*素質シリーズ - ページをめくる - *素質Ⅴ(後編)

 眉を顰めた余裕の無い表情で、身体をフルフルと震わせながら「にゃぁ…」と一声鳴いた海馬に、オレは満足して微笑んだ。
 うん、良し。
 正直海馬の身体が限界に来ているのは知っているんだ。
 この状態でどうやってオレを求めて来るのか興味津々で、オレは海馬に入っているバイブのスイッチを強に入れる。

「うっ…! ひゃぁ…っ!」
「海馬」
「にゃ…ぁっ! に…にゃぁんっ!!」

 海馬の身体の奥から聞こえて来る震動音が大きくなり、それに伴って白い身体がビクビクと激しく痙攣する。
 本当だったらもうイッててもおかしくない。
 だけどアイツのペニスの根元にはオレによってリボンが巻かれていて、それが邪魔をして射精が出来ない状況になっていた。
 さぁ…どうする海馬?
 何かちょっと楽しくなってきてその様子をじっくりと観察していたら、泣きそうな顔で海馬がこちらを振り返った。
 あぁ…やっぱり、限界なんだ。
 でもオレは何も言ってやらないし、何もしてはやらない。
 そのまま黙って見ていたら、本当の猫みたいに四つん這いでオレの側まで躙り寄ってきた。
 白い足の間から垂れ下がっている震える黒い尻尾が艶めかしい。
 まだ服を着たままだったオレのTシャツに手を掛けて、それをグイッと上に持ち上げて頭から引き抜く。
 なるほど。服を脱がせてその気にさせようっていうのか。
 脱がせたTシャツをベッド下に放り投げると、そのまま上半身裸になったオレに白い腕を絡みつかせた。
 温かい体温を直接感じて、オレの心臓が高鳴る。
 確かに今日はまだこんな風に抱き締め合ったりしてないからな。ちょっと効果的かもしれない。
 ベッドの上に胡座をかいたオレを跨ぐような形で膝立ちになり、顔を両手で掴まれてクイッと上に向けられた。
 見上げると真っ赤に上気した顔と潤んだ青い瞳が目に入ってきて、それが少しずつ近付いてくる。
 そして柔らかい唇でオレの唇を挟むようにキスをされた。
 あ…、このキス…ちょっと気持ちいいかも。

「んっ…! ん…ん…っ」

 余裕無さげに鼻にかかった声を漏らしながら、海馬は必死でキスを続けた。
 少し口を開いてやると、そこから熱い舌がぬるりと入り込んでくる。
 三週間振りの海馬の舌にオレも嬉しくなって、入り込んできたそれに自らの舌を絡めた。
 軽く歯を当てて強く吸い上げてやると、目の前の身体がビクリと震える。
 クチュクチュと濡れた音を立てながら、二人とも夢中でキスを続けていた。
 飲み込めずオレの口の端から溢れた唾液を、海馬が顎下からベロリと舐め取ってくれる。
 あぁ…うん。大分興奮してきた。
 でも、まだダメだなぁ…。
 チラリと瞳を開けて伺ってくる海馬にオレは視線でそう答えた。
 海馬の方はそろそろ限界を超え出したらしい。

「にゃ…ぁ…っ。にゃぁ…っ」

 可愛らしくにゃぁにゃぁ鳴きながらカリカリと爪先でオレの二の腕を引っ掻いて、必死な顔で先を促してくる。
てか、本当の猫みたくなってきたな。
 でもまだダメです。
 顔を傾けて「何?」と聞いてやれば、あからさまにガッカリした顔をされた。
 そして今度は何を思ったか、ジーンズを履いたままだったオレの腰に手を伸ばして震える手でベルトを外し始める。
 あぁ、なるほど。そこを直に刺激すればオレが興奮して我慢出来なくなると踏んだんですね?
 でもなぁ…。それ、逆効果だと思うんだけど。
 ベルトを引き抜いてボタンを外し、ファスナーを下ろしてトランクスから引き摺り出されたオレ自身は、もうすっかり硬く張り詰めていた。
 それを両手でしっかりと握って、海馬は身体をずらして顔を寄せる。
 そしてそのままオレのペニスを熱い口内に招き入れた。
 恍惚とした表情が色っぽい。
 うわ…。やっぱこれ、すっげー気持ちいいわ…。
 ただでさえ海馬はフェラが上手いのに、三週間振りにこんな事されたら、オレちょっと持たないよ?
 根本を握った手で裏筋をなぞりながら、口内に含んだ部分をきゅうきゅうと強く吸われた。
 溢れる先走りの液も、舌先で丁寧に舐め取ってくれる。
 あー…、もうヤバイって…っ。
 いくら限界越えてるからってそんなに本気で挑まれちゃ、オレの方だって我慢出来ないんだってば。
 しかも海馬は今猫耳を付けていて、それがまた何て言うのか…。背徳感を醸し出していた。

「くっ………!」

 案の定海馬のテクに耐えきれなかったオレは、アイツの口内に盛大に射精してしまった。
 突然放たれて驚いたのだろう。
 大半を口から零してしまい、海馬の手や口元はオレの白い精液で汚れてしまっている。
 如何にも「あ、しまった!」という唖然とした顔でそれを見詰めている海馬が可愛らしい。
 それに苦笑しながらも、オレは海馬の口元についた精液を親指でグイッと拭ってやった。

「あーあ。本気でやるから出ちゃったじゃんか。こんなに一杯零しちゃって」
「にぅ…っ」
「でもま、これも猫プレイになるのかな? ほら、海馬は今猫なんだから。猫はミルク好きだろ? ちゃんと零したの舐め取れよ」

 オレの言葉にしゅんとした表情になりつつも、海馬は丁寧に零れた精液を舐め取っていく。
 口元に付いたヤツは指先で拭い、口に入れてチュッと吸い取った。
 それから掌についたヤツやオレ自身に付いたヤツも、熱い舌でペロペロと舐めて飲み込んでいった。

「美味い?」

 必死に舌を動かしている海馬にそう聞くと、「にゃぁ…」と小さい返事が返ってくる。
 可愛いなぁ…、こうしてみると本当の猫みたいだなぁ…。
 そんな事を悠長に考えていたら、いつの間にか海馬の状態が変化しているのに気がついた。

「っ…。ぃ…っく。ひっ…く」

 しゃっくり上げているそれは紛れもない嗚咽だった。
 言われた通りに零れた精液を舐め取っていきながら、海馬はボロボロと泣いていた。
 顔を涙でグシャグシャにしながら、それでも懸命にオレに言われた事を守っている。
 一瞬でやり過ぎたんだと理解した。
 慌てて海馬の身体を持ち上げて抱き締める。
 腕の中の身体はブルブルと小刻みに震えていた。

「ゴメン…ッ! ゴメン、海馬! ちょっとやり過ぎた…っ」
「にぃ…っ! にゃ…ぁ…。にゃぁ…っ」
「悪かった。もういいから…」

 震える背を優しく撫でて、頭から猫耳を取り去る。
 ついでに下半身に手を伸ばして、尻尾付きバイブもスイッチを切ってズルリと抜き去った。
 ビクリと身体を揺らして反応した海馬の顔を引き寄せて、額や頬、こめかみや鼻先にキスの雨を降らす。
 目元に舌を伸ばして次々と溢れてくる滴を舐め取り、宥めるように少し汗ばんだ栗色の髪を撫でつけると、海馬はオレにギュッとしがみついて来る。
 その反応に、海馬のいつもの余裕は全く感じられなかった。

「ほら。これでもう猫じゃなくなったからな。普通に喋っていいぜ」
「っ…うっ…。はぁ…ぁっ!」
「海馬…。大丈夫か…?」
「っぅ…ふ…っ。せつ…な…い…」
「うん…?」
「奥…。奥…が…切ない…っ!」
「奥、切ない? オレが欲しいの?」
「欲しい…っ! 城之内が…欲しい…っ!!」

 ガクガクと首を縦に振りながら叫ぶように放たれたその言葉に、オレは反省をする。
 いくら何でもこれはやり過ぎだ。
 例えお仕置きプレイでも、相手がこんなに混乱するまでやってはいけないのだ。
 というか、海馬がここまで混乱してしまうとは思わなかった。
 海馬はドMの変態だという初期から認識が、オレの限界を見定める目に狂いを生じさせていた。
 抱き締めていた身体を優しくベッドに横たえて、オレは中途半端に身に纏っていたジーンズとトランクスを脱ぎ捨てた。
 そして海馬の足を大きく開くと、濡れた後孔にペニスの先端を押し当てる。
 そこはもう真っ赤に熟していて、ヒクヒクと蠢いてオレが入ってくるのを今か今かと待ち望んでいた。

「くぅ…! ん…ぁ…っ。 あぁぁ―――っっ!!」

 ぐっと腰を前に進めると、海馬が背を弓形に反らしてビクビクと激しく痙攣した。
 今の今までバイブで刺激され続けてきた海馬の内部はまるで発熱しているかのような熱さで、入り込んできたオレをまるで逃がさないとでもいうかのように内部の媚肉が絡みついてくる。
 もう最高に…気持ちが良かった。
 ガツガツと海馬の弱い部分に当るように集中して腰を動かしていると、内壁が細かく振動して、まるでオレのペニスを絞るかのように蠢いてくる。
 何だか軽くイッちゃってるみたいだな…。
 ん? ていうか…もしかしてコレ、本格的にイッてないか!?
 慌てて海馬の顔を覗き込むと、目を一杯に開いて半分意識を飛ばしているみたいになっていた。

「ひぁっ…! あ…あっ! うあぁぁっ!!」
「海馬…?」
「あうぅ…っ!! あっあっ!! も…もう…っ!!」
「海馬…。お前…もしかして…」
「も…ダメッ! ダメ…なのにぃ…っ!!」
「もしかしてお前、ドライで…イッてね?」

 よく考えたら、リボン…外してなかった。
 射精出来ないままイッてしまった海馬は、必然的にドライオーガズムという状態に陥ってしまって、そのイキの状態が治まる事なくずっと続いているらしかった。
 女と違って射精による一瞬のオーガズムが主な男性は、慣れてない内はこのような状態に陥ると死ぬほど辛く感じるという話を聞いた事がある。
 現に今海馬は、今まで感じた事のない快感に対処出来ずに、酷く混乱しているようだった。
 だったんだけど…、何かオレは嬉しかった。
 だって自分の手で恋人がこんな究極のオーガズムに達してくれただなんて、これで光栄と思わない男はいないだろ?

「うあぁ…っ! くぁ…んっ!! も…やぁ…っ! お…おかし…く…なる…っ!!」

 ギュウギュウと痛い程に強くしがみついてきて、涙をボロボロと零しながら訴える海馬に、オレは殊更優しく囁いてやる。

「いいぜ、おかしくなっても。オレがちゃんと受け止めてやるから」
「やぁ…っ! あっ! うっ…あぁんっ!!」
「いいから。それをそのまま感じて」
「い…やだぁ…っ! もう…怖い…っ! 怖…い…っ!!」
「大丈夫。怖くないから。オレが側に付いててやるから…な」

 ガクガクと痙攣し続ける身体を力強く抱き締めて、オレも激しく腰を振り続けた。
 海馬の喘ぎは既に叫び声になっていて、それはもはや言葉にすらなっていない。
 熱くてぬめる内壁に痛い程しぼられ続けて、オレにもそろそろ限界が見えてくる。
 海馬のペニスに巻き付いたリボンを外してやって、先走りの液でグッショリ濡れたソレをキュッと握ってやった。
 自分の腰の動きに合せてペニスを扱いてやる。

「海馬…。一緒に…イこう…な?」
「あひぃっ! あっ…あぁっ!! ひあぁぁっ―――――――っ!!」

 一度抜けきる直前まで腰を引き、そしてズンと一気に突き刺してやったら、あっという間に海馬はイッた。
 ビュクビュクと大量の精液がオレの手に零れ落ちる。
 すげぇなぁ…コレ。どんだけ溜まってたんだっつーの。止まんねーじゃねーか。
 そんな事を頭の片隅で思いつつ、オレも海馬の最奥に自分の精液を吐き出した。


 お互いにイッた後。
 暫くは荒い息をつきながら言葉を発する事も出来なかったオレ達だったが、やがて熱が冷めて来ると海馬がオレにしがみついていた腕をパタリとシーツの上に落とした。
 そして半ば呆然とした表情で「もう…死ぬ…」とボソリと呟いた。

「大丈夫。死なないから」
「巫山戯るな…馬鹿が…。貴様もアレを体験してみろ…。絶対死ぬに決まっている…」
「だから死なないって。現にお前、今生きてんじゃん」
「それでも死ぬ…。アレは…キツイ…」

 息も絶え絶えにそんな事を言った海馬は、そのまま瞼を閉じて眠ってしまった。
 というか、コレ眠ったんじゃないな。
 一拍遅れて失神してしまったらしい。
 どんなに頭を撫でても身体を揺さぶっても、ウンともスンとも言わなくなった海馬に苦笑する。
 久しぶりだからといって、ちょっとやり過ぎたか。
 でもまぁ…文句は言わせないぜ?
 お前がオレをこんな風に変えちまったんだからな。
 汗ばんだ前髪を掻き上げ現れた白い額に口付けながら、オレはニヤリと口元に笑みを浮かべる。

 さて、海馬君。
 明日は土曜日、明後日は日曜日だ。時間はたっぷりあるんだよね。
 次はどんな風に苛めて欲しいのか、今度はちゃんと海馬君のリクエストを聞いてから実行しましょうか。
 お前自身も新しい素質に目覚めたみたいだしな…。

 目覚めた海馬が一体どんな要求をしてくるのか、オレは今から楽しみで仕方が無かった。