*真実の証明♀(完結) - それでも読んでみる! - 焦燥

 四時限目の体育が終わった後、オレ達は着替えて屋上に向かった。
 最近は天気のいい日は屋上で弁当を食うのが日常となっていたので、今日も上機嫌で屋上に続く扉を開く。
すると奥の方から話し声が聞こえてきた。声の感じから杏子と海馬であろう。
 そう言えば女子は少し早めに体育が終わっていたなと思いながら二人に近付くと、突然杏子が海馬にビシッと指を突きつけて言い放った。
「なってない! なってないわ、海馬君!!」
 おぉい!! あの海馬に指を突きつけるなんて…、杏子すげーよ! じゃなくて怒られるだろ!? 現にオレは朝怒られた…。
 杏子の余りの剣幕にオレを含めた男連中は、思わず給水塔の影に隠れてしまう。
「あれ…杏子、やばいんじゃない?」
 心配そうにボソボソと喋ってくる遊戯にオレは頷いた。
 それに対して漠良が暢気に言い放つ。
「大丈夫じゃない? いくら海馬君でも学校の屋上で殺傷ネタとかやんないでしょー」
 クスクスと笑う漠良に、それでもオレと遊戯と本田は冷や汗ダラダラだった。
 いや…だってさほら、やりかねないじゃん! あの海馬なんだぜ!!
 心配しながら耳を傾けていると意外にも何も問題は起こりそうもなく、それどころか杏子に返す海馬の声も穏やかだった。

「やっぱり…そうなのか?」
「勿論よ! 今時木綿のスポーツブラとショーツだなんて! 小学生だって着ないわよ!!」

 杏子の爆弾発言に再び吹き出しそうになるのを、オレ達は互いの口を押さえる事で我慢した。
 そう言えば四時限目は体育で、多分杏子は着替えの時に海馬の下着を見たのだろう。
 いや、それは分かる。分かるんだが…。
 杏子…凄過ぎだよ…お前…。
「結構着心地がいいんだが?」
 首を傾げて海馬が反論するが、それに対して杏子はブンブンと激しく首を横に振った。
「ダメダメ! 海馬君、今度私がよく行く下着専門店に一緒に買い物に行きましょう! レースとかリボンとか可愛いの一杯あるから。女の子は見えないところのお洒落にも気を遣わなきゃダメなのよ!」
 杏子の言葉に海馬が素直にコクリと頷く。
 その姿にちょっと「可愛い…」とか思ってしまったオレは、自分の感情に酷く驚いた。
 今まで男と信じて疑わなかった奴が突然自分は女だと暴露してちゃんと女の格好してるだけで、「可愛い」とか思っちゃうとか何だよ有り得ない。
 今まで流れていた冷や汗とはまた別の汗が出てきて一人であたふたしているのを、遊戯が不思議そうに本田が可哀想に漠良がにこやかに見ていた。


 すっかり出るタイミングを逃してしまったオレ達は、二人の会話が落ち着いたのを待ってわざとらしく出て行った。
 そして皆で一緒に弁当を食べる。
 海馬の手元を見ると女子らしい小さめの弁当箱に、本格的な和風のおかずが詰まっていた。
「すげーな、それ。やっぱ海馬家専用のシェフとかが作ってるのか?」
 思わず覗き込んで軽い気持ちでそんな事を言うと、海馬が「いや」と否定した。
「この弁当は自分で作ったのだ」
 実に簡単にそうに言った海馬を、全員が目を丸くして見つめてしまう。それを軽くあしらいながら海馬が続ける。
「女に戻ったからには料理や裁縫も出来なければならないだろう。かといってオレは常に忙しい身であるから、なかなか本格的に料理をする時間が無い。まぁ学校に行く時の弁当くらいだったら大した時間もかけずに出来るから、これ位は…な」
 そう言って美味そうに焼けた卵焼きを自分の口に放り込んだ。
「あの海馬が…。嘘だろ…?」と完璧に固まってしまった俺達を余所目に、海馬は我関せずと口の中の卵焼きをもくもくと租借していた。つかコイツ、今日何回オレ達を固めれば気が済むんだよ…。
 そうこうしている内に自分の弁当をさっさと食べ終わってしまった海馬は、丁寧に自分の弁当箱を専用の巾着袋にしまうと、スッと立ち上がりオレ達を見下ろして言い放った。
「早く食べろ凡骨共。貴様等男のくせにそれ位ちゃっちゃと食べれんのか。早くしないと五時限目が始まるぞ」
 そして同じように弁当箱を仕舞った杏子に「真崎、教室に戻るぞ」と声をかけると、共に屋上から去っていく。
「じゃ、お先に~!」と嬉しそうに海馬と共に教室に戻っていく杏子を見送り、予鈴が鳴る中オレ達は慌てて自分達の弁当をがっついた。
 先程の海馬の態度に複雑な気持ちを隠せないオレ達の中で、漠良だけが「凄ぉ~い海馬君! 女王様だ! アレって女王様だよね!」と異様に嬉しそうにしていたのが凄く印象的だった…。