以前、酷い目眩に襲われて倒れた事があった。身体は痙攣し力が全く入らず吐き気もする。
真っ青になって震えていたら、向こうから心配そうな顔をして近付いて来る城之内に気付いた。
「おい、海馬」
溜息を吐きつつ城之内はオレの側に座り込み「お前、朝飯ちゃんと食ってきたか?」と訊いてくる。首を横に振って答えると、城之内は「やっぱりな」と言いながらポケットから何かを取り出してオレに差し出した。
「缶コーヒーだ。飲んでおけ」
「いらん」
「さっき買ったばかりだから、まだ冷たいぜ」
「飲めん…」
「無理にでも飲め。お前のそれ、低血糖の症状だぜ?」
震えるオレの手に冷たい缶コーヒーが押し付けられる。
「オレも新聞配達のバイト中に、そんな風になった事があるんだよ。いいから飲んでおけって」
力強い言葉で命令されて、オレは渋々缶コーヒーの甘ったるい液体を胃に収めたのだった。
その後何とか落ち着いたオレを見て、城之内が安心した顔をしていたのを思い出す。それ以来、オレは朝食を抜いた日は缶コーヒーを飲む事にしていた。
今日もあの時と同じ甘ったるい液体を飲みながら、密かに強い決意を固める。
もう二度と、城之内にあんな心配そうな顔をさせないと…な。