扉はドンドンと強く叩かれ、今にも無理矢理こじ開けられそうになっている。「海馬っ! 海馬…っ!!」とオレを呼ぶ城之内の声に軽く溜息を吐いて、オレは扉に近寄って声をかける事にした。
「落ち着け、城之内…」
「ちょ…っ! 何が落ち着けだ! あんな状態のお前見せられて、落ち着いてなんかいられねーよ!!」
「あぁ、分かっている。自分の身体がどんな状態かも、それを見て貴様がどう思ったのかもちゃんと…分かっている」
「だったら…っ!」
「城之内、後で行くから…」
「え………?」
「とりあえずシャワーを浴びてすっきりしたいのだ…。後で行くから向こうで待っててくれ」
上がる息を抑えつつなるべく落ち着いた声でそう伝えたら、扉の向こうの城之内も大人しくなった。そして小さな溜息と共に返事が返ってくる。
「本当に…。後でこっち来るんだな?」
「あぁ」
「分かった。じゃ、大人しく待ってる…」
諦めた様な声色の後に扉の前から城之内の気配が去っていって、オレは漸く一息つく事が出来た。
城之内を欲しいという気持ちは変わっていない。多分シャワーを浴びて落ち着いても、結局は城之内を求めてしまうのだろう。
けれどあんなに見境無く欲情した状態で、城之内を求める事だけは出来なかった。いや、別に求めても良かったのかもしれない。何だかんだ言ってもオレ達は恋人同士だからな。
だが、それはオレのプライドが許さなかった。我を忘れて快楽に溺れるより、きちんと理性を保った状態で城之内と愛し合いたいと…オレは常々そう思っていたのだから。
「ふぅ………」
シャワーのコックを捻り熱い湯を頭から浴びながら、オレは大きく息を吐き出す。
風呂から上がったらちゃんと城之内に抱いて貰おうと、強く心の内で思っていた。
風呂から上がりバスローブを着てリビングに戻ると、城之内はオレに言われた通りに大人しくその場で待っていた。ソファーの近くの絨毯の上で、何故か正座している。
何もそんな格好で待っていなくてもいいのに…とオレは苦笑しながら、ヤツの側へと近付いていった。
「何故そんな格好で待っているのだ。普通に座っていればよかっただろう?」
ソファーに深く腰を下ろして足を組みながらそう言うと、城之内は珍しく神妙な顔つきでオレの事を見上げて口を開いた。
「何か…ちょっと…色々と反省しまして…」
「反省?」
「お前の誕生日に何かしてやりたくって…。でもなんかはっちゃけ過ぎちゃったみたいで…。お前に余計な迷惑かけちゃったんじゃないかなって…そう思ってさ」
「貴様にしては殊勝な心構えだが、そこまで本気で大人しくされると、こちらとしても気持ちが悪いな」
「酷いなぁ…海馬」
「ふぅん…。まぁ…貴様にしては悪く無いアイデアだったぞ。マッサージも上手だったしな。という事で褒美をくれてやろう」
「褒美?」
「あぁ。主人の命令をきちんと聞いて大人しく待っていた下僕に対しての褒美だ」
「下僕じゃなくて執事なんだけど…」
「相手が貴様なら同じようなものじゃないか」
「うっ…! 本当に酷い…っ!!」
「まぁそう言うな、凡骨」
話をしている内に何だか楽しくなってきてしまって、オレは組んでいた足をそろりと動かした。そして爪先でソファー下に座り込んでいる城之内の顎を持ち上げる。オレをじっと見詰めていた城之内がその途端にビクリと反応して、視線をオレの顔から足へと下げていくのが分かった。
オレは今バスローブを着ているが、実は下着を着けていない。城之内の顎に足をかけ、くいっと上に持ち上げれば必然的にバスローブは捲れ上がり、ヤツの視線の先には…オレの足の付け根が丸見えになるだろう。
案の定、見えた『何か』に城之内がゴクリと喉を鳴らしたのを、オレは爪先の振動で知った。
「褒美を…欲しくはないのか…? 凡骨」
目に見えて城之内が欲情してきているのを感じて、オレ自身も興奮してしまう。シャワーを浴びて一旦落ち着いたものの、マッサージで火の付いた欲情はまだ消えてはいなかったのだ。
自然に上がる息に唇はすっかり乾いてしまい、舌で舐めて濡らしていると、城之内がゆっくりと身動きをした。そして膝の上で丸めていた手を持ち上げてオレの足を支えると、そのままオレの爪先に唇を寄せる。親指の爪や足の甲に何度もチュッチュッと軽くキスをされ、そして熱い舌でねろりと足の指を舐められた。
「っ………!!」
城之内の舌が足の指の間を這う度に、ゾクリとした快感が背筋を襲う。それでも深くソファーに座ったまま、特に抵抗することなく好きな様にやらせていたら、オレの足の指を口に含んだまま城之内が徐ろに視線を上げた。その目線が問い掛けるものに気付いて、オレは笑みを浮かべつつ肯定の意を表す言葉を吐いた。
城之内…。セックスをしたいと思っているのは、何もお前だけでは無いのだぞ…。
オレだって常日頃からお前の事が欲しいと…、そう思っているのだというメッセージを込めて…。
END4『好きにするが良い…』
もう一度最初からやる?