*Lesson(完結) - レッスン開始! - *Lesson5

「うーん…。やっぱまだ無理か…」

 何度愛撫しても中途半端にしか硬くならないペニスに、オレは苦笑しながらそう言った。まだ柔らかい先端をチョイチョイ突きながら「まだもうちょっとかかりそうだなぁ…」と笑い声でそう言うと、海馬は耳まで真っ赤になりながらプイッと横を向いてしまう。
 目をギュッと強く瞑って辛そうに眉根を寄せるその表情に、オレは自分だけでなく海馬にも我慢の限界が来ている事を感じていた。


 海馬のペニスが初めてそれなりの反応を返してくれてから丁度一週間後の夜、オレは海馬邸に泊まりに来ていた。今日はバイトも無かったしさっさと食事を済ませて、二人で順番に風呂に入ってから準備万端でベッドに入ったんだけど…。まぁ…でも、それとこれとは全く話が違うって奴なんだよな。
 バスローブを脱がせて裸でベッドに寝転がった海馬と、スウェットを着たままのオレ。ゆっくり風呂に入ってきた為にまだ温かい海馬の肌を撫で擦りつつ、薄く開いた唇に吸い付いた。
 ディープキスに関しては、海馬はもう何も嫌がらなくなった。それどころか積極的に反応して、自ら舌を絡ませてきたりする。顔を真っ赤に紅潮させ、チュクチュクと濡れた音をさせながらキスに夢中になっている海馬を見る度に、オレの腰は熱く疼いた。海馬を完全に導けるまでは最後まで我慢してみせるって強く思ってるけど、何だかんだ言っても身体はやっぱり…辛かった。
 そりゃあ、オレは普通の健康的な男の子ですから。恋人のこんな姿を見せられてまともでいられる訳無いし、むしろ平気でいられる方が普通じゃ無いとも思う。興奮してしまうのは仕方無いよな。
 自慢じゃ無いけど、オレは元々我慢強い性格じゃ無かった。むかつけばすぐに手が出るし、セックスだって相手の女の子がいいと言ってくれれば、その場で押し倒してやってしまっていた。だってする事すれば気持ちいいし、やりたい盛りの男なんて皆そんなもんだろ?
 でも海馬に関してだけは、そんな風に軽々しくセックスする気にはならなかったんだ。いっつも勢いだけで生きて来たオレがこうやって我慢出来ているのは、やっぱりそれだけ海馬に本気惚れしてるからなんだなぁ…って常々思う訳なんだよ。好きな奴に悲しい想いなんてさせたくないし、泣かせたくないし、無理もしたくない。出来れば辛かったり苦しかったりする事も、感じさせたくない。

 いつでも笑っていて、幸せでいて欲しいんだ。

 そういう事言ったら「じゃーセックスなんてしなけりゃいいんじゃないの?」って話になるんだけど、それとこれとはまた話が違うから難しいよな。お互い爺さんになったらそういう生活も有りだとは思うけど、今のオレはまだ若いからさぁ…。やっぱりどうしても、海馬の事を抱きたいんだ。
 心も身体も欲しい。凄く我が儘だと思うけど、そう思うのは人間としては至って『普通』の事だから、こればっかりは仕方が無いし、オレが悪い訳でも無い。だから海馬にはこうしてレッスンに付き合って貰ってるんだけど、なかなか上手くいかないのもまた事実だった。
 オレ自身は、こうなる事は初めから分かっていた。海馬の持つトラウマが根深い物だという事はよーく分かってたし、それがちょっとやそっとのレッスンでどうにかなるとも思って無かったから。むしろこんだけ早い時期に反応が見られた事に、逆にビックリして嬉しくなったくらいだ。
 でも最初から気合いを入れて覚悟して臨んできたオレとは違って、最近はどっちかっていうと当の本人…つまり海馬の方が疲弊してきているような気がするんだ。


 ディープキスをしながら掌で内股を撫で、そっと柔らかいペニスを包み込んだ。何度か優しく揉んでいると少し芯を持ってくれるけど、いつものようにそれ以上は硬くはならない。

「っ………! な…んで…っ」

 そんな様子に、目に見えて海馬は焦っていた。思い通りにならない自らの身体に苛立っている。今だって半勃ち以上に成長しない自分のペニスを涙目で睨み付けて、ギリギリと歯ぎしりをしているんだ。
 馬鹿だな、本当に。そんなに焦ったって、何ともなりゃしねぇよ。

「まぁ、全くウンともスンとも言わなかった頃に比べれば、これだけ反応してれば上々だろ? うん、おっけー」

 なるべく明るい声でそう言ってやっても、海馬は首を縦に振らない。それどころかますます深く思い悩んだ顔をして、大きな溜息を吐いていた。

「いつまで…だ…?」
「うん?」
「いつまで…こんな状態が続くのだ…」
「うーん…? それは分からないけど…きっとその内何とかなるって」
「簡単にそんな事を言うな! 一生このままかもしれないのだぞ!?」
「それは無いよ。だってお前、完全にインポだった時からそんな事言ってたけど、ここまで回復したんだぜ? 完全勃起出来るのもそんなに遠い話じゃ無い筈だ」
「分からんぞ…。これがオレにとっての終着点かもしれん」
「考え過ぎだってば…」

 やれやれと肩を竦めて、今度はこっちが深く嘆息した。
 全く…。考え過ぎて自分の思考に凝り固まっちまうのは、海馬の悪い癖だな。性感より先にこっちの方を治した方がいいんじゃないだろうか?

「海馬………」

 一旦身体を愛撫する手を止めて、オレは海馬をそっと抱き締めた。海馬はオレの動きに素直に従って、そのまま身体をこちらに擦り寄せてくる。
 こういう反応が凄く可愛いんだよなぁ…。うん、やっぱりオレはコイツの事が大好きなんだ。よし、まだまだ大丈夫。余裕持ってやっていける。
 眉根を寄せて微妙な顔をしながらオレに縋り付く海馬に優しい笑みを零しつつ、オレはほんのり紅く染まっている耳元にしっかりと囁いてやった。

「いいか、海馬。これだけは言っておくぞ。上手くいかなくても絶対に焦ったりするな」
「………?」
「お前のトラウマは筋金入りなんだから、ちょっとやそっとで上手くいく訳ないだろ? えーと、こういうの何て言うんだっけ? いっちょう? ひとあさ?」
「一朝一夕」
「あ、そうそうそれそれ。一朝一夕。とにかくすぐには無理だって事だよ。だから焦んな」
「だが…お前はどうするのだ…? そろそろ限界なのではないか?」

 そう言ってオレに抱かれたままだった海馬が、視線をチラリと下にずらした。その視線を追いかけるように下を向いたオレは、その場で思わず「あはは…」と苦笑してしまう。
 オレのスウェットのズボンの前面は、誰がどう見てもそうと分かるまでに変化してしまっていた。

「こればっかりは生理現象だからなぁ…。仕方無いというか何というか…。うん…まぁ…まだ大丈夫だよ。お前はそんな事は心配すんな。オレの事より自分の事を優先しろ」
「だが………!!」
「大丈夫だって言ってるだろ? 身体の反応はどうしようも無いんだよ…。でも心の方はまだ余裕あるから、平気だよ」
「くっ………!!」
「何でそんなに悔しそうな顔してんだよ。ゆっくりやっていこうぜ? な、海馬」

 下唇をキリキリと噛んで俯く海馬に笑いかけてやって、オレはその細い身体をギュッと抱き締めた。
 不安に震えるコイツを、少しでも安心させてやりたかった。焦る事は無い、ゆっくりやっていけばいいんだって教えてやりたかった。そして、お前の為ならオレはいつまでも待っていられるんだって事を、海馬に分かって欲しかった。オレを…信じて欲しかった。

「海馬…好きだよ…」
「城之…内…っ」
「ホントだよ。大好きだよ…海馬。愛してる」
「城之内…っ。オレは…っ」
「焦るなって。確かにオレはお前を抱きたいけど、お前と一緒に気持ち良くなれないんだったら、そんなセックスに意味なんて無いんだよ。オレはお前が好きだ。愛してる。だからこそオレだけじゃなくて、お前も気持ち良くなってくれなくちゃダメなんだ。自分だけが気持ちいいセックスなんて、オレはしたくない」
「っ………!」
「だからお前がちゃんとセックス出来るようになるまで…オレは待つよ。いつまでも待つよ。だからお前は何も心配しないで…ゆっくり身体を慣らしていけばいいんだ」

 身体を抱き締め、背中や腰を宥めるように掌で撫で、額や頬に軽く口付ける。そして耳元で何度も何度もしつこいくらいに愛を囁き、海馬が安心するように言葉を放った。
 その行動に漸く安心しだした海馬に微笑みかけて、震える身体をベッドに押し倒して、首筋に唇を押し付けつつ身体をまさぐった。白い肌を軽く吸って胸元に移動し、赤く熟れている乳首に吸い付く。

「ひゃっ…ぅ…!」

 あぁ、甘い。甘くて美味しい。今は軽い愛撫しか出来無いけど、いつかこれを思いっきり味わう事が出来たら…。そう思いながら、硬くなった乳首をチュピッと吸い上げ、もう片方の乳首にも吸い付きに行く。今まで吸っていて濡れた乳首の方は、空いた手を持ち上げて指先で摘み上げた。

「あっ…あっ…!?」
「海馬…好き…だよ。大好きだよ…」
「あぁっ…城之内…っ!」
「だから安心して…焦らないで…」
「やっ…ま…待て…っ!!」
「待たないよ。お前が分かってくれるまで、何度も言うから…」
「ち、違う! そうじゃない!! あっ…いやっ…! 何か…変…だ…っ!!」

 いやいやと激しく首を振る海馬に、流石のオレも今までとは全く違う事態が起きている事に気が付いた。愛撫していた乳首から口と指を離して視線を上げると、海馬は顔を真っ赤に上気させてボロボロと泣いている。
 慌てて身体を持ち上げて、海馬の頭を胸元に抱き寄せた。

「ど、どうした…? あ、ゴメン! 胸…嫌だった?」
「ち…ちがっ…! そうじゃ…無い…っ!」
「えーっと…。別にキツイ事言ったつもりは無いんだけど…気に触ったのなら謝る。ゴメン…な?」
「そうじゃ無い…!」
「海…馬…?」

 突如放たれた海馬の大声にビックリしていたら、海馬はボロボロと泣きながらオレを見上げ、涙声のまま口を開いた。真っ直ぐに見詰めて来る青い瞳に、ちょっと…いやかなりドキドキする。

「あ…安心…したのだ…。本当は…ずっと…不安…だった…から…。けれ…ど…お前が…待っていてくれると…そう…言ってくれた…から…、安心した…のだ」
「う…うん」

 海馬の言葉にぎこちなく頷く。

「そうし…たら…、何故か…今まで…とは…全く違う…感じ方を…して…」
「違う感じ方?」

 オレの質問に、海馬はただコクコクと頷くだけだ。細い身体がフルフルと震えていたから気分が悪いのかと思ったけど、紅潮している頬がそれを否定している。そして海馬は内股をもじもじと摺り合わせている。
 あれ…? この反応って…もしかして…。

「海馬…? お前…もしかして…気持ち良くなってる?」
「っ………!」
「ちゃんと答えてくれ。言ってくれないと…分かんないよ」
「そ…そんな事…! 訊くな馬鹿…!!」

 身体を丸めて震えながら大声で叫ぶ海馬。だけどその反応は決して嫌がられている訳じゃなくて、きっとただ照れているだけであって…。
 オレはもしかしたら…という期待を込めて海馬から離れ、今はピッタリとくっつけられている長い足の前に座り込み、丸い膝頭に掌を乗せた。

「海馬…。ちょっと…見せてみ?」
「やっ…!! 嫌だ…城之内…っ!!」
「いいから、ちょっとだけ…見せて」

 嫌だ嫌だと抵抗する海馬を何とか押し留めて、オレは両膝をゆっくりと左右に開いていく。長い足が開かれたその奥の奥、海馬の身体の中心にあるソレは、確かにオレ達がずっと望んでいた形でそこに存在していた。
 ちゃんと完全に勃起していて、先端からとろりとした透明の滴を零している。本人を始め、今まで誰も快感に導いた事の無い綺麗なピンク色をしたソレが硬く勃ちあがって、先走りの液でトロトロに濡れているその様は、本当に綺麗で卑猥で…何より滅茶苦茶興奮した。

「海馬…っ! お前…お前…っ!!」

 何かを言いたかった。きっと「ついにやったな!」とか「これで大丈夫だ」とかそんな事だったろうと思うけど、その先は全く言葉にならなかった。
 人間は感動し過ぎると、言葉が言葉にならないという事を、オレは生まれて初めて知ったのだった。