「城之内…? 冗談だろう…?」
俺の発言に海馬が震える声で訪ねてきたけど、オレは黙ってそのまま睨み付けてやる。
不良時代に鍛えた精神力で冷たい表情は変えないまま、心の中ではずっと焦っていた。
早く怒れ。そして早く逃げ出してしまえ。オレの決心が鈍らない内に…と。
だけど海馬は事もあろうに自分のスカートの裾を握りしめて、そろそろと上に持ち上げ始めた。
白いレース地に青いリボンがあしらわれた下着が眩しく見えてドキッとする。
完全にスカートを持ち上げて海馬は真っ赤な顔で泣きそうになりながらも、オレに「犯して…く…だ…さい」とはっきり言った。
おいおい…何やってるんだコイツは!!
オレはもう完全に頭にきて、ズカズカと海馬に近寄ると布団の上にその細い身体を押さえつけた。
布団の上で海馬が息を飲んで身を固くする。
オレだって本当はこんな事したくないけど、こういうヤツには無理矢理にでも教えてやらなくちゃいけないんだ。
「ほら、もっと足開けよ。犯して欲しいんだろ?」
小さな膝頭に手を当てて、グイッと足を開いてやった。
海馬は俺の行動に顔を背け、下唇を噛んで耐えている。青い瞳が潤んで、今にも涙が零れ落ちそうになっていた。
それを見てこれから自分がやろうとしている事に一瞬躊躇するけど、コイツの為だと自分に言い聞かせて行為を続ける事にする。
嫌われるのなんて…覚悟の上だった。
「柔らかいな」
ふっくらと盛り上がった秘所に、下着の上から指を這わせる。何度か往復してそのまま布の上からグッと押し込むとヌルリと濡れた感触がして、指先がジワリと温かく湿ったのを感じた。
「へぇー、もう濡れてんじゃん。何? 興奮してんの?」
わざと言葉で煽りつつ、ついでに胸も揉んでやろうと手を伸ばしたら、意外にも全力で阻止された。
「何だよ。犯らしてくれんじゃねーのかよ」
不満そうに言ってやったら、海馬はキッとオレを睨んで涙声で反論した。
「オ…オレは…知ってるんだぞ!」
「知ってるって…何を?」
「お前が巨乳好きって事をだ! オレの無いも同然の胸を触ってもつまらないだけだ。意味など無い! 触るな!」
「………。何だよそれ。じゃぁ何か? オレにはただ突っ込めばいいって、そう言ってるのか?」
「………っ。そうしたければそうすればいいと…先程から言っている…っ!」
ここまで来ると、逆に怒りは収まって何だか可哀想になってくる。
何でこんなに強情なんだ…。
自分で言った言葉に自分で傷付いたんだろう。ついに泣き出した海馬を見て、オレは「やーめた」と言い捨ててスッと身を離した。
泣いてるって事は、漸く自分が何を言っていたんだか理解したって事だからだ。
何かちょっと勿体無い事をした気にもなったけど、好きな女をこれ以上傷付けたく無かった。
「き…貴様…っ。何故やめる…?」
「もういいからさ。これ以上オレを挑発するような事言わねーでくれよ」
「………っ!」
「大体何でそんなにオレとやりたがるのよ。お前はもう立派な女に戻ったんだからさ、もっと自分を大切にしねーと…」
「…から…だ…」
「ん? 何て?」
「女に戻ったからだ!!」
突然海馬が叫んで、オレは驚きで言葉を無くす。
その顔には必死さが滲み出ていて、とてもじゃないけど茶化すなんて事は出来なかった。
海馬はボロボロ泣きながら必死で言葉を紡ぎ出した。
「女に戻ったからにはどうせその内見合いでもして、どこぞの企業の跡取り息子か何かと結婚しなければならないんだ…っ! 見知らぬ男に初めてを捧げる位だったら、せめて好きな男に処女を貰って欲しいと思う事の何がいけないんだ!」
「………っ!?」
突如飛び出したゲリラ的告白に驚いているオレを余所に、まるで癇癪を起こしたかのように海馬の言葉は止まらない。
「お前がオレに興味も何も無いのは知っている…っ! だけどオレはずっとお前が好きで…、それをアイツは見抜いていて…。アイツが…アイツが…っ! 全部…アイツのせいだ…っ!」
そこまで言うと、海馬はついに布団の上で膝を抱えて丸くなってしまった。
俯いてしまった顔の表情は見えないけど、時々しゃっくり上げる肩がまだ涙が止まっていない事をオレに伝える。
「アイツがあそこまで言うから、オレもそれを信じてみようと思ったのに…。だけど…もう嫌だ…。女になんて…戻らなければ良かった…。女に戻ってからオレはどんどん弱くなる。力も落ちるし常に狙われるし誰も守れない…。抱える気持ちを我慢する事が出来ない…。感情が…制御出来ない…。もう…苦しい…。助けてくれ…」
蹲ったまま震えて泣き続けるその細い身体を、オレは抱き締めずにいられなかった。
そっと腕を回して背中を優しく撫でてやる。
「海馬…。アイツって…誰?」
「アイツはアイツだ! 決闘王の称号を持ったまま冥界に逃げ帰ったあのオカルトファラオの事だ!!」
先程海馬の台詞の中に出てきた『アイツ』が気になってそう訪ねると、海馬はそう言って居間の方を指差した。そこには海馬の鞄が置いてあるのが見える。
「鞄、持ってくればいいの?」
オレの問いかけに腕の中でコクンと頷くのが見えたから、オレは一旦海馬から離れて鞄を取りに行く。
持ってきた鞄を手渡すと、海馬は手の甲でグシグシと涙を拭いながらそれを受け取り鞄を開いた。
中は几帳面な海馬らしく、ノートや教科書などが整然と並べられている。その隙間からKCのロゴ入りのクリアファイルを取り出すと、そこからシンプルな白い封筒を一通取り出した。
「これを…」
「これ…手紙か? 読んでもいいの?」
オレの問いに海馬はまたコクリと頷いた。
「もういい…。全て…知られてしまったから…」
再び膝に顔を埋めてしまった海馬を見守りながら、オレは受け取った封筒を見てみる。表には宛先の『海馬瀬人様』の文字。そしてひっくり返すと送り主の『武藤遊戯』の文字。
遊戯の名前が書かれてはいるが、オレはその文字に見覚えがあった。
遊戯の自体にそっくりだけど妙に癖が強いその字は間違いなくもう一人の…先日冥界に帰って行ったアテムのものだ。
「これ…どうしたんだよ」
「戦いの儀の前日に、あの船の中で直接貰った…。全てが済んでから読んでくれと…」
そっと封筒から便箋を取り出すと、大事に大事に何度も読み返したんだろう。指で持つところの紙質が皮脂で柔らかくなってしまっていた。
そしてその手紙には…思いやりに満ちた優しい言葉と強い想いが並べられていたのだ。