ヘトヘトの二礼です、こんばんは。
いやぁ~…何て言うか…。
久々の疲労困憊っぷりにヘトヘトです…w
身体が休息を求めているのが分かるんですよね…。
ちゃんと眠ってもグッタリするし、最近余り食べたいと思わなかったチョコレート菓子が食べたくて仕方が無い!!
我慢出来無くてエンゼルパイ食べちゃったけど…これが美味しくてねぇ…。
普段はあの濃ゆさに飽きちゃうんですけど、今は全然平気ですw
美味しいなぁ~。エンゼルパイ美味しいなぁ~(*´д`*)
新人バイトさん…入って来たんですけど、何だかチョット問題児☆
余計疲れちゃうwww
もうどうしよう~www
長編『あの夏の日の君へ』に第二十一話をUPしました。
あともうちょっとで決着がつくかな~?
今までの長編だと、ゴールが見えて来ると結構安心して続きを書けたのですが、今回全く安心出来ません…。
というのも、最後に残っているのが私の苦手なアクションシーンだからですが…w
ちゃんと書いている自分にも、そして読んで下さっている方にも、納得の出来る終わり方にしたいと思っています。
よし!! 頑張ろう!!
しかしまぁ…夏が終わっちゃいましたね…(´・∀・`)
秋が来ちゃったよ…w
2010年9月アーカイブ
結局その日の朝は、箍が外れた様に大泣きした大人の海馬を慰めて、三人で一緒に二度寝をした。二人の海馬に挟まれて眠るなんて、オレに取っては至上の幸福と言わざるを得ない状況だった筈なのに…あんまりデレデレ出来無かった。それは勿論、恋人の海馬やもう一人のオレに悪いから…という気持ちもあったけど、決戦前の緊張感がオレの気持ちを引き締めていたんだと思う。
少し遅くに起きて、三人でブランチを食べ、その後は大人の海馬に能力の使い方を簡単に教えて貰った。とは言っても、こちらの世界にいるオレ達の実力じゃ、炎や光を掌の上で翳す程度しか出来無いけどな。でも全く練習しないよりはマシだと思って、オレも恋人の海馬も真面目に練習した。
二、三時間もすれば結構自由に超能力が使えるようになってきた。初めはそれを喜んでいたんだけど、大人の海馬に言われた一言で喜びは一瞬で消えてしまう。
「多分…お前達が超能力を使えているのは、この世界にオレ達がいるからだ。オレや城之内が元の世界に帰ってしまえば、シンクロしている人間がこの場からいなくなるという事だから…」
「つまり、この能力は使えなくなって、元の一般人に戻ってしまうと?」
大人の海馬が言い淀んだ先を、恋人の海馬が続けて言う。大人の海馬はその言葉に、素直にコクリと頷いた。
「こちらの世界には、元々このような能力は無い。あり得ない事象なんだ。だから影響している人間が去れば、自然に能力のシンクロも解けるだろう」
二人の海馬が真面目に話している事を、オレはすぐ側で黙って聞いていた。せっかく手に入れた超能力が消えてしまうのは凄く残念だったけど、それが自然の摂理なら仕方が無い。それに、大人のアイツ等が生きて無事に元の世界に帰る事は、オレに取っても最大の願いだった。
それにしても…と、オレは自らの手の上で踊る炎を見ながら溜息を吐く。
何もしないで時が過ぎるのが嫌で練習を始めてはみたものの、こんな付け焼き刃の能力でSS+レベルの超能力を持つ大人のオレに敵うなんて、微塵も思っていない。それは恋人の海馬も一緒だった。安定して出せるようになった光に満足そうにしつつも、それでまともに闘えるとは思っていないんだろう。終始気難しそうな表情を崩してはいない。
でも何故か、オレはやらないよりはマシだという気持ちが強く出ていたんだ。決して敵う訳が無い矮小な超能力。だけどきっと…何かの訳に立つと思われてならない。
昼過ぎに軽い食事を食べた後も、オレは一人で練習を続けていた。初めての時はマッチ棒の先に灯るような小さな炎だったそれも、今は掌全体を覆うくらいにまで大きくなっている。けれど、昨夜見た大人のオレの姿を思う度に大きな溜息を吐いてしまう。
アイツは…大人のオレは、本当に巨大な能力の持ち主で恐ろしく見えた。なまじ中途半端に超能力に目覚めていた所為だろう。力の差を肌で感じて、恐怖で震えが止まらなかった。今思い返してみても、あの恐ろしさは半端な物では無いという事は分かる。あの時の状況を思い出すだけで、背中がゾワッと寒くなって鳥肌が立つくらいだ。
「でも…泣き言ばっかり言ってられねーしな」
掌全体の灯った炎をギュッと握り締めて、オレは決意を固める。
そうだ。泣き言なんて言っていられない。オレ達は何としてでも、あの悪意の固まりである影を打ち破って大人のオレを救い出さなくちゃいけないんだ。だってそうじゃないと、四人揃っての幸せなんて有り得ないから。
幸せになるんだ。絶対に…絶対に幸せになる!! 城之内克也と海馬瀬人は、絶対に幸せにならなくちゃいけないんだ!!
「城之内」
ふと、優しく呼ばれた声に気付いて振り返った。そこには恋人の海馬が穏やかな顔をして立っている。
「海馬か。どうした?」
「いや…。まだ練習を続けていたのかと思ってな…」
海馬は微笑みを浮かべたままオレの側に近付いてきて、すぐ隣に腰を下ろした。そして自分の掌を開いて、その中央に青白い綺麗な光を灯してみせる。オレにはそれが、希望の光のように見えた。大人の海馬が放つような強い光では無いけれど、優しく灯る青白い光は、海馬の決意そのもののように思えた。
「城之内…」
「何?」
「好きだ」
「うん。オレも」
海馬がしっかりとオレの目を見ながら告白してくる。今のオレには、海馬の本当の気持ちはとうに分かっていた。だから別に驚きはしなかったけれど、やっぱりちゃんと言葉にして言って貰えると心から嬉しいと感じるんだ。
オレ達の辛い時間はもう終わった。だからこそ、今度は大人のアイツ等の辛い時間を止めてやるんだ。やっぱり二人で幸せにならないと意味が無い。
「幸せになろうな…海馬。オレ達も、アイツ等も」
「あぁ、分かっている」
「オレ達の小さな能力ではどうにもならないかもしれない。アイツ等の真剣勝負に割って入るなんて、到底無理かもしれない。それでも…頑張ろうな」
「勿論だ。結果的に何も出来なくても、オレは諦めたくない。諦めない。アイツを…大人のお前を救うまでは」
「そう。そして大人の海馬と幸せにするまでは…な」
二人で顔を見合わせて、ニッコリと微笑み合った。そしてどちらからともなく身体を寄せ合って、軽いキスをした。強く抱き締め合いながら、お互いの体温を直に感じて心から幸せだと思う。
襖を隔てた隣の部屋では、大人の海馬が見張りをしている。早くアイツにもこの幸せを感じて欲しいと…強く強く感じてならなかった。
お互いがそれぞれの時間を好きな様に過ごして、もうすぐ夜の七時になろうかという時だった。
オレは突然身体中の毛穴がゾワリと逆立つような感覚を感じて、座っていた状態から慌てて立上がった。側に座っていた恋人の海馬も、驚愕したような顔でオレの事を見上げて来る。
「城之内…?」
不思議そうにオレを呼ぶ海馬に、オレはそろりと視線を移した。
海馬はキョトンとしていて、全く何の変化にも気付いていないらしい。だけどオレは嫌って程感じていた。まるで身体全体が感度の良いアンテナになったかのようだった。すぐそこに…本当にすぐそこにまで、大人のオレが来ている事を感じる。
「来た…」
震える声で呟いて、急いで居間と寝室を隔てている襖を開け放った。
「海馬!! 来た! 来やがった!!」
オレの声に窓の外を見ていた大人の海馬は、慌てたように振り返って立上がった。その驚きように、大人の海馬も何も気付いていなかった事が分かる。青い瞳を大きく見開き、真っ直ぐにオレを見詰めて何度も瞬きをしていた。
「来たのが…分かるのか? 何かを感じたのか?」
「あぁ、滅茶苦茶感じたぜ。お前は…? 何も感じないのか?」
「オレには分からない…。ある程度近くに来れば能力を感知する事が出来るが、どうやらその範囲内にはいないらしい」
大人の海馬の言う通りだった。確かにすぐ側には感じられない。だけどオレには分かっていた。大人の海馬が感知出来無いギリギリの範囲外に、アイツがいる事を…。
多分これは、大人の海馬のように能力で感知している訳では無いからなのだろう。オレとアイツは、生きている世界は違えど同じ『城之内克也』という人間だ。今まで一度も顔を合わさなかったのにも関わらすそれでもシンクロしてしまったように、同じ人間にしか感じられない気配という奴があるんだろうな。
そうだ。オレには分かる。アイツは待っている。海馬を…待っている。
「公園だ」
いつの間にか二人並んでオレを見詰めている海馬達に振り返って、オレは冷静にそう言った。
「多分…公園だ。海馬…、もう一人のオレがそこでお前を待っている」
オレの言葉に大人の海馬は一瞬言葉に詰まって、だけど次の瞬間しっかりとした目付きで「分かった」と頷いた。そしてクルリと方向転換をすると、スタスタと玄関に向かって歩き出す。オレと恋人の海馬も同じように玄関に向かった。
準備はもう既に出来ていた。
靴を履いて玄関を出て、三人で外に出る。外はもうすっかり真っ暗になっていて、驚く程静かだった。夏休みの夜七時頃と言えばまだ宵の口で、普通に色んな人が外を出歩いていてもおかしくないというのに…。
「結界だ」
「え?」
まだ何も言っていないというのに、大人の海馬はオレの言いたい事を読み取ったらしい。黙々と歩きながら、チラリと視線を寄越しながら説明しだした。
「この感覚は結界だ。多分昨夜から漠良が広範囲に張り巡らせているのだろう」
「そういやあの公園で大人のオレに出会った時も、アイツそんな事してるって言ってたな」
「あの時張っていた結界とは少し違うがな」
「そうなの?」
「公園に張っていた結界は、外界と結界内を完全に遮断するものだ。あの結界を張ると、外からは完全に中の様子が見られなくなる。その中でどんな光景が繰り広げられようと、外から見るといつもの風景とまるで変わりが無いように見えるのだ」
「へぇー、凄いな。じゃあ今回の奴は?」
オレの言葉に大人の海馬は一旦足を止めて、辺りをぐるりと見渡す。それに習ってオレも恋人の海馬も同じように周りを見渡してみるけど、特に変わったような事は何も無かった。ただいつもより、外が静かだなーと感じるくらいで。
「相変わらず見事な結界だな…」
ふっ…と口元に笑みを浮かべながら、大人の海馬は感心したように言った。
「お前達、いつもと何か様子が違うと思わないか?」
「様子が違う…? そう言えばまだ七時だってのに、人があんまりいなくて静かかなーと」
「それだ。それがこの結界の効果なのだ」
「………?」
大人の海馬の言っている意味が分からなくて、オレはつい真横にいる恋人の海馬と目を合わせてしまう。こっちの海馬も暫く不思議そうな顔をしていたが、突然何かに閃いたかのように「なるほど!」と声に出した。
「もしかしてこれは…本能的に外に出る危険性を感じさせているとか、そういう類の物なのではないか?」
自信たっぷりに問われた声に、大人の海馬は笑みを深くして「そうだ」と答えた。
「この結界内にいる人間は、自分では気付かないが本能的に『外に出てはいけない。早く家に帰らなければいけない。この場所に近付いてはいけない』という事を感じるようになる。感じているのはあくまで本能の為、特に何も不思議に思う事無く、皆安全なところに戻りそこから出なくなるのだ」
「そうか…。それでこの静けさか…」
「公園程度の小さな場所なら、昨日張った様な結界の方が便利だ。だが広範囲になるとそれは得策とは言えない。人を排除する事が無理なら、人を自主的に閉じ込めさせればいい。そういう考え方だな」
「なるほど。上手い手を考えつくものだ」
「だがな。これは超能力を持っていない一般人にしか効かないのだ。少しでも能力があると、これを感じる事が出来無い。だから今のお前達も全然平気なのだろう」
そんな風に言って、大人の海馬はオレ達を振り返った。その言葉にコクコクと頷く。
確かに今のオレ達は、特に何の居心地の悪さも感じてはいない。夜道を歩いている感じも、全くいつもと変わらないように感じる。
「街中には広範囲の結界を張り、更に公園には昨夜の時と同じ結界を張るのだろう。ほら、もう漠良も来ているぞ」
言われて正面を見てみれば、大人の漠良が片手を上げて道の真ん中に立っていた。
「早かったな」
「君が動いたのを感じたからね」
「流石、治癒や結界を使える物は気配に聡いな…。お前が世話になっているこちらの『自分』はどうした?」
「危ないから絶対部屋から出ないようにって言い聞かせてきたよ」
大人の海馬の質問に、漠良はニコニコした笑顔のまま答えている。だけどその顔が以前よりずっと緊張しているのが、オレにも伝わって来た。
ベテランの超能力者が緊張を隠せずにいる事を感じて、今更ながらに怖さを感じてきてしまう。だけど逃げる訳にはいかない。城之内克也という人間と、海馬瀬人という人間の幸せの為に、オレ達は真っ向から闘わないといけないんだ。
もしこれがたった一人なら、きっとその恐怖に屈してしまっていただろう。だけどオレは立っていられる。立ち向かう勇気がある。何故ならば…。
「城之内…」
恐怖か武者震いか…細かく震えるオレの拳を、少しヒンヤリした恋人の手が優しく包み込んできた。
うん、そうだ。大丈夫だ。だってオレにはコイツがいる。海馬が側にいてくれる。
「大丈夫だよ。ちゃんと頑張ろうな」
「………あぁ」
二人で大きく頷き合って、目の前に見えて来た公園をじっと見据えた。
大人のオレの姿はまだ見えて来ない。でもオレには感じていた。そしてここまで来れば他の連中にも、その異様な雰囲気が伝わって来ているらしい。皆一様に表情を硬くして、ただ一点を見詰めている。
「待ってろよ…。必ず救い出してやるからな」
確かにそこにいる存在に向かって、オレは強く言葉を放った。
忙しいけれど、やる気が戻って来た二礼です、こんばんは。
三連休? 何ですかそれは? 美味しいんですか?
という訳で…。
月曜日はお仕事があるので、この土日に集中して小説を書いていました。
本当は土曜日に更新するつもりだったのですが、先にやってしまいたい事があったので日曜日に移行させて頂きました。
ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした…。
でもそのお陰で、もう一つの方が何とかなりそうでホッと一安心しております。
校正作業とかは全然まだなんですけど、形さえ出来てれば何とかなりますからね…w
あとは地道な作業をしていけばいいだけだ…うん!!
頑張ろうっと!
そう言えばTOPページにリンクしてある更新予定表なのですが、未だに23日以降の予定は決まっておりません…。
予定が分かったら追加するつもりではありますが、もしかしたら10月に入るまで更新出来無いかもしれません。
小説はなるべくUPしたいので、それは無いと思いますが、もしそうなってしまったら本当にゴメンナサイです。
………。
はぁ~…。早く新しいバイトさん…来ないかなぁ…(´Д`;)
長編『あの夏の日の君へ』に第二十話をUPしました。
あぁ…w 遂に二十話に到達してしもうた…;
本当はもっと短く纏めるつもりだったのに…っ!! くっ…!!
何が「くっ…!!」か知りませんが、多分もうすぐエンディングです。
まぁ…そのエンディングが長くなりそうなんですが…w
何だか硬派(?)な物語が書きたいと思って書き始めた今作ですが、予想以上に難しくて毎回大変でした。
でも何だかんだ言いながらも漸くエンディングが見える位置まで来られたので、少し安心しております…w
うん、早く二組の城海でハッピーエンドを迎えさせてやりたいなぁ~!
その為にも、最後まで気を抜かないで頑張ろうと思っています!
私…これ終わったらエロを書くんだ…っ!!(フラグェ…)
海馬と二人で抱き合って眠って、少し経った頃だった。時間にして二~三時間程の睡眠と言ったところだろうか? 突然身体を揺すり動かされて、オレは眠りから浮上した。まだ重い瞼を無理矢理開けると、部屋の中は薄暗い。枕元に置いてある目覚まし時計は、朝の四時過ぎを差していた。
「城之内…起きろ」
「ん…? 何だよ…。まだ早朝じゃん…」
「いいから起きろ。嫌な予感がするのだ」
小さく囁くように耳に入ってきた海馬の声に、オレは眠いのを我慢して渋々視線を上げた。目に入ってきた海馬の顔は、酷く真剣な表情をしている。その顔を見て、オレは飛び起きた。何だか嫌な事が起っている事を肌で感じたからだ。
「どうした…?」
海馬がヒソヒソ声のままオレを起こしていたので、オレも小さな声のまま問い掛けた。オレが真面目に話を聞く体勢に入った事に海馬も気付いたらしく、上半身を起こしたオレに近付いて来て耳元で言葉を放つ。
「先程…もう一人のオレが何やら準備をしていた。直接見た訳では無いが、ゴソゴソと支度をしていたのは確かだ」
「何だって…?」
「まだ家の中にいるようだが、もしかしたらもうすぐ出ていくかもしれん」
「それは…。え、でもさ、そんな筈無いだろう? 昨夜四人で作戦会議したばっかりじゃん。それで協力して影を倒すって決めたんじゃないか…」
「そうだな。だがよく考えてみろ。アイツは…『オレ』だぞ? そんな簡単に協力プレイするような奴では無いだろう」
「あっ………」
「それに今回の事件は、アイツの責任問題の割合が大きい。自分のした事に、そして自分の所為で城之内を犠牲にした事に、きっと強い負い目を持っている。そんな奴が…素直に誰かの協力を受け入れると思うか?」
「………海馬…」
「相打ちを狙って、協力して影を撃つというのは建前だ。きっとアイツの中では…未だに二人揃って生き残る展開は考えられていない。城之内を殺し、そして多分…」
「多分…何だよ…」
「………」
「言えよ」
「多分…だが。これは確定では無いが…。城之内を殺した後、自分も自害するつもりなのではないかと…」
「………はぁ?」
「だから、多分だと言っている」
「何だそれ!?」
なるべく声を出さないようにしながら、それでもオレは鋭く言葉を放ってしまった。
昨夜の作戦会議。あの大人の海馬は、自分も相手の『オレ』も、両方が生き残る道を示してくれた。オレ達はただの一般人で、その作戦はやっぱり怖かったけれど、お互いが幸せになる為にと覚悟をしてそれを承諾したんだ。その事に関しては、寝る直前に恋人である海馬とも強く誓い合っている。
だから今オレは、目の前の海馬が言う事が何一つ理解出来なかった。
「あんだけしっかり作戦会議しておいて、結局二人揃って死ぬつもりなのか…? アイツ何考えてんだよ…!」
「流石のオレも、自分の予想が間違いだと信じたいが…。だが『アイツ』は『オレ』だ。考えが…理解出来るのだ」
「お前も両方死んだ方がいいって思ってるのか?」
「そんな事は思っていない!!」
オレと同じように鋭く言いながら、だけど海馬は少し寂しい顔をした。そして俯いて、小さく…本当に小さく呟く。
「思ってはいない…が、理解は出来るのだ。もし自分が同じ立場になったら…きっと同じ事を思うだろうと…」
「海馬…」
すっかり落ち込んだように項垂れている海馬を、オレは腕を伸ばして抱き寄せた。
オレは今…全員で生き残りたいと思っている。そしてそれは、この海馬も全く同じように思っている筈だ。最初相打ちをするって聞いた時、大人の漠良が怒っていたのも多分同じ理由だ。漠良は大人のオレを助け出して、全員無事な状態で元の世界に帰りたいと思っている。影に取り憑かれてるもう一人のオレだってそうだ。生きたまま影を倒し元に戻る為に、押さえ付けられている自らの意識を保とうと頑張っているんじゃないか。
それをアイツは…大人の海馬は裏切ろうとしている。全ての人間の希望と覚悟を、簡単に裏切ろうとしているんだ。
「それは…駄目だ!」
「城之内…」
「それだけは駄目だ。許せない」
自分に言い聞かせるように強くそう言うと、同時に玄関の方から何やら音がする。今にも出ていきそうなその気配に、オレは慌てて立上がって寝室を出た。ドスドスと足音を立てて玄関に赴けば、案の定、すっかり支度を済ませた大人の海馬が玄関の鍵を開けようとしているところだった。
未だ世間は寝静まっている早朝に、そんな派手な登場をすればどんな馬鹿だって気付く。大人の海馬はぎょっとしたような表情で振り返り、オレの顔を凝視した。
「おはよう、海馬」
「………」
「こんな朝早くに、どこに行こうってんだ?」
「………」
オレの質問に大人の海馬は答えない。ただ表情を硬く引き攣らせて黙り込んでいる。白い両拳をギュッ…と強く握り込んだのが、オレの目にもハッキリ映った。恋人の海馬が言っていた嫌な予感が当たった事を目の当たりにして、オレも苦々しい気分になる。
本当に…どうしてコイツはこうなんだろう。本当に大事な事は何一つ言わないで、思い込んだら一直線だ。漸く仲直り出来たけど、恋人の海馬の方だってずっとこんな感じだった。オレがアイツの本当の気持ちに気付くまで、どれだけ苦労した事か…。
やっぱりこんな危ない奴、一人にさせちゃ駄目だ。大人のオレだって、きっと同じように思っている筈。だからこそ…今ここでコイツを一人で行かせる訳にはいかなかった。大人のオレが守ってやれないなら、今ここでオレがコイツを守るしか無い。そして無事に、大人のオレに引き渡すんだ。ちゃんと四人で幸せになる為に…。
「海馬?」
有無を言わさないように強い口調で名前を呼べば、海馬は眉根を寄せて俯いてしまった。
「どこ行くの?」
「………」
「影に取り憑かれたオレを殺しに行くつもり?」
「っ………!」
「それで自分も死ぬつもりなんだな?」
「………っ。それ…は…っ」
「どうして? 何でそんな事するんだよ。昨日作戦会議したばかりじゃないか…!」
「無理だ…!」
「無理? 何が無理なんだよ」
「どんなに理想論を掲げても、結局は無理だと言っている…!」
オレの言葉に海馬はキッと顔を上げ、鋭く睨み付けながら強い言葉を放った。青い瞳が揺らめいている。眉根はキツク寄せられて、辛そうな表情が海馬の内面をそのまま映し出していた。
それは…この大人の海馬の覚悟を、そのままオレに伝えて来ているようだった。
「理論上は可能だ。けれど奴の能力を考えた時…相打ちだなんてそんな悠長な事はやっていられない。本気で殺しにいかないと、こっちが殺られる…!」
ギリギリと強く拳を握り締めながら、海馬は重い口調で話し出す。オレは敢えてその言葉に、淡々とした答えを返す事にした。
「………。だから…殺すと?」
「大体こうなったのはオレの責任だ…。本当はオレが取り憑かれる筈だったのだ。もしそうなっていたならば、オレより力の強い城之内が簡単に片を付けてくれた筈なのに…。それなのに…アイツはオレを庇って…代わりに自分が取り憑かれて…」
「………海馬…」
「オレにどうしろと言うのだ! オレはアイツ程強くないし、能力を器用に使える訳でも無い…! オレに出来るのは…アイツを殺す事だけではないか…!!」
「恋人で師匠なのに?」
「だからこそだ!! だからこそ…オレがこの手で…責任を持って…っ!!」
「でも本当は殺したく無いんだろ?」
「っ………!!」
「だから一緒に死ぬつもりなんだろ?」
「そ、それは…っ! 相手を殺したら今度はオレが取り憑かれるから…。だから意識を乗っ取られる前に自害してしまえば…今度は誰にも乗り移る事は叶わない筈だと…。それに他の誰にも迷惑は掛からないから…」
「迷惑だよ」
「………何?」
「凄く迷惑だ」
大人の海馬の勝手な思い込みに、流石のオレもカチンと来た。恋人の海馬に対する騒動で大分慣れていたから、無駄にキレる事は無かったけどさ…。
でもやっぱりコイツも『海馬』なんだなって、ちょっと微笑ましく思ったのも確かだった。何でもかんでも、自分本意に決めやがる。相手がどうとか周りがどうとか、余り考え無いんだよな。一人で決めて一人で突っ走って…そして不幸になるのはコイツ自身だ。
そこまで考えて、オレはもう一人のオレの事を思った。
きっと…アイツも海馬の事をこうやって大事に想っていたに違い無い。そして今も、影に取り憑かれながら必死に海馬の事を考えて、生きて幸せになろうとしている。オレには分かる。アイツの覚悟が見える。だから、今はコイツを行かせる訳にはいかないんだ。
「お前以外はみんな迷惑だと思っているよ。漠良はもう一人のオレを救う為にこっちの世界に来たんだし、オレもこっちの海馬も全員で生き残って幸せになるんだって、昨夜覚悟をしたばかりだ。影に取り憑かれたもう一人のオレだって…きっとそう思ってる。生還してお前と幸せになりたいって、強く思ってる。オレには分かるんだ」
「………城…之内…が…?」
「そうだ。だから意識を完全に影に明け渡さないでいられるんだろ? お前の事を想っているから、アイツは自分を無くさないでいられるんだろ? 違うか?」
「っ………!! 城之…内…っ!!」
「オレ達はみんな、生きる事を諦めていないんだよ。諦めているのはお前だけだ。だから勝手にそういう風に思われるのは凄く迷惑だ」
「………ぅ…うっ…!」
「お前だって本当は…死にたくないんだろ? もう一人のオレの事だって…殺したく無いんだろ? そうだろ?」
「そ…それは…当たり前だ…! だが仕方無いだろう…! きっと…無理だ…!」
「だから何でそういう風に勝手に決めつけるんだ? 誰が無理だって言ったんだよ。やってみなけりゃわからないだろ」
「だが…っ!!」
「辛い癖に」
「何…だと…?」
「本当は自分が一番辛い癖に。だから泣いてるんだろ?」
「っ………!! こ、これは…!!」
「泣くなよ。泣くくらいなら頑張れよ。生きる事を諦めるなよ。本当は…『オレ』と幸せになりたい癖に」
玄関に棒立ちになってハラハラと泣き続ける大人の海馬。オレは腕を伸ばして、そっと細い肩を掴んだ。そしてそのまま引き寄せて自分の胸の内に抱き寄せてしまう。
寝室の影からオレ達を見守っていた恋人の海馬が、苦笑しながらコクリと一つ頷いた。そして「今だけだからな」とぶっきらぼうに呟く。まるでその言葉が引き金になったかのように、大人の海馬はオレに力強くしがみついて…そして泣き出してしまった。
「城…之…内…っ!! 城之内…っ!! 城之内ぃーーーーーっ!!」
本当は…ずっとこうやって泣きたかったに違い無い。だけど自分の失態とか責任とか、影に取り憑かれて豹変した恋人の事とか、それに対する自分の立場とか、とにかく色んな要素が絡まり合って素直に泣く事が出来無かったんだろう。恋人であるもう一人のオレを殺す事も、全部自分の責任だと割り切って…我慢して…平気な振りをして。
「可哀想にな…」
そっと…優しく栗色の頭を撫でる。
平気な筈…有る訳ないじゃないか。自分の恋人が影に取り憑かれてしまったというのに。そしてその人を、自らの手で殺さなければいけないかもしれないのに。全然平気な筈無かったんだ。
「いいから。胸…貸してあげるからさ。今だけは思いっきり泣けばいい」
「うっ…! くっ…ぅ…っ!!」
「その代わり、泣き終わった後はちゃんと覚悟決めろよ? もう一人のオレを救い出して、生きてみんなで幸せになる為の覚悟を決めろよ?」
オレの言葉に、大人の海馬は必死にコクコクと頷いていた。その返事に満足して、オレは恋人の海馬と視線を合わせる。こっちの海馬もオレと同じように満足げに微笑んで、コクリと頷いてくれた。
これで全員の覚悟は決まった。
決戦は…目の前にまで迫っていた。
まーた忙しくなっちゃった二礼です、こんばんは。
シフトがえらい事になっているんですよ…w
連勤凄いなぁ…;
Q.何故こうなったし。
A.新人バイトさんが複雑骨折して退職したからです。
という訳で、7月以来の激務再びです…w
でもポイントカードにも大分慣れて来たので、7月に比べたら全然マシかな~?
ただ小説を書く時間が無いのが辛いだけで…w
自分のところの更新分もそうですし、他に書きたい小説もあるんです。
でも私結構不器用なんで、それを両立出来無いのが辛いところですね…w
まぁ、そんな泣き言も言っていられないので、頑張ってちょこちょこ書いていこうと思います。
9月は今までみたいに頻繁な更新とかは出来ませんが、どうぞご了承下さいませ~!!
長編『あの夏の日の君へ』に第十九話をUPしました。
この話…本当はもっと短く終わるつもりだったんだけどなぁ…w
気が付いたらダラダラと長く続いちゃっていますね。
全体的にラブ度が少ない物語なので、始めた時は(そして今も)どうかな~と思っていたのですが…。
何だかんだ言って飽きずに続けていられているので、こういうのも有りって事なんでしょうか…w
次はもう二十話だねぇ…。
頑張ろう…!
何はともあれ、そろそろ完結に向けて動き出したいところです!!
真のハッピーエンド目指して頑張りまっす!!
…あとエロ書きたい。凄く書きたい。(まだ言うか!)
以下は拍手のお返事でございます~!(´ω`)
>9月14日0時台にコメントを書き込んで下さった方へ
こんばんは~!
拍手とコメント、どうもありがとうございました~!(´∀`)
そんな…大好きだなんて…!!
照れるじゃないですか…(*ノノ)
私も大好きです…!!
ウチに遊びに来て下さって、本当にありがとうございます~!
コメントも凄く嬉しかったですv
最近忙しくて自由に小説が書けなくて、ちょっと焦ってしまっていたのですが、コメントを見てホッコリさせて頂きました。
体調の事も気遣って頂けて、嬉しく思っています(*´∀`*)
今書いている長編小説も、無理しないで頑張って書き上げようと思っています。
どうぞお暇な時にでも遊びに来て下さいませ~!
ちなみに、TOPページにある更新予定を見て頂けると便利かもしれません。
私基本的に予定外の行動は取りませんので、無駄手間が捌けると思いますよ~w
それではこれで失礼致します。
ではでは~(・∀・)ノシ
夜の十一時を越えるくらいの時間になって漸く全ての話が終わり、大人の漠良は「取り敢えず一旦帰るね」と言って部屋を出て行った。多分こっちの漠良のところに帰ったのだろう。
その後残された三人で軽い食事を摂り、順番に風呂に入った後は休む事になった。と言っても、オレの家には客用布団が一組分しか無い。どうしよっかな…と悩んでたら、大人の海馬がフワリと微笑んで「オレはいい」と言い出した。
「毛布は一枚余っているか?」
「あぁ…。それくらいならあるけど」
「ならそれでいい。どっちみちオレは余り深く眠るつもりは無い。いつ城之内の襲撃があるか分からんからな…」
「………海馬…」
「オレはここにいる。お前達は寝室でゆっくり休むがいい。今日はあんな事があって、精神的にも疲れているだろう? 今夜はもう眠った方がいい」
そう言って、海馬はオレから受け取った毛布を羽織って居間の畳の上に座り込んだ。そして壁に背を預けて目を瞑る。
一見静かに眠っているように見えても、その神経が常に外に向いている事はオレ達にも感じられた。そんな大人の海馬に何か言いたそうな恋人の海馬に目配せして、オレ達はそのまま寝室に戻って襖を閉めた。
海馬がもう一人の自分を心配する気持ちも分かる。オレだって心配だ。オレ達も確かに疲れているけど、実際にもう一人のオレと戦った海馬はもっと疲れているだろう。例えそれがほんの一瞬の接触であっても…。
別の世界から来た海馬と影に取り憑かれたもう一人のオレが剣を交えた時間は、本当に一瞬の出来事だった。でもその一瞬の間に、二人は本気で命の遣り合いをしていた。少しでも力を抜いたら、ほんのちょっとでも視線を外したら、間違い無く相手に殺されていたに違い無い。まさに緊迫した状況。そういう意味では、神経を磨り減らしたのはアイツであって、オレ達では無い。
でもオレは、安易に大人の海馬に「お前の方こそゆっくり寝ろよ」なんて言う事は出来無かった。だってそれがアイツの責任の取り方であり決意だったから。そして、あの海馬じゃないと対応出来ない事も知っていたからだ。
もしもう一度大人のオレの襲撃があった場合、頼りになるのはあの超能力者の海馬ただ一人だけだ。一般人であるオレ達に、SS+レベルの超能力者に立ち向かう術は無い。だからこそ、ここは大人の海馬に頑張って貰わないといけないんだ。
寝室に入り、これまで大人の海馬が使っていた客用布団に海馬が潜り込んだのを確認して、オレは部屋の電気を消した。ただ、いつ何が起こってもいいように暗闇にしない事にする。オレンジ色の常夜灯だけを残して、オレは自分の布団に横になった。
狭い四畳半が、仄かなオレンジ色の光で照らされている。オレも海馬も起きてはいたけど、会話をする事は無かった。二人揃って暫く黙ったまま、別々の方向を向いて考え事をする。やがて十分くらい経った頃だろうか。海馬がゴソリと動いて、身体をこちらに向けるように寝返りを打った。そして青い瞳をすっと開いて「城之内」とオレの名を呼ぶ。
「何だ? 眠れないのか?」
顔を海馬の方に傾けてそう答えてやれば、海馬はコクリと頷く。
「そっちに…行ってもいいか?」
「うん…って、うえぇっ!?」
「駄目なのか?」
「だ、駄目っていうか…! 隣にもう一人のお前がいるのに、お前一体…!?」
「………は?」
「あ…いや、分かって無いならいいです…」
キョトンとしている海馬の顔を見て、どうやら誘いを掛けてきている訳では無いという事を知る。半分ガッカリし、半分安心しながらオレは自分の掛布を捲って手招きをした。
その合図に海馬はゴソゴソと客用布団を抜け出して、素直にオレの布団に入ってくる。そしてピッタリとオレにくっ付いて来た。密着してる海馬の身体から熱が直に伝わってきて、妙にドキドキする。洗いたての髪からシャンプーの良い香りが漂って来て、その匂いに夢中になった。
自分が使っている安いシャンプーの筈なのに、海馬の髪から漂ってくるその香りはいつもと全く違うように感じられて、不思議な気分になる。
しっとりとした栗色の髪の毛を優しく撫でながら、海馬に気付かれないように髪の毛にキスを落とした。その途端、胸が温かい気持ちで一杯になる。オレは本当にコイツの事が好きなんだと言う事を、切に感じていた。
「………海馬?」
そのまま海馬の頭を撫でたり、背中を擦ったりしていると、不意にオレの背に海馬の細い腕が回されて強く抱きつかれる。突然の行動に少し面喰らって呼びかけても、海馬からの返事は無い。だけど、オレを抱き締めている腕がほんの少しだけ震えているのを感じ取って、海馬の行動の理由を何となく悟った。
注意深く感じていないと、全く分からない程の震え。だけど確実に感じるその震えは、間違い無く海馬が恐怖を感じているんだって事をオレに教えていた。
「………怖い?」
試しに小さな声で問い掛けてみれば、少し時間を置いてから海馬がオレの胸元でコクリと頷いたのを感じる。無理も無い事だと、オレは海馬の身体をしっかりと抱き締めた。
大人のオレの襲撃後、海馬は実に気丈に振る舞っていた。今まで考えもしなかった不思議な現象に多少驚いたり訝しんだりしてはいても、恐怖を感じているようには全く見えなかった。それどころか、大人の海馬が考え出した作戦の内容を読み取り、得意げにそれを披露してみせたりしていた。
あの作戦会議の後、この海馬も例の協力要請には快く承諾している。だから誰も気付けなかったんだ。海馬が本当は…恐怖を覚えていた事を。
「オレも怖いよ…海馬」
海馬の震えに全く気付かないように、だけどその震えを止めるように恋人の身体を強く強く抱き締める。
怖いのはオレも同じだ。自分の事よりも何よりも、お前に被害が及ぶ事が何より怖い。だから出来れば巻き込みたくなかった。オレの協力だけで済むなら、それで終わらせたかったのに…。
「いくらアイツ等が大丈夫だって言っても、やっぱり怖いもんは怖いよな。悪意の固まりである影に取り憑かれるなんて…考えただけでもゾッとする」
「城之内…」
「それにオレは、お前にそんな恐ろしい目に合わせるのも嫌だ…っ。オレが怖いのは…何よりお前を失う事なんだよ…海馬」
「………それはオレも同じだ…」
「海馬…?」
「お前の事が…好き…だからな。だからオレもお前を失うのは嫌だ…」
「かい…ば…」
好き…と、オレの腕に抱かれながら海馬はハッキリとそう言った。その言葉が嬉しくて嬉しくて、オレはついギュウギュウと海馬を強く抱き締めてしまう。海馬は「苦しい」と文句を言っていたけれど、それでも抵抗するような事はしなかった。
「好きだよ…! オレも好きだ…!」
「あぁ…」
「だからやっぱりさ…幸せになろうよ。城之内克也と海馬瀬人は幸せにならなくちゃならない」
「城之内…?」
オレの言葉に不思議そうに首を傾げた海馬に、オレはこの間の事を話して聞かせた。
この間海馬がオレの家に訪ねて来た時、そこには大人の海馬がいた事。そしてオレ達の会話を全て聞いていた事。それでもオレ達を信じて、黙って口を挟まないでいてくれた事。そしてあの後、自棄になったオレを落ち着かせてくれた事…。
「あの時な…。アイツ…変な事言ってたんだ」
「変な事?」
「やっぱり自分ともう一人のオレは、幸せになれないんだな…みたいな事をちょっとな…」
「………それは…」
「うん。今ならオレにもよく分かるよ。あの時のアイツは、影に取り憑かれたオレの事で絶望していたんだ。そして多分…もう一人のオレを殺す気でいたんだろうな。相打ちを狙うとかそういう話は、後から出て来たんだろう」
「あぁ…そうなんだろうな。恋人でもあり師でもある相方が、自分の所為で影に取り憑かれてしまった。だからこそ、自分が全ての責任を負って片を付けなければならないと考えていたのだろう…」
「お前はアイツの考えが理解出来ていそうだな」
「そうだな。もう一人の自分だけあって、奴の考えている事は手に取るように分かるぞ」
「そうか。でもオレには理解出来ない。何で生きて幸せになろうとしないんだろう…。絶対もう一人のオレだって、そう考えてるに違い無いのに」
「城之内…」
「アイツ…あの大人のオレは、きっと今も頑張っていると思う。影に意識を抑えつけられながらも、それでも何とか身体を取り戻そうと足掻いているに決まってる。絶対に生きて海馬と幸せになりたいって、思ってるに違い無いから…!」
「………っ!」
「だってそうじゃなかったら、海馬の姿を見て影の意識がぶれるなんて事有り得ない。アレは海馬と幸せに生きたいっていう、大人のオレの叫びだよ…!」
そうだ、オレには分かる。海馬がもう一人の海馬の気持ちが理解出来るように、オレにはアイツの心が理解出来る。アイツは…大人のオレは、生きたがっている。絶対死んでもいいなんて思っていない。生きて海馬と幸せになりたいって思ってる。
その気持ちを…オレは守ってやりたいと思った。あの大人のオレと海馬を、今のオレ達のように幸せにしてやりたいと心からそう思う。
「なぁ…海馬。オレは誰も死なせたくないと思っている。オレもお前も、それにあっちの人達も誰も死なせたくないんだ」
「………あぁ」
「だから闘おうな。オレ達も頑張って闘おうな。どんなに怖くても…頑張ろうな。オレ…絶対に負けたくないんだ」
「勿論だ。オレもそう思っている」
あんな影なんかに絶対負けたりはしない。
そう二人で強く誓い合って、目を合わせてニッコリと笑い合った。隣の居間にはあの大人の海馬がいる。こんな狭い家の事だ。オレ達二人の会話は丸聞こえだろう。それでも構わない。いや、その方が都合が良い。
聞いたか? なぁ、ちゃんと聞いてたか…海馬。オレ達も闘うぜ。絶対に逃げたりしない。オレ達と…そしてお前達二人の幸せの為に、全力で闘ってやる。それがオレ達の決意だ。
夜が更けていく中、オレと恋人の海馬は強く抱き締め合ったまま一つの布団で眠り込む。眠りに落ちる前に、二人で頷き合って一度だけ…触れるだけのキスを交わした。それがオレと海馬の、決意の表明だった。
もっと深いキスだって、更にその先の行為だって、そりゃしたかったさ。でも今はしない。する必要が無い。海馬と結ばれるのは…全てが終わってからでいい。
オレもお前も…そして大人のアイツ等も全員生き残って、お互いに幸せになってからでいいんだ。
だってそれが、城之内克也と海馬瀬人の幸せなんだからな…!!
ちょっと気怠い二礼です、こんばんは。
やっぱり夏の疲れが残っているっぽいです。
そしてその疲れを残したまま、来週からの激務…;
私耐えきれるのかしら…w
まぁ、いいや~!!
もったり頑張りまーす!!
ちなみに、昨日急に更新予定を変えてしまって申し訳ありませんでした。
以前の日記でも言っていたと思うんですけど、急に札幌に引っ越す事が決まった友人の為に、壮行会と称した飲み会に行っていたんです。
まぁ…今は昔と違ってネットが気軽に出来て、連絡取ろうと思ったらすぐに取れますけどね。
ツイッターもそうですし、チャットとかだって気軽に出来るじゃないですか。
だからそういう意味では、余り寂しく無いのかもしれません。
でもやっぱりねぇ~。
直接遊びに行ったり出来無いのは、ツマラナイですよね~(´―`;
結構しょっちゅう顔を合わせていた友人なので、大事な遊び仲間が一人減った気分です。
でもまぁ…一生会えない訳じゃありませんし?
先程も言いましたが、ネットは便利な世界ですからね。
これからもツイッターやチャット使って、色々と遊ぼうと思いますw
長編『あの夏の日の君へ』に第十八話をUPしました。
ちょっと平和なターンですね。
このシーンが無いと締められないので、色々考えながら書いてみました。
これが終わったらいよいよ『結』のターンなんですけど…ね。
ちょっと…ね、色気が足りないよね?w
久しぶりにハードなお話を書いてみようと頑張って来た今作品ですが、私自身…そろそろ限界です。
エロが書きたーーーーーいっ!!
二礼しげみ、心の叫び…w
うんまぁ…この作品ではガッツリエロいのは書きませんけどねw
でもそろそろエロイのが書きたいんだよぉ~…。
温くてもいいんだよ…エロければ…エロければ…。
そんな事を思いつつ、今日も小説書きました まる
オレと海馬と、そして別の世界から来た大人の海馬と漠良の四人で家に帰って…。そして狭い居間で長い長い話をした。オレと海馬はテーブルを挟んで椅子に座り、大人の海馬と漠良は、背後で黙って立って見守っている。何だか説明が面倒臭いなぁ…思う事でも、一つ一つ丁寧に話していった。海馬はずっと眉をしかめて訝しげな表情で話を聞いていたけど、最後まで余計な口を挟む事は無かった。台所の椅子に座り、腕を組んでじっと黙っている。
オレが上手く話せ無い事は、たまに大人の海馬や漠良が助け船を出してくれた。オレ以上に分かり易く、懇切丁寧に説明していく。そして…。
「という訳で、お前はもう一人のオレに狙われてるって訳。オレというよりは…影に取り憑かれたオレにだけど」
オレがそんな風に話を締めくくると、海馬は「はぁーーー…」と盛大な溜息を吐いて頭を抱えた。そこまで酷くは無いけど、やっぱりちょっと苛ついているのが感じられる。
「それで? オレがそんな荒唐無稽な話を信じるとでも?」
「信じるしか無いじゃん。現にこんだけ目の前に証拠が揃っていて、他に何を疑うんだよ」
「………」
オレの反論に海馬はまた黙り込んでしまう。
目の前には、これ以上は無い程に完璧な証拠が出揃っていた。全く同じ姿形をしたもう一人の自分と大人の漠良。さっき公園で相まみえた大人のオレの事もそうだ。そして目の前で繰り広げられた、超能力による派手な戦闘。常識では考えられない事が、それでも実際に目の前で起こっている。
少し考えるように俯いて、海馬は組んでいた腕を解いて自分の掌をそっと開いてみた。そこには仄かに小さな青白い光が灯っている。この家に帰って来てすぐ、大人の漠良が海馬の超能力を解放した為に起こった現象だった。
超能力の発露と共に、海馬の頭痛も治まったらしい。今はすっかり顔色も良くなっていた。ただし…滅茶苦茶不機嫌そうだけど。
「信じるしか無いだろ?」
「………」
「信じて…自分の身を守るしか無いじゃんか。このまま知らない振りしてても…いずれもう一人のオレに殺されちゃうんだぜ?」
「………」
「死ぬの嫌だろ?」
「…当たり前だ」
漸く一言だけ返事を返して、海馬は光が灯った掌をギュッ…と強く握り締めた。
分かってる。本当は海馬も、ちゃんと分かっているんだ。ただ余りに唐突過ぎて、それを信じられる心の余裕が無いだけなんだ。
海馬はまた一つ小さな溜息を吐くと、オレが出してやったお茶を一口コクリと飲んだ。そして湯飲みをテーブルの上に戻すと、今度はちゃんと顔を上げて口を開く。
「仕方が無い。信じてやろう」
信じてやろうって言い方が、海馬らしくて尊大で可笑しかった。可笑しかったけど、海馬が渋々事実を認めてくれたって事が分かって、オレも漸くホッと一安心する。
「信じてくれてありがと」
「信じるのは別に構わないが…。その話だとオレは狙われているのだな? それは間違い無いな?」
「うん…」
「という事は、一人で行動したら危ないという事だな?」
「そうだな。そっちの海馬なら問題無いけど、お前は身を守る術が無い。オレもそうだけど、こんな力じゃどうしようも無いからな。だってあっちはSS+ランクという凄い力の持ち主だし…」
「そっちのオレの話によると、どうやらその力を上手く引き出せてはいないらしいがな」
海馬の言葉に大人の海馬の方を振り返ると、背後でオレ達を見守っていたもう一人の海馬はチラリと視線を寄越して、そしてコクリと頷いた。オレから見れば充分凄い超能力でも、あの海馬に取ってはやっぱりどこか違和感があったらしい。
「確かに強烈な力はそのままだったし、個別の能力も上手く使いこなしている。けれど繊細さやキレが無かった。ああいうのはやはり、その能力の直接の持ち主で無いと引き出せないものだからな…」
大人の海馬の言う事は難し過ぎて、オレにはよく分からない。だけど視線を移した先で恋人の海馬の方が同意するように頷いていたから、そういうもんなんだろうなと自分なりに納得した。
「まぁ、そんな話も非力な一般人のオレ達には何の関係も無い事だ。問題なのは、オレが一人で居た時に、あの城之内に襲われる事だろう?」
恋人の方の海馬の台詞にコクリと頷く。
影に取り憑かれたあの大人のオレが狙っているのは、あくまでも『海馬瀬人』という存在だ。非力な一般人という事に関してはオレも同じだけど、多分オレの方は何の心配もいらない。心配いらないっていうか…多分相手にされてないだけだと思うけど…。
だってあの大人のオレが気にして怖がっているのは、海馬が目の前にいる事によって刺激され、押さえ付けていた城之内克也の本当に意識が目覚めてしまう事だもんな。同じ存在であるオレがいようがいまいが、そんな事は関係無いんだ。
「うん…。だから余り一人にならない方がいいって思うんだけど…」
「オレもそう思った。だから暫く貴様の家で世話になろうと思う」
「うん…って、えぇっ!?」
「何だ? 何か可笑しい事を言っているか?」
「え…いや…言って無いけど…」
「そうだろう。オレの知らない内に勝手に何着かもう一人のオレに貸し出されていたようだが、着替えも既にここにある。特に何の問題もあるまい」
「それについては…。本当にスミマセンでした…」
海馬のちょっとした嫌味に頭を下げて謝ると、背後の方からも「済まん」という尊大な言葉が聞こえて来た。
いや…お前、それ謝ってねえから…。とか一瞬思ったけど、海馬の性格を考えた時、それもまた仕方無いなって思ってしまう。むしろ「済まん」とちゃんと言葉にして謝っているだけマシなのかもしれない。
「いや、別に問題は無い。事情が事情だから…仕方無いだろう」
「そう言って頂けると…とても助かります」
大分温くなったお茶をズズッ…と啜って偉そうに言う海馬に、オレはペコリと頭を下げた。
とりあえずこれで、海馬の件は何とかなったっぽい。早速携帯メールでモクバに連絡している海馬を横目で見ながら、オレはもう一人気になっていた奴に目を向ける。
それは居間の端の方で壁により掛かって、ムッスリと不機嫌そうな顔をしている…大人の漠良だった。あの児童公園で大人のオレから襲撃を受けた時から、ずーっと何かを怒っている漠良。もう一人の海馬との会話によって、それがコイツとの作戦会議が原因だって事は何となく感付いたけど、直接の原因が何だったのかって事までは分からなかった。
座ってた椅子から立上がって、恐る恐る漠良に近付いて行く。そして思い切って「あのさ…」と声を掛けてみた。
「さっき公園で何やってたの? 何かもう一人のオレが、結界がどうのこうの言ってたんだけど…」
「結界? あぁ、さっきの奴ね」
オレの質問に、漠良はひょいっと片眉を上げて口を開いた。
「あんな狭い公園で超能力バトルしてるんだもん。超能力に慣れているボク達の世界の人達ならいざ知らず、こっちの人達にとっては有り得ない光景でしょ? だから公園の周りに結界張って、中で何が起こってても何も見えないようにしてたんだ」
「へぇー」
「あと結界は、超能力で無駄にあちこち傷付けないようにする事も出来るんだ。これは治癒能力者の得意技なんだよ」
「そうなんだ」
漠良の答えに、オレは心底感心した。
超能力って一言で言っても、様々な力があるんだなって改めて感じる。もう一人のオレの炎の能力や、大人の海馬の光の能力、そしてこの漠良の治癒や護る事に特出した能力…。色んな話を聞いて大分知ったつもりでいたけど、本当のところ全然理解してなかったんだなって事に気が付いた。
まぁ…だからこそ、余計に漠良が怒っている理由が気になるんだけどな…。
「ところで…あの…」
ちょっと言いにくそうにそう切り出したら、漠良はオレの表情で全てを読み取ったらしく「あぁ…」と大きく息を吐き出しながら言葉を発した。
「ボクが怒ってる理由が気になるんでしょ」
「………そ…そうです…」
「最初に言っておくけど、ボクは何も悪く無いからね。海馬君の…あぁ、ウチの海馬君の話を聞けばすぐに分かると思うよ」
フンッ! と顔を背けながらそういう漠良に、オレはそろそろと視線を移して大人の海馬の方を見た。目が合った瞬間、海馬はバツが悪そうな顔をしていたけど、やがて諦めたように口を開き出す。
「…オレがずっと考えていた作戦を…話しただけだ」
「あぁ、そういやさっき言ってたな。作戦がどうとかこうとか…」
オレの返しに、海馬は目を細めて「そうだ」と言った。
「お前も知っている通り…あの影は自らの宿主を殺した相手に取り憑くという、厄介な性質を持っている。もしオレが城之内を倒す事が出来たとしても、今度はオレに乗り移られたんでは全く意味が無い」
「それは…そうだな」
「だから相打ちを計ろうと思ったのだ」
「相打ちって…ええぇっ!?」
大人の海馬の台詞に、オレは驚いて大声を出してしまった。
相打ちって事は共倒れって事だ。どっちも助からないって事だ。どっちにも救いが無いって事だ。
「そ、それは駄目だろう!?」
「ねー!? そう思うよねー!?」
オレの叫びに大人の漠良も同調する。
なるほど分かった。それは漠良が怒っても仕方が無い。ていうか、オレも怒る!
「ボク達は海馬君も城之内君も、どっちも救おうとしているんだよ。ボクもそのつもりでこっちの世界に来た。それなのに、聞かされた作戦がこれだよ? そりゃ怒るってもんでしょ」
「あぁ、それは怒っても仕方が無い」
二人で顔を合わせてうんうんと頷いていれば、横に立っていた大人の海馬が慌てて「ち、違うのだ!!」と声を荒げて反論してきた。
「だから貴様ら、話は最後まで聞け! 何も両方死ぬという事では無い…っ!」
「だって共倒れってそういう事でしょうー?」
「貴様も分からん奴だな…漠良。人の話は最後まで聞けというのに!!」
殆ど喧嘩腰になった海馬と怒って拗ねる漠良の大人組。今にも一触即発の雰囲気にオレがオロオロし出した時、後ろの方から「なるほど」という冷静な声が飛んできた。不思議に思ってそちらの方に目を向けると、そこにいたのはオレの恋人の方の海馬だった。
海馬は何故か、至極納得したような顔をしてニヤッ…と笑っている。
「相打ちとは…よく考えたな。確かにそれならば、その影とやらを捕まえる事が出来るかもしれんぞ」
「何…? それどういう事…?」
オレのキョトンとした質問に、海馬はさも面白そうにクスクスと笑っている。
「つまりあの影にだな、どっちに乗り移ったら良いのか分からなくさせてしまうのだ」
「………?」
「もう一人の城之内の身体に留まったままでもいいし、もう一人のオレに新たに乗り換えてもいい。それはどちらでも構わないのだ。ただしあの影は、コイツ等に捕まったりしないように逃げている最中なのだろう? 傷付いた身体に留まり続ける訳にはいかないのだ」
「う、うん…?」
「捕まるのが分かっていて、大人しくしている逃亡犯がいるか? 奴はきっとそこで悪あがきをし始めるだろう。しかし影という存在は、誰かに取り憑かないと生きてはいけない。新たに、傷付いていない元気な人間に取り憑く必要があるのだ」
「あぁ、うん…。それは…分かる」
「城之内に取り憑いても、オレに取り憑いても、相打ちしていては全く意味が無い。そこで影は逃げ切る為に他の人間…多分側にいるであろうオレか貴様に乗り移ろうとするだろう」
「うん…って、なんだって!?」
「だがオレや貴様に乗り移ったからといって、あの影に一体何が出来るというのだ? オレ達は多少超能力に目覚めたからと言っても、基本は何の力も持たない一般人だぞ。そちら側の人間に乗り移られるより、ずっとリスクが少ない」
「………」
「それにオレの予想だと、乗り移られてすぐはそんなに危険性は無いのでは無いか? どんなに凶悪な影でも、宿主の身体を傷付けずに結構すぐに引き剥がせたりとか…出来そうだがな」
海馬の言葉にハッとして振り返れば、漠良と睨み合っていた大人の海馬がこちらに振り返って「そうだ!」と鼻息荒く答えた。
「だがこの作戦で問題なのは、オレと城之内が瀕死の重傷に陥らなければならないって事なのだ! それに万が一とは言え、こちらのお前達の身体を傷付けないとは限らない。そんな時に頼りになるのが、このSランク治癒能力者の漠良の存在なのだ!!」
ちょっと感情が高ぶっているらしい…。大人の海馬が興奮気味に言葉を吐き、目の前に立っていた漠良をビシッと指差した。漠良はその指先をキョトンと見詰め、次いで視線を上げて海馬の顔をじっと見詰める。そしてやっと何かを思い付いたように、ポンと両手を打ち合わせた。
「あ…あぁ、そっか! そういう事だったのか!!」
物凄く分かり易く、漠良の表情がパァーッと明るくなっていく。
「城之内君か海馬君から影が飛び出してくるまでは、死なない程度に治癒を施すって事でしょ? やり過ぎちゃうと元気になって、逃げちゃうからね」
「そうだ」
「それで影が飛び出してこっちの城之内君か海馬君に取り憑いたら、今度は二人を速攻治して動けるようにする。そうすれば取り押さえるのなんてあっという間だ」
「あぁ、その通りだ。ただ、影がお前を狙ってくる可能性もあるのだが…」
「ん? それは大丈夫だよ。だってボク結界張れるもん。治癒能力者に影による被害者が少ないのは、結界が張れて自分の身を守る事が出来るからなんだよ。勿論、余り前線で戦わないってのもあるけどね」
先程までの不機嫌はどこへやら…。漠良は至極上機嫌になって、フンフンと鼻歌まで歌い出した。オレにはよく分からなかったけど、どうやら大人の海馬が考え出した作戦が思いの外良かったらしく、そのまま同意したらしい。
畳の上でクルクルとターンをして、漠良はニッコリと笑顔を浮かべながらオレに近付いて来た。そしてにこやかな笑顔のまま言葉を放つ。
「という訳で城之内君、協力宜しくね?」
「はい………?」
余りに突然の作戦に、オレは面喰らうしかなかった…。
微妙にスランプ気味な二礼です、こんばんは。
小説が書けない訳では無いのですが、この間から書く気力が微妙に湧きません…w
う~ん…; 気分が乗らないと言った方が正しいですかね?
困りましたねぇ…w
これから一杯小説を書かないといけないというのに…w
でも実は思い当たることが一つあるのです。
私が勤めている本屋さんに、半月前程に新しい学生のバイトさんが入って来ました。
態度が至極真面目で仕事を覚えるのも早かった為、期待のルーキーとして全員に注目されていました。
その新人さんのお陰で9月のシフトも大分安定し、今月は漸くゆっくり出来ると安心していたのですが…。
9月某日の事。
彼は大学のサークル活動において
複 雑 骨 折
をやらかしました…www
ただの骨折と違って複雑骨折は、ボルトで砕けた骨を固定しないといけません。
その手術と回復の為に一ヶ月間の入院、そして半年のリハビリを行なわなければならないらしく、結果として辞めざるを得ない状況になってしまいました…。
たった半月働いただけの新人バイトさん。
これが問題が多かった子ならまだしも、真面目で仕事が出来ていた為惜しい気持ちで一杯です…。
そしてここまで書けば分かると思いますが、その新人バイトさんの抜けた穴はどうするのかと言うと…(´∀`;
勿論、他の人達で埋めるしか無い訳ですwww
そして増える、私のシフト…wwwww
私のゆっくり9月を返してwwwwwwwwwww
という訳で9月は滅茶苦茶忙しくなってしまいましたが、頑張ろうと思います。
スランプに陥ったりするけど、私は元気です!
長編『あの夏の日の君へ』に第十七話をUPしました。
今回ちょっとだけアクションシーンを頑張ってみましたが…微妙ですねぇ…w
今の私にはこれが精一杯です!w
でもこれで気を抜ける訳じゃ無いんですよね。
だってまだラストが残ってる…w
とりあえずここから先は纏め作業なので、スランプ(微妙)に負けないようにして頑張って書いていこうと思っています。
まだまだ先は長いなー…w
暗い夜空に蒼と紅の光がぶつかり、激しい音と共に眩しい光が辺りを照らす。その音と強い光に、オレは覚えがあった。それはあの日…この公園で初めて大人の海馬を拾った時に見た音と光、そのものだった。
今なら分かる。あの音と光を見た時、海馬ともう一人のオレは命がけで戦っていたんだ…。
「城之内…っ!!」
腹の底から絞り上げるような声を出して、もう一人の海馬が大人のオレに斬りかかった。それに気付いたオレは右手に持っていたシミターの刃でそれを受ける。ギィンッ!! という鈍く硬い金属質な音が辺りに響いた。青白い光の刃と赤い炎の刃をギリギリと押し付け合い、近距離で暫く二人で睨み合った後、もう一人のオレが刃を返して大人の海馬を押し返す。海馬は少し蹌踉めいて体勢を整えようとしていたが、影に取り憑かれたオレはその様子にニヤリと笑って、海馬の隙を狙って左手に持っていたシミターを前に突き出してきた。
「海馬…っ!! 危ない!!」
思わず叫ぶと、大人の海馬がハッとしたような表情を見せる、そして慌てて身体を仰け反らせて、真っ赤な炎を纏ったシミターの刃を避けた。ただ避けるときに刃の先が少し髪の毛を掠ったらしい。ハラリ…と何本かの栗色の髪が闇夜に散っていったのが目に見えた。
「っ………!?」
「くっ………!!」
もう一人のオレの動きは、思ったより大きかったらしく隙が出来ていた。その間に海馬は小さく呻き声を上げると、空中を蹴ってオレとの距離を測る。そして二人は地面に降りてきた。まるでずっと空中に浮いていたかのような戦いに、オレはゴクリと生唾を飲む。感覚としてはかなり長い時間のように思えたが、実際は一瞬の出来事だった。
「はぁっ…はぁっ…。城之内…っ!」
「何だ…そこにいたのか海馬…。本当にコイツはお前じゃ無かったんだな。それは失礼した」
息を荒くしながらギリギリと睨み付ける大人の海馬と違って、もう一人のオレはどこか飄々としている。ニヤニヤとした厭らしい笑みを浮かべて、目の前の海馬と、オレの後ろにいるこっちの海馬を見比べていた。でもオレの目にはちゃんと見えていた。あっちのオレも余裕そうにしていながらも、肩で息をしている。AAA+クラスの超能力者の攻撃を受けて、流石のSS+クラスの超能力者であるオレも無事では済まなかったらしい。
「そいつらから離れろ…。お前の相手はこのオレだ…!」
チキリッ…と剣を持ち直して、海馬は強い口調で大人のオレに告げる。だけど目の前に立っているもう一人のオレは、クスクス笑いながら二人の海馬を交互に眺めていた。そして両手に持っていたシミターをしっかり握り直して、にやけ面のまま口を開いた。
「あのな、何勘違いしてるか知らないけどさ。こっちの海馬がどうとか、そっちの海馬がどうとか、そんな事オレには何の関係も無いんだよ。問題なのは『海馬瀬人』という人間の存在そのもの。その『形』が目の前にあると、意識がぶれるんだよね。だから殺すんだよ。………どっちもな」
その言葉に二人の海馬がビクリと身体を固まらせたのが分かった。大人の海馬はしっかりと剣を持ち直して向き直り、オレは自分の恋人を守る為に大人のオレの前に両手を広げて立ち塞がる。
「コイツには絶対指一本触れさせない…!!」
強く睨み付けながらそう告げると、大人のオレはフフンと鼻で笑うだけだった。
超能力者でも何でも無いこのオレが…ただの人間のこのオレが、あっちのオレに敵う訳は無い。現に力の差を歴然と感じ、肌は粟立ちまともな呼吸すら出来無い。身体は緊張して今にも逃げ出したいと本能が訴える。
でもオレは逃げ出す訳にはいかなかった。せっかく海馬と分かり合えたっていうのに…この幸せを、そして海馬を失う気なんてこれっぽっちも無い。
「オレは逃げない。海馬を傷付ける事は許さない。絶対に殺させたりなんかしないからな…!!」
「そうか。じゃあお前が先に死ぬか?」
「ふざけんな。オレも死なねーよ! 二人で生きて幸せになるんだよ!! 悪意の固まりのてめぇにゃ、一生掛かっても分からねーだろうがな!!」
「何を甘い事…を…。っ………!?」
オレの言葉に大人のオレが反論しようとした時だった。向こうのオレが突然頭を抑えて顔を歪ませる。まるで酷い頭痛に苛まれているかのように…。
「城之内…だな? 城之内なんだな…!?」
そのオレの反応に、剣を構えていた海馬が大声で叫んだ。必死なその叫びが公園に響き渡る。
「やはりお前は城之内では無い!! どんなに城之内の身体を上手く使い、能力を披露してみせても、本来の城之内にある筈のキレが無いのだ…っ。だからお前は城之内では無い! どんなにその身体を利用しようとしても、お前にそいつの身体は使い切れない。城之内の身体を…早く返せ…!!」
「何を馬鹿な事を…。オレはこの身体を充分に上手く使いこなせている。そんな事…お前に心配されるまでも無い!!」
語尾を強めてそう叫ぶと、大人のオレは地面を蹴って、公園の中央に建っている時計台の上に足を掛けた。まるで体重なんて無いかのように真っ直ぐに立っている。
「今日のところは分が悪いから、退散するとするよ…。すぐそこで結界を張っている奴もいる事だしな」
「え………?」
大人のオレの言葉に慌てて周りを見渡してみると、公園の外に漠良が立っているのが見えた。漠良は難しい顔をして、公園に向かって両手を突き出している。両方の掌が仄かに光っているのが、オレの目にもハッキリ見えた。時計台の上に突っ立っている大人のオレも、その漠良の存在には気付いているらしい。じっとそっちを見詰めていると、やがて視線に気付いた漠良が顔を上げる。その目は…いつもの脳天気な漠良では考えられない程鋭いものだった。
「やれやれ、本当に分が悪いな」
深い溜息と共に呆れたようにそう言い放って、もう一人のオレは両手に持っていたシミターを一振りした。その途端、その二つの刃は炎の塵となって闇夜に溶けていく。
「オレの中の意識も今日は元気一杯だ。抑えておくのも楽じゃねぇや。取り敢えず今日は退散するぜ。じゃあまたな、海馬」
「ま…待て…っ!!」
口調はどこまでも軽い。でも、もう一人のオレが本当に限界を迎えているのは、その顔色で分かった。
真っ青な顔に脂汗。頭を押さえ付けている手も震えている。身体の本当の持ち主であるオレの意識が出てくるのを、影が無理矢理押さえ付けているのがよく分かった。
最後に大人のオレはオレの方を振り返り、ニヤリと笑った。そしてそのまま時計台を蹴り…闇夜に消えてしまう。消えたオレを追いかけようとした海馬も、やがて足を止めて辺りをキョロキョロと見回し、そしてフゥ…と深く嘆息した。多分どこにも気配を感じることが出来無かったのだろう。
青白く光る光の剣を消して、海馬は少し肩を落としていた。
「来てくれたんだな…。ありがとう、助かったよ」
落ち込んでいるのを少しでも慰めたくて、そう優しく声を掛ける。すると大人の海馬はこちらに振り返り、にこりと微笑んで口を開いた。
「済まない。少し漠良と話をしていたものだから、来るのが遅くなってしまった。無事で良かった」
「話………?」
「オレが考えていた作戦を打ち明けたのだがな…反対されてしまって。それで少し言い争っていたのだが…」
そう言って海馬がチラリと視線を動かす。その先を辿ると、公園の入り口で漠良が険しい表情をしたまま腕を組んで突っ立っているのが目に入ってきた。
見えなくても感じる…。漠良は怒っていた。何だかよく分からないけど、滅茶苦茶怒っていた。目に見えない恐ろしいオーラが、漠良の背後から滲み出ているような気がする…。
触らぬ神に祟りなしとは言うけど、何だか漠良から目が離せなかった。せっかく命が助かったっていうのに、この後にまた一波乱が有りそうな気がしてブルリと震えると、ふいに袖をクイクイと引っ張られる感触に気付いた。何だと思って振り返ってみて…そこで青い瞳と視線が合う。
そう…。オレは自分の恋人がすっかり放置されているのを…忘れてしまっていた。
「城之内…」
オレの袖を引っ張りながら、海馬は震える声でオレの名前を呼んだ。多分動揺しているんだろう…。うん、分かるよ。これは仕方無いよな。
「何故…何故オレがもう一人いるのだ…? しかもさっきのお前は何だ? 何故城之内が二人もいるのだ? あの漠良も何だ? 急に大人びているようだが…」
「あぁ…うん。その事を説明しようと思ってたんだけど…」
「オレに分かるように説明しろ! コレは何だ? 夢か? 幻か!?」
「いや、夢でも幻でも何でも無いから…。とりあえずオレん家行こ? そこで落ち着いて話し合おう」
「これが落ち着いていられるか!!」
「ぎゃあ!! 暴力反対!! 取り敢えず落ち着いて!! ちゃんと説明するからーっ!!」
突然叫びだしてオレに殴りかかろうとする細腕をキャッチする。
分かってる。これはわざとじゃない。パニックに陥った結果、海馬も自分で何やってるか分かって無い状態なんだ。でも殴られたら痛いから、ここは止めさせて貰うけどな…。
掴んでいた腕を引き寄せて、細い身体を腕の中に閉じ込めてしまう。まだジタバタと無駄な抵抗を続ける身体を押さえ付けて、骨の浮いた背中をポンポンと優しく叩いてやった。
「海馬…。愛してるから落ち着いて。お願いだから」
耳元でそう優しく囁いてやれば、オレの腕の中で抵抗していた身体は途端に力を失った。そしてクタリと力を無くしてしまう。
一瞬気絶したのかと思って心配したけど、顔を覗き込んでやれば青い瞳は見開いたままだった。そしてソロソロと顔を上げて、オレと視線を合わす。頼りない…不安で一杯の気持ちが、その澄んだ青い瞳にありありと浮いていた。
「大丈夫だから。ちゃんと海馬にも分かるように…話をするから」
「本当か…?」
「勿論!」
「………」
「だからとりあえずオレん家に行こう。ここにいたらまたアイツが襲ってくるかもしれないし、家の中の方が落ち着ける。な? そうしよう」
オレの提案に腕の中の海馬は頷き、そして振り仰いだ背後の海馬もコクリと頷いたのが見えた。最後に公園の入り口に突っ立ったまま動かない漠良を見ると、如何にも「仕方無いなぁー」という顔をして踵を返す。歩いて行った先がオレの家の方角だったので、安心して海馬を抱えたままその場で立上がった。
二人で寄り添って歩いて公園を出た時に、オレは振り返って後ろから付いて来ている大人の海馬を見据えた。そして敢えて笑顔を消して話しかける。
「お前の作戦とやらも聞かせて貰うからな。オレとコイツの命が掛かってるんだ」
オレの言葉に、海馬は至極真面目な声で「あぁ」と頷いた。
「大丈夫だ。お前達に危害が加わるような事はしない。コレはオレ達の世界の問題だからな」
「オレが言ってるのはそういう事じゃ無いんだけどな。漠良があんなに怒るなんて…お前アイツに何言ったんだ?」
「………」
オレの問いに、大人の海馬が答える事は無かった。ただ「後で話す」と一言だけ言い、それからは無言でオレの家まで歩いて行ったのだった。
微妙に怠い二礼です、こんばんは。
夏バテか? 夏バテなのか!?
もう8月も終わって9月に入ったというのに、夏バテしてしまったのでしょうか…;
でも身体的には特に問題無いので、夏バテと言うよりはスランプ的な何かなのかも知れません。
やる気は有るんですけど、書く物書く物全てが何か納得いかないんですよー。
何度も見直したり書き直したりを繰り返しているんですけど、どうにもこうにもしっくり来ない。
しっくり来ない内に、書く気を喪失してしまう。
まさに悪循環です…w
まぁ…今は夏から秋に移行している時期ですからね~。
季節の移り変わりの時にはいつもスランプっぽくなるので、特に焦ったりしないでゆっくり小説を書いていこうと思っています。
夏の疲れが溜ってんのかもしれないなぁ~。
やれやれだ…w
長編『あの夏の日の君へ』に第十六話をUPしました。
大人城之内君をなるべく怖く、そして格好良く書こうとすればする程、難しくなって先に進めない罠…w
うぅ~ん…;
やっぱりこういう動きがある描写は難しいですね~。
アクションシーンをメリハリを付けて格好良く書く事が、今後の課題なのかもしれません…(´∀`;
そういや昨日、私が小説を書いていたら、横から覗き見た相棒が「ホラー?」と聞いてきました。
丁度大人城之内君が詰め寄ってくるシーンだったのでそう思ったらしいのですが、私自身としてはホラーとして書いているつもりは無かったので、かれこれこういう話なんだよと説明。
すると相棒…こんな風に纏めやがりました。
「なるほど。パラレルサイコホラーファンタジーなんだな!!」
ちげえええよ!!wwww
だから何でそこで、ホラーが入るんだよ!!wwww
ホラーじゃないとどんなに声高に訴えても、「どう見てもホラーです。ありがとうございます」と言われる始末…;
うぇ~ん; 違うよぉ~; ホラーじゃ無いんだよぉ~!!
せめて書いてる本人はホラーじゃ無いと信じながら、頑張って書ききろうと思いますw
以下は拍手のお返事になりま~す!♪
>ねこま様
こんばんは~!
拍手とコメント、どうもありがとうございました~(´ω`)
ちゃんと大人城之内君の怖さが伝わっているようで、ホッとしました~w
頭の中に浮かんでいるイメージを文章にするって本当に難しいんですけど、特に恐怖や驚愕など、形に見えない感情を表すのって気を使います。
自分だけ知ってても全く意味無いし、やっぱり小説を読んで下さっている方々に伝える事が大事ですからね。
そういう意味で、前回からかなり本気で頑張っておりますw
でもなぁ~。
イマイチ大人城之内君の怖さが伝わって来ないんだよなぁ…?
どうですかね? ちゃんと伝わっていますかねぇ…?
本編の方はこれから佳境に入って行きます。
一番大変な作業ですが、きっちりと頑張って書こうと思っています。
時間がある時にでも、また遊びに来て下さいませ~(´∀`)
それでは今日はこれで失礼致します。
ではまた~(・∀・)ノシ
公園の街灯に照らされて、その男は立っていた。
荒れた金色の髪に闇夜に光る琥珀の瞳。今のオレよりずっとタッパがあるし、がっしりとした身体付きをしている。オレもそれなりに鍛えている方だと思ってたけど、大人だけあって向こうの方がもっとずっと逞しい事は簡単に見て取れた。
そうだ…見間違える筈が無い。アイツは…アイツはまさしく、大人になったオレ自身だった。
「城之…内…?」
オレに支えられて立っていた海馬が、信じられないような声を出す。そして目の前に立っている大人のオレと、すぐ隣で身体を支えているオレの顔を何度も交互に確認していた。
「城之内が…二人…? これは一体どういう事なのだ…?」
「………」
「城之内…?」
「ちゃんと説明してやりたいけど…今は無理だ」
支えている海馬の肩をしっかりと抱き寄せる。その肩が細かく震えているのを感じ取って、海馬もオレと同じく恐怖を感じているのだという事が分かった。
オレが恐怖を感じているのは、目の前にいるもう一人のオレの正体を知っているからだ。対して海馬はその事を全く知らない。それでも身体が震えているのは、本能が無意識に恐怖を感じているのだろう。多分、本人さえ知らない内に目覚めた超能力の所為で、相手の力量を身体全体で感じ取ってしまっているのかもしれない。
「海馬…? どうしたんだ? オレだよ…」
全く身動きが出来なくなってしまったオレ達に対して、不敵に微笑んでいた大人のオレは暢気な声でそんな事を言ってきた。そしてジャリッ…と足底の砂を鳴らして、また一歩オレ達に近付く。
「っ………!!」
その途端、とんでも無い威圧感を感じた。目には見えないけど、分厚い壁が迫ってくるようなイメージが脳裏に浮かぶ。
危険だと思った。本能で感じる。この存在は、途轍もなく危険な物だ。
「海馬…」
海馬の身体を自分の身体の後ろに下げながら、オレは恐怖で震える声で海馬の名を呼んだ。それに対する返事は無いが、海馬がオレの声に反応した気配を感じ、オレは前面と背後に交互に気を配りながら口を開く。
「携帯…持ってるだろ?」
「あ…あぁ…」
「それでオレん家に電話してくれ。メモリー入ってるよな?」
「お前の家…? 携帯では無くてか?」
「そうだ。オレん家の家電の方だ」
「だが…」
「誰が出ても出なくても構わないから、早く掛けてくれ…!」
オレの言葉を受けて、背後の海馬は慌てたように携帯を取り出し、フリップを開いてカチカチと弄る。オレん家の家電の番号を呼び出す事に成功した海馬が携帯電話を耳に当てるのを感じ取りながら、それでもオレは目の前の男から全く目を離せずにいた。というより、目が離せなかった。少しでも目を離したら、その隙に二人揃って殺されてしまいそうな気がしてならない。
それだけの恐怖が、そこにはあった。
黙って立っているだけなのに、冷や汗がダラダラと流れてくる。背中も脇の下も、もう既にグッショリだ。
もう一人のオレは、街灯の下でずっとニヤニヤ笑っている。闇夜でもハッキリ見える琥珀色の瞳が、信じられない程に濁っているのが確認出来た。あの大人のオレが、正気では無い事が一目で分かる。
背後の海馬は何も言わない。ただ真っ青な顔をして携帯電話を耳に当てていた。多分誰も出ないんだろう。あの家には今二人の人間がいるけど、家主でもないのに勝手に電話に出たりする筈無いだろうからな。
でもオレはそれに掛けていた。鳴り続ける呼び出し音に、あの二人が何かを感付いてくれればいいと…。
そんなオレの思惑を嘲笑うかのように、目の前のオレはずっと厭らしい目付きでこっちを見ている。まるで「そんな事しても無駄なのに」とでも言いたげだ。クスクス笑いながらソイツはまた一歩近付いて来て、スッとこちらに手を差し出す。
「海馬…。オレ本当にずっと捜してたんだぜ? 今までどこにいたんだ…? こっちに来いよ」
優しい口調。でもその言葉に何の感情も含まれていない事はすぐに分かる。ジャリッ…と砂を踏む音がまた聞こえて、オレは堪らず海馬の腕を引っ掴んで公園の反対側に走って逃げようとした。だけどその途端…。
「ぐっ………!?」
急激に身体が重くなってその場に跪いてしまう。立上がろうとしても身体全体がまるで鉛になってしまったかのようにビクともしない。冷や汗をボタボタと垂れ流しながら、オレは頭の片隅で大人の海馬との会話を思い出していた。
別世界から来たもう一人のオレの能力は、非公式を含めて五つ。一つ目は炎、二つ目は重力操作、三つ目は時空系能力、四つ目はヒーリング能力、そして非公式の五つ目がラック能力だった筈だ。今オレの身体が異常に重たくなっているのは、この二つ目の重力操作系能力に寄るものだろう…。
まったく、厄介な超能力だ。愛しい人を連れて逃げ出す事も出来無いなんて…!
「城之内…っ!?」
オレの異常に気が付いて、海馬が傍らに膝を付いて顔を覗き込んでくる。オレと同じように地面にへばりついていないところをみると、どうやら海馬にはこの能力は使われていないらしかった。
「海馬…っ。逃げ…ろ…っ!」
「城之内…っ。これは…一体…何が起こっているというのだ…!」
「質問は後にしろよ…! 狙われてるのはお前なんだ! 早く逃げろって…!!」
「だが…っ!!」
「逃げられないよ?」
オレ達の会話に割り込んで来たその声に、ゾクリと背筋に悪寒が走る。
一見優しく聞こえる猫なで声。だけどその声には悪意が詰まっていた。
アレは…オレじゃない。オレの声だけど、オレじゃない。アレは、大人のオレの身体を操って喋っている『影』の声なんだ。
「ずっと…ずっと…本当にずっと捜していたんだよ…。海馬、お前を」
その恐ろしい声に思わず振り返ってしまって、オレと海馬はもう一人のオレを凝視した。影に乗っ取られたオレは、両腕を左右に広げてニタリと笑っている。そしてその両手が何か明るい光に包まれた。
それは炎だった。赤く激しい、紅蓮の炎だった。
両手に炎を纏わり付かせ、やがてそれがゆっくりと形になっていく。そしていつのまにか、炎によって作り出された湾曲した形の双剣が、左右の手に握られていた。一般的にシミターと呼ばれるその刀は、あの大人の海馬が作り出した片手剣よりはずっと短い剣だ。長さ的には半分くらいしか無いだろう。でも片手でしっかり握られるサイズのそれは、あの長い剣よりずっと軽そうだし、何より機敏に振る事が出来そうだった。
あぁ、そうだよな。『オレ』の性格なら、間違い無くそっちを選ぶよ。
命の危機に瀕していると言うのに、何だか妙に納得してしまう。
「随分と捜したんだぜ…海馬。お前を殺す為にな」
「コイツはお前が捜している海馬とは違う…! 間違えるな…!」
「間違えているのはお前だろ? 一体オレが何の為に、こんな辺鄙な世界まで逃げて来たと思っているんだ」
オレの言葉にもう一人のオレは、さぞ意外そうな顔をしてそう答えた。
「あの世界にいたら、地の果てまで逃げたとしてもオレはいずれ殺されてしまっただろう。だからこそ、コイツの身体を乗っ取れた時は本当にラッキーだと思ったんだ」
「っ………!」
「こんなに強い時空移動の能力なんて、早々お目に掛かれるものじゃないからなー。コイツの能力を使って、超能力者なんて厄介な奴らが一切いない世界に逃げて、あとはノンビリ平和に暮らそうと思ったのになぁ…。それなのに、逃げ切る直前に海馬が付いて来ちゃってさ…。本当にツイてねーよ」
「何がノンビリ平和にだよ…。どうせこっちの世界でも、好き勝手しようと思ってたんだろ…!」
「当たり前だろ? だってそれが『影』の本質なんだから」
恐ろしい事を口にしながら、大人のオレ…いや『影』は全く表情を変えない。
そう言えば海馬が言ってたっけ…。影は悪意の固まりだって。多分人間らしい思考とか、常識とか、感情とかは何一つ通用しないんだろう。
どんなに鋭く睨み付けても、影は一向に引こうとはしない。それどころか、余裕な笑みをますます深めていくだけだった。
「あのな、ぶっちゃけこっちの世界のオレなんてどうでもいいの。オレがしなくちゃいけないのは、オレを追いかけて来た海馬を殺す事なんだからさ」
「だからさっきから言ってるだろ…! コイツはこっちの世界の海馬だよ! お前が捜している奴とは違うんだ…!!」
「お前こそさっきから何を言っているんだ。こっちの世界の海馬なら、何で能力を感じる事が出来るんだよ?」
「………なっ…」
「どんなに隠そうとしたって無駄だぜ? ほんの僅かだけど、能力の欠片が零れ落ちてる。強い超能力者であるこのオレの目に、それが見えないとでも思っているのかよ」
「だから…だから違うんだ…! それは誤解なんだよ…!!」
多分影が感じている能力は、海馬が大人の海馬とシンクロしてしまった為に目覚めてしまった超能力に違い無い。
ほんの少ししか目覚めていない能力が、より自体を悪い方向へと導いてしまったんだ。
「お前が何て言おうと、コイツは違うんだよ! それに良く見れば分かるだろ…!! 年齢が違うじゃねーか!!」
「年齢…? あぁ、人間の生きた年月の事か。悪いけどそんな物には興味が無いから分からないな。『オレ達』は人間を気配で見るし」
「え………?」
「とにかくさ、ソイツに生きてて貰っちゃ困るんだよ。だってさー、いつもだったらとっくに明け渡されてもいい筈の意識が、今もまだ抵抗を続けてるんだぜ?」
右手に握っていたシミターを器用にクルクルと回しながら、大人のオレは意外な事を口にした。
「何かにつけて『海馬、海馬』って…煩いんだよ。ソイツの事を思い出しては、自分の意識をまだ確立してやがる。全力で押さえ付けておかないと、すぐに身体持って行かれそうになるしな」
「………」
「こんな意志の強い身体は、オレも初めてだ。…で、な? オレは気付いた訳よ。コイツの意識が強いのは、海馬がいるからなんだってな。だからオレは海馬を消す事にしたんだ。勿論オレとしても、自分を付け狙う海馬なんていない方が都合が良いから願ったり叶ったりって訳。分かる? オレの為にも、海馬は死ななくちゃいけないんだ」
「ふざ…け…んな…!」
「何と言われようとも、オレには何の関係も無いし。だからさ、今から海馬殺すから」
クルクルと回していたシミターをパシッと掴み直して、影に取り憑かれたオレはゆっくりとこちらに歩いてくる。
強大な力を持ったもう一人のオレ。ランクSS+の超能力者相手に、オレはどこまで立ち向かえるんだろう。超能力に目覚めたとは言っても、出せる炎はマッチの先くらいしか無いというのに…っ!!
それでもオレは逃げようとは思わなかった。それどころか、この脅威に真っ向から立ち向かう気満々だった。
「海馬を…殺すだって…? 巫山戯るな…っ!!」
グッと身体の中心に力を入れて、身体全体を覆う重力に精一杯抵抗する。そうすると、自分を覆う見えない何かにピシリとヒビが入ったような気がした。
「殺されて…堪るかよ…! コイツは…海馬は…オレの恋人だ!! オレが守るんだ!!」
ビシビシビシッ…と、何かに亀裂が走る。そして…。
「オレの恋人に…海馬に近付くなぁーっ!!」
腹の底から叫ぶと同時に、バリンと何かが破裂して、そして身体が急に軽くなった。目の前の大人のオレが驚愕の表情になり、一瞬だけ動きを止める。その隙を見逃さず、オレは奴に向かって走り出した。手を伸ばして、両手に握られていたシミターの刃を掴む。炎で出来たそれは掴んだ瞬間にジュウゥゥッ…と嫌な音を起てたけど、オレは全く痛みも熱さも感じなかった。まるで炎がオレを認めてくれたような…そんな感じがする。
「「城之内ーっ!!」」
必死に大人の自分を睨み付けるオレの耳に、海馬の叫びが二重になって聞こえて来た。一つはオレの背後から。そしてもう一つは…。
「海馬…?」
「っ………!?」
「城之内―――――っ!!」
呼ばれたのはオレか…それとも大人のオレの方なのか。
それはハッキリとは分からなかったけど、見上げた夜空に青白い閃光が走ったのを見て、オレは至極安心したのだった。