*Lesson(完結) - レッスン開始! - *Lesson4

 放課後の教室でのレッスンで、海馬が快感を感じ始めてくれているのを知ってから二週間。オレ達はその日から全く顔を合わせていなかった。表向きには海馬の仕事が忙しくて時間が取れないという理由だったんだけど、何となく避けられてると感じるのは…オレの気のせいなんだろうか…?
 誰もいない教室で、窓から見えていた夕日よりも真っ赤に顔を染めて快感に震える海馬。快感を快感と捉えられなくて、怖くて混乱して泣き出してしまった海馬。
 その海馬を思い出すだけで、オレは激しく興奮してしまうのを止められなかった。あの日から、あの時の海馬の顔を思い浮かべるだけで何度抜いたか分からない。それだけ海馬の感じている顔が攻撃力抜群だと言うのもあるんだけど、オレが海馬に飢えていて、そろそろ我慢の限界だという事にも繋がるから厄介だと思う。
 絶対に無理強いはしたくないと思っている。だけど、そろそろ本気で抱きたいと思っているのも確かだった。

「でもなぁ…」

 放課後、バイト先までの道をトボトボと歩きながら、オレは深く溜息を吐いた。

「ちょっと…無理させちゃったのかも…しれないなぁ…」

 仕事が忙しい所為なのか、それともオレに会いたくないからなのか。海馬からの連絡は全く持って来なかった。これが本当に仕事が忙しい所為なら別に良いんだけど、本気で避けられてたりしたら、オレはもう立ち直れないかもしれない。
 ただオレは快感を感じられないという海馬に、オレの事を感じて欲しいと思っただけだった。一緒に快感を感じて、一緒に幸せになりたかっただけ…それなのに…。

「失敗したなぁ…」

 やっぱり無理をさせていたんだと思う。急に事を運び過ぎたのかもしれない。
 未知の感覚に驚いて…怯えて、海馬はもうオレと接触する事を嫌になってしまったのかもしれないと思ったら、気分が暗く沈んでいった。でも、今日のバイトはコンビニだし、販売業務だからいつまでも落ち込んで暗い顔をしている訳にはいかない。気持ちを入れ替えないといけないな…と思い、気合いを入れ直して自分の頬をパンパンと叩いた時だった。ポケットに入れてあった携帯が震えると同時に軽快なメロディーが流れ出し、オレは慌てて携帯電話を取り出してフリップを開いた。
 流れている曲から海馬からの電話だという事は分かっていたけど、液晶に映し出されている『海馬瀬人』という名前を確認して、更に胸がドキリと高鳴る。急いで通話ボタンを押して、携帯電話を耳に押し付けた。

「も…もしもし…?」
『城之内か?』

 久しぶりに聞いた海馬の声に、オレは顔が真っ赤になるくらいに嬉しくなった。何だか心臓もドキドキしている。

「うん、オレだよ。久しぶりだな。仕事…忙しいのか?」
『あぁ。昨日までは忙しかったが、漸くキリが付いた。今日は残った仕事を軽く纏めて、あとは帰るだけだ』

 恐る恐る仕事の事を尋ねてみたら、どうやら忙しいのは治まったみたいだった。それに自分の事のように喜んで、ついでに電話口から聞こえてくる海馬の声が予想以上に機嫌が良い事にも安心した。
 良かった。別にあの事で避けられていた訳じゃ無いらしい。その証拠に海馬は少し考え込んで、『それで…その…レッスンの続きの事なんだが…』と自らレッスンの話題を口に出した。
 本気で嫌がっていたら、自分からこんな事を言い出す筈が無い。その事に心底安心しつつ、オレは優しい声で答えてやる。

「うん。暇になったら、またレッスンを再開しような」
『ずっと忙しくて…お前とも会えなくて済まなかった…。それで…その…今日の夜は…どうだ? 明日は休みだし、泊まりに来ても…』
「今日? オレ今からバイトだから、夜十時過ぎてもいいんなら、それから行くけど」
『あぁ、それで良い。待っている…から…』
「え………?」
『ん? 何だ?』
「あ、いや、何でも無い…っ!」

 待っている…。待っているって海馬が言った! 間違い無くオレの事を待っていると言った!!
 ついさっきまで海馬に手を出した事を後悔し始めていたというのに、オレは本当に現金な奴だよな。海馬が待っていると言った瞬間に、海馬にレッスン出来る事をこんなに嬉しいと思うなんて。
 海馬の言葉から分かる事。それは海馬が、オレに触れられる事を嫌がっている訳では無いという事だった。待っているという事は、むしろオレに触れられたいと思っているとも考えられる。多分海馬の事だからそこまで考えて「待っている」と言った訳じゃ無いと思うけど、海馬のオレを信頼している気持ちが見え隠れしていて、それが凄く嬉しいと感じた。

「んじゃ…後で行くから…」
『あぁ』

 全く迷いの無い返事が返って来たのを確認して、オレは携帯を切って胸ポケットに仕舞った。これからバイトだけど、気分が高揚してどんな仕事でも上手くいくような気がしてならない。

「オレってホント、単純なんだよなぁ~!」

 自分が単純明快なのは良く分かっているつもりだったんだけどな。
 そんな自分が可笑しくて思わずクスクス笑いつつ、オレはバイト先までの道を駆け足で辿り始めた。ここで急いだって仕方無いのに、何だかノンビリと歩いてなんていられなかったんだ。



 コンビニでのバイトを終えて海馬邸に着いたのは、夜の十時半を過ぎた頃だった。着いて早速海馬の私室に招かれて、用意されてあった夜食を食わせて貰った。仕事して来た後だったから物凄く腹が減っていて、正直本気で助かったと思う。
 海馬邸お抱えシェフの滅茶苦茶美味しいサンドイッチを頬張りつつ、一緒に付いてきた野菜スープも全部飲んで、最後に冷たい紅茶をグイッと飲み干した。プハッと息を吐き出して、満足した腹を撫でて漸く安心する。

「う~! 満足した~!! サンキューな海馬」

 ソファーの上でうーんと伸びをしてそう言ったら、目の前に座っていた海馬がクスリと笑みを零した。その笑い顔が余りに可愛くて、見ているこっちが赤面してしまう。

「満足したか?」
「うん。お前ん家の料理って、滅茶苦茶美味いんだもんな。すっげー満足だよ」
「そうか…。だが…お前は本当は…満足していないんだろう?」
「へ? 満足だけど?」
「そうでは無くて…。料理では無く、オレに対しての話だ」
「あぁ…そっちね」
「………」

 せっかく可愛かった顔をまた暗くして、海馬は俯いてしまう。
 そっか…そうだったのか。やっぱり海馬も気にしていたんだな。でも、本格的に悩んでいる海馬には悪いけど、それを嬉しいと思ってしまうのはどうしてなんだろうな? 多分それはきっと、海馬が自分の問題から目を背けずにちゃんと闘っているからなんだ。
 海馬の身体を欲しがっているオレと対峙して、海馬が怖くない筈無いんだ。快感を全く感じられない自分の身体を持て余して、レッスンを受ける度にきっと逃げたいって思っているに違いない。

 それでも海馬は逃げないんだ。自分の為に…そしてオレの為にずっと努力している。

 その海馬の努力を、オレは見失っていた。
 確かにオレは海馬の事を大事に思っている。でも、だからと言って海馬自身の努力を忘れたりしちゃいけなかったんだ。
 海馬は頑張っていた。オレ以上に頑張っていた。感じられない身体をオレに差し出して、どんなにか怖かっただろう。情けなかっただろう。悲しかっただろう。でも、それでも諦める事はせずに、オレに全てを委ねようとしてくれていたのに…。

「海馬、こっちにおいで」

 ソファーに座ったまま手招きすると、海馬はひょいっと首を傾げて、それでも向かいのソファーから立ち上がって素直にオレの側に来てくれた。オレの側に立ち尽くす細い腰を抱き寄せて、オレは海馬の身体を自分の隣に座らせる。そしてそのまま肩を抱き寄せて、近付いて来た頬に軽く唇を押し付けた。
 擽ったそうに首を竦める海馬にクスッと笑って、オレは「ゴメンな、海馬」と言葉を放つ。それを聞いた海馬が不思議そうにオレの顔を見詰めて来るのに気が付いて、オレは微笑みながらもう一度「ゴメン」と謝った。

「城之内…? 何故謝るのだ?」
「ん? オレがお前を疑っていたからだよ」
「疑う…?」
「そう。もうオレの事なんか嫌いになっちゃったんじゃないかってね」
「嫌いに…? 何故そんな事をオレが思わなくてはいけないのだ?」
「だってさ、レッスン…。この間ちょっと無理矢理した感じがあっただろ?」
「この間のって…教室でのレッスンの事か?」
「そう。あの日ちょっと無理したじゃんか。だから海馬はもう…レッスンが嫌になっちゃったのかなーって思って」
「馬鹿な! そんな事は無い…っ!!」
「うん、分かってる。ていうか…今気付いたよ。お前はちゃんとオレを受け入れてくれてたのにな…。馬鹿なのはオレの方だよ。お前の事を疑ってた。本当に…ゴメンな?」

 オレが心から謝ると、海馬は途端にシュンとして視線を落としてしまった。
 あぁ、この顔は知ってる。これは海馬がいつも感じられない自分の身体に、自責の念を感じている時の顔だ。

「謝るというなら…それはオレの方だ。お前がここまでしてくれているのに…オレはいつまで経っても変わらないまま…」
「そんな事ないぜ?」
「いや、そんな事はある!」
「無いってば。だってこの間、お前感じてたじゃん」
「え………?」
「あ、やっぱ気付いて無かった? んじゃちょっとキスしてみよう」

 そう言ってオレは海馬の顔を引き寄せて、薄く開いた唇にキスをした。唇の隙間から舌を差入れると、「んっ…!」という可愛らしい声と共に熱い舌が絡まってくる。海馬の手が震えながらオレの肩に縋ってくるのを感じ、オレは海馬の腰を片手で支えながら、もう片方の掌で服の上から背中や腰を撫で回した。その度にビクビク震える身体に薄目を開けて確認してみると、目の前の海馬の顔に異変が現れていた。
 それまでの無表情さとは全く違う必死な顔。頬を真っ赤に紅潮させ、目をギュッと強く瞑って睫を震わせている。

 うん。気のせいじゃない。これは間違い無く…感じている。

 海馬がオレのキスで感じてくれている事に嬉しくなって、オレは抱き締めている細い身体をゆっくりとソファーに押し倒しながら、掌で身体のあちこちを優しく撫で回した。サワサワと撫でる度に海馬の身体はフルリと震え、その反応に嬉しくなってオレはそのまま掌を内股へと伸ばす。ズボンの上からそっと撫でてみると、相変わらずそこはピクピクと震えている。
 素直な反応に本当に嬉しくなって、オレは一旦唇を離して海馬にニヤリと笑ってみせた。

「ほら…感じてる」
「やっ…! ちがっ…!」
「違わないよ。気持ちいいだろう?」
「分から…な…い…!」
「分からなくは無い筈だ。背筋がゾワゾワするんだろ?」

 オレの質問に海馬はコクリと頷いて答える。

「ゾワゾワ…する…。気持ちが…悪い…」
「気持ち悪く無いの。それが気持ちいいって事なんだよ」
「でも…落ち着かない…」
「そういうもんなんだよ。それでいいんだよ…海馬」
「んっ…!!」

 グダグダと言い訳する口を黙らせる為に、オレはもう一度唇を重ねてしまった。途端にブルッと震える身体を体重を掛けて押し付けてしまうと、そのまま片手で内股への愛撫を続ける。掌全体を使って細い内股を撫で擦りつつ、少しずつ上に這い上がっていって、そしてそのまま柔らかいペニスを包み込んだ。

「んっ…!! ふ…ゃ…っ!!」

 布地の上から優しく揉んでいると、海馬がビクビク身体を震わせて、いやいやをするように首を左右に振る。ほんのり紅く染まった眦から涙が零れ落ちて、その情景はオレを興奮させるのに充分な威力を持っていた。
 不味いなぁ…と思いながらも、何とか我慢しながらペニスへの愛撫を続けていた時だった。

「………ん? あ…これって…」

 掌に包んでいたものがピクリと動いたのを感じた。この間はほんの一瞬だけしか感じられなかったその感触を、今はハッキリと感じる事が出来る。試しにもう何度か指を動かしてみると、その度にピクリピクリと反応してくれる。

「か…海馬…っ」
「………っ?」
「ちょっと…ゴメン!」
「なっ…!? や…やめろ城之内…っ!! っ………!?」

 海馬の口から制止の声があがったけれど、オレはそれを無視して身体を下にずらした。ズボンのベルトを外してファスナーを下げてしまうと、下着と一緒に布地を膝までグイッと降ろしてしまう。
 目の前に現れたのは、まだ小さくて柔らかいペニス。だけどそっとそれに触れてみれば、その変化は一目瞭然だった。

「うっ………!」
「海馬…これ…」
「な…ん…? や…やめ…」
「ちょっと硬くなってる…。半勃ち状態って奴だ…コレ…」
「なん…だと…?」
「いいから。ちょっと触ってごらん」

 オレの服を強く握り締めていた海馬の手を取って、怖がられないようにゆっくり股間に近付けていった。細い指先を震えるペニスに触れさせると、海馬は信じられないものを触ったかのように目を丸くして固まってしまう。
 悪いとは思ったけど、その反応に少し笑ってしまった。そんなにビクビクしなくたって、それは別に危険な物でも何でもないのになぁ…。

「そんなに怖がるなよ。自分のモノだろ?」

 オレが笑いながらそう言うと、海馬は涙ぐんだ瞳でそろそろとオレの事を見上げて来た。その反応が凄く可愛いと思う。

「な? いつもと少し硬さが違うだろ?」
「………っ」
「触ってみてどう? 何か感じる?」
「変な…感じが…する…」
「背中がザワザワしたり、腰が疼いたりする感じ?」

 オレの言葉に少し考え込んだ後、海馬は顔を真っ赤にしたままコクリと頷いてみせた。
 どうしよう…。海馬の全てが、可愛くて可愛くて堪らない。

「うん。それが気持ちいいって感触なんだよ。今はまだ分からないかもしれないけど…この感じを覚えておいてくれ」
「城之内…」
「ん?」
「もうちょっと…触ってみてくれ…」
「………え?」
「頼む…から…」

 自分の性器から手を離し、海馬はオレの袖口を掴みながら上目遣いでそんな事を言って来た。真っ赤に上気した頬、潤んだ青い瞳、濡れた唇でそんな風に誘われちゃ、オレとしても断わる術は無い訳で…。
 とりあえず「わ、分かった…」と狼狽えながら返事をして、オレは半勃ち状態の海馬のペニスに手を伸ばした。触れたソレを優しく掌で包み込みながら、緩く上下に刺激する。

「あっ…! ん…!!」

 途端に海馬の口から漏れ出た甘い喘ぎに、自分の下半身に猛烈に血液が流れ込むのを感じた。
 ヤバイヤバイヤバイ!! 海馬が超可愛い!! 滅茶苦茶興奮する!! このまま抱いちゃいたい!!
 ドクドクと血流が激しくなる頭で、一瞬そんな事を考えて…。でもオレは慌てて首を横に振って、その幻想を振り解いた。
 まだダメだ。このままじゃまだ抱けない。もうちょっと…もうちょっと我慢しないと、セックスする意味が無い。
 海馬は今はオレの首にぎゅーっと強く抱きついて、今まで感じた事の無い感覚に翻弄されている。オレが少し手を動かすだけで、「あっ…あっ…」と可愛い声を上げてくれていた。ペニスはそれ以上は硬くなってくれなかったけど、ほんの少しだけ先端から透明な粘液も出してくれている。その粘液を先端に塗り込めるように刺激すると、腰をビクリと大きく震わせ「あぁん!!」と小さな悲鳴が上がった。

「海馬…。気持ち…いい…?」
「やっ…! 無理…っ!!」
「無理? 何が…無理?」
「こんな…の…耐えき…れ…な…!!」
「大丈夫。少しずつやっていけば慣れていくから」
「やっ…ゃ…!! んっ…やぁ…!!」

 イヤイヤと言っている割には海馬はオレの身体にしっかりとしがみついたままで、離れようとはしない。そんな海馬が健気で嬉しくて、オレは目の前の身体を強く抱き締めた。

「もうちょっとだよ…海馬」
「んぁ…っ!?」
「もうちょっとで…ちゃんと愛し合えるようになるからな…」
「あっ…城之…内…っ!!」

 ビクビクと震える海馬の身体を抱き締めつつ、オレはその晩、いつまでも優しい愛撫を続けていた。