*Lesson(完結) - レッスン開始! - *Lesson8

 お互いに風呂に入って温まった身体にバスローブを羽織って、オレと海馬は寝室へとやって来た。白い手を掴んでベッドの前までやって来た時、黙って付いて来た海馬の身体がビクリと震えて固まるのが繋いだ手から伝わってくる。海馬がいつものレッスンの時とは違う緊張を感じている事が、オレにもよく理解出来た。
 そりゃそうだよな。いつものレッスンはあくまで『練習』。これからやろうとしているのは『本番』。その大きな違いは、オレよりも海馬自身がよく分かっている筈だ。

「大丈夫だから。そんなに緊張すんなって」

 ベッドの縁に並んで腰掛けて、下唇を噛んで強ばった表情をしている海馬に優しく微笑みかけながらそう言った。これは黙って真剣にセックスに挑むより、話しかけながらやって緊張を解してやった方が良いのかもしれない。そう思って、緊張でガチガチになっている身体をそっと抱き寄せて、まだしっとり濡れている栗色の髪の毛を優しく撫でる。そして白い頬に唇を押し付けた。

「本当に大丈夫だから…安心してくれよ。な?」
「あ…あぁ…」
「それよりさ、ちょっと教えてくれよ。何で後からオレが来るって分かってたのに、オナニーしてたりしたの?」
「っ………!?」
「久しぶりにオレに会えるからって、我慢出来無くなっちゃった? 興奮したの?」
「そ、それは…っ!」

 オレの言葉に狼狽えた海馬を可愛く思いながら、オレはなるべくゆっくりと海馬のバスローブを脱がせていく。海馬を怖がらせないように、そして出来る事なら自分が何をされているのか気付かれないように…。
 赤くなってきた頬や首筋にキスをしながら、オレはクスクス笑いながら会話を続ける事にした。

「ね、教えて。何をおかずにオナニーしてたんだ?」
「お…おかず…?」
「あぁ、何を想像しながらやってたんだって事」
「っ………!!」
「オナニーする時は、何か想像しながらするもんだろう? なぁなぁ、何考えながらやったんだよ?」
「そ…そんな事…っ。どうでもいいだろう…!!」
「どうでも良く無いよ。恋人が何考えてオナってたかって、やっぱ気になるもんじゃん」
「気にするな、馬鹿者!!」
「あ、もしかしてオレの事考えてやってたりした?」
「うっ…!」

 途端に真っ赤になった顔に、オレは心底嬉しくなってしまう。
 なんだ、やれば出来るじゃねーか。

「そんなに恥ずかしがるなって。いいんだよ。それが普通なんだから」
「だ…だが…っ」
「普通だって言ってるだろ? みんなやってる事なんだから、そんな風に思い詰めなくてもいいんだぜ。オレなんていっつもお前の事考えてオナニーしてるっていうのに」
「なっ…!?」
「な? だから普通だって言ってるんだ」
「っ…あっ…!」

 オレの言葉に慌てたような顔をする海馬に微笑みかけて、オレは白くて細い首筋に唇を当てた。薄い皮膚の下からいつもよりずっと早い鼓動が伝わってくる。トクトクと動くその脈動を愛しく思いながら、青白い血管に沿って首筋をべろりと舐め上げた。それと同時に胸の飾りに指先を当てそこをキュッと摘み上げると、小さな口から可愛い喘ぎ声が漏れ出てくる。そのままクリクリと押し潰すように愛撫していたら、海馬は耐えきれないように「あっ…あっ…」と短く喘いで身を捩っていた。

「海馬…気持ちいい?」
「あっ…やっ…!」
「うん、こっちは大分敏感になってきたな」
「んっ…!」
「ちょっと舐めてもいい?」
「あぁっ…!」

 すっかり赤くなって硬く尖った乳首に誘われるように吸い付いた。チュッチュッと軽く吸い上げて、乳輪の周りを丁寧に舌先でなぞる。愛撫を施す度に海馬は喘ぎながら震えて、やがてくたりと力を無くしてオレに完全に寄り掛かってしまった。
 ハァハァと息を荒くしている海馬を愛しく思いながら、その身をベッドに横たえてやった。ついでに細い腕からバスローブの袖を抜き去って、海馬を完全に裸にしてしまう。薄暗い部屋の大きなベッドの上に、海馬の白い裸体が鮮やかに浮かび上がった。

「綺麗だなぁ…海馬」
「んっ…ぁ…っ」

 海馬の全裸はレッスンの時に何度か見てるけど、見る度に感動してしまう。本当にオレなんかがこの身体を抱いていいのかって自信が無くなるくらいの美しさなんだ。
 海馬が呼吸をする度に緩やかに上下する胸や肩、縦長の綺麗なお臍がある腹部、淡い陰りの縁なんかを、指先でくすぐるように愛撫した。その度に海馬はピクピクと痙攣しながら可愛い声を出してくれる。眉根を寄せて、澄んだ青い瞳を潤ませて喘ぐその様は、オレの性欲に火を点けていった。
 なるべく海馬が怖がらないように優しく触っていったら、やがてあのピンク色の綺麗なペニスが頭を擡げ始めて来たのが目に入って来た。オレの愛撫にちゃんと感じてくれているのが分かって、凄く嬉しくなる。

「海馬…」

 あっという間にトロトロになったペニスに指を絡め、オレは身体を下にずらした。海馬の両足の間に入り込んで、掌でペニスを握り込んだまま顔を近付けようとしたら、オレの行動に気付いた海馬に髪の毛を強く掴まれてしまう。
 うっ…気付いちゃったか…。目聡い奴め。

「いたっ…痛いって…。海馬、髪離してくれ」
「じ…城之内…! 何をするつもりだ…!」
「何って…フェラするつもりだけど?」
「な…っ!? や…やめろ…!!」
「やめない。オレずっとやりたかったんだよ」
「や…嫌だ…!! アレは…気持ちが悪い…!!」

 オレの言葉に、海馬が嫌々と首を振った。その頑なな態度に、オレは「そうか…」と小さく呟く。
 そういやコイツは幼い頃に性的虐待を受けていたんだった。感じもしないのに見知らぬ中年男共にフェラされた事もあるんだろうし、逆に無理矢理フェラをやらされた事もあったに違いない。海馬の心の奥深くまでしつこく根付くトラウマを、改めで眼前に見せつけられた気がした。
 だけどオレだってこれ以上我慢する事なんて到底無理だし、一分一秒でも早く海馬を気持ち良くさせたい気持ちで一杯だった。早く先に進みたくて気持ちが焦っていく。

「大丈夫だから…。絶対気持ち良くさせてやるから…っ。だから舐めさせてくれ。頼む!」
「い…や…っ!」

 オレの言葉に海馬はますます強く髪を掴んできたけど、オレはそれを無視してそのまま手の中のペニスに口を寄せた。髪がギュウギュウに引っ張られて痛いけど…仕方無いから我慢する事にする。濡れたペニスの先端をペロリと舐めたら、海馬は「ひっ!」と小さく悲鳴を放ってビクリと身体を跳ねさせた。

「そ…そんなところを…舐めるな馬鹿が…!!」

 半分泣きそうになりながら抗議してくるけど、オレはコイツの言葉を素直に訊く気なんて毛頭無かった。

「悪いけど。もう我慢しないからな、オレ」
「………?」
「今までずっと我慢してきたんだ。だからもう我慢しない」
「じょ…の…うち…?」
「今日はレッスンを始めた頃から…いや、お前と付き合うずっと前から、オレがお前にしてやりたいと思っていた事をするつもりだから」
「城之内…っ」
「だから海馬、お前も覚悟しててくれ」
「そ…それは…」
「ん? 何?」
「それは…どういう事をするつもり…なのだ…?」

 今までとは違う震えを持った声に、オレは慌てて顔を上げた。目に入ってきた海馬の顔は、訳の分からない怖さを感じているように引き攣っている。
 その顔を見て、オレは改めてコイツにはちゃんと言葉で説明してやらなきゃダメなんだという事を思い出した。それと同時に、自分の気持ちばかりを優先させていた事実に気が付いて、深く反省をする。
 馬鹿だな…オレ。本当に馬鹿だ。
 海馬に怖い想いはさせたくない。辛い想いも悲しい想いもさせたくない。なるべく安心して、嬉しくて気持ちいい事だけを感じられるように…海馬が幸せで一杯になれるようにしたい。それがオレの目標だった筈なのに。
 早く海馬を抱きたいという気持ちばかりが焦って、海馬の事を最優先に考える事を忘れかけていた。

「ゴメンゴメン。ちょっと怖がらせちまったな」

 酷く心配そうにこちらを見ている海馬にニッコリと笑いかけて、オレはなるべく落ち着いた優しい声を出した。

「大丈夫。何も怖い事はしないから。ちゃんとお前が気持ち良くなれる事しかしないよ」
「オレが…気持ち良く…?」
「そう。でもな海馬。途中でどうしてもダメだと思ったり、嫌だと感じたり、気持ち悪かったりしたらちゃんとそう言ってくれよ? オレもそこまで馬鹿じゃないから、途中で止めてやるからな」
「え………?」
「あのな、オレはお前に嫌な想いはして欲しく無いんだよ。お前が無理なら…オレも我慢するから」
「………じゃ…無い」
「ん?」
「無理…じゃ…無い…っ」

 それまでの不安そうな顔はどこに行ったのか…。突然青い瞳に強い意志を宿して、海馬はオレの事を睨み付けるように見詰めて来た。
 こんな海馬を見るのは初めてで、オレは思わず驚いてしまう。

「海馬…?」
「無理じゃ無いから…続けてくれ。お前の好きなように…するがいい」
「でも…お前…」
「気持ちが…良いのだ…」
「………?」
「ちゃんと…気持ちが良いと…感じるのだ…。お前に触れられると、気持ちが良過ぎて何だかおかしくなりそうで怖い。怖いのに…何故だかとても幸せだと感じる。それがとても心地良くて…堪らない」
「海馬…」
「だから…やめて欲しく無いのだ」

 自分の感覚に戸惑っているように、海馬は瞳を潤ませながらオレにそう訴える。だけどその目に浮かぶ意志は絶対で、決して揺らぎそうに無かった。
 あぁ…そうだったな。そう言えばコイツはこういう奴だった。自分の決めた事には絶対の自信を持って、全力で挑んで来る奴だった。最近ずっと狼狽えたり戸惑ったりしてる海馬ばかり見ていたから、オレはその事を失念していたんだ。

「うん。分かったよ…海馬」

 海馬の覚悟が目に見えるようだ。オレはその事を、本気で嬉しいと…そして愛しいと感じていた。

「オレもずっとお前が欲しいと思っていた。だから今日は何があっても絶対やめない。最後までちゃんとセックスしような?」
「………」
「途中で怖くなっても…オレの事を信じて身を任せてくれ。絶対お前が辛くなるような事はしないから。約束するから」
「………」
「それでもやっぱり嫌になったりしたら…」
「ならない」
「海…馬…?」
「ならない。だからお前も途中で止めたりしないでくれ」

 強い決意を含んだ海馬の言葉。オレはその言葉にコクリと頷いて、再び白い身体に沈んでいった。