城之内×海馬。海馬の一人称。
『Lesson』本編からすっかり仲良くなったお二人ですが、海馬の気持ちに変化が出始めました。
城之内をもっと愛したいと思う海馬の成長物語です。
週末のオレの寝室…。次の日が休みの時は、必ず城之内が泊まりに来る。そしてこの部屋の空気は、いつもと全く変わってしまうのだ。
灯りを落とした暗い部屋の中は、熱くて重い湿気を纏わり付かせた空気に満ちている。外はもうすっかり冬だというのに、この空間だけが暑くて仕方が無い。城之内が与えてくる快感に、オレは自らの体温が上がっていくのを嫌と言う程感じていた。
「ふっ…あ…っ! んっ…」
頭の中が熱い。カッと血が昇ってきて、何も考えられなくなる。感じるのはただ、オレよりもずっと熱い城之内の体温と、その熱い手が施す優しい愛撫だけだ。
「っぅ…! あふっ…!」
「海馬…イキそ?」
強い快感に身を強ばらせると、オレのペニスに指を絡めたままのし掛かってきた城之内が、耳元でボソリと囁いてきた。
心臓はドクドクと高鳴り、気を抜けばすぐにでも達してしまいそうだったが、オレはその問い掛けにフルリと首を横に振って答える。
「まだ…大丈…夫…っ」
「そっか。このままイッてもいいけど、今日は先に慣らしちゃおうか」
城之内はそう言うと、スッと身体を離してオレの身体に手を掛けた。そして仰向けで寝ていたオレを、ゆっくりと俯せ状態に移していく。上半身をシーツに沈められ、腰だけを高く上げさせられる格好にされてしまった。スルリと腰を撫でる掌の感触に、首を捻って肩越しに目を合わせると、オレの視線に気付いた城之内が微笑みながらも不思議そうな顔をして口を開いた。
「何? どしたの?」
「また…後ろなのか…?」
「うん。この体勢の方が楽だろ?」
にこやかにそう言って、城之内はサイドボードからローションを手に取った。それをたっぷり掌の上に零して、ぬるつく指先をオレの後孔へと触れさせる。
「ひっ…んっ…!」
ぬるりとした感触は、いつまで経っても慣れる事は無い。温感タイプのローションを使っている為に冷たくは無いが、それでもゾワッと肌が粟立ったのが自分でも分かった。思わず肩を竦めると、背後から「大丈夫?」というオレを心配している声が響く。「冷たかった?」という問い掛けにフルフルと首を横に振れば、小さな吐息と共に「良かった。少し我慢してな」と言葉が続けられた。
体内に指が二本入って来て、指の腹で腸壁を撫でられるように優しく広げられていく。グチュグチュという粘ついた水音が下半身から響いてきて、その音にまた自分の体温が上がっていくのを感じていた。
「あっ…! ぅ…っ」
「慣れるの、早くなってきたな」
うっとりと囁かれる男らしい城之内の声に、オレはもう何も考える事が出来無くなっていく。ただ体内の敏感な場所を探る指先に翻弄され、それだけじゃ物足りなくなって、もっと熱くて大きな物を自分の中に埋めて欲しくて堪らなくなった。
「はっ…ぁ…! あ…も、もう…!」
ベッドのシーツをギュッと掴み、もう限界だと言う事を訴える。
いつの間にか目からはボロボロと涙が零れ落ちていた。顔を押し付けていたシーツが冷たく濡れていて、その事でやっと自分が泣きながら喘いでいるんだという事に気付く。そんな自分の状態にも気付かない程、オレは城之内の愛撫に夢中になっていたのだ。
ブルリと身体を震わせれば、背後からクスリと笑う城之内の吐息が聞こえる。そしてオレの体内で指がグルッと回されて、ズルリ…と引き出される。その感触にもまたゾワゾワとした快感を感じ、オレは背筋を痙攣させた。
「もう挿れても大丈夫そうだな」
そんな言葉と同時に背後で城之内がゴソゴソと動く気配を感じ、暫くしてピチリ…と薄いゴムが肌に吸い付く音が耳に入ってきた。またコンドームを付けたのか…とオレが密かに嘆息するのと同時に、ひくつく後孔に熱い肉の塊が強く押し付けられる。「力抜いてろよ」という声にコクリと頷いて答えれば、それがグググッ…と力強く入り込んで来た。
「ひっ…! あっ…ぐぅっ…!」
「ゴメンな…。苦しいだろうけど、ちょっと我慢してくれよ」
内臓が押し上げられる圧迫感に背筋を逸らせて呻けば、その背に硬い筋肉質の胸が強く押し付けられた。汗でじんわりと湿った、熱い体温がオレを包み込む。熱を持った掌が…指先が、オレの胸を撫で回し硬くなった乳首を捻って潰し、そして下半身に移動して放置されていたペニスに絡まった。途端に快感が強くなる。
「うぅっ…あ…あぁっ! あぅっ…!!」
我慢出来無くて、大きな城之内の手にペニスを擦りつけるように腰を動かす。その度に、体内の物もグチグチと音を立てながら擦れて快感がどんどん倍増されていった。
「気持ちいい?」
全く余裕の無い城之内の声。荒い息をしながら、男らしい低い声で耳元に囁かれる。その言葉に夢中でコクコクと頷けば、「良かった。オレも」と本当に嬉しそうな声が返って来た。
オレの体内に収められている城之内のペニスは、やがて激しく動き始めた。一番感じる場所をグリグリと先端で突かれ、その度に例えようの無い強烈な快感が湧き上がり、背筋を駆け上がって頭を真っ白にする。
涙どころか、喘ぐ事で開きっぱなしの口から飲み込めない唾液を零しつつ、オレはただ揺さぶられて半狂乱で喘ぐしか無い。
「やっ…! や…ぅ…!! ひぐっ…!! んっ…あぁっ!!」
「そろそろ…イク?」
握られたペニスの先端にクッと爪が差込まれ、ビリビリとした快感で全身が硬直する。城之内の問い掛けに答えたくても、もう身体の自由は効かないし、何より頭の中が真っ白で言葉が出て来なかった。ただ片手でシーツを力強く握り締め、もう片方の手を自分のペニスを掴む城之内の手に重ねて爪を立てる。
余りの快感に、何かに縋っていないと気が狂ってしまいそうだった。
「っ………!! いっ…あっ…ぁ…っ!!」
「海馬…海…馬…っ!」
「あっ…あぁっ…!! じ、城之内ぃ…っ!!」
「っ………!? うっ…!!」
追い詰められて、高められて、ついに限界を迎えたオレは身体を硬直させながら達してしまった。城之内の手と、自分の手と、そしてベッドのシーツの上にトプトプと精液を零しながら、ビクリビクリと痙攣し続ける。
そんなオレに導かれたように、オレを抱いていた城之内も同様に達した。自分の体内に埋め込まれた城之内のペニスが、ビクビクと跳ねるのを感じてカーッと身体が熱くなる。けれど…待ち望んだ熱が広がる事は一向に無かった。城之内が吐き出す精液は、全て彼が付けたコンドームの中で堰き止められてオレに届く事は無い。
オレはそれが…酷く不満だった。
城之内とのセックスは気持ちがいい。オレが過去のトラウマで快感を忘れ、感じるどころかEDだった頃から、城之内は優しかった。丁寧に根気強くオレに接し、そしてその結果…ついに結ばれる事が出来たのだ。
あの時の…初めて結ばれた瞬間をオレは忘れる事が出来無い。どんなに痛くても、辛くても、苦しくても…あの日のセックスは最高だった。城之内の熱がオレの体内でじんわりと広がっていくあの瞬間、オレはまさに幸せに打ち震えていた。例え処理を忘れて、次の日に腹を壊す羽目になっても、それはそれで構わなかったのに。
「………」
「大丈夫か…海馬?」
グッタリとベッドに倒れ込んだオレの頭を、城之内が優しく撫でてくる。指先で髪を梳き、頬に唇を押し付けられた。その感触にそっと視線をあげれば、ニッコリと優しく微笑む城之内と目が合う。城之内はオレの頭を抱きかかえ、今度は唇を合わせてきた。
「んっ………!」
口内を確かめるように巡る舌に積極的に自らの舌を絡めながら、オレはやはり不満を感じていた。
城之内は優しい。あの最初のセックスの時から…いや、オレがまだ感じる事が出来無かった時からずっと優しかった。
愛撫はどこまでも優しく丁寧で、オレに何かをやらせたりする事も無く、無茶な事は何一つしてこない。体勢も必ずオレが楽であるようにバックにし、腹を壊した事を知ってからは毎回必ずコンドームを付け、オレの中に直接解き放つ事もしない。
それは確かに、城之内のオレに対する優しさと労りの心なのだろう。オレの事を愛しているからこそ、そういう風に優しいセックスを続けているのだ。
けれどオレは…それがとても物足りなかった。
もっともっと熱く激しく、そう…それこそ最初のセックスの時のように無茶苦茶に抱き合いたい。城之内の熱を感じて、オレの熱も与えて、感じて…感じられて、共に高みに昇りたい。そんな事を考えてしまうのは…果たして贅沢な悩みなのだろうか?
「どこか痛くして無い? 身体…大丈夫だよな?」
キスを終え、唾液で濡れたオレの口元を親指の腹で拭いながら、城之内が笑顔でそう問い掛ける。その問いにコクリと頷いてみせれば、城之内はますます安心したように微笑んだ。そしてオレから離れ、ベッドの端に腰掛けて自らの下半身に手を伸ばす。
嵌めていたコンドームを外し、入り口を捻って結び、更には丁寧にティッシュに包んでゴミ箱に捨てていた。一連の作業をじっと見詰めていれば、オレの視線に気付いた城之内が真っ赤な顔で振り返る。
「あんま見るなよ…。恥ずかしいだろ?」
「…けな…て…のに…」
「ん? 何?」
「別に…毎回付けなくてもいいのに」
オレの言葉に城之内は一瞬キョトンとし、だが次の瞬間破顔した。嬉しそうに裸のまま近寄って来て、掛け布団の上からオレをギュッと強く抱き締める。
「ありがと! そう言って貰えるの…マジで嬉しい!」
「なら…っ」
「でもオレが付けてやりたいって思ってんだから、お前がそんな風に気を効かせる事なんて無いんだぜ?」
「………。それは…オレが腹を壊したからか? そんなの、別にお前が気にする事では無いのに」
「いいんだよ。お前にそう言って貰えるのはありがたいけど、オレがお前の事を大事にしたいって思ってるだけなんだからさ」
「………」
「セックスするとやっぱ疲れるし、どうしても処理は後回しになっちまう。ただでさえ身体に不自然な事をしてるんだから、これくらいはしとかないとな」
「城之内…。だが…」
「オレはお前に、余り無理な事はさせたくないんだよ…。だから気にしないでくれ」
笑顔を浮かべたまま、城之内はそんな事を言ってオレの身体を強く抱き締める。城之内がどれだけオレの事を愛しているのかという事が、身に染みて伝わって来た。
その愛は嬉しい。純粋に泣きたくなる程嬉しいと感じる。だがそれでも…身体が感じている物足りなさを埋める事は出来無い。セックスは終わったというのに、オレの身体の奥は、未だ熱が燻ったままだった。
分かっている。この状況を打破するには、自分で行動しないと何も変わらないという事はよく分かっている。
だがオレは…怖かった。城之内に自分の本性を知られるのが怖かった。
過去に受けた性的虐待の所為で感じる事を忘れてしまっても、教え込まれた技術まで忘れた訳では無い。多分オレは、城之内が思っているよりもずっと…その手の技に長けている。
だけれども、もしそれが城之内に知られてしまったとしたら…と思うと、怖くて怖くて仕方が無かった。いや…正しくは知られると言うよりは、知られた結果「何だコイツ」と幻滅される事が怖いのだ…。
だが本当に城之内が欲しいのなら、その恐れを捨てなければならない。嫌われるかもしれないという恐怖を捨てて、オレの方から城之内に迫る必要がある。それはもう…明白だった。
勇気を出せるだろうか? 勇気を出して、己の本性を全て城之内に見せる事が出来るだろうか?
城之内に強く抱き締められながら、オレはずっと自らの思惑と戦っていた。