城之内×海馬。海馬の一人称です。
ちょっと短くてスミマセン…(´∀`;
まさか自分がこんな気持ちになるなんて思わなかった。
いつだって自分の意志に従って生きて来たし、その判断を疑問に思った事も無い。よって、自分が進んだ道の先に何が起ころうとも、オレはその状況に戸惑うなんて事は一度も無かったし、そんな事はこの先も無いと信じていた。
けれど決してそうでは無かったのだと思い知らされたのは、城之内と付き合う事になってからだった。
男同士で…しかも下らない言い争いばかりしてきた相手と付き合うという事に関しては、特に抵抗は無かった。告白してきたのは城之内の方からだったが、それを自分でも意外に思う程にすんなりと受け入れられたのは、己の中にもそういう気持ちがあった証拠だと思っている。だからその事に関してはどうでもいい。
ただやはり、一緒に居るとどことなく居心地の悪いようなぎこちなさを感じた。それは城之内の態度では無くて…どちらかと言えば自分の方が強かったと思う。
一緒にいると落ち着かない。いや、落ち着けない。今まで誰かと一緒に過ごして来て、こんな想いに陥った事など無かったから、余計に困惑した。
それでも時が経つにつれ、ただ同じ空間に二人でいる時だけなら、以前ほど居心地の悪さを感じる事は無くなった。むしろ城之内がそこにいるのが、当たり前のような感覚になっていったように感じる。
問題は通常時では無く…夜の営みの方だった。
城之内と恋人として付き合うようになってから数ヶ月後、オレ達は身体の関係を結んだ。それは恋人同士としては当たり前の行動であったし、その事に関してはオレ自身も異論は無い。
ただ未だその独特の甘い雰囲気に、オレ自身が慣れないという事だけが問題であったのだ。
もつれ合い、抱き合ってベッドに転がって、着ていた服を毟り取られる。薄明かりの中晒された肌に、熱い体温を持った掌が這い回っていく。心地良い刺激にぷっくりと立上がった乳首を指先で刺激されて、思わず声が上がってしまった。
「あっ…! ふっ…ぅ…」
自分の声とは思えないくらいに甘いその声に、慌てて口元を手で覆って顔を背けた。その間も城之内は硬くなった乳首を摘んだり、爪先で引っ掻いたりして刺激をしてくる。その度にジンジンとした快感が湧き上がって来て、顔がカーッと熱くなり、頭の中が白くなっていくのを感じた。
そんなところ…いくら自分で触っても気持ち良くも何とも無いのに…。何故城之内に触れられるとこんな風になってしまうのか…訳が分からなくて、ただただ恥ずかしかった。
「うっ…ぅ…ん!」
必死に声を抑えていると、その手をすっとどかされてしまう。熱い掌にぎゅっと手を握られて、思わず瞑っていた目を開いて城之内の顔を見詰めると、そこには妙に男臭く優しく微笑んでいる恋人の顔があった。そして至極甘ったるい声で、「我慢しないでよ。もっと声聞かせて…」と囁かれる。
オレが酷く情緒不安定になるのは、こんな時だ。心臓がドキドキと高鳴って、全く落ち着けなくなる。居心地が悪い。いや、悪いと言うのは少し違う。居心地は決して悪くは無いのだ。むしろこのままずっと、城之内の熱い腕の中に留まりたいとさえ思っているのだから。
それなのに何故こんなにも落ち着かないのだ…と疑問に思いつつモゾモゾとしていると、フワリと微笑んだ城之内が答えをくれた。
「興奮してる? 最近セックスする時は、いつもこうだな」
「………っ!?」
城之内の言葉にハァハァと荒い息を吐きながら、オレは余りのショックに目眩を感じていた。
興奮しているというのか? このオレが? 城之内とのセックスに? 男同士のセックスで…しかも自分が抱かれるという立場に、興奮していたというのか?
その事を理解した途端、頭がカッと熱くなって一気に何も考えられなくなった。
「なっ…!? う、嘘…だ…。そん…な…っ」
「あれ? パニックになっちゃったか。よしよし…大丈夫」
ショックでガクガク震えるオレに城之内はニッコリと微笑みかけ、その大きな掌で優しく頭を撫でてくれた。何度も何度も撫でられ髪を梳かれている内に、少しずつ気持ちが落ち着いてくる。そんなオレを見て城之内は安心したようにホッ…と息を吐くと、ギュッと強く身体を抱き締めてくれた。
汗ばんだ肌が密着する。けれども不快感は全く感じなかった。それどころか、逆に言いようの無い安心感に包まれる。
「どうしたの? 興奮してるのが嫌? 恥ずかしい?」
耳元で低く囁かれた言葉に、オレはゆっくり頷いた。すると城之内は、今度はクックッ…と小さく笑い出す。
「何が恥ずかしいの? オレなんて、お前に関しちゃしょっちゅう興奮しっぱなしだっていうのに」
「なっ…!?」
「恥ずかしくなんて無いよ。なぁ…海馬。お前、オレの事好きだろ?」
妙に自信たっぷりに言われた一言に、思わず素直にコクリと首を縦に振る。すると城之内は、本当に心から嬉しそうに破顔して口を開いた。
「オレも! オレもお前の事大好きだ!」
ニコニコと微笑みながら城之内はオレを抱き締め、まだ熱を持った掌で何度も背中を撫で続ける。そして幾分落ち着いた声で、オレにこう言い放った。
「相手の事が好きだから、興奮するんだよ。好きでも何でも無かったら興奮なんてしないし。それが自然なんだよ、海馬」
「自然…?」
「そ、自然。お前自身は気付いて無かったようだけど、オレは少し前から気付いていたぜ。お前が何か居心地悪そうにしてるの」
「………っ!?」
城之内の言葉に目を剥いた。この男は普段何も考えていないような顔をして、もう既にオレの状態に気付いていたというのだろうか…?
思わず目を丸くして城之内を凝視していれば、そんなオレの内心に気付いたのか、城之内が困ったように笑ってボサボサの髪を乱暴に掻きながら言葉を続けた。
「そんなに驚くなよ。これでもオレ、お前の事は誰よりもよく分かってるつもりなんだぜ?」
「じょ…の…うち…っ」
熱い身体に抱き締められる。腕を背中に回され強く抱き寄せられると、それだけで心音が高鳴って頭が白くぼやけていく。ドクドクという自分の脈拍を、煩い位に感じていた。
堪らずに、その広い背に腕を回した。肌が汗でじっとり湿っているのを感じて、その熱さに愛しさが募っていく。
この男も…城之内も興奮している。自分と同じように、いやそれ以上に興奮しているんだろうという事を感じ取って、ますます城之内の事が好きになった。少しでも離れているのが嫌で、オレは自ら城之内の身体に自分の身体を押し付ける。
「お前…前からそうだったけど、最近ますます興奮するようになってきただろ?」
「っ………!」
「だから恥ずかしがるなって。オレはむしろ嬉しいんだぜ? お前がそんだけオレの事を好きになってくれたって事だからな」
身体を離してオレの顔を覗き込んだ城之内は、少し照れたようにそう言って笑った。頬の辺りが赤くなっていて、妙に嬉しそうな顔をしている。その顔に何だか自分も嬉しくなってしまって、オレはごく自然に城之内の唇に自らのそれを押し付けていた。チュッ…と軽く唇を吸ってもう一度押し付けると、今度は城之内が大胆に舌を入れて来る。
「んっ…!」
熱い舌を絡め合い、唾液を啜り合って、無我夢中でキスを続けた。とてもいやらしい事をしている事に急激に恥ずかしくなって頭が熱くなるが、何故だかそれを止めたいとは思えなかった。むしろもっとずっと続けたくて堪らなくなる。
こうなってしまうと、自分でもこの気持ちを認めざるを得なくなった。
そうだ…。オレは確かに城之内に興奮している。城之内と恋人関係である事、城之内に抱かれる事、城之内と身を繋げる事…。そういう行為の一つ一つに興奮している。それは確かにオレが城之内を愛しているからであり、愛しているからこその欲求の上に成り立っているからだ。
「あふっ…んんっ!」
深いキスを続けながら、オレの両足は自然と左右に開いていく。その間に城之内は身体を滑り込ませて、膝裏を掴んで抱えあげた。
城之内に抱かれるのは初めてでは無い。これから何が起こるのかハッキリと分かったので、オレは自分の身体の力を意識して抜いた。それを見計らって、城之内が身を進めてくる。
「ひっ…! っ…くぅ…!!」
「海馬…大丈夫か? やっぱ痛い?」
「だいじょ…ぶ…だ…っ。あっ…あぁっ!」
城之内が押し入って来た時の圧迫感でつい悲鳴を上げてしまったが、そんなオレの様子に本気で心配してくる城之内の優しさが嬉しい。熱さと苦しさで涙をボロボロと零しながら、それでもオレはのし掛かる城之内から離れようとはしなかった。その汗ばんだ広い背に腕を回して、爪を立ててギュッと抱き寄せる。
「もっと…もっとだ…っ」
自分から相手を強請るようなこんな恥ずかしい台詞、以前だったら想像すらしなかった。それなのに今は、自然と口を突いて出てくる。
素っ裸にされ、男相手に自ら足を大きく開いて、恥ずかしい場所に男を受け入れている。以前のオレだったら憤死しそうな位の恥ずかしい状況なのに、今はこんなに愛しく感じるのが本当に不思議だと思った。
痛みが無い訳では無い。苦しく無い訳でも無い。それでもオレは、自らの身体の中に入ってきた城之内の熱が愛しくて大事で…泣きたくなる程幸せだった。相手を好きになって興奮するという事はこういう事なのだと、ぼんやりと頭の片隅で理解する。
「あっ…じょ…のう…ちぃ…! はぅっ…!」
「海…馬…っ!」
「熱…い…! あぁ…もっと…っ!」
我知らず、もっともっとと城之内に強請る。身体中が熱くて…熱過ぎて、今にも死んでしまいそうなのに。
「海馬…っ! 海馬…っ!!」
オレの名を呼ぶ城之内の声も震えている。その余裕の無さに、城之内も自分に夢中なのだと分かって満足した。
「城之内…!!」
しっかりと抱き合って、互いの身体を汗塗れにして、共に高みに駆け上って…果てた。頭が真っ白になる瞬間、オレはこんなに幸せな時間は感じた事が無いと…そんな事ばかり考えていた。
深夜。隣でぐっすり眠っている城之内の顔を見ながら、オレはまた自分が情緒不安定に陥っている事に気付く。
あれだけ激しく抱き合ったのにまだ足りないのかと…少し興奮してきた自分の身体を宥めつつ、オレは布団に潜り込みながら人知れず苦笑した。
多分この情緒不安定は、この先もずっと続くのだろう。城之内を好きでいる限り、そしてオレがコイツに愛されている限り…ずっと。落ち着かない精神状態にはウンザリだが、こういう気持ちもまた心地良いと思えばそう悪い物でも無い。
そんな風に自己完結し、オレはウトウトと眠りの世界に引き込まれていった。
どうか願わくば、この幸せな情緒不安定が永遠に続きますように…と願いながら。