをせがまれた時も、敢えてバードキスだけで済ませて来たのである。ギリギリ冗談で済ませられるように…と。
だが、当の瀬人子がその均衡を崩そうとしているのであった。
「マジで勘弁してくれよ…」
克美はもう殆ど泣きそうな声で頭を抱えて項垂れる。
本当にもう辛かった。これ以上美味しそうな餌を目の前にしておきながら、敢えてそれに気付かない振りをして誤魔化す事に限界を感じてならなかったのである。
結局その日も、当たり障りの無いままお泊まり会は進んでいった。一緒にお風呂に入った時も、風呂上がりに二人でゲームをしている時も、そしてそろそろ寝ようとしている今だって、克美は瀬人子の物言いたげな視線に気付いていたが、それを無視した。というより、敢えて気付かない振りを続けていたのである。
もしここで空気を読んでそれに応えてしまえば、否応なくまたキスを強請られる。それだけは避けなければならなかった。
克美の努力の甲斐あって、今日はまだ一度もキスをしていない。瀬人子も敢えて「キス」という単語を、自分の口から出そうとはしていなかった。その雰囲気に克美は心底助かったように、瀬人子に気付かれないようにそっと嘆息する。
あのキスは、先週だけのお遊び。今週は違う。だからもうキスはしない。
そう心に決めていたのだ。だからパジャマに着替えて同じベッドに入り込んだ時、克美は漸く安心する事が出来たのだ。これで眠ってしまえば、瀬人子もこれ以上余計なプレッシャーを掛けてくる事は無いだろうと。
それなのに…そうは問屋が卸さなかった。
最後の最後になって、瀬人子がこう言葉を放ったのである。
「城之内。おやすみのキスは…?」
その問い掛けに克美はビクリと反応し、上半身を持ち上げ恐る恐る背後を振り返った。部屋の灯りは既に消されていて、淡いオレンジ色のヘッドスタンドだけが灯りを灯している。その柔らかい光に照らされて、瀬人子がじっとこちらを見詰めていた。
「えーと…はい?」
「だから、おやすみのキス」
「おやすみの…キス…? 何で?」
「何でとは?」
「だから何で? そんな事しなくちゃいけない訳? 別に恋人同士でも何でも無いのに」
「先週は一杯してくれただろう?」
「先週のは…そういう遊びだったんだろ? アレはもうお終い」
「何故だ? 貴様は遊びでオレにキスをしていたのか?」
「遊びじゃなかったら、何だっつんだよ。本気でキスしろってか?」
全く何も考えていないような瀬人子の言葉に、流石にカチンと来て克美は怒鳴ってしまった。起き上がりかけた身体を完全に起こして、瀬人子の事を強く睨み付ける。そんな克美に対して瀬人子もムッとした表情を返し、何故か枕元に持って来ていた雑誌を掴んで、それをバシバシと手で叩き始めた。
「何故いきなり怒るのだ! そんなに怒る事は無いではないか! オレはただ、この雑誌に書かれている事が本当かどうか実証したいだけなのに!!」
「そんなに実証したければ、彼氏でも何でも作ってソイツと好きなだけやればいいだろ!!」
「貴様じゃないんだ! オレにそんな男はいない!!」
「なっ…!? それどういう意味だよ! オレにだって、今はそんな奴いねえよ!! 大体いないんじゃなくて、作ろうとしないだけだろ!? あっちの男にプロポーズされてた癖に!!」
「そっ…!? それとこれとは話が全く違うだろう!?」
「違わない!!」
「違う!!」
克美の言う『あっちの男』というのは、先日瀬人子にプロポーズして見事に振られたアメリカ人の若手実業家の事である。そのプロポーズ事件が元で、二人で小さな逃避行をしたのはまだ記憶に新しかった。
「城之内!! 大体貴様は、あの男との交際を反対した癖に!! 結婚しないでくれと泣き喚いたのは、どこのどいつだ!!」
「そ…そういうお前だって、オレの友達に嫉妬してた癖に!! オレはもう知ってるんだからな!! そういうの、独占欲って言うんだからな!!」
「だ、誰が嫉妬したのだ!! 独占欲だと…!? 誰が貴様なんか独占したいものか!!」
「現にしたじゃん!! 何言ってんだよ、お前はよ!!」
「貴様こそ何を言っているんだ!!」
「海馬がオレとベロチューしたいなんて言うからだろ!!」
「言ってはいけないのか!!」
「あぁ! いけないね!!」
「何故だ!?」
「っ………!! そ、それ…は…っ!」
危うく「お前が好きだから」と言いそうになって、克美は慌てて自らの口を掌で覆って言葉を飲み込んだ。
言ってはいけない。言ったら終わりだ。どんなに辛くても、この気持ちは隠し通さなければならない。そう。どんなに辛くても…。
けれど克美は、そろそろ自分の気持ちに限界が来ている事に気付いていた。辛くて辛くて辛くて、本当はもう…瀬人子の側にいる事さえ辛くて仕方が無かったのだ。それでも必死に耐えようとしていたのに、当の本人がその気持ちを突っついてくるのだ。
正直言って、もう限界は突破していたのである。
目の奥が急激に熱くなって来て、余りの情けなさと辛さと焦りに、克美はとうとう涙を押し留める事が出来無くなった。
「っ………ふっ…!!」
「なっ…!? じ、城之内…っ!?」
口を塞いだまま突然ボロボロと泣き出した克美に、瀬人子が慌てたように目を瞠った。そしてオロオロと落ち着かなさそうに焦り出し、白くて細い手を恐る恐る克美の肩に乗せる。
「き、急に…どうしたのだ…? どこか…痛いのか…?」
「っ………」
「す…済まない。少し…言い過ぎたな。悪かった…城之内」
「………っ!」
「悪かった。だからもう…泣き止んでくれ…。頼む…」
「………っ…! ふっ…ぅ…」
「お前に泣かれると…どうして良いのか分からなくなるのだ…。城之内…」
涙に塗れる頬に、白い指先が伸びてくる。熱い水滴を何度も指先で拭うが、その涙は一向に止まる気配が無かった。肩をヒクリヒクリとしゃっくり上げながら泣く克美に、瀬人子は心底困ったように眉根を寄せた。
暫し考えた結果、瀬人子は顔を寄せて涙を零す克美の眦に、そっと…キスをした。唇を濡らした塩辛い水滴を舌先で舐めとり、両方の頬にも一つずつキスをする。そして最後に、そっと唇に軽いキスを贈った。何故急にそんな事をしだしたのか自分でも分からなかったが、今はそうするのが最善だと思ったのだ。
それは、瀬人子が初めて自分から誰かに贈るキスであった。キスを貰っていた立場では分からなかった、息苦しさと心臓の高鳴りを強く感じる。
「城之内…。本当に…済まない…。だからもう…泣かないでくれ」
泣き続ける克美をそっと抱き締めて、瀬人子は軽く息を吐く。
自分は変だ。親友にキスをしただけで、こんなにドキドキするなんて。欧米なら当たり前の行為なのに、何故克美に対してはこんな気持ちになるのだろう…。
そう思うと、ますます心臓の動悸が高鳴るような気がしてならなかった。
そしてこの時、瀬人子の腕に抱かれた克美はある決心をしていた。
自らの涙を瀬人子が身に着けている柔らかいパジャマに吸い込ませながら、もう…親友はやめよう………と。
今はまだマッタリな二礼です、こんばんは。
とりあえず今はまだマッタリ出来ていますが、今からクリスマスや年末の大掃除をどうするのかという事で頭が痛いです…w
まずクリスマスは………うむ、中止だな!!
いや、だってそうするしか無いじゃん?
12月22日から27日までずーっと仕事なんだぞ?
いつクリスマスをやるんだ!!
………でも、クリスマス用の小説は書きたいんだよなぁ~…;
何か短くても良かったら、上げるかもしれません。
あくまで私個人の希望なので、余り期待しないで下さいませ…w
年末の大掃除や買い物は…まぁ何とかなるか。
ていうか、今から少しずつ大掃除始めればいいんじゃないか!?
そしたら年末とか楽になるんじゃね!?
私ってあったまいい~!!
………まぁこれも、毎年この時期にはこう思っているのですが、全く実行に移された事が無い罠…w
ともかくも、仕事の忙しさに負けないように生きていきたいと思いま~す…(´∀`;
『子連れ城海』シリーズの短編集に『そこにある願い』をUPしました。
お互いが好きって言うだけの純粋な気持ちで、ただがむしゃらに愛し合ってきた若い頃とは違い、四十過ぎの城海は周りの人間の理解と協力があるからこそ自分達は自由な恋愛が出来るんだと言う事を悟っています。
そしてその中には間違い無く、自分達が失った奥さんの存在が必要不可欠であった事も認めているのです。
勿論自分の奥さんだけじゃなくて、相手の奥さんの事もね。
こんな風に見知らぬ相手の事も認められるのは、それなりに年取らないと無理だと思うんですよ。
十七歳の城海では全く理解出来なかった事も、四十過ぎの城海は当たり前のように受け止めています。ていうか、四十過ぎだからこその人生観なんですよね~。
こういう悟りきった大人の恋愛も、またオツなんじゃないでしょうか?w
ちなみに、城之内君の奥さんはもう既にお亡くなりになっていますが、あの「自由に生きて欲しい」という発言は本心です。
もし彼女が今この場にいるとしたら、「それでいいのよ」と笑って納得してくれるのでは無いでしょうか?
そういういい女に…私はなりたい!!
秋も深まって来て、外はピューピューと冷たい北風が吹いている。だが城之内が住んでいるこのマンション内は、外の寒さとは裏腹に今はとても暖かい。それは勿論優秀な暖房器具のお陰もあるのだが、一番の理由はその腕にこの世で一番愛しい人を抱いているからに他ならなかった。
何をするでも無く、ソファーに二人で座り込んでゆるりとした休日を楽しむ。海馬は忙しくてずっと読めなかった本を熟読し、城之内はそんな海馬を抱き締めて、こちらもまた仕事の資料をパラリパラリと捲っていた。
若い頃には全く考えられなかった、非常にゆるやかで幸せな時間がここには流れていた。
「あぁ…暖かいな…」
海馬の読んでいる本が、残り数ページになったのを確認したからだろう。城之内が海馬の薄い肩に顎を置いて、耳元でボソリと呟く。その声に特に驚きもせず、海馬は本のページから視線を外さずに「そうか?」と返事をした。
「日も暮れてきたし、先程よりは冷え込んでいるぞ。暖房の温度を一度上げた方が良いのでは無いか?」
「うーん…それはそうなんだけどさぁ…。オレが言ってるのはそういう事じゃ無くてね」
「オレと引っ付いているから暖かいという事なのだろう?」
「うん、そう。流石付き合いが長いと、考えている事が駄々漏れだね」
淡々と返って来た海馬の言葉に満足して、城之内は海馬の後頭部にスリスリと頬ずりをしてきた。
十一月後半の土曜日。この日は二人にとっては久しぶりに取れた、本格的な休日だった。秋に入り急に忙しくなり、更にクリスマスや正月を控えているこの時期は、毎年のように仕事に追われる日々が続いていた。勿論今年も例外では無かったが、たまにはゆっくりと過ごす休日が必要だと二人がそれぞれ頑張った結果、何とか一日だけ何もしない日を勝ち取る事が出来たのである。
この日が終わり明日が来れば、また仕事に追われる毎日が始まる。従ってこの休日は、城之内と海馬に取って無くてはならない大事な日であった。
城之内の娘の瀬衣名は、気を効かせたのかこの日は友達の家に遊びに行くと言って朝から出掛けて行った。観たかった映画を一緒に見て、食事をして、ショッピングをして、そのまま数人でお泊まり会をすると言う。
そして海馬の息子の克人は、恋人である瀬衣名に入れ知恵されたのか、この日ばかりは父親がする分の仕事も全部請け負うと胸を張って言ったのであった。これが頼りない息子ならば海馬も承知しなかったのであろうが、自分の息子ながら非常に優秀だと認めていたので、「では、御言葉に甘える事にしようか」と任せる事にしたのである。
そして、こうして勝ち取った休日を、二人の父親は朝から至極ゆったりと楽しんでいたのだ。
「若い頃はさぁ…こんな刺激じゃ全然物足りなかったよな。ちょっとでもくっついていたら、絶対セックスしたくなっちゃったもん。でも今はこれで充分だと思うんだ。年食ったなぁーとは思うけど、これはこれで物凄く幸せだから別にいいよな」
「そうだな。では今日は…」
「あ、セックスはしますよ?」
「今さっき、別にいらないと言った癖に」
「これで充分だとは言ったけど、いらないとは言ってません。久しぶりなんだから、ちゃんと相手してくれよー」
「分かった分かった。だからそんなに拗ねるな」
わざとらしく唇を突き出して不満そうな声を出した城之内に、海馬はクスクスと笑って擦り寄る金色の頭を優しく撫でた。この対応も若い頃には絶対有り得ない反応だった。
無我夢中で恋愛をしていた学生時代。城之内がこんな風に擦り寄って来たりしようものなら、海馬は邪魔だと言わんばっかりに心底嫌そうにその身体を押し返していた。そんな海馬の反応に城之内もムキになり、嫌がる海馬を無理矢理その場で押し倒してそのまま行為に及ぶ…と言った光景は、それこそ日常茶飯事だったのである。
幸せな恋人同士の筈なのに、決して幸せを感じる事の無いセックス。まだ若く経験も浅かった彼等は、そんな事でしかお互いの愛を確かめられなかった。そんな二人が、別れるという最悪の結末を迎えてしまったのは…もしかしたら必然だったのかもしれない。
けれど、今は違う。今は…城之内も海馬も、二人とも相手を愛するという事がどういう事か良く知っている。わざわざ口に出さなくてもお互いがそれを感じているからこそ、四十を超えた二人は絶対に解ける事の無い固い絆で結ばれているのだった。
「昨日な…。ちょっと瀬衣名と真面目な話をしたんだ」
「ほう…。進路の事か?」
「いや、愛について少々」
「………愛?」
城之内の言葉に海馬は訝しげに首を捻る。そんな海馬の様子に城之内はクスリと微笑み、海馬の薄い腹の前で組んでいた両手を少し強めに組み直した。そして海馬の肩に顎を載せたまま、サラサラの栗色の髪に愛おしそうに頬を擦り寄せる。
「ほら瀬衣名の奴、今日お前が来る事知ってたじゃん? んで、その事でお互いの予定とかを確認し合ってたんだけど、その時にちょっと話題を変えられてな」
「………」
城之内の話に、海馬は黙って耳を傾けている。その仕草に安堵しつつ、城之内は昨夜愛娘とした会話を少しずつ思い出していた。
夕食後の落ち着いた時間。その時城之内と娘の瀬衣名はマグカップに煎れた紅茶を飲みながら、二人でテレビを見ていた。そんな時、ふと自分にそっくりな琥珀色の瞳に強い光を載せて、娘は父親を見詰め…こう問い掛けてきたのだ。
「ねぇ…。パパはママの事を、ちゃんと愛していたの?」
唐突に放たれた言葉に城之内は心底驚き、紅茶を飲もうと持ち上げ掛けたマグカップもろとも固まってしまった。妻を病気で亡くしてもう十五年近くが経つが、娘にそんな事を問われたのは初めてだったからだ。
「………は? 何?」
余りに突然の事で、城之内はとっさには娘の言いたい事が分からなかった。マグカップを手に持ったままそう返すと、瀬衣名はいつにもまして真剣な表情で父親に詰め寄って来る。そしてこう言った。
「パパが海馬のおじさまの事を、世界中の誰よりも愛してる事は知ってるわ。ママと出会う前に恋人として付き合ってた事も知ってるし、私の家出が元で本当に偶然に再会して、それからまた付き合い始めた事も知ってる。海馬のおじさまと別れていた間、パパが片時もおじさまの事を忘れられず、ずっと想いを胸に秘めていた事も…知っているの」
「う、うん…」
「それだけパパが海馬のおじさまの事を愛している事は知っているし、理解もしているわ。それでパパが幸せならそれでいいって思ってるし、私も海馬のおじさまの事が大好きだから、このまま恋人関係を続けていくのは大賛成よ」
「うん」
「でもね、時々変な気持ちになるの…。パパと海馬のおじさまが幸せであればあるほど、何か不安になるのよ…」
「不安? 何が…?」
「パパがママと結婚したのは、海馬のおじさまの代わりだったんじゃないかって。ママの事を本当に愛していなかった癖に簡単に結婚して、それで『ついで』で私が生まれて来ちゃったんじゃないかって…」
「つ、ついででなんか…ある筈無いだろう!!」
それまで黙って娘の話を聞いていた城之内は、持っていたマグカップをテーブルに叩き付けて怒鳴った。かなり乱暴にマグカップを置いた為、中に入っていた紅茶が跳ね返って城之内が着ていたシャツの袖口を汚したが、そんな事に構ってなんていられる状況ではなかった。幸い紅茶は大分冷めていて熱くも何とも無かったし、服は洗濯すればそれで済む。
「ついでとか…そんな悲しい事言うなよ…。お前は愛されて生まれて来たんだ。オレとアイツが…ママが本気で愛し合ったからこそ、お前が生まれて来たんだよ」
「うん…そうだよね。やっぱりそうなんだよね」
「当たり前だ!」
「でもね、やっぱりちょっと不安になるの。だって、海馬のおじさまと一緒にいるパパは本当に幸せそうで、心からおじさまの事を愛しているのが分かるから…。若い頃に付き合ってた時も、別れたくて別れた訳じゃ無いんでしょ? どうしようも出来無い事があったから、仕方無く別れたんでしょ?」
「それはそうだけど…」
「だから不安なの。パパがおじさまの事を嫌いになって別れた訳じゃ無いって知ってるから、余計に不安なの」
「瀬衣名…」
「ねぇ、パパ。だから教えて? パパはちゃんと、ママの事を愛していたの?」
不安そうに…大きなアーモンド型の琥珀色の瞳を不安げに揺らめかして、瀬衣名は真剣に城之内に尋ねて来る。城之内は父親として、その質問にきちんと答えてやらなければならないと感じ取っていた。
マグカップから手を離し、テーブルの上で震えている小さな手を、城之内はギュッ…と力を入れて握り締めた。そして娘を安心させるようにニッコリと優しく微笑む。
「愛していたよ」
ハッキリと答えられた城之内の声に、瀬衣名は目を丸くした。
「愛していたよ。心から愛していた。あの頃は世界で一番、お前のママの事を愛していたんだよ」
「パパ…」
「瀬衣名。お前が言いたいのは、もし本当にアイツが海馬の代わりだったのなら、ママが可哀想なんだって事なんじゃないのか?」
「………」
城之内の言葉に、瀬衣名は少し考えて…そしてコクリと一つ頷いた。それを見て城之内は「やっぱりな…」と呟く。
「確かにあの頃も、オレはずっと海馬の事を想っていた。別れてからも片時だって海馬の存在を忘れた事は無かった。だけどな、瀬衣名。あの当時は、それはもう既に終わった事として、オレの中では整理が付いていたんだ」
「………パパ…」
「若い頃の苦い思い出として、オレの中ではもう決着が付いていたんだよ。そしてそんな時にママと出会った。出会って恋をして…そして結婚した」
「………」
「ママがお前を妊娠して、そしてお前が生まれて…。オレはあの時、どんなに嬉しかった事だろう。幸せそうなママの笑顔と、そんなママにそっと抱かれてスヤスヤと眠っているお前を見て、オレは本当に幸せだと思ったんだよ。そしてオレはあの時、この幸せを守ろうと誓ったんだ。オレとママとお前の三人の幸せを、一生守っていこうと強く心に誓ったんだよ。………残念ながら、その誓いが守られる事は無かったけどな…」
「パパ…」
苦い恋を経験して絶望して、そんな自分を彼女はずっと支えてくれていた。そのお陰でやっとの思いで海馬との失恋を克服し前向きになる事が出来た城之内は、それまで自分を支えてくれていた彼女を愛する事が出来た。それなのに…心から愛し守っていこうと心に決めた妻は、娘を産んだ直後に病魔に倒れた。そして結局、帰らぬ人になったのである。
妻を亡くし、城之内は愛しい女性の分までも娘を愛そうと重ねて心に誓った。海馬の事はずっと胸の内にあったが、それはもう終わった事として処理されていたので、未練は全く無かったのである。
本来ならば、この先もずっと独り身で娘を愛し守り続けて来た筈だった。それなのに…再び出会ってしまったのだ。
愛しい愛しい…誰よりも愛した恋人に。
「海馬との再会は、オレに取っては本当に予定外の事だったんだよ。そのお陰で再び海馬を愛せるようになれた事は…お前には感謝してもしきれないな」
「うん…そうだね」
「確かにオレは、海馬の事を世界で一番愛している。でもだからと言って、ママを愛していなかったという事じゃ無いんだぞ? オレがママを愛したからお前が生まれた。愛していなかったら、きっとお前は生まれて来なかったさ」
「うん…うん」
「海馬だって同じだと思う。離婚はしたけど、ちゃんと前の奥さんを愛していたんだと思うよ。だから克人君が生まれた。そうだろう?」
「うん…! 私も…そう思う!」
「だからそんな事を思うのは、全くもって無意味な事なんだぜ?」
「そうだね。うん…そうだよね。ゴメンね、パパ。変な事聞いちゃって…」
「いやいいよ。不安に思う気持ちも分かるからさ。オレだって…こんな事になって、ママに悪いと思って無い訳じゃ無い」
そっと視線をずらして、城之内はリビングの端に置かれている仏壇を見詰めた。そこには亡くなった妻が、いつでも優しい笑顔でこちらを見守っているのが見える。
この笑顔に、城之内は何度も励まされて来た。幼い娘を一人で育てている間、何度不安に押し潰されそうになった事だろう。けれどもその度に、この写真の中の女性が慰めて、そして励ましてくれていたのだ。
海馬を失って、絶望の淵にいた自分を救ってくれた…誰よりも優しくて愛しい女性。城之内がこの世界で、一番に愛した女性だった。
「でもママは言ったんだ。亡くなる前にオレに対して、どうか自由になってくれってな…」
「自由に…?」
瀬衣名の問い掛けに、城之内はコクリと頷いて答える。そして頭の中で、あの時の言葉を思い出していた。
『お願いよ…。どうか私に縛られないで…。これから先は自由に生きていって欲しいの…。克也君の好きなように…貴方が信じるままに…どうか…自由に…』
優しい優しい愛する妻の言葉。その言葉があったからこそ、城之内は再会した海馬を再び愛する決心を固める事が出来たのだ。もしあの時の言葉が無ければ、例え海馬と劇的な再会をしたとしても城之内は永遠に妻だけを愛し続ける事を選んだ事だろう。
多分亡くなった城之内の妻は、そんな夫の性格をよく理解していたに違い無い。だからこそ、敢えて言葉にして伝えたのだ。
自由に生きて欲しい…と。
それは、妻が夫を愛しているが故の本心からの言葉だった。愛しているからこその…願いだったのだ。
「ママの…アイツのあの言葉があったからこそ、今のオレがいるんだよ。あの言葉が無かったら、今のオレはこんなに幸せでは無かっただろうな。本当に…アイツには感謝しているんだよ」
「パパ…」
「愛していたんだ。本当に誰よりも心から愛していたんだよ…瀬衣名」
「うん。ゴメンね…パパ。パパのママに対する気持ちを疑ったりして、本当にゴメンね」
父親の心からの本音を聞いて、娘は涙ぐみながら謝罪した。そして自分の手をそっと父の手に重ねて、強く強く握り締めたのだった。
「で、そんな訳で、瀬衣名はちゃんと理解してくれたって訳さ」
城之内は最後にそう締めて、抱き締めていた腕に少しだけ力を込めた。
長い恋人の話の間、海馬は一言も口を挟んだりはしなかった。ただ時折相槌を打つようにコクリコクリと頷いては、真面目に城之内の言葉を聞いていた。全ての話が終わった事を知ると、海馬は城之内の腕の中で身じろぎをして、腕が緩んだのを見計らって身体を半回転させる。そして城之内と真っ正面から見合う形になり、精悍な男らしい顔をじっと見詰めて…フワリと微笑んだ。
「分かって貰えて良かったな。それは確かに、とても大事な話だったと思うぞ」
「あ、やっぱりお前もそう思う? オレもそう思ったから、何も隠し事しないで素直に話したんだ」
「そうだな」
「瀬衣名にはあぁ言ったけど…、お前だって前の奥さんの事を愛していたんだろ?」
「あぁ、勿論だ。だから克人が生まれたんだ」
「だよなー!」
「離婚はしたが、無駄な結婚だったとは思っていない。妻は間違い無く、オレに取って必要な女だった。オレはアレを…本当に愛していたんだ」
「うん。知ってる」
「端から見れば不幸な結末になってしまったと思われるかもしれないが、オレはそれを後悔していない。克人も離婚には納得しているし、元妻も今は再婚して幸せに暮らしている筈だ。それにオレも…」
「ん?」
「………」
「なんだよ。言えよ」
海馬が何かを言い淀んだのを見て、城之内はクスリと笑った。海馬が何を言いたいのかをよく分かっていたからだ。本当は海馬が何も言わなくても分かってはいたのだが、ここはやはり直接言葉で言って欲しいと、城之内は笑顔で先を勧めてくる。
そんな城之内の言葉に海馬は耳まで真っ赤になって、だが覚悟を決めたのか、ややあってボソリと…非常に低い声で世界で一番愛している男の耳元にこう囁いたのだった。
「オレも今は…至極幸せだからな」
………と。
夜も更けて、素肌に羽毛布団を巻き付けてスヤスヤと眠る海馬に城之内は優しく微笑みかけ、少し汗ばんで重みを増した栗色の髪の毛をサラリと撫でた。その仕草に「んっ…」とむずがる海馬にクスクスと笑い、床に放ってあったバスローブを拾い身に着けて立上がる。そしてそっと寝室を抜け出して、リビングに入り電気を付けた。
明るい電気の下で、仏壇に飾られている亡くなった妻の写真をじっと見詰める。妻は今日も優しい笑顔を浮かべてそこにいた。
その写真に城之内はゆっくりと手を伸ばして、指先で写真の表面をそっと撫でた。そして小さな声で言葉を放つ。
「ありがとう…。お前のお陰で、オレは今…世界で一番幸せなんだ。本当にありがとう…、 」
最後に心を込めて妻の名前を呼び、電気を消して再び寝室に戻る。ベッドに戻って羽布団に潜り込むと、海馬がふー…と大きく息を吐いた。そしてわざとらしく寝返りを打って城之内の身体にピッタリとくっついてくる。
静かに寝息を立てているようだが、起きている事は一目瞭然だ。それでも城之内は何も言わなかった。何も言わず、ただ腕を伸ばして細い身体を強く抱き寄せる。海馬もそれに従って、素直に身体を擦り寄せて来た。
静かな静かな秋の夜が更ける。
今はただ…愛する人が側にいるというこの事実だけで、心から幸せだと思った二人だった。
今から12月のシフトにガクブルな二礼です、こんばんは。
まず今日の更新を急に休んでしまった事をお詫び致します。
本日は本当はお休みの日だったのですが、他のバイトさんの親戚に不幸がありまして、急遽代替となってしまった訳なんです。
でもまぁ、こういう急の交代は全く構いません。
特に不幸系は本当に仕方の無い事なので、こういう時には協力してあげたいのです。
自分も迷惑を掛ける時があるかもしれませんしね。
ただ…12月はそういう訳ではありません…w
12月!!
12月と言えば…そう!! クリスマスがあるんですよ!!
老若男女の誰も彼もが浮かれまくるこの季節によくありがちですが…若いバイトさんが殆どお休みを取ってしまっているのです…(´∀`;
クリスマスだけならまだしも、年末年始もずっとお休みって…どういう事なのよ…orz
しかも新人バイトォーッ!!
お前まだ仕事完璧に覚えて無い癖に、半月以上の長期休みを平気で取るなぁーっ!!wwwww
このしわ寄せが主婦に来てるんだよwwwwww
何だよ、この12/22(水)から12/28(火)にかけての連チャンシフトはwwwww
死にますwww マジで死にそうですwwww
………せめて12/26(日)だけはお休み欲しい…;
という訳で、残念ながら12月後半はまともな更新が出来ないと思われます…(´・∀・`)
小説を書きたい気持ちが一杯あるだけにとても残念ですが、どうぞご了承下さいませ~!
お仕事は頑張るよ…うんw
年明けには落ち着いて、ちゃんと更新出来たらいいんだけどなぁ~…。
まだ11月だというのに、既に半纏と膝掛け完備な二礼です、こんばんは。
ヤバイ! 今日滅茶苦茶寒いです!!
私が住んでいるのは関東地方なのですが、何か全国的に寒気に覆われるみたいですね。
急激に冷え込むみたいなので、皆様も暖かくしてお過ごし下さいませ。
特に風邪等にはお気を付け下さいね~。
周りでも何人か酷い風邪に悩まされている御方がいらっしゃるので、まるで他人事のように「今年の風邪は大変だねぇ~…」と思っている次第でございます…w
二礼は一見ものすごーく健康そうに見えますが、実は持病持ちの所為ですぐ体調を崩してしまうという病弱さんです。
実際の私を知っている方から見れば、ただの冗談みたいに思えるでしょうけどね…w
まぁ…そんな訳で、二礼は季節の変わり目に弱いんですよ。
特に冬から春にかけての時期と、秋から冬にかけての時期は、毎度のように酷い風邪を引いては寝込んでいました。
ところが…です。
今年は確かに春先に酷い風邪を引きましたが、この秋はいつまで経っても風邪を引きません。健康のままです。
いつ喉が痛くなるのかとヒヤヒヤしているのですが(二礼は喉から来るので…w)、それが全く無いんですよね~。
この間日光に旅行に行った時も薄着で寒い思いをしたというのに、それでも風邪を引きませんでした。
………どういう事なの…?
これは単純に身体が強くなったと喜んでいいのか?
それとも冬に酷い病気に罹る予兆とかだったらどうしよう…w
インフルエンザとか罹ったら…嫌だなぁ~…;
何しろ健康一番ですよね!
毎日の体調に気を付けていきたいと思っていますw
『光と闇の狭間で』シリーズに『Episode2』をUPしました。
何か自分の中で盛り上がっている最中なので、シリーズ物なのですがチョコチョコと更新です。
同じように百合城海シリーズも盛り上がっているので、また書くかもしれません…w
視力ってのは、五感の中で人間が一番頼っている器官なんですって。
だからその視力を失うと、他の五感が一斉に覚醒するらしいです。
城之内君は遊戯王キャラの中でも、特にそういう感覚に優れていると思うんですよ。
なので、一旦視力が封じられたとしても、すぐに他の感覚が鋭く成長する事が出来るんじゃないかなぁ~という気持ちを込めて、こんな話を書いてみました。
余談ですがコレを書いている時に、余りにも自らの力が強過ぎる故に敢えて視力を封じている某黄金聖闘士の事を思い出してしまいました…。
今の若い人は…誰も知らないよねぇ…?w
乙女座の人だよ~!www
気になる人だけググってみてね☆
晩秋の午後。風も穏やかだったので、今日も海馬と共に病院の中庭に遊びに来ていた。
オレの手には暖かい缶珈琲。ついこの間まではパックのフルーツジュースを買っていたけど、流石に最近は寒くなって来て、オレも海馬と同じ缶珈琲に切り替えた。温かい珈琲を両手で持って、はぁー…と大きく息を吐き出す。深まってきた秋の冷たい空気が、とても気持ち良かった。
でもこうやって外でお茶をするのも、もう少しで終わりだ。
それは、冬が来れば寒くて表に出られないからとかそういう訳じゃ無い。そうじゃなくて…オレの一時退院が決まったからだ。とりあえず今の症状が落ち着くまでは、家に帰って普通に生活してて良いらしい。勿論通院は続けて、頃合いを見て再手術をするという話になった。
「次に手術をする時は、もう少し見えるようになるからね。それまで頑張って」
優しく、そして強くそう言う主治医の言葉に頷いて、オレは希望を持つ事にした。
希望は持ったが…視力が回復するまでの生活に不安が無い訳じゃ無い。むしろ、病院の外で上手く生きていけるのかって事に対しては、日に日に不安が増していっている。そしてその不安は、どうやら海馬も持っているらしい。なかなか口には出さないけど、オレを心配している海馬の気持ちが真っ直ぐに伝わってくる。
そしてこの日…遂に海馬はその不安を吐露した。
「城之内…。お前、退院したらどうするつもりだ?」
ベンチで隣同士に腰掛けて、海馬は低い声でオレに尋ねて来る。
「どうするって…どういう事?」
「色々あるだろう? 学校とか…仕事の事とか…」
「あぁ、そうだな」
「ずっとアルバイトとかしていたのだろう? だがもうその目では…」
「出来無いな。今までやってたバイトは、全部辞めるしかないなぁ…」
「学校は…?」
「………」
「学校は…どうするのだ…」
海馬の質問にオレは少し動きを止めて、そしてふぅー…と大きく嘆息した。それは、オレもずっと悩んでいた事だった。
学校は好きだ。やさぐれて、全てに対して牙を剥いていたオレに生きる意味を与えてくれた場所。大事な友人と出会えて、オレが自分らしさという物を取り戻した場所でもある。勉強はちょっと面倒臭かったけど、友達と馬鹿騒ぎするのも、一緒に昼飯食べるのも、真剣にお互いの悩みを相談し合ったりした事も、たまにある大きな行事を真剣に楽しんだ事も、全てが本当に楽しかった。楽しくて、何より人を想うという一番大切な事に気付かせてくれた場所でもあった。
そう、あの学校に行っていなかったら、オレは海馬とは出会えなかったんだ。海馬と出会って、嫌って憎んで、許して憧れて…そして恋をした。想いが届くのは無理だと諦めて、それでも黙っている事だけは出来無くて、勇気を出して告白した。
その結果…海馬は今、オレの隣にいてくれている。それは凄く予想外で、そして何よりとても嬉しい事だった。だけれども…オレはその大切な出会いを与えてくれた学校を、こんな不本意な形で失おうとしている。それが何よりも悲しくて…悔しかった。
「今は…一応休学してる」
「………」
「でもそれも…中退しといた方がいいかなって思い始めてる」
「………」
オレの言葉に、海馬は何も返答しなかった。その代わりに隣からカシュッ…と、缶珈琲のプルタブが開けられる音が響いたのに気付いた。秋の冷たい風に乗って流れてくるその香りは、昨日までの珈琲の香りとは少し違う。それを意外に思って、クスリと笑って口を開いた。
「海馬…それ、メーカー変えたのか?」
「えっ…?」
「香りが少し違う。缶の色が似てたから気付かなかったけど」
「………」
「あれ? 間違ってた?」
「………。あ…いや、間違ってはいない。いつものが売り切れていて無かったのだ。だから、別のメーカーのを買ったのだが…」
海馬は顔を完全にこっちに向けて、辿々しく言葉を放った。オレの目には相変わらずのっぺらぼう状態にしか映らないから、今海馬が一体どんな表情をしているのかは分からない。ただ、纏っている空気を感じ取るに、オレの一言に随分と驚いているらしいという事は分かった。
事故で視力を無くした所為で、オレが失った物はとても多い。その代わり、得た物も多かった。
まず匂いに敏感になった。元々嗅覚は犬並みに優れていると自他共に自覚してたんだけど、それが更に強くなったみたいだ。
ある日、いつものように中庭でノンビリしている時に、オレは唐突に雨の気配を感じた。クンと鼻を啜って、空から落ちる水滴が地面で巻き上げる土埃の匂いを嗅ぎ取る。
「海馬、雨が降る」
そう言うと、海馬は「まさか」と反論して来た。
その時の海馬の言葉によると、空は実に綺麗に晴れ渡っていたらしい。今のオレの視力じゃ光が飽和して、空が青空なのか曇り空なのかはハッキリ判別出来無かったんだけど、雨の匂いが段々と強くなって来ている事には確実に気付いていた。
オレの言葉に半信半疑の海馬を連れて、無理矢理病室に戻ってみれば、それから少し経って雨が降り始めた。それが、海馬がオレの新たな能力に驚く第一弾となった。
また、それと同時に触感も敏感になってきた。海馬が人の病室にまで持って来ていた資料に何気なく触れた時に、その内の数枚の紙質が違う事に気付いた。その事を指摘してみたら、海馬は今みたいに物凄く驚いていた。昔のオレじゃ絶対分からない違いだったんだと思う。
それから聴覚。普通の人にはまだ何も聞こえていない状況なのに、オレは廊下の向こうから歩いて来るモクバの存在に気付いていた。
オレの病室があるこの階に止まったエレベーター。そこからズンズンと歩き出す子供の足音と…まだ小さな歩幅。迷い無く真っ直ぐにこちらに向かってくるその気配に、オレは側で資料を読んでいた海馬に「モクバが来たぜ」と教えてあげた。
「は? 何を言っているんだ貴様は」
その時の海馬は、オレの言葉を真っ向から否定して信じなかった。
「今日はモクバは学校行事で遅くなると言っていた。そしてそのまま会社に寄るとも…。今日、こっちに立ち寄る暇は無い筈だ」
「でも、モクバの足音が聞こえるぜ?」
「目が悪くなって幻聴まで聞え始めたのか…貴様は…」
呆れたように嘆息した海馬は、だけど次の瞬間背後から突然現れた自分の弟に心底ビックリする羽目になった。その時はたまたま学校行事が早く終わったモクバが、空き時間を利用してオレの見舞いに来てくれただけだったんだけどな。
そんな事件があってからというもの、海馬はオレの感覚が以前よりずっと鋭くなった事を認識し始めたらしい。
海馬は持っていた缶珈琲に口を付けて、ふぅー…と暖かい吐息を零した。そして随分と柔らかい声で、オレに話しかけてくる。
「正直…感心した」
「何を?」
「お前の感覚が鋭くなっている事に関してだ」
「あぁ、その事か」
本当に感心したような海馬の声に、オレは何でも無いように答えてみせる。
最近はそういう感覚的な物の他に、人の気配や纏う空気なんかも読めるようになってきた。オレが海馬の表情が完全に見えないのに、コイツが驚いてるって事を感じ取ったのもその所為だ。視力が使い物にならなくなった事で、他の器官が必死でその穴埋めをしようとしているのが良く分かる。
「先生にも言われたぜ。視覚って、人間が一番頼っている大事な器官なんだと。だからそれが駄目になった時、他の器官が何とかそれを補完しようと躍起になるんだとさ。だから色んな感覚が鋭くなるんだって」
「………そうか」
「なぁ…海馬。オレさ…マッサージ師の勉強がしたい」
「何…?」
「ほら、オレさ。ずっと肉体労働系のアルバイトして来ただろ? だから手も大きいし、握力も凄いあるんだよ。意外と細かい作業も得意だし、この手でマッサージとかしたら完璧じゃね?」
「………それ…は…」
「手術を繰り返していけば、いつか視力が回復して、常人と変わらない生活が出来るようになるのかもしれない。だけどそうなるまでの間も、オレは生きて行かなくちゃいけない。だけどさぁ…お前にも話したけど、ウチの親父は当てにならないんだ。今更離婚した母親を頼るのも嫌だし、何しろ向こうには妹がいる。オレの事まで…迷惑掛けられないよ」
「城之内…」
「だからオレは今まで通り、自分自身の力で生きていく。勿論今のままじゃ駄目だから、その為の勉強がしたいって思ってるんだ」
「それで…?」
「ん? それでって?」
「それで…学校は…童実野高校は辞めてしまうのか…?」
少し…いやかなり寂しそうな海馬の声に、オレは自分の心臓がドキリと跳ね上がる音を聞いた。
どういう事なんだろう…この反応は。これではまるで…海馬がオレに高校を辞めて欲しく無いと思っているみたいじゃないか…。
「海馬…お前…」
「城之内、オレはな…。オレは、お前が一人で生きて行く為の勉強をしたいと思うのは良い事だと思っているし、出来る事ならその協力も惜しみなくしたいと思っている」
「海…馬…?」
「けれど、高校を中退するという事だけは…賛成出来無い。何年かかってもいいから、あの学校は卒業しておくべきだ」
淡々と続けられる言葉に、オレは思わずゴクリと喉を鳴らした。
分かっている。海馬の言いたい事はよく分かっている。オレだってあの学校を辞めたくなんてないよ。出来る事ならちゃんと卒業したい。でもこんな状態になってしまって…オレにどうしろって言うんだ。
「お前の言いたい事は分かるけど…それは無理だ」
「何故だ?」
「いつか視力が戻るとは言っても、それが何年後になるかは分からない。ましてや何とか戻ったとしても、オレの知っている奴は一人もいないんだ。そんなところに戻っても…」
「オレがいる」
「………は?」
「オレも休学してずっと待っている。だから一緒に高校を卒業しよう」
「お前も休学って…はああああっ!?」
随分とはっきり伝えられた海馬の言葉が信じられなくて、オレは思わず大きな声を出してしまった。
休学? 休学って…コイツは一体何を言っているんだ!
お前は海馬コーポレーションの社長だろ!? 何の問題も無いのに休学して卒業を見送りだなんて…そんな事許される筈が無い!
「何言ってんだ! そんな事…していい筈無いだろ!?」
「ん? 何故だ?」
完全に焦ったオレに対して、海馬はまるで何処吹く風とでも言うように飄々としている。
「何故だ? じゃねーよ!! お前は海馬コーポレーションの社長なんだろ!?」
「そうだが?」
「疑問符で返すなよ。そうだが? じゃないっての! お前はちゃんと高校を卒業して、その後何か有名な大学か何かに入らなきゃいけないんじゃないのか? 学歴とか必要なんだろ?」
「いや? 特には必要としていないが」
「だからお前はオレの事なんて気にせずにちゃんと高校を卒業して…って、え? お前…今何つった?」
「学歴の事か? 特には必要としていないと言った」
「な、何で…?」
「何故と言われてもな。学ぶべき物は全て学んでしまったからとしか、言いようが無い。それに学歴という物は、これからそれを頼りに社会で這い上がっていきたい者が必要とする物だ。既に社長の座に納まっているオレには、全く必要が無い」
「そ…それはそうだけどさぁ…。じゃあ何で高校入学したんだよ。しかもあんな…偏差値が底辺の高校なんかに」
「モクバに行けと言われたからだ」
「モクバに…?」
「そう。普通の学校生活を体験しておく事も大切だと言われてな。あの頃のオレはその重要性を何一つ分かっていなかったが、今になってみれば分かる。確かに貴重で重要な体験ばかりだった…」
「………」
「だからオレは、特に学歴に拘っている訳では無い。必要な知識はもう完璧に備えているから、わざわざ大学に行く必要も無いしな。だがあの高校は…確かに楽しかった。出来ればちゃんと卒業したいと思っている。出来れば…お前と一緒に」
「………海馬…」
「そういう訳で、オレは待つ事に決めたのだ。お前が戻ってくるまで、オレも休学して待っている。学校には仕事が忙しくなったとか理由を付ければ、誰も怪しんだりはしないだろう。そういう意味では元から不真面目な生徒だったからな」
そう言って海馬は…フッとおかしそうに吐息を漏らした。多分その顔はニヤリと笑っているんだろう。
今のオレの目には、残念ながらその顔は見えない。だけど海馬が、自分が出した結論に至極満足している事だけはしっかりと伝わって来た。そしてその意志を変えるつもりが全く無い事も、一緒に伝わってくる。
そう言えばこいつは、昔から頑固な奴だったんだよな。自分がこうと決めたら、それを貫き通さないと満足しないんだ。多分オレやモクバがどんなに言っても、この結論が覆される事は無いだろう。それこそ永久に。
だったら…オレがそれを受け入れるしか無いじゃないか。
「分かった。じゃあ退学はやめる。休学のままにしとくよ」
両手を挙げて降参のポーズをし、オレは渋々といった感じでそう呟いた。海馬はオレのその言葉に満足したようで、コクリと頷いて「あぁ」と嬉しそうに答える。
くそっ…。視力が効かなくなるってのは、なかなか厄介だな。普段は上手に隠しているであろう海馬の気配が、全部駄々漏れで分かってしまう。他の人から見たら大した事の無い言動の一つ一つから、オレに対する愛情が溢れ出て来ているんだ。
あーもう…どうしよう。そんなに愛されたら、照れるじゃんか!!
「馬鹿だな…お前。オレ以上の馬鹿だ」
「そうだな。馬鹿なお前を好きになった時点で、オレも馬鹿なのかも知れないな」
「馬鹿!! そんな事を、そんな風に嬉しそうに言うんじゃねぇよ!」
「は? オレがいつ嬉しそうになんてしたのだ?」
「あーはいはい。分かって無いなら、もういいです!」
そう言ってオレは、照れ隠しに隣にいた海馬の身体を強く抱き締めた。この間と違って中庭には何人かの人がいたから、海馬は物凄く焦ってる。それは伝わって来たけど、そんな事知ったこっちゃねぇや。
オレをこんなに照れさせた責任を取りやがれ!!
それは、オレが一時退院をする三日前の出来事だった。
シフト制限が掛かった二礼です、こんばんは。
11月のシフトが何だか妙にマッタリしてて、もう少しシフト入れてくれてもいいのに~と不思議に思っていました。
で、その理由を訊いたら案外簡単に教えてくれました。
つまりですね。9月と10月に働き過ぎてて、シフトオーバーしてたらしいです…w
後からそれに気付いて「二礼さんがシフトオーバーしてる!?」となり、慌ててシフトを削ったとの事。
あぁ…道理で忙しいと思ったよ…。
でもそれに慣れちゃったから、今が怠過ぎて堪らないですwww
何かこう…もっと適度にやって欲しいですな。
話は変わりますが、本日ちょっとした事件が起きました。
事件という程大した事では無いのですが…w
あのですね…午後の14時過ぎくらいにですね、急に拍手ログが壊れてしまったのです。
今はもう復旧していますが、それまでのログが全部飛んでしまいました。
昨日までのログは保存していたので生きていますが、今日の分は完全に消し飛んでしまい、復旧出来ませんでした…orz
原因は、どうやら全く同タイミングで違う場所から拍手ボタンが押され、その所為でバグが起きてしまったらしいのです。
偶然って…凄いなぁ~…。
もし本日、拍手にてコメントをして下さった方がいらっしゃいましたら、その御方に謝罪致します。
ログが消えてしまって、本当に申し訳ありませんでした。
もし何かございましたら、二度手間だとは思いますがもう一度コメントをお願い致します。
短編に『Embrace』をUPしました。
たまには真面目に短編などを…w
しかし短編を書くのは、本当に久しぶりだな。
7月のモク誕以来かwww
特に特殊な行動等は何も書いてありませんが、実は私はこういう淡々とした話が大好きです。
書くのは勿論の事、読む方もねw
だって、城之内君も海馬も、如何にも自然に恋してるって感じがするから。
男同士とか天敵同士とか色々有りますが、やっぱり『恋愛』っていうのは自然な物ですから、当たり前のように恋をしてて欲しいのです。
今回はそんな想いも込めて、このお話を書いてみました。
何だかんだ言っても、やっぱりラブラブ城海が好きなんだなぁ~と、しみじみと自覚しましたですよw
ラブラブ城海、いいですよね?
城之内×海馬。
海馬の一人称です。
相手の過去に触れる事は出来無いけれど、過去毎愛する事は出来ますよね(*'-')
「オレ、お前の事抱き締めたい」
唐突に言われた一言に、オレはメールチェックをする為に凝視していたノートPCのモニターから顔を上げて、視線をその先の方へと移した。そこには城之内がいて、ソファーにゆったりと座ったまま何やら険しい顔をして、膝の上に置いてあるアルバムを睨み付けている。
一体全体突然何を言いだしたのかと、オレは軽く首を捻ってみせた。
休日の我が家。会社は休みだったが、メールはそんな事は関係無いとばかりにひっきりなしにやってくる。その為、オレはやりかけの書類を仕上げるついでにメールのチェックも終わらせてしまおうと、一~二時間だけという約束で自室で仕事をする事にした。
約束したというのは、今日は城之内が遊びに来ていたからだった。もし自分一人だけなら、わざわざこんな約束などしないでさっさと仕事に向かう事だろう。だが、城之内がいる時は勝手が違う。せっかくの休日にわざわざ仕事をする事を、コイツは本気で嫌っていた。オレが黙って仕事をしようとするとチクチクと文句を言い、最終的には力尽くで止められる。
もし城之内がただの知り合い程度だったなら、こんな事されて黙ってるオレでは無い。直ぐさま怒鳴り返して速攻部屋から追い出していた事だろう。けれど、そんな事は出来ない理由があった。
それは…城之内がただの知り合いなんかでは無く、オレの恋人だったという事だ。
恋人と言う事は、オレだって少なからず城之内の事を認めているという事であって、そんな奴の言う事を無下には出来無い。まして、城之内の言う事がただの我が儘では無く、オレの事を気遣っている一言だと理解出来るから尚更だ。
そんな訳で、普段のオレは城之内と一緒にいる時は余り仕事の方に手を出さない事に決めていた。だが今回の場合、どうしても今日中に仕上げてしまいたい書類があった事と、未読メールが溜っていた事が、オレの神経を嫌でもそちらに傾けさせた。一緒にいても全く集中していない事に気付いたのだろう。城之内は深々と溜息を吐きながらも「じゃあ、一時間くらいならいいよ。多くても二時間な!」と、オレが仕事をする事を認めてくれたのだった。
ただし、何か暇潰し出来る物を与えてくれという条件付きだったが…。
こうして城之内は、今は大人しくソファーに座り込んで、オレが暇潰し用にと与えてやったアルバムを眺めている。恋人同士になったばかりの頃から、ずっとオレの子供時代の写真が見てみたいと言っていたので、実に良い暇潰しになったらしい。
子供時代の写真と言っても、オレが本当の意味で幼少期だった頃の写真は一枚も残っていない。海馬邸にあるのは、オレが十歳で養子にやって来てからの写真ばかりだ。それでも城之内的には満足だったらしくて、さっきから黙って真剣に写真を見詰めている。だからオレもすっかり気楽になって、思った以上に仕事が捗って気分が良かった。そして、あともう少しで全てのメールの返事を出し終えると、そう思っていた時だった。
先程の一言が、実に唐突に発せられたのは…。
「突然何を言っている…。そんな事、いつもしているだろう?」
少々溜息混じりで呆れたように返してやれば、城之内はアルバムから顔を上げてこちらに視線を向け、そしてフルリと首を横に振ってみせた。
「違う違う。オレが言っているのはそういう事じゃ無い」
「じゃあどういう事なんだ? 言っている意味が全く分からないぞ」
城之内の言葉に主語が無い事はもう慣れた。慣れたが、それを良しとしている訳では無い。言いたい事があるなら順序立ててしっかり言えと常日頃から言っているので、今回もそういう意味を込めて先を促してみる。すると城之内は、強い視線のままオレを見据えて口を開いた。
「勿論今のお前も抱き締めたいけどさ。さっきオレが言ったのは、ここに写っている昔のお前を抱き締めたいって事なんだ」
「昔の…オレ?」
「そう。だってさぁ…。どの写真見ても、お前寂しそうな顔してんだもん。目に光が無いしさ」
「………」
「だからオレ、この頃のお前を抱き締めたいって思ったんだ。ぎゅっと抱き締めて『大丈夫だよ』って言えば、お前だってきっとあそこまで酷い状態にはならなかっただろうにって…」
「………城之内…」
「そう思ったら…悔しくってさぁ…」
城之内は最後にそう言って、本当に悔しそうに下唇を噛み締めていた。
城之内が言っている『あそこまで酷い状態』とは、丁度Death-Tで出会った頃のオレの事を言っているのだろう。確かにあの頃のオレは、完全に壊れていた。壊れている事にすら気付かず、ただ剛三郎の亡霊に操られて生きているだけの状態だった訳だが。
そんな壊れた人形のオレは、遊戯によって救われた。………非常に不本意な話だが、事実だから認めざるを得ない。そしてそんなオレを憎んでいた筈の城之内は、いつの間にかオレを許し…そして愛してくれるようになった。
オレを抱き締め、耳元で愛を囁き、そして事ある毎に城之内は言う。
「お前が好きだよ。愛してる。もう大丈夫だから…」
………と。
それは、城之内が本気でオレを好きになってくれて、そして壊れていた頃のオレも含めて全ての『海馬瀬人』という存在を愛してくれている証拠でもあった。先程の台詞も、そんな奴の想いから発せられた一言であろう。
だがオレはそんな城之内に対して、ひっそりと心中にて反論していた。
そう思っているのは貴様だけでは無い! オレも同じだ!! ………と。
オレがそのアルバムを見たのは、今から少し前の事だった。
学校帰りに城之内の家に寄り、その日は特別な用事も何も無かった為、城之内の手製の夕食をご馳走して貰う事になったのだ。何か手伝おうとしたのだが、城之内は「お前は客だからゆっくりしておけよ」と笑顔で言い、一人で台所に立っていた。そして「暇潰しにそこらにある物、何でも読んでいいからな」と言われ、何気なく手を伸ばしてオレが手にしたのが…薄いアルバムだったという訳だ。
写っている写真は、殆どが城之内家で撮られた物では無かった。学校行事に付きそう専属カメラマンが撮った写真や、友達の親や近所の人が撮ったであろうと予想される写真ばかりがそこにあった。その証拠に、家族内での写真や、家の中での写真が皆無だ。運動会や遠足、林間学校や修学旅行等の学校行事の写真。そして、公園や友人の家で撮られたと思わしき写真。そればかりだ。
一見、無邪気な顔をして楽しそうに写っているその写真でも、オレの目を誤魔化す事は出来無かった。先程の城之内の言葉を借りるならば、そこにある全ての城之内は、寂しそうな顔をして目に光が無かった。
こんなに小さな子供なのに、まるで疲れ切った大人のような表情をしている事に胸が痛む。周りに一緒に写っている子供達とは、明らかに違う表情。同年代の子供達が普通に持っている輝きが、完全に失われている。そしてその内の何枚かには、痛々しい傷を負ったままの城之内も写っていた。
赤紫色に腫れた頬に、ガーゼとテープが貼られている。子供のふっくらした頬が、それの何倍も膨れあがって、それなのにカメラに笑顔を向けてピースサインを出しているのだ。
この城之内を写したカメラマンは、一体どんな想いでこのシーンを切り取ったのだろうか。その気持ちを考えると、胸の内がズキズキと痛んだ。
「何? 何でそんなモン見てるの?」
アルバムをじっと見詰めているオレに気付いて、城之内が菜箸を持ったまま台所から覗き込んでくる。ギクリとして視線を上げたが、目に入ってきたその顔に非難の色は無い。どちらかと言えば、何故そんなツマラナイ物を見ているのかと疑問に思っている顔だ。
「もっと面白い雑誌とかがあるだろ?」
「別に。オレはこんな低俗な雑誌には興味は無い。まだ貴様のアルバムを見ていた方が有意義だ」
「ふーん。お前が面白ければそれでいいんだけどよ。あとで『やっぱりつまらなかった』とか文句言うなよな」
「言うか、そんなもの!」
オレの返答に城之内は安心したらしく、「それじゃ、もう少しで出来るからな」と笑顔で言い残し、再び台所に戻っていった。鼻歌交じりで料理を続けている城之内の背中を見遣って、オレは再び膝の上に開きっぱなしだったアルバムに視線を戻した。そして、そこに写る幼い城之内に小さく溜息を吐く。
痛々しく、そして何よりも深い孤独感が伝わってくる。こんなに小さな子供なのに、周りの子供達と雰囲気が余りにも違っていて思わず泣きそうになった。
このくらいの子供は、もっと伸び伸びと笑っているべきだ。不安なんて何一つ感じず、こんな理不尽な怪我なんて負わずに親の愛情を一心に受けて、心の底からただ今を楽しいと思う感情そのままに笑顔を浮かべているべきだ。
だからオレはこの時思った。
この城之内を抱き締めてやりたい。
………と。
弟以外の誰かを、こんなに強く「抱き締めてやりたい」等と思ったのはこれが初めてだったと思う。
数日前のオレが思った事と、今城之内が言っている事は、多分全く同じ事だ。お互いがお互いの子供の頃を痛々しく思い、抱き締めて安心させてやりたいと思っている。それは紛れも無く、オレが城之内に、そして城之内がオレに愛情を感じているからだ。
直接言わなくてもよく分かる。これは愛の告白と全く変わらない気持ちの表れだ。
「………フフッ」
「な…何だよ。笑うなよー」
何だか妙に幸せを感じてしまって思わず笑ってしまったら、城之内が顔を真っ赤にして唇を尖らせた。別に馬鹿にしたつもりでは無かったが、コイツはいつもみたいにオレが失笑したのだと考えたらしい。
馬鹿だな、本当に。オレがその想いを馬鹿にしたりする筈無いではないか。こんなに愛しいと思っているというのにな…。
すっかり拗ねてしまった城之内に更に笑いつつ、オレは席を立ってソファーに近付いた。そして城之内のすぐ隣に腰掛ける。
「済まない。馬鹿にして笑った訳では無いのだ」
「………」
「そうぶすくれるな。少し嬉しいと思っただけだ」
「………嬉しい?」
「そうだ。お前もオレと同じ事を考えていたのだなと思ったら、嬉しくてな」
そう言って隣にある城之内の身体を、そっと抱き寄せた。背中に腕を回し背骨に沿って掌を上下させて撫でてやると、やがて城之内の方からも腕が回って来て、そしてオレ以上の強い力で抱き締められた。
「至極残念だが…子供の頃のオレは抱き締めさせてやる事は出来ん。どんなに望んでも時間は戻らんからな」
「………うん…」
「だが、それはオレも同じ事。オレだって、子供の頃のお前を抱き締めてやりたいと思っていた。だが…そんな事は無理な話だろう?」
「そう…だけど…」
「昔を抱き締めるのは無理だ。ならば、今抱き締めればいいでは無いか」
「海馬……」
「オレはお前を抱き締める。だからお前もオレを抱き締めてくれ…城之内」
「うん…。うん! 抱き締めるよ。この頃のお前を抱き締められなかった分…いくらでも!!」
強く強く、ただ愛情を一心に込めて恋人を抱き締める。あの頃、あの小さかった頃に、与えられて呵るべき物を誰にも与えられなかった愛情も一杯に込めて…ただただ強く。
これが今のオレ達の、精一杯の愛情だ。
出会う事の無かった幼き頃。そのお互いの子供時代を、今のオレ達がどれだけ「抱き締めたい」と思っても、それは絶対に不可能な事なのだ。だがそれでも、抱き締めて「大丈夫だよ」と安心させたいと…そう思う。何故ならそれだけ相手の事を愛しているから。
服越しにじんわりと伝わってくる相手の体温を心から愛しく思いつつ、オレ達は小さい頃の自分達が強く抱き締め合って微笑んでいる姿を想像した。その事にほんの少しだけ安心しつつ、今ある幸せを満喫しようと、そっと…唇を寄せ合ったのだった。
ポッキー食い損ねた二礼です、こんばんは。
今日は11月11日。ポッキーの日ですね~!
せっかくのポッキーの日なので、ポッキーとかトッポとかそういうお菓子を食べようと思ったのですが、残念ながら我が家の買い置きにはありませんでした…。
そういう事なので、仕方が無いのでエンゼルパイミニを食べますw
………。
……。
…。
うめぇ!!(゜д゜)
日本のチョコレート菓子は本当に美味しいと思います(´¬`)
この国に生まれて良かった~!
でもクッキーは欧州のが好きかな?
バターの香りが本当に良いんだよね~!
どんだけバター入ってるんだろうな…アレ。
考えると怖いから止めておくけどwww
んで、せっかくのポッキーの日なので、今日だけ自分のツイッターのアイコンに落書きして変えてみました。
↓コイツです…w
分かりにくいけど、ちゃんとポッキーゲームしてるんですよ~!
落書き時間2分少々也www
これ、戻すの忘れないようにしとかないとな…(´∀`;
『百合城海シリーズ』に、『Kiss…?』をUPしました。
久しぶりの百合城海でございます。
長らく放置していた所為か、書いててすんごく楽しかったwww
あー不味いなー…。この楽しさ、癖になりそうだなー…w
この二人は進展を焦らずゆっくり書き進めていきたいと思っていますが、この先の展開が自分でも楽しみで仕方ありませんw
展開というか、その展開をどうやって書いていこうかって事にですけど…w
百合なので、普段の男同士の展開には無い葛藤とか動揺とかが一杯書けて、本当に楽しいんですよ~。
嫉妬とかの感情も、百合の方が分かり易いしね。
ただやっぱり女体化の百合物なので、苦手な方は一杯いらっしゃると思います。
そういう方は「また下らない物書いてるよ…」と、華麗にスルーして下さいませ~!
スイマセン。
私が楽しいだけなんです…w
本当にスイマセンwww
城之内克美×海馬瀬人子。
『Escape...?』から少し経った後の二人のお話です。
あくまで『親友』としてのお泊まり会は続けていたようですが、それぞれに気持ちの変化が出て来たようです。
それはもうすっかり恒例となっているお泊まり会で、そろそろ寝ようかと一緒にベッドに入った時だった。克美が暇潰し用にと持って来ていたティーンズ雑誌をやけにじっくりと読んでいた瀬人子が、ふと顔を上げてこんな事を言い出した。
「なぁ…城之内」
「何ー?」
「キスってそんなに気持ちの良い物なのか?」
「………ぶっ!!」
ゴソゴソと瀬人子の隣に潜り込もうとしていた克美は、一拍遅れて吹き出してしまう。すぐに反応出来無かったのは、それが瀬人子の言葉だという事が認識出来無かったからだ。
認識出来無かったというか、脳が拒否したと言った方が正しいような気がするが…。
瀬人子にアメリカ人のセレブとの結婚話が持ち上がって、それを嫌がった克美が瀬人子を連れて脱走騒ぎを起こしてから暫くが立つ。あれから二人の関係は少しだけ変わった。一見何も変わっていないように見えても、お互いを見る目線が変わってしまったのは明白だった。
まず克美は、同じ女性でありながらも自分が瀬人子に恋をしている事を、はっきりと自覚してしまった。瀬人子の要望もあってそれから何回もお泊まり会は続けられたが、克美の態度は何となく遠慮しがちになっていった。
それもその筈…。克美は決して遠慮している訳では無い。遠慮では無く、自重なのだ。
もし自分が自重する事を辞めてしまったらどうなるかなんて、今の克美にはよく分かっていた。だから克美は距離を取る。あからさまにすれば瀬人子にもバレてしまう為、そっと気付かれぬように…何気なく引いているのだ。
もしかしたらとっくの昔にバレているのかもしれないが、瀬人子がそれについて何も言及しない為、克美は今の状態が続けばそれで良いと思っていた。
そして瀬人子の方はと言うと、克美の性生活について何も言わなくなってしまった。
以前はあれ程口喧しく、克美の乱れた貞操観念について小言を言っていたというのに、それについて一切何も言う事が無くなってしまったのである。勿論それは、克美があの日街中で一緒に買い物に来た筈の瀬人子を置いてけぼりにし、元彼とラブホテルに消えてしまったという事件以来、そういう事を一度もしていないというのも一つの理由ではあったが…。
それでもたまに克美が過去の自分の体験談なんかを話しても、瀬人子が逆上してそれに反論するというやり取りは全く無くなってしまったのだ。克美が言う事をただ黙って聞き流し、けれど自分には分からないと少し寂しそうな笑顔を浮かべるだけだった。
見えないけれど、克美と瀬人子の間には確実に何かの壁が出来てしまっていた。二人ともそれにハッキリと気付いている。気付いてはいるけれど…二人揃って気付かない振りをしているのだ。まるでそれが暗黙の了解であるかのように。
こうなってくると、自然とその手の話もしなくなってくる。最近は本当に学校の事や、流行りの話題など、無難な会話しかしていない。お泊まり会をし、二人で一緒にお風呂に入ったりベッドに寝転がったりしても、どこか手探りの会話しかしていなかったのだ。
克美はそんな状況を、少し疲れると思っていた。けれど…疲れはするが安心もしていた。そういう話をしてしまえば、いずれ自分の気持ちも隠しきれなくなってボロが出るかもしれないという危機感を、本能的に感じていたのかもしれない。
そんな状況下が続く中、急に発せられたあの瀬人子の一言に克美がパニックを起こすのは…当然と言えば当然であった。仕方が無かったのかもしれない。
先程の会話から数秒後、克美の頭は真っ白のままだった。口はパクパクと大きく開閉し、何か言おうとしても言葉が出て来ない。一人でアワアワしている克美を、瀬人子はただじっと見詰めていた。
やがて、何とか落ち着きを取り戻した克美は大きく深呼吸をし、瀬人子に向かって尋ねてみる。
「………な、何で急にそんな事を…?」
「別に? ただ少し気になっただけだ」
せっかく克美が思いきって尋ねたその一言にも、瀬人子は我関せずと言った風に飄々と答える。
お前の『少し』はこっちの心臓に悪いんだよ!! と心の中で悪態をつきつつ、克美はホッと息を吐いた。正直これ以上突っ込んだ質問をされても、答えようが無いからだ。
大体「気持ちいいのか?」と聞かれても、何と答えればいいと言うのか。「はい、気持ちいいです。癖になります。慣れるとキスだけでも濡れてきます。むしろお前としたいです」とでも答えて欲しいのだろうか?
冗談じゃ無い。せっかく自分の気持ちを押し込めて、瀬人子と普通の『親友』としての地位を確立してきたところなのだ。そんな危ない橋は渡れないと、克美は内心でゲンナリと思っていた。
それなのに、瀬人子はそんな克美の気持ちを弄ぶかのように、飄々とした態度を崩さない。ベッドサイドの灯りを頼りに、先程からずっと雑誌をパラリパラリと捲って読んでいる。
大体にして、持ってくる雑誌を間違えた…と克美は大いに反省した。
よりにもよってセックス特集号。自分は特に何も考える事無く普通に読める内容だが、瀬人子にとってはそうではないだろう。更にいつもの瀬人子は、そういう雑誌に一切の興味を示さない。それが克美の油断を招いた。
どうせいつもと同じように、「またそんな下らん雑誌を…」と言われて無視されると思っていたのだ。だがそれが今日に限って違っていた。ちょっとトイレに行こうとその雑誌をソファの上に放り出して席を外した隙に、暇潰しのセックス特集号は瀬人子の手に渡ってしまっていたのだ。
トイレから戻って来てその場面を目撃し、確かに克美は驚いた。驚いたが、別に瀬人子が何も言わず「ふぅん…」と特に感心も無さそうにページを捲っていたので、特に気にすることもないと安心しきっていたのだ。
それがまさか…こんな強烈な爆弾になるとは思わずに。
「もういいだろ。ほら、電気消して寝るぞ」
流石に居たたまれなくなって、克美は瀬人子が読んでいた雑誌を取り上げた。その途端、何故か非常に不服そうな顔を向けられて戸惑ってしまう。
「何だ」
「何だじゃねーよ。もう寝るんだろ」
「まだいいだろう。オレはそれを読んでいたんだ」
「お前が読むようなモンじゃないって。いつもは低俗だ何だって馬鹿にしてる癖に」
「オレにだって、たまには興味も湧くのだ。いいから寄越せ」
「興味って…お前なぁ…」
「オレだって女だ。いつかこういう事をする時が来るかもしれないだろう?」
「………。そ…そりゃそうだけど…」
瀬人子の言葉に、克美はこの間の事件を思い出した。
急に持ち上がった、瀬人子とアメリカ人セレブとの結婚話。瀬人子に恋している克美はそれが本当に嫌で嫌で堪らなくて、瀬人子を攫ってどこかに逃げてしまおうと本気で考えた。そして、ボロ自転車の荷台に瀬人子を載せて、無我夢中で隣町まで走って逃げたのだった。
あの日の出来事がまるで昨日の事のように、今でも鮮明に思い出される。勿論そんな子供の逃避行が成功する訳も無く、二人はその後、大人しく童実野町まで戻って来た。
あの日以来、克美は自分の気持ちを強く認識する事になる。そして、瀬人子との距離を作ってしまったのだ。
克美が瀬人子との距離を作った理由は、半分は諦めの気持ちがあったからだ。自分と瀬人子は女同士。例え告白したとしても、上手く行くとは思えない。それどころか気持ち悪がられて疎遠になる方が、ずっと確率が高いだろう。だから距離を取った。もし本当にそうなった時に、少しでもショックが少ないようにと…。
だけどそう思ってみても、もう半分の気持ちは諦め切れずにいた。今だって物凄く気分が悪い。いつか、自分の知らない他の男と瀬人子がそういう風に結ばれるなんて…考えただけでも頭がカッと熱くなって怒りが湧いてくる。
ただその気持ちを瀬人子にぶつけるのはお門違いだという事も分かっていたし、結局は無意味だって事もよく知っていた。だから克美は何も言わない。ぐっと堪えて我慢する他無かった。
「どうでもいいけど、オレは眠いんだ。先に寝るからな」
仕方無く諦める事にして、克美はそう言って布団に潜り込んだ。そして枕元に置いてあった小物入れから、小さな林檎型のリップクリームケースを取り出す。中に入っている半透明の溶液を小指の先で掬って、軽く唇に塗り込んだ。辺りに人工的な林檎の香りがフワリと漂っていく。
クリームを綺麗に塗り終わってから、克美は林檎の蓋をきちんと閉め、再び小物入れに仕舞った。そして今度こそ寝てしまおうと寝返りを打って…そこで漸く瀬人子の視線に気が付いた。
何故だかは知らないが、瀬人子はじっと克美を見詰めている。雑誌への興味はもう既に無いらしく、哀れセックス特集はサイドボードの上に投げ捨てられていた。
「いい香りだな…それ」
一瞬、克美は何を言われているのか分からなかった。だが次の瞬間、自分が塗ったリップクリームの事だと気が付く。
「あぁ、これ?」
「そう、それだ」
「ただのリップクリームだけど…。お前、こういうの持って無いの?」
「無いな。オレが持っているのはこういうのだけだ」
そう言って瀬人子がサイドボードから取り出したのは、メンソレータムの香りでスースーする某有名薬用リップスティックだった。
「言っておくけど安物だぜ?」
「そうなのか? 容器が可愛いな」
「うん。可愛いだろ。これが気に入って買ってみたんだ」
「………」
「何?」
「………」
「何だよ」
「………」
「もしかして…使ってみたいの?」
余りにじーっと見詰めて来るものだから、克美は思わずそう問い掛けてみた。予想する答えは「別にそんな物いらない!」という拒否反応だったのだが、驚いた事に瀬人子は素直にコクリと頷いてみせた。
使ってみたいのなら仕方無いと、克美は再び小物入れから林檎の容器を取り出して、瀬人子に手渡そうとした。ところが瀬人子はそれを受け取らず、「ん」と一言呻いて目を瞑った。使ってみたいのか、それとも拒否をしているのか、分からない。
「ん、じゃねえよ。使ってみたいんだろ?」
「そうだ」
「じゃあ使えばいいじゃん。ほら」
「お前が塗れ」
「はぁ?」
「人が使っているクリームケースに、自分の指を突っ込むなんて無粋な趣味は無い。そんな事されたら嫌だろう?」
「いや…別にオレは何も気にしないけど」
「オレは気にする。だからやらない。お前が塗ってくれ」
どんなに林檎のケースを手渡そうとしても、瀬人子は頑として首を縦に振らなかった。仕方無く克美は自分の小指の先でクリームを掬い取り、それを瀬人子の唇に持って行く。桜色の唇に小指の腹が触れた時、克美は自分の胸がドキリと大きく高鳴るのを感じていた。
(唇…超柔らかい…)
柔らかくて弾力のある下唇を、右端から左端に沿ってクリームを塗っていく。そして上唇にもそれをゆっくり塗り付けていった。辺りに先程より強く林檎の香りが満ちていく。
「良い香りだな…」
「そうだろ?」
「もういいか?」
「あ、ちょっと待って…。クリーム多かったみたいだから、何かで拭き取らないと…」
少し多めにクリームを塗り付けてしまったらしい。ぬるりとべとつく唇に、克美は慌ててテッシュを取ろうとした。枕元に置いてあるティッシュボックスからティッシュペーパーを一枚抜き取って、瀬人子の唇を拭こうとする。けれど振り返って目に入ってきたその光景に、ゴクリと生唾を飲んで固まってしまった。
瀬人子は静かに目を閉じたまま待っていた。林檎の香りのするリップクリームでてらてら光っている、桜色の綺麗な唇に目が釘付けになる。どんなに視線を外そうとしてみても、そこから離れる事が出来無かった。
「城之内…?」
瀬人子が自分を呼ぶ声にビクリと反応する。けれど、それ以上に動悸が止まらなかった。
驚かれてもいい。それをして嫌われてもいい。でも今は…その衝動を抑える事がどうしても出来無かった。
克美はそっと顔を近付けて、瀬人子の頬に掌を当てた。そしてリップクリームでべたつく唇を軽く吸った。チュッ…という軽い音が、薄暗い寝室に大きく響く。
流石に驚かれて拒否されるだろうと思っていたら、瀬人子はゆっくりと瞼を開いて…ただじっと青い綺麗な瞳で克美を見詰めているだけだった。
「海馬…?」
流石に心配になって恐る恐る声を掛けてみれば、瀬人子はパチパチと何度か大きく瞬きをして口を開いた。
「今のが…キスか?」
「あ…あぁ。うん…そうだけど…」
瀬人子の反応が読めない。次にどう来るのか、全く予想が出来無くて克美は困惑してしまう。そんな克美の動揺を他所に、瀬人子はベッドの中でズリズリと克美に擦り寄って来て、ピッタリと身体をくっ付けて来た。そしてあろう事か、信じられない一言を吐く。
「よく分からなかった。もう一度してくれ」
その一言を聞いて、克美は思わず脱力してしまった。
何というかもっと…言うべき事はあるだろうに。友達なのにキスをした…とか。女同士なのにキスをした…とか。むしろ何故自分にそんな事をしたんだ…とか、疑問は山程ある筈だろう? それなのに瀬人子はそれを全部無視をして、よりにもよってもう一度キスをしろと宣うのだ。
無視…というか、その疑問に気付いていないだけなのかもしれないが…。
「………」
克美は少し悩んだ。けれど「もう一度してくれ」と請われて、それを断わる意味も無い事に気付いた。せっかく瀬人子の方からキスを強請っているのだ。本人の許諾があるので、いわばこれは合法的(?)なキスに他ならない。
そう決心してしまえば早いもの。克美は意を決して、自分の指先で瀬人子の細い顎をそっと持ち上げた。そしてもう一度唇を合わせる。
ただ唇を押し付けるだけのキス。それでもすぐに離すのは酷く惜しくて、何度も何度も柔らかい唇を吸い上げるように啄んだ。その度にチュッチュッと軽い音が鳴り響く。
「………ふぅっ…」
ふと、瀬人子が小さく溜息を漏らす。仄かな林檎の香りと共に、暖かな瀬人子の吐息が克美の唇に触れた。その感触に心臓がドクドクと高鳴って、これ以上は危険だという信号が見える。克美は慌てて瀬人子から離れて、代わりに瀬人子の唇に付いたままだった余分なクリームを親指の腹で拭い取ってやった。
「えーと…どうだった?」
「………何が?」
「これがキス…なんだけど」
「あぁ」
「嫌じゃ無かった?」
「何がだ?」
唇を離して、お互いに見つめ合って、克美は恐る恐る瀬人子にキスの感想を訊いてみる。だが返って来た答えは、見当違いの物ばかりだった。疑問に疑問を返すんじゃねぇよ…とか思ったが、それを表に出すのは止めておく。少なくても、瀬人子が今のキスを嫌がっている訳では無いという事だけは分かったからだ。
「嫌じゃなかったんなら、別にいいよ」
克美はそう言って、今度こそ寝てしまおうと布団に深く潜り込んだ。これ以上何かを尋ねても意味は無いし、何しろボロが出そうで怖かったからだ。
瀬人子に背中を向けて、薄暗い布団の中で気付かれぬように自身の唇をそっと何度もなぞる。もう…これだけで充分だと思った。戯れとは言え、瀬人子とキスが出来ただけで心から幸せだと思った。だからこれ以上は望まない…望めないと、望んだからきっと罰が当たると思って諦めてしまっていた。
だから克美は気付けなかった。
瀬人子が本当に望んでいたキスはただのキスでは無く、『セックス特集号』の記事にあった…ディープキスだと言う事に。
日光に行って来た二礼です、こんばんは。
日光と来れば小学生の修学旅行地!!
そうです。この私も、小学校六年生以来実に○○年ぶりに日光に行って参りました~!
近場でゆっくり温泉に浸かって…という目的で選んだ場所だったのですが、まさに期待以上の満足度でした!
久しぶりに行きましたけど、本当に綺麗な場所でしたよ。
うん、行って良かった~!!
温泉にも何度も浸かって、凄くゆったり出来ましたしね(´∀`)
紅葉も綺麗でしたし、大満足です!!
ただちょっと…寒かったかなぁ~?w
いや、日光が悪い訳では無い。
山の空気の冷たさを甘く見ていた私がいけないんです…w
平地の秋用の服装で行ったら、そりゃー山ん中は寒いでしょう…。
しかも栃木県は北関東。更に日光は栃木県の中でも北の方。山一つ越えれば福島県。つまり…東北だw
そんな状態で、しっかりと防寒具を着て来なかった私がいけないのです!!
スンマセンでした…マジスンマセンでした…!! 完全に甘く見てました…!!(><)
風邪を引かなかったのが幸いでした…w
温泉で良く温まったのが良かったんだな、うん!!
最後にちょっと日光で撮ってきた写真を披露します。
カメラマンは私ではありませんが…w
紅葉が美しかったです~!↓
東照宮の陽明門です。↓
湯葉定食です! 美味しかった~(´¬`)↓
今回のお宿は、ホテルの離れ(コテージ)でした。
朝、そのコテージの窓から写した一枚です。目の前が鬼怒川で、川の音が気持ち良かったです。↓
戦場ヶ原です。
この何も無い広々とした美しさが素晴らしいです…!!↓
竜頭の滝~! 美しい滝ですよね~!↓
中禅寺湖!
ただ湖を写したのでは、どこの湖か分からないんでしょうね…w 看板が可愛かったですw↓
そして華厳の滝…!!
この水量…素晴らしい!! まさに圧巻です!!↓
結果として、とても楽しい旅行でした~!
やっぱ温泉はいいですよね~(´∀`)
新シリーズとして『光と闇の狭間でシリーズ』を始めました。んでもって、Episode1をUPしました。
このシリーズでは、城之内君が極度の弱視となっております。
病気ネタや怪我ネタが苦手な方はご注意下さい。
というか、余り御覧にならない方が良いかもしれません。
最初は短編で…と思っていたのですが、個人的にこの続きも書いていきたいと思いましたので、誠に勝手ながらシリーズ物にさせて頂きました。
いつもの元気一杯の城之内君やツンデレな海馬君も良いのですが、たまにはちょっと違う関係性の城海も良いんじゃないかなぁ~なんて思って始めた次第でございます。
シリーズ物なので、そんなに高い頻度では更新しませんが、気に入って下さる方がいればいいなぁ~と思って頑張って書いて行こうと思っています(*'-')
その事故は、余りに突然の出来事だった。
オレが居眠り運転のトラックとぶつかったのは、早朝の新聞配達の時だった。一応自分が担当している家の分は全部配り終わって、後は自転車を漕いで販売所に帰るだけだったんだけどな。急に横道から猛スピードのトラックが出て来て、オレはそれを避けきれなかった。
自転車ごとぽーんと簡単に撥ね飛ばされて、地面に投げ出された。目に入ってきた朝焼けの空が、凄く綺麗だった事だけ覚えている。
そこから先は記憶が無いけど、どうやらオレはアスファルトに投げ出されて頭を強く打ったらしい。意識を取り戻した時は既に病院で、事故の連絡を聞いてすぐに駆け付けて、ずっと付き添ってくれてた静香から「お兄ちゃんは半月も意識不明だったのよ」と泣いて教えられた。
静香が泣いてたってのは、直接オレがその涙を見たからじゃない。可愛い声が涙声になってたのと、鼻を啜る音からそう判断しただけだ。
………というのも、その時のオレの目にはしっかりと包帯が巻かれていて、何も見る事が出来無かったからだ。
医者の話によると、アスファルトに投げ出された時の頭の打ち所が悪かったらしい。視神経に直結しているところに血栓が出来て、その所為で視力が失われたと教えられた。ただ視神経が直接ぶった切られた訳じゃ無いので、手術をすればある程度の視力は回復するらしい。ただし一気に手術する事は出来無いので、何年か掛けて少しずつ何回もしないと駄目だという話を聞かされた。元の視力に戻る事は出来無いけど、最終的には厚めのレンズの眼鏡を掛ければ常人と変わらない生活が出来ると、医者は自信を持って言っていた。
勿論、その状態になるのはすぐじゃない。何回か手術しないといけないのは分かっているから、多分数年後の話だろう。当たり前のようだけど、その数年の間もオレは生きて行かなくちゃいけない訳で、取り敢えず目が見えない状態でのリハビリをする事になった。
怪我が治るまではベッドの上で点字の勉強をし、歩けるようになってからは病院の廊下や階段を白状を使って一人で歩く練習をした。そうやって必死に頑張っているオレを見る度に、静香は「お兄ちゃんは強いんだね」と感動してくれていた。
静香も同じような苦しみを体験した事がある。事故で怪我したオレとは違って、静香の場合は病気だったけど。でもきっと、感じている苦しみは今のオレと全く同じだった筈だ。だからこそ「強いんだね」と称賛してくれるんだろう。
確かにオレは、妹に比べれば精神的に強く出来ているんだと思う。でも、自分の視力を失われた事実に対して、全くショックを受けなかった訳じゃ無い。ショックはショックだった。だけど…生きて行く事を諦めたく無かった。ただそれだけだった。
頭を打って目を悪くした事は、もう仕方が無い。どんなに悔やんだって時間は戻らないんだから。
幸い、オレを撥ね飛ばしたトラックの運転手さんは凄くいい人だった。若い兄ちゃんだったんだけど、連日の辛い業務で疲れが溜まって、ついに居眠り運転をしてしまったんだそうだ。オレがその場に居合わせた事は、本当に不幸な出来事だったと思っている。
運転手の兄ちゃんは誠心誠意謝ってくれて、治療費や入院費などを全額負担してくれる事になった。ちなみにオレもちゃんと生命保険に入っていたから、運転手の兄ちゃんが破産するような事にはならなかったけどな。
このいい兄ちゃんがウチみたいな借金塗れになったらどうしようと、かなり心配した事は秘密だ。
こうしてオレは、暫く病院で生活をする事になった。そして大分体力を戻した一ヶ月後、一回目の視力回復の為の手術が行なわれる事になった。
手術は無事成功して、オレは光を取り戻した。言葉通り本当に光を取り戻しただけだったけど、オレは本気で嬉しかった。真っ暗な闇の中から光が戻った嬉しさは、同じ経験をした奴じゃないと分からないと思う。
この手術によって、オレは光と影の区別が出来るようになった。人や物の形もボンヤリと分かるし、着ている服の色なんかも判別出来る。ただ、人の顔の判別だけは出来無い。顔がどこら辺にあるのかって事は分かっても、目や鼻や口が何処にくっ付いているのかって事は見えないから全く分からない。分かりやすく言えば、ただののっぺらぼう状態だって事だ。
今の視力で誰かの顔をしっかり見ようと思ったら、それこそ鼻先がくっ付くまで近付いて見ないと分からないと思う。そんな事は勿論しないけど、ていうかしたくないけどな。静香ならまだしも、男の医者とそんなに顔を近付けたくは無い。
そこまで考えて、オレは鼻先がくっ付くくらいにまで顔を近付けても、しっかりと顔を見たい奴がいるという事を思い出した。
オレがソイツに…海馬に告白したのは、オレが事故に遭う一月程前の事だ。
放課後の学校の屋上で、たまたま補習に来ていた海馬を連れ出して「好きだ」と告白した。海馬は…ただ目を丸くして驚いているだけで、何も反応して来なかった。
『海馬…オレ、お前の事が好きだ。ずっとずっと好きだったんだ』
『………』
『オレ、お前の笑顔が見たいんだよ。オレにだけ向けられる、優しい笑顔が見てみたい』
『………。城之内…オレは…』
『海馬?』
『オレには…よく分からない。余りに急過ぎて…』
『うん。驚いて何も出て来ないってのは分かってる。でもいつか…返事が欲しい。イエスでもノーでも何でも』
『少し…時間を貰ってもいいか…?』
『うん、いいよ。ゆっくり考えて答えを出してよ。オレ待ってるからさ』
屋上の風に栗色の髪を揺らしながら、海馬は澄んだ青い瞳で真っ直ぐにオレの事を見ていた。そして一つだけ、コクリと頷いて答えた。背後に広がる真っ青な空と相まって、その姿がとても美しかった事を覚えている。
海馬とそういう会話をしたのが、つい昨日の事のように思えた。実際はもう二ヶ月以上経っているけどな。事故に遭ってからは学校にも行ってないし、勿論海馬が他の友達のように見舞いに来てくれる筈が無い。オレは海馬の事を鮮明に覚えているけど、海馬はもうオレの告白の事なんて忘れている可能性が高かった。
でも、オレはそれでも構わなかった。勇気を持ってあの海馬に自分の気持ちを伝えられた事…それだけでもう充分だった。それに多分、オレの見たい物は暫く見られないだろう。一生は無いかもしれないけど、少なくても後数年は無理だ。
いや、数年なんてものじゃない。きっと…多分…一生見られない。だってオレが見たいのは、オレにだけに向けられる海馬の優しい笑顔なんだから。それは海馬がオレの想いを受け止めてくれないと絶対無理な話なんだ。
だからいい加減この恋を諦めないとな…。と、そんな事を思いながら、オレは今日も自主的にリハビリに励んでいた。
オレが入院しているこの病院には、本館と別館がある。その二つの建物を結ぶ為の渡り廊下が、何本か繋げてあった。本館と別館が建てられている土地の都合上、実は別館の方が若干低い構造になっている。なのでその渡り廊下には、別館側の方に五~六段くらいの階段が付いていた。この五~六段の階段が、オレに取っては段差の練習をするのに最適の場所となっていた。
普通の階段だと失敗した時が怖い。下まで一気に転げ落ちるからだ。でもこのくらいの階段だったら、例え足を踏み外しても怖く無い。大した怪我にはならないし、運が悪くてもちょっと足首を捻るくらいのもんだ。それに渡り廊下はとても明るい。一面がガラス窓になっている為、弱視になったオレにも光と影が織りなす陰影がよく見えて安心出来た。更に色んな先生や看護師さんがよく利用する場所である為、万が一オレが倒れてても、すぐに見付けて貰えるだろうという利点がある。そういう理由で、オレはこの渡り廊下を練習場としてよく使っていた。
今日もそのつもりで、この渡り廊下に来ていた。数段先の階段に、白状の先を当てて段差を確かめる。そこに階段がある事を確認してから、杖の先が当たっている段差の上に足を載せる。これで漸く一歩上がった事になるんだ。
慣れればもっと早く上れるんだろうけど、今のオレはまだおっかなびっくりだから、ゆっくりとしか出来無い。でもどんなに怖がってても、退院したら何でも一人でやらないといけなくなる。諦める訳にはいかなかった。それに完全に盲目になった訳じゃ無いから、慣れてしまえばどうって事無いだろう。
杖の先を階段に沿わせて、もう一段上がる。上手くいったからもう一段。最後まで上がったら、今度は下りの練習だ。そう思ってふと前を見たら、渡り廊下の向こうから人が一人歩いて来るのが見えた。
渡り廊下の窓と見比べると、大分背が高い。上下に白い服を着ている。一瞬白衣かと思ったけど、歩いているのに裾がひらめいていないから、丈が短い服だ。多分医者じゃなくて男の看護師なんだろう。
どんどんこっちに歩いて来るその人を邪魔しないように、端の方に寄って今度は階段を下る為に振り返ろうとする。そしたら予想外の段差に足を取られて、身体がぐらりと蹌踉めいた。
うわっ! しまった! もう一段あった!!
そう思っても時既に遅く、オレの身体は完全にバランスを失っていた。そのまま背後に倒れ込むのを覚悟して、せめて頭だけは…と受け身の体勢を取ろうとする。すると突然、腕を強く掴まれて身体が引き戻された。驚いて視線を戻せば、さっきの看護師が目の前にいた。オレが倒れそうなのに気付いて助けてくれたんだと気付く。
「あ、ありがとうございます…。助かりました」
ニッコリ笑ってそう言っても、看護師は何も言わない。ただ、オレの腕を掴んでいる手がブルブルと細かく震えていた。
余りにも強く掴まれている為に腕が痛くて、流石に訝しく思ったオレは目の前の人物をマジマジと見詰めてみた。だけどどんなに頑張って見詰めても、その人の顔はのっぺらぼうだ。ただ、渡り廊下の窓から差込む陽の光に透ける栗色の髪がとても綺麗だった。
瞬間…オレの鼻孔が何かを捉える。フワリとした…とても良い香り。オレはこの香りをよく知っていた。だってそれは、オレが一番好きな人が身に着けている香りだったから。
まさか…っ! と思った。だってまさか、アイツがこんなところに来る筈が無い。だってだって、こんな病院になんて何の用事も無い筈だろう? だけど…でも…っ!!
「海…馬…? まさか…海馬なのか…!?」
「城之内…っ」
オレの名を呼ぶソイツの…海馬の声は、動揺してとても震えていた。
実はこの病院の二階には、ちょっとした中庭が作られている。併設している薬局の屋上に作られた中庭で、誰でも自由に利用出来るようになっていた。芝生や樹木や様々な植物が植えられていて、あちらこちらに休憩用のベンチがある。病院関係者や通院している人、外を散歩出来る患者や見舞いに来た家族や友人など、誰でも自由に散策出来るようになっていた。
随分とゆっくり歩いていって、オレは海馬をそこに連れ出した。外の空気に触れられるそこは、オレのお気に入りの場所でもあったから。
中庭に通じるドアのところで、自販機から飲み物を買ってから外に出る事にする。着ていた上着のポケットを探って、オレは財布を忘れて来た事に気付いた。
「あ、ゴメン。財布病室だ」
そう言ったら、海馬がただ一言「いい。オレが買ってやる」と言って何やら胸元を探っていた。
オレが看護師が着ている白衣だと思っていたものは、どうやら上下が白いスーツだったようだ。海馬は胸元から小銭入れを出すと、そこから何枚か小銭を取り出していたようだった。海馬と小銭という組み合わせが似合わなくて、ついプッと吹き出してしまう。
「何だ?」
訝しげに尋ねて来る声に、オレは慌てて「いやいや」と訂正した。
「まさかお前が小銭入れを持っているとは思わなかった。だって基本、カードとかだろ? あと小切手とか…」
「馬鹿にするな。オレだって小銭入れくらいは持っている。特にこういう場所は、まだ電子マネーが行き渡っていないだろう?」
海馬の言い分に、なるほどと感心した。
結局その場は海馬の奢りで、オレはパックジュースのフルーツオレを買って貰った。音で判断するしか無いけど、どうやら海馬は缶珈琲を買ったらしい。そして飲み物を持って、ゆっくりと中庭を進んで行った。
本当は、この機会を逃さずにどさくさに紛れて海馬の腕を掴んでやろうと思っていた。別に何かいやらしい事をしようとしてる訳じゃ無くて、静香とこの中庭に来る時はいつもそうやって腕を貸して貰っているから、それと同じ事をしようとしただけだ。そうすれば何の不自然も無く、コイツに触れる事が出来ると…ただそれだけだった。
だけど、伸ばしかけた手を引っ込めて止めておいた。
海馬がこの病院に…オレに会いに来た理由なんて、たった一つだけだ。それはこの間の告白の返事をする為だ。色良い返事は…はっきり言って期待出来無いだろう。ただでさえ男同士で、更に元々仲が悪くて、オマケに視力を失った男の想いなんて受け入れられる筈が無い。
それに…オレと海馬を結んでいた、M&Wという唯一の共通事項さえオレは諦めなければならなくなったのだから。
視力が格段に落ちた今のオレには、カードに何が書かれているのかが全く分からない。説明文も…大きく描かれている絵柄でさえ判別出来無いんだ。そんな状態でデュエリストを続ける訳にはいかなかった。
だから覚悟しようと思った。どんな言葉で罵られようと拒否されようと、ただじっと我慢して全てを受け入れようと思った。
「ここでいい?」
中庭の丁度日が当たって気持ち良い場所のベンチが、一つだけ空いていた。返事を聞かないでそこに腰掛けると、海馬も黙ってオレの隣に腰を下ろして来た。早速持って来たパックジュースのストローを外して、袋から取り出す。落とさないように気を付けてストローの差し込み口を指先で確かめて、そこにプスッと差込んだ。
その一連の動作を、海馬がじっと見ている気配が伝わってくる。何だか妙に緊張しながら、オレはストローを口に銜えて中のジュースを吸い上げた。
「うん、美味しい。オレ、これ好きなんだ」
「そうか…」
オレが明るくそう言うと、海馬が漸く声を出した。そしてカシュッと音を立ててプルタブを開ける。ふんわりと漂って来た珈琲の香りで、オレは自分の予想が外れてない事を知って何だか嬉しくなった。
「あ、やっぱ缶珈琲だったな」
「何?」
「何買ってるかよく分からなかったんだ。でも多分缶珈琲だろうなって思ってたから、当たってて嬉しかった」
「………」
オレの言葉に海馬が黙り込む。顔の表情はのっぺらぼう状態で見えないから雰囲気で予測するしか無いけど、どうやら随分と困惑しているらしい。オレは暗くならないように、なるべく明るい声で口を開いた。
「今日はどうした? この病院に何か用事でもあったのか?」
「………用事があるから来たのだろうが」
「まさかオレの見舞いに来てくれたとか…そういう事?」
「そうだ」
そうだ、とはっきり言われてちょっと驚いた。まさか本当にオレの見舞いに来てくれたとはな…。
「オレの事故の事…どうやって知ったの?」
「新聞にしっかり出ていたぞ。後は遊戯からだな」
「そっか」
「モクバも今度見舞いに来ると言っていたぞ」
「それは嬉しいな。待ってるからって伝えてくれよ」
「あぁ」
海馬は何だか言葉を選んで喋っている。目が役に立たなくなった分、何故だかそういう事がよく分かるようになっていた。人の心の動きとか雰囲気とかが、凄く敏感に伝わってくるんだ。
待ってたらいつまで経っても話が進まなさそうなので、ちょっとオレから切り出して見る。
「なぁ、海馬。オレの怪我の事…どこまで聞いてる?」
「っ………」
オレの質問に海馬が一瞬言葉に詰まる。だけど次の瞬間には、いつも通りの声で答えていた。
「ある程度は…。頭を打って、視力を無くしたらしいな」
「うん。幸い全盲状態にはならなかったし、この後何回か手術すればそれなりに視力を取り戻す事が可能みたいだ」
「そうか」
「ただ今はまだちょっと…見えない感じかな。光と影の区別は出来るけど、人とか物とか…微妙だし。特に人の場合、顔の表情が全く見えないからなぁ…」
「全く…?」
「そう、全く。今の海馬ものっぺらぼう状態だぜ?」
「こんなに近くにいるのにか…?」
「うん」
素直に頷くと、海馬はまた黙ってしまった。
何だろう…。何だかとてもショックを受けているようだ。本当にオレを振るつもりなら、興味も何も無い男の視力の事でこんなにショックを受ける筈は無い。だけど、海馬の気持ちの動揺は、そんな簡単な物じゃ無かった。隣にいるオレには痛い程伝わってくる。
「あのさ、海馬」
「………何だ」
「お前もしかしてさぁ…。この間の告白の返事をしに来てくれたんじゃねぇの?」
オレの問い掛けに海馬は何も言わない。だけどふと、空気が動いたのが伝わって来た。
間違い無い。今の空気の動きは、海馬が頷いたから感じられたんだ。
「断わってもいいよ。オレは覚悟してる」
「………」
「何も言わなくていいよ。だけど一つだけお願いがある」
「何だ…?」
「お前の顔をよく見せてくれ。お前の顔の表情で…その返事が知りたい」
そう言って、オレはそっと自分の掌を海馬の頬に当ててみた。その途端、海馬はビクリと身体を跳ねさせて反応したけど、それでもオレの手が振り払われる事は無かった。
「オレの告白を受け入れられないんなら…いつもの仏頂面のままでいてくれよ。その代わり…オレの気持ちを受け取ってもいいと思ったのなら…笑ってくれ」
「笑う…?」
「そう。オレ、あの時言ったじゃん? お前の笑顔が見たいって。オレにだけ向けられる…優しい笑顔が見たいんだって」
「………っ!」
「だから、もしOKなら笑ってくれ。きっと…オレにも見えるから」
上手く笑えたかどうかは分からないけど、オレはなるべく穏やかに微笑みながらそんな事を言った。そしてもう片方の手も海馬の頬に当てて、そっとその顔の造形を辿ってみる。
さらさらの前髪を掻き上げて、滑らかな額を撫でる。そして指先で眉を辿って見た。あれ…? いつもキリリと眉尻が上がっているそれが、何故か下がっているように思えた。それから鼻…。真っ直ぐに綺麗な形の鼻は、いつもと変わらないように思える。そして唇…。柔らかな唇をすっと辿ると、その両脇がくっと上がっている事に気付いた。
あれ…? あれ…? これってもしかして…っ!
信じられなくて、もう一度よく触ってみる。でも、何度触ってもその表情は変わらなかった。
あぁ…見える。ちゃんと見えるよ…。海馬…お前が微笑んでいるのが見える…!!
「海馬…オレ、ちゃんと見えてるよ…!」
「っ………!」
「うん、見える。お前が優しく微笑んでくれてるのがよく見えるよ…! ありがとう…海馬…っ!」
「っ…ぅう…! じ…城之…内…っ!!」
海馬の頬を包んでいたオレの指先が、何か生温い水分で濡れていく。それが海馬の涙だという事に、気付かない筈は無かった。
偶然にも、今中庭には自分達の他に人の気配は感じられなかった。ちょっと風が冷たくなって来たから、皆温かい院内に引き返してしまったらしい。だからこれはチャンスなんだと思って、オレはそっと海馬の顔を引き寄せて涙に濡れる頬に唇を押し付けた。塩辛い涙をペロリと舐め取って、今度は逆側の頬へ。同じように涙を舐め取って、未だ涙ぐんでいる瞳にもキスを落として睫を舐める。
「じ、城之内…っ!」
海馬が狼狽したような声を出したけど、それは無視する事にした。塩辛い涙を飲み込んで、そのまま唇を下げていく。親指の指先でもう一度弾力のある柔らかくて薄い唇を確かめて、その指先を辿るように海馬の唇にキスをした。ちゅっ…と軽い音が鳴るだけのキスを、二度三度と繰り返してゆっくりと顔を離す。
でも、完全には離さない。鼻先がくっ付くくらいの距離で、じっと海馬の顔を見詰める。相変わらず顔はハッキリとは見えなかったけど、綺麗な青い瞳だけはオレの目にしっかりと映っていた。
「オレ…こんくらいの距離じゃないと、お前の綺麗な青い目も見られないんだ」
「………っ」
「それでもいい? こんなオレでもいいの?」
「あぁ、いい」
「これからも、何度も手術しなくちゃいけないんだぜ」
「だが手術をすれば、視力はある程度は元に戻るのだろう?」
「まぁね。でも失敗すれば…全てがおじゃんだ。今度こそ本当に全盲になる。それでも…」
「構わん!」
「海馬…?」
「城之内。オレはお前という人間を愛したんだ。目が見えるとか見えないとか、そんな事は何も関係が無い!!」
強い強い言葉だった。海馬の覚悟がそこにあった。それを何よりもオレが一番強く感じていた。
「うん、分かった。ありがとう…っ!!」
嬉しくて嬉しくて、ただただ感動して、オレは細い海馬の身体をギュッと強く抱き締めた。服越しにコイツの体温がじんわりと伝わって来て、それが何より愛しいと感じていた…。
視力を失った時、実は物凄くショックで絶望した。それでも生きる事を諦めたく無くて、何とか前向きになろうと努力していた。
でも、そんなオレが本当の意味で希望を見出したのは、海馬と想いが通じたこの時だったのかもしれない。
海馬は今、オレの隣にいる。必死にリハビリをするオレを、黙って暖かく見守ってくれている。だからオレは今日も海馬の腕を掴んで、あの中庭に行くんだ。
パックジュースと缶珈琲を買って、ベンチで二人並んで座って愛を語り合う為に…。
『光と闇の狭間で』シリーズにようこそいらっしゃいました~!
このシリーズは、事故で極度の弱視になってしまった城之内君と、そしてそんな彼の告白を受け入れて恋人になった海馬君の物語です。
視力を失っても強く生きようとする城之内君と、そんな彼に引かれている海馬を、どうぞ見守って下さいませ。
ちなみに、基本的に城之内君の一人称になります。
上記の説明からも分かる通り、このシリーズでは城之内君が視力を失っています。
全盲ではありませんが極度の弱視となって、障害者として暮らす事になります。
勿論、デュエリストも引退しています。
こんな肉体的に弱くなった城之内君が苦手な方、純粋に病気ネタや怪我ネタが苦手な方、献身的な(笑)海馬が苦手な方は、どうぞそのままブラウザバックして下さいませ…w
それでも「大丈夫だよ!」という方や「むしろ読みたい!」という方だけ、次の『仄かな光の中へ…』からどうぞお進み下さいませ~!!
旅行を控えている二礼です、こんばんは。
相棒が漸く季節外れの夏休みを貰える事になったそうです。
という訳で、11/4(木)~11/5(金)の予定で日光に旅行に行って来ようかと思っています。
夏休みの予定が突然決まったので(二週間くらい前w)ちゃんとした予定が立てられなかったので、近場でありながら普段余り行かないところに行く事にしたんですよ。
そんで「どうすっかな~」と二人で悩んでいたのですが、ふと…小学校六年生の修学旅行以来一度も足を運んでいない日光を思い出したので、んじゃまー行ってみるかって事になった訳です。
ちなみに北海道の函館出身の相棒は、勿論の事日光は初めてです…w
関東に住んでいるならば、江戸幕府を開いた徳川家康公の眠る日光東照宮に一度はお参りに行かないとね~!
………でも私、実はあの狸親父があまり好きじゃ無いんだ…(オイッ!!w)
戦国武将なら、伊達政宗・上杉謙信・真田幸村・石田三成…とあの辺が好きな私にとって、実際に天下を取った武将はどうでも良いんですよね~。豊臣秀吉然り。
あ、でも信長公は好きかもw
話が逸れましたが、そういう訳で今週は週末までお休みさせて下さいませ~!
あと『長編終わって気が抜けた』状態からまだ脱していませんので、本日はSSの更新で申し訳ありません。
短編の配分が分からなくなるのは駄目だな…w
何とかしないと!!
『子連れ城海シリーズ』のSS集に『秘密のお顔』をUPしました。
久しぶりに子連れ城海の更新です。
主人公は、城之内の娘の瀬衣名ちゃんですが…w
オリジナルキャラを出しまくっている本シリーズですが、何気に評判が良いのでついつい続きを書いてしまいます…(´∀`;
勿論賛否両論ございましょうが、それでもこのシリーズを応援してくれる方がいるという揺るぎない事実が心強く感じられてなりません。
読んで下さって、本当にありがとうございます!!
これからもチマチマ書いていきたいと思いますので、気が向いた時にでも目を通して下さると幸いですv
以下は拍手のお返事でございまする~!(´ω`)
>狭霧様
こんばんは~! お久しぶりでございます!
拍手とコメント、どうもありがとうございました~!(*'-')
誤字指摘ありがとうございます…w しかも二カ所も!!
本人全く気付いておりませんでした…。何度も見直した筈なんですけどねぇ…? おかしい…。どこに隠れていやがったのか!
言われなければそのまま放置するところでした。お陰で直す事が出来ました。指摘感謝致します~!
長編『あの夏の日の君へ』を最後まで読んで下さって、本当にありがとうございます~!(*´д`*)
狭霧様の燃えポイント&キュンキュンポイントは、間違っていないと思いますw
私もあの二つのシーンはそれなりに意識して書いていたので、狭霧様のコメントを読んで大変嬉しく思いました。
というより、コメントを読んだ私がキュンキュンしましたw
………傍目から見ればニヤニヤしていたんでしょうけどね…w
何はともあれ、長い間お付き合い下さり本当にありがとうございますです~!!
私も城海を見守る誰か(モクバでも磯野さんでもメイドさんでも静香ちゃんでも表君でも)になって、二人がずっと幸せに暮らしていけるように手助けしてみたいと思っていますw
城海の縁の下の力持ちになりたい…!!
それが私のジャスティス!!
今二礼は長編が終わってちょっと気が抜けた状態なのですが、溜めてあったネタを整理しつつ更新していきたいと思っています。
これからも頑張って幸せな城海目指して書き続けますので、どうぞ宜しくお願い致します!!
それではこれで失礼致します。
ではまた~(・∀・)ノシ
私は海馬のおじさまの、誰も知らない秘密のお顔を知っている。若い頃から両思いで、一旦別れたけど今も現役で恋人をやっているパパだって知らないお顔。私だって見たのは八年前のあの一回きりという、非常に貴重な表情を…。
小さい頃の私は、常にパパにベッタリだった。
早くに病気で母を亡くした私にとって、パパだけが唯一の肉親だった。パパもそれを不憫に思っていたらしく、私に対してはまさに目に入れても痛くないと言うような可愛がりようだった。
勿論何か悪戯をしたり悪い事をした時には、しっかり説教されたしお尻もよく叩かれたから、必要以上に甘やかしてたって訳じゃ無いと思う。だけど、それを抜かして考えてもパパは私にすっごく優しかった。
私が行きたいと言うところにはどこにだって連れて行ってくれた。海にも山にも、動物園にも水族館にも植物園にも、遊園地にもデパートにも映画にも、色んな遊具があったり動物と触れ合えるような大きな公園にも…とにかくどこにでも連れて行ってくれた。日曜日はパパの手作りのお弁当を持って、朝から車でドライブして出掛けるのが幼い私には本当に嬉しくて…楽しい思い出だった。
でもそんなパパが、たった一つだけ連れて行ってくれない場所があった。どんなに私がお願いしても、パパが決して首を縦に振らない場所。
それが…海馬ランドだった。
私はとにかく海馬ランドに行きたくて堪らなかった。周りの友達は皆パパやママに海馬ランドに連れて行って貰っていたし、そこがどんなに素晴らしい遊園地で、どんだけ楽しかったのかという事を、学校で詳しく私に話して聞かせるのだ。そして、皆口を揃えて私にこう言うのだ。
「瀬衣名ちゃんも、お父さんに連れて行って貰えば?」
と………。
今の私なら、パパがどんな気持ちで「駄目だ」と言っていたのかよく分かる。そんな辛い思い出がある場所なら、いくら愛娘の頼みでも安易に連れて行ったりなんて出来る訳が無い。でも当時の私はまだ小さくて、そんなパパの気持ちを分かって上げられる事が出来無かった。
私はとにかく海馬ランドに行きたかった。友達が羨ましくて羨ましくて仕方が無くて、何とか連れて言って貰おうとしょっちゅうパパに「海馬ランドに連れて行って欲しい」とお願いしていた。でもパパはやっぱり首を横に振るだけ。流石の私もそんなパパの態度に我慢の限界が来た。憤慨して、準備をして一人で海馬ランドに行こうとして家出をしたのは…九歳の時だった。
警備の人の目を盗んで入り込んだ海馬ランドは、それはそれは素晴らしくも美しい夢の世界だった。私はそこで、たまたま海馬ランドの視察に来ていた克人と出会う事になる。彼は視察がつまらなくて、父親と警備の人の隙を見て逃げ出していたのだ。
同年代だった私達は凄く気が合って、その後は海馬ランドの閉園間近まで手に手を取ってランド内の逃避行を続ける事になった。喉が渇いたりお腹が空いたりした時は、克人の顔パスでお店の商品を買い、何でも飲んだり食べたりする事が出来た。ただそれをするとすぐに位置情報が分かってしまう為、私達はその度に走って逃げる羽目になった。何だか大人達を手玉に取った気分になって、凄く楽しかった事をよく覚えている。
でもそんな逃避行も永遠には続かなかった。閉園まであと一時間と迫った頃、私達はついに捉えられてしまったのだ。
黒服姿の警備の人達に捕まった私達は、そのまま海馬ランドのゲート近くまで連れて来られる事になった。そこに待っていたのは、白いスーツを着た長身の男の人だった。夜のライトアップに照らし出されるその美しい人を、半ば呆然とした気持ちで見ていた事を覚えている。
その男の人はツカツカとこっちに近寄って来て、まず克人に「こら。どこをほっつき歩いていた」と厳しい口調で問い詰めた。それに対して克人は「ごめんなさい…」と小さな声で謝って、俯いてしまう。私は克人がとても可哀想になった。
「かつと君は悪く無いです。私が海馬ランドで遊びたいって言ったから、一緒に遊んで貰っていただけです」
ギュッ…と克人の手を強く握り締めながら、私はその男の人を見上げてハッキリと口にした。そしてその男の人が克人から私へと視線を移して…綺麗に澄んだ青い瞳を目一杯開いて固まったのを見てしまった。
その男の人の背後では、閉園間近に打ち上げられる花火ショーが繰り広げられていた。赤や青や緑や黄色やオレンジや…とにかく色んな色の花火が夜空に咲き乱れ、男の人がキッチリと着込んでいる白いスーツに様々な色を映し出している。私はそれがとても綺麗だなと思っていた。
「名前は?」
ふと…その男の人が目の前に屈み込んで、至極優しい声で私に尋ねかけて来た。さっき克人を責めていた声とは、全く違う声だったので、私はその声にすっかり安心して自分の名前を口にする事にした。
「せいな…」
「名字は? 上の名前は言えるか?」
「えーと…その…。じょうのうち…です」
「………っ!?」
その途端、その男の人の表情がガラリと変わった。
何と言えばいいのか分からないけれど、まるで遠い昔に無くしてしまった大事な宝物をふとした拍子に見付けたような…そんな顔をしていたのだ。眉尻を下げて、まるで泣き出す寸前のように唇を歪ませている。
だけどその人は…海馬のおじさまは決して泣かなかった。下唇をキュッと強く噛み締めて、ただ一言「そうか」と微笑んで答えただけだった。
私が見た海馬のおじさまのそんなお顔は、それきり誰にも見られる事は無かった。あの時側にいた克人でさえ「影になっててそんな顔は見えなかった」と言っていたので、あれは私だけが見られる事の出来た奇跡だったんだなって思ってる。
あれ以来、海馬のおじさまはあんな顔をする事は無い。でも多分、する必要も無いんだと思う。だって海馬のおじさまの宝物は、もう既にいつだって側にいるんだから…。
「じゃあ瀬衣名、行って来るからな。戸締まりはしっかりしろよ」
「分かってるって。夕方には克人が泊まりに来てくれるから大丈夫だよ」
「寝る前にはガスの元栓をちゃんと確認して…」
「大丈夫だってば! もう…パパったら! 一体私がいくつになったと思ってるの? そんな事心配してないで、海馬のおじさまとのデートを楽しんで来てよね!」
お互いの仕事が忙しかった為に、少し遅れて祝う事になった海馬のおじさまの御誕生日。身支度を整えて玄関で革靴を履くパパを、迎えに来た海馬のおじさまがマンションの廊下で、優しい微笑みを浮かべながら待っている。
「悪いな、瀬衣名ちゃん。城之内を一日借りるぞ」
ドアの外まで二人を送り出した私に、海馬のおじさまが微笑んだままそんな風に話しかけて来た。それに私は笑顔で「気にしないで! ごゆっくりどうぞ」と答える。海馬のおじさまは私の応えに満足そうに笑みを浮かべて、やがてパパと肩を並べて出掛けていった。
海馬のおじさまがあんな顔をするのは、きっと後にも先にもあの時一度きりなんだろうなって思う。だから私は、あの時の思い出を胸の内の一番大切なところに仕舞い込んで一生大事にしようと思った。
あの美しくて格好良い人が、世界で一番大事な宝物を再び見付けたあの瞬間に立ち会えた幸せを噛み締めながら…。