*ヘルクリシリーズ - 読んでみる - *夢の畔で戯れて(後編)

 次の日の夜、オレ達はまた揃って夢を見た。
 前の日の夜に約束したばかりなのにこれは一体どういう事だと憤慨していると、横にいた城之内がポツリと呟く。
「そういやオレ…昨日ちょっと気になった事があってさ…」
 複雑そうな顔でオレを見るその顔に、オレもまた溜息を付いて答えた。
「クリティウスの顔色か?」
「あぁ。何か最後真っ青になってて、オレ心配になったんだ」
 まぁ…性経験の無い奴がいきなりあんなもの見せられたんじゃ青くもなるだろう。ましてやクリティウスは多分オレと同じ受け側なのだ。急に現実を突きつけられて怖くなってしまったとしても仕方の無い事だ。
 オレの予想を肯定するかのように、何時の間にか目の前に現れたヘルモスが申し訳なさそうにしていた。
 それに気付いた城之内がヘルモスに近寄る。

「もう夢にはお呼びしないとお約束したのに…すみません…」
「何があったんだ?」
「実は昨日あれから二人で試してみたんです…。その…交尾を…。だけどクリティウスが泣いてしまって…」
「あ…やっぱ泣いちゃったんだ…」
「指だけでしたけど…酷く痛がってそれ以上先に進めなかったんです…。俺はどうしたらいいか分からなくなってしまって…」

 まるで怒られた犬のようにショボンとしている伝説の剣士は、見れば見るほど哀れに見える。
 周りを見渡すとそこは再び俺の私室になっており、いつの間に来たのか、ドアの側にクリティウスが立っていた。
「マスター…。申し訳ありません…」
 クリティウスが青冷めた表情で謝ってくる。
「あんなところに…あんな…。わ…私には…無理でした…」
 すっかり俯いてしまっている二体の精霊を交互に見て、オレと城之内は顔を見合わせて頷き合う。
 まずオレが無言でクリティウスにズカズカと近寄り、その腕を掴んでベッドに向かって引っ張った。
「マ…マスタ-!? 何をするんですか!?」
 オレの行動にクリティウスが抗議してくるが、そんなものは一切無視する事にする。
 ベッドの上にクリティウスを放り投げると、それを見越したように城之内もヘルモスを引っ張ってきてその上に投げ出した。
 慌てて起き上がろうとするクリティスを肩を押さえつけベッドに沈めると、そんなオレを見て城之内が「うん、よし」と言ってヘルモスの肩をぽんと叩いた。
「まずは中を慣らすところから始めようか、ヘルモス。突っ込むのはもっと後でも構わないから、とりあえず相手に気持ち良くなって貰わないとな」
 自信の無さそうな顔で「でもマスター…」と反論するヘルモスに、城之内は続ける。
「最初は仕方無いんだよ。元々受け入れる場所じゃないしな。でも、だからこそ時間をかけて慣らさないといけないんじゃないか」
 クリティウスはオレの腕の下で真っ青になって震えていたが、オレはそんな奴に微笑んで言ってやった。
「誰だって最初は痛いものだ。オレだって初めの頃は痛いわ苦しいわで暴れてまくって、城之内を困らせていたもんだぞ」
「マ…マス…ター…」
 オレがクリティウスの頭を撫でながら安心させている内に、城之内はヘルモスにローションを手渡している。
 クリティウスのローブを肌蹴けさせ肌を露わにさせると、羞恥の為かその白い肌がサーッと薄桃色に染まっていく。その光景は同じ姿をしたオレからみてもとても綺麗だと思えた。
 それは多分城之内が普段オレに見ている光景で、改めて確認させられてしまうと何だかこっちも変な気分になってきてしまう。
 そんなオレの思惑など知るよしもなく、ヘルモスが伸び上がってクリティウスにキスをしようとする。
 自分達と同じ顔をした他人が舌を絡ませる程の深いキスをしているのを見るのは、何とも妙な気持ちだった。城之内も同じ気持ちらしく、何とも言えない顔でオレを見ている。
 ヘルモスがキスを続けながら、右手をそろそろと下半身へと伸ばしていく。白く長い足の内側をなぞってやがて目的の場所に辿り着くと、今まで大人しく気持ち良さそうにしていたクリティウスが突然目を開けて暴れ出した。
「いやだっ…! 怖い…ヘルモス…っ!」
 昨日した行為が余程痛かったのだろう、さっきまで感じていた快感は全てどこかに行ってしまったようだった。
「大丈夫だから…。落ち着けクリティウス」
 オレはクリティウスの金髪をさらりと掻き上げその白い額に唇を落とした。
 すると途端に大人しくなるクリティウスに安堵する。
 城之内と付き合い始めた頃、初めてのセックスにパニックを起こしたオレに城之内はこうしてキスをくれた。恐怖が消えた訳では無かったが、何故かそれで落ち着いたのを思い出したのだ。
 昨日の夢の中で、ただ見ているだけなのにオレと同じように感じていたコイツを思い浮かべる。
 全く同じ姿をしているオレ達の事だ。もしかしたら感覚も同調しているのかもしれないと思い、自分がして貰って落ち着く行為をしただけだったのだ。
 案の定それが効いているようで、それを見ていた城之内も何かに気付いたようだった。
「なぁ、ヘルモス。クリティウスは意外と優秀かも知れないぜ?」
 そう言って城之内はヘルモスに対してニヤリと笑ってみせた。


「っ…! う…くっ! っい…!」
 ローションでたっぷり濡らしたヘルモスの指がクリティスの体内を探っている。
 クリティウスは相変わらず苦しそうな表情を緩めない。辛そうな顔で呻き声を上げる姿を見て、ヘルモスも戸惑いを隠せないようだった。
「マスタ-、やはり…」
 城之内の方に振り返り指示を仰ぐヘルモスに、城之内は「いいから続けろよ」と先を促す。
「多分もっと奥の方…。うんそうそう、そこら辺…」
 二人してクリティスの足の間を覗き込みながら色々試しているのを見ながら、オレはオレでクリティウスに助言をし続けた。
「いいからもっと力を抜け。悪い事にはならんからヘルモスを信じろ」
「マ…スター…、ぁ…ぅ!」
 オレの言葉に何とか身体の力を抜こうと努力しているらしかったが、上手く行かないらしくまた身体を硬くしてしまう。
 痛さと苦しさで涙をボロボロと流しているのを見て、流石のオレも可哀想に思えてきたが、だがここで終わらせてしまったらオレ達はまた夢の連鎖に捕らわれてしまう。
 それだけはもう勘弁して欲しかった。
 さてどうするか…とクリティスの身体を押さえつけながら考えた時だった、ふいに腕の下の身体がビクリと大きく撥ねた。
「ひぁっ…! あっ…な…に…?」
 クリティウス自身にも今自分が感じた感覚が何だか分かってないらしかったが、オレにはその感覚に覚えがある。何となく下半身も確認するが、やっぱりそこはオレと一緒で萎えた状態のままだった。
 普通だったらこの状態を見て感じてるなんて思わないだろう。だけどオレはよく知っていた。
「あ、やっぱり」
 城之内がオレの方を見て核心めいた笑みを浮かべる。オレはそれに苦笑で返すしか無かった。
「ヘルモス、続けてやってくれ。多分もう少しでイクから。ほら、さっきクリティウスが反応した場所があるだろ? そこを重点的に突いてやって」
 城之内の言葉に半信半疑のままヘルモスが指を奥に押し込み、先程クリティウスが感じたであろう場所をグリグリと押す。
 その度に短い悲鳴を上げビクビクと痙攣していたクリティウスは、やがてそのまま達してしまう。
「やっ…! いやっ…! 何…? やだ…っ! あっ…ぁっ…あぁ…うあぁぁ―――っ!!」
 性器は反応していないが、クリティウスは明らかに昇天してしまっている。
 ギュウ…ッとヘルモスの指を締め付けて、痙攣し涙を流してイキ続けるその姿は壮絶極まり無かった。
 その身体を押さえ込んでいるだけなのに、まるでオレ自身がイッているような感覚になって自然と息も上がってしまう。
 やがて唐突に力を無くした身体は、ガクリとベッドに崩れ落ちた。
 その姿を見て漸くクリティウスの体内から指を引き抜いたヘルモスは、混乱したように城之内の顔を見た。
「え…? い…今何が…?」
「あぁ、ドライでイッたんだよ。海馬もやろうと思えばそうやってイケるから、もしかしたらクリティウスもイケると思ったんだ。大正解だったな、なぁ海馬」
 その言葉にオレは赤い顔で頷く。
 流石に今ここでやる気は無いが、クリティウスのイク姿を見てオレの身体もすっかりその気になってしまっていた。
 くそっ…! 明日屋敷に呼び出して朝までやってやる…と思いながら眼下に目をやる。
 そこにはすっかり放心状態のクリティウスがいてオレを見上げていた。
「マスター…。うっく…。ひっく…」
 初めての感覚に混乱したのだろう。突然泣き始めてしまう。
 だけどオレはもうそんなクリティウスを慰める事はしなかった。何故ならそこから先はもうヘルモスの役目だから。
 オレの意図が伝わったんだろう。城之内もすっとそこから離れる。
「じゃ、オレ等はもう帰るから。後は二人で仲良くやんな。あ、そうそう。お前等オレ達よりずっと寿命長いんだから、あんま焦って全部やろうとするなよなー。ゆっくりでいいんだからなー」
 城之内の言葉にヘルモスが微笑んで頭を下げた。
 クリティウスはまだオレを見て泣いていたが、オレは敢えて視線を合わせる事はしなかった。

 もうオレ達の役目は終わったのだ。
 お前が頼りにしていいのはヘルモスだけで、オレじゃない。
 後は二人で何とかするのが、お前達の役目だ。

 オレはそう心で呟き、城之内と二人で夢から脱出した。


 それからのオレ達は、もうあの夢を見る事は無かった。
 一度だけ遊戯が「昨日夢の中にティマイオスが出てきて、二人に礼を言っておいてくれって言ってたよ」と教えてくれたが、それきりだった。
 毎夜安眠出来る事は嬉しいが、それはそれで少し寂しい気がするのは贅沢な悩みなのだろうか?
 そう零すと横にいた城之内が「ははは。オレもオレも」と笑って答えた。
 それでもまたいつかくだらない用事で呼び出されるような気がして、それはそれで悪くないと思いながらその日を待ちわびているオレ達だった。