*素質シリーズ - ページをめくる - *素質Ⅷ(後編)

 お互いに顔を赤くしながら暫く見つめ合い、余りの事態に言葉を発する事も出来なかった。
 こんな状態に置かれれば普通はショックで萎えてもいい筈なのに、城之内のものも、そして手で握っている自分のものも、一向に萎える気配を見せない。それどころかオレのペニスは、城之内に見られている興奮でドクドクと強く脈打っている。
 やがて先に城之内の方が痺れを切らして、ふぅ…という軽い溜息と共に口を開いた。

「オナニーしてたの?」

 ばつが悪くなって視線を反らせたオレに、城之内はニヤニヤしながら問い掛けてくる。疲れた顔に影が映えて、いつも以上に男らしく見えた。

「し…してたら悪いのか?」
「悪くはないけど、これ…一体どんな状況だよ」
「………」
「オレの匂い嗅ぎながらオナニーしてたんだ。臭く無かったか?」
「臭かった…」
「だよな。オレまだ風呂に入ってなかったもんなぁ」
「………」
「でも、感じちゃったんでしょ? オレの匂い嗅いで…欲情しちゃったんだろ?」
「………」
「いいよ。別に怒ってないから、こっちにおいで。ほら」

 そう言いながら、城之内はソファーに座ったまま下着ごとジーンズを脱いでみせた。その行為が何を指しているのか、全く分からないオレでは無い。ドクンと高鳴る心臓を手で押さえて落ち着かせながら、オレも上着とスラックスと下着を脱ぎ去って、城之内が待つソファーまで戻っていった。そして脚を広げて悠々と座るその身体を跨いでソファーに膝を付き、向かい合わせの体勢になる。
 不自然な体勢を安定させる為に、城之内の両肩に手を付いて顔を覗き込む。すっかり目が覚めたらしい城之内は、欲情に濡れた瞳でオレを見ていた。 

「凄いビンビン…。そんなにしたかった?」
「っ…うぁ…っ!」

 寝起きの熱い手でオレの腰を引き寄せた城之内は、そのままグッショリと濡れそぼっていたオレのペニスに指を絡めた。軽く撫でられただけで、背筋にゾクッとした快感が走る。上下に擦られるとグチュグチュと濡れた音が響いて、酷く恥ずかしかった。
 自分でやってた時には全く感じなかったというのに、城之内に触れられているというだけで快感や羞恥心が倍になって襲ってくる。

「こんなに濡らして…。もうトロトロじゃん」
「あっ…んんっ!」
「これだったらローションいらないな。ちょっと後ろ慣らすから、もうちょっとこっちに寄って…。うん、そう」

 城之内に言われるまま身体を前に押し倒して、オレは城之内の肩口に顔を埋めた。その途端、汗に混じった城之内の匂いが鼻を擽って、それにまた欲情してしまう。
 とにかく早くして欲しくて下半身を城之内に押し付けると、奴はクスッと少し笑って、オレのペニスに纏わり付いた先走りの液を指に絡め始めた。

「うっ…くぅ…っ!」

 オレの恥ずかしい粘液をたっぷり指に絡めた城之内は、そのまま内股を辿ってオレの後孔に触れてきた。そしてそのままツプリと体内に指を挿入する。
 二週間ぶりの刺激に一瞬身体と後孔が引き攣るが、だがそれもすぐに解れていく。慣れた身体はあっというまに城之内の指を奥深くまで飲み込んで、はやく欲しいもっと欲しいと訴えかけていた。
 グチグチとオレの体内を指で掻き回しながら、城之内がニヤリと笑う。

「ほら…。もうこんなに熱い。早く挿れて欲しいって言ってるぜ」
「わ…分かっているなら…早く…っ!」
「焦んなよ。今日は時間たっぷりあるんだろ?」
「嫌だ…っ! 早くしろ…っ!!」
「でもなぁ…」
「城之内…っ!!」

 少し強めに名前を呼んで、城之内と視線を合わせた。膝立ちになっているからオレの方が視線が高かったので、そのまま奴を見下ろす角度で今度はこっちがニヤッと笑ってみせる。興奮で乾いた唇を舌で舐めていきながら、熱い吐息と共に「早く…お前が欲しい…」と囁いてやった。
 途端にゴクリと鳴った喉に満足しつつ、オレは城之内の手首を握ってその場所から引き離す。そしてすっかり硬く勃ち上がっている城之内のペニスの上に、ゆっくりと腰を降ろしていった。

「あっ…!! んぁ…っ!!」

 ズプリと入って来る熱の固まりに、思わず背を反らせながらビクリと震えた。
 多少の痛みを感じはしたが、それ以上の快感がオレの身体を支配する。

「あぁ…あっ…ん! くっ…う…っ!」

 止められなくて。動きを止める事が出来なくて。
 城之内の肩を力一杯に掴みながら、夢中で腰を振った。グップグップと濡れた音が辺りに響き、その音でまた興奮していく。

「凄ぇ…海馬…っ! そんなにオレが欲しかった…?」

 オレの腰を支えつつ快感に潤んだ琥珀の瞳でこちらを見ながら、城之内がそんな事を言う。その言葉にコクコクと頷きながら、にやついた唇に噛みつくようにキスをしてやった。こっちから舌を入れてやると、まるで待っていたかのように城之内の舌もすぐに絡まってくる。
 チュプチュプと温かい舌を必死で絡ませて、オレは快感に涙を流しながらも腰の動きを止めようとはしなかった。
 そして…。

「ふぁ…っ!? あっ…んあぁっ!! ひっ…!! う…あぁぁぁぁ――――――――――っ!!」

 突然、あの耐えきれない衝撃がオレの身体を襲ってきた。
 既に何度か体験してきたドライオーガズム。けれど今まではソレが来るのが何となく分かっていた。来る事を阻止する事は出来なかったけれど、それなりの心の準備というものが出来ていた筈なのに。
 それなのに今日のソレの来訪は…いきなりだった。

「あっ…あっ…あぁぁっ!! じょ…う…ちぃ…っ!!」
「おっと…大丈夫か? いきなり来たな」

 身体を激しく痙攣させて強く抱きつくオレに、城之内もギュッと抱き締め返してくれて、背中を優しく撫でてくれた。

「やっ…! も…とま…ら…な…っ!! あぅ…っ!! あぁぁんっ!!」
「ん…良い子。今日は焦らしたりしないから…ちゃんと掴まってて」

 溜まっていた性欲が暴走して、自分ではどうにもならなくなったオレに、城之内は至極優しかった。前面に回した手でペニスを掴んで、爪の先を鈴口に差し込んでクチッ…と刺激される。

「くぅっ…!! ふあぁぁぁ――――――――――っ!!」

 微かな痛みと、それを圧倒的に上回る快感にあっという間に射精したオレを強く抱き寄せて、城之内もオレの体内で達してくれた。ドクドクとペニスが蠢いて、生温かい熱が広がっていくがの分かる。
 射精しながら小さく震えている城之内の首に手を回しギュウッと強く抱き締めた。
 愛しかった。堪らなく愛しかった。ずっとずっと…城之内が欲しくて仕方が無かったんだ。

「海馬…? 大丈夫か?」

 グッタリと寄りかかったままのオレに、城之内が心配そうに声をかけてくる。その声にコクリと頷いて、そっと身体を離して視線を合わせた。そして優しく微笑んでやると、城之内も漸く安心したかのように表情を緩めてくれる。

「平気…だ」
「そっか…良かった。ゴメンな、久しぶりなのに無茶な事しちゃって…」
「別に気にしていない。というか、オレがちょっかいかけたのがいけなかったのだ。こうなったのは、むしろオレのせいだ」
「珍しいよな、お前があんな事するなんて…。そんなに溜まってた?」
「まぁな。そういう貴様はどうなのだ?」
「オレ? 勿論溜まってましたけど、それが何か?」
「ふふっ…。そうだと思った。それで…どうする? 今日はこれで満足か?」
「まさか。勿論この後もお相手して欲しいところだけど、とりあえず風呂入らせてくれない? 汗臭いだろ?」
「別にオレはそのままでも構わないが…」
「マジで!? あ…でもやっぱり悪いから風呂入るわ」
「そうか」
「………。それとも…一緒に入る?」
「………」
「海馬…?」
「は、入る…」

 城之内と一緒に風呂になんか入ったら大変な事になるのは分かっていたけど、今日のオレはそれを望んでいるから特に迷うことは無かった。
 というより、オレ自身も今の運動で汗ビッショリになっているしな。会社から帰って来てそのままだったし…。
 とりあえず綺麗になる前に、もう一度だけ城之内の匂いを嗅ぎたいと思って、目の前の身体に強く抱きついた。そして首元に顔を埋めて、胸一杯にその匂いを吸い込む。
 あぁ…この匂いだ。この匂いがオレを狂わせる。
 再び快楽の火が点き始めた身体を持て余しつつ、オレは一つだけ心配していた。

 本当に…この匂いが癖になったらどうするんだろうな…と。