*勇気の証明(完結) - 2 - ②side海馬

「一時はどうなることかと思ったけど、たまたま瀬人とモクバに発見されてね。そのお礼に今は僕がKCのサーバーを守ってるってわけさ。あぁ安心して。もう君らには何もしないよ。僕も心を入れ替えたんだ」

 空中で足を組みニコニコと微笑みながら話す乃亜に、城之内と遊戯はポカーンとそれを見つめている。
 その様子を海馬は後ろのディスクに座り、秘書が煎れてくれたコーヒーを飲みながら和やかに見ていた。

 アメリカで海馬コーポレーション独自のシステムやデータを洗いなおしていた時、その最下部から偶然モクバが乃亜のデータを発見したのだ。
 正直海馬にとってはどうでもよかったがモクバにとってはそうではなかったらしく、弟は懸命になってそのデータを修復した。
 復元した乃亜は最後の記憶データをきちんと所持していたらしく、自分達に向かって笑顔で謝罪とそして復元してくれた礼を述べ、自分も海馬コーポレーションの為に何かしたいと強く言ってきた。
 海馬もモクバも、最初は乃亜をシステムガーディアンになどする気は無かった。
 だが、そんな自分達に乃亜が「僕も海馬の人間だった。君達の為に何かがしたいんだ」と強く願い、二人は相談して乃亜に仕事を託すことにしたのだ。

「こうして再び外の世界を眺めて、君達と再会するなんて二度と無いと思っていたよ…」
 乃亜は少し寂しそうな笑顔を浮かべて、城之内と遊戯に話しかけている。
「ずっと暗くて冷たくて重い場所にいたんだ。あの爆発に巻き込まれて僕のデータはボロボロに破損してしまって、でも仕方ないと思っていたんだよ。君達にあんなことをしてしまったし、何より本当の僕はとっくに死んでいて、ここにいる僕はただの0と1の集合体だ。だからこのままここで静かに眠っているのが、誰にとっても一番いいことだと思っていたんだ」
 そこまで言うと乃亜はモクバを振り返り、今度は明るく笑う。
「だけどモクバが…、僕にもう一度光を見せてくれた。あの時の感動は忘れないよ」
 乃亜と視線を合わせて、モクバが照れたように笑い返した。
 それを見て、乃亜は今度は海馬のほうにいたずらめいた微笑を向ける。
「僕はその時誓ったんだ。もう二度と同じ過ちはしないと。それからまがりなりにも海馬の人間として、大事な二人の弟達の力になるとね」
「フン」
 乃亜の言葉を受けて、海馬が居心地が悪そうにそっぽを向く。
 そんな海馬に意外だと感じていると、いつの間にか傍に来ていた木馬が城之内にそっと呟いた。
「本当は乃亜のと一緒に剛三郎のデータの破片も見つけたんだけどさ…。無視しちゃった。だってもう兄サマにあんな思いさせたくないし」
 内緒だぜ?とコソリと囁くモクバに、城之内は黙って笑顔で頷いた。


 その後乃亜は、海馬コーポレーションの高レベルヴァーチャルシステムについて、二人と真剣に話しているようだった。
「だからね、今までの既存のオンラインゲームとかだとさ。髪型や髪の色、体格とか顔のグラフィックの違いなんかで何パターンか違うキャラが出来るけど、それにも限度があっただろう?」
「うーん、確かに。僕も最近じゃ色んなオンラインゲームやってみたりしてるけど、どんなにオリジナルのキャラ作ってみても、結局他の誰かと被る事はあるよねー」
 遊戯が乃亜の言葉にうんうんと頷く。
「だけどさ、君らが僕にヴァーチャル空間に引き込まれたとき、自分達のグラフィックは現実世界と変わりなかっただろ?」
 乃亜の発言に城之内が「おー! そういえば」と大きな声を出した。
「そういやアレは凄かったな。だって途中まで自分達がヴァーチャル世界にいるデータ上の存在だってこと、全然気付かなかったもんなぁ」
「だろ? アレがKCの技術の凄いところなんだよ。ヴァーチャル世界に入るために必要なカプセル状のBOXがあったの覚えてる? アレの中で当事者の呼気や髪の毛や皮膚細胞の成分からDNAを割り出して、そのデータを今度は0と1に還元して個人認識記号を作り、最終的にヴァーチャル空間でのグラフィックデータを作り出しているんだ」
 乃亜の説明に遊戯は感心したように夢中で聞いているが、城之内の方はそろそろ付いて行けないらしく「うがー!」と喚いて頭を抱えていた。
「着ている服とか髪型とかはスクリーンショットを撮って瞬時に反映出来るようになっている。まぁこの技術の大半を確立したのは瀬人の力なんだけどね。何だかんだ言ったって、我が海馬コーポレーションの総帥は凄いよねぇ」
 それを聞いて城之内が海馬の方に振り返る。
 一瞬眼が合うが、海馬はつとその視線を避けてしまった。

 あの城之内の真っ直ぐな視線を真っ向から受け止めるのは、まだ無理だと海馬は感じていた。