*僕らシリーズ - 青春の1ページへ… - *不健全な僕ら

城之内×海馬。海馬の一人称。
恋人として身も心も結ばれた後に、初めて迎えた梅雨の時期を乗り越える城海の話です。
うん、青春だねぇ~! 不健全ですけどw

 




 学校という場所は確か…勉学に勤しみ、友人と戯れる場所だったとオレの脳は記憶している。少なくても授業をサボり、誰もいない屋上で不純異性交遊ならぬ不純同性交遊をする場所では無かった筈だ。だがそんな事はお構いなしに互いの身体に触れるのが、オレと城之内の日常になっている。
 日常と言っても毎回そんな事ばっかりしている訳では無い。オレと城之内の距離がいつも以上に近くなったのは六月に入ってから…つまり梅雨に入ってからだった。それがどういう事かなんて事は今更言うべき事では無いと思う。

 オレ達は、お互いに雨が苦手だった。

 雨とは言っても激しい雨とかは結構平気なのだ。オレと城之内が苦手なのはこういう梅雨や、春雨や秋雨と言ったシトシトと静かに降るタイプの雨だった。
 静かな雨音。朝からどんよりと薄暗い空。雨の日独特の世界はオレ達に孤独感を倍増させ、嫌な思い出を甦らせる。そして曰く『アンニュイ』な気分になって、二人して落ち込んでいたのだ。
 そんなオレ達がお互いの気持ちに気付いて近付き始めたのは、丁度一年前の梅雨の頃だった。今にも雨が降り出しそうな曇天を二人で眺めつつ、お互いにこの寂しさを紛らわすにはどうしたら良いのかと話し合った。そしてその結果、雨の日は二人で過ごす事を決め…気が付いたらオレ達は恋人同士になっていたのである。
 城之内と正式に恋人同士になったのは、去年のクリスマスの時だった。それまでも結構身体の関係を持っていた為(最後まではしていなかったが)今更だという気持ちも無くは無かったが、それでもやはり自分達の関係性をハッキリと決めておく事は必要だったのだと思う。
 後に城之内は「実はオレ…お前ときちんとした関係に収まる事が怖かったんだ」と、しっかりとした声で打ち明けてくれた。恋人になったら別れる時に辛くなる。曖昧な関係なら別れる時も辛くないだろうと、そう思っていたらしい。
 城之内のその気持ちはオレにも良く分かった。何故ならオレもそう思っていたからだ。
 だがそれと同時、このまま曖昧な関係を続けていても無意味だろうという気持ちも湧き上がって来る。そしてその先に進みたいという前向きな気持ちも…。その気持ちの発現はオレだけじゃなくて、城之内も同じ事を考えていたらしかった。

 二人して同じ事で悩み、そして湧き上がる気持ちについに我慢出来無くなったのが、去年のクリスマスの頃だったのだ。

 そんなオレ達が初めて身体を繋げたのは、年が明けて暫く経ってからの事だった。
 まだ寒い冬の最中、その日は朝から霙交じりの雨が降っていた。身体の芯まで凍えるような空気の中、オレは学校帰りに城之内の家に招かれて…そのままセックスをしてしまったのだ。
 城之内の部屋は寒かった。帰って来て早々布団の中に連れ込まれた為に、ストーブすら点いていない。我が家の軽くて温かい羽布団とは全然違う、重くて湿った木綿布団。その中でゴソゴソと服を半脱ぎにされ、この寒さの中でも全く熱を失わない熱い指先で肌を辿られた。

「海馬…。お前、肌…冷たいな」

 首筋に押し付けられる唇がくすぐったくて肩を押し返したら、その手をギュッと掴まれた。冷たく冷えた指先が城之内の熱で温められ、急激に血が通ってジンジンと痺れ出す。それが何となく心地良くて、オレは全く抵抗出来なくなってしまった。
 狭い布団の中は段々と熱が籠もって心地良くなっていく。布団の外の空気は冷たくて、そこから出ようとは思わない。着ている服もお互いに最低限捲し上げる程度で、全裸になる事は無かった。布団の中でカチャカチャとベルトを外され、ズボンを下着ごと降ろされて片足だけ抜かれる。その状態で足を開かされて、性急に体内を慣らされた。
 実はそこを弄る程度だったら、既に何回かやられていた。オレの身体は入り込んできた城之内の指を素直に受け入れて、柔らかく解けさせていく。熱くなる体内に限界を訴えたら、城之内はそこから指を引き抜き代わりに硬く勃起した自分のペニスを押し付けた。入り込んでくる熱を身体の力を抜く事で享受し、そしてオレ達は…一つになった。



 随分と余裕無く終わらせてしまった初めてのセックスに、その後暫く城之内は反省しまくりだった。オレとしては、アレはアレで有りだと思っていたので、城之内が何に落ち込んでいるのか全く理解出来ない。ただ事ある毎に「もうちょっと余裕を持ってやりたかった…。初めてだったのに…」とぼやいている事から、城之内が望んでいたセックスの形はああいう物では無かったのだ…という事だけは理解出来た。
 その所為なのだろうか? それからの城之内のセックスは随分としつこい…いや、丁寧な物に変わっていった。そしてそれは、今まさに行なわれていて…。

「んっ…!」

 既に真っ赤に張り詰めた乳首を爪先で弄られて、オレは思わず声をあげてしまった。

「ゴメン…。痛かった?」
「ん…ぁ…。だ…大丈夫…だ…」

 痛いのは事実だ。だが微かに感じる痛み以上に、湧き上がって来る快感の方が数倍も大きい。男として一生使う事の無い予定だった乳首をここまで敏感に開発させられたのも、この城之内の所為だ。城之内は何故か、オレの乳首を弄るのが好きだった。確かに他の皮膚の部分よりは多少敏感だとは思うが、以前はこんなにも感じる事は無かった筈なのに。

「あっ…あっ…」

 コリコリと弄られるその感触に耐えきれなくて、思わず大きな声で喘いでしまう。その途端、今自分がいる場所を思い出して、オレは慌てて自分の口を掌で覆った。城之内の部屋や自分の寝室なら、そんな我慢をする事は無い。オレが必要以上に周りに気を遣っている理由…、それはこの場所が学校の屋上だからだった。
 授業中の学校の屋上は、当たり前だがオレ達以外の人間はいない。校庭で体育をしている生徒の声と教師の笛の音以外は、とても静かだ。
 貴重な梅雨の晴れ間。今日は朝から気持ち良く晴れ渡り、太陽はじりじりとアスファルトを焼く。少し強い生温い風が吹いてきて、汗を掻いたオレ達の身体をほんの少しだけ冷ましてくれた。
 こんなに気持ち良く晴れていても、今日の夜には再び梅雨空に戻ってしまう。明日からはまた連日の雨だ。それが分かっているのか、城之内はますますオレに引っ付いてくるのだ。
 これだけ熱い空気の中、ただでさえ自分より高い体温の男に引っ付かれるのは正直熱いし何よりウザイと思う。だがオレは、それが決して嫌では無かった。それどころか自分の方からその熱を求めたりしているから、言い訳のしようも無い。
 先程も言ったが、雨という天気で気分が落ち込むのは城之内だけではない。オレもなのだ。

「はっ…あぅ…っ」

 ボタンを外したカッターシャツの隙間から、熱い掌が差込まれる。乳首を掌で転がし、胸や腹を撫でられた。その度に身体の中心からじわりと熱が生まれて来て、頭の先から足の指先までが一気に熱くなる。首筋から胸元にかけて汗がつつーっと流れていくのを、大分ボーッとしてきた頭で感じ取っていた。

「汗…掻いてるな」

 城之内がそう言って、オレの首元に顔を寄せた。耳のすぐしたの辺りに鼻を突っ込んでクンクンと匂いを嗅ぎ、流れて来た汗をペロリと舐め取られる。

「っう…ふっ!」
「海馬の匂いがする…。汗しょっぱい」
「馬鹿…舐めるな…。匂いも嗅ぐな…」
「何で? 美味しいよ? 匂いもいい匂いだし、気にしなくていいよ」
「お前が気にしなくてもオレがするわ…馬鹿が」

 そう言ってオレの胸元を舐め続ける城之内の髪に手を差込んだら、そこも汗びっしょりになっていて驚いた。汗を吸ってしっとりと重くなっている髪を、指先で何度も梳く。するとそれが気持ち良かったのか、城之内がウットリとした顔でオレの事を見詰めて来た。

「あ、それ気持ちいい。もっとやって」
「そうか…?」
「うん。髪掻き上げられた時に風が通って涼しい」
「オレを便利屋扱いするな。それにしても…凄い汗だな」
「そりゃそうだ。暑いし…興奮してるからな」
「こんなところで最後まではしないぞ?」
「分かってるよ。続きはお前ん家でやろうな。涼しい場所でゆっくりじっくりセックスしましょ」

 相変わらずオレの首筋やら胸元やらを舐めながら、城之内はニッコリ笑いながらそんな事を言う。「だけどその前に、ここ可愛がらせてね?」と言ってオレの胸に顔を埋め、すっかり真っ赤になった乳首をペロペロと舐め始めた。

「ふぁっ…!?」

 途端にジンッ…と痺れるような快感が伝わってきて、オレはここが屋上だという事も忘れて甘い声で喘いでしまった。汗でじっとり湿った城之内の頭を両腕で抱え込んで、湧き上がる快感に耐える。

「こっちも辛そうだな。一回出しちゃおうか」
「っ…!? あぁっ…!」

 胸への愛撫に夢中になっている内に、下半身の方も反応してしまっていたらしい。カチャカチャと音を立ててベルトが外されるのと同時に、前を寛げられて下着の中に手を入れられた。熱い掌で勃起したペニスを掴まれて、途端に感じた快感で腰に震えが走ってしまう。

「もうこんなになってる。そんなに気持ち良かった?」
「ば…馬鹿っ…!」
「馬鹿とは何だよ、酷ぇなぁ…。オレは嬉しかったんだぜ? お前がオレでそんだけ感じてくれてるんだなって」
「………うっ…」
「ほら、オレのも触ってみる? 興奮して凄い事になってるから」

 城之内はそう言って、オレの手を掴んで自分の股間を触らせてきた。触れたそこはズボンの上からでも、もう熱く硬くなっているのが分かる。そのまま掌で押し付けるように愛撫をすると城之内が苦しそうな呻き声を出したので、無言でベルトを外してそこを寛げ、硬く勃起したペニスを取り出した。

「何…? やってくれるの?」
「いつもの事だろ…」
「そうだな」

 オレの返答に城之内はニッコリと嬉しそうに笑って、オレの身体を自分の方へ引き寄せた。そして二つのペニスを重ね合わせるようにして一緒に握る。ゴリッ…と先端が擦られる感覚だけで、気持ち良過ぎてイッてしまいそうだ。

「あっ…ん!」
「ちょっと我慢しろよー。お前あんまり耐えられねーからなぁ…」
「う、煩い…!!」
「あーはいはい。黙ってこっちに集中してねー」
「やっ…! んぁっ…!」

 城之内の手が上下に動き出して、快感が一気に背筋を駆け上がる。自分も負けじと同じように手を動かしながら、城之内の肩口に顔を埋めて何とか声を我慢した。声を出さないように城之内の肩に口を押し付けている為に、思ったように呼吸が出来ない。代わりに鼻で空気を吸い込むと、首筋から城之内の匂いが胸一杯に広がって充たされた。
 汗臭い匂い。だが先程城之内が言ったように、とてもいい匂いだった。あぁ…城之内が言っていた事はこういう事だったのだな…と、今更のように理解出来る。頭の芯が痺れるようなその匂いに夢中になって、オレはますます興奮していった。

「あっ…ぅ…はぁっ…!!」
「海馬…! かい…ば…っ!」
「じょっ…ぅちぃ…っ! も…ダメだ…っ!」
「っ…! イキ…そ…?」

 腰から下が、まるで別の人間の部位のように鈍く痺れて感じられる。グチュグチュという音を立てて上下に擦られる度に湧き上がる甘い甘いその痺れに、オレはもう我慢の限界を超えた。

「あっ…あっ…!! っ…あっ――――――っ!」
「かい…ばっ…!!」

 背筋をビクビクと痙攣させて、迫り上がってきた熱い欲望を放ってしまう。ペニスを掴んでいる掌の上に自分の欲望が流れ落ちるのを感じた途端、更に続けて熱い粘液がどろりと降りかかってきた。見なくても分かる。城之内も達してしまったのだ。ヌルヌルになった手をそのままに、暫く二人で抱き合いながら息が落ち着くのを待つ。
 身体は酷く熱かった。夏の太陽と内側から発熱している体温とで、オレも城之内も汗だくだ。ただ屋上に通り抜ける温い風だけが、とても涼しくて心地良かった。

「気持ち…いいな…」
「あはは…。それはどっちの意味で…?」

 分かっている癖にそんな事を言ってくる城之内に、流石に少しムッとして強く睨み付けた。オレの視線を受け取った城之内は一瞬困ったように肩を竦めはしたものの、全く反省している素振りを見せない。それどころか顔を近付けて、少し尖らせた唇に軽くキスをしてきた。こんな事では誤魔化されないぞ…と思いつつも、やがてねっとりと深くなっていくキスに流されていく。

「海馬…好きだよ?」

 濡れた唇も繋がった唾液もそのままに、無邪気な顔でそんな事を言ってくる城之内を無視出来る筈も無く…。やれやれといった感じで再び顔を近付けて、オレは熱を持った城之内の唇にキスをした。そして「オレもだ…城之内」と低い声で囁いてやる。



 通り抜ける風が大分湿ってきた。今夜にはまた雨だ。
 だがオレ達はもう雨に寂しくなる事は無い。お互いの存在があればそれでいい。きっと大丈夫だと…そう信じている。

 学校の屋上という場所で学生にしては少々不健全な事をしながら、オレ達は今日も絆を深めていくのだった。