ハロウィンの朝、城之内邸の台所にて。
城之内(以下『城』)
瀬衣名(以下『瀬』)
瀬「パパー! Happy Halloween~♪ あ~んどTrick or Treat~♪」
城「何がトリックオアトリートだ。それは夜にやるものだろ? 何で朝からそんな事やってるんだ」
瀬「ダメよパパ。これを言われたらお菓子を渡さないと、悪いお化けに悪戯されちゃうんだからね。脇腹擽っちゃうぞ~」
城「や、やめろってコラ!! 台所に立っている時は擽るなって言ってるだろ!? 夜まで待ちなさい!」
瀬「それがね、夜はダメなの。今日の夜は克人と一緒に、海馬ランドのハロウィンフェスに参加するんだもの」
城「あー…、なるほどね…。それじゃダメだな。仕方が無い。可愛いお化けさんには、パパ特製のスイートポテトをあげよう」
瀬「わーい! ありがとパパ♪ コレ大好きなんだー」
城「瀬衣名はママの手作りのスイートポテトが大好きだったもんなぁ」
瀬「うん♪ あ、克人の分も持っていってもいい?」
城「あぁ、いいぞ。8個焼いたから、残りの7個も全部持っていきなさい」
瀬「あら、それじゃダメよ。海馬のおじさまの食べる分が無くなっちゃうじゃない」
城「海馬には…。コレは食べさせないからいいんだ」
瀬「えっ!? コレって海馬のおじさまには食べさせてないの?」
城「………。あぁ…食べさせてない」
瀬「えーっ!? 何でーっ? コレはパパの得意料理じゃない」
城「うん…まぁ…。オレにも色々あるんだよ…」
瀬「勿体無いなぁ…。こんなに美味しいのに。どうして食べさせてあげないの?」
城「………」
瀬「これがママの得意料理だったから?」
城「そ…それは…」
瀬「そうなんでしょ?」
城「………。あぁ…そうだ。このスイートポテトは死んだママのレシピそのものだ。コレを食べさせるのは、何だか海馬に失礼なような気がして…」
瀬「そうかなぁ? 私は全然そんな事無いと思うんだけど」
城「………」
瀬「あのね、パパ。ママが死んだ時私はまだ2歳だったから、正直ママの事はよく覚えていないの。でもママが作ってくれたスイートポテトが凄く美味しかった事だけはちゃんと覚えてる。大好物でよく食べさせて貰ってた事も」
城「そうそう。お前は他のおやつには見向きもしないで、ママに強請ってコレばっかり食べてたな」
瀬「うん。だからママが病気で入院した時、スイートポテトを食べたがっていた私の為にパパがママからレシピを聞いてきて、台所で一生懸命作ってたのも覚えているのよ」
城「瀬衣名…」
瀬「最初は焦げ焦げで苦かったスイートポテトも、作る度に美味しくなってきて…。気が付けばプロのパティシエ顔負けの出来映えになったよね。正直言えば、私はパパのスイートポテトは、もうママの味を越えたと思っているわ」
城「え………?」
瀬「ママが死んでから、パパはずっと私の為にスイートポテトを焼いてくれたよね。確かに基本のレシピはママのだろうけど、長い間に少しずつ味も変わって来て、今ここにあるスイートポテトは間違い無くパパだけのスイートポテトよ」
城「オレだけ…の…?」
瀬「そうよ。娘の私が言うんだから間違いないわ! このスイートポテトはパパの味。パパにしか作れない特別なお菓子なのよ」
城「オレの…特別…」
瀬「だからもっと自信を持って、パパ。この美味しいスイートポテトを、海馬のおじさまにも食べさせてあげて? 海馬のおじさまだってきっと食べたいって思っているもの」
城「それはどうだろう? だってオレがこんな物を作るなんて、アイツは知らない筈…」
瀬「う~ん、その事なんだけど…。実はねパパ。海馬のおじさまはこの事…もう知ってるのよ」
城「へ? はぁっ!? 何で!?」
瀬「実はこの間海馬のおじさまと二人きりでお話しする機会があって…。その時につい話しちゃったの。誕生日とかハロウィンとかクリスマスとか、そういう特別な時には、絶対パパが最高に美味しいスイートポテトを焼いてくれるって…」
城「な…な…っ。そ、そんな事…アイツ一言も…」
瀬「うん。多分ちょっとショック受けてたんだと思う。この話した時『オレはそんなもの、一度も食べさせて貰った事無い』って凹んでいたもの」
城「マ…マジか…」
瀬「更にその時に、このスイートポテトはママのレシピが元になってるって事も教えてあげちゃったら『あぁ、なるほど』って一人で納得しちゃったみたいなのよね。多分その『なるほど』は、パパがママの味を海馬のおじさまに食べさせたくないって意味での『なるほど』なんだと思うんだけど…」
城「そ、それは誤解だ…っ!! オレはそんなつもりで海馬にコレを食べさせなかったんじゃない!!」
瀬「うん、完全に誤解してるよね。だからその誤解を解く為にも、ちゃんとこのスイートポテトを食べさせてあげてね。海馬のおじさまの分とパパの分のは残しておくから。その代わり残りの5個は私に頂戴♪ 海馬ランドで克人と一緒に食べるんだ~v」
城「瀬衣名…」
瀬「ん? 何?」
城「ありがと…。本当はずっと気になってたんだ。コレを海馬にも食べさせてやりたいなって…」
瀬「うんうん、やっぱりそうだよね。あ、お礼はいいよ。もう美味しいお菓子を貰ったから。今度はみんなで一緒にこのスイートポテトでお茶しようねv」
城「そうだな」