*子連れ城海シリーズ - 短編集 - *再熱(後編)

 浴室の方から響いていた水音が消えた。
 リビングのソファーに座り、手持ち無沙汰気味にラックに入っていた冊子を眺めていた海馬は、冊子を目の前のテーブルに置いて顔を上げる。案の定、バスローブを羽織った城之内が浴室から出て来た。バスタオルで髪の毛をガシガシと拭きながらドアを閉め、そして視線をこちらに向ける。海馬と目が合うと嬉しそうに笑い、大股で近付いてきた。

「おまたせ。お前もシャワー浴びるだろ?」
「あ、あぁ…」

 城之内の言葉に頷きつつ海馬は僅かに視線を逸らす。久しぶりに見た城之内の身体は、随分と男らしく逞しく成長していて、海馬の目には眩しく移っていた。
 スーツを着ていた時には気付かなかったが、胸や腕の筋肉やガッチリした肩幅や首筋や背中の厚み、十三年前より明らかにしっかりと整った城之内の身体の全てに魅了されてしまう。
 海馬は、それがとても気恥ずかしかった。
 二十歳の青年から三十三歳の大人の男性に成長した城之内は、思った以上に男らしくなっている。それに比べて自分は十三年前と余り変わってはいない。力はあると自負しているが、それにしたって体型が全く変わっていない。腕も足も腰も首筋も細いままで、胸や背中は相変わらず薄っぺらいままだ。それが若い頃ならいざ知らず、年だけはしっかり取ってしまっているのだ。
 こんな身体で抱いて貰うなんて…と頭の片隅で考えた。城之内がシャワーを浴びている間に、やはり帰ってしまおうとも。
 だが、そんな事は出来なかった。
 本能が…、城之内を求める海馬の本能がそれを押し留めた。

「シャワーを…浴びてくる」

 そう言って海馬が立ち上がったその時、突然腕を引かれ、気が付いたら城之内の腕の中にいた。ギュッ…と力を入れて抱き締められる。
 シャワーを浴びたばかりの熱い身体。頬に感じる濡れた髪の感触。自分を抱き締める力強い腕。首筋に感じる荒い息遣い。思わず手を当てた胸から聞こえる心音。

「好きだ…。お前が…好きだ…」

 熱い吐息と共に耳元に囁かれる。その声にドクンと海馬の心臓が高鳴った。
 未だスーツを着たままの自分の服をゆっくりと脱がされていく。上着はバサリと床に放り投げられ、ネクタイも首元に指を差し込まれシュッと取り外されてしまう。そして震える指がYシャツのボタンにかかった。一つ二つと外され、現れた首筋に口付けられる。キュッと強く吸い付かれ、そして熱を持った舌でザラリと舐められた。

「ま…待て…っ!!」

 海馬は慌てて城之内の身体を押し返し、一歩後ろに下がった。

「何? どうした?」
「ま、まだ…っ。シャワーを浴びていない…っ!」
「んー…、何かもうどうでも良くね? このままでもいいと思うんだけど」
「良くはないっ!」
「何で? オレお前の汗とかの臭い嗅ぐの、結構好きなんだけどなぁ…」
「や…嫌だ!」

 若い頃なら何も怖くは無かった。ただ勢いに任せて汚れた身体のままで抱き合う事も厭わなかっただろう。だがもう…自分はあの頃の若い自分では無い。何も恐れるものが無く、全て勢いで前進していたあの頃とは違うのだ。
 先程の城之内の言葉が甦ってくる。
 思い切った事をするには、もう大人になり過ぎていた。
 顔を真っ赤にして俯く海馬に城之内はその内面を感じ取って、仕方無くといった感じで苦笑してしまう。

「ん、分かった。じゃ待ってるから早く行って来い」

 にこやかな笑顔の城之内に漸く安心して軽く溜息を吐くと、海馬は浴室へと向かっていった。


 数刻後、丁寧に身体を洗い海馬は浴室から出て来た。備え付けのバスタオルで身体の水気を拭いながら、ふと洗面台の鏡に映った自分の姿を見詰めてみる。改めてじっくりと見てみると、やはり十三年の月日は自分から若さを奪い取っていたらしい。一見すると二十歳のあの頃と変わっていないようにも感じられるが、良く見ると年月の爪痕は至る所に残されている。鏡の自分に指を伸ばして、そしてフッと自嘲気味に吹き出した。

「顔色が…酷いな」

 疲れが色濃く残っている。昔は何日も徹夜で作業したとしても、少し眠ればその疲れはあっという間に取り除く事が出来たというのに。それなのに今の自分の姿はどうだ…。張りを失った肌、真っ白で不健康そうな顔色、目の下には色濃く残っている隈。
 こんな顔をして、十三年間恋を抱き続けた男に抱かれるというのか…っ!
 けれど…もう二度と逃げ出したくは無かった。あの日、城之内を『捨てた』十三年前のあの日から、海馬はずっと後悔し続けてきたのだ。
 もう二度とこんな日は来ないと思っていた。それなのに何の因果か、再びやり直す道が今目の前に見えている。どこまでもどこまでも真っ直ぐに。十三年前のあの頃、行き止まりの見えていた道とは全く違う新しい道。もうあの頃のように自分の進むべき道に怯える必要も無い。

「城之内…。今…行く…」

 用意されていたバスローブを羽織り、海馬は胸を張って浴室から出ていった。


 リビングには既に城之内の姿は見えなかった。ぐるりと視線を巡らせて、海馬は寝室に繋がるドアを開ける。そこはもう薄暗く、丁度ヘッドライトの明るさの調整をしていた城之内が海馬に気付いて振り返ったところだった。

「おかえり」
「あぁ」

 ベッドサイドに立っている城之内が右手を差し出して来る。海馬はゆっくりと近寄って、その手に自分の右手を載せた。

「後悔…しない?」
「何の後悔だ」
「オレともう一度やり直す事に関しての」
「そんな後悔するくらいなら、あの時点でオレはとっくに帰っている」
「あはは! そうだよな。でも今のオレ達は『あの頃』とは全然違うから」
「子供か…?」
「うん…そう。多分あの若かった頃みたいに、自分達本意での恋愛は出来ないと思う。あの頃はこの身一つだけだったから何も怖いものなんて無かったけど、今はオレもお前も抱えるものや守るものが…多いもんな。オレはお前だけを、お前はオレだけを…っていうのはちょっと無理だと思う」
「それでも…道はそこにある」
「え………?」
「例えこの先、お互いの存在以上に優先しなければならない事柄が出て来たとしても、それでもオレはもうお前と離れるのは嫌だ…っ。どんな困難な事があったとしても、オレはお前と一緒なら平気だ。お前となら歩いていける。少なくても今見えている道は、オレとお前の二人だけの道だ…っ」
「海馬…」
「ずっとお前が好きだったんだ…城之内。忘れた事なんて一度も無かった。だから…オレを愛してくれ…城之内。もう二度と…離れたく無い…っ!」
「うん…うん…。オレもずっとお前が好きだったよ。もう二度と手放さないから…っ。だからもう一度…やり直そう!」

 城之内が海馬の腕を引いて、ベッドに押し倒した。仰向けに寝転がった海馬の上に、城之内が体重を掛けて乗り上げてくる。ギシリ…とベッドのスプリングが鳴ったのを聞いて、海馬はそっと瞳を閉じた。


 お互いに一糸纏わぬ姿になって、直接体温を預け合う。城之内の顔が近付いてきてその唇が自分の唇に触れた時、余りの幸福感に海馬は泣きそうになった。女性特有の柔らかな唇とは違う、荒れて固い熱い唇。けれどその唇からのキスを、自分がどれ程待っていたのか…。余りに嬉しくて海馬は城之内の首に両腕を絡め、無我夢中で吸い付いた。自分から舌を差し出して、絡まったそれを強く吸い上げる。
 舌の付け根が痛くなる程絡み合った後、漸く顔を離した城之内が困ったように微笑むのが見えた。

「焦るなよ海馬。そんなに必死にならなくても、まだまだ時間は一杯あるぜ?」

 その余裕たっぷりな城之内の態度に、海馬はまた一つ、城之内が大人になった事を知る。若い頃の城之内はとにかく必死で、抱き合う度にがむしゃらに自分を求めてきていた。今思えば、城之内にも道の終わりが見えていたのだろう。だから容赦が無かった。全身全霊をかけてまるで殺し合うように抱き合った。
 そう…別れを決めたあの時も…そうやってセックスをしたのだ。
 ふと、思い立って海馬は城之内の背中を撫でてみた。「何…?」と訝しむ城之内に、背を撫でながらキョトンとした顔を覗きこむ。

「背中を…傷付けただろう」
「背中? あぁ、『あの時』か」
「そう。結構深く傷付けた筈だが…」
「はは…。確かに血だらけになってたな。今でも一本だけ爪痕残ってるよ」
「何? 本当か?」
「うん。ほら」

 城之内が振り返って背中を見せる。広い男らしい背中の中に一筋だけ、薄く白い傷痕が残っていた。海馬はその傷痕にそっと手を伸ばし、指先でつつーっとなぞってみせた。そして自らの顔を近付け、下から上に向かって舌を這わす。その感触に、広い背中がビクリと反応するのを感じた。

「海馬…?」

 城之内の呼びかけにも反応せずに、海馬は懸命に城之内の背中を舐めた。じわりと滲んだ汗の味がする。十三年間、焦がれに焦がれ続けた城之内の味を舌先に載せ、その味を覚えるのに夢中になった。
 背中から肩胛骨、そして首筋にまで辿り着いてそこを舐めていると、ふいに視界が反転する。自分が再びベッドに押し倒されたのだと知ったのは、自分を見下げる城之内の興奮した顔が目に入ってきたからだった。

「随分と…大胆な事をしてくれるな、海馬」

 ニヤリと笑って乾いた唇を舌で舐め取っている城之内に対して、海馬もまたいやらしく笑ってみせた。

「オレも色々と経験してきているのでな…」
「へー…この色男が。一体何人の女や男を抱いて来たんだか」
「何人もなんて抱いていないぞ。オレが今まで抱いた事のある人間は、離婚した元妻だけだ」
「ふーん。じゃぁ抱かれて?」
「まさか。あんまり失礼な事言ってると怒るぞ」

 海馬は自分を見詰めている城之内の頭を抱え込んで、そしてその濡れた唇を挟み込むように熱烈なキスをした。そして繋がった唾液の糸もそのままに、フワリと微笑んで口を開く。

「オレを抱いた人間は、後にも先にも一人だけ…。お前だけだ、城之内」

 敢えて低く押し出したような声で漏れ出たその言葉に、城之内の喉がゴクリと鳴ったのを海馬は聞いた。


 静かな寝室にピチャピチャと濡れた音が鳴り響く。

「っ…! ぅ…んっ…」

 城之内が先程までのお返しとばかりに、海馬の全身を舐めていた。首筋をねろりと舐められ、震える頬に口付けられたと思ったら、今度は耳を唇で挟み込まれる。外耳に反って温かな舌が擽るように舐めていって、その度に海馬は小さく身震いした。大きく息を吐き出すと、今度は手を持ち上げられて指先に口付けられ、そのまま口内に含まれてしまう。全ての指をしゃぶった後、今度は肘の内側から脇の下までをつつーっと舌先で辿られて、更に脇腹に強く吸い付かれいくつもの紅い痕を残された。そのまま両足の間に入り込んだ城之内は、内股にも同じような痕を付けて、今は海馬の足を持ち上げて踵から土踏まずまでを舌で辿り、そして足の指を一本一本口に銜えて嬲っている最中だった。
 足を高く持ち上げられている為に、場所的に海馬の秘所は城之内に丸見えの状態だった。それなのに城之内はさらけ出されている場所をじっと見詰めるだけで、敢えて感じやすい場所への愛撫は避けている。それは先程胸を舐められていた時も同じで、城之内は脇腹や臍などへは遠慮無く吸い付き舐めていったというのに、海馬が弱い乳首への愛撫は遂に何もしないままだった。

「くっ…! っ…!」

 足の親指の爪をカリリと噛まれて、海馬はビクリと跳ね上がり声を漏らす。けれど若い頃のように無遠慮に喘ぐのも気恥ずかしくて、直接的な声をあげるのを我慢してしまっていた。

「何で我慢してんの? 苦しかったら声出せばいいのに」
「っ…。ふっ…ぅ…っ」
「久しぶりだし、ちゃんとお前の声が聞きたいなー?」
「いや…だ…っ」
「何でよ。可愛いのに」
「三十過ぎた男に可愛いも何も無いだろう…っ? うっ…んっ…。貴様こそ…もう…しつこい…っ!!」

 握りしめていた羽根枕を持ち上げて城之内に投げ付けながらそう言うと、だが城之内はそれをあっさり躱してクスクスと笑い出した。

「いやいや、そこはオレも大人になったんだって褒めてくれよ。昔みたいにがっつかなくなっただけ、マシってもんじゃない?」
「何がだ…っ! 焦らすだけ焦らされて、受ける方の身にもなってみろ! こっちだって久しぶりなんだぞ…!!」

 海馬の叫びに城之内が「おや?」という顔して、次の瞬間に破顔する。
 つまり海馬の言っている事は「もう待てないから、早く何とかして」と言っているも同然だったからだ。

「あぁ、ゴメンゴメン。ちょっとしつこ過ぎたか」
「分かっているなら…っ。ひっ…!」

 全く何の反省もしていないように謝ってきた城之内に対して文句を言おうとした時だった。突然強く乳首に吸い付かれて、海馬は悲鳴を上げてビクリと身体を跳ね上げさせた。固くなった乳首に舌を絡ませて強く吸われ、もう片方の乳首は指でこねくり回される。

「あっ…! 城…之…内…っ!」

 自分の胸に吸い付く頭を抱き締めて、海馬はフルフルと首を横に振った。
 久しぶりの感触に、身体は怖いくらいに素直に反応する。内側からビリビリと電気ショックのような刺激が駆け抜けて、身体の痙攣が止まらない。身体全体が熱く痺れて、呼吸もまともに出来なくなった。

「海馬…。気持ちいい?」

 熱く濡れた城之内の問いに、海馬は必死でコクコクと頷いて答える。

「気持ち…いい…っ」
「そうか、良かった。十三年も経ってるってのにな…。オレはお前の感じる場所をちゃんと覚えてた事に、今自分でビックリしてる」
「オレも…っ」
「ん?」
「オレも…だ…。んっ…! どうやらオレも…お前から与えられる刺激を…。あぁっ! 覚えて…いたようだ…っ。あふっ…!」

 ビクリビクリと身体を震わせながら、海馬が鳴くのを城之内は聞いていた。その顔はもう涙でグシャグシャだ。顔を真っ赤にして青い瞳を涙で濡らし、ハァハァと喘ぎながら城之内を見詰めている。
 こんな顔は子供には見せられないよなぁ…。お前の息子にも…オレの娘にも…。
 そんな事を頭の片隅で考えつつ、城之内は海馬を再び自分の手に入れる為に、その細い両足に手をかけた。


 海馬の両足を大きく開かせ、そこに顔を埋め込んだ城之内は、これから使う後孔を丁寧に舌で舐めていた。最初は海馬もローションでいいと抵抗していたものの、「久しぶりだからそんなもの忘れた」という城之内の言葉に諦めて、今は大人しく愛撫を受けている。
 城之内がローションを忘れたというのは、勿論真っ赤な嘘だった。予め海馬とこうする事を目的にセミスイートルームを予約していたのだ。何の準備も無しに事に及ぶ訳が無い。だが城之内はローションを使う事を止めてしまったのである。
 十三年ぶりの海馬の身体。自分以外の誰にも抱かれた事が無いというその身体は、勿論長い年月の間にすっかり『元』の身体に戻ってしまっている。
 だが城之内は焦らなかった。いや、十三年ぶりに抱くからこそ、その全てを自分自身で愛そうとしたのである。

「あっ…んっ! も…もう…いいから…っ!」

 細い指先が髪の毛を強く掴んできて、城之内をそこから引き剥がそうとする。けれど城之内はその手を優しくどけると、再び顔を埋めながら言った。

「まだダメだよ、海馬。ほら、まだこんなに固い」

 濡れた後孔に中指を押し当て、ぐいっとなかに押し込んでみせる。何とか指一本を飲み込んだものの、そこはギチギチと固いままで海馬を苦しめるだけだった。苦しげに息を吐く海馬を見つつ、城之内は指を押し込んだまま再び後孔の淵に舌を這わせた。そして唾液を擦りつけるように、丁寧に舐め回す。

「久しぶりだから、無理はさせたくないし傷付けたくも無い。もうちょっと我慢して…」
「いやだ…っ! もう…はやく…っ!! あぁっ!」
「我が儘言わないで、もうちょっとだから。ほら、二本目が入った」

 海馬の体内に押し込めた二本の指を、城之内はゆっくりと動かし始める。ぐちゅり…と大量の唾液で濡れたその場所から卑猥な音が聞こえて、海馬は余りの恥ずかしさに目をギュッと瞑り顔を背けた。
 城之内はそんな海馬に何も言わずに、ただ薄く微笑みながら海馬の体内を解いていく。

「何だろ…。まるで初めての時みたい。あんなに一杯やったのに」
「離れていた十三年の間に…身体が忘れてしまっていただけだろう…? くっ…!」
「そうなんだけど。何か初めてお前を抱いた時の事を…思い出した。今もあの時みたいにすげー胸がドキドキしてるんだ…。めっちゃ緊張してる。お前の事が好き過ぎて。お前の事が大事過ぎて。そんなお前をもう一度この手に入れられる事が凄く嬉しくて…。だから緊張してるんだよ。オレの手…震えてるの分かる?」

 城之内の質問に海馬は首を横に振る事で答えた。はっきり言って城之内の様子を気にする余裕なんか無かった。嬉しさと緊張で身体全体が震えているのは…自分の方だったから…。


 身体の方は既に限界に近付きつつある。すっかり固く勃ち上がった海馬のペニスは、自らの腹の上にポタポタと粘液を垂らしてしまっていた。おまけに物覚えの良い城之内の指が、海馬の体内の弱い場所を遠慮無く突いてくるので堪らない。別れてから十三年も経っているというのに、その場所を的確に覚えていた城之内に驚きを隠せず、それ以上にそこへの刺激の気持ち良さを覚えていた自分にも驚愕する。

「あっ…! あぁっ…! くぁ…っ…やっ…!」

 あれだけ恥ずかしいと我慢してた声が、今はもう勝手に漏れ出てしまう。強くシーツを掴み、ヒクヒクと下腹を痙攣せて喘ぐ海馬に、城之内も己の限界を悟ったようだった。

「海馬…」

 熱の籠もった声で名前を呼ぶと、海馬が潤んだ眼差しで城之内を見詰めてきた。そしてシーツから手を離し、震える腕を持ち上げて城之内へと伸ばしてくる。

「はや…く…きて…くれ…っ!」
「うん…っ」

 海馬の誘いに、城之内も頷いてその細い身体を抱き寄せた。


「ひっ…あぁぁぁ―――――っ!!」

 熱の籠もった寝室に、海馬の叫び声が響き渡った。
 入り込んでくる熱に怖じ気づく身体を宥めつつ、城之内はゆっくりと身を進めた。初めて結ばれた時の事を思い出しながら、なるべく海馬の身体を傷付けないように慎重に体内を浸食する。やがて全てを収めきって、城之内はふぅ…と安堵の吐息を吐き出した。

「海馬…。全部入ったぜ…。大丈夫…か?」

 もう既にグシャグシャになったシーツに横顔を押し付け、痛みと苦しみに耐えて震えている海馬が城之内の声にそろりと瞳を開けた。そして城之内に視線を合わせ、コク…と小さく頷く。

「へ…き…だ…っ」
「でも大分苦しそうだ。久しぶりだからもうちょっとこのまま待とうか」
「それは…嫌だ…っ!」

 海馬が大きく首を横に振って、そして目の前の城之内に強くしがみついた。自らの想いの強さを知らしめるように、力を入れて逞しい身体を引き寄せる。

「はやく…っ! はやく…お前を感じさせて…くれ…っ! 痛くてもいい…っ! 苦しくても…辛くても…いいんだ…!! 城之内…お前が欲しい…っ!!」

 海馬の心からの叫びに、城之内は耐えようも無い程の幸福感を感じていた。
 自分が心底惚れている相手にここまで強く求めて貰えるなんて…、この世の中にこれ以上の幸せなんてある筈が無い。

「海馬…っ! オレも…っ! オレもお前が欲しいよ…っ!!」
「城之内…っ!! あぁぁっ!!」

 強く強く抱き締め合って、城之内は海馬の身体に楔を穿った。十三年という長い年月をこの一晩で埋め尽くす為に、その熱を、愛を、想いを、海馬の中に全て注ぎ込む。

「あっ…! も…もう…ダメェ…っ!! あぅ…っ! もう…イク…っ!! 城之内ぃ…っ!!」
「うん。オレも…もうイクから…。だから一緒にイこう…。海馬…っ!!」
「うぁっ!! やっ…あっ…あぁぁっ!! うっ…あぁぁぁぁ――――――――――っ!!」
「海馬ぁ…っ!!」

 お互いに最後の力を出し合って、最愛の者を強く抱き締める。城之内は海馬の肌に痣が残る程力強く腰を掴み、海馬は余りの快感に我を忘れ城之内の背に爪痕を残した。
 だがそれは、二人にとっては必要な痕跡だったのだ。離れていた十三年間を忘れ、今日から再び共に歩く為に。そして…もう二度とこの手を離さない為に…強く…強く…。


 二人揃って熱を吐き出した後、城之内と海馬はいつまでも抱き締め合って動く事が出来なかった。やがてじっとりと汗に濡れた城之内の掌が持ち上げられ、同じように汗まみれの海馬の額に伸ばされて、しっとりと重くなった前髪を掻き上げる。現れた白い額に唇を寄せながら、城之内は幸せそうに微笑んだ。

「幸せだよ…海馬」

 心から嬉しそうな城之内のその言葉に、海馬も同じように微笑んだ。

「オレもだ…」
「もう離れないでくれ…」
「分かっている。もう二度と離れない」
「愛してるよ…海馬」
「あぁ、城之内。オレも愛している…」


 冷たく凍り付いていた『幸せ』が、今やっと溶け出した。
 再び燃え上がる熱を感じながら、二人は強く手を握り合う。
 もう二度と…この手を手放さない為に。