*素質シリーズ - ページをめくる - *素質Ⅵ(後編)

 風呂場で二人とも裸になり、よく泡立てたボディソープでお互いに素手で身体を洗い合っていた。
 城之内は酷く機嫌が良く、一向にオレに『お仕置き』する気配が無い。訝しげに思いつつも身体に纏わり付いた泡を落とす為にシャワーを浴びようとした時だった。「ストップ!」という城之内の声がかかり、オレは腕を掴まれて動きを阻害されてしまう。
 何だと思い城之内の顔を見詰めると、彼は至極嬉しそうな顔をして何かを取り出した。

「はい、コレは何でしょうか?」
「何って…、安全剃刀だろう?」

 城之内が持っていたT字型の剃刀を見て、オレは別に何を思う事無く正解を導き出した。その応えに満足したのか、城之内がニヤリと笑って口を開く。

「正解。んじゃ、こっからお仕置きタイムね」
「は…? 一体何をするつもりだ?」
「剃刀使うっていったら、用途は一つしか無いじゃねーか。それじゃぁ綺麗に剃り剃りしましょうねー?」
「剃り…? …っ!? き、貴様…まさか…っ!」
「はい、そのまさかです。オレ一度剃毛プレイってやってみたかったんだよなー!」

 嬉々としてオレの足の間に身体を割り込ませ両膝を開こうとしてくる城之内に、オレは足に力を入れて抵抗する。別にオレはドMだから何をされようが構わないが、それだけはどうしても嫌だった。
 一過性のプレイと違って、剃毛プレイは文字通り毛を剃ってしまうプレイなので、プレイが終わってもその痕跡は確実に身体に残ってしまう。トイレに行く度、そして風呂に入る度に嫌でも目に入ってくるその惨状に、何日もその時の事を思い出させられてしまうのだ。想像しただけでも恥ずかしくて仕方が無い。

「い…嫌だ…っ! それだけは…っ!」
「嫌だからお仕置きになるんでしょ。はい、我が儘言わないでちゃんと足開いて。あ、もっとソープ付けた方がいい?」

 そう言うと城之内はボディソープのボトルを何回かプッシュし、出て来たソープを泡立てる事無くそのままオレの陰部に撫で付けた。ぬるりと滑る感触で、背筋にゾワリと快感が走る。

「んっ…!」
「あ、感じちゃった? でも勃ってる方が安全でいいかも。そのまま大人しくしてな」

 風呂場の床に直に座らされ大股を開いた状態で、オレは自分の足の間で城之内が安全剃刀のカバーを外すのを黙って見ていた。城之内はまるで鼻歌でも歌い出しそうな雰囲気で、至極楽しそうに剃刀をオレに近付ける。刃を剥き出しにした剃刀がオレの陰部に近付いて来るのを見て、オレはフルフルと首を横に振った。

「やっ…! 嫌だ…城之内…っ!」
「ダーメ。じっとしてて。大事なとこ切っても知らないよ?」
「ひっ…!!」
「大丈夫、切らないから。だからちゃんと大人しくしてるんだぜ」

 舌舐めずりをしつつ、城之内がオレの陰部に剃刀の歯を当てた。そしてそのまま下へ滑らせる。たっぷり付けられたボディソープのお陰で痛くは無かったが、くすぐったいような感触が伝わってきてじっとしているのが辛かった。

「ほら、もうちょっと足開いて。奥まで綺麗に剃れないよ」
「………っ!! ふぅ…っ!」
「そうそう。いい子だねー海馬」

 浴室にショリショリという毛を剃る音が響いている。その音が酷く恥ずかしくて、オレは目を強く閉じて顔を背けた。自分の陰部が今どうなっているのか知りたかったが、とてもじゃないがそれを直視出来そうも無いし、確かめたくもない。今は羞恥で身体を震わせながらただ黙って、城之内の作業が終わるのを待っているしか出来なかった。
 どのくらい時間が経ったのだろうか。突然身体に温かいシャワーがかけられて、オレは恐る恐る目を開けた。

「………?」
「ほら、綺麗に剃れたぜ。つるつるして赤ちゃんみたいで、ホントに可愛いなぁ…」
「っ………!!」
「一度ヴァーチャル世界でつるつるのお前見た事あるけど、やっぱりただのデータの世界と実際に目の当たりにするのじゃ、全然違うな。断然こっちの方がいい!」

 城之内は綺麗に剃り上げられたオレの陰部を、指先で撫でるように触ってくる。怖々自分でも確かめてみるが、その余りの淫猥さにクラリと目眩がした。
 綺麗に毛を剃られて隠すものが何も無くなってしまったその場所で、それでも興奮していたオレのペニスは頭を擡げて、先端から先走りの液をダラダラと垂れ流していた。その余りにも恥ずかしい光景に思わず泣きたくなってしまって、顔を歪めてしまう。城之内はそんなオレに優しく微笑みかけると、両手をオレの頬に当てて唇にキスを落としてくれた。

「何でそんな泣きそうな顔してんの?」
「っ…! だ…だって…っ」
「こんなに可愛いのに。大丈夫、泣く事なんて何もない。これから一杯気持ち良くなろうな?」

 そう言って城之内は、顔をずらしてオレの首筋に吸い付いた。皮膚の薄い敏感な場所に感じる唇と舌の感触に、熱い吐息が漏れてしまう。城之内の唇が少しずつ下に降りるにしたがって、オレは浴室の壁にズルリと寄りかかって力を無くしていった。今までの刺激ですっかり固く勃ち上がった乳首に吸い付かれ、ビクリと身体を揺らしてしまう。

「んぁ…っ!! はっ…ぁ…」
「うん、美味い。ずっとこうやってしゃぶりたかったのに、当の海馬がオレを避けてるんだもんなぁ…。オレ、本当に寂しかったんだぜ?」
「あっ…あっ!」
「酷いよなぁ…ホントに。オレをここまで育て上げたのはお前だっていうのにさ。だから今日は手加減してやんねーからな。覚悟しとけよ」

 手加減なんてこの頃は全くしてないじゃないか…。そう思いつつも、城之内の愛撫に喘いでしまうのを止められない。三週間ぶりに直に施されている愛撫は、オレから余裕を完全に奪い去っていた。
 広い浴室の床に這いつくばるように姿勢を下げた城之内は、そのままオレのペニスを掴んで愛おしそうに撫でてくる。その顔は本当に嬉しそうで、城之内が飢えていた事を心底感じさせられた。
 完全に勃ち上がったペニスの根本を指先でくるくると刺激しつつ、城之内は熱い吐息を吐き出した。

「可愛いなぁ…。根本まで丸見えだし。美味そうだから食べちゃおう」
「やっ…! 城之内!」

 慌てて城之内の髪を掴もうとしたのだが完全に力を無くして壁に寄りかかっていた為に、その手が届く前に城之内にペニスを銜えられてしまった。ぬるりとした唾液の感触と熱い口内の熱がオレ自身を包み込んで、背筋が震えるほどの快感が駆け抜ける。
 丁寧に根本から舌で嬲られて、先端から滲み出る先走りの液を舌先で拭い取るように舐められた。その度にビリビリとまるで感電したかのような快感が脳天まで突き抜けて、オレはあられもない声を出しながら何度も大きく身震いしてしまう。

「ふぁ…っ。あぅ…んっ。あっ…あぅあっ!」

 城之内の愛撫に全てを任せて喘いでいると、突然後孔に指が一本入れられて、耐え切れずに悲鳴を上げてしまった。城之内の指はオレの体内で至極器用に動き回り、ピンポイントで弱点を突いてくる。三週間ぶりの刺激に身体はあっという間に火が付いて、いつの間にか二本に増やされた指に、オレは悲鳴を上げつつ身悶えるしか出来なかった。

「くぁ…っ! あぁっ!」
「可愛いな…海馬。よく見えるよ…。ホント…すっげーエロい」
「んくっ! はっ…くぅ…っ! あぁ…ぅ…っ!」
「マジですげー…。大事なとこ全部、ビショビショのグッショグショ。オレこんなエロいもの見た事無い。な? そろそろイキたくなってきたんじゃないの?」
「ふぁぅ…っ! もう…っ…やぁ…っ!」
「うん、だよな。じゃ、このままイッちゃおうか?」
「え…? ひぁっ!!」

 オレが驚く暇もなく城之内は更に指を三本に増やし、奥まで指を伸ばして前立腺を直接弄り始めた。途端に身体全体に走る強い快感。背を仰け反らせて身体を痙攣させるが、城之内は決して手を緩めるような事は無かった。そのままオレの前立腺を無遠慮に嬲り続ける。

「あぁっ! いやぁ…っ。あ…あっ…。ぅ…あ…っ!?」

 城之内の指に翻弄されて喘ぎ続ける内に、ふと…今までとは違う何かが身体の奥深くに生まれたのを感じる。その感覚をオレは知っていた。最後に感じたのは三週間前。そしてアレだけ何とかして自分で得ようとしたのに、決して得られなかった…あの…。

「い…いや…だ…っ」

 オレはフルフルと首を横に振った。自分の身体の異変を何とか城之内に知らせて、この愛撫を止めて貰おうと思ったのだ。涙目で城之内を見詰めると、だが奴はオレの顔を見てニヤリと笑うだけだった。
 オレの身体の異変なんて…城之内はとっくに分かっていたのだ。その上でそのまま愛撫を続けている。
 城之内の魂胆が読めてオレは慌てて抵抗を始めたが、だが快感に慣らされた身体には上手く力が入らず、そのまま簡単に押さえ込まれてしまう。

「いや…っ! 嫌だ…っ! 城之内!」
「こら、暴れんなって。大丈夫だから…」
「い…や……嫌だ…っ! アレが来る…っ! アレが…っ! アレは嫌だ…っ!!」
「もう、海馬! 頼むから大人しくしててくれ。悪いようにはしないから」
「嫌だ、嘘吐き! アレは…ツライから…も…う…嫌だぁ…! い…やぁ…っ! っ…! ひぐぅっ!」
「ほら、もうちょっとじゃん。そのまま受け入れて…」
「やっ…、いやぁ…っ! 来る…来る…もう…っ! あっ…! ダ…メェ…ッ!! ダ…くっ…あっ…!」
「ダメじゃないから、もうイッちゃいな?」
「やっ…あぁっ! っ…ふぃっ…!! っは…!! あっ…いっ…やぁ…っ!! もっ…き…きちゃ…っ!」
「海馬…。ほら、イケよ」
「ふぁっ…あっ…あぁぁ――――――――――っ!!」

 襲い来る快感に何とか耐えようとしたが、結局は無駄な努力だった。あっというまに快感に飲み込まれたオレは、そのままドライオーガズムに達してしまう。
 頭の中心にスパークが走り、真っ白に塗り替えられてしまって何も考えられない。感じるのは胸の熱さ、四肢の痺れ、呼吸の出来無い苦しさ、そして決して抗えない強烈な快感。
 自分の身体が激しく痙攣しているのが分かったが、もうどうしようも無かった。自分で自分のコントロールが効かないのだ。もはや自分が快感に喘いでいるのか、それとも苦痛に叫んでいるのかさえ分からない。ただ目の淵から涙がボロボロと零れ落ちていくのだけは、感じる事が出来た。

「じょ…の…う…ちぃ…っ!!」

 何とかして欲しくて。この苦しみから解き放って欲しくて。目の前の愛しい男に震える手を伸ばす。
 すると城之内は突如オレの中から指を引き抜くと、そのまま熱いペニスを後孔に宛がい、そして一気に突き入れてきた。

「ひぎゃぁっ…!!」

 快感の波が続いているその場所への急激な挿入で、オレは二度目の絶頂へと追いやられる。呼吸が出来なくて苦しくて、何とか酸素を取り込もうと口を大きく開いても、そこからは悲鳴が出るだけで息を吸う事が出来ない。頭の血管がドクドクと強く脈打ち、オレはこのまま死んでしまうのかもしれない…と、どこか冷静にそんな事を思ってしまった。
 だが城之内はそんなオレを嬉しそうに見詰めるだけで、行為を止めようとはしない。ただオレが強烈に快感を感じるその場所へ、何度も何度も腰を叩き付けていた。

「最高だ…海馬…っ! 超気持ちいい…っ! ていうか何か凄い声出たなーお前。大丈夫か?」
「ひぎぃっ…! ひぁっ…! あっあっあぁっ!! うあぁぁーっ!!」
「あ、ダメそう」
「も…っ! あぁっ!! た…たすけ…っ!! お…ねが…っ!! お…かし…く…なる…っ!!」
「えー…もう? もうちょっと楽しみなよ。おかしくなってもいいからさ」
「やっ…! いやだぁ…っ!! も…ダメ…っ!! 死ぬ…っ! 死ん…じゃ…う…っ!!」

 目の前の身体に必死に縋り付いて、背中や二の腕に爪を立てて助けを求めた。今オレに出来るのはそれくらいで、それどころか城之内に助けて貰わなければこの責め苦が永遠に続くように感じられてならなかった。
 城之内の身体を力一杯抱き締めて、耳元で「助けて…助けて…」と何度も繰り返す。
 その言葉が届いたのか、漸く城之内の熱を持った掌がオレのペニスを包み込んだ。

「くあぁっ!! あっ…あぁっ…! じょ…のう…ちぃ…!! ぐっ…うあぁぁ――――――――――っ!!」

 二、三度擦られただけで、オレはあっという間に高みに昇ってしまう。再び白く塗り替えられる意識の中で、オレは快感を全て受け入れて城之内の掌に大量の熱を放出した。同時に体内に入っていた熱の塊も強く締め付けて、次の瞬間、身体の奥に熱い液体が放たれるのを感じる。

「ぃあ…っ。うっ…あぁ…。あ…ぁ…っ。はぁ…っ」

 達した余韻で不規則にビクビクと痙攣しながら、それに合わせて体内のモノを締め付ける。掠れた喘ぎが喉から漏れて、風呂場に反響したその声が自分の声なのに妙に艶めかしいと思ってしまった。
 ドライオーガズムを感じていた最中は自分が城之内にしがみ付くので必死で全く気付かなかったが、どうやらいつの間にか城之内もオレの身体を強く抱き込んでいたらしい。背に回った腕がギュウと強く抱き寄せてきて、重なった胸からは互いの心音が激しく鳴り響いているのが確認出来る。はぁっ…と耳元で熱い吐息が吹き込まれた。

「海馬…。お前…すげーな…。最高だった」
「うる…さ…い。嫌だって…言った…の…に…」
「まぁまぁ、そんな事言わないで。コレに慣れたら、きっとコレ無しじゃいられなくなると思うぜ」

 肩を揺らしてクツクツ笑いながら城之内が面白そうに言った。薄れゆく意識の中でそんな事を聞きながら、オレは心の中で小さく舌打ちをする。
 そんな事はもうとっくに分かっている…。何故ならばもう既にコレ無しではいられなくなっているではないか…。
 本当は目の前の城之内にそう言い捨ててやりたかったが、オレの意識はもう限界に来ている。
 責任取ってちゃんとベッドまで連れて行け…っ!!
 そう心で念じながら、オレは意識を手放していった。


 ドライオーガズムは…まだ怖いと思う。
 城之内とセックスをすればアレを感じなければならないと考えると、やはりどうしても恐怖を感じるのだ。
 だけど既にソレから離れられなくなっているのもまた事実である。
 目覚めたら一番に「こんな身体に作り替えた責任を取れ!」と城之内に詰め寄ってやると固く心に決め、オレは完全に意識を閉ざした。

 



おまけ


 そんなこんなで、それから三日後…。

「なぁ…海馬…」
「何だ?」
「えーと…その…」
「だから何だ。たまには普通のセックスをしたいと言う貴様の願いを叶えてやっているんだぞ。さっさと続けろ」
「だから…あのな?」
「一体何だというのだ!」
「何か…チクチクするんですけど…」
「………」
「毛が生えてきてるところが…その…、チクチクして痛いというか何というか…」
「ふん…馬鹿め。自業自得だな」
「うっ…!」
「我慢してさっさと続けんか!!」
「ご、ごめんなさい…」

 剃毛プレイは程々が宜しいようです。