ベッドの上に仰向けに寝転がった海馬の足元に跪いて、オレは細い両足の間に入り込んだ。立てられている両膝に手を当てて、その足をゆっくりと左右に開いていく。目に入ってきたピンク色のペニスは既に緩く勃ち上がって、フルフルと震えながらオレの事を誘っていた。
本当だったら今すぐにでもそのペニスに指を絡めて何度でもイカせてあげたかったけど、今オレが触れなければならない目的の場所はそこじゃない。ペニスの根本にある可愛らしい双球の更に下にある、普段は排泄にしか使われない器官。そこが今からオレが解してやらなくちゃいけない場所だった。
レッスンの為に持って来ていたローションをたっぷり掌の上に出して、ぬるつく液体に塗れた指をそっと下肢に持って行く。
「それじゃ…触るからな」
「………あぁ」
「途中でどうしても耐えられなくなったり嫌になったりしたら、ちゃんとオレに言って…」
「嫌になぞならぬと、さっきから言っているだろう」
「でも…」
「大丈夫だから、続けてくれ…城之内」
オレを見上げる海馬の顔は、緊張で少し強ばっている。けれどその青い瞳の中に浮かぶ意志の強さ揺らぎは全く無い。じっとオレを見詰め、やがてその青い目を閉じて身体の力を抜いた海馬に、オレ自身も覚悟を決めて先に進む事にした。
掌の上で人肌に温まったローションを指先に集めて、一番奥まった場所にある…今まで一度も触れてこなかった場所にそっと触れた。その途端、海馬が身体をビクリと跳ねさせて反応したけど、再びシーツに落ち着いたのを見てそのまま触り続ける事にする。
「っ…ぅ…っ」
「大丈夫? 気持ち悪く無い?」
「へ、平気…だ」
海馬の覚悟は知っていたけど、だからといってその覚悟が最後まで持つとは限らない。一応顔色を伺いながらヌルヌルと触っていくけれど、海馬が途中で抵抗する事は全く無かった。ビクビクと反応しながらも徐々に赤くなっていく頬や耳に、海馬も感じてくれているんだという事を知る。
「うっ…ん! あっ…」
ローションを塗り込むように孔の周りを撫でていたら、やがてそこが赤く充血してぷっくりと膨れて来た。そこを指の腹でプニプニ押したり、爪先で軽く引っ掻いてやったりすると、その度に海馬はビクビクと震えて腰を浮き上がらせて喘いだ。
「あっ…ん! んっ!」
「海馬…。気持ち…いい?」
「ふぁっ…! へ…変な感じが…する…」
「うん」
「だが…不快では…無い」
「うん、良かった」
海馬の返答にホッと一安心して、そして新たにローションを追加する為にボトルの蓋を開けた。トロリとした液体を掌の上に出しながら、オレは真っ赤な顔でハァハァと喘いでいる海馬の顔を見詰める。
今はまだ気持ち良さそうだ。でもこの先は…この状態を維持し続けられるとは思えない。
「あの…さ、海馬…」
ボトルのキャップを片手でパチンと嵌めながら、オレは海馬に語りかけた。
「これから…中も弄っていくんだけど…。耐えられそうか?」
「あぁ…。いきなりは…無理だろうしな」
「うん。それはそうなんだけど…さ。何かこう…オレがお前に触る事で、昔の嫌な体験とか思い出しちゃったりするじゃんか。それがちょっと心配で…」
「………? 何故だ?」
「いや、ほら、昔色々されたんだろ…? だからオレ…」
「お前は何を言っているんだ?」
「え…? 何って…。だってほら…」
「ここから先は、オレも未体験だぞ?」
「………? え?」
「だから、ここから先はお前が初めてだと言っている」
「え…? えぇぇっ!?」
赤い顔で妙に真面目な表情をしながら、海馬がオレの顔をじっと見詰めながらそんな事を言って来た。
初めて? え? 初めて? 初めてって事は…本当に初めてって事!?
「えーと…ちょっと聞きたいんだけど…」
「何だ?」
「凄く下世話な質問だと思うけど…いい?」
「だから何だ?」
「あ…その…何て言うか…。嫌な事されてた時にさ、ぶっちゃけ指突っ込まれたりとか…された事無いの?」
「無いな」
「一度も…?」
「あぁ、一度もだ」
「………っ!!」
海馬の答えは、オレにとっては本当に予想外の言葉だった。
海馬が幼い頃に性的虐待を受けていた事を知ってから、オレの心の中で覚悟が決まった。だから改めてその事実を突き付けられたりしても、一々傷付いたりはしなかった。だけど…やっぱり心のどこかで、オレはショックを受けていたんだって事を思い知らされた。
愛する人に初めて触れたのがオレじゃないという紛れも無い事実。海馬の事が好きだからそんな事は関係無いって思い込もうとしてたけど、それでもやっぱり気になっていたんだろうな。分かり易く言えば、密かにヤキモチを妬いていたらしい。
でもこればっかりは海馬に責任は無いし、オレにもどうする事も出来ない。だからなるべく気にしないように…その事実を考えないようにしていた。だからなのかな…。
オレが初めてだって言われた事が、こんなに嬉しいなんて。
こんなに心から幸せを感じる言葉は無いと思った。今までオレの心に巣くっていたモヤモヤが、一気に消え去っていくのを感じる。
海馬の身体の中に触れられる人間がオレが初めてだという事実、そしてきっと後にも先にもオレだけだという確信が、オレを心から幸せにしてくれた。
「そっか…オレが初めて…か」
「そうだ。お前が初めてだ」
「そっか…そうだったのか」
「何ニヤニヤしているのだ…」
「へへへ。何でも無いよ。最初はちょっとキツイかもしれないけど…身体の力抜いててくれよな」
「あぁ、分かった」
強い目でコクリと頷いた海馬を見て、オレは後孔の入り口に当てていた指先をそっと中に押し込めた。
「んっ…! あっ…んぁっ!」
グチュグチュという濡れた音が海馬の足の間から響いている。海馬は潤んだ青い瞳から涙をボロボロ零しながら、ベッドのシーツに身体を押し付けて快感に耐えていた。
最初はやっぱり痛みや圧迫感を感じていたらしい。眉を顰めて小さく呻き声を出す様は、見てて本当に可哀想だと思った。けれどそれから暫くすると体内の感覚に慣れて来たのか、甘い声を出して身を捩るようになっていった。
「うぁぁっ!!」
「あ、ここ?」
更にある一点を指先が掠めた時、細い身体が大袈裟なくらいに跳ね上がって、海馬が悲鳴を上げた。試しに何度かその場所を押し込むように愛撫をすれば、その度に海馬は大きく目を見開いて喘ぎ声を上げる。自分の指先が触れているのが海馬の前立腺なんだと、オレは泣きながら喘いでいる海馬を見て気が付いた。
「ここ…気持ちいいんだ」
「くっ…あっ…! やっ…! な…何か…変だ…!」
「変? 気持ちいいんじゃなくて?」
「わ…わからな…い…」
「前で感じる快感と、ちょっと違う感じ?」
「………っ」
オレの質問に、海馬はコクコクと何度も頷く。けれどオレが指を押し込む度にブルブル震える身体や、未だ紅潮したままの頬や耳が、海馬が間違い無く快感を感じてくれている事をオレに伝えていた。
「大丈夫だよ。これ…ちゃんと感じているから」
海馬を安心させるようにそう呟いて、オレは温かい体内から指を引き抜いた。長い間海馬の中に収まっていた指は、すっかりふやけて皺になってしまっている。とろけそうな程に温められた指を口に銜えてしゃぶり、オレは一人幸せな気分に酔った。
「なっ…!? じ…城之内…っ!? 何をやっているのだ!」
「何って…お前の味を味わっているんだけど?」
「や、やめろ馬鹿! 汚いだろう!?」
「汚くないよ。お前のなら平気だ」
「っ………!!」
「今は分からないかもしれないけど…その内お前にも今のオレの気持ちが分かるようになると思う」
ニッコリ笑ってそんな事を言ったら、海馬は目をウロウロさせてプイッと横を向く。その反応にクスリと笑みを零せば、海馬はオレの方に視線を戻して「いや…それならオレにも…分かる」と小さな声でボソリと呟いた。
「幼い頃に無理矢理やらされてから…オレは…その…フェラが苦手になった。今でもあの醜い形状とか…感触とか味とかを思い出すだけで、酷い吐き気がする」
「うん。まぁ…そりゃ仕方ねーよ」
「だが…。お前のなら…出来るかもしれないと…思っている」
「うん…って、はいっ?」
「今はまだ…無理だが…。だがきっと…近い内には…」
ほんの少しだけ困ったように笑いながら、海馬はオレに向かってそんな事を言って来た。
海馬が何の戸惑いもなくオレの身体に触れられるようになるのは、もう少し時間が掛かるだろう。だけどオレはそれをもう辛いとは思わないし、きっとその日はすぐにやってくるだろうとも感じていた。
「うん、そうだな。お前がそれを出来るようになったら…やって貰おうかな。でも今日は…」
汗を吸って大分湿っぽくなった栗色の髪の毛を優しく撫でつけながら、オレは現れた白い額に唇を押し当てた。
もう待たない。待たなくて良いんだという想いで、心臓が痛みを感じる程激しく高鳴っていく。
「今日はもう…とにかくお前が欲しいから…」
「………」
オレの言葉に海馬は何も応えなかった。その代わり、細くて白い腕がオレの首に回されて強く引き寄せられる。そして耳元で小さく「オレもだ…」と囁かれた。熱い吐息と共に吹き込まれた海馬の言葉にオレもしっかり頷いて、温かな白い身体を強く抱き締め返した。
「ひっ…いっ…! あっ…っぐ…う…あぁっ!!」
「海馬…っ。ゴメッ…!」
「い…いいか…ら…っ! そのまま…っ…うぅっ!」
さっきまで柔らかくなるまで解していた海馬の体内だったけど、やっぱり初めてだという事もあって、オレのペニスを受け入れるにはまだ大分キツイままだった。細腰を掴んで、なるべくゆっくり奥まで押し込めていく。何とか最奥に到達すると熱い内壁がきゅうきゅうとキツク…そして柔らかく締め付けてきて、それだけで充分気持ちが良くて頭の芯がクラクラと揺らめいた。
「ヤベ…。超気持ちいい…」
自分のペニスを全部海馬の中に収めきって、オレは体重を掛けて海馬の身体にのし掛かった。裸の胸から海馬の暖かい体温がじんわりと伝わってくる。それが本当に幸せだと思った。
「ゴメンな…。痛いし…苦しいだろ?」
宥めるように身体のあちこちを掌で撫でながらそう問い掛けると、海馬はフルリと首を横に振った。
馬鹿だな。こんな時にまで我慢する事無いのに。初めての挿入で、痛くも苦しくも無い筈が無い。現に海馬の額や首筋には玉のような汗が浮かんでいる。快感による汗もあるだろうけど…多分これ、冷や汗だ。
指先で流れる汗を拭ってやりながら、オレは海馬の頬や額やこめかみやに優しく口付けを落とす。そして海馬の身体がオレに馴染むのをじっと待った。
「大丈夫…か…?」
「も…だ…じょ…ぶ…」
「慣れるまで…もう少し待つから…」
心配しながら放った言葉に、海馬は首を振って応えた。そして背に回した腕を強く引き寄せながら、痛みに涙を滲ませた青い瞳でオレを見詰める。
「も…う…嫌だ…」
放たれた言葉に、オレはかなりショックを受けた。
そうか…。ここでギブアップか…。でもまぁ…仕方が無いよな。だって初めてだもんなぁ…。今日はオレの全てを受け入れてくれただけでも充分だ。
そう思って「うん、分かった」と答えて身を引こうとしたら、海馬が物凄い力でしがみついて来た。そしてブンブンと激しく首を横に振る。何だか自分が伝えたい事が上手く伝わらないジレンマに苛まれているようだった。
「海馬…?」
恐る恐る呼びかけて見れば、海馬は「違うんだ…!」と泣き声で必死に訴えてくる。
「違う…! そういう…意味じゃ…無い…!」
「海馬…どうした…?」
「違うのだ…! オレが嫌だと言った…のは…っ」
「うん…?」
「オレは…もう…これ以上…は…待ちたくは無いと…。お前にも…我慢させたくない…と…。だか…ら…っ!」
海馬の叫びは、最後はもう言葉にならなかった。けれどオレには、海馬が一体何を言いたいのかがちゃんと伝わって来た。
やべー…どうしよう…。滅茶苦茶嬉しいんだけど…!!
本気で感動して、また泣きそうになって来る。迫り上がる衝動を何とか我慢しつつ、オレはうんうんと頷きながら泣きながら自分の意志を訴える海馬を強く抱き締めた。
「分かった…もう分かったよ。ゴメンな、海馬。そんな事まで言わせちまって」
心からちゃんとゴメンと謝って、オレは海馬の唇にキスをする。
あー失敗したな。確かに好きな相手を心配するってのは大事なんだろうけどさ、あんまり気を遣い過ぎてもいけないって事…忘れてた。まだトラウマが解消してない状態ならまだしも、今の海馬はもう完全に『普通』に戻っている。そんな海馬相手に余計な気遣いをする事は、却って失礼な事だったんだって…気が付いた。
「ゴメンな…ほんとにゴメン」
「っふ…ぁ!?」
何度も何度も柔らかな赤い唇を啄みながら、オレは海馬の片足を担ぎ上げてゆるりと腰を動かした。ジュク…と濡れた音がして、海馬の身体がビクリと跳ねる。
「お前の事…好き過ぎるってのも考え物だなぁ…。どうしても無理しないで我慢しなくちゃって思っちゃうんだ」
「あっ…! ひゃっ…あぁ…っ!」
「でも…お前がそこまで覚悟してるなら…オレも我慢しなくても…いいよな? お前を貰っちゃっても…いいんだよな?」
「あっあっ! くっ…ふぁっ!!」
「貰っちゃうからな…お前を。最後まで…全部…貰っちゃうからな…」
「うぁっ!? んっ…やっ…あ…あぁっ…ぁ!!」
グッチュグッチュといやらしい水音が鳴る程に腰を激しく動かして、オレは海馬の体内をじっくりと堪能した。
海馬の中はとにかく熱くて…狭くて…柔らかくて、押し入れば何処までも道を開き、腰を引けばまるで行かないでとでも言うように内壁が強く吸い付いてきて、どこまでも淫らにオレを翻弄する。
さっき海馬が感じた場所に先端を押し付けて強く擦ったら、それだけで海馬はブルブルと胴体を震わせて甲高い声で喘いでくれた。青い瞳を充血させて涙を流し、喘ぎと呼吸の為に閉じる事の出来無い口の端からは、トロリとした涎がだらしなく垂れている。そんな海馬の全てが綺麗で…可愛くて…愛しくて。オレは気が狂いそうな程に幸せだと感じていた。
「海馬…海馬…っ! 好きだよ…愛してるよ…海馬…っ!」
「ひぁっ…!! あっ…あぁんっ!!」
「本当に好きなんだ…!! お前を愛してる…!!」
「あ…あぁっ…! じ…城之…内…っ!!」
「海…馬…っ!!」
「オ…オレも…だ…! オレも…愛して…る…っ!!」
お互いの身体に腕を回して、強く強く抱き締め合う。
相手の熱が…呼吸が…言葉が…心が…、そして何より相手の全てが愛しくて愛しくて堪らない。
オレ達は今…愛し合っている…と。それを何よりも強く感じていた。
「海馬…オレ…幸せだよ…」
「ふっ…あっ! あ…オレも…だ…城之内…」
「お前を感じて…オレ…凄く気持ちがいい…」
「あぁ…オレも…気持ちが良い…」
「え…? 海馬…?」
「気持ちが良いのだ…城之内」
ハァハァと苦しそうに喘ぎながら、だけど海馬はふわりと微笑んでくれた。
あ…今何だか胸の中心が、ポワッとあったかくなった…。あぁ、そうだ。幸せで嬉しいって、こういう感覚なんだな。
「ありがとな…海馬。オレを幸せにしてくれて…」
「馬鹿…。それは…こちらの台詞だ…」
「そっか。海馬は今…幸せなのか」
「あぁ…。お前もだろう、城之内?」
「うん。幸せだ」
クスリと笑い合って、その後何度もキスをして、強く指を絡め合って…。
「うっ…ふぁ…! んぁ…あっ…あぁっ!! あぅ…っ!!」
「海馬…海馬…っ! も…イこ? な?」
「あっ…あっ…あっ…!! も…う…? あ、あぁっ!?」
「かい…ば…っ!!」
「ひっ…!! あ…あぁっ!? ああぁぁぁっ―――――――――――――っ!!」
海馬が弓形に仰け反って達するのと同時に、下腹部に生温かい液体が掛けられたのを感じた。ビクリビクリと震えながら射精する度に、オレのペニスを包んでいる内壁も不規則なリズムで締め付けてくる。その刺激に耐えきれなくて、オレも海馬の最奥で欲望を放ってしまった。
「うっ…ぁ…! ゴメン…っ」
数度に分けて射精しながら、オレは息も絶え絶えに海馬に謝った。初めてのセックスで中出ししちゃったのは本当に悪いと思ったけど、それ以上に最高に気持ちが良かったのもまた事実だからどうしようも無い。
後で処理を手伝おうと心に誓いながらそっと身を引いたら、真っ赤に充血した後孔からオレが放った精液がコポリと溢れて来たのを見てしまって、また欲情しそうになってしまった。
う…。いい加減にしろ、オレ。流石にセックス初めての奴相手に、二度目は無理だ。
案の定、グッタリとベッドに伸びてしまっている海馬を見て、オレの欲望は素直に引き下がってくれた。
「海馬…? 大丈夫か…?」
慌てて声を掛けたら海馬は重そうに瞼を開き、オレを見詰めてから何とか一度だけ頷いて応えた。
「身体…ベトベトして気持ち悪いだろ? 風呂入るか?」
「………。動け…無い…」
「じゃあ身体拭いてやるよ。ちょっと待ってて…」
「いい…から…。ここにいろ…城之内」
身を起こそうとしたオレを掴まえて、海馬はオレの身体を抱き寄せて胸元に顔を寄せてくる。そして一度だけふぅ…と大きな息を吐いて、目を瞑った。
「………。海馬…?」
すっかり静かになってしまった海馬を訝しんで名前を呼んでも、オレの呼びかけに応えは返って来ない。そっと顔を覗き込んでみると、そこにはすっかり熟睡している海馬の寝顔があった。
「可哀想に…。疲れたんだな。初めてだったんだもんなぁ…」
散々泣いて充血して赤くなってしまった目元を撫でて、掠めるだけのキスを唇に贈った。緩やかに上下する肩を抱き寄せて栗色の髪を梳けば、やがてオレにも眠気がやってくる。その眠気に逆らわず、オレは海馬を抱いたままそっと瞼を閉じた。
「…の…う…ち…」
眠りに落ちる寸前、腕の中の海馬がモゾリと動いてオレに擦り寄るのを感じた。次いで唇に何か柔らかな感触が押し当てられたのを感じたけれど、オレの意識は覚醒せずにそのまま眠りへと引き摺られていく。ただ夢か現か、これだけはハッキリ聞こえたんだ。
「レッスン…ありがとう。そしてご苦労だったな…感謝する」
海馬の声で、オレの名前と…そして…。
「城之内…愛している」
思わず泣きたくなる程の…嬉しい言葉が。
その後、オレ達は何の問題も無く恋人として上手く付き合い、毎日を楽しく過ごしている。日々笑い合い、たまに喧嘩しつつもすぐに仲直りをして、甘い言葉とキスを交わす。とても幸せな毎日だ。
レッスンは…もうしていない。あの日のレッスンを最後に、海馬はトラウマに捕われた弱い自分からの卒業を果たした。多分もう二度とする事は無いだろう。
そう。もうそんな事をしなくたって、オレと海馬はいつでも愛し合っているからな。レッスンなんて必要無いんだ。
「海馬」
笑顔で差し出した右手に、少し照れた海馬の細い指が載せられる。その手をキュッと強く握って、オレ達は並んで寝室へと歩いて行く。これからまた、お互いの愛を確かめ合う夜が始まるんだ。
心からの愛と信頼と幸せと、そしてほんの少しの照れと疲れを伴って…オレ達の夜は更けていくのだった。