*Lost World(完結) - 失われた世界へ… - *こうしてオレはここにいる(後編)

 お互いに身に纏っていた衣服を全て脱いで、オレは全裸で俯せになっていた。腰だけを高く上げさせられて、信じられない場所を舌で舐められている。城之内の舌が後孔の縁を舐め孔の中を出し入れされる度に、そこがグズグズに溶けていくように感じた。グッチュグッチュといやらしい水音が辺りに響き、羞恥で全身が熱くなって腰がガクガクと震える。
 そんな場所を城之内に見られているというだけでも恥ずかしいのに、それどころか直接舐められているなんて…とてもじゃないが耐えられない。だがそれでも…オレは何とか耐えていた。逃げ出したいという気持ちを無理矢理抑えつけて、シーツを掴み下唇を噛み締めてじっと我慢する。

「んっ…ぅ…!」

 やがて後孔の縁に吸い付くようなキスを施した城之内は、舌の代わりに濡れた後孔に指を入れてきた。グググッと付け根まで押し込まれて、内壁を指の腹で撫でられる。微かに感じる痛みと圧迫感と、そして訳の分からないジンジンとした感覚に翻弄された。

「ふっ…! んぐ…っ。んっ…うんっ…!」

 羽根枕に顔を埋めて、くぐもった喘ぎ声を上げる。「気持ちいい?」という城之内の問い掛けに、弱々しく首を振った。気持ち悪い訳では無かったが、気持ちいいとも感じられない。

「よ…く…分から…ない…っ」
「さっきもそうだったけど、初めてだからなぁ。すぐには快感に結びつかないか」
「ん…っ! あ…ぅ…」
「ここは? ダメ?」
「ふぅっ…! くっ…んっ」
「じゃ…ここは?」
「ダ…ダメ…だ…っ」
「そっか…。んじゃ、こっちかなぁ…?」
「ッ…!! ひぁっ…!?」
「え? あれ? 海馬?」

 一本だった指を二本に増やして、城之内はオレの中を丁寧に探っていた。少しずつ場所を移動しながら、オレの感じる場所を見付けようとしている。だが、オレはなかなか快感を感じる事が出来なかった。もう諦めてさっさと挿れてしまえば良いのに…と、そう思った時だった。
 ふと…何かの拍子に城之内の指先がある一点を掠めた時、信じられないような快感が脳天にまで駆け上がって身体全体が痙攣した。
 前には一切触れられていない。それなのに感じる強烈な性的快感。

「あっ…! あっ…あっ…あぁっ!!」

 城之内の指がそこに触れる度に、身体がブルブルと震えるほどの快感に苛まれる。声を抑える事が出来ない。腰が勝手に上がっていく。城之内もオレの変化に気付いたのだろう。わざとそこばかりを何度も擦って刺激してきた。

「海馬…? ここ…いいの?」
「く…あぁっ。わ…から…な…っ!」
「分からない? こんなによがってるのに?」
「あぅ…っ! へ…変…だ…っ。そこ…変だ…っ! あぁっ…!!」

 ビクリビクリと身体が痙攣する。喘ぎが止まらない。言葉にならない声をあげてただ震えるだけのオレに、城之内はしつこく何度もその場所を解している。そして自分の叫声が途切れたほんの一瞬、背後で城之内がゴクリと生唾を飲む音が響いた。ズルリと指を抜かれ、何か別の物をピタリと押し当てられる。熱く感じるそれが何なのか理解する前に、城之内はオレの中に入って来た。

「ひっ…! うっ…ぁっ!! あっ…あぁぁぁぁっ!!」

 無理矢理入って来る熱の固まり。狭い体内を押し広げて進んで来る為、痛みと圧迫感が尋常では無い。内臓が押し潰されそうな感覚に、悲鳴を上げて身体をずり上げた。

「うぁっ…! やっ…やぁっ…!」
「海馬…っ。落ち着いて…。力抜いて…大きく息して…っ」
「やっ…嫌だ…っ! 痛…い…っ! 苦しい…っ!」
「うん、ゴメン…っ。分かってるけど…ちょっとだけ我慢…して…っ」
「ふっ…あ…あぁっ…! んっ…ぁ…? っひ…! や…う…嘘…っ?」
「………? どうした…海馬?」
「う…嘘だ…っ。あぅ…っ! あ…あ…あぁぁっ…!」

 それは突然だった。城之内がオレに入って来た瞬間、感じたのは痛みと苦しみだけだった筈なのに…。気が付いたらオレは、射精していたのだ。
 トプトプとシーツに零れるオレの精液。熱を吐き出す度に腰から伝わる快感でザワザワと身体が震える。長い時間を掛けて全ての熱を放出しきって、力を失ったオレはガクリと上半身をシーツに沈めた。ゼェゼェと荒く呼吸していると、城之内の手がオレの股間を探ってくるのが分かった。

「海馬…お前…」

 戸惑ったような城之内の声が聞こえる。濡れた股間とシーツの感触に、オレの身に何が起こったのか分かったのだろう。呆れているのか、それとも興奮しているのか。深い溜息が背後から聞こえた。

「挿れただけでイッちまったのか…」
「はっ…ぁ…。う…うる…さ…い。笑うなら…笑え…」
「何言ってるんだよ。笑ったりしねーよ。こんなに嬉しいのに…」
「………?」
「やべー…。超嬉しい…っ。海馬…お前凄いよ。初めてなのにオレでこんなに感じてくれたんだなぁ…。マジで滅茶苦茶嬉しい…っ」

 本当に嬉しそうにそう言って、城之内は背後からオレの身体を抱き締めて来た。その拍子に体内に入ったままの城之内のモノがゴリッと内部を抉って、その何とも言えない痛みと圧迫感に小さく呻いてしまう。オレが身体を硬くしたのに気付いた城之内は、「あ、ゴメン…ッ」と謝って慌てて上体を起こしていた。途端に背中に感じた冷たい空気に、ブルリと身震いをする。
 興奮して体温が上がっていた城之内に強く抱き締められていた為、オレの背中は奴の胸に密着して熱い程の体温を感じていたのだ。それが突然離れて行った為、性行為で汗ばんでいた背中が急にヒヤリとして不快感を覚えた。思わず肩越しに振り返り、少し不満げに城之内を睨み付けると、オレの視線に気付いた奴は優しく微笑んで琥珀の瞳を少しだけ細める。その顔が至極男臭くて、顔が一気に熱くなったのが分かった。

「何? 顔赤いよ?」
「う…煩い…」
「オレに惚れ直しちゃったとか?」
「煩いと言っている…っ」
「くっくっく…。ホント…可愛いなぁ…」

 肩を震わせて笑った城之内は、そのまま身を引いてオレの中からペニスを抜き去った。ズルリと何かを引き摺るような妙な感触にゾワリと肌が粟立つ。
 身体を貫いていたモノがいなくなって、オレはその場でガクリと倒れ込んだ。下半身は未だ自分の身体では無いような感じがしていたし、城之内を受け入れた場所はズキズキと痛みを訴えている。けれど、どうしても一つだけ引っ掛かった事があって、オレは視線を上げて城之内の方を見詰めた。
 困ったような表情でオレを見ている城之内の顔。そこから少しずつ視線を下にずらせば、相変わらず硬く勃起したままのペニスが目に入ってくる。
 何度も言うが、オレだって男だ。今城之内がどういう状態に陥っているのか、同じ男として良く分かっている。

「お前…。まだなのだろう…?」

 そう問い掛けると、城之内は苦笑して後頭部をガシガシと掻いて首を捻る。

「うん…まぁ…そうだね」
「続きは…? しないのか?」
「………」
「オレは別に構わない」
「………」
「まさか…もうしないつもりなのか?」
「いや、それは無い。するよ」

 はっきりきっぱりとそう言い切った城之内は、俯せで倒れ込んでいるオレの身体に手を掛けて、ゆっくりと仰向けの状態に寝転がした。丁度腰の辺りに自分が放った精液で濡れたシーツが当たり、ヌルリと濡れたその感触に眉を顰める。オレの様子に「どうした?」と城之内が訊いて来るので「シーツが…」と言い淀んだら、クスッと笑われて「仕方無いから我慢して」と言い含められてしまった。

「どうせもうグチャグチャなんだから、今更気にしても仕方無いだろう?」
「そ…それはそうなんだが…」
「それにこれからもっと気持ち悪い事になるんだし」

 仰向けになったオレの身体を熱い掌で撫で回しながら、城之内はそう言って少しだけ辛そうな顔をした。
 腹部を撫で回していた手が下がり、内股を優しく撫でて、更にその奥へと入り込む。先程まで城之内のペニスを受け入れていた後孔は、再び入り込んで来た指を二本とも何の苦労もなく飲み込んだ。それでもどうしても感じてしまう圧迫感に微かに呻いても、城之内は指を抜こうとはしない。グチュグチュと濡れた音を起てながら、何度も指を出し入れしていた。

「あっ…うっ…」
「ここ…痛い…よな。充血して真っ赤になってるし」
「うっ…! くぅ…んっ」
「初めてだもんな…。辛いよな…」
「じ…じょ…のう…ち?」
「でも…ゴメン。オレはそれでもお前が欲しい」

 切実な顔。オレが欲しくて堪らないのに、オレを傷付けたくないと願う顔。オレを愛している…城之内の顔。
 その顔が嬉しかった。その顔が愛しかった。その顔があるからこそ…全てを許せると思った。
 確かに城之内の言う通り、オレの後孔は今も痛みを訴えている。ズキズキと鈍く痛み、内部が熱を持っているのが分かる。もう一度挿入されたら、今度こそ本当に壊れてしまうのでは無いかと思うくらいに。
 それでも…それでも…。

「構わん。早く…来い」

 城之内に向かって両手を差し伸べた。
 例え壊れてしまっても構わない。オレは後悔しない。それでもオレは…城之内が欲しかった。

「オレだってお前が欲しいのだ…」
「うん」
「早くお前を感じさせてくれ」
「うん」
「愛してる…。大好きだ、城之内」
「うん。オレも愛してる。海馬…大好きだよ」

 にこやかに微笑んだ城之内がオレの片足を担ぎ上げる。赤く腫れた後孔に再び城之内のペニスの先端が当たるのを感じて、オレは目を閉じて力を抜いた。
 挿入される際の力の抜き方はもう覚えた。後は城之内を受け止めるだけ…それだけなのだ。



 暗い寝室内に、異様な音が響いていた。
 肌がシーツに擦れる音。城之内の腰が打ち付けられる度に響く肉を打つ軽い音と、いやらしい粘着質な水音。荒い息遣いと呻き声。
 お互いに言葉も無く、夢中で抱き合っていた。

「あっ…! うっ…ふ…っ!! っ…ぅ…!!」

 最初は気持ちいいなんて全く感じられなくて、粘膜を擦られる痛みと内臓を押される圧迫感に呻くだけが精一杯だった。気を抜けばすぐにでも逃げ出したいという欲求を訴える身体を叱咤して、何か縋り付くものを捜して手を彷徨わせる。そうしたらその手を掴まれて、城之内によって奴の首へと導かれた。

「掴まってて…。辛かったら引っ掻いてもいいから」

 優しくオレを労る声に安心して、スルリと自分の腕を城之内の首に引っ掛ける。汗びっしょりの背中に掌を這わし、ぐいっとその身体を引き寄せて自分に密着させた。そんなオレの行動に城之内はクスリと笑うと、滑り落ちた足を抱え直して再び腰を動かす。敏感になった粘膜が城之内の熱を伝えて来て、オレは背を引き攣らせて喘いだ。

「んっ…! あっ…はぁ…っ!! ひぁっ…!?」

 やがてどれくらい経った頃だろうか。ただ痛くて辛いだけだった自分の内部に、熱が燃え広がるように何か別の感覚がじわりと浸みている事に気付いた。最初はただ気のせいかと思われたその感覚も、城之内が最奥を抉る度に強くなる。まるで電気がショートするかのように頭の中がパチパチして、オレは漸くその感覚が快感である事に気付いた。

「あっ…んっ!! やぁっ…!! じょ…の…うちぃ…っ!! た…たすけ…っ!!」

 痛みや苦しみが消え去った訳では無い。それなのに、快感がその他の感覚を覆っていく。身体に熱が溜っていく。
 自分ではどうする事も出来ない感覚に苦しんで、オレは目の前の身体に力強くしがみついた。掌に感じるしっかりとした筋肉に爪を立てる。
 助けて欲しかった。オレを解放して欲しかった。
 ボロボロと泣きながら喘ぐオレに、城之内は優しく微笑んで頭を撫でてくれる。そして頬に軽く唇を押し付けられ、耳元で熱い吐息を漏らした。

「海馬…。気持ちいい?」

 散々「分からない」と答えてきた問いに、オレはコクコクと夢中で頷く。
 今なら分かる。気持ちいいのだ。城之内に触れられる事が…とても気持ちいい。

「も…無理…っ! 気持ち…いい…っ! 助け…て…くれ…っ!!」
「うん。オレも気持ちいいよ…。もう…最高…っ」
「ダメ…だ…っ! あっ…もう…っ!! んぁ…っ!!」
「海馬…? イキそ…?」

 城之内の問い掛けに何も答えられない。ただ涙をボロボロと零し、苦しくて堪らなくて頭を左右に振った。
 そして城之内のペニスがオレの最奥を強く突き上げた瞬間、最後の箍が外れたようにオレはブルブルと痙攣しながら射精してしまった。

「――――――――っ!!」

 声が出ない。いや、実際は叫んでいたのかもしれない。息をする事も出来ず、吐精の快感に酔う。

「ぅっ…!! くっ…ふ…っ!!」 

 身体を硬直させ、弓なりになって溜まりに溜った熱を放出していた。達するのと同時に体内のペニスを強く締め上げたらしく、城之内もオレの中でイッてしまったらしい。オレを抱く城之内の身体も細かく震えていて、痛い程に強く抱かれ耳元では苦しげな呻き声が聞こえていた。じゅわっ…と体内で広がる熱を感じて、それが愛しくて堪らない。

「じ…城之内…」

 未だ息は整わなかったが、小さくその名を呼んだ。オレの呼びかけに城之内が顔を上げ、汗に濡れた顔でニコリと笑う。それがとても男臭くて、その格好良さに思わず顔が熱くなった。

「とうとう…ヤッちまったな…」
「…あぁ………」
「ゴメン…。最後はちょっと…無理しちゃったな…」
「別に…構わない…」
「ホントにゴメンな。痛いだろ…?」

 そう言って城之内は掌で優しくオレの腹を撫で始めた。熱い掌がいつも以上に熱を持って汗ばんでいる。

「今…ここに…オレのが入ってるんだよな…」
「っ………」
「ありがとう…海馬。オレ…ホントに物凄く…嬉しいよ」
「んっ…うっ…っ」
「海馬…?」
「あっ…! あふっ…!」
「え…? ちょっ…っ」
「あっ…あっ…んやぁ…っ」
「か、海馬!? どうし…っ」
「ひゃあぁっ!!」

 目を丸くして城之内が驚いていた。だが、本当に驚いたのはオレの方だった。
 城之内はただオレの下腹部を撫でていただけ。自分のペニスが入り込んだ…そして精液を注ぎ込んだそこを優しく撫で回していただけだった。オレの体内に埋め込まれたままのソレは大分力を失っており、勿論内部を刺激するような事も無い。
 それなのに…オレは感じてしまったのだ。
 城之内に下腹部を撫で回される度にザワザワとした快感が全身を包み、我慢出来なくて吐精してしまったのだ…。

「海馬…、お前…」

 ハァハァと苦しげに息を整えていると、目を見開いた城之内が心底感心したような目でオレを見詰めているのに気付いた。

「凄過ぎだろ…」

 酸素が足りていない頭では、城之内の言葉がどういう意味を持つのかさっぱり理解出来ない。ただオレを見詰める城之内の瞳が嬉しそうに輝いているのを見て、その言葉が悪い意味で放たれたのでは無いという事が分かる。
 一晩に一気に四度も射精して、疲れと眠気でクラクラとする頭の中で、城之内の言葉に対する返事を必死に考えていた。だがどうしても上手い言葉が出て来ないので、「まぁな…」とだけ答えて目を瞑る。

「ま…まぁなって…おい!!」

 オレの返事の何が気にくわなかったのか…。急に焦ったように身体を揺さぶってくる城之内を無視して、オレはそのまま意識を眠りの中に沈み込ませた。
 城之内…。オレは今猛烈に眠いんだ…。続きはまた…明日に頼む…。
 心の中でそう呟いて、オレは完全に意識を失った。



 そして…夜が明けた今。オレは昨晩と同じように城之内に身体を揺すぶられている。「大丈夫か?」とか「痛むのか?」とかオレを心配する言葉の中に、たまに「おい、昨日の『まぁな』ってなんだよ」という問い掛けも含まれていた。
 そんな事を問われても、オレには何も答えようがない。ますます深く布団の中に潜り込みながら、オレは恥ずかしさで目も開けられなかった。
 昨夜は意識が朦朧としていた為、自分が放った言葉の重要性を全く分かっていなかったのだ…。

 まぁなって…そ…そんな…っ。
 有り得ないだろう!!

 これでは自分が如何に感じやすく何度も射精出来る事を、まるで自慢しているかのようでは無いか…っ!!
 海馬! 海馬!! と叫ぶように何度もオレを呼ぶ城之内に、オレはますます身体を硬くする。無理矢理掛け布団を剥がされそうになって、慌てて布団を掴んで引き戻した。そして耐えきれずに大声で叫んでしまったのだ…。

「恥ずかしいんだから…放って置いてくれぇーっ!!」

 …と。

 その後…。
 オレのある意味本当に恥ずかしい雄叫びが、城之内の格好の持ちネタになった事は…言うまでも無かった。ニヤニヤ笑われながら揶揄される度に舌打ちをするが、それでも幸せを感じてしまうのだから救いようが無い。
 今日も城之内の優しい腕に抱かれながら、オレは自分がここにいられる幸福を噛み締めていた。

 こうしてオレはここにいる。今日も…明日も…多分ずっとな。