十月二十四日二十二時。
赤いペンで十月二十四日の日付に×印を付け、オレは軽く溜息を吐いた。
今日の夜…城之内が邸に泊まりに来る。いや、多分もう来ているだろう。一時間ほど前に『先にお前ん家行ってるから』というメールを貰っていたのを思い出した。机の上に置きっぱなしだった携帯を取り上げて、中身を開いてもう一度メールに目を通してみる。
件名は『待ってる』。中身は『先にお前ん家行ってるから』と、それだけの一文。
たったそれだけのメールなのに、ちょっと見ただけで一気に顔が赤くなり、頬が緩んでにやけてしまうのを止められない。
そう…。オレは今夜、城之内に抱かれるのだ。念願のセックスをして、そして誕生日の朝を城之内と共にベッドの中で迎えるのだ…っ!!
途端に脳裏を駆け巡る様々な妄想に、オレはゴンッと机に頭を打ち付ける事で全てを消し去った。額が少々痛いが、そんな事に構ってはいられない。
オレがこれから体験するのは、夢にまで見た城之内との現実のセックスなのだ。妄想などと言うつまらぬ物で、この幸せな気持ちを昇華させたくは無い。
手に持っていた携帯に映し出されているメールから『返信』を選び、オレは「もうすぐ帰るから」と短い文章を打って送信ボタンを押した。そしてそのまま帰り支度をする為に立ち上がる。クロークの中に収められていたジャケットを羽織りながら、オレは自分の掌をじっと見詰めてみた。
数時間後に体験する事への期待なのか、それとも戸惑いなのか。その手は微かに震えていている。
「けれど…怖くは無い…」
そう。手は震え心臓はドクドクと煩いくらいに高鳴っているというのに、恐怖は微塵も感じていないのだ。代わりに感じるのは期待感と高揚感。そしてやっと城之内のものになれるのだという幸福感と安心感。
震え続ける手をギュッと強く握って、オレは城之内の待つ場所へ帰る為に一歩を踏み出した。
「おかえり」
自室でオレを出迎えてくれた城之内は、既にTシャツとスウェットという格好だった。髪が濡れているのを見る限り、どうやらもう風呂は済ませてしまったらしい。
「ゴメン。風呂先に頂いちゃった」
「構わん。オレもすぐに入ってくるから…」
「飯は? 腹減ってないの?」
「いや。社で簡単な夜食を食べて来たから、もうこれで充分だ。貴様の方は? 夕食はもう食べたのか?」
「うん。家で済ませてきちゃったから大丈夫」
一見、他愛の無い会話にも見えるが、お互いにそれとなく緊張しているのが分かる。会話がどこかギクシャクしているのだ。その証拠に、普段だったら真っ直ぐ人の目を見て会話をする城之内が、読みもしない経済誌なんかを広げながらチラチラと視線を行ったり来たりさせている。
だが今だけは、そんな城之内の態度がありがたかった。これで真っ直ぐに見詰められたりしてしまったら、きっと恥ずかしくて堪らなくなっていただろうから…。
「で…では、風呂に入ってくる」
「う、うん」
二人っきりの空間にいよいよ押し迫った時間を感じて、お互いに目も合わせる事も出来ないくらいに緊張してしまっていた。だがこの緊張感は嫌いでは無い。向こうも同じ事を考えているのだろう。理解出来ない経済誌を読みながら、幸せそうに笑っているのが目に入ってくる。
その笑顔に何となく安心して、オレは風呂に入る為に浴室へと向かっていった。
風呂から上がりパジャマに着替えて、オレ達は明かりを落とした寝室で何気ない話を続けていた。すぐに事に及んでも良かったのだろうが、何となく二人して日付が変わるのを待っていたのである。
そして数分後…。枕元に置いてあるデジタル時計の表示が十月二十四日から十月二十五日へと変わっていった。
「海馬。誕生日おめでとう」
会話をしながらも何気なく時計を気にしていた城之内が、日付が変わった瞬間にオレにそう言ってくれた。その穏やかな笑顔に嬉しくなって、「ありがとう」と素直に返す。
暫くお互いに黙って見つめ合って、そしてゆっくりと城之内が動いた。自らの身体をオレにピッタリと寄せ、更に背中に回した腕でオレの上半身を引き寄せる。近付く顔に瞳を閉じると、そのまま唇にキスをされた。
最初は触れ合うだけの軽いキスを何度か受け、その後深く唇が合わさってくる。下唇を舐め上げる熱い舌に促されて口を開くと、途端にそれがヌルリと入り込んできた。奥に引っ込んだままだったオレの舌に激しく絡みつかれる。ピチャピチャという濡れた音が、静かな寝室に鳴り響いた。
「ふっ…ん! んっ…んんっ…ぅ…っ」
ゾクゾクと背筋を駆け上がる快感に、城之内の着ているTシャツを強く握りしめる。鼻から漏れ出る声が自分でもいやらしいな…と思った時、突如視界が反転して、次いで背中に柔らかなマットの感触が感じられた。一瞬何が起きたのか分からなくてキョトンとするオレを、城之内が酷く男らしい顔をして覗き込んでくる。
その体勢で、オレは漸く自分が城之内にベッドに押し倒されたんだと知った。
「怖い?」
心配そうな城之内の質問に、オレは首を横に振って答えた。
怖くなんてない。恐怖心なぞ微塵も感じていない。
「怖い筈…なかろう。こうなる事は、オレが最初に望んだ事だ」
そう告げると、城之内は「そうだったな」とクスクス笑いながら答えた。
「でもさ、いざってなると…っていう事も考えられるじゃんか。オレ…お前の事を本気で愛しちゃったからさ、お前が嫌だなーとか思う事をしたくないんだよね」
「嫌なら嫌と最初から言っておるわ」
「うん、そうだよな。お前はそういう奴だ。だから…さ。だからオレももう遠慮したりしない。欲しいものはちゃんとこの手に入れる事にする。お前と一つになる為に…、今日はずっとお前と一緒にいるから」
「城之内…」
もう一度キスをする為に近付いてくる顔を、オレは自ら引き寄せる為に城之内の後頭部に手を差し入れた。柔らかく重なる唇に、自分の心が甘く解けていくのを感じる。
もうこの熱は…手放せないと思った。
数刻後。城之内の手によって、オレはすっかりあられも無い姿にされてしまっていた。パジャマのズボンは下着ごと足から抜き去られ、上着も前面のボタンを全て外されている。今は肩も剥き出しになり、パジャマは何とか腕に引っかかっているだけの状態だ。
そんな格好で、オレは身体のあちこちに押し付けられる城之内の熱い唇を受け止めていた。
城之内自身は既に全裸になってしまっている。彼の熱い体温がオレの肌に直に触れる度に、じわりと体温が上がる気がした。
「あっ…! んっ…ぅっ」
首筋辺りを彷徨っていた唇が降りてきて、突如乳首を強く吸われてしまう。途端にジンッ…とした快感が脳裏に辿り着いて、オレは我慢出来ずに声をあげてしまった。自分でも信じられないような甘い声が辺りに響き渡る。
そんなオレに城之内は満足そうに笑い、指先でピンッと硬くなった乳首を弾く。またそれだけでも酷く感じてしまって、オレは相次いで甘く喘いでしまった。
「あっ…やっ…」
「あぁ、やっぱりココ感じるんだな…。そんなに気持ちいいの?」
城之内の言葉に必死になってコクコクと頷く。
まるで胸の内側から炎が燃え立つようだった。
「もっと…して欲しい?」
熱っぽく囁かれたその声に、オレは素直に頷いて答える。
オレが頷いたのを確認した城之内の顔がゆっくりと自分の胸に落ちてくるのを見て、オレは瞳を閉じて身体の力を抜いた。熱を持った掌がオレの肩を押さえつけるのを感じて、そして…。
「んぁっ…!」
チュクッ…という音と共に乳首を舐められて、途端に駆け巡った快感に思わず高い声が出てしまった。
指先まで痺れる程の快感に身を捩らせていると、オレの乳首を甘噛みしていた城之内がクスクスと笑い出す。そして肌を撫で擦りながら左手を下に移動させつつ、「今からそんなんじゃ、先が思いやられるな…」と熱っぽく囁いた。その声が微かに震えているのが気になって、そっと目を開けて城之内の顔を盗み見てみる。自分の胸に顔を埋めている城之内の表情を見て…、そしてオレは後悔した。
そこにいたのはいつもの城之内では無かった。潤んだ瞳と上気した頬とにやけた口元。荒い呼吸が『男』を感じさせて、オレは思わず目を逸らしてしまう。
こんな…こんな男に…っ。こんな格好良い男にオレは抱かれようとしていたのか…っ!!
城之内の格好良さに改めて気が付いて、身体全体が発熱したかのようにカーッと熱くなった。あれ程求めていたというのに、一気に恥ずかしくなって耐えられなくなる。
思わず腕で顔を覆い隠したら、その手はあっという間に優しくどけられてしまった。
「海馬…? 何? どうしたの?」
「あ…っ。城之…内…っ」
「嫌になっちゃった?」
「ち、違…う…っ」
「じゃ、恥ずかしくなっちゃった?」
「っ………!!」
「あはは。ビンゴ!」
「っ…んっ。ふっ…!」
「でも悪いけど、もう止めてあげられないから…」
「分かって…い…る…っ」
顔の上に腕を置くと城之内によってどけられてしまう為、オレはシーツを強く握って顔を背けた。そんなオレに城之内はクスリと笑うと、左の腰を掴んでいた手を再び移動させる。そしてそれは程なくオレの下半身へと辿り着いた。
指先で内股をそろりと撫で上げ、そのままペニスをやんわりと握られてしまう。
「あっ………!!」
その刺激に身体が勝手にビクリと跳ね、目をギュッと瞑った拍子に涙が一粒眦から零れ落ちた。
快感に震えるオレの身体を自分の身体を使って押さえつけながら、城之内はペニスを握った手を優しく上下させる。既に先走りの液で濡れていたのだろう。すぐにグチュグチュという濡れた音が辺りに響いて、恥ずかしくて死にたくなった。
「あぁっ! ふぁ…あっ…!」
「凄い…お前…。滅茶苦茶気持ち良さそう…」
「やっ…! ダ…ダメだ…っ!!」
「何がダメ? 気持ち良いんだろ?」
「だって…っ! もう…っ!」
「もう…?」
「も…う…っ! あっ…! ふあぁぁ…っ!?」
急激に高められていく快感に、オレは耐える事が出来なかった。何とか我慢しようと思ったものの、それはあっという間に弾けて城之内の手にドロリとした精液を吐き出す。ビクビクと身体を震わせて達する事の気持ち良さと、城之内の手を自分の精液で汚してしまった罪悪感で、オレの頭はグチャグチャだった。知らず流れてくる涙でぼやける視界をボンヤリと天井に向けたまま、オレはグッタリとシーツに沈み込む。
「大丈夫?」
城之内が心配そうに声をかけてくるけれど、反応すら出来ない。どこか夢心地な気分で荒い呼吸を整えていると、突然下半身にヌルリとした触感を感じて再び跳ね上がってしまった。
「ひゃっ…!?」
「あ、ちょっと大人しくしてて」
「やっ…! な…何…っ?」
「いいからそのままじっとしててな。これから慣らしていくからさ…。いきなりは無理だろ?」
城之内の台詞で、彼が手に付いたオレの精液を使ってこれから後ろを慣らしていこうとしている事が判明し、その事実に思わず血の気が引いた。
男同士のセックスでは『そこ』を使う事は既に調べは付いている。いきなりの挿入は難しく、しっかり慣らさないと双方共に痛みを感じてしまう事も、更に受け止める側には酷いダメージが残る事も…知っている。
けれど頭で理解している事と実際にやられる事とでは、全く印象が違うのだという事に、漸くオレは気付いたのだ。
ヌルヌルとオレの後孔を探る指先に、とんでも無く羞恥心を感じてしまう。探るように蠢いた指がやがてツプリと体内に入ってきて、オレは耐えきれずに悲鳴をあげてしまった。
「い…やぁ…っ…!」
「あ、こら! 暴れんなって! ちょっとの辛抱だから…」
「いや…っ。もう…嫌だ…っ! も…もういいから…っ! 早く挿れて…くれ…っ!」
「何言ってんの。まだダメだって。初めてのセックスで怪我したいの?」
「そ、それは…。嫌…だ…が…」
「な? だからもうちょっと我慢して。悪いようにはしないから」
城之内はなるべく優しい声でオレを宥めてくれた。その声に何とか落ち着いて、オレは深呼吸と共に身体の力を抜いてベッドに沈む。
体内に入れられた指はいつの間にか二本になっていて、それが蠢く度に不自然な圧迫感がオレを襲う。その度に軽く呻いてしまっていたのだが、突如今まで感じた事の無いような刺激が背筋を物凄い勢いで駆け上がっていった。
「ひぃっ…!?」
一体何が起こったのか分からなくて混乱してしまう。
前には触られていない。触られているのは後ろだけ。なのに何故急激な射精感に襲われたのか理解出来なかった。
どうしたらいいのか分からなくなって助けを求める為に城之内に視線を向けたら、城之内の方は特に焦った様子は見受けられなかった。それどころか静かに優しく微笑んで、オレの事を見詰めている。
「あっ…! うんっ…あぁっ!」
「見付けた…」
「な…何…を…? あはっ…んっ!!」
「お前の前立腺。ここ…気持ちいいだろ?」
「あっ…あっ…。や、やめ…っ!」
「男はね、ここが気持ちいいんだってさ。オレはやられた事が無いからよく分からないけど、でもどうやら正解だったみたいだな。良かった」
「あっ…うっ…! やぁ…っ! 変に…なりそ…っ!」
「これなら…大丈夫かな…」
激しい快感に身悶えていると、突然体内から指が引き抜かれてしまった。圧迫感から解放された安心感と、体内から去ってしまった熱を惜しむ気持ちが綯い交ぜになってしまう。どうしたらいいのか分からなくなって、恐る恐る目を開けてみると…。丁度城之内がオレの足を抱えあげているのが目に入ってきた。
「そのまま…力抜いてて」
「え…?」
何を…? と聞こうと思って、だがそれは出来なかった。
熱くて硬いモノが自分の入り口に押し当てられたのを感じて…、その正体が何であるのか、一気に理解したからだ。
慌てて意識的に身体の力を抜くと、それを見計らった城之内がぐっと腰を進めてきた。
「ひぐぅっ…!!」
途端に感じる強い圧迫感と激しい痛みに、思わず息が詰まる。シーツを力一杯掴んで痛みに耐えていたら、その手を熱っぽく汗に湿った手が優しく取り上げてくれた。そしてそっと城之内の背中へと導かれる。
汗でびっしょりの背中に触れて、オレはゆっくりと目を見開いてみた。その途端、眉根を寄せ辛そうに何かに耐えている城之内の顔が目に入ってくる。
その表情の色っぽさに、ドクン…ッとオレの心臓が一際高く鼓動した。
「城…之…内…っ」
「ゴメン…。痛いし…苦しいよな? でも、もうちょっとだけ頑張って。オレの背中に爪立ててもいいから…」
「っ…! ふぅ…っ!」
「なるべく身体の力抜いて…楽にしてて。とりあえず全部挿れちゃうからな」
「あっ…! くっ…あぁっ!!」
ググッ…と押し入って来た熱の固まりに、耐えきれずに悲鳴を放つ。痛いし苦しいし辛かったけれど、それでもオレは逃げ出す事だけはしなかった。どんなに苦しい思いをしても、体内にあるこの熱を手放そうとは微塵も考えつかない。むしろこの熱が自分の体内にあるという事実が、オレは愛しくて堪らなかった。
カリリと背中に爪をたてながら、オレは身体を密着させ城之内の首筋に顔を埋めた。そしてその場所で思いっきり息を吸い込む。汗に塗れた城之内の男らしい体臭が胸一杯に広がって、それだけで安心してしまう自分が酷く単純だと感じて、妙におかしくなってきてしまった。
堪らずふふっ…と笑みを零すと、それに気付いた城之内が訝しげに覗いてくる。
「何? どうしたの? 笑っちゃったりなんかして…」
「いや…別に…」
「オレなんか変な事…した?」
「そうではない…。ただ…ちょっと…」
「ちょっと?」
「いや、かなり…。幸せだな…と…思ってな…」
体内にある熱の固まりは、未だその衰えをみせない。それどころか少し体積を増やしているような気さえする。だが随分長い事じっとしていた為に、オレの身体の方も段々と慣れてきたらしい。もう余り辛いとは感じなかった。
背に回した腕をギュッと力を入れて抱き締めて、そしてオレは城之内の耳元に囁いた。
「城之内…。もう…動いて…」
なるべく低く、なるべく濡れた声で、城之内の劣情を刺激するように意識しつつ言葉を吐く。
案の定、顔を埋めている喉元からゴクリという音が響いて、途端に強く抱き締められてしまった。余りに強く抱擁された為に、一瞬息が出来なくなる。それでもオレは城之内を拒絶するような事はしなかった。
その腕の強さそれこそが、城之内の想いの深さだと…そう感じたから。
あとはもうなすがままに揺さぶられるしか、オレに道は残されていなかった。
「あぁぁっ…!! ひぁ…っ!! あっ…あぁっ!!」
聞こえるのはギシッ…ギシッ…というリズミカルなベッドの軋み。肌と肌がぶつかる音と、同時にジュップジュップという卑猥な水音。耳元にかかる城之内の熱い吐息と荒い呼吸音。そして自らの喘ぎ声。それら全てが今、オレの全身を支配していた。
最初に感じていた痛みや苦しみは、途中から全く感じなくなっている。その代わり感じているのは、先程指で後孔を解かれている時に感じていたあの耐え難い感覚だった。しかも指で触られていた時の比ではなく、今はもっと強い刺激に翻弄されてしまっている。そこを城之内のペニスで強く突かれる度に、脳裏が真っ白になり身体が痙攣する程の快感に襲われた。
「ひっ…! あっ…あぁん…っ!! あぅ…っ!!」
「気持ち…いい…? ここ…?」
「うっ…! あぁ…っ! そこ…が…いい…っ!! お…かしく…なるぅ…っ!!」
「うん…分かった…。それじゃ…一緒に…、おかしくなろう…か…?」
「はっ…ぁ…! ひゃあぁぁ…っ!!」
「海…馬…っ!!」
足を高く持ち上げられ城之内の肩に担がれて、更に深く身体を重ね合わされる。途端に奥の奥まで入ってきたモノにあの場所を強く擦られ、駆け上がってきた強烈な快感にオレは耐えきれなかった。
「うっ…あっ…ああぁぁぁ―――――――――――――――っ!!」
もう何も考えられない。頭どころか自分の身体の中身全てが真っ白に染まって、空っぽになってしまったかのように感じてしまった。激しい痙攣が全身を襲い、大量の精液を吐き出しながら達してしまう。
必死で目の前の身体にしがみついて数度に渡って射精をしていたら、自分と同じように城之内が痙攣しているのに気が付いた。それと同時に体内の最奥で感じるペニスの震えと温かな熱の広がりに、彼もまた達したのだという事を知る。
途端に胸に広がった幸福感に、オレは深く深く息を吐き出した。
城之内がオレで感じてくれた…そしてオレで達してくれたという実感が湧き上がる。
幸せだった…。好きな人と結ばれるというのは、こんなに幸せな事だったのかと改めて強く感じさせられた。
「海馬…っ! 大丈夫…か…?」
いつの間にか軽く意識を飛ばしていたらしい。ペチペチと軽く頬を叩かれて、オレは重い瞼をそろりと持ち上げた。目の前には心配そうな城之内の顔があって、真剣に自分を見詰めている。オレはそんな顔に微笑みかけて、「大丈夫だ」と安心させるように口を開いた。
「もう…平気だ…」
「ゴメン…。少し無理し過ぎた…っ」
「そうか…? セックスとはこれくらいが普通なのではないか…?」
「いや…それは慣れてればの話だろ? オレ達は初めてだったんだからさ…。ホントに大丈夫か? 痛いところ無い?」
「………。あ…あそこ…が…、少し…痛い…くらいだ…」
「あ、ゴメン! まだ入れたままだった!」
「っ………!!」
オレの訴えに城之内が身を引いてペニスを抜いていく。圧迫感が消えると同時に、内股にトロリとした液体が零れるのを感じて、オレはまた顔に血を昇らせてしまった。
よく考えてみなくても…その液体は多分…城之内のアレであろう。
本当に城之内が自分の体内で達したという事を強く感じさせられて、改めて恥ずかしくなってしまった。
「何だ、また恥ずかしくなってるのか…。ホントにもう…可愛いな」
すっかり顔を赤くして顔を逸らせたオレに城之内は苦笑して、けれども愛しそうに頬にキスを落としてくれた。チュッ…という軽いキスの音が、今は余計に羞恥を誘う。
口元に手を当てて恥ずかしさに耐えているオレに、城之内はするりと身を寄せてきた。そしてギュッと強く抱かれる。まだ熱い胸元に抱き込まれ、オレは城之内の胸に耳を当て彼の心音を聞いていた。ドクン…ドクン…と強く打ち付ける城之内の心臓の音。少し落ち着いて大分リズムは穏やかになったようだったけど、それでもまだ少し早いような気がしてならない。
それは彼もまた、未だ興奮から覚めていないからなのだろうか?
「好きだよ…、海馬」
静かに告げられたその言葉に、オレは城之内の胸元でコクリと頷いて答えた。
「オレ今すっげー幸せ感じてる…。人を好きになってこんなに幸せになれるだなんて…知らなかった」
「オレもだ、城之内…。オレも…幸せだ」
「海馬、大好きだよ。愛してる」
「オレも…愛してるぞ、城之内」
「お前を抱けて…本当に良かった…」
「オレも…だ…。オレも…お前に抱いて貰えて…嬉しかった…」
顔を上げれば、穏やかな瞳をした城之内と目が合う。その瞳が優しく細められて、そして顔が近付いて来た。
「んっ………」
オレの唇を啄むように繰り返される優しいキスに酔いしれる。どちらかともなく抱き合って、何度も何度も甘いキスを繰り返した。
何度目かのキスの後、城之内が耳元で「誕生日おめでとう」と囁いてくれた。それがどんなに甘美にオレの耳に届いたか。多分城之内には分からぬであろう。
だがきっと、城之内にも分かる時が来る。三ヶ月後の…彼の誕生日には…きっと。
「愛してるよ、海馬」
「オレも…愛してる…、城之内」
お互いに強く抱き締め合いながら、クスリと笑い合った。
その後、オレの隣でぐっすり熟睡している城之内の顔を見ながら、オレは幸せに浸っていた。
ありがとう、城之内…。お前のお陰で、オレは初めて自分がこの世に生まれてきた事を、見えない何かに心から感謝する事が出来たんだ。
オレがこの世に生まれて来た事。そして三ヶ月後に城之内が生まれて来た事。そしてこうして出会えて、身も心も結ばれた事。
それら全てを感謝しながら、オレは眠りにつく為に瞼を降ろした。
愛しい人の熱をすぐ隣に感じながら…。