アイシスとマナに連れられて自室に戻ってきた瀬人は、診察を受ける為に全ての服を脱ぎ、前を合わせるだけの簡単な夜着に着替えていた。
「こちらへ」と手招きするアイシスに従って、寝台の縁に腰掛ける。
「まず…少しお身体を見せて下さいませね」
アイシスの手が夜着の合わせを開いて、露わになったその身体に目を走らせる。
相手が医師だということで昨夜程の羞恥は無かったが、それでも瀬人は他人に身体を見られるという行為がやはり恥ずかしいと感じてしまう。だがこの診察が終われば克也と一緒になれると信じ、大人しくその身を任せる事にする。
そんな瀬人の思いとは裏腹に、その身体を検分しているアイシスの表情は冴えなかった。
「これは…。典型的な奇跡の子の身体付きですけれど…。何と言いますか、成長具合にバラツキが見られますね」
「バラツキ?」
「はい。どうやら見た感じだと、男性としての成長は年相応に順調なのですけれど、どうも女性としての成長が著しく遅れているようでございます」
そこまで言ってアイシスは手元のカルテに何かを書き込んでいた。
カリカリとペンを走らせながら「皇后陛下」と瀬人に呼びかける。
「これからいくつか質問致しますけれど、正直にお答え下さいませ。陛下にとっては少し恥ずかしいかもしれませんけど、そこは陛下の御為ですので…」
それに仕方無いと頷くと、アイシスは真面目な顔で瀬人に向き直って口を開いた。
「まずは男性機能の事を質問致します。陛下は射精なさった事はございますか?」
「…っ!? しゃ…っ!? な…な…っ!」
驚いて二の句が継げなくただパクパクと口を開け閉めするしか出来ない瀬人に、それでもアイシスは焦ることなく淡々と質問を繰り返した。
「陛下。これはとても重要な事なので質問に答えて下さらないと」
「い…いや…その…、わ、わかっている!」
「で、なさった事は?」
「あ…ある…。何度か…」
「その時の精子の色を覚えていらっしゃいますか? 普通の男性のような白色…ではありませんよね?」
「白…では無かった…」
「薄く濁ったような半透明でございましたか?」
余りの恥ずかしさに顔を真っ赤に上気させながらも、瀬人はコクリと頷く。
そんな瀬人にアイシスは優しげに微笑んで、相手を安心させようとしていた。
「皇后陛下、そんなに恥ずかしがらないで下さい。年頃の人間でしたら誰でも体験している事でございます。精子の色に関しましても、他の奇跡の子と何の変わりもございません。色が薄いのは通常の男性のような正常な精液では無いので致し方無い事なのです。とは言え、少なくても射精機能が安定しているというのは良い事ですわ。やはり男性機能に関しましては何の問題も無いようですね」
アイシスは再び手元のカルテに何かを書き込み、そして軽く溜息をつく。
「それにしても…、問題は女性機能の方ですわね。陛下、初潮はもう迎えましたか?」
その質問に対しては、瀬人も首を横に振るしかなかった。
瀬人の答えを見て、アイシスの表情がまた少し暗くなる。
「どうやら皇后陛下は、今まで法皇として気張ってきたせいで男性機能ばかりが先に成熟してしまわれたようですね…。奇跡の子の成長は、その者が持っている精神と深く関わっている事が多いのです。法皇として男性である部分が早くに目覚めたのはよろしいのですが、肝心の女性機能がとにかく置いてけぼりにされているようですね」
アイシスの言葉で、瀬人は自分が重大な問題に直面している事を知ってしまった。
今までは法皇として『男』として生きていれば良かったものの、これから先は黒龍国の皇后として『女』として生きねばならず、その事に身体の成長が全く追いついていないのだ。
もしかしたらこれは物凄く致命的な欠陥なのでは無かろうか…と、初めて真剣に考え出す。
「少し女性器を調べたいので…寝台に横になって頂いてもよろしいですか?」
自分が直面している問題にやっと気が付き、瀬人は大人しく寝台に身を横たえた。
膝を立て足を広げる。とんでも無く恥ずかしい格好だと思ったが、瀬人にはもはや抗う気持ちなど無かった。
「器具を使って中を拝見させて頂きます。少し痛いかもしれませんが、すぐ終わりますので…」
「いい。はやくしろ」
冷たい器具が足の内側に触れて思わずピクリと反応してしまうが、それでも黙って事が終わるのを待つ。
「ぅっ…!」
未熟な膣に器具の先が差し込まれる時、微かに感じた痛みに思わず呻き声を上げてしまう。
この先暫くはこの痛みに耐えなければならないと身体を硬くするが、アイシスは手際良く膣内を観察すると、さっさと使っていた器具を抜いてしまった。
最後に外側の女性器や男性器を軽く触診すると、「もうよろしいですよ」と瀬人に告げそこから離れていった。
想像していたのと違う余りに簡単な診察に、瀬人は拍子抜けしてしまった。側に控えていたマナに夜着を整えて貰いながら、水の入った桶で手を洗っているアイシスに声を掛ける。
「おい…。もう終わりなのか?」
「はい。終わりですよ」
「たったこれだけの診察で、オレがどんな状態か分かったのか?」
「勿論です。私は専門医ですよ? あぁ、マナ。ちょっと陛下を呼んできて頂戴。多分隣の部屋で待ってるだろうから」
自信に満ちた顔で瀬人に答えると、アイシスは手を拭きながらマナに言葉を掛ける。
それににこやかに答えたマナが部屋を出て行った。アイシスの言う通り何時の間にか隣室に戻って来ていた克也は、マナと共にこちらの部屋に入ってくる。
寝台に腰を下ろしている瀬人をちらりと見遣ると、克也はその脇にしつらえられた椅子に腰を下ろした。
アイシスの表情でこれから下される診断結果が余り良いものでは無い事に気付いたのだろう。妙に緊張している克也と瀬人を前にして、アイシスも真剣な表情で二人に向き直る。
「さて、両陛下。早速結果報告から致しますと…」
アイシスは一旦言葉を句切り、そして医師としての意見を冷静に述べた。
「皇后陛下の今のお身体の状態では、お二人が身を繋げる事は到底無理でございます」
余りに無情なその宣告に、瀬人は背筋にゾワリとした悪寒が走ったのを感じた。