*無限の黄昏 幽玄の月(完結) - 黄昏の入り口 - *春宵(後編)

 静かな春の夜…。日中は大分暖かくなったとは言え、日が暮れればヒヤリとした空気に包まれる。夜はまだ肌寒く上着が必要なくらいなのに、今いる場所はまるで夏のようだと…海馬は思っていた。オレンジ色の優しい光に包まれた部屋の中は熱が籠もり、暑いと感じるくらいだ。口から漏れ出る吐息も、相手の肌の温度も、自分の身体の中も、全てが熱い…。シンとした部屋の中ではピチャピチャという水音だけが厭らしく響いていた。

「んっ…! はっ…あぁ…っ」

 今海馬は、布団の上で仰向けに寝かされ、更に両の足を大きく左右に開かれていた。腰の下に枕を宛がわれ、浮き上がって丸見えになった秘所を城之内によって舐められている。
 熱を持った舌が後孔の縁をゆるりとなぞり、先を尖らせてツプリと体内に入ってくるだけで腰に震えが走る。滑らかで柔らかい襞をヌメヌメとしつこく舐められて、城之内の口から流れ出た唾液と自らのペニスから流れ落ちてきた先走りの液で、後孔の周りはトロトロに濡れそぼっていた。腰の奥がジンジンと疼き、熱くて硬い楔を早く体内の奥深くに挿れて欲しくて気が狂いそうになる。

「あっ…! も…もう…っ!」

 ブルリと大きく身体を震わせ、海馬は限界を訴えた。ペニスも大きく張り詰めて、今にも暴発しそうになっている。
 金の髪に指を絡めてキュッと掴むと、大きく開かれた足の間から城之内が顔を上げた。唾液やその他の液体で濡れている口元が、補助灯の光にテラリと光っている。その様が至極厭らしくて、海馬は思わず顔を赤くしてしまった。

「何…瀬人?」
「も…もういいから…っ。克也…」
「ダメだよ。三年ぶりなんだぜ。ちゃんと慣らさないとお前が痛い思いするんだぞ」
「だからもういいと言っているのだ…。もう…充分だ…から…」
「いや、そんな事ないね。実際三年前よりずっと硬くなってるしな…ココ」
「あっ…んんっ!!」

 そう言って城之内は指を一本海馬の後孔に押し込んだ。節くれ立った硬い指が体内の奥深くまで入ってくる感触に肌が粟立つ。感じてしまった痛みや圧迫感に思わず背を反らすと、「ほらな?」と言って城之内が苦笑した。

「やっぱり痛いだろ? だからゆっくり慣らさないとダメなんだって」
「い…嫌…だ…っ! お願いだから…もう…!」
「頑固だなぁ…瀬人。まぁ、知ってたけどな。良い子だからもうちょっと我慢しようぜ?」

 海馬の体内に埋め込んだ指をクニクニと動かしながら、城之内は琥珀の瞳を細めて微笑んでいた。心から海馬を愛しく想うその視線に、海馬自身も流されてしまう。諦めた様に身体の力を抜けば、城之内も嬉しそうに笑っていた。

「よしよし。大人しくしててくれよな」

 満足そうに微笑み、城之内はそのまま身体を倒して海馬の胸に唇を寄せた。快感にすっかり赤く熟れている乳首を見付け、それを銜え込む。乳輪の周りを舌先でクルリと舐め、硬く勃ち上がっている乳首をチュクチュクと吸い上げれば、海馬の口から甘い声があがった。

「ふゃ…っ! あっ…あ…んっ!!」 

 乳首を吸われながら後孔に入っている指も器用に動き、上と下からの快感に耐えられなくなってくる。布団のシーツをギュッと掴んで何とか耐えていると、その手を優しく持ち上げられてしまった。下半身の指はいつの間にか二本に増え、乳首も左右交互に舐められ…吸われていた。もう片方の手は海馬の細い指に絡みつき、布団の上に縫い付けられてしまう。
 唇を窄めてチュプチュプと乳首を刺激される度に海馬の頭は甘く痺れ、何も考えられなくなってくる。今や海馬の乳首は城之内の唾液でトロトロに濡れ、真っ赤に充血してちょっとした刺激にも感じやすくなっていた。乳輪の柔らかい皮膚に軽く歯を当てるだけでビクリと大きく跳ね上がり、絡んだ指を強く握り締めて眦から涙をポロポロと零して喘ぐ。

「あっ…あ…あぁっ…! も…もう…! た…頼む…から…! 克也…っ!!」

 乳首を吸われ、同時に三本に増えた指先に前立腺を探られ、海馬の身体はもう限界間近になっていた。気を抜けばすぐに射精してしまいそうなくらいに敏感になっている身体を持て余して、どうしたらいいのか分からないとでも言うように激しく頭を左右に振る。
 約三年ぶりの性行為。初めて感じる城之内の熱い体温。やっと本当に二人揃って幸せになれるという安心感。この先どんな困難が待ち受けていても絶対に城之内の側を離れないという覚悟。城之内を愛しているという…心の底からの叫び。
 それら全てが綯い交ぜになって、海馬の心と身体を満たしていた。身体の中心から熱が発生し、頭の芯まで熱く痺れて何も考える事が出来ない。ただただ城之内の熱を挿れて欲しくて堪らなかった。

「欲し…い…っ! あぅ…んっ! あ…もう…欲しい…っ!!」

 絡んだ指を振り解き、城之内の首に絡めて必死にしがみつく。すぐ側にある城之内の耳に舌を這わせ、耳たぶを食み、頬に何度も口付けながら辿り着いた唇に吸い付いた。薄く開いた唇の隙間から舌を差入れ、触れた熱くて柔らかいそれに絡みつく。吸い上げるように激しいキスを続けていれば、やがて城之内がそれに応えて同じように強く舌を吸ってくれた。

「もう…限界?」

 チュルリと舌先に溜まった唾液を吸い込みながら、城之内が琥珀の瞳を細めて尋ねて来た。その瞳に浮かぶ熱にドキドキと心臓を高鳴らせながら、海馬はコクリと頷いてみせる。

「早く…欲しい…っ!」
「我慢出来なさそう?」
「も…う…無理だ…っ!」

 汗ばんだ広い背中にカリカリと爪を引っ掛けながら限界を訴えると、城之内も漸く納得してくれたらしい。海馬の体内から三本の指を抜き、すっかりふやけてヌルリとした体液に塗れているそれらの指を口に含んで綺麗に舐め取ってしまう。そしてニヤリと笑って、大きく広げられた海馬の足を肩に担ぎ上げた。
 ピタリと後孔に押し付けられている城之内の熱が愛おしい。早くそれで貫いて欲しいと、身体が期待にブルリと震えた。

「挿れるぜ…」
「………。あっ…ぅ…っ!!」

 低い声で呟かれた声に微かに頷くと、途端に熱くて硬い固まりが押し込まれて来た。酷い圧迫感と押し広げられる痛みに小さく呻くが、身体の力を抜いて何とかその熱を享受する。流石に三年ぶりの挿入に身体は辛さを訴えたが、だがそこまで酷い訳では無い。ゆっくりと奥深くまで入り込んだ城之内のペニスに海馬の身体は直に慣れ、やがて熱く柔らかく体内の熱を締め付け始めた。

「はっ…ぁ…瀬人…。お前…凄いな。滅茶苦茶気持ちいい…っ」
「んっ…!! 克…也…っ!!」

 自らの体内で城之内のペニスがピクピク動いているのがよく分かる。城之内が自分で感じてくれているのが嬉しくて、海馬は目の前の身体に強く抱きついた。強く身体を押し付けると、身体全体に城之内の熱を感じる事が出来る。
 食人鬼であった頃の彼の身体は…酷く冷たかった。それが海馬の不安感に拍車を掛けていたりもしたのだが、今の城之内はそうでは無い。海馬の体温を超え、城之内は普通の人よりも高い体温を取り戻した。何でも無い時に掌にちょっと触れるだけでもその体温の高さに驚くというのに、今現在感じる彼の体温は通常時よりずっと高い。
 まるで燃え上がるようだ…と、海馬はうっとりと想った。

「動くよ…?」
「っ………!! はっ…あぅっ…!!」

 ズルリと動き出すペニスに、海馬の肌が粟立った。ズクズクと奥を突かれる度に背筋が激しく震えて、何度も身体をビクつかせる。圧迫感に苦しんでいた身体は刺激に慣れ、今は擦られる快感だけを海馬の脳に伝えていた。城之内のペニスの先が前立腺を抉るように擦る度に、背を反らして甲高い声で喘ぐ。眼前に現れた白い喉元に舌を這わせながら、城之内も夢中で海馬の体内を抉っていた。

「ひぅ…っ!! んっ…はっ…あぁっ…!!」
「瀬人…? 大丈夫…か? 痛く無い…?」
「へ…き…。も…痛く…無い。んっ!! っ…う…あっ!!」
「はぁ…っ。気持ち…いいよ…瀬人…っ」
「オ…オレも…気持ちいい…っ!! あっ…克也…っ!!」

 互いの身体に強く腕を絡め、発生する熱を与え合う。もう既に息は荒く言葉すら無い。あとはただ高みに登っていくばかり。

「ひっ…!! あっ…あぁっ…! も…もう…ダメ…だ!! あっ…も…やっ…!!」
「瀬人…っ! 瀬人…っ!!」
「あっ…あぅ…っ!! はっ…!! あっ…あぁぁ――――――っ!! 克也ぁ…―――っ!!」
「瀬人…―――っ!!」

 ビクリビクリと身体を震わせながら、海馬は熱を放出した。それと同時に城之内も海馬の体内に射精する。体内の奥深くにある城之内のペニスがピクピクと跳ねるのを感じ、その度にじわりと染み込む熱に海馬は幸せを感じていた。
 汗に塗れた身体を擦り付けながら顔を上げてキスをせがむと、その事に気付いた城之内がニコリと微笑み顔を近付けてくる。そして唇を挟み込むようなキスを何度も落としてくれた。
 指と指を絡め合い、身体を寄せ合い、何度でもキスをする。身体を繋げたまま二人は暫くそうやって離れようとはしなかった。



「ありがとな…瀬人」

 結局明け方近くまで抱き合い、外がうっすら明るくなってきたというのに二人は未だ眠れずにいた。同じ布団に入り込み、城之内は海馬の身体を抱き寄せ、海馬は城之内の胸に頭を載せて安らかな気持ちで心音を聞いている。時折城之内が海馬の額や頬に唇を押し付け、海馬がそれに応える形で顔を上げては軽い口付けを何度もするという、甘くて幸せな時間がそこには流れていた。

「オレを幸せにしてくれて…ありがとう」

 栗色の髪を掻き分け、現れたこめかみに唇を押し付けながらそういう城之内に、海馬はクスリと微笑んで見せた。

「何を言うんだ。それはオレの台詞だぞ」
「そうかな…? お前の功績の方が大きいような気がするんだけど」
「どっちもどっちだろう? オレはお前がいなければ幸せになれないし、お前はオレがいなければ幸せになれない。結局どちらが欠けてもダメなんだ。逆を言えば、オレ達二人が一緒に居ればそれだけで幸せって事だな」
「ポジティブだなぁ…瀬人は」
「ん………?」
「え? あれ? 違ったっけ? 確か前向きな考え方や人とかをこう言うって、遊戯に教わったんだけど…。オレ間違ってた?」
「あ…いや…合っているが…」
「ちゃんと合ってた? なら良かった」

 満足そうに微笑む城之内に、海馬は驚きを隠せなかった。どうやら自分の知らない内に、城之内は思った以上に成長していたらしい。その事に嬉しさを感じつつ、何となく悔しさも感じてしまう。下らないアダルトグッズを寄越した遊戯に苛立ちつつも、城之内の成長を助けて貰った事だけは感謝しても良いと思った。そして、これからの彼の成長は自分が助けていくと強く心に決める。

「負けていられないな…」
「ん? 何か言ったか?」
「いや。別に何も。愛しているぞ、克也」
「うん。オレも愛してる…瀬人」

 海馬を挟んで対峙していた城之内と遊戯の関係が、いつの間にか城之内を挟んだ海馬と遊戯という構図にすり替わっている事に、城之内自身は未だ気付いてない。だが聡い遊戯の事…。彼はもうこうなる事は予想済みなのだろう。あのアダルトグッズは悪戯心が一杯の彼なりの宣戦布告だ。

『海馬君の恋人にはなれなかったけど、今の僕は城之内君の親友だからね。彼の教師役という立場は譲らないよ』

 にっこり微笑みながらそう言う遊戯の声が聞こえてきそうだった。

「面白くなってきたな…」
「何が?」
「こっちの話だ」

 心底不思議そうな顔をしている城之内に軽くキスをし、海馬は城之内の胸の上に戻っていく。トクントクンと確かに刻まれる心音に安らぎを覚えながら目を瞑るが、眠気は一向に来る気配が無い。それどころかますます冴えていくような意識に軽く嘆息しながら、海馬はその身体を城之内に擦り寄せた。
 剥き出しの肩を熱い位の掌が優しく包んでくるのを感じ、海馬は今までずっと口に出せなかった事実を言葉にする勇気を出す。これから城之内と一緒に生きていく上で…これだけはどうしても無視する事は出来ないと思っていた。

「なぁ…克也」
「ん?」
「これからお前と一緒に暮らしていくにあたって…一つだけハッキリと伝えておきたい事が…」
「いいよ、言わなくて」

 眠そうな声で応える城之内に、海馬は思いきって言葉を放つ。けれどもせっかく勇気を振り絞って出した言葉は、即座に遮られてしまった。

「え………?」
「ちゃんと分かってるから、別に言わなくていい」
「克…也…。お前…知って…」
「知ってた訳じゃ無いぜ? でも何となく感じていた」
「そ…そうか…」
「でもな、瀬人。これだけは分かっておいてくれ。オレはお前が『せと』の生まれ変わりだから好きになったんじゃない。お前がお前だから好きになったんだ」
「克也…っ」
「今オレが愛しているのは、海馬瀬人という一人の人間だけだという事を…知っておいて欲しいんだ。な、瀬人」

 琥珀色の瞳を明るく輝かせてそう言う城之内に、海馬は一瞬泣きそうになった。顔を歪ませて、けれど涙は見せたく無いとばかりに広い胸に顔を埋めてしまう。
 涙を耐えて震える海馬の頭を、城之内の掌が優しく撫でていた。いつまでもいつまでも優しく…城之内が眠りに落ちるまでそれは続けられた。



 それからも眠気は一向に来ず、海馬の意識はハッキリしている。ただ心は至極安らかだった。いつの間にか城之内は完全に眠っており、海馬が顔を載せている胸も規則正しく上下している。暫くして疲れ切った身体が温かい体温に包まれて安心感を覚え、漸く眠気を訴え始めた。瞼が重くなってきたのを感じ、その誘いに逆らわずに海馬はウトウトと眠りの世界へと誘われていく。

 日の出はもうすぐそこにまで迫っているが、今は少しだけ休ませて貰おう。今日も明日も明後日も…日が昇る度に城之内との新しい一日が始まると思うと、幸せで堪らなくなる。

 そんな幸福な気持ちに満たされながら、海馬は緩やかに眠りへと落ちていった。