2010年7月アーカイブ

漸く落ち着いたよ~!

| コメント(0)

漸く落ち着けそうな二礼です、こんばんは。

はぁ~!! 魔の7月が終わったぞぉ~!!
私は自由DAーっ!!

…という訳で、漸く鬼のシフトが落ち着きました…。
良かった…。これで少し落ち着いて小説が書けます…(ノ∀;)ホロリ…
そんな風に安心しながら「8月は少し楽なんだ~♪ ヒャッホ~イ」なんて言いつつ、上機嫌で昨日貰ってきた8月の予定表をカレンダーに書き写していた時でした。
それを見ていた相棒が、ボソリとこんな事を言いました。

「楽だって言ってるからどんなに暇かと思ったら…。何か思ったよりビッシリ入ってるよ?」

その一言に「ん?」と思い、もう一度予定表を見てみたら…。
確かに思った以上にシフトが入っておりました…;
7月の予定表が余りに酷くて、ちょっとした隙間でも「楽だ!」と脳内変換してしまったらしいです…w
まぁ…それ程7月のシフトが酷かったという事なんですけどね~www
人間の慣れって、怖いですなぁ~www

でもでも!!
確かに7月よりはグッとマシになるんですよー!
最近落ち込んでいた更新速度を8月は少し上げられると思います。
長編だけじゃなくて、たまには短編を書いたりもしたいなぁ~とかも思ってたりして。
何はともあれ、暑さと忙しさに負けないように頑張っていきたいです~(´∀`)


長編『あの夏の日の君へ』に第八話をUPしました。
『こちら』の城之内君、何だか色々影響されてきましたね。
このまま影響が進めばどうなるのか、どこまで影響されるのか、そして一般人である城之内君にどこまで残ってしまうのか。
『あちら』の海馬君は、きっとこういう事を心配しています。
まぁ…その辺はこれからゆっくりじっくり書いていきたいと思っています(*'-')

さて…。そろそろ『起承転結』の『起』のターンは終了かな~?
こうやって少しずつ進んでいくのが、長編やってて一番楽しいって思うところですw

第八話

| コメント(0)

 二人で朝ご飯を食べ終わって、使い終わった食器を綺麗に片付けながらオレは色々と考え事をしていた。
 別の世界から来たという少し年上の海馬。SFファンタジーの中でしか見た事の無かった超能力。その超能力を使って倒さなければいけない『影』という未知の存在。その『影』を追ってこの世界にやって来て、大怪我をして倒れていた海馬…。考えなければならない事は山程有った。だけどそんな重要な事以前に、オレの頭を一番に悩ませてならなかった事…。それは…。

「あの海馬の着替え…どうしよう…」

 という事だった。
 流石にいつまでもオレの着替えで済ませる訳にもいかないし、かといって海馬のあの体型じゃそこら辺に売っている物ではサイズが全く合わない。サイズを合わせようとすると必然的に特注品になってしまい、今度はオレの所持金ではどうにもならない事態になってしまう。
 今は台所の椅子に座り、復活したらしい治癒能力で昨日の火傷を治している海馬を見つつ、オレは密かに溜息を吐いた。
 まさか海馬邸に「海馬の着替えだけ送ってくれ」なんて言う訳にもいかないし、かと言ってオレの財布の中身ではコイツに合った服を買う事も出来無い。何かもう御都合主義っぽいけど、ある日突然海馬の着替えが大量に送られて来たりしないかなぁ…なんて思った時だった。

「城之内? 携帯が鳴っているぞ」

 火傷を治している最中の海馬にそう話しかけられて、オレは慌てて振り返った。耳を澄ませてみれば、学生鞄の中に入れっぱなしだった携帯からメロディーが鳴っている。そのメロディーはオレが海馬の着信の為だけに設定したもので、という事は、それは必然的に海馬からの電話だという事になる。
 考え事をしていて全く着信に気付かなかったオレは、急いで鞄の中から携帯を取り出し通話ボタンを押して耳に当てた。

「も…もしもし!?」

 声を裏返しながらも問い掛けたら、暫しの無言の後『…城之内か?』という声が電話の向こうから聞こえて来た。
 海馬だ…。間違い無い。コレは『オレの』海馬の声だ…!

「うん、ゴメン。ちょっと片付けしてて電話に気付くのが遅れちまった」
『構わん』
「今…もうアメリカ?」
『そうだ』

 淡々とした短い会話。でもそれがとても嬉しかった。
 違う世界から来た海馬とは、昨日出会ってから凄く沢山の会話をした。目の前で静かに火傷を治しているこの海馬は、オレが今まで見た事のないような綺麗な笑顔を浮かべて、色んな事を喋ってくれた。オレの質問にも嫌な顔一つせず、何でも答えてくれた。自分の恋人である海馬とは絶対出来無いような温かな時間を過ごせて、オレは少し幸せだった。でもやっぱり…違ったんだ。
 何だかんだ言ってもオレが心底愛しているのは、やっぱりこの電話口の向こうの海馬なんだ。今ここにいる海馬とは全く違う冷たさとぶっきらぼうな言葉。短く切り捨てられる会話。昨日から感じていた温かな雰囲気は一つも無い。それでもオレは、この海馬とちゃんと話を出来る事に幸せを感じていたんだ。

「これから仕事なんだろ。身体に気を付けて頑張れよ」
『言われなくても』
「帰って来る時は、一応連絡入れてくれよ」
『あぁ…。実はその事で少し伝えておく事があったのだ。昨日は時間が無くて、言うのをすっかり忘れてしまっていたがな』
「………? 何?」

 珍しい海馬からの言葉に、オレは頭にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げた。
 コイツがこんな風に自分からアクションを起こしてくるのは、本当に珍しい事なんだ。

『実はな。思ったより長期出張になりそうだから、途中で一度日本に帰国するかもしれんのだ』
「う、うん…」
『その時に貴様の家に何泊か泊まりに行こうと思ってな』
「うん…って…えぇぇっ!?」
『何を驚いているのだ。どうせ夏休みだろう?』
「そ…そうだけど…。お前はいいのかよ…」
『何故だ? オレが恋人の家に泊まりに行ってはいけないのか?』
「………っ!?」

 ふいに…海馬から告げられた一言に胸がカッと熱くなった。
 恋人って…恋人って言った! 海馬が自分から恋人って言った…!!
 あんなに冷たくそっけなくされても、その一言だけで飛び上がる程嬉しくなるのを感じた。昨日はあんなに悲しくなっていたのに、途端に目の前が薔薇色になる。オレって本当に馬鹿で単純だよな…。でもそれだけ海馬の事が好きだって事なんだよ。

「あ…いや、そんな事無いよ! 待ってるから!」
『そうか? ならばいいのだが』

 淡々と感情もなく告げられる言葉に、オレはそれでも滅茶苦茶嬉しくて堪らなかった。互いを想う気持ちの温度差はあっても、やっぱりそれなりに愛されてるのかも…なんて都合の良い事も思ってしまう。

「それで? いつ帰って来れる?」
『それはまだ分からんが…、準備だけはしておこうと思ってな』
「準備?」
『いつ帰れるか、そっちに何泊出来るかはまだ未定だ。だがそちらに行った時に不便な事にもなりたくない。だから予め荷物を送っておいた』
「へ…? 荷物…?」
『オレの着替えだ。それなりに詰め込んでおいたから、預かっておいてくれ』
「え? き、着替えって…?」
『今日辺り着くと思うぞ』

 海馬の着替え。その一言でオレは思考が固まった。
 オレの恋人の海馬はまだ十七歳だけど、身体の成長はもう止まってしまっている。という事はサイズ的には、今目の前でオレ達の会話をじっと見守っている大人の海馬と余り変わりが無いという事だ。
 何て言うか…ちょっと有り得ないけど、これって物凄くラッキーな事なんじゃないのか…?

『ではそういう事だから。予定が分かったらまた連絡する』
「あっ…! ちょっと待って…!」
『何だ? オレは忙しいのだ』
「いや…その…。が、頑張って仕事しろよ…。待ってるから…」
『あぁ。ではな』

 相変わらず淡々とした返事を残し、電話はプッツリ切られてしまった。受話器からはもう海馬の綺麗な声は流れて来ない。ただツーツーという無機質な機械音だけが聞こえている状態だ。
 少し寂しい気分で…でもちょっと嬉しい気持ちのまま携帯のフリップを閉じて、オレは相変わらず火傷を治療している海馬に向き直った。

「良かったな。ちょっと着替えを借りられるかもしれないぞ」
「………?」

 オレの言葉に海馬は不思議そうに首を傾げていたけど、詳しい話をするとちょっと驚いた顔をしてオレの顔を凝視した。

「それは…。話が出来過ぎていないか?」
「そうか? 確かに昨日からラッキーだなーとは思ってたけど」

 大怪我をした海馬を連れて帰った時、丁度親父から電話が来て一ヶ月は海馬をこの家で匿える事が確定した。その時はちょっとラッキーだなーくらいにしか思えなかったけど、確かにこの着替えの事に関しては、ラッキーを通り越して出来過ぎのような気がしてくる…。
 でもオレ的にはこういうラッキーな事って昔からよくあるから、別に特別な事だとは思っていなかった。その事を何となく伝えると、海馬は突然パッと顔を上げて「そうか!」と大きな声を出した。

「ラックが高いのだ…!! それもオレの城之内と同じなのだ!」
「ラック…?」
「幸運度の事だ。城之内の隠れた五番目の超能力と言われている」

 少し興奮気味に説明し始めた海馬の話を纏めると、要はこういう事らしい。
 何でもアチラの世界のオレは、全部で四つの力を持っているんだそうだ。一番目から三番目までは持って生まれた能力で、四番目がコイツと同じように後から人工的に付け足した治癒能力。そして隠れた五番目の超能力と言われているのが、この幸運度の高さなんだそうだ。

「とにかく城之内は幸運度が高くて有名だった。だがその能力は余りにも不安定でな…。その力が最大限に現れて役立つ時もあれば、全く活かされない時もある。そのコントロールは完全に不能で、城之内自身にもどうにもならなかったらしい…。なので正式な超能力とは認められず、隠れた能力として口伝されるだけになった」
「え…? 超能力として認められなかったのか?」
「そうだ。元々我々の世界では、超能力の定義として『能力者が意識した時に自由に発動出来る力』という物があるのだ。城之内の強い幸運度は、その定義に当て嵌まらない。なので超能力としては認められなかったのだ。大体それが超能力の一種なのか、ただの特異体質なのかも分かっていないのだからな」
「そうなんだ…」
「お前はどうだ? 昔からこんなだったのか?」

 海馬の質問に、オレはちょっと真剣に考えてみた。
 確かに昔からラッキーだと思う事がいくつもあった。特に「そうなって欲しい!」と強く願った時に、実際にそういう展開になる事も少なく無かった。だけど、勿論それは毎回そうだった訳じゃない。もし何事も全部オレの思い通りに動いていたら、親父はアル中になんてならなかっただろうし、両親も離婚する事は無かっただろうし、静香の目だって悪くはならなかった筈だ。だから自分の幸運については、いつも「今日はちょっとついてた」くらいにしか思った事が無かったんだ。

「たまにラッキーって思う事はあったけど…ここまでつきまくってた事は無いなぁ…」
「………」

 オレの答えに海馬はまた深く考え込んだ。何も言われて無いけど、海馬が何に思い悩んでいるのかは嫌と言う程伝わって来る。多分、異世界から来た自分が一緒にいる所為で、一般人のオレに要らぬ影響が出ていると考えているんだろう。

「あのさ。あんま心配するなよな?」

 俯いて真剣に考え込んでいる海馬に声を掛ける。オレの声で海馬は視線を上げて、少し困ったように微笑んだ。

「いや…。流石にこうまで影響が出て来ると…、このままここにいても良いのだろうか…と迷うのだ」
「迷ったってどこにも行く所無いんだろ? それに本当にオレがお前に影響されてるかどうかなんて…分からないじゃんか」
「それは…そうなのだが」
「ここにいなよ…海馬。オレ…お前の役に立ちたいんだよ」

 そう。オレは海馬の役に立ちたい。今アメリカに行って全く手の届かない…むしろオレの助けなんて全く必要としていない恋人の海馬の分まで、オレはコイツの役に立ちたかった。オレの幸運度の高さがその役に立つなら…むしろその方がいいとさえ思っていたんだ。

もうちょっとの辛抱DAーっ!!

| コメント(0)

お仕事ラストスパートの二礼です、こんばんは。

ウフフ…w 今週一杯さえ頑張れば…あとは落ち着くのよ…。
そう…今週一杯さえ頑張れればね…。

とまぁこんな感じで既に壊れていますが、本当に今週さえ乗り切れば後は大分落ち着けるので、ラストスパート頑張りたいと思います!!
………はぁ~。もうヘトヘトだぁ~…;


あ、そうそう。
REMS』さんとこの日記でもう知っていらっしゃる方もいると思いますが、散たんからとっても可愛い子瀬人のイラストを頂きました~!!
Presentページに先に上げていたのですが、今回の日記でも宣伝しちゃいますね~!
何て言うかこの、小生意気な感じが本当に可愛くて愛しいです…(*´д`*)ハァハァ
『リトルキング』というよりは『リトルエンペラー』って感じしませんか?
もう何度見ても可愛くて堪りません!!
マントごと、ギュ~~~ッと抱き締めたいわ~~~っ!!(><)

散たん、こんなに可愛い子瀬人を本当にどうもありがとうございました~!!
末永く飾らせて頂きますw


長編『あの夏の日の君へ』に第七話をUPしました。
相変わらずノンビリした進み具合ですけど、少し本編に深く関係するようなシーンを書いてみました。

『こちら』の城之内君は、紛う事無き一般人です。
超能力なんて勿論使える筈が無く、むしろ超能力の存在自体がファンタジーな世界に住んでいます。
でもそんな『普通』の城之内君が『異常』な海馬君と一緒に過ごした場合、その影響を全く受けないとは…限りませんよね?

異世界の海馬君と一緒に過ごす内に、少なからずその影響を受け始めてしまった城之内君。
知らず知らず『こちら』の城之内君に影響を与えつつ、任務を遂行しようとしている『あちら』の海馬君。
この二人の関係を、じっくり書いていこうと思っています!

8月に入ったら少し更新スピードが上がるといいんだけどなぁ…;
ノロノロ運営で、本当に申し訳ありませんです…。

第七話

| コメント(0)

 教室のドアを開けると、いつもの席に珍しく海馬が座っているのが目に入ってきた。最近仕事が忙しかったから、学校に来る事自体久しぶりだ。真っ直ぐに背筋を伸ばして、オレには理解出来ない外国語の難しい本を読んでいる。そんな海馬の姿を、オレは身動きする事すら出来ずにじっと見詰めていた。
 海馬が本に夢中になっている姿自体は別に物珍しい物では無い。オレが目を離せなかったのは、そんな海馬の周りを覆っている明るい光のオーラの方だった。
 つい最近まで全く気付く事の無かった、海馬を取り巻く明るいオーラ。確かに同じ超能力者として、強い力を持っている人のオーラが見えたりする事はあるが、流石のオレもこんなにハッキリ見えた事は今まで一度も無かった。
 キラキラと煌めくように海馬から湧き上がっているオーラに気付いているのは、どうやらオレだけのようだった。この学校にはもう一人、オレと同じように強い力を持ち『機関』に属している奴がいるんだけど、そいつも海馬のオーラには全く気付いていないらしい。現に直接聞いてみたら目を細めて海馬を眺めた後、「そう? 僕には全く見えないけどなぁ…」と残念そうに呟くだけだった。
 始めてそのオーラに気付いた時、オレはただの気の所為だと思った。何故なら今まで海馬にはそんな力の欠片すら見えなかったし、本人も自分は一般人だと認識していたからだ。オレも海馬は一般人だと信じていた。だけどある日…そう恋人として初めて身体を繋げたあの日から、少しずつ海馬を包み込む光のオーラが見え始めるようになっていったんだ。そしてそれは、海馬とセックスをする度に強くなっていって…。

「っ………!」

 そこまで考えて、オレはある事に思い当たって急に照れてしまった。カーッと急激に顔が熱くなっていくのを感じて、自らの顔を掌で覆う。
 要するにオレだけに海馬のオーラが見える原因は、オレと海馬が身体の繋がりを持ち、心と身体の両方がシンクロしてしまっているからなのだ。どうやら自分達が思っていた以上に相性が良かった事が判明して、オレは内心とても嬉しくなってしまう。だけど同時に、かなり困った事になってしまっている事にも気付いてしまった。

「参ったな…。アイツ、絶対気付いて無いだろ…」

 海馬の周りが一際明るく見える程のオーラを放ちながら、海馬自身はその事に全く気付いていないのだ。どうやらこの年になってもまだ、海馬の能力は隠されたままだったらしい。多分元々強い力の持ち主だったのだろうが、能力が発露する特別な切っ掛けというものが無かったんだと思う。
 とは言っても、海馬が普通の人と同じような平穏無事な生活を送って来たという訳では無い。幼い頃から辛い虐待を受けていたという事に関しては、オレと同等か…もしくはそれ以上だろう。それでも海馬の能力が開花しなかったのは、オレと海馬の性格の違いにあるんだろう。
 オレは自分を取り巻く辛い環境から、一刻でも早く逃げ出したいと思っていた。対して海馬は、その環境を真っ向から受け止めた。…というより、自らの意志でそうなるように選んだのだ。逆境に巻き込まれたオレと、逆境を自ら選んだ海馬…。それがオレ達の大きな違いだった。
 辛い生活も酷い虐待も、海馬は自分が選んだ物の結果として黙って受け入れてしまっている。その潔い諦めと強い覚悟が、海馬の能力の開花を阻害した。
 超能力の開花には、今ある現状を変えたいという強い意志が必要だ。だから能力者の多くは、そういう意志を強く持ち始める思春期に目覚める事が出来る。オレはまぁ…もっとずっと前に能力が発露しているけれど、思春期前の幼い時期に能力が開花した珍しい例として学会に報告されたくらいだから、ちょっとした例外って奴だ。
 海馬も本当は思春期に目覚める筈だったのだろう。でもその時には海馬は既に厳しい環境に身を置き、全てを諦めて…そして覚悟を決めて毎日を暮らしていた。その余りにも強い意志の所為で、海馬の能力は眠ったままになってしまったんだ。

「………どうしよ…。これってやっぱり…オレの所為だよなぁ…」

 で、そんな海馬に何故突然変化が見られ始めたかと言うと…それはオレと身体的に接触してしまったからだと推測せざるを得ない。
 高校生で既にAAA+レベルを持っているオレ。数ヶ月後にはSクラスへの昇格も決まっている。そんな強い力を持ったオレと心も身体も結ばれてしまい、海馬の奥深くで内包されていた能力が外から刺激されて、突然目覚め始めてしまったんだろうな…。それ程までに海馬の能力の開花スピードは速かった。
 幸い未だ力が暴発するような事柄には出会っていないらしく、海馬は自分の変化に気付かないまま普段通りの生活を続けている。だけど、このまま無視し続けていてもいつかは能力が溢れ出てしまうだろうし、その時にパニック状態になる危険性も無くは無いのだ。第一『機関』が放って置かないだろう。そうなるとやっぱり…早い内にオレが自分で伝えた方がいいと思ったのだ。

「なぁ、海馬。ちょっと…いいか?」

 海馬の机の前まで歩いて行き、意を決して問い掛けてみる。夢中で本の文字を追っていた海馬はオレの声に反応し、チラリと視線を移動させてオレの顔を見上げて来た。青く澄んだ瞳がじっとオレを見詰めている。

「何だ?」
「うん、ちょっと…ね。大事な話があるんだ」
「大事な話?」
「うん」
「それは今話さなければいけない事か?」
「今じゃなくてもいいけど、なるべく早い方がいいと思う」
「………」
「これからのお前にとって…無視出来無いとても大事な事だ」
「オレにとって…?」
「そう。お前にとって」

 じっと真面目に海馬の事を見詰めながらそう言ったら、海馬は少し俯いて何かを考えているようだった。でもオレの雰囲気がいつにも増して真剣だった事に気付いたんだろう。スッと上げた表情は、何かの覚悟を決めたように引き締まっていた。

「…分かった。話を聞こう」

 ハッキリと聞こえて来たその一言にオレはコクリと頷いて、海馬の手を引いて誰も居ない屋上へと向かって行く。
 二人で黙って歩いている廊下に予鈴が鳴り響いた。一時限目の授業はサボり決定だろうな。でもそんな授業よりも、もっとずっと大事な話をオレ達はこれからしなければならないのだった。



 ピピピピピ…ッと耳元で煩く鳴り響く目覚まし時計の音にオレは飛び起きて、慌てて枕元に置いてあった時計を引っ掴みスイッチを切った。あんまりビックリしたもんだから、心臓がバックンバックンと激しく鳴っている。胸を押さえ付けながら眺めた目覚まし時計の針は、休日だからと少し遅めにセットした午前八時を指し示していた。
 目覚まし時計を枕元に戻しながら、オレは自分の布団の隣をじっと眺めた。狭い部屋に並べて敷いた滅多に出さない客用布団には、違う世界から来たという少し大人の海馬がぐっすり眠っているのが目に入ってくる。暑がりのオレに合わせた温度になっている冷房が少し寒かったんだろう。タオルケットを身体に巻き付けるようにして、スゥスゥと寝息を立てていた。あれだけ大きな目覚まし時計の音にもピクリとも反応しない海馬を見て、オレは昨晩、この海馬が寝る前に言っていた一言を思い出す。

「今日は少し能力を使い過ぎた…。力の回復の為に明日は遅くまで起きて来ないと思うが、心配しないでくれ」

 物凄く眠そうな顔で海馬はそう言って、オレが敷いてやった布団にパッタリと倒れ込んだ。そしてそのまま安らかな寝息を立て始めてしまったのだった。
 本当にグッスリ眠っているなぁ…と思いながら、自分の隣に横たわる海馬の姿を観察する。オレが貸してやったTシャツは海馬には少し大きかったらしく、大きく開いた首回りから白い胸が覗いていた。少し伸び上がって覗き込めば、多分胸に付いているアレとかも見えちゃうんじゃないかと考えて、オレはちょっとドキドキする。うん、まぁ…見ないけどね。コイツは『オレ』の海馬じゃないし。
 とりあえず風呂に入ってサッパリしようと思い、オレはそのまま風呂場に直行した。温度設定をぬるめにしたシャワーを浴びながら、さっきまで見ていた夢を思い出す。妙にクリアな夢だった。まるで自分が実際体験した過去であるかのように。
 多分昨日あの海馬に変な話聞いた所為だとは思うけど、もし自分があの世界の『オレ』だったら、きっとあんな風に海馬と付き合っていたんだろうな…なんて思ってしまった。『こっち』のオレ達とは全く違う、お互いを信頼しきった雰囲気。夢の中のオレも現実と同じように海馬の事を心から愛していたし、海馬もオレに絶対の信頼を寄せていたように思う。
 あの二人の姿こそ、オレが本当に追い求めている物なんだ。それなのに…。

「現実って…残酷だな…」

 今はもうアメリカにいるだろうオレの海馬の事を思って、オレは風呂場で盛大な溜息を吐いた。



 オレが風呂から上がって二時間近く経ってから、海馬が少しスッキリした顔をして部屋から出て来た。シャワーを浴びる度に海馬が風呂に行っている間に、オレは遅い朝食の準備をする。昨夜は簡単にインスタントラーメンで済ませてしまったから、今回はきちんとした物を作ろうと張り切っていた。
 ご飯を炊いて、豆腐と長ネギと油揚げで味噌汁を作る。小松菜を茹でてお浸しにし、作り置きの切り干し大根の煮物も小皿に盛りつけた。冷蔵庫から漬け物の盛り合わせの皿も出して、最後は魚でも焼こうと冷蔵庫を覗き込んだ。ところがそこには塩鮭が一枚しか残って無くて、仕方が無いので少し考えてベーコンエッグにする事にする。これだけ洋食っぽいけど、ご飯と合わなくは無いから大丈夫だろう。フライパンから焼き上がったベーコンエッグを皿に移していると海馬が風呂から上がって来たので、そのまま二人で朝食を摂る事にした。

「お前は相変わらず料理が上手いな」
「あ、そう? そっちのオレも料理上手?」
「あぁ。たまに食事をご馳走してくれたりするぞ」

 オレの作った朝食を美味しそうに口に運びながら、海馬がニッコリ笑ってそんな事を言った。そんな風に真っ向から褒められると、慣れてなくてちょっと照れる。オレの海馬はこんな事を言ったりしないからな。あ…せっかく美味しいご飯食べてるってのに、また悲しくなってきた…。
 沢庵をポリポリ食べながら少し凹んだら、目の前に座っている海馬が少し考え込むような動作をした。そして突然「スマン」と言葉を放つ。

「はい?」

 何故突然謝られたのか分からなくて海馬の顔を凝視すれば、海馬は神妙な顔付きでオレを見ていた。

「いや…スマン。オレはてっきり…」
「え? 何? 何で突然謝ってんの?」
「何というか…その…。自分達がそうだからてっきりお前達もそうなのだと思ったのだが…」
「だから何?」
「あ…つまりその…オレ達の関係のように、お前達も『そういう』関係なのかと…。だから遠慮なく恋人だ何だという話をしていたのだが…」

 ボソボソと海馬は本当に申し訳なさそうに言葉を放っていた。最後まで話を聞いてみれば、要はオレ達が恋人同士でも何でも無いのに、そういう話をして済まなかった。男同士で云々なんて、余り良い気持ちがしなかっただろうって事らしい。
 いや…その心配は杞憂なんだけどね。実際オレ達は恋人同士だし。オレが落ち込んでいるのは、むしろ恋人同士なのに思ったように上手く行かない事に関してだ。

「いや、大丈夫。オレ達も付き合ってるから」

 安心させるように笑いながらそう言ったら、目の前の海馬はホッと息を吐いて微笑んだ。

「そうか…それならば良かった…」
「ただちょっと…」
「ん?」
「あ、いや、何でも無いよ。それよりもさぁ…。昨日聞いた話の所為で、オレ変な夢見たんだけど」
「………?」

 ここでこの海馬を無駄に心配させるような事を言っても仕方無いし、オレは自分の悩みについては話さない事に決めた。それに食事の時は明るい話題で楽しい気分でいた方が、飯も美味く感じるだろ? せっかくだからあの夢の内容を教えてやろうとして、オレは嬉々として今朝見た夢の事を海馬に話した。そうしたら海馬は本気で驚いた様な顔をして、オレの事をマジマジと見詰めて来たんだ。

「驚いた…」

 パチパチと何度も瞬きを繰り返しながら、海馬はボソリと呟く。

「それは本当に、オレが昔体験した過去だ…」
「へ?」
「高校生の頃、実際そういう会話を城之内としたのだ。そしてそれを切っ掛けにして、オレは自らの超能力に気付いたのだ…」
「へぇーそうだったのか。偶然にしても凄いなぁ…」
「いや、偶然では無いと思う」

 オレの発言に海馬はゆるりと首を横に振る。そして真剣な瞳でオレの事を見詰めて来た。青い瞳が真っ直ぐにオレを捕らえている。その瞳を…オレはどこかで見た事があると思った。
 勿論こんな青い瞳をしている人物は一人しかいない。………あの、海馬瀬人だ。でもどうしてだろう…。オレは海馬がいつどこでどんな風にこんな真剣な瞳でオレの事を見詰めて来たのか、全く覚えていないんだ。考えれば考える程、頭に浮かぶのは微妙に視線を外してオレを見ようとしていない海馬の姿だけ。じゃあ気の所為かと言われると、そういう事でも無いんだ。オレは確かに、オレの事を至極真剣に見詰める海馬の瞳を見た事があるんだ。…それがいつどこで見たのか…全く思い出せないけど。
 そんな風にオレがグルグル色んな事を考えていると、目の前の海馬が「ふむ…」と少し考え込むように俯いて、そしてパッと顔を上げた。

「昨夜からずっとオレの側にいたからだろうな…。多分、オレの思い出とシンクロしてしまったのだろう」
「シンクロ?」
「そう。オレと城之内が長く恋人同士なのは、もうお前も知っているだろう? 向こうの城之内と全く同じ姿をしたお前を相手にしていると、オレもつい気を許してしまうのだ。気を許すと無意識に思考が漏れる。その漏れ出た思考を、お前がキャッチしてしまったのだろうな」
「キャッチねぇ…。でもオレは、『そっち』のオレと違ってただの一般人だぜ? そんな普通の人間のオレが、他人の思考をキャッチしたり出来るモンなのかな?」
「そうだな…。オレもそれが少し引っ掛かるのだが…」

 暫く二人で首を捻って考えて、でも答えは出て来なくて、最後は結局「たまたまそういう事が起った」という事で片付けてしまった。
 その時はそれで良かったのかもしれない。だけど確かに、オレはこの違う世界から来た海馬から影響を受け始めていたのだった。

ま...まだ頑張れるぞ!!

| コメント(0)

まだまだ忙しい二礼です、こんばんは。

口内炎は序章に過ぎませんでした…。
20日(火)の朝、なんか首の辺りがちくちくするなぁ…と思っていたら、帯状疱疹が出来ていました。
でもいつもより軽かったので、大した事無いだろうと放っておいたら…。
翌21日(水)の朝、気が付いたらエライ事になっておりました…orz(要するに大悪化状態w)
帯状疱疹が出る原因には、疲れとかストレスとか日光による刺激とか色々ありますが、それら全てに心当たりがあるので何ともならず…w
まぁ…アレですね。
7月が終わるまではどうにもならないんだと思います(´∀`;

身体に気を付けて、ストレスに負けないようにしながら、頑張っていきたいと思いまーす!!


長編『あの夏の日の君へ』に第六話をUPしました。
今回の話を読んで下されば分かると思いますが、『あちら』の海馬君はかなり城之内君との付き合いが長い上に、その対応に慣れています。
『こちら』の城之内君に対しても余りに自然に接している為、まだ若い高校生城之内君がたじたじして可哀想な事になっていますね…w
普通だったらもう少し自重するものですが、そこはあの海馬君。
自重どころか余裕しゃくしゃくです…w
多分城之内君のキョドり具合にも、全く気付いていないのではないでしょうか?w
仕方の無い子ですねぇ…ホントにw

でもそんな天然海馬君も、非常に重い使命を負っています。
普段は違う世界に生きる城之内君と海馬君が一緒に暮らしながら、片や上手く行かない恋愛に悩み、片や自分の使命に悩み、そんな風に悩んでいる互いを思いやる姿を書いていこうと思っています。


以下は拍手のお返事になりますです~(´∀`)


>狭霧様

こんばんは~!
拍手とコメント、どうもありがとうございました~!(゜∇゜)

誤字指摘、どうもありがとうございまっす!!
いや~本当に助かっているんですよ…w
自分の目ではどうしても見付けられないので、誤字を教えて頂けるのはありがたいと思っています(´ω`)
これでも何度も校正しているのですが…やっぱダメなんですねぇ…。
本当に毎度スミマセンです。

『あちら』の海馬君は『こちら』の海馬君よりは、ずっと頼り甲斐のある存在なんです。
………な筈なのですが、どうも天然っぽさが大きく出てしまっていますね…w
これは『あちら』の海馬君が、城之内という存在に心を許しているからなんだと思います。
『こちら』の海馬君はまだ城之内君と付き合い始めてから、ほんの少ししか経っていません。
対して『あちら』の海馬君は、もう随分と長い時間を城之内君と共に過ごして来ています。
この城之内君との付き合いの長さの違いというものが、表に出て来ているという証拠なんでしょうね~。

『こちら』の海馬君と『あちら』の海馬君の違いとかも比較しながら、物語を面白く書いていきたいと思っています(´∀`)

それでは今日はこれで失礼致します。
ではまた~(・∀・)ノシ

第六話

| コメント(0)

 腰にバスタオルを一枚巻いただけの姿で、海馬は大人しく台所の椅子に座っていた。そんな海馬の姿にちょっとドキドキしながら、オレは戸棚に置いてあった救急箱を手に取る。テーブルの上で蓋を開けて、消毒液やいくつかの傷薬、それにガーゼや包帯などを取り出した。こういうのは全く自慢にならないと思うけど、小さい頃から親父の暴力を受けていたオレは、怪我の治療が得意なんだ。

「とりあえず一番酷いのからやっちまうか…。左腕出して」

 そう言うと海馬は素直に火傷を負った左腕を差し出して来る。最初に見た時よりは幾分状態が良いように感じるけど、それでもやっぱり真っ赤になった腕は酷く痛そうに見えた。オレはその腕を手に取ると、なるべく海馬が痛がらないように丁寧に消毒を行ない、次いで火傷用の軟膏を塗り付けていく。薬を塗り付ける度にピクリと腕が動くので、視線を上げてそっと海馬の顔を見てみた。眉を顰めて歪む表情は、やっぱり痛みを感じている事をオレに伝えていた。

「何だ。やっぱりまだ痛むんじゃないか」
「当たり前だろう…」

 薬を塗るオレの指の動きをじっと見詰めながら、海馬はそろそろと息を吐き出しながら小さくぼやく。

「それでも先程よりはずっとマシだがな…」
「さっきはすげー酷かったもんな。しかしこれ…よく我慢してたな。シャワー浴びる時も浸みただろ」
「まぁ…慣れているからな。これくらい平気だ」

 軟膏を塗り終わった腕にガーゼを当て、丁寧に包帯を巻き付けながら問い掛けたら、海馬はホッと安心したように嘆息しながらそんな事を言った。
 人の悪意が具現化した『影』という存在。海馬は日夜そんな得体の知れない物と闘い、その度に傷付いているのだろう。今回ほど酷い傷を負う事は無いにしても、無傷で仕事を終えられる事なんて無いんだと思う。
 大変な仕事だよなぁ…なんて他人事みたいに考えて、そこでオレはちょっとした疑問を抱いた。
 今、海馬の身体は傷だらけだ。でもそれは、今回の仕事で負った新しい傷ばかりだ。そういう危険な仕事をずっとしているなら、もっと古い傷痕が一杯あってもおかしくないのに…と不思議に思う。
 現にオレの身体には、親父に暴力を振われた時の傷痕がいくつか残っている。殆どは綺麗に消えてしまったけど、たまに酷い怪我をした時の痕は、治りきらずに残ってしまっているのだ。
 いくら超能力を使うとは言っても、コイツだって普通の人間の筈だ。全く傷が残らないなんて考えられないんだけどな…。

「あのさ…。普段はどうやって、こういう酷い傷を治してたんだ?」

 左腕に包帯を巻き終わり、今は上腕部にある擦り傷に薬を塗りながらそう尋ねたら、海馬は「あぁ」と納得したように頷いた。

「そうか…。お前はヒーラーの存在も知らないから…」
「………? ヒーラー? さっきもそんな事言ってたけど、もしかしてそれも超能力の一種?」
「その通りだ。主にヒーラーと呼ばれている能力者達は、自分の持っている第一能力にヒーリング能力…つまり自分や他者の怪我や病気を治せる能力を持っているのだ」

 海馬はそう言って右手を持ち上げ、さっき公園で見せてくれたように優しい青白い光を放ち始める。その手を包帯を巻かれた自分の左腕に翳すけど、見る見る内にその光は小さくなり、やがて蝋燭の火が消えるようにふっ…と掻き消えてしまった。
 その様子を見届けると海馬は小さな声で「やはりな…」と呟いて、諦めた様に笑って口を開く。

「先程も言ったが、オレのヒーリング能力は後から人工的に付け足された物だ。その能力には限界があって、余り深い傷だと最後まで治しきる前に力が尽きてしまう。現に今日はもう使えないらしい」
「………そっか…」
「だがな。その者が元から持っている力は、そんなに早く枯渇したりしないのだ。ほら、こんな風に…」

 そう言いながら海馬がもう一度右手を振ると、空中に青白くて強い光が散らばった。今のオレならもう分かる。コレはこの海馬の第一能力である、光の超能力だ。
 明るい電気の下でも負けじとキラキラ煌めくその光に見惚れていたら、海馬が少し得意そうな顔をしながら笑っているのが目に入ってきた。

「慣れない内は使い過ぎれば頭が痛くなったりもするが、訓練すればほぼ無制限に使えるようになる。オレもこの光の能力と第二能力である雷に関しては、一日中使っていても多分何も感じる事は無い」
「へぇー。凄いんだなぁ…」
「こんな風に、第一能力でヒーリングを行なえる能力者がいるのだ。彼等はとても強いヒーリング能力を持っていて、どんなに酷い怪我を負ってもたちまち直してしまう。勿論その者が元から持っている能力だから、ほぼ無制限という折り紙付きだ」
「そういう人達が、怪我した仲間を治してくれる…って訳か?」
「あぁ、そうだ」

 海馬がオレの問い掛けに、強く頷いて答えた。
 そうか…。だから古い傷痕とかが一つも無いんだ…。
 そんな話を聞くと、何の能力を持っていない、ただの普通の人間である自分が情けなくなってくるような気がする。勿論それはオレの所為では無いし、生きてる世界が違うから仕方無い事だとは思うんだけど、海馬のこの白くて綺麗な肌に無駄な傷痕を残す事が物凄く嫌だと感じたんだ。

「ゴメンな…。オレ、何にもしてやれなくて」

 肩から鎖骨に掛けて傷付いている部分に薬を塗りながらそう言ったら、海馬は一瞬驚いた様な顔をして…そして右腕を持ち上げてポンポンと頭を撫でてきた。

「何を言う。こんなに助けて貰っているのに」
「でも…」
「元々の世界が違うのだ。それに本当に助かっているのだ。傷の手当ても、オレをここに泊めてくれる事も、全てありがたいと思っている」
「海馬…」
「それに元の世界に帰れば、こんな傷痕などヒーラーがあっという間に治してくれるわ。だから心配するな城之内」
「傷…治せるのか? それ本当か?」
「あぁ」
「よ…良かった…」

 海馬の言葉に、オレは心底安心した。ホッと胸を撫で下ろしたら、海馬が顔を近付けて「本当にありがとう…城之内」と囁いてくる。ニッコリと綺麗な笑顔でそんな事を言われて、オレは一瞬で心臓が跳ね上がってしまった。顔が一気にカーッと熱くなるのを感じながらオレは何とか「う、うん…」とだけ答え、ドギマギしながら消毒液を手に取り、新しい傷の手当てに集中する事にした。



 全ての傷の手当てが終わった後、オレは自室に駆け込んで必死に箪笥の中身を漁っていた。何せ違う世界から来たとは言え、相手はあの海馬だ。古くて汚らしい服なんて絶対に着せられない。オレが持っている数少ない服の中から選んだのは、買って来たばかりでまだ一度も身に着けてないボクサーパンツと、比較的新しくて綺麗なTシャツとハーフパンツだった。改めて自分の服のバリエーションの少なさにガックリしつつも、それを持って海馬の元に戻る。

「これ…。こんな物しか無くて悪いけど…」

 素っ裸でいるよりマシだろうとその服を海馬に手渡すと、海馬は一瞬キョトンとした顔をして…次の瞬間にクスリと笑みを零した。

「あ…。やっぱ嫌だった?」
「いや、そんな事は無い。ありがとう城之内」
「で…でもなんか今…嫌がって無かった?」
「嫌がった訳では無い。服のチョイスが城之内と…、あぁ『オレの』城之内の事だが。アイツと全く同じだったからおかしくなってな」

 服を手にしてクスクス笑い続ける海馬に、オレは「あぁ…そういう事ね」と少し微妙な気分になった。そういや『あちら』の二人も仲良く恋人同士なんだっけなぁ…とそんな風に考えて、オレはまたあの「羨ましいな」という気持ちが湧き上がって来るのに気付く。
 世界が少し違うだけで、オレ達は同じ『城之内克也』と『海馬瀬人』である筈だ。それなのにどうしてこんなに違うんだろうな…と悲しくなる。片やラブラブ、片や冷え冷えだ。
 着替えをする為に、服を片手に海馬が洗面所に移動するのを見届けて、オレは深く溜息を吐きながら遅くなった夕食作りに取り掛かった。



 夕食は結局、キャベツや人参やもやしをたっぷり入れたインスタントラーメンになった。もっとまともな食事を作ってあげたかったんだけど、時間も大分遅くなっていたし、何よりオレの腹がもう限界だった。一応海馬に聞いてみたら「それで構わない」という返事も貰ったので、有り難くインスタントラーメンにする事にする。
 そんな具沢山のラーメンを二人で啜りながら、オレはチラチラと海馬の姿を見ていた。心配していたオレの服は、思っていたよりも海馬に似合っている。それはこの海馬がこういう格好に慣れているからなのかなぁ…なんて思いながら、オレはちょっと微妙な気持ちになったりした。
 粗方ラーメンも食べ終わって、グラスに入れた氷水をグイッと飲み干し、オレはまだゆっくりとラーメンを食べている海馬に話しかけてみる。

「あのさぁ…。ちょっといい?」

 オレの言葉に海馬はチルルッと麺を吸い込みながら、コクリと無言で頷いた。

「さっき公園で話していた事…。お前、逃げた『影』を追って確実に殺すって…それが自分の使命だと言ってたけど…。それ本気か?」
「あぁ、そのつもりだが? 当たり前では無いか」
「それって…その『影』に取り憑かれた仲間を殺すって事か?」
「そうだな。そういう事になるな」

 オレより大分遅れてラーメンを食べきった海馬も、コクリと冷たい水を飲みながら「何を当然の事を…」と言いたそうな表情でそう答える。その顔に浮かぶ意志の強さは本物だけど、オレはさっき聞いた話が少し…いや大分引っ掛かっていた。

「でもさ…」

 聞きたくは無い。聞くと何か怖いような気がしたから。でもちゃんと聞かなくちゃダメなような気がして、思い切って聞いてみる事にした。

「お前言ってたじゃん…。その『影』は宿主を殺した相手に取り憑くって。それってさ…その仲間を殺しちまったら、今度はお前が取り憑かれるって事なんじゃねーの?」
「………」
「それじゃ…元の木阿弥っていうか…何の意味も無いんじゃねーのか?」

 オレの言葉に、海馬は暫く考え込んでいるようだった。でも次の瞬間、グラスの中に入っていた水を一気に飲み干して、海馬は何かを決意したような顔をして言い放った。

「それでも…オレはやらなければならん」
「でも…そんな…」
「対策は考えている。上手く行けば何とかなる。少なくてもこちらの世界に被害を出すような事だけはしないから、安心しろ」
「そ…そんな事言ってるんじゃねーよ!!」

 一気に感情が高ぶって、オレは椅子を蹴って立上がると両手で思いっきりテーブルを叩いた。バンッという大きな音がして、空のグラスが一瞬浮き上がってカタンと倒れる。本気でビックリしたように目を瞠っている海馬を見ながら、オレは怒っているのか悲しいのか情けないのか、良く分からない複雑な感情のまま震える声を出した。

「オレが心配なのは…お前の事なんだよ、海馬。そんな酷い怪我をしてまで、やらなくちゃいけない事なのか? だって本当は何人もの仲間と一緒にやらなくちゃいけない仕事だったんだろ? それが今はたった一人で…。しかも仲間を殺さなくちゃいけないなんて…」
「………」
「しかもその仲間…結構強い能力持ってそうじゃんか。だからお前もその能力で、そんな怪我を負ったんだろ?」
「………あぁ…そうだな」
「一人じゃ無理だ…。誰か…他の仲間が来るまで待ってるのも手だと思うぞ」
「そんなにグズグズしてはいられない!」
「でもお前…っ」
「あの『影』は、殺人狂だ!!」
「えっ…!?」

 テーブルを挟んで睨み合っていたオレ達は、海馬の一言で一気に静まり返った。シンとした空気が、団地の小さな台所を支配する。

「あの『影』は…宿主を殺人狂にする。取り憑かれた者は殺人を犯す事で、快楽を感じるようになるのだ」
「なっ…」
「狡賢くて…とても巧妙な罠を張る汚い『影』だ。『影』は宿主を操り、次々と殺人を犯していく。その所為でオレ達の世界では何人もの犠牲者が出た。その上逃げるのも上手く、なかなか捕まえられなかったのだ」
「っ………」
「それをやっと退治できると思ったら…この有様だ。しかも取り憑かれた能力者はかなりの手練れ。そんな奴が超能力の存在しない『この世界』で暴れ回ってみろ。恐ろしい事になるぞ」
「あっ…!」

 そうだ…そうだった。海馬の話にのめり込んでたから忘れ掛けてたけど、オレの住む世界はそんな超能力なんて何一つ無い世界だった。つまりそんな奴が暴れ回っても、こっちの世界ではそれを止められる人間なんて存在しないって事なんだ。

「そうか…。結局は…お前に頼るしか無いって事なのか…」

 ガックリ項垂れて力無くそう呟いたら、テーブルの向こうから白い右手が伸びてきた。細くて少し冷たくて…消毒薬臭い掌で頬を包まれて、それに促されるように視線を上げる。目に入ってきた海馬の顔は、少し困ったように…だけど強い意志を宿して微笑んでいた。

「心配するな、城之内。対策は考えていると…言っただろう?」
「でも…そんな大怪我して…」
「大丈夫だ。明日になったらまたヒーリング能力が使えるようになるし、この家を拠点にして少しずつ探索していくから…」
「………」
「無理はしない。約束する。でもこれは…オレがやらなければならない事なのだ。それだけは分かってくれ…城之内」

 強く響く海馬の言葉に、オレは黙って頷く事しか出来無かった。

足が筋肉痛でパンパンだぜ...!

| コメント(0)

疲れが溜まってる二礼です、こんばんは。

何か久しぶりに口内炎が出来てて、それが気になって仕方ありません…w
本当は下手に弄っちゃいけないんでしょうけど、ついつい舌先でグニグニしてしまうんですよねぇ…w
まだまだ忙しい時期が続きそうですが、チョコラBBを飲んで何とか頑張りたいと思います!

そんな体調不良の三連休でしたがせっかくのお休みなので、日曜日は相棒と一緒にお出かけする事にしました。
と言っても遠出とかでは無く、電車に乗って横浜辺りをちょろっと見物って感じです。
横浜出身の私が横浜見物というのも何かオカシイ感じがしますが、逆に地元だからこそスルーしまくってた場所というのもあるんですよね~w
と言うのもですね。ついこの間、とある街情報TV番組で自分の母校(女子高校)がある街を特集してたんですよ。
それを見て「あの施設ってこういう所だったのかー」と逆に感心しながら観ていたので、じゃーついでだし久しぶりに母校にも行って来ようと、横浜の石川町近辺をお散歩する事になったんです。
坂がキツイ事でも有名な街を上がったり下がったりしながら、懐かしい場所を行ったり来たりしてました。
18番館を見学し、母校の変わり具合にビックリし、元町をぶらつき、有名な老舗のケーキ屋さんでお茶をし、横浜人形の家にも足を伸ばして、最後は中華街で夕食…と一日中歩き回る羽目に。
勿論物凄く楽しかったのですが、何せ滅茶苦茶天気が良かった上に気温が半端無くて…;
帰って来た時には、もうグッタグタでしたw
流石に体力無くなっているんですねぇ…。
一日経った今日は、下半身が筋肉痛ですよwww
でも引き籠もってばかりもいられないので、たまにこうやってお外に出る事は大事ですよね(*'-')

そんなこんなで全ての体力を使い果たしてしまったので、今日も一人グダグダしておりました…。
本当は『あの夏の日の君へ』の続きも書きたかったのですが、来週からもっと忙しくなる事も分かっていましたし、ここで無理すると余計に書けなくなると判断致しましたので、本日は日記だけの更新にさせて頂きました。
今後も思ったように更新出来無い日が続くと思いますが、どうぞご了承下さいませ。
申し訳ありませんです。

早くゆっくり落ち着けるといいのになぁ~と思いつつ、今週も頑張っていきたいと思っています(´∀`;


以下は拍手のお返事になりま~す!(゜∇゜)


>ねこま様

こんばんはです~!
拍手とコメント、どうもありがとうございました~!!(*´д`*)

大きい海馬君…可愛いですか?w
やっぱり無駄にツンツンしてなくて、ちょっと素直だからなんですかねぇ…?
一応『こちら』の海馬君よりは柔らかくしようと意識して書いているので、無意識に可愛く表現しちゃっているのかもしれませんw
それに、確かに『あちら』の海馬君は天然さんですからね~。
まだ高校生の城之内君もドッキドキになっちゃうんだと思います(´∀`)

城之内君にとって『こちら』の海馬君が一番なのは、間違い無い事なんです。
でも上手く意思の疎通が出来無くて凹んでいる時に、優しくて素直な『あちら』の海馬君に出会っちゃったので、ちょっと迷いが出ている状態なんですね。
この城之内君の迷いとか揺らぎとか、それを見ている2人の海馬の心情とかも、これからゆっくり書いていけたらいいなぁ~と思っています(*'-')
そして勿論メインテーマである『超能力』のシーンとかも、丁寧に展開していけたらな…と考えておりますv

急にリアルが忙しくなってしまって思ったような更新が出来ませんが、どうぞねこま様がお暇な時にでもゆっくり遊びに来て下さいませ~!

それでは今日はこれで失礼致します。
ではまた~(・∀・)ノシ

忙しいです...

| コメント(0)

お仕事頑張っている二礼です、こんばんは。

お仕事頑張り過ぎて、日記のネタがありません…(´∀`;
ま、まぁ…そういう日もあるって事で!!

あ、でも一つだけあった。
何か私、自分で思っていたよりもずっと営業センスがあったようです。
私がポイントカードを勧めると、殆どの人が入ってくれるんですよ。
それはそれでお店としては良いんでしょうけど、余りに入会者ホイホイしてしまったので、遂に店長から『オススメトークストップカード』を作られてしまったんです…w

ウチのポイントカードはですね、一応用紙に個人情報を記載して貰ったり、ちょろっと説明しなきゃいけない部分があるんですね。
で、一人入会希望者が出ると、店員一名がほぼ付きっきりになってしまうんです。
入会希望のお客様が一人や二人なら何の問題も無いのですが、三人も四人もなると全く身動きが取れなくなってしまうんですよ…;
なので『オススメトークストップカード』は、私が調子こいてオススメしないようにする為の緊急の措置でした…w

そんなこんなで必死こいて仕事を頑張っていますが、忙しいのはまだ暫く続きそうです…。
今回も急な更新予定の変更とかあってご迷惑お掛けしましたが、今後もこういう事があると思われます。どうぞご了承下さいませ。


長編『あの夏の日の君へ』に第五話をUPしました。
さて、別世界海馬君のうざったい説明が終わったので、今回からいよいよ物語が動き始めます。
…と言っても、まだまだ全然序盤ですけどね~w

冷たい態度しか取ってくれないこちらの海馬君と、暖かく微笑んでくれるあちらの海馬君。
その間で、揺れ動いてしまう城之内君の心をじっくり追って行きたいと思います(´∀`)
そして勿論、アチラの海馬君の大事な目的もね…。

第五話

| コメント(0)

 それまで饒舌に喋っていた海馬が黙り込み、夜の公園に再び静寂さが戻っていた。ベンチに座り込んだ海馬はただただ悔しそうに俯いている。手に持っているペットボトルは、海馬の握力によって大分その形を変えていた。
 如何にも痛々しげなその姿に息苦しくなって、オレが気付かれないようにそっと嘆息した時だった。ぐぅーーー…という盛大な音が、オレの腹から鳴った。結構大きな音で鳴ったから恥ずかしくなって、胃の辺りを擦りながら公園の中央に目を向ける。そこには時計台があるので、時間の確認が出来るんだ。

「七時半…か。そりゃぁー腹減るよなぁ…」

 恋人に相手にされなくて悲しくて苛ついても、別世界から来たという恋人そっくりの男から信じられないような話を聞いて心底驚いても、人間腹は減るものなんだ。こればっかりは仕方が無い。
 とりあえずこんな所でボーッと座っている訳にもいかないので、オレは立上がって俯いている海馬に右手を伸ばした。オレの手に気付いた海馬が視線を上げて、ちょっと小首を傾げる。その姿がとても可愛くて…とても二十四歳には見えなくて笑ってしまった。

「………何だ?」
「何だじゃねーよ。いつまでもこんな所にいる訳にはいかないだろ? そろそろ移動しねぇか? オレも腹減ったしよぉー…」

 オレの言葉に、海馬もハッと何かに気付いて自分の胃の辺りを擦った。途端にクゥ…と可愛らしい空腹音が鳴り響く。

「そうだな…。そろそろ何か食べないとな…」
「だろ? だからとりあえずオレん家行こうぜ」
「いや。お前の世話にはならない」
「………どういう意味だよ、それ」
「自分と関係の無い世界の人間に、これ以上迷惑をかける訳にはいかんだろう。自分の世話くらい自分で出来る。放っておいてくれ」

 あぁ、なるほど…。そういう意味か。
 今の海馬の言葉を聞いて、オレは自分の恋人である海馬を思い出した。
 そう言えばアイツも、こんな風にたまに言葉が足りない時があるんだよなぁ…。付き合う前はその言葉を真に受けてよく苛ついていたものだけど、付き合ってみるとその殆どが誤解だという事に気付いた。そんなところが可愛くて…愛しくて…大好きだったのに。それなのに海馬の存在はどんどん遠ざかっていくだけだ…。
 そこまで考えて、オレは慌てて首を振り、沈み掛けた自分を無理矢理上昇させた。危なかった…。昼間の一件を思い出して、危うくまた凹むところだった…。

「自分の世話くらいって言うけどさ。海馬お前…金持ってんの?」

 気を取り直してそう問い掛けてみれば、海馬は目を見開いて固まってしまった。案の定だ…。金なんて持ってる筈が無い。

「い、いや…。現金が無くてもクレジットカードならあるから…」
「そのカードをこっちの世界で使う気か? そりゃお前が持ってるって事は、本物のカードなんだろうけどさぁ。当たり前だけどこっちの世界にも『海馬瀬人』はいるんだぜ? こっちの海馬が使って無いのに、もう一人の海馬がカードなんか使ったらヤバイだろ」
「あっ…!」

 あ、やっぱりコイツ…一番大事な事を忘れてたな。

「それにお前もKCの社長だから分かるだろうけど、この童実野町では『海馬瀬人』という人間はある種の有名人なんだ。そんな有名人にそっくりなお前がフラフラと出歩いたら…どうなるか分かるよな?」
「っ………!」
「ホテルは元より、海馬邸なんて行けないだろ。モクバだってビックリしちまう。だったら…事情を知るオレの家しか行く所は無いよな?」
「し…しかし、貴様の家には父親がいるのでは無いか?」
「ん? あぁ、大丈夫だよ。親父は来週一杯まで知り合いの塗装業の所で仕事してくるってさ。十日くらいは誰もいない」

 その話は本当だった。親父は酒を飲むととことんダメな人間になるが、最近はそんな自分を反省したらしく、よく真面目に働くようになった。知り合いに塗装業の会社を営んでいる人がいて、その人に頼んでちょくちょく仕事に出掛けるようになっていたんだ。
 勿論完全に酒断ち出来た訳じゃ無い。そこら辺は残念なんだけど、以前より暴れる回数が減っているのも確かだ。親父が自分で立ち直ろうとしているのが目に見えるので、オレもその事には何も口出ししないようにしている。給料が良いとか悪いとかは今は全く関係無いし、そんなものは後回しだ。要は親父が自分の力で立ち直れれば、それでいい。

「ウチの親父さ、最近真面目に働いてるんだぜ。お陰で家も荒れてないし、結構綺麗なんだ。狭い団地の部屋だけど、お前に嫌な思いはさせないよ」
「だ…だが…」
「断わるのは勝手だけど、でもお前…他に行く所あるの? まさか野宿するつもりか? その怪我で?」
「っう………」
「行く所…無いだろ? だったら素直にオレの家に来いよ。な?」

 海馬はオレの言葉に心底悩んでいるようだった。そんな海馬の葛藤を見ながら、オレはオレで必死だった。
 恋人として付き合い始めたはいいものの、海馬は全くオレに打ち解けてくれない…。会話してても、素直な受け答えなんて一度もしてくれた事は無い。明らかにオレを避ける態度を続け、なるべく遠くへと離れていく。これだったらまだ付き合う以前の方が、自然な関係を築けていたような気がする。
 どうしてなんだろう…。そんなにオレの事が嫌なんだろうか。そこまで嫌いなら…最初から告白を受け止めなければ良かったのに。
 そんな悲しい想いで胸を一杯にしながら、オレは必死で目の前の海馬に手を伸ばした。せめてこの海馬がこの手を取ってくれたら、何かが変わりそうな気がして。

「………分かった」

 どのくらい時間が経っただろうか…。海馬が小さくそう言い放って、差し出したオレの右手に自分の掌をそっと載せてきた。冷たい指先がキュッとオレの手を掴む。

「迷惑を掛けるが…宜しく頼む」

 少し困ったように微笑んで告げられた一言に、オレは笑顔で大きく頷いて応えた。



 夜道を二人で歩いて自宅に辿り着いた時には、もう夜の八時を回っていた。オレの腹はグーグー鳴ってるし、それにつられたかのように海馬の腹もクゥクゥ鳴っていた。とりあえず飯の準備をしないとなーと思って電気を付けた途端、電話が大きく鳴って思わずビクリと跳ね上がる。
 な…何なんだよ…。タイミング良過ぎだろ…。

「は…はい…もしもし?」

 恐る恐る電話を取ってみれば、何の事は無い…親父からの電話だった。

『おう、克也か?』
「何だ…親父かよ。何? また仕事で失敗した?」
『何だとは何だ! それに失敗なんてしてねぇよ! 失礼な奴だなぁ…てめぇは』
「あはは、悪かったって。ただの冗談だよ。で? 何?」
『あーそうそう。実はな、今世話になってる所でな、ちょっとデッカイ仕事が入ったんだよ』

 今世話になってる所とは、例の知り合いの塗装業の会社だ。

『社長がオレにも協力して欲しいって言うからよぉー、せっかくだから行ってくるわ』
「へ? 行くって…どこへ?」
『ちょっくら地方になー! 一ヶ月は帰らないからそのつもりでいろよー。てめぇも勝手にやれや』
「え? ちょっと…親父!? 親父ぃーっ!?」

 親父は好き勝手にほざいて、勝手に電話を切ってしまった。気が付いたら受話器から聞こえるのはツーツー…という電子音だけで、突然の事態にオレは呆然としてしまう。だけど次の瞬間には、オレはそれを幸運だと捉えていた。受話器を元に戻し、未だ玄関で所在なさげに突っ立っている海馬の方に振り向いて告げる。

「あのな。親父、一ヶ月は帰って来ないって。だからお前、ウチでゆっくりしろよ」

 オレの言葉に海馬は目を大きくして、何度もパチパチと瞬きを繰り返していた。

「それは…どういう事だ?」
「何か予定外の仕事が入ったんだと。こっちにしてみれば助かるし、親父も真面目に仕事してるようでオレも安心だ。良かったな、海馬」

 そう言って笑いかけてやれば、海馬は戸惑ったようにコクリと頷いた。そしてじっと自分の足元を見る。
 海馬の視線を追いかけてオレも足元を見れば、その足が随分土や泥や血等で汚れているのが目に入ってきた。あぁ…なるほど。だからさっきから玄関に突っ立って入って来なかったんだな。

「床は後で拭いといてやるから、とりあえず風呂入って来な。いくらウチでもシャワーくらい使えるからさ」
「だが…」
「いいからって。あ、ウチの風呂の使い方…分かるか? ていうか、風呂の場所が分からないか…」
「いや、知っている」

 知っている…とハッキリ言うと、海馬は靴を脱いで更にその場で汚れた靴下を脱いだ。そして裸足のままペタペタと風呂場の方へ消えていく。その後ろ姿に「汚れた服は洗濯機に入れておけばいいから」なんて声を掛けながら、オレはちょっとした疑問を感じていた。
 初めて来たオレん家で、どうして風呂場の場所を知っているんだ…? と考えて、次の瞬間には「あぁ、そうだった…」と考えを改める。
 さっきこの海馬がしていた話の内容だと、向こうの海馬とオレは高校生の頃から付き合っていたらしい。そう、まさに今のオレ達みたく。だったら海馬が『オレ』の家に遊びに来る事もあっただろうし、何て言うか…その、やる事やってれば風呂場を借りる事もあったんだろう。
 そこまで考えて、オレは深く深く溜息を吐いた。
 あの海馬の話、聞いているだけでも向こうの海馬とオレは凄く仲良さそうだって思った。それはもう一人のオレの事を話す海馬の顔が、とても幸せそうだった事もある。不幸な結末に至っていたら、あんな幸せそうな顔は出来無い。

「羨ましいよな…」

 ポツリと…極自然に言葉が漏れ出た。
 似たような世界。だけど違う世界。向こうの海馬とオレは物凄く幸せそうなのに、どうしてオレ達はすれ違いばっかりなんだろうと考えて、酷く虚しくなってきてしまった。ただどんなに気分が落ち込んでも、空腹感は感じてしまう訳で…。グゥーーー…と盛大になる胃を擦りつつ、オレは簡単な夕食を作る為に準備を始めた。



 それからどれくらい時間が経っただろうか。ガチャリと風呂場のドアが開く音で、オレはバスタオルを用意していない事を思い出した。「あー! ゴメン! ちょっと待ってて!!」と叫び、慌てて綺麗なバスタオルをひっ掴んで風呂場に向かう。そのまま風呂場の影に佇む海馬に手にしたバスタオルを手渡そうとして…だけど驚いて固まってしまった。
 海馬の身体は、まだあちこちが傷だらけだった。夜の公園で見た時はある程度治っていると思ったのに、明るい電気の下で見ると、未だあちこちにいくつもの傷がある事が分かる。特に左腕に火傷は大分マシになっていたものの、まだ全然完治していなかった。
 まぁ…確かにそれもオレが驚く理由にはなるだろうけど、オレが固まった本当の理由はその事じゃない。オレが本当に驚いた理由…、それは海馬の肌の美しさだ。
 うっすら青く見える程の真っ白い肌。その肌に浮かぶ多数の赤い傷痕。肌に浮いた汗やお湯の水滴が玉のように浮かんでいて、それらが滑らかな肌をつつーっと流れていく様は…もう何とも言えなかった。
 しっとりと濡れた栗色の髪。紅潮した頬に潤んだ青い瞳。濡れた身体…。耐えきれずに身体の芯が熱くなってきたところで「城之内…?」と名前を呼ばれた。

「あっ…! ゴ、ゴメン!! コレ使ってくれ。洗ったばかりで綺麗だから…!!」

 名前を呼ばれてハッと我に返って、オレは慌ててバスタオルを手渡す。くすぶり掛けてた熱も、一気に引いていくのが分かった。
 あ、危ない…。オレは今…一体何を考えていた? 確かにコイツは海馬だけど、オレの恋人の海馬じゃない。コイツは…別の『オレ』の海馬なんだ。しっかりしろ…!! お前の海馬は…今アメリカに向かっている途中の筈だ!!
 何度か大きく深呼吸を繰り返し、オレは改めて大人の海馬の身体をじっくりと見てみた。やっぱりというか何て言うか…その身体は酷く傷だらけだ。

「何だ…。まだ全然塞がって無いじゃんか」

 火傷を負った左腕をよく見る為に、傷の無い手首を掴んで目の高さにまで持ち上げた。真っ赤になっている傷痕が痛々しい。

「先程も話したが、オレのヒーリング能力は後から付け足した物なのだ。重傷を軽傷程度にまでする事は出来るが…完治させることは出来無い」
「超能力も完璧じゃ無ぇんだなぁ…」
「そうだな」

 オレの言葉に海馬はふっ…と目を細めて微笑んだ。その笑顔が余りに綺麗で、オレはついつい見惚れてしまいそうになる。だけど今はそんな事をしている場合では無いので、慌てて首を振って左腕の火傷に視線を戻した。

「それにしてもさ…これじゃ痛いだろ? 他にも一杯傷あるし…。手当してやるからこっちに来な」
「城之内…」
「お前も知ってるだろうけど、オレ結構傷の手当て上手いんだぜ。着替えは後で用意してやるから、とりあえずこっちが先決だ」

 今度もまた迷うかなーとか思ったけど、意外な事に海馬はすんなりと頷いて応えてくれた。そしてバスタオルを羽織ったまま、オレに手を引かれて素直にリビングにまで移動してくれる。
 風呂に入ったばかりでほんのり温かい手を強く握り締めながら、オレは何だか胸のドキドキが止まらなかった。

ストレス掛かると胃が痛くなるよね~?

| コメント(0)

ストレス満載の二礼です、こんばんは。

自分では結構大丈夫だと思っていたのですが、実はストレス満載だったらしいです。

先週末から、私が努めている本屋さんでポイントカードが導入される事になりました。
ポイントカードは9日(金)に始まって、私は10日(土)に昼の12時から夕方の18時までのシフトで入る事になっていたんです。
どうせ本屋のポイントカードだし大した事は無いだろうと高を括っていたら…。それが予想外の大反響!!
いつもはただレジを打っているだけで良いのですが、『一応』店の方針でお客様にポイントカードをお勧めしなくてはなりません。
それで仕方なく「ご利用如何ですか~?」なんて勧めていたら、予想外に入るわ入るわ…。入会者数がエライ事になりました。
多分土曜日だったってのもあったんでしょうが、前日比の1.5倍ですよ!! 1.5倍!!
いつもは人が少なくなる夕方になっても、ポイントカードラッシュは収まらず…;
普段は残業やシフト変更が大嫌いな私も、流石に無視出来るような状況ではありませんでした。
思わず店長に「私本当に18時で帰って大丈夫なんですか!? 物凄く 不 安 なんですけど!!」と訴えたぐらいの激務でしたからね…(´∀`;
結局なんやかんやで19時過ぎまで残業して、ヘトヘトになって帰って参りました。

で、それはそれで何とかなったんで、その日の夜は早くに就寝したのですが…。
次の日の早朝4時頃。何だかとても痛い夢を見て目を覚ましました。
暫くは寝惚けて「何でこんなに痛い夢を見るんだ…」と思っていたのですが、その痛みは夢では無くて現実の物でしてね…。
もう何て言うか、近年久しく味わってない位の激しい胃痛が私を襲っていたのです…w
胃が痛すぎて吐き気すらする始末。早朝だと言うのに何度もトイレと布団を往復し、水を飲んでウンウン唸っておりました。
結局その日は朝の6時頃まで胃痛に悩まされ、それからようやっとウトウト出来る始末…。
何か自分が思っていた以上に、ストレスが掛かっていたらしいです。

ちなみに…。
ポイントカードラッシュはこれからもまだ続きます…w
シフトもガッツリ入っているので、7月中は思うような更新が出来無いかもしれませんが、どうぞご了承下さいませ~!


そんな胃痛に悩まされた日曜日でございましたが、選挙に行った後はいつも通りにSAIの勉強をしておりました。
散たんが以前に描いていた『洗脳城之内君』を私も線画からやらせて貰って、自分なりに色を塗ってみました~!
健康的に洗脳とかいう訳の分からないテーマを勝手に掲げ、塗り塗りしてみた結果がコレです!!↓

sen_jo_s.jpg

何て言うか…洗脳というよりは普通の不良城之内君ですよね…(´∀`;
背景も微妙にゼ○ギアスだし…w(知ってる人…いますか?w 名作ゲームなんですよ~! Disk1まではね!!)
でもまぁ…こういうのも有りって事で、一つ宜しく!!


長編『あの夏の日の君へ』に第四話をUPしました。
これで漸く別世界海馬君の説明ターンは終了かな~?
海馬の目的が明らかになったところで、やっと次回から本編に入れます…。
長かったなぁ…ホントにw
無駄に凝った設定を作るとすぐコレだ。
でもまぁ…これが二礼の長編の特徴なので、諦めて下さいませw

説明ターンの場合、書く方も読む方も途中で飽きちゃうんですよね~。
それはやっぱり目立った動きが全く無いからだと思います。
そこら辺を飽きさせずにどう進めるかっていうのが文字書きの腕の見せ所だと思うのですが…。
何にせよ、やっぱりまだまだ勉強しなければいけないなぁ~と思う次第でございます。
が…頑張るわ…私…w


以下は拍手のお返事になりますです~(*´д`*)


>ねこま様

こんばんは~! お久しぶりで~す!!
拍手とコメント、どうもありがとうございました~!(´∀`)

モク誕企画の七夕小説を読んで下さって、ありがとうございますv
賛否両論色々あるでしょうが、あのモクバが二礼の理想のモクバ=つまりウチのモクバの在り方…という事になるんですよ~!
年の割には大人で賢くて頼りになって、それでいて兄サマが大好きなモクバ。
弟として兄サマと城之内の幸せを心から祈っているような…そんなモクバの理想像を形にしてみたくて、頑張ってあの小説を書いてみました。
モク瀬人が好きな人達から見たらチョット物足りないモクバだとは思いますが、二礼のモクバはあくまで『弟』としてのモクバなんですよねぇ~。
多分私が、自分の実の弟と重ねて見ているからだとは思いますが…w
そんなウチのモクバを「いい子」と言って下さって、本当にありがとうございます(*´∀`*) 凄く嬉しかったです~!
これからもこんな幸せな城海を目指して、色々と小説を書いていこうと思っています!
お暇な時にでも、ゆるりと遊びに来て下さいませ~!

それでは今日はこれで失礼致します。
ではまた~(・∀・)ノシ

第四話

| コメント(0)

 闇夜に包まれた夜の公園。その一角に置いてあるベンチで、自分と少し年上の海馬が並んで座っている。それだけでも異様な光景だというのに、この海馬は何とこの世界とは違う世界から来たというのだから驚きだ。
 普通だったら全く信用出来ないお伽噺。だけどオレは、この海馬の話を心の底から信じていた。別にオレが特別思い込みの激しい性格だからとか、ただの馬鹿だからって訳じゃない。何というか…説明が難しいんだけど、本能で信じられたんだ。目の前にいるオレよりちょっと年上のこの海馬の話は嘘じゃないって…そう思えた。
 海馬の口から出る荒唐無稽な話に、オレは必死に耳を傾ける。そんなオレに微笑みかけながら、海馬はもう大分ぬるくなった水を一口ずつ飲みながら、ポツリポツリと喋り始めた。

「貴様が信じようが信じられまいが、そんな事は関係無いがな…。これから話す事は事実だ」
「う…うん…」
「オレがいた世界ではな、人の心に住んでいる悪意が形を成しているのだ」
「悪意…?」
「そう。嫉み…嫉妬…憎しみ…怒り…。そういう物が少なからず目で見える形になっている。それらは人の心に住み、人間に悪影響を与えるのだ」
「え…? でもそういうのって、誰でも持ってたりしないか?」

 オレが海馬の話を聞いて疑問に思った事を口にすると、隣の海馬はニヤリと笑った。まるでオレの問いかけを待っていたかのように。

「そうだ。そういうマイナスの気持ちは、普通は皆持っているものだ。だから小さな悪意などは全く問題が無い。その人物が反省をしたり心を入れ替えたりすれば、そんなものはあっという間に消えて無くなっていく。こっちの世界の人間だって…そうだろう?」

 海馬の言葉に、オレは黙ってコクリと頷いた。
 母親に捨てられ、アル中の父親に暴力を振われ、どうにもならない家庭環境への怒りで荒れに荒れた中学時代。高校に入って遊戯に出会って…そしてオレは友情の大切さに目覚めた。遊戯と行動を共にする内に怒りを忘れ…そして海馬に出会って愛を知ったんだ。だからこの海馬の言う事は、凄く分かるし理解出来る。
 納得したという意味を込めてじっと海馬を見詰めれば、隣に座っている年上の海馬も優しい笑みでコクリと頷き返してくれた。そして再び話し出す。

「人の心に住む悪意は、大概がそんな風に小さな物ばかりだ。ただたまに、途轍もなく大きく成長した物が出てくる。そういう悪意を心に住まわせている人間は、物や人を傷付けたり、手遅れになると殺人を犯したり自殺したりする。ここまでは理解出来るか?」
「うん。何となく分かる」

 海馬の言葉にオレは頷いた。そう言えばそういう酷い事をやらかす人間って、やっぱりどこか病んでるんじゃないかって思うもんな…。多分この海馬が言っている事は、その病んでいる原因が形のある悪意だって言いたいんだろう。
 確信に満ちたオレの目を見て、海馬はまた口を開いた。

「そういう大きな悪意は、まるで影のような姿をしている。真っ黒で…形が定まって無くて…まさに影そのものなのだ。だから我々はそれを『影』と呼んでいる」

 そこまで話を続けた海馬はふぅ…と大きな溜息を吐き、じっと夜空を見上げていた。オレは話の続きが気になっていたけど、とてもじゃないけど「続きは?」なんて促す事は出来無かった。それ程までに隣の海馬の表情は思い詰めていたから…。
 暫くして、海馬はペットボトルの水をまた少し飲んで、言葉を放ち始めた。

「影はな、物理攻撃では消えないのだ。どんなに鋭いナイフでも切れないし、どんなに重い鎚でも潰れない。大袈裟な事を言えば最新式の兵器でも壊す事は出来無い。影を消滅させるにはアストラル体による武器…つまり超能力しか無いのだ」

 そう言って海馬は、右手をズイッと前に突き出した。そうして何かを小さく呟くと、右手の周りに青白い光が漂い始める。その光はさっき火傷を治していた優しい光と違ってもっと明るくて眩くて…何て言うか凄く攻撃的な光だった。
 右手を覆うように光っていたその光はあっという間に収縮し、やがて一本の片手剣の形となって海馬の右手に握られていた。

「凄ぇ…っ!」

 本気で感動してそう呟いたら、海馬はほんの少しだけ得意そうな顔をして口を開く。

「これがオレの一番得意な力だ。オレは光を集めて武器にする事が出来る。これで影を滅するのだ」
「もしかして…それが本当の仕事なのか?」

 オレの質問に海馬はフッ…と微笑んだ。そしてベンチから立上がって、掲げた剣を夜空に一振りする。キラキラと軌跡を描いて輝く青白い光がとても綺麗だった。その光に見惚れている内に海馬は剣を消してしまい、オレの方に振り返り「そうだ」と一言で答える。

「さっき、超能力を持って生まれる者は約一万人に一人だと教えただろう? 超能力を持って生まれて来る者自体が希少な上に、更に影を滅せるとなると少なくてもDランク以上は無いと無理だ。そんな貴重な存在を…政府が無駄に野放しにしておくと思うか?」

 海馬の問い掛けにオレは首を横に振る事で答えた。それくらい、馬鹿なオレでも理解出来る。
 もしこの世界でも人の悪意を消滅させる事が出来るなら…誰だってそうしたいと望むだろう。ましてやそれが出来る人が限られているなら尚更だ。

「各政府で独自の機関があるが、どこも同じような物だ。Dランク以上の能力者を集めて、大きく成長した影を滅する為の組織を作るのだ。まぁ…影専門の警察みたいなものか」
「海馬…。お前もその組織に?」
「あぁ、そうだ。殆どの人間がその仕事一本で頑張っているが、たまにオレみたいに兼業でやっている者もいるがな」
「兼業って…。つまり海馬コーポレーションの社長業…?」
「そうだが?」
「ははっ…。やっぱりお前も社長なのかよ…」

 何を当たり前の事を言っているんだと言うようなキョトンとした海馬の顔に、オレはつい笑ってしまった。こういうところは本当にこっちの海馬と変わらないっていうか…同じなんだよな。だからオレはコイツを『海馬瀬人』だと認められたし、他の世界から来たというお伽噺にも素直に信じられたんだ。だって海馬の言う事はいつも真実のみだから。嘘は言わないし、SFとかファンタジーとかの非ィ科学的な話なんて以ての外だ。
 クスクスと笑うオレを不信そうに見詰めて来る海馬に「ゴメンゴメン」と謝って、オレは姿勢を正した。ここまでの海馬の話は良く分かったけど、一つだけ浮かんで来た疑問を無視する事は出来無かったんだ。

「あのさ、一つ質問していい?」

 オレの言葉に海馬が首を傾げ、そして「何だ?」と言い返してくる。

「お前が悪意とか影とか、そういう訳の分からない物を倒す仕事をしているのは分かった。でもそれってあっちの世界の話だろ? 何でお前…今ここにいるの?」

 確かに似たような世界であっても、こっちの世界では人の悪意は形にはならない。いや、実は形はあるけど自分達がそれに気付いて無いだけなのかもしれないけどな。でも、少なくてもこの世界にはそんな組織は無い。いくら夢みたいな超能力者集団だからといって、こっちの世界の悪意まで倒しに来るってのは…有り得ない話だと思ったんだ。
 質問をしてじっと海馬の顔を見詰めていたら、海馬も至極真面目な目をしてオレの事を見ている。そして「そうだ。それが本題だ…」と呟いた。「また少し…回りくどい話になるが良いか?」と聞いてきたので、オレはそれに「いいよ」と肯定の答えを返しながら頷く。
 海馬は再びこちらに歩いて来て、ベンチに腰掛けて話し始めた。

「今から一ヶ月程前の話だ。オレ達がいる部署に、随分と大物で性質が悪い影の情報が入って来た。こう言っては何だが、オレはその部署ではかなり腕の立つ能力者の内の一人だからな…。オレとオレの師にその仕事が任される事になった」
「し………?」
「師匠の事だ」
「えっ!? お前師匠とかいるの!? ていうか修行とかしてたの!? 信じらんねぇーっ!!」

 意外な一言にオレは心底驚いて、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。その声に海馬は一瞬ムッと眉を顰めたけど、次の瞬間にはまるで何かの悪戯を思い付いたかのような顔して、クスリと笑みを零していた。
 あ…と、オレは何か嫌な予感がして身を固くしてしまう。海馬がこんな顔をしている時は、大概良からぬ事を考えている証拠なんだ。

「何だ? オレに師がいては、何かおかしいのか?」

 海馬の言葉にオレは「う………」と口籠もる。だって全く想像出来ないじゃん…。あの海馬が誰かに師事して、真面目に修行をしてるなんてさ…。
 オレの内心を読み取ったかのように、海馬は面白そうにクスクスとただ笑っていた。

「あのな、城之内。オレの世界では確かに超能力者は先天性だとは言ったが、その能力が開花するのは個人差があるのだ。赤ん坊の頃から目覚めている人間なんか早々おらず、大体が思春期に目覚める。オレが目覚めたのはもっと遅くて…高校生の頃だった」
「え? そうなの…?」
「そうだ。更に言えば、オレは自分の能力に全く気付いていなかった。そんなオレの隠れた能力に気付いたのが、当時クラスメートでありオレの恋人でもあった…ある男だった」
「………は?」
「その男はな。この世界では珍しく、随分子供の頃から能力に目覚めている奴だった。何でも幼い頃に両親が離婚し、アル中の親父に殴られている内に、自分の身を守る為に能力が開花したとか…言っていたな」
「え? え? えぇっ!?」
「そいつがな、オレを目覚めさせたのだ。オレに対して『自分の能力に気付くべき』だとか『その力をもっと役立てるべき』だとか色々言ってな。そして自分と一緒に人の心に巣くう影を退治しないかと、そう勧めてきたのだ」
「なっ…ん…!? そ、そいつって…っ!」
「ランクSS+(ダブルエスプラス)。史上最強の炎使い。名前を『城之内克也』という」

 驚きに目を瞠るオレの前で、年上の海馬は面白そうにニヤリと笑って、もう一人のオレの名前を呟いた。

「オ…オレ…!?」
「そうだ。もう一人の…お前だ」

 海馬は途端に得意げになって、唇の端をついっと上げて笑っていた。
 あ…その顔はオレも良く知っている。海馬が自慢げに話をしている時によくしている表情だ。

「城之内はオレの恋人であり…オレの師だ。遅くに目覚めたオレの為に、城之内は付きっきりで能力の使い方を教えてくれて、夜遅くまで練習や検査に付き合ってくれた事もあった。ともかくオレが能力者として仕事が出来るようになったのは、あの城之内のお陰なのだ」

 そう言って海馬は、自分の右手をじっと見詰めた。すると右手が青白く輝き始める。先程剣を作った時のように眩い光では無いけれど、青白い美しい光がまるで蛍のように海馬の右手の周りを飛んでいた。

「先程カードを見せた時に言ったが、オレのランクはAAA+だ。ただ能力的には既にSクラスだと言われている。経験が少ないのがAランク止まりの理由だったのだ。だからこの仕事が舞い込んで来た時に、組織の幹部から『この影の仕事が無事に済めば、Sクラスに格上げだ』と言われて、オレは漸くチャンスがやって来たと思って自然と気合いが入っていた」

 海馬は喋り続けながら、ふいっと右手を振ってみせた。夜の闇の中で青白い光が、まるで花火のように煌めいて散っていく。

「その話を聞いて、絶対に失敗は出来無いと思った。勿論オレの師である城之内も同じように思っていて、二人でその仕事を成功させる事を決意したのだ。相手が近年稀に見る大物だという事で、オレや城之内の他にもエース級の能力者が何人か協力して捜査に当たり、そして今から二時間程前…ついにその影を追い詰める事に成功したのだ。だが…」

 そこまで一気に話して、海馬の言葉は突然止まってしまった。今までの話を真面目に聞いていたオレには何となく続きが分かっていた。つまり海馬や向こうの世界のオレ達は…その影を逃がしてしまったに違い無い。試しに「逃がしたのか?」と尋ねると、海馬が真面目な顔をしてコクリと頷く。オレはやっぱりな…と小さく息を吐き出した。

「ただ逃げたのだったら、ここまで大騒ぎになる事は無かった。再び追い詰めて、今度こそ仕留めればそれで良いのだから…」
「でも…そうはいかない事態が起きたんだな?」
「………あぁ。その影は事もあろうに…宿主であった人間を見捨てて、仲間の一人に乗り移った」
「え…? えっ!?」
「確かに…おかしいとは思ったのだ。仕事を請け負った時に貰った資料によると、この影は点々と宿主を変えて生きている。しかも今までその影に乗っ取られていた者は、例外なく死を迎えている。オレ達は宿主が死ぬと自分も生きていられないから、死んだ後に新しい人間に憑依していると考えていたのだが…」
「それが…違った?」
「半分は当たっていたのだろう。だがもう半分は少し違っていた。オレ達は誤解していたのだ。その影は…『宿主を殺した相手』に取り憑くという習性を持っていたのだ…」
「こ、殺したって…」

 流石に『殺す』なんて単語が出てくれば、オレだってビビる。ましてや海馬はさっき、その影は仲間の一人に乗り移ったと言っていた。という事は…だ。

「余りに深く影に支配されている場合、やむなく宿主を殺さなくてはいけない場合があるのだ」

 海馬はオレの顔を見詰めながら、淡々と言い放った。

「今回も宿主の救出は不可能だと判断された。だから仲間の一人が宿主の命ごと、その影を滅しようとしたのだ。そうしたら…その影は宿主の命が尽きる瞬間、宿主の身体から飛び出して自分を殺そうとした能力者に憑依した」
「………っ!!」
「困った事にその能力者は、かなりの力の持ち主だった。影に憑依された能力者は自らの時空間移動の力を使って、別世界…つまり超能力者がいないこの世界に逃げようとしたのだ。オレはそれに即座に気付き、新しい宿主が影ごと逃げる前にその腕を捕らえる事に成功した。そして閉じられる寸前の時空移動空間に一緒に飛び込んだのだ…」
「………」
「夢物語だと思うか? だが事実だ。こっちの世界に辿り着いて、オレはすぐにでも影を滅しようとした。だが結果は…見ての通りだ。オレは奴の能力で大怪我を負って、影は能力者の身体を操って…逃げてしまった」
「海馬…」
「オレは必ず奴を探し出さなければいけない。そして今度は確実に殺さなければならない…。それがオレの…使命だから」

 海馬はそう言って、もう殆ど空になったミネラルウォーターのペットボトルを両手で強く握り締める。ペキペキというプラスチックが歪む音を聞きながら、オレは今度こそ本当に信じられない気持ちで、苦痛に歪む海馬の顔を黙って見詰める事しか出来無かった…。

モクバ、御誕生日おめでとう~!

| コメント(0)

今年も何気にモク誕参加の二礼です、こんばんは。

一日遅れてるけどねーw
でもウチは更新予定日ってのがあるので、仕方無いよね~?
そう! 仕方無いのです!!
なんて言い訳しつつも、頑張って書いたので見逃して下さい…w

それにしても天の神様は意地悪ですよね…。
関東地方では、7日の昨夜は雨。一日空けた8日の今日はとても良いお天気でした…w
どんだけ織姫と彦星を会わせたく無いんだと小一時間…;
でもよく考えたら、天の川は雲の上ですからね~。
雨とか関係無く二人は会えているのではないでしょうか?
そうじゃなかったら、天帝酷過ぎるって話になるんですけどねwww
大体二人が自由に会えなくなったのも、この天帝様の所為であってですね…。
自分がお見合いさせて結婚させた癖に、ラブラブ過ぎて仕事が滞るから会えるのは年一回とか、どういう事よ?
天帝やりたい放題過ぎ!!www
これで「今年は雨で会えませんでしたー」じゃ余りに可哀想過ぎるので、やっぱり晴れ雨関係無く会えて欲しいです。
そんなロマンチックな事を考える七夕の二礼でした。


あ、そうだー。
実はですね、二礼が働いている本屋さんの業務がガラリと変わる事になってですね…。
その余波で、7月は全く予定が読めなくなりました。
一応更新予定には逐一書いていくつもりですが、突然仕事が入ったりして更新を休む事も出てくると思います。
その辺りはどうぞご了承下さいませ~。

………ていうか今月…土曜出勤2回もあるの…;
めんどくさぁ~~~い!!


上記にもありますが、モク誕として短編に『貴方とあの人を繋ぐ橋Ⅱ』をUPしました。
去年と同じくらいの長さにするつもりだったのですが…思ったより長くなってしまいました…w
ま、いっか!

実は二礼、モクバの一人称がとても書きやすいのです!!
だってモクバは私と同じO型ですからね~(´∀`)
普段は海馬(A型)と城之内(B型)ばかり書いているのでこういう風に感じる事は無いのですが、たまにモクバの目線で小説を書くと、やっぱりやりやすいな~って思います。

モクバ可愛いよね~!
あんな感じで城海の応援を全力でするモクバが、二礼の理想のモクバだったりするんですw
ホント出来た弟だよ…w

貴方とあの人を繋ぐ橋Ⅱ

| コメント(0)

城之内×海馬前提のモクバ一人称。
貴方とあの人を繋ぐ橋』の続編になります。
去年のモク誕に引き続いて、恋人同士である城海を応援するモクバの物語です。
二礼のモクバの理想像は、こんな子ですよ~w

 




 真っ暗になった部屋の中、同じベッドの中に兄サマの温もりを感じる。未だ眠れずゴソゴソと動いて「ふぅ…」と深く息を吐く兄サマに、オレは「ねぇ…兄サマ」と話しかけた。

「これでいいの?」

 そう問い掛ければ、沈黙が返って来る。

「本当は城之内と一緒にいたいんじゃないの?」
「………」
「オレも子供じゃ無くなったんだし…。いくら兄弟でもこういうのオカシイよね。兄サマだってそう思ってるんでしょ?」
「………」
「やっぱりさぁ…城之内にはハッキリ言わないと。そうじゃないと分からないんだと思うよ。明日…二人でちゃんとそう言おうね」
「それが…あいつを傷付けるとしてもか?」
「兄サマ…」
「アレは奴の…城之内なりの優しさだ」
「うん。それはオレも知ってるよ。でもさ…兄サマももう限界でしょ?」
「っ………」
「大丈夫。オレもちゃんと分かってるから。だってオレだって限界だもん」

 暫くの無言の後、暗闇の中で兄サマが首を縦に振った気配が伝わって来て、オレは漸く安心した。



 今年も七月七日がやって来た。言わずと知れたオレの誕生日だ。いつも通り城之内が美味しい料理を作ってくれて、その料理やケーキを囲んで三人で小さな誕生日パーティーを開く。それが毎年の恒例だった。そんな恒例行事も今年で四回目。オレは今、中学生最後の誕生日を迎えようとしている。
 兄サマと城之内が恋人同士になってからは、オレも大人になって色んな事を我慢するようになった。最初はやっぱり辛いなーと思ってた事も、その内兄サマや城之内の幸せそうな笑顔を見る度に辛くなくなっていく。それどころかもっとあの人達を幸せにしたいと思うようになっていった。
 オレは本当にあの人達が大好きなんだ。兄サマは勿論の事、城之内の事も物凄く気に入ってる。最近はむしろ、兄サマの恋人が城之内で本当に良かったなんて思うくらいなんだから。
 だからオレはあの二人がイチャイチャしてるのを見てても、特に何とも思わなくなったんだけどね。兄サマや城之内に取ってはそうじゃ無かったらしい。兄サマは相変わらずオレを放って置く事を悪いと思っているらしいし、城之内に限っては遠慮のし過ぎというか何て言うか…正直気を遣って構って来るのがウザイくらいだ。
 その証拠が、このオレの誕生日。二人ともオレに気を遣い過ぎてるのが良く分かる。だって近寄って来る時も必ずオレを挟んだ状態で、直接隣同士にはならないんだ。

「あのさぁ…二人とも」

 はぁー…と大きな溜息を吐いて、わざとらしく声を低めに出す。

「恋人同士なんだから、もっと近寄れば? 何で今日はそんなに離れてるのさ」
「いや…今日はお前の誕生日だし…」
「そうだぜ、モクバ! 何も遠慮する事なんて無いんだからな!!」

 いや、遠慮してるのは貴方達の方でしょう? とは口が裂けても言えなかった。だって二人ともオレの為を想ってやってくれている事が、よーく分かっていたから。それにしてもさぁ…。そういう事をやられると、却ってこっちが困るって事は考えられないんだろうか?


 こういう状態になって、オレは一つ驚いた事がある。それは城之内の事だ。
 兄サマは昔から鈍感な性質だった。だから誰かと恋愛した時も、相手の気持ちを汲み取れずに失敗するんじゃないかって、オレも昔からよく心配したものだった。そんな兄サマが城之内と恋人同士なんだって初めて気付いた時、オレはついにこんな日が来てしまったのかと一人で焦っていたんだ。
 その頃の兄サマと城之内は、オレを含めた『三人』で仲良く過ごす事に重点を置いていた。それは城之内が自分の恋愛より『兄サマの幸せ』を最優先としているのが原因で、分かり易く言うと、兄さま自身と弟のオレとそして恋人である城之内…。その三人が一緒じゃないと、兄サマの幸せは成り立たないと考えていたらしい。
 それはとても城之内らしい優しい考え方だと思うし、兄サマもそんな城之内の気持ちを嬉しいと思っていたに違い無い。オレだって城之内の気持ちを知った時は、すっげー嬉しいと思った。だけど…他人の気持ちに超鈍感だと思っていた兄サマは、相手を気遣い過ぎる城之内よりも先に大人になってしまっていた。
 兄サマとオレと城之内と…三人一緒の幸せは、それはそれはとても心地良い物だったのだろう。でも兄サマは、それだけじゃ満足出来無くなった。

 つまり…兄サマはオレを含めた『三人』で仲良くなる事に、限界を感じ始めていたんだ。

 コレにはオレも驚いた。そして同時に、いつまでも子供のまま城之内の好意に甘えていた自分を恥じた。何よりも誰よりも兄サマの幸せを願っているようで、その実一番兄サマの幸せを邪魔しているのは、このオレ自身だったからだ。
 こうしてオレはその日を境に反省し、二人の幸せを邪魔しないように黙って見守る事にしたんだ。お陰で自分で言うのもちょっとおかしいけど、大分大人として成長出来たように思う。その点に関しては城之内に感謝しなくっちゃなーなんて思う訳だけど、当の城之内はどういう訳か…全く成長出来ていなかった。何て言うか…まぁ…うん…。

「んじゃ、夜も遅くなったし…。オレは帰ろうかなー?」

 ほら、まただ。またオレに遠慮して、自分は身を引こうとしている。もうほんっっっとに城之内の馬鹿!! 兄サマのこの悲しそうな顔が見えないのか!!
 城之内の気遣いは本当に嬉しいし良い事だとも思うけど、もう少し自分の恋愛に関しては自己主張してもいいんじゃないかって思う。だって恋愛って個人じゃ出来無いし、相手がいるものだろ? その相手が「一緒にして欲しい」って望んでいるのに、その願いを叶えてやれないってどうなんだよ…。

「ち…ちょっと待てよ城之内! オレだってもう子供じゃ無いんだから、そんな事されなくても…」
「だって今日はお前の誕生日じゃんか、モクバ。誕生日くらいは兄貴に一杯甘えろよ。二人っきりの兄弟だろ? いつも通り一緒に寝て貰えよな!」
「あのなぁ…。オレはもう小学生じゃないんだから、別に兄サマと一緒に眠る事に拘ってる訳じゃ無いんだぜぃ? ね? そうだよね、兄サマ」

 無理して笑ってオレに遠慮する城之内に、流石に呆れて大きな溜息が出た。気持ちは嬉しいけどせめてもうこんな遠慮は止めて貰おうと思って兄サマに同意を求めたら、兄サマは少し考え込んでしまって…。そして有ろう事か「そ、そうだな。誕生日くらいは子供らしく甘えても良いと思うぞ、モクバ」なんて、城之内の言葉を肯定してしまった。
 ダメだ…こりゃ。何なの、この人達は…。
 ガックリ項垂れたオレに城之内は「じゃーまた明日なー」なんて手を振りながら、笑顔でそのまま帰ってしまう。代わりに残されたのは、頭上から小さく降って来た溜息だった。兄サマはオレに気付かれないように嘆息したんだろうけど、背が伸びて大分頭の距離が近付いて来たオレの耳には、その吐息がハッキリと聞こえていた。
 馬鹿だな…城之内。兄サマにこんな悲しい想いをさせ続けるなら、無理矢理恋人関係を解消させるぞ。でもそんな事したら兄サマ自身が一番悲しむから、間違ってもそんな事はやらないけどな。



 こうして城之内は自宅へ帰って行き、酷くガッカリした海馬兄弟は今に至るという訳だ。暗闇の中で頷いた兄サマにオレは安心して、寝返りを打って少しだけ兄サマに近付く。そして「兄サマ、少し話をしよう」と話しかけた。

「話…?」

 オレの言葉に兄サマも振り返る。そして暗闇の中、お互いの顔を見合わせた。兄サマがパチパチと瞬きをする度に光る青い瞳が綺麗だなって思った。
 小さい頃、この瞳を独り占めしていたのはオレだった。でも今は違う。この青い視線を一番に受けなくちゃいけないのは、オレじゃなくて城之内だ。どうにもアイツはその事を忘れているようだけどな。

「あのね、兄サマ。こうやって誕生日に兄サマと一緒に眠るの、オレ今年で最後にしようと思うんだ」

 オレの言葉に兄サマはピクリと反応した。

「それは…どういう事だ? もうオレの事が嫌になったという事か?」
「違うよ。兄サマの事が本当に好きで尊敬してるから、もう止めようって思ったんだ」

 面白いなぁー本当に。ていうか、その言葉はオレに言う台詞じゃないでしょう? 城之内に言ってやりなよ、城之内に。

「ねぇ、兄サマ。兄サマも、もう本当は苛ついているんじゃない? あの城之内の態度にさ」
「………。そ、それは…」

 あ、口籠もった。ビンゴだね。
 やっぱりコレはちゃんと言わないとダメだな。兄サマと城之内の為にも。

「あのね、兄サマ。誤解しないで欲しいんだけど、オレ城之内の事大好きだよ。アイツが兄サマの恋人で本当に良かったって思ってるし、感謝もしているんだ。優しいし、思いやりがあるし、それに兄サマ程じゃないけど結構男らしくて格好良いしね」
「モクバ…」
「でもね、兄サマ。時には優し過ぎる事も問題なんだって教えてあげなくちゃいけないんだ。特に城之内みたいなタイプはね」
「………。アレは…仕方無いのだ…。奴もそれなりに苦労しているし、離れ離れになった妹もいるから余計に…」
「うん。それはオレもよく分かってるよ。でもそれとこれとは別問題でしょ? オレに気遣って兄サマの幸せを無視していいって事は無いじゃんか」
「………っ!?」
「あはは。そんなに驚かないでよ。オレちゃんと知ってるんだ。兄サマが城之内の優しさに困ってるって事はね」

 闇の中でも分かる程に目を見開いた兄サマに笑ってみせて、オレはそっと手を伸ばした。そして羽布団から指先だけ出していた兄サマの手をキュッと握る。相変わらず冷たい手…。でもこの手が誰よりも温かい事を、オレはよく知っている。オレ達がまだ小さい頃、泣き虫だったオレを守り、何度も頭を撫でてくれた優しい手…。そして今は、城之内に繋がれている大事な手。
 冷たい指先が温まるまで握り締めた後、オレはその手をそっと離した。そしてもう二度と触れないように手を引っ込めてしまう。

「ね? ちゃんと言おうよ。側にいて欲しいって。その優しさが困るんだって、そう言おう」
「モクバ…。だが…オレは…」
「大丈夫、オレもそう言うから。もうオレに気遣う必要なんか無いんだってね」
「違う…。確かに城之内の事もそうなのだが、オレは心配してるのはお前の事で…」
「嘘吐きだね、兄サマ」
「………え?」

 困ったな。城之内だけじゃなくて、兄サマまでこんな風にオレに気遣うなんて。城之内の事は他人だからいいけど、兄サマは兄弟なのに…。身内にこんな風に無駄に気を遣われると本当に腹が立つ。
 全く…。いつからこの人はこんなに言い訳じみた事を言うようになったんだろう。

「兄サマ、そういうの止めてよ。兄サマまでオレにいらない気遣いする気なの?」
「そ、それは…!」
「オレはもう子供じゃ無いんだよ? 兄サマと城之内に本当に幸せになって貰いたいって、どうして分からないの? 二人揃って何でそんな気遣いばっかりするんだよ。オレ本気で怒るよ?」
「うっ…!!」

 ちょっと目線をキツクして睨み付けたら、兄サマは小さく呻って少し首を引っ込めた。コレじゃどっちが兄貴か分からないじゃないか。
 兄サマの面白い態度に少し機嫌を良くして、オレは再び口を開く。

「ね…兄サマ。城之内と二人で幸せになりたいんでしょ?」
「………」
「ちゃんと答えて」
「………っ!! な、なりた…い…」
「じゃ、ちゃんと自分で言えるね? 城之内に『もう変な気遣いは止めてくれ』って」
「………」
「返事は?」
「い、言える…」
「うん。良し!」
「だが…お前は…?」
「ん?」
「モクバ…。お前はそれでいいのか…?」
「何言ってるの? それでいいに決まってるじゃない」

 兄サマの問い掛けに、オレはクスクスと笑いながら答えてあげた。

「兄サマの幸せがオレの幸せだよ。むしろオレが兄サマの幸せを邪魔してる事が凄く嫌なんだ。だからもう…オレにも幸せにならしてよ? ね、兄サマ」

 オレの言葉に兄サマは暫くじっと何かを考えていて…そしてコクリと強く頷いてくれた。
 うん、これでいい。これがオレの誕生日だ。兄サマが幸せになる事…それ以上のプレゼントなんか無い。だから…ね、兄サマ。オレの事なんか気にしないで、ちゃんと城之内と幸せになってよね。約束だからね?
 最後にそう言ったら、兄サマはほんのり微笑んで頷いた。それを見てオレも安心して、二人でそのまま眠ってしまったんだ。



 次の日の朝、随分と爽やかな気分でオレ達は目を覚ました。朝風呂に入る兄サマを残して一人でリビングに降りていったら、ソファーの背から見えている金髪に驚いた。
 だってまだ朝の七時だぜ? 昨晩「また明日なー」なんて言ってたから今日来るとは思ってたけど…、いくら何でも早過ぎじゃない?

「城之内…。こんな朝っぱらから何やってんだぜぃ…?」

 呆れた声で名前を呼んだら、その金髪頭がビクリと跳ね上がった。そしてソロソロと振り返る。目に入ってきたその顔は、微妙に焦って歪んでいた。

「よ…よぉ、モクバ。おはよう…!」
「おはよう、城之内。今日はまた早いな…」
「あ、あぁ。お前の誕生日の次の日だしな! たまには一緒に朝ご飯でも…と思って…」
「朝ご飯なら、いつも一緒に食べてるじゃんか。お前が兄サマのところに泊まりに来た時は、朝ご飯抜きで帰った事なんて無い癖に」
「それは…そうなんだけど…」

 城之内はアハハ…と笑いながら、ポリポリと鼻の頭を掻いている。何だか微妙に冷や汗も流しているようだ。そんな城之内のおかしな態度に、オレはピンと来たものがあった。
 ははーん…なるほどね。何だ、城之内もそうだったんじゃないか。

「何? 兄サマがオレに襲われてないか、心配になってこんなに朝早く来たの?」

 試しにカマを掛けてみたら、城之内は面白いほどビクリと大きく跳ね上がった。
 …相変わらず分かり易い奴だなぁ…。せっかくだから遊んでみよう。

「オレも中学三年生だしな。来年には高校生だし、もう余裕ぶってもられないよなー」
「うっ………!!」

 ニヤニヤしながらからかったら、城之内は分かり易い程に顔色を変えてオレの事を凝視していた。

「大分身長も伸びたしなー。力だけなら兄サマ以上はあるしね。ベッドに押さえ付けるのも簡単だよなー」
「モ、モクバ…! お前、大人をからかうのもいい加減にしろって!」
「冗談じゃなかったら、どうするつもり? オレが本当に兄サマを襲ってたら、城之内はどうするの?」
「どうするも何も…お前等は兄弟じゃないか…。だから…」
「だからオレが兄サマを襲わないとでも?」
「うぅっ………」
「でも城之内はそれが気になって、こんなに朝早く来たんじゃないの?」
「………っ」
「心配だったんでしょ? 兄サマの事が」
「そ…それは…」
「そんなに心配なんだったら、もう二度と兄サマとオレを一緒に寝かしつけるような事言わないでよね」

 オレの言葉に城之内はハッと顔を上げた。うん、いいね。実にいい表情してる。

「詳しい事は、後で兄サマが自分で言うだろうけどさ。オレも兄サマもそろそろ限界を感じてるんだよ」
「限界…?」
「そ。城之内のその優しさにね。いい加減にして欲しいって思ってる」
「………そ…うだった…のか…」
「だからね、城之内。ちゃんと兄サマを愛してあげてよ。城之内は兄サマの恋人でしょう? オレの恋人な訳じゃ無いでしょう? だったらちゃんと兄サマの相手をしてあげないと」
「モクバ…」

 オレの言葉に城之内が神妙な顔で項垂れるのと、兄サマがリビングに顔を出したのはほぼ同時だった。きっとこれから長い話し合いが行なわれると思うけど、オレは全く心配していなかった。だってあの二人の間には、決して揺らがない愛があるからな! …なーんて思っちゃったりして。愛だってさ…ちょっと恥ずかしいな。オレもまだまだ甘いぜぃ!
 それにしても困った兄達だなーなんてオレは思う。
 あの日、織姫と彦星の…兄サマと城之内の間に掛かる橋になろうと決意した数年前の誕生日から、オレの苦労は絶える事は無かった。だけどそんな苦労も幸せの内だと思えるから、これでいいんだよなって感じる。

 大人になるって、本当に良い事だよな!

 背後で繰り広げられる議論を耳にしながら、また一つ大人になったオレはそんな事を考えて…とてもとても幸せだと思っていた。

子克也...(*´д`*)ハァハァ

| コメント(0)

子克也に萌えまくりな二礼です、こんばんは。

以前散たんとお話してた時にですね、子克也の話で盛り上がった事があったんですよ。
その時の萌え具合が半端無くて「いつか絵に描いてみたい」と思っていたんですね。
まーその時は「萌えるよね~!」程度で終わったのですが、後にツイッターに子克也botがいる事が判明…。
それも散たんが教えてくれたのですが、この萌え度が半端無い…!!
ヤバイ! 本当にヤバイ!! 萌え過ぎてハゲヤバイ!!
呟きの一つ一つが本気で可愛くて…そして可哀想で…っ!!(><)
そんな子克也に惚れまくった結果、何とかあの子に笑って欲しいという願いを込めて一枚の絵を描いてしまいました。
他人様に差し上げるお礼絵なのに、自分の萌えしか詰まっていない罠…w
いい加減にしろ、私!!
………でも萌えってそんなモンだよね、うん。

ちなみにその絵は散たんに差し上げましたので、興味のある方は『REMS』さんで御覧下さいませ(´∀`)


長編『あの夏の日の君へ』に第三話をUPしました。
別世界から来た海馬君による、怒濤の説明ターンです!!
一番面倒臭くてツマラナイターンはさっさと終わらせてしまうに限る!…という訳で、最初の方でやってしまう事にしました。
説明臭くて面白く無いとは思いますが、本編が始まるまでもう少々お待ち下さいませ~。

しかし毎回思うのですが…。
こういうパラレルファンタジーを書く時には、一応それなりにキチンとした設定を作るのですがね…。
結局その設定の十分の一も生かし切れないまま終わるのが常なんですよ~w
多分ネタを考えている時点では、余計な情報が多過ぎるのだと思います。
その余計な部分を削ぎ落としながら小説を書いている内に、作った設定の残りの9/10は使われる事も無いまま闇に葬られる事になるんでしょうね。

私の小説は、毎回こんな感じですw
本当はもっとギュッと内容が濃く詰まった小説を書きたいんですけどねぇ…。
修行が足りませんな!!


以下は拍手のお返事でございます~!(*'-')


>狭霧様

こんばんは~初めましてです~!
拍手とコメント、どうもありがとうございました~!(*´∀`*)

いつもウチの小説を読んで下さって、本当にありがとうございます!!
こういう一言が本当に嬉しくて、自分自身の力にもなるので大変ありがたいと思っております。
それから誤字指摘もありがとうございました…w
昔印刷会社に勤めていたのもあって、他人の文章の文字校正はそれなりに得意なんですけどねぇ…。
でも自分の文章だと目が滑ってしまって、校正したと思っても凡ミスが一杯残っていたりするんですよw
こうなるともう自分の力じゃ探し切れないので、指摘して下さるのはとってもありがたいんです~!
本当にありがとうございました(´∀`)

これからますます暑くなりますが、狭霧様もお身体には気を付けてお過ごし下さいませ~v
それでは今日はこれで失礼致します。
ではでは~(・∀・)ノシ

第三話

| コメント(0)

 誰もいない夜の公園。その一角で青白い光がまるで蛍のようにポワッと揺らめいていた。ゆっくりと時間を掛けながらも確実に傷を治していく不思議な光はこの…別の世界から来たと言い張る海馬の右手から発せられている。この海馬を拾ってから一時間後には、左腕の火傷も、足や顔に負った擦り傷や切り傷も、ほぼ分からない程度にまで回復していた。

「すげぇ…っ!」

 感嘆して思わず素直に感想を言ったら、海馬は驚いたような顔をしてオレの事を見返した。そしてフワリと微笑んでくれる。
 今までお目に掛かったことがない綺麗な海馬の笑顔についつい凝視してしまい、オレはゴクリと生唾を飲んでしまった。その音に目の前の海馬はクスクスと笑い出す。

「お前は本当に度胸があるというか何というか…。不可思議な現象でも簡単に受け入れられてしまうのだな」
「え?」
「そういうところは…オレの世界の城之内と何一つ変わらない」

 そんな事をやけに嬉しそうに話しながら、海馬はじっとオレの事を見詰めていた。そして二本目のペットボトルのキャップを外して中の水を一口飲み、ふぅ…と大きく嘆息する。反り返った白い喉がコクリと上下に動く様を目の当たりにしながら、オレの心は半分興奮、そしてもう半分は疑問だらけになっていた。
 一体この海馬は何者なんだ…? さっき自分で『海馬瀬人』だと名乗ったけど、それは本当の事なんだろうか…? そりゃ外見も雰囲気も全てに置いて海馬にそっくりだから、オレもつい納得しちまったんだけどさぁ…。でも年が違う。海馬はまだ十七歳の筈なのに、目の前のこの海馬はどう見ても二十代半ばくらいだ…。
 頭の中で悶々と考えていた疑問がどうやら顔にも出ちまっていたらしい。一口ずつゆっくりと水を飲んでいた海馬がオレの顔を見て、ニヤリと笑って口を開いた。

「ときに城之内。オレに尋ねたい事があるのでは無いか?」

 発せられた言葉にビクッと身体を固めて…次の瞬間に激しく首を上下に振る。そんなオレの態度に、目の前の海馬は本当に面白そうに微笑んでいた。

「それで? 何から聞きたい?」
「な…何からって言うか…。お前が本当に海馬なのかとか…どうして年上っぽいのかとか…。あと、その超能力? みたいなのも何なんだろうとか…。色々有り過ぎて困るくらいだ」

 頭の中が大混乱して、思わず両手で髪をガシガシと掻き毟る。けれど、不思議な事に精神的には驚くほど落ち着いていた。それは目の前にいるのが全く知らない人物じゃなくて、海馬にそっくりだからなのかもしれないな…と、頭の片隅で考えてみたりする。
 そんな事を足りない脳みそで必死に考えながらウンウン呻っているオレを見て、海馬は「そうだな…」とボソリと呟いた。そしてスッと右手を挙げて、公園の中心に植えられている桜の木を指差す。

「木が…あるだろう? 一本の幹から先に伸びるに連れて沢山枝分かれしていく木だ」
「う、うん」
「世界はああいう姿をしている」
「はい?」
「お前はパラレルワールドという言葉を聞いた事があるか?」

 海馬の言葉にオレはコクリと頷いた。
 詳しくは知らないけど、そういう設定をSF小説とかで読んだ事はある。

「えーと、要するに自分達が住んでいる世界とは違う世界の事だよな。良く似てるけど何か違う…みたいな」
「そうだ。それがパラレルワールドだ」
「当たり? 小説とかゲームとかで見た事あるぜ」
「そのパラレルワールドが実際にあったとしたら…貴様はどうする?」
「………へ?」

 多分物凄く間抜けな顔をして固まってしまっていたんだと思う。海馬はオレを見てクスリと笑い、そして自分が座っているベンチの板を叩いた。意味が分からなくて首を捻ったら「話が長くなりそうだから、ここに座れ」と言われ、恐る恐る海馬の隣に腰掛ける。

「どうやらこの世界では、パラレルワールドの概念はただの空想上の産物にしか過ぎないようだな…」

 三分の一ほど水の残ったペットボトルを弄りながら、海馬はそんな事を言った。

「オレ達の世界ではな、もう随分昔にパラレルワールドの存在を科学的に認識していたのだ。先程も言ったが、世界はあのような姿をしている」
「木…?」
「そうだ」

 海馬の言葉に、オレはもう一度公園の中央に目を向けた。そこには立派な桜の木が青々とした葉を茂らせている。

「元は多分世界は一つしか無かったのだろう。だがその内、選択の違いで次々と違う世界が生まれていった。それは時間が経てば経つ程増えていって、今では無限に近い世界がこの世に存在するようになっている」

 違う世界から来たという海馬から放たれる言葉は、まるで夢物語の様だった。きっといつもの海馬がこんな話を聞いたら、即座に「非ィ科学的だ!」とムキになって否定するだろう。でも何故かオレは、それを否定する気にはなれなかった。それどころか、耳に入ってくる言葉を本気で信じ始めていたんだ。

「選択の…違い?」
「あぁ、そうだ」

 オレのちょっとした疑問にも、この海馬は丁寧に答えてくれる。

「そうだな…例えばオレの話だ。この世界がオレのいた世界とどこまで同じかは分からないが、オレと弟のモクバは元孤児だった。二人で世話になっていた孤児院に、ある日海馬剛三郎が養子探しに来てな。オレ達はそれをチャンスだと睨んだのだ。そしてオレは奴にチェス勝負を仕掛けて、結果オレとモクバは海馬家の養子となった…」
「うん。それは知ってる」

 海馬の過去の話は、オレも良く知っている。海馬家に養子に入った所為で酷い虐待を受けて、あいつが壊れてしまった事も…知っていた。

「そうか、そこら辺は同じか。それならば話は早いな。ではそこで少し考えてみよう。もしオレが海馬剛三郎にチェス勝負を挑まなかったら? あのままモクバと二人で孤児院で暮らしていたとしたら…一体どうなっていただろうか?」
「あ………」
「もしくはチェス勝負を挑んだとしても、その勝負に負けていたら? 無事に勝ったとしても剛三郎に気に入られなかったとしたら? そう考えると未来の可能性は無限大だ」
「そ、それは…そうだよな。全部が全部上手くいく訳無いもんな…」
「そうだ。そういう選択の違いがパラレルワールドを形作っていく」
「木の枝って事か」

 オレの出した答えに、海馬は満足そうに笑ってコクリと頷いてくれた。

「そうやって作られていった無数の世界の事を、オレのいた世界の科学者はきちんと証明してくれたのだ。そして同時に、パラレルワールドの性質もある程度突き止める事に成功した」
「性質?」
「そう。例えば世界と世界が近い…、つまり枝と枝が近い程その世界同士の性質は似てるとかな」

 そう言って海馬はもう一度桜の木を指差す。そして枝の先の方を示しながら「世界は近い程よく似ていて、離れる程変わっていく」と教えてくれた。

「例えば立場が違っていたり、性別が違っていたり、名前が違っていたり、人種が違っていたりと、違う点は世界によって様々だ。それなんかはまだマシな方で、酷い時には時代が違っていたり、姿形も全く別人だったりもする。オレの世界とお前の世界のように、世界を構成する理自体が違ったりもするしな」

 得意げにそんな事を言い放ちながら、海馬はニヤリと笑って右手を青白く光らせた。
 漫画やアニメやゲームでならこういう力を見た事はあるけど、流石にリアルにそんな物を見た覚えは無い。きっと誰かに話しても、夢を見ていたんだろうと失笑されて終わりだろう。

「お前の世界って、みんなそんな風に超能力使えるの?」
「まさか」

 ふと疑問に思った事を口に出せば、海馬は鼻で笑いながらそれを否定した。こういう小憎たらしいけど何か可愛いと感じる態度は、本当にこっちの海馬そっくりだと思う。

「オレの世界だって殆どが何の力も持たない普通の人間だ。ただ約一万人に一人の割合で、先天的に超能力を持った人間が生まれて来る」
「一万人に一人…? 結構少ないんだな」
「そうだ。オレのいた世界でも、超能力を使える人間は希少価値が高いのだ。更に言えば全員が同じ力量という訳でも無く、力の強さに限っても個人差がある」
「力量?」

 オレの問い掛けに海馬は頷いて見せて、そして懐を探って何かカードのような物を取り出した。スッと差し出されるそれを受け取りながら、プレートに記載されている文字に目を通す。病院の診察券や保険証みたいなプラスチックカードには海馬の顔写真と、そして妙な英字が書かれていた。


NAME:Seto Kaiba
Blood type:A(RH+)
Birthday:10/25
Age:24
Ability: first/Light ・ second/Lightning ・ third/heal
Rank:AAA+


 名前と血液型と誕生日は分かる。あと年齢も。二十四歳か…どうりで年上に見えた筈だ。
 でも最後の二つがよく分からない。「………ん?」と呟いて首を捻ったら、横から白くて細い綺麗な指が伸びてきた。そして書かれている事を辿りながら、低い声で説明してくれる。

「アビリティというのは能力の事だ。ここに書かれているのはオレの能力の詳細で、一番目と二番目と三番目が書かれている。一番目と二番目はオレが先天的に持って生まれた能力だ。その内メインにしているのが一番目」
「ライト…光?」
「そう、オレは光を使った能力が得意なのだ。二番目が雷属性。三番目は後に人工的に付加し、練習する事によって使えるようにした能力だ。これがヒーリング能力…つまり先程怪我を治した力だな」
「へぇーなるほどなー」

 海馬に説明を受けながら、オレは何となく『青眼の白龍』の事を思い出していた。そういやあのモンスターも光属性だったっけ。海馬と光って実は相性が良いのかもしれないなんて思って、思わずにやついてしまった。
 気持ち悪くニヤニヤと笑うオレに、隣の海馬は訝しげな顔をして「どうした?」なんて訊いて来る。それにオレは首を振って応え、カードに視線を戻して説明の続きを求めた。

「なぁ。この最後のランクって…要は能力の強さって事?」
「そうだ。能力には個人差があって、下はHから上はSまである。HからBまでは基本的にそのままで、後はプラスやマイナスが付く位だ。それに対してAからSは、Bまでとは比べものにならない程に細かく区切られている。オレのAAA+(トリプルAプラス)はSの直前に位置するランクだな」
「へー! お前って凄ぇんだなーっ!」
「本当はSクラスらしいが、能力に目覚めたのが遅くてな…。実戦が足りなくて未だAクラス止まりなのだ」
「実戦…?」

 海馬の口から出た「実戦」という言葉に、オレはつい反応してしまった。実戦というくらいなのだから、海馬や他の超能力者達は何かと戦っているという事になる。そんなオレの考えを見透かしたように、海馬は黙って夜空を見上げて小さく嘆息した。そして「影がな…いるのだ」とボソリと口に出す。

「影…?」
「そう、影だ。オレ達はそう呼んでいる」

 オレは少し思い詰めたような顔になった海馬を見ながら、その『影』と呼ばれる物がこの海馬の大怪我に繋がっているんだろうと…何となく理解した。

治ったぁ~!!

| コメント(0)

漸く結膜炎が治った(らしい)二礼です、こんばんは。

本日眼科に行きましたら「うん。もうコンタクト付けてもいいですよ~。目薬も差さなくて大丈夫です」と言われました。
はぁ…やっと治った…。
これで辛い視界からオサラバ出来るのね~!! 良かったぁ~!!
でも流石に二週間以上毎日眼鏡で過ごしていたら、こっちの視界に慣れて来てしまった罠…w ウケルwww

ちなみに結膜炎になったのは、本屋さんで働いているのも関係あるそうです。
ほら、本って湿気が大敵でしょう?
だから本屋さんの中って凄く乾燥しているんです。
長時間コンタクトを嵌めたまま本屋さんの中で仕事をしていると、目が乾いて眼球が痛むんだそうで…。(同僚談)
だから本当は仕事の時はコンタクトじゃなくて、眼鏡の方が良いんだそうです。

…となるとやっぱり仕事の時は眼鏡にシフトチェンジした方が良いのかもしれませんねぇ…。
とは言っても今持っているのは室内用だけですので、完全に切り替えるとなると新しい眼鏡を作らなくてはなりません。
眼鏡…地味に高いのよね…w
悩むところですw


そうそう。SAIの勉強は相変わらずやっています。
今日はこの間の絵を少し色の塗り方を変えて仕上げてみました。
城之内は勿論の事、散たんが描いた社長も今回は線画から描き直し、色塗りまで全部私がやらせて頂きました。
これです(クリックで拡大)↓

jkw10.jpg


アニメ塗りっぽいのを目指してみたのですが…。
う~~~ん…wwwww(以下、無感想)

そう言えば『球形ラピスラズリ』の桜井至さんが、この城海絵を塗り絵して下さりました~!!
物凄く格好いい城海絵になっているので、オススメです!!
是非至さんのサイトで御覧になって下さいませ~(*´д`*)

ていうか、同じ絵でも塗る人が違うと、最終的に全然違う絵になるんですね~!
これはまた一つ勉強になりました。
マジかっけー!! 超感動!!


長編『あの夏の日の君へ』に第二話をUPしました。
どうですか?
パラレルファンタジーっぽくなってきましたでしょうか?
この海馬さんには他にも色々と秘密があるのですが、それはまたおいおいという事で…。
多分作中で海馬自身が話してくれると思います(´∀`)

作中の表現で分かると思いますが、この海馬さんは城之内君より少し年上です。
同い年では無いので、いつもの城海よりずっと余裕のある海馬や、逆にそんな海馬に翻弄される城之内君が書けそうで、私自身も結構wktkしてたりするんですよね~w
不思議な世界観を織り交ぜつつ(相変わらずいつもの自分勝手な妄想ですが…w)、違う世界を跨いだ城之内と海馬の姿が書ければいいなぁ…なんて思っています!

第二話

| コメント(0)

 どうみても海馬にしか見えないその男は、でもオレ達よりずっと年上に見えた。大分大人びた顔を苦しそうに歪め、白い肌を土と泥と血で汚して気を失っている。とりあえずこんな所に寝かしておくのはダメだと思って、恐る恐るその身体に手を掛けて上半身を起き上がらせた。重力に従ってオレの身体の方に寄り掛かって来たのを、慌てて受け止める。温かい体温と共に思ったより軽い体重を感じて、心臓がドキリと高鳴った。

「お、おい…っ! しっかりしろよ!」

 何だか自分がとてもいけない事をしているような気がして、オレはそれを誤魔化すように、自分の肩に頭を預けてグッタリしている男の白い頬をペチペチと叩いた。その刺激に男は「うっ…ん…」と呻いて、ゆっくりと瞼を開けていく。闇夜に光るその瞳を見て、オレは心底驚いた。

「青眼…っ。海馬…?」

 薄い瞼の下から現れた瞳は、美しい真っ青な瞳だった。この瞳の色には覚えがある。この深い青色は…オレが愛しているあの海馬の眼の色だ。オレが見間違える筈が無い。この瞳は、間違い無く海馬の瞳だ。
 だけどそこまで考えて、オレは「でも…」と自分の考えに疑問を持った。
 確かにオレが今抱き締めている男は海馬にそっくりだ。青い瞳、栗色の髪の毛、白い肌…。顔の造形も、男にしては細い体型も、全てが『海馬瀬人』そのものだった。でもオレが知っている海馬と印象が全く違う。それに何故だか妙に大人びている。少なくても十七歳の海馬じゃない。多分もうちょっと…あと四~五年すればあの海馬もこうなるんだろうなって感じの外見だ。
 海馬にそっくりだけど…海馬じゃない。海馬じゃない筈なのに…海馬だと感じる。
 その不思議な感覚に捕われて、目の前の男の顔をじっと見詰めていた時だった。

「じ…城之…内…?」

 海馬にそっくりな男が、掠れた声でオレの名を呼んだ。一瞬聞き間違いかと思ったけど、いくらオレでも自分の名前を聞き間違える事は無い。この人は今、確かにオレの名前を呼んだ…!

「か、海馬…!? お前…なのか…?」

 どもりつつ男の言葉に応えてそう話しかけたら、オレに抱かれているソイツは驚いた様に目を瞠ってオレを凝視した。そして次の瞬間ふぅ…と大きく溜息を吐きながら「あぁ…そうか…。お前はこの世界の…」と小さく零す。
 オレは? オレが一体何だって?
 そう疑問に思って聞き返そうとすると、突然腕の中の身体が硬直した。そしてゲホゲホと激しく咳き込み出す。

「うっ…! ゲホッ…ゴホッ…!!」
「おい…、大丈夫かよ…?」
「み…水…を…っ」
「水!? わ、分かった! すぐに持ってくるから…!!」

 慌ててそう答えつつも、とりあえずこんな土の上にいつまでも居させる訳にはいかなくて、オレは男の腕を肩に掛け腰を支えつつ立上がった。男もオレに体重を掛けて一緒に立上がって歩き出す。公園の中に戻って一番近くにあったベンチにその細い身体を横たえながら、オレは驚きを隠せないでいた。
 目の前の男は本当に海馬そっくりだった。眼の色や髪の色、顔や体格、声や雰囲気…。それら全てが、この男が『海馬瀬人』だという事を物語っていた。一緒に歩いた時も、その身長差にビックリした。何せいつも海馬と並んで歩いてる時の感覚と全く同じだったから。

 果たして全くの赤の他人に、こんなに既視感を覚える物だろうか…?

 不思議な感覚に陥りながらも、オレは急いで公園脇の自動販売機まで駆けていき、ポケットから小銭を出してミネラルウォーターのボタンを押した。ガタンッという音と共に取り出し口に落ちてきたペットボトルを取り出し、少し考えて同じ水をもう一本購入する。

「水、買って来たぞ」

 駆け足でベンチまで戻ると、そこに仰向けに寝ていた男がゆるりと瞳を開けてオレを見た。そして上半身を起こしながら、震える手を差し出して来る。その手にキャップを外してやったミネラルウォーターのペットボトルを握らせると、海馬にそっくりなソイツはハァハァと息を荒くしながらペットボトルに口を付けた。

「っ…! うっ…ゲホッ!! ガハッ!!」

 何口かはすぐには飲み込まず、口に含んでは濯いで地面に水を吐き出していた。だけどそれを繰り返す内に大分口の中がスッキリしてきたらしい。最初のペットボトルの水が半分くらいになった後は、ゴクゴクと喉を鳴らして冷たい水を美味しそうに飲んでいた。
 さっきは薄暗い藪の中だったからそうでも無かったけど、公園内に戻ってきて明るい街灯の下で見たら、その男の汚れや怪我の具合がハッキリと分かる。腕や顔のあちこちに傷があり、特に左腕の怪我は酷かった。着ていた服は元々長袖だったらしいけど、肘の辺りまで生地が無くなっていて、剥き出しになった腕には酷い火傷の傷があった。多分服が燃やされて、その所為で火傷をしたんだと思われる。
 取り敢えず冷やさなきゃと思い、ポケットに入っていたハンカチを取り出した。それを公園の水飲み場まで行って、冷たい水で濡らして固く絞る。
 普通はこんな大怪我をした人間を見たら、すぐにでも救急車を呼ばなくちゃいけないと思う。オレだって子供じゃないし、それくらいの常識は持っている。でもこの時は何故か、そんな考えにならなかった。というより、救急車を呼んだらいけないと思った。
 本当に不思議なんだけど、本能がそう告げていたような気がする。

「これ…使ってくれ」
「………」
「き、汚くないぜ? ちゃんと洗ってきたし」
「………ありがとう」

 水で濡らしたハンカチを差し出しながらそう言ったら、海馬に似た男は一瞬目を丸くしてオレの事を見返した。だけど次の瞬間、ふわりと笑ってオレの手からハンカチを受け取ってくれる。その余りにも綺麗な笑顔に、オレの心臓はドキリと鼓動を跳ねさせた。
 海馬にそっくりな顔に今まで見た事も無いような笑顔が浮かべば、そりゃ意表を突かれるってもんだろう。コレに関してはオレは悪く無い…と思う。

「っ…!! 我ながらこれは…酷くやられたものだな」

 海馬に良く似た男はクスクスと笑いながらそんな事を言って、濡らしたハンカチで左腕の傷口を丁寧に拭っていた。
 耳に入ってきた声も海馬そっくりで驚いた。いや、いつもの海馬より若干低い。成熟した男の声って感じがする。

「なぁ…大丈夫なのかよ」

 傷口を綺麗にしたお陰で、その酷さが余計に目立つようになった。素人目に見ても酷い火傷だ。下手をすればケロイドが残るかもしれない…と思う程の火傷にオレが顔を顰めた時だった。

「大丈夫だ。このくらいなら何とかなる」

 そう言ってソイツは自分の左腕に右の掌を翳した。そして目を瞑って何かを口で唱える。

「………え?」

 その途端、目の前で起きた現象に、オレは驚き過ぎて間抜けな声を出してしまった。
 男が何かを呟いた瞬間、右手から青白い光が溢れて左腕の傷を覆い始めた。そして非常にゆっくりな速度ではあったけど、その光に包まれた火傷が少しずつ治っていくのを目の当たりにする。
 じわじわと傷が治っていくその様子は、まるで逆再生の動画を見ているようだった。

「何だ…これ…? 魔法…?」
「…? 何を言っているんだ? これは魔法では無い。超能力だ」

 思わず呟いた一言に、ソイツはしっかりと反論してくる。

「オレのヒーリング能力は、後から人工的に付け足した第三能力だからな。本来のヒーラーに比べると治癒能力は大した事は無いが…時間を掛ければ軽傷にまで戻す事は可能だ」
「…はい? えぇっ?」
「能力者だったら、これくらいの事は出来て当然だろう? 何だかんだ言って、やはりヒーリング能力は便利だし…」
「あ…いえ…あのぉ…、スイマセン。何を言っているのかサッパリ分からないんですが…」

 全くチンプンカンプンの言葉が海馬にそっくりな人の口から吐き出されて、オレは頭が混乱してしまった。パニクり過ぎて思わず丁寧な言葉遣いになるくらいに焦ってしまう。
 超能力…は何となく分かった。でも後の言葉がサッパリ分からない。ヒーリング? 第三能力? 能力者?
 頭にクエスチョンマークを山程浮かべているオレを見て、目の前の海馬にそっくりな男は漸く合点がいったような顔をした。

「なるほど。この世界はアストラル体がエーテル体に影響を及ぼさない世界なのか」
「………は?」
「良く分かった。そうか…それならばこの現象が理解出来無くても仕方無い。驚かせて悪かった」
「あ…あの…。本気で何を言ってるのか分からないんですが…」
「分からなくても無理はない。この世界の理では無いのだからな…城之内?」
「えっ…!?」

 目の前の海馬に良く似た人間から再び出て来た自分の名前に、オレは今度こそ本気で固まった。
 さっきのはやっぱり聞き間違えじゃなかったんだ…。でも一体どういう事なんだ? この男は確かに海馬にそっくりだけど、あの海馬じゃない事だけはオレにも分かる。でもこの男を形成している全てが、この人間が『海馬瀬人』だと知らしめている事も確かだ。
 オレはコイツを海馬にそっくりだと思ってて、そしてコイツはどうやらオレの事を知っていて、でもオレはコイツ自体の事は知らなくて…。
 分からない…。何が何だか理解出来ない。

「アンタ…一体誰なんだ?」

 立ち尽くしてそう呟いた一言に、目の前の男はニヤリと笑った。そして信じがたい…けれど予想通りの言葉を吐き出す。

「オレか? オレは海馬瀬人だ」
「海馬…っ?」
「そうだ。この世界とは別の世界の世界に生きる…海馬瀬人だ」

 それがオレと海馬にそっくりな…いや、別の世界の『海馬』との初めての出会いだった。