ヘルモス×クリティウス。
随分かかったけれど、これで漸くゴールです。
澄んだ天空に白い満月が一つ浮かんでいる。
ヘルモスは自室のテラスからそれをずっと眺めていた。
強い月光は真夜中だというのに、地上に存在するありとあらゆるものの影をくっきりと映し出している。
その光はまるでクリティウスのようだ…とヘルモスは思った。
現実世界にいる二人のマスターのお陰で自らの欲を正面から捕らえられるようになったヘルモスは、こうしてクリティウスやティマイオス達と住む館に戻って来ていた。
欲望に従順に従うことにしてからは、よくクリティウスと共に交尾の真似事をするようになった。
二人のマスターの交尾を見せて貰ったお陰で、それなりに形になっている幸せな時間を過ごす事は出来ている。
しかし未だ真の交尾を行なえてはいない。
互いの身体に触れ合う事はとても気持ちが良くて、それはそれで良いと思うのだが、やはり彼の身体の中に入り込みたいと思ってしまうのだ。
月光に照らされながらそんな事を考えていたら、ふと自分に組み敷かれるクリティウスの姿を思い出した。
白い身体は上気してうっすらと紅く染まり、潤んだ紫紺の瞳がまるで縋るように自分を見詰めている。
そして荒い吐息の中から熱っぽくヘルモスの名前を呼ぶ紅い唇。
『ヘルモス…』
まるで幻聴のように頭の中に響いたクリティウスの声に、途端にドクンッ…と心臓が高鳴るのを感じた。
ヘルモスの中に、普段は忘れている欲が甦ってくる。
それにやれやれと深く溜息を付きながらも、口元に浮かぶ笑みを止められない。
そのままテラスから斜め下の部屋のテラスを覗き込むと、窓からカーテンが閃いているのが見えた。
「窓は開けっ放しか…。不用心だな、クリティウス」
乾いた唇を舌でペロリと舐めると、ヘルモスはテラスの柵を乗り越えてフワリと宙に浮かんだ。そしてそのままクリティウスの部屋のテラスへと飛び降りた。
はためくカーテンを避けて、キィ…という微かな音を立ててガラス戸を開き部屋の中に入り込む。
なるべく足音を立てないように窓際のベッドまで近付くと、そこにクリティウスが静かに眠っているのが見えた。
薄い掛布を身体に巻き付けるようにして、規則正しい呼吸を繰り返している。
金糸の髪が月光を反射して、その姿は幻想的な美しさに彩られていた。
「窓を開け放したまま寝るからだぞ、クリティウス。寒そうじゃないか…」
クスッと笑みを零しながらヘルモスはその薄い掛布を捲り、そのままベッドに乗り上げて、薄く開いた唇に自らの唇を押し付ける。
「んっ…」
眠り込んでいるクリティウスが微かな呻き声を上げるが、ヘルモスはそれを無視して薄い夜着の上からその細い身体を撫で回した。
さわさわと脇腹から胸までを掌で撫でつけ、やがて胸の尖りに到達すると、それを親指の腹で捏ねるように愛撫する。
「ふっ…ぁ…、んぅっ…」
クリティウスが突然の刺激に微かに喘いだ瞬間を見逃さず、ヘルモスは開いた唇の中に舌を押し込んだ。
奥に引っ込んだ柔らかい舌を追いかけて無理に絡め取り、溢れる唾液毎吸い上げて夢中で口内を犯す。
「んっ…! んん…ぅ…んっ」
口中を深く犯されて、その息苦しさにクリティウスが漸く目を覚ました。
キスに夢中になっていた為暫く気付けなかったが、何時の間にか本気で抵抗されていた為、仕方無く唇を離し身体を起こす。
ヘルモスに吸われていた為真っ赤になった唇で荒い息を吐きながら、クリティウスは潤んだ紫紺の瞳でヘルモスを見据えた。
「ヘル…モス…? 何だ…突然…」
絶え絶えの息で尋ねて来るクリティウスに、ヘルモスはフッと笑ってみせる。
「今宵は満月でな…。美しい月の光を見ていたら、急にお前が欲しくなった…」
「何だそれは…。私は月では無いぞ…?」
「いや…お前は月だよ。放つ光は清らかな癖に、その光で俺を常に誘惑する魅惑の月だ」
にやりと笑って放たれたヘルモスの台詞にクリティウスは暫くきょとんとしていたが、やがてプッと吹き出した。
肩を奮わせクツクツと笑いながら、涙目でヘルモスを見上げる。
「臭い台詞だな、ヘルモス。いつも直情的なお前には似合わない」
「………。悪かったな…。でも今夜そういう気分なのは本当なんだぞ」
「分かっている。私を欲しいなら欲しいとそう言えばいいのだ。こんな風に求められたら私だって…欲しくてたまらなくなる…」
紫紺の瞳に欲を滲ませ、クリティウスはヘルモスの首に両腕を掛け顔を近付けた。
そして柔らかな唇をそのままヘルモスの唇へと押し付ける。
次いで忍び込んできた熱い舌に再び欲を煽られ、ヘルモスは目の前の細い身体を力強く抱き締めた。
自らの口の中に引っ張り込むほどクリティウスの舌を強く吸い、それにクリティウスがビクリと反応したのに気を良くして唇を離す。
そしてそのまま額や頬や目元などにキスを落とし、やがて金糸の髪を掻き上げて現れた耳元に唇を寄せてボソリと囁いた。
「では言わせて貰うが…。俺は今お前が欲しいんだ…。貰っても構わないか?」
低く囁かれたその声にブルリと身震いをし、クリティウスはコクリと頷くと自らの夜着に手を掛けた。
「あっ…、んんっ…! ふぁ…っ、はぁ…」
夜更けの部屋にクリティウスの喘ぎ声が響く。
ベッドの上で俯せにされたクリティウスは、上半身をシーツに付け腰だけを高く掲げる格好で、ヘルモスが施す愛撫に翻弄されていた。
体内には既にヘルモスの指が三本も入っており、それが規則正しく時にはバラバラに動かされ、そこから生まれる熱と快感に耐えきれないとクリティウスは首を振る。
「ゃ…っ! あっ…も…もう…っ。あんっ…イキ…そ…」
身体を震わせギュッとシーツを掴み限界を訴えると、ヘルモスがクリティウスの前立腺をまるで引っ掻くように刺激してきた。
「んぁっ…! あ…あっ…ひゃうっ!! うぁ…っ! 何…で…ヘルモス…っ!?」
いつもの通り彼の施す愛撫に身を任せ達しようとしていたクリティウスは、ヘルモスが突然ペニスの根本を強く握って来た事で達することが出来ず、その事に驚愕して思わず後ろを返り見た。
そこには欲に浮かされたヘルモスが荒い息をつきながらクリティウスを見詰めている。
少しでも手の力を弛めればイッてしまいそうにパンパンに膨らんだペニスを、ヘルモスは更に力を入れて握り込んだ。
「くぅ…! い…痛…い…ヘルモ…ス…ッ!!」
達したいのに達せられないもどかしさと、ヘルモスに施される快感と痛みに、クリティウスはシーツを掻き集めるように身悶える。
月光が差し込む薄明るい部屋にクリティウスの白い背中が鮮やかに浮かび上がり、それがまるで何か別の生き物のようにうねる様を見ていたヘルモスは、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
指を差し込んでいる秘所がヒクヒクと動き、まるでもっと欲しいとでも言うようにその先の行為を促している。
「クリティウス…今…どうしても…」
「ん…ふっ…。ヘル…モス…?」
「どうしても…欲しい…」
「な…に…? っぁ…!」
突然ズルリと音を立てて、ヘルモスはクリティウスの体内に入っていた指を引き抜いた。
指がいなくなった事により、物足りなさそうにひくつくクリティウスの後孔にヘルモスは自らの熱く滾った自身を押し当てる。
先走りの液を馴染ませるように何度か擦りつけて、そしてそのままクリティウスの体内に入り込んだ。
「っ…!! ひっ!! あ…あぁっ!!」
予期していない突然の痛みと圧迫感、そして驚きと恐怖感にクリティウスはまるで助けを求めるように腕を伸ばす。
既にグシャグシャになっているシーツを掴み無意識に身体を上にずり上げてさせてしまうが、だがヘルモスは それを許さないかのようにクリティウスの細腰に腕を回し強く引き寄せた。
「あぁぁっ…!!」
そのせいでより深くまでヘルモスを銜え込まされ、クリティウスは高く悲鳴を上げてしまう。
「っ…!」
長い時間をかけて漸く全て収めきってしまうと、熱い息を吐き出してヘルモスはクリティウスの身体を見下ろした。
闇夜に浮かぶ白い身体が震えている。
「すまない…クリティウス…。痛かったか…?」
白い背中を優しく撫でながらそう尋ねると、暫くしてから微かにコクリと首が縦に動いた。
身体の震えは止まらず、今も微かに呻き声が聞こえている。
先程まで熱く勃ちあがっていたペニスも、今は力を無くしてしまったかのように萎えていた。
どうしても我慢出来ずに無理に挿入してしまったが、流石に少し可哀想になってくる。
熱く狭くヘルモスを締め付ける内部はまるで溶けてしまいそうなくらい気持ちが良くて、出来る事ならばずっと埋まっていたいと願ってしまう。
だけど自分一人だけがそう思っていてもダメなのだ。
何よりそんな自分を受け入れてくれるクリティウスこそが気持ち良くなってくれないと、こうして二人で繋がっている意味が無い。
苦し気に身体を硬くしているクリティウスに、ヘルモスは気遣うように優しく話しかけた。
「いきなりで悪かったな…。お前が本当に辛いなら、もう抜くが…」
そう言って腰を引こうとすると、クリティウスが慌てて首を横に振った。
「い…いい…っ。このまま…で…いて…」
「だがお前…、苦しいんだろう?」
「痛くても…苦しくても…いい…。だって…ずっとこうしたかったんじゃないか…っ」
シーツを必死で掴み大きく息を吐き出してなるべく身体の力を抜こうと努力しながら、クリティウスは震える声でヘルモスに訴える。
「今も…凄く…嬉…し…い…。やっと…一緒になれ…た…」
青冷めた横顔に嬉しそうな笑みが浮かぶのを見て、ヘルモスも覚悟を決める。
クリティウスの覚悟と勇気を無駄にする訳にはいかなかった。
ヘルモスはその白い背を抱き込むように前に倒れ、汗ばんだ掌を脇腹に這わせた。
荒い息を付き呼吸音が感じられるほど上下する腹や胸を優しく撫でて、やがて胸の突起に辿り着く。
先程、まだ眠っていたクリティウスに仕掛けた悪戯と同じように、既に硬くなっているその蕾を丁寧に指先で捏ねる。
「ぁっ…! ふぁ…んっ」
乳首への愛撫に弱いクリティウスは、途端に力を無くしてベッドに沈み込んだ。
へたり込みそうになる腰は片手で支えつつ、ヘルモスは胸への愛撫を続ける。
ひくりと動く背中の筋肉に惹かれ、そこに唇を寄せ強く吸い上げてやるとピクッ…と微かに反応を返してきた。
それに気を良くしてちゅっちゅっと音を立てながらゆっくりと上へ移動し、やがて辿り着いたうなじを強く吸い上げる。
「あっ…ん!!」
その途端、ビクリとクリティウスが背を反らして反応し、それと同時に内部が淫らに動いてヘルモスのペニスを締め上げた。
明らかな反応にヘルモスは胸を愛撫していた手をクリティウスの股間に移動させる。
そっとペニスを探ると、無理な挿入のショックで萎えてしまっていたそれが再び熱を持って勃ち上がっているのが確認出来た。
「クリティウス…、気持ちいい…のか?」
小さく尋ねると、クリティウスはコクコクと夢中で首を縦に振る。
クリティウスが漸く快感を感じ始めてくれた事に安堵し、ヘルモスはその細腰を両手でしっかりと支えた。
「それじゃ…動くから…。そのまま力抜いててくれ」
ヘルモスの言葉に、クリティウスはただ黙って、そしてしっかりと頷いて答えた。
月の光が見守るベッドの上で、二つの影が一つになっていた。
部屋にはベッドの軋む音と肉のぶつかる音に粘着質な水音、そして荒い吐息とクリティウスの喘ぎ声だけが響いている。
「はっ…ん!! あぁっ…ひぅっ! やっ…んぁ…っ!」
火傷しそうな程の熱の塊が何度も身体の奥を突いて来て、その感覚にクリティウスは夢中になっていた。
最初はただ闇雲に出し入れしているだけだったそれが、やがて自分が感じるポイントを的確に突いてくるようになり、今は襲い来る強烈な快感に翻弄されている。
ヘルモスに突かれる度に身体の奥がジンッ…と痺れ、熱が逆流する。
目の奥がチカチカと光り出し、クリティウスは己の限界が近い事を悟った。
「ヘ…ヘル…モス…ッ! も…う…ダメェ…ッ」
「クリティウス…? イキそう…?」
「あっ…う…っ。イ…キそ…。もう…無理…っ!」
目の奥の光はもう既に脳髄にまで届き、そこで一気にスパークした。
「ふぁっ…! あ…あっ…あぁっ!! あぁぁっ―――――!!」
背を大きく仰け反らせて達してしまう。
目の前が真っ白になり、ただただ身体の欲求に従って熱を放出した。
ビクビクと身体を痙攣させながら何度かにわたって精液を吐き出し、そしてその度に体内のペニスをギュッと締め付けてしまう。
それに「くっ…!」と苦し気な息を吐きながら、ヘルモスもクリティウスの体内に熱い精を叩き付けるかのように射精した。
お互いに気が狂いそうな程の絶頂から解放されて、共に力を無くしベッドに倒れ込む。
未だ息荒くピクピクと小さく痙攣しているクリティウスの身体を抱き寄せ、ヘルモスは満足気に大きく息を吐く。
汗に濡れた金糸の髪を掻き上げ、こめかみにそっと口付けた。
「大丈夫か…? クリティウス…」
心配して問いかけると、濡れた紫紺の瞳がちらりとヘルモスを見遣って、やがて静かに頷いた。
未だクリティウスの体内に入ったままだった自身をズルリと抜き去ると、眉根を寄せて「んっ…」と軽く呻く。
その様がまた美しいと感じ、ヘルモスはクリティウスを強く抱き締めた。
「クリティウス…。やっと…一緒になれたな…」
「そう…だな…」
「身体、大丈夫か…?」
「あぁ…。思ったよりも平気みたいだ…」
「そうか。良かった…」
ヘルモスは心底安心して安堵の溜息をついた。
その溜息にクリティウスも微笑んで、気怠い腕をヘルモスの身体に回し擦り寄っていく。
「なぁ…ヘルモス…」
「ん?」
「ありがとう…」
「ははっ…! それは俺が言うべき事だよ。ありがとうな、クリティウス…。俺を受け入れてくれて」
ヘルモスの言葉にクスリと笑い、クリティウスは幸せな気分で口を開いた。
「ヘルモス…。マスター達にお知らせしないとな。ちゃんと上手くいきましたよって」
「そうだな。また夢を利用して会いに行くか?」
「ふふっ…。いい加減にしつこいと叱られたりしてな」
「ありえそうだ」
二人で顔を見合わせて、幸せそうに笑い合った。
それから数日後、二人は夢を使って現実世界のマスター達に報告をしに行った。
前回のしつこさ故にまた叱られるのでは無いかと戦々恐々としていたヘルモスとクリティウスであったが、彼等の二人のマスターは報告を聞くと顔を綻ばせた。
そして怒るどころか、まるで自分の事のように喜んでくれたという。
そんな二人のマスターの反応を見て心から感謝した精霊達は、改めて互いのマスターに忠誠を誓ったのであった。