「お帰りなさいませ~ご主人様」
十月二十五日日曜日。今日はオレの誕生日だ。日曜日だったがどうしても片付けてしまいたい仕事があったので、午前中だけ会社に行き、昼食を済ませて屋敷に帰って来たところだったのだが…。何故城之内が黒の燕尾服なんぞを来てオレの部屋に待機していたのか、全く理解が出来なかった。
しかも何だ先程の挨拶は。誰がご主人様だ。
「貴様…、人の部屋で何をやっている。全く意味が分からないぞ」
腕組みをして睨み付けつつそう言うと、それでも城之内は全く懲りない顔をしながらニッカリと笑って口を開いた。
「ハッピーバースデー海馬!」
「あぁ、そうだな。今日はオレの誕生日だ。で?」
「で? じゃねーよ。つまらない奴だなぁ…。誕生日プレゼントなんだから、ありがたく受け取ってくれなくちゃ」
「は…? 何だと?」
「だから誕生日プレゼント。オレさ、月末だから今金無いの。だからちゃんとしたプレゼント買ってやれないんだよ。お前の恋人として滅茶苦茶情けないって落ち込んだりもしてさ。だけどな。その代わりと言っては何だけど、この身体を使えばいいんだって事に気付いてさー! つー事で今日のオレはお前の一日執事だぜ。お前の為なら何でもやってやるから! な、超名案だと思わねー?」
「何が名案だ…。ウザイだけだ。しかもその燕尾服、一体どこから持って来た?」
「コレ? あぁコレはオレが執事やりたい! って言ったら、モクバがくれた」
モクバのありがたくも迷惑な対応に、オレは心底疲れを感じて深く溜息を吐きつつ項垂れてしまった。そのまま側にあったソファーまで近寄って腰を下ろしてしまう。
まったく…。城之内一人だけならまだしも、あの賢い弟までがこんな馬鹿げた計画に協力するとは思わなかった。
とは言っても…。確かに見慣れない姿の城之内が格好良く見えてしまうのも事実であって…。
頭を抱えてそんな事をブツクサ言っていたら、突然背後に回った城之内に両肩を掴まれる。慌てて振り返ると、キョトンとした城之内のアホ面が目に入ってきた。
「何?」
「何…ではないわ! いきなり触るな、馬鹿者が!」
「いや…何か疲れてるみたいだったし、マッサージでもしてあげようかと思って」
「マッサージだと? 余計な事はするな!」
「えーでも。オレ、結構上手いんだぜ? そういうバイトもした事あるし。やってみない?」
「断わる! お前にマッサージなんかされたら、どうなるか分かったものじゃないわ!」
「そんな事言わずに。何もしないからさ。マジでマッサージだけだって。な? いいだろ?」
マッサージか…。確かに今は酷く疲れていて、身体を揉み解して貰う事はありがたい。
けれど素直に城之内に身体を預けたら、どうなるか分かったものじゃないのも確かだ。
さて…どうしよう?